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意味の無い物語

作者: 熱き冒険者

読む。

書く。

読む。

書く。

その繰り返し。

その度に僕は、自分の才能の無さに絶望する。


僕は小説を書いている。俗に言うラノベ作家というやつだ。

アマチュア作家達が各々の物語を紡ぎ、ネットの海に公開するサイト「ノベライト」。

100万作品以上が投稿されているこのサイトで、僕はいつもの様に有象無象の物語達に目を通していた。


「…つまらない」


そう、つまらないのだ。

所詮はアマチュアが書く小説。その9割以上は文章がおかしかったり、内容がテンプレすぎたり。あまりにもお粗末な出来の作品ばかりだ。

しかし分かっていた。自分もそんな駄作を生み出している1人なのだと。


「…そろそろ大学に行かなきゃな」


そうして僕はパソコンを閉じ、リュックを背負って家を出る。

家から駅に向かって歩いている時も、数十分電車に揺られている時も、僕は常に自分の小説について考えている。

どんな展開が面白いのか。どんなキャラが魅力的なのか。

そしてたまに頭によぎる。駄作を書き続けるだけのこの作業に意味はあるのかと。


元々は些細なきっかけだった。友人に「文章力がある」と褒められたのがとても嬉しかったから。

そうして軽い気持ちで小説を書いてみて友人に見せてみると、意外と高評価をもらえた。だから僕はもっといろんな人から評価されたいと思ってノベライトに投稿をしてみたのだ。

しかし当然現実は甘くない。投稿したばかりの数時間はアクセス数がある程度伸びたものの、数日経てばアクセス数が一桁まで落ち、いつの間にかネットの海に埋もれてしまっていた。

あわよくば書籍化、アニメ化。そんな夢想を抱いていた自分が心底嫌になった。


万が一という言葉の意味を、最近はよく思い知る。100万作品のうち、日の目を浴びるのは上位100作品程度。それ以外の999,900の物語は誰の記憶に残ることもなく、ネットの海底で腐敗していく。

続きを書いても当然評価されることはなく、ただ時間だけが過ぎていく。


この終わりの見えない作業に、果たして意味はあるのだろうか。

多分、無い。

きっとこれからも駄作を書き続けて、その度に自分に絶望し続けるのだ。


先日見たニュース。

とある犯罪者が大手企業の建物に放火して、何十人もの命を葬った凄惨な事件。犯人の同期は「自分の小説がパクられたから」。そんな理由で、と思うかもしれない。でもよくニュースを見てみると、その犯人も7年間必死に書き続けた小説が誰にも評価されず、人生に絶望したのだと書いてあった。

今なら、彼の気持ちも少し理解ができる。もちろんそんな事で人を殺そうとは決して思わないが。


きっと、創作というのは呪いなのだと思う。逃げる勇気があるのならとっくに諦めて逃げている。それでも書き続けなければならない。自分を追い込むために「必ず完結させる」と約束してしまったから。友人にも、家族にも、たまたま出会った同じ趣味を持つ人にさえ。

きっとその約束を破っても彼らから責められることはないだろう。それでもたった1人だけ、間違いなく責めてくる人がいることだけはわかる。自分自身だ。

例えこの一生を賭けたとしてもその約束を守る。それこそが自分のアイデンティティだと信じているし、そうじゃなきゃ本当に自分を嫌いになってしまうと思うから。


僕はそんなことを考えながら、つまらない大学の講義の最中に小説をリュックから取り出す。有名な作家が書いたベストセラーの小説だ。

同じ言語を使っているはずなのに。書こうと思えば書けそうな内容なのに。何故か自分には再現できない。その理由は今になってもまだ分からない。ただ、それを再現できてしまう才能に嫉妬する。自分にもこんな言葉が紡げたらどれほど良かっただろうと。


こうしてまた、意味のない絶望を繰り返す。

それでも決して諦めない。諦めたくない。

日の目を浴びないなんてことは分かっていても、夢を見ずにはいられない。それが僕の…いや、きっと人間の性なのだと思っている。


さあ、筆を取ろう。

意味の無い物語の、その続きを描く為に。

叶うはずの無い夢を見続ける為に。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  創作することの喜びと苦しみ、葛藤が表現されていて、すごく共感しました。
[良い点] テーマは興味深いと思うのですが……。 [気になる点] 全体的に結果しか書かれていないように感じられて、感情移入がしにくいと思いました。どうして主人公は自分の作品を「意味の無い物語」だと思う…
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