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『だよな、これ……』
和弘が続きを話し始めようとした時、在はふっと何かの思念を感じた。
テレパスとして誰かと感応する事はあるが、それとは少し違う。
「かず」
話を遮る。
「お前んち行くわ。いい?」
「ん?ああ」
和弘も何か察したのか、じゃあ、待ってる、と通話を切る。
在は風呂上がりのスエットから私服に着替えると和弘の家に向かった。
自転車を全力で漕げば二、三分で和弘の家に着く。
メッセージアプリの家族グループに和弘の家に行くと送っておいた。
これで心配はされない。
和弘の自宅のチャイムを鳴らせばすぐにドアが開く。
「どうぞ」
和弘が言って、その後ろに続く。
「お邪魔します」
在の声に和弘の母親がキッチンから顔だした。
「在、久しぶり」
「ご無沙汰してます。遅くにすみません」
ぺこりと頭を下げれば、母親はふふっと笑う。
「いいよ~。明日休みでしょ?泊まってもいいからね」
すると二階への階段を登りかけていた和弘が、
「もういいから。在、おばさんの相手はしなくていい」
と、在の肩を抱きそのまま二階に連れて行く。
後ろでは「誰がおばさんよ!」と和弘の母親が憤る声が聞こえる。
「……酷いなあ、かず」
「いいんだよ。あの人、在と話したいだけなんだから」
二階にある和弘の部屋に入り、ベッドの隅に腰を下ろした。
学習机とベッドを置けば一杯になる狭い子供部屋だ。
いつもそこに座っている。
和弘は学習椅子に座り、くるりと椅子ごと体を在に向ける。
「で、どうした?」
「電話だとなんだか誰かに聞かれている気がして」
「思念感応?」
「分からない……悪意のような物は感じなかったけど、『分からない』ってことが嫌な予感がして」
在はふるふると首を横に振った。
「そうか。俺は何にも感じないからな……で、だけど」
和弘はスマホを取り出すとメッセージの画面を開く。
在もポケットからスマホを取り出す。
「もしかしたら誰かが大智のスマホを使って俺たちにメッセージを送ってきただけかもしれないけど……」
「けど……必死で大智が送って来た物かもしれないよね」
「うん」
大智のメッセージをたどる。
「でも今時縦読みなんて、結構メジャーじゃない?」
そう。
メッセージの最初が全て漢字のためわかりにくいが、最初の文字を縦に読めば違うメッセージが浮かび上がった。
「だいじ、いまさら、じたく、よかれ、うら、ぶじ……」
「だいじようぶ」
自分が無事だと言う事を伝えているようだ。
しかしその後に続くのは、
「たぶん、すてき、けってい、ていねい」
「たすけて」
「たすけて」
在と和弘は見つめ合う。
大智が助けを求めているメッセージが浮かび上がった。
「んーなこと言っても、どこにいるかもわかんないだから、場所も送れよ」
「そんなことが出来ない状況なんだよ……どうすれば」
がっくりと肩を落として在がうなだれる。
和弘はその頭に手を伸ばし、撫でようとするがすんでの所で止めた。
「大智の家に行っておばさん達から警察に言ってもらう?」
「そうだね、異能課で追跡して貰えるかもしれないし」
警察には生活安全局の中に異能の力で捜査する課がある。
大智が失踪した直後も大智の両親は警察に相談しその課で捜査もしてもらったようだが芳しい成果が出なかったのだ。
「でも、生きているかもしれないって分かっただけでも良かった」
在は笑顔を浮かべる。
「ああ。俺も。……なんだか在の笑顔久しぶりに見た気がする」
「なんだよ、それ」
困ったように在は首を傾げると、立ち上がった。
「帰るよ。ごめんね、遅くに」
「いや、……泊まってってもいいぜ」
子どもの頃は親の帰りが遅いとそのまま泊まって行くこともあった。
三人でこのベッドで眠ったこともある。
「帰ってもかかる時間は変わらないよ」
「そうだな。じゃ、明日」
「うん」
明日は文化祭に使うディスプレイ用のパネルを買いに行く約束をしている。
いつも頼んでいる店なので注文した品を引き取りに行くだけだからついでに映画でも観ようと約束をしていた。
「ありがとう、かず」
そう言って、在は帰宅の途につく。
コンビニによって帰ろうと在は駅前への道へと自転車を向かわせる。
行きは急いだが帰りはのんびりと自転車をこぐ。
オレンジ色が主体の看板が見えたところで駐車場に入ろうとしたところ、車道からも車が入ってき危うく接触するところだった。
「わあ」
ぶつかったわけではないが驚き、ハンドル操作を誤ってしまい転んでしまう。
「い、痛い……」
痛みはあるが転んだ恥ずかしさで慌てて起き上がろうとしたとき、運転席側から人が降りてきた。
「すみません!大丈夫でしたか?」
仕事帰りだろうか。
大学を出たてのようにも見えるワイシャツ姿の青年が在に駆け寄る。
「いえ、あの、ぶつかったわけではないので」
「いや、こちらの前方不注意ですから。救急車を……」
青年がポケットからスマホを取り出し電話をかけようとするのを慌てて止めさせる。
「あの、本当に転んだだけで……」
「では、こちらで病院に連れて行きましょう」
もう一人、別の声が聞こえた。
「結城、この辺の夜間診療の病院を探してくれ」
「はい、宇佐見さん。すみません」
結城、と呼ばれた青年はスマホの画面をタップし何やら検索を始めた。
後部座席に乗っていた人物が降りてきたらしい。
「痛いところは?」
「いや、えっと……」
転んですりむいた痛みと、身体を打ち付けた痛みは感じるが、どこかが折れているという感じはしない。
「本当に、大丈夫です」
「いや、……血が出ている」
男性が在の左の手のひらにそっと自分のハンカチをあてがう。
そのあと、ふわりと横抱きに抱き上げられ男達が乗っていた車に乗せられる。
……誘拐、される?
身を固くし、思わず感応してもそこには害意は感じられなかった。
ああ、本当に心配してくれているんだ。
「十分くらい先にあるみたいです。宇佐見さん」
運転席に乗り込みながら青年は言い、エンジンを掛ける。
「ああ、じゃあ、そこに」
男性が頷いたので青年が車を出そうとしたが思い出したように言った。
「あ、自転車をしばらく置かせてくれって店主に言ってきますね」
「そうだな」
青年がまた車から降り、在は男性と二人きりになった。
男性の膝枕のような形で座席に横たえさせられていてその体勢も恥ずかしい。
「あの、身体起こしてもいいですか?」
「?どこか辛いところが?」
「いえ……え?」
在は身体を起こし、やっと男性の顔を見た。
こちらも仕事帰りか、スーツを着ていて三十少し手前くらいに見える男性だったが……。
「だい……ち?」
「?」
呟いた在に不思議そうな顔をする男性。
大智ではない、決して。
見た目の年齢が違う。
けれど。
大智が成長すればこんな風になるんだろうと思うくらいそこにいる男性は大智に似ていた。
お読み下さりありがとうございます。私の字書きの黒歴史というか、この辺りから厨二病全開でいきますよ~