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「じゃまた明日」
「うん」
在は和弘の背中を見送り軽く手を振る。最寄り駅まで一緒に帰宅し改札で別れる。
学区が同じと言っても隣近所に住んでいる訳では無い。
各々駅から違う方向に徒歩五、六分の所に住んでいる。
そういう事も疎遠になっていた理由の一つだ。
大智がいなくなり在には一つ日課が増えた。
駅にある交番の掲示板をチェックする癖がついたのだ。
そこには『交通安全運動』『詐欺に注意』というポスターの他に人探しのポスターがたくさん貼ってある。
七十歳を越える年配者がほとんどだが中には二十歳の青年や五十代の母親と同じ世代の女性もいる。
行方不明になった日は五年以上前だったりついひと月程前だったりと色々だ。
どういう基準でここに掲示されているのかは分からない。
大智は掲示されていないし、現在だって十名程度。
住所もこの地区だけではなけなり遠い場所の記載もある。
こういう人達は今どうしているんだろう……
掲示板を覆うガラスに手を付き考える。
諦められない家族達の思いと行方不明になった人達の思い。
和弘なら何か読み取れるのだろうか。
そして、毎日見ているうちに在は一つの事に気づいた。
最近子どもを訊ねる掲示が増えている事に。
その日付は大智がいなくなった日付近に集中している事に。
家に帰り夕飯と風呂を済ませると与えられている自室に籠る。
父も母も仕事の都合で帰宅は遅いので大抵は準備されていた夕飯を一人で食べる。
歳の離れた兄も仕事で帰宅は遅い。
家族みんな大智の件で在が落ち込んでいる事に気付いているから会うと必要以上に構ってくるのが鬱陶しい。なので誰もいないこの時間は落ち着く時間だった。
宿題とあくる日の予習は先程和弘と済ませてしまった。
じゃあ何をしようかとスマホを片手にベッドに横になった途端、ポロリっとスマホからメッセージの到着通知が鳴る。
誰からだろうとスマホを見れば、大智と和弘と在の三人のグループに大智からメッセージが来ていた。
「え?!」
大智が行方不明になったと気づいた日からメッセージもメールも通話も何度も行ったが『電波が届かない場所にあるか電源が……』という電子音声が聴こえるだけで連絡は付かなかった。
それが今突然のメッセージだ。
『大事にしていた写真の件』
『今さらだけど』
『自宅に置いているから分からなかったよね』
『良かれと思ったのが裏目にでたよ』
『裏に名前が書いてあるからすぐ分かると思う』
『無事に見つかるといいな』
呆然としていると次から次にメッセージがくる。
なんの事かさっぱりわからないがとりあえず今の時点で大智は生きているのだ。
「良かった……」
安堵に独りごちる。
『多分なんだけど』
『素敵な写真は他にもあるから見て』
『決定は二人に任せる』
『丁寧に選んで欲しい』
そこでメッセージは終わった。
慌てて通話ボタンを押すがやはり出てはくれない。
「……何?」
写真の話?
文化祭のだろうか?
そんな話は……
考えながら繰り返し読んでいるうちに隠されたメッセージに気づく。
と。
和弘から通話が来た。
『在、大智のメッセージ読んだか?』
「うん。読んだ」
そこで二人は同じ言葉を叫んだ。
「「たすけてって言っている」」