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つまるところそれは愛にはならない


神社にはいかなかった。本当は行くべきだっただろうけど、今は行かれないと思ってしまったから。私は本当に神様のことは信じているけれど、いなかったのだ。それで終わりにしておくべきだった。

道に迷うことがいつの間にか得意になっていた。そんな特技は何の役にも立たない。今日のような夜以外には。私が夢で見たのは左の道だったから、今日は右から来たのだ。それが当然であるはずだった。私はそれを承知していたのだ。君もそうするべきだっただろう。終わったことを言ってももうどうにもならないけれど。

安寧は暖かな寝床のような姿をしていると思っていた。それはあやとりの紐にはならないのだ。不思議なことに繋がりは喪われていなかった。流れていけば正しくたどり着けることもあるのかもしれない。道を外れてしまえば違うのだろうか。

鳥が鳴いていた、明日が来る時間を彼らは知っているので。世界は光をまぶして色を成すけれど、形はいつも削られることもなくそこにあって、今もいる。それが最後まで続いていく。同じものではないのかもしれないけれど。秘密のおまじないを虹の根元に埋めてきた。恒常性のある影に白鳥の歌が巡り巡った。封じられていたのは教えられることのない争乱。そもそも世界は結果的に見ればいつも争っている。見ていないだけなのだ。

時間の年輪がひび割れた。黄昏を順番に並べてセメントを流し込んだのだ。緩やかに空が崩れて、きざはしが降りてきた。聞こえているのはこっそりとこぼした天使の笑い声だ。思い出せるのはそれが失われていないから。残っていても良かったけれど、空虚に堕としてきた。執着していたのはあちら側だった。

現象を無意識に比べたてた水面に映り込んだ。極まった天は涙ながらに訴える。見過ごしていた欠落を埋める必要があったのだ。古い古い海から這い上がった星が想像を投げ捨てた。苦しみはトラウマに刻み込まれてアーカイブに並んだ。君は先生じゃない。戦う意味は与えられるものを受け取っていればよかった。自分で探して見つけたものは素晴らしく見えたのかい。未知の価値などわからないだろう、君には。そのものの価値は全てが終わってから決まるのだ。光は試練に降り注ぐ。必然ではなく偶然に。表と裏で異なる力を持っている。

手を伸ばしたのは、ほしいものがあったの。手に入らなかった。終わってしまったから。地に堕ちておしまい。でも本当にそれでよかったんだ。おちたまま、そうなるから、わかっていたんだ。おしまいだって。君をそうしないながらでも、きっと、猶予はそれだけじゃなかった。求められたことは終わらせてきたのならば、それで良かったのだろう。境界は曖昧に混ざり合った。幻想が罠となって張り巡らされる。打ち鳴らされているのは鐘。根底から覆された思い込みは正気ではなかった。留め置かれた船は底が抜けている。最後から順番に並べていく。切り刻まれたページは席次を入れ替わってすまし顔をしている。安穏とそこに座っている、それでも世界は無垢を穢していく。

代償は岩に刻まれていた。指折り数えていた約束が果たされること。奇跡としてならなかった。驚くべきことに、世界は空転していたので。有耶無耶のままに受け渡しは終わった。私はここにいる。君はそこにいる。息をしている。

生命はそこにあった。闇を器に落した。朽ち果てた神の足跡をたどる。性を否定する。異質な信仰の純粋な血脈。果てには届かない。人では届けられない。人は純粋ではいられない。人にはできないことがある。人はそれに耐えられないのだ。ひとりでは生きられないのだ。神は語られるが、自ら語ることはない。神は人の言葉を話せないので。人は神の言葉を話せないので。

歌は人とそれ以外を繋ぐ。旋律、鼓動、響き合うのは、心にあるから。海に寄せて響く波のように繰り返しの応答が投げかけられる。生きることは問い続け、答え続けることだと、鳥は歌う。生きるために戦うことが必要ならば、その手は固く夢を見る。言葉は凍って地に堕ちた。

成功したから一人はそこにいる。何回も挑戦は続けていい。入れかわる時もきっとあるので。不断の決意は破れなかった。好きとは甘い毒薬だった。君とは目が合わない。だって最初から目がないの。炎にくべてやりたい。重石を積んでおこう。

醜いものは美しくて、美しいものは醜い。先に進んでいた人が振り返っていった。それはそこに置いていくのがあなたのためだ。私は手放しても生きていけるほど強くもなかった。一人では誰ともわからなかった。目を合わせてほしかった。

恋にキャラメリゼされた毒餌が置かれていたの。ただじっと見ていた。どうなるか知っていたから、見てみたかった。隙間なく並べられたから、パイにして焼き上げられた。ツツジが一つ咲いていた。ケーキを重ねてペンをとった。分け目が逆だったからフォークで刺した。コーヒーをゆっくりと注いだ。

昔よりも我慢するのが上手になった。声を殺せるようになったから、苦痛も隠せるの。買い被りだった。全部嘘だったんだ。でも、耐えていたのは本当。そんな必要なかったけれど。

神様に祈るのは救われたいのでしょう。救いはあなたの心の中にあるのですって。私は何が救いになるのかなんて知らないの。一番怖かったのは私が私ではなくなること。でも自我は苦痛に耐えるのに忙しかった。慰めは腹立たしく、叱責は空腹だった。食べるものなんて美味しければいいの。神社に行かない方がいいよって、君が言ったから。明日は、きっとそこまでいくね。



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