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「ありがとうございました」

 在は宇佐見と結城に向かいぺこりと頭を下げた。


 夜間診療の病院に行ったもののレントゲンは撮れないという事で医者の触診しか受診できなかった。左手首の痛みはそれでも特に骨折はないだろうと、シップの処方と、頬の傷は擦過傷と診断され消毒で終わった。

 腫れが引かないようであれば明日改めて整形外科を受診するようにという医者の言葉に在は頷いた。

 保険証の持ち合わせがなく困る在に宇佐見は「事故の場合は保険証は使えないから」と全額払い、そのまままた在を車に乗せコンビニに戻る。

「本当に申し訳なかった」

 駐車場で在を下ろし、宇佐見も頭を下げる。

 ……やっぱり、大智に似ている。

 在は唇を噛みしめて宇佐見に見入る。

 声も似ている。

 大智に兄はいなかったはずだ。

 親戚か何かだろうか。

 でも。

 在は心の中で宇佐見に大智の事を知っているかと尋ねたいと葛藤した。

 しかし、してはいけないとどこかでブレーキがかかる。

 感応の力を使っても特におかしなところはない。

 目の前の宇佐見と結城は純粋に事故に遭わせた在に謝罪の気持ちで接してくれていた。

「いえ、僕が勝手に転んだだけですから。本当にすみません」

「気をつけて」

 じゃあ、と車に乗り込もうとした宇佐見に在は慌てて声をかけた。

「あの」

「はい?」

「連絡先教えていただけますか?」

 宇佐見は一瞬なぜ?と言う顔をしたが、一瞬の後には、納得したような顔をする。

「ああ、これは失礼した。そうだね、明日痛みが酷くなって骨折だったら治療費困るからね」

 宇佐見は胸ポケットから皮の名刺入れを出すと一枚、在に渡す。

「いえ、そうじゃなくて、逆です」

「逆?」

「はい。あの、看護婦さんが後日保険証を持ってくればお金を返してくれるっていうので、あの、お返ししたくて」

「?事故では保険証は使えないはずだけど?」

 病院でも宇佐見はそんなことを言って全額払ってくれたのだが、在は、いえ、と頭を振った。

「今回のは僕が勝手に転んだので、事故扱いにならないそうです。なので、保険証使えるって」

 和弘の家に行くくらいだったので現金を持たず、それで在は支払いが出来なかったのだ。

「ああ、そういうことであっても、迷惑料代わりに受け取って貰っていいが?」

「いえ、あの、本当に、僕のせいですし」

 大人の男性相手にもしかして断る方が失礼なのかと段々声が小さくなり、終いには俯く。

 すると、ふっと、宇佐見が軽く笑ったような声が聞こえ、怪我をしていない方の頬に大人の大きな手が添えられた。

「え?」

「じゃあ、次の約束があるってことで、いいのかな?」

 宇佐見が笑みを浮かべる。

 大智に似た笑顔に、それ以上の何かを感じ、在の鼓動はとくりと音を立てる。

「あ、はい」

「連絡、待ってる」

 そういうと宇佐見は車の後部座席に乗り込んだ。

 若干呆れ気味な表情をした結城も運転席へと乗り込む。

 在が見守る中車はゆっくりと出発した。

 手の中にある名刺には、『EAリサーチセンター 所長 宇佐見裕一郎』と記されていた。

(EA……?Extraordinary ability?の頭文字……。異能研究所?)

 微かに不安な思いを浮かべながらも、在はその名刺を無くさないようにスマホのカバーに挟み込んだ。


***

「可愛い子でしたね、八草君」

 走り出した車のバックミラーから在の姿が消えると結城は面白そうに口を開いた。

「ああ、どうやって接触しようかと思っていたが、すんなりいってよかった」

 宇佐見は唇を親指で撫でながら鏡に映る自分の姿を見る。

 この姿を見て彼はどう思っただろうか。

「俺の運転技術を褒めて下さいよ。当てずに転ばせる」

「そりゃ、誰だってあの状況なら驚いて転ぶんじゃないか」

「大けがをさせなくて本当に良かった。……所長人使いが荒いんだから」

 二人は話をしながら左耳からワイヤレスイヤホンの様な物を取り出す。

「彼、滅茶苦茶強い異能の持ち主でしたね。このシールドをつけてなかったら多分感応されていました。パワー出し過ぎて頭痛いですもん」

 宇佐見はコロンと手の中でイヤホンを転がす。

 これは異能を防御する装置で、一般的に手に入る物ではない。

 通常の人間は異能を防御するなんて事は無く、生活の一部として取り入れている。

 しかし、警察やその他一部の機関においては必要なもので、この二人も『必要な側』にいることを物語っている。

「ああ。まったく。おとなしくしていればいいものを、あいつらがいらんことするから、状況把握する羽目になった。……大人にはもうそんなことが出来る異能の力はないのに」

「大智君のスマホを使って念写した文字を転送させるなんて、めちゃくちゃな」

 通常『異能』は一人一種の力しか無い。

 しかし今回は一人が二種の力を使ったのだ。

「暇つぶしだろう。あそこにいるのは退屈だろうから」

「……親に売られちゃったから仕方ないですよ。まあ、取りあえず八草君、大智君の居場所までは追えなかったみたいですね」

「ああ、杉山和弘の力も接触感応だから、文字ではどうにも出来なかったんだろう」

 ふう、と宇佐見はネクタイを緩めた。

 先ほど見た在の姿を思い出す。

 自分の向こうに違う人物を見ているのは仕方がない事だがあまり面白いことでもないな、とも思う。

「まあ、でも、所長も罪作りですよね。八草君、所長に落ちてませんでした?」

 にやにやと、結城がルームミラー越しに宇佐見の顔を見ながらからかうように言う。

「……大智に似ているからな」

「所長もまんざらじゃなかったんじゃないですか?相手は高校生ですからね。12歳差ですから、犯罪です」

「結城、運転に集中しろ」

 どこまでも冷やかしが続きそうな結城に一言声を掛け、宇佐見は小さくため息を付いた。



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