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黒い塔の怪物  作者: だもん
第二幕 お告げとフィリエリナ
5/10

二 娘に会う

 料金を払い町へと入ったフィリエリナは宿屋に向かい荷物を置くことにした。

 兜をつけた鎧の者は珍しくないようで、町に入るときに門番にとがめはされなかった。

 道ゆく人に宿屋を聞き、教えられた場所へ行くと二階建ての大きな建物があった。町の規模からして一般的な宿屋よりも大きい。

 宿屋の主人に事情を聞くと交易の中継場所として町には商人がよく来るとのことで、ここ以外にも宿屋が数軒あるとのことだった。

 借りた部屋に入ったフィリエリナは荷物を置き、兜と鎧を脱ぐと伸びをして緊張をほぐした。

 宿の主人に水の入った桶を頼み料金を払う。桶を受け取ると部屋で布を濡らし体をきはじめた。

 引き締まった体には小さな傷があちこちにある。これは魔獣や魔物との戦いでできた傷だ。両腕には雪の結晶を模した青い刺青が模様となって連り施されており、両手の甲には小さな結晶に似た模様の刺青が親指の付け根にある。

 赤茶色の髪は長くなってきたので編み込んでいた。青い目の整った顔でフィリエリナは胸を見て顔をしかめた。

 伸び盛りのようで身長が高くなってきたのはいいが、胸も大きく成長していた。今使っている鎧も多少きゅうくつに感じるようになったのが、ちょっとした悩み。

 ご先祖さまには大柄の人物はいなかったのだろうか。譲り受けた鎧に目をやりフィリエリナはため息をついた。


 体を拭き終わり身支度を整えると故郷に手紙をしたため始めた。

 紙とインクは旅の途中で手に入れたものだ。なかなかに高い買い物だったので無駄にできない。

 短い手紙には目的の黒い塔に近づいていることや旅してきた国の動向などを書き、村の親に向けて気遣いをつづった。

 手紙に封をしたフィリエリナは再び鎧をつけ剣を帯びると部屋を後にした。

 宿屋を出たフィリエリナは手紙を受け付けている商人に料金を払い預ける。ちゃんと届いてもらえたら助かると思いながら。

 旅人の出す手紙は運が悪いと破棄されてしまう。頼んだ相手にもよるが再び会う可能性がなければ、料金だけもらって手紙を届けなくてもわからないからだ。

 こればかりは運試しだなとフィリエリナは苦笑した。


 次に彼女は商店へと足を運んだ。

 雑貨店で物を買うついでに黒い塔について聞いて回る。

 どうやら噂に聞いた通り、この町から出た荒野の先に黒い塔があるのは本当だったようだ。

 不気味な塔で誰も近寄らないようだ。領主が何かしないのかと問うと、裏で金を受け取っているらしく不干渉をつらぬいているとの噂が流れていた。

 黒い塔は町では有名なようで、どこの店でも話が聞けた。

 中でもある雑貨店の小太りな店主の語る内容にフィリエリナは注目した。

「ああそれならうちの店によく来る娘がいたな。何年か前に初めて見たときには何もしらないから驚いたんだよ。しょうがねぇから一から教えてさ、最初は授業料にと多めにとってたんだけどよ、毎回来るし金払いもいいからお得意さん扱いしてるよ。ま、あの娘は知らないだろうけどな」

「それが黒い塔とどう関係あるんだ?」

「へっへ。うちの店に来た娘以外にもいるんだよ他にも。今の娘が来る前は向こうにあるゴドウィンの店に違う娘が通ってたのさ。それが数年おきにあるもんだから俺らは怪しんだんだよ。わかるか? 娘が町の外から毎度違う店に買い物に来るってのは気味が悪い。しかも何も知らないのも共通しているんだ。それで噂になってたんだよ、黒い塔からの使いだってな」

「……なるほど」

「今の娘は長く続いているが、もうしばらくしたら別の娘になるだろうな。そうしたら誰の店に来てくることやら。俺の店に来てくれれば最初から優しくしてやるつもりだよ。わはははは」

 金づるを逃したくない店主の下卑げびた笑いを聞いてフィリエリナは兜の中で舌打ちをした。

「その娘は今日は来てないのか?」

「ははは、そんな頻繁ひんぱんに来ないからな。だが、そろそろだと思うぞ? 前に来たのがちょうど一ヶ月まえだったからな」

 どうやら月に一度、町には来ているようだ。

 店に訪れる娘の特徴を聞き、これ以上は何もなさそうなので会話を打ち切ることにした。

 フィリエリナは店主に礼を言い情報料を渡すと笑顔でまたどうぞと歓迎を受けた。

 再び宿屋に戻ったフィリエリナは今後の計画を考える。

 どうやら今日聞いた店を見張っていればいずれ姿を現すだろう。それまではこの町に留まっておけば問題ない。

 金には余裕があるので稼ぐ必要は今のところはない。フィリエリナはベッドに横になると目を閉じ目的達成が近いことを実感していた。


 それから数日、フィリエリナは例の店を見張り続けていた。

 あまり需要がない店のようで客足はまばらだ。この調子だとあまり儲かっていないようだ。あのおしゃべりな店主が黒い塔の娘を手放したくない理由がわかった。

 朝から店が見える場所で隠れるように見張っていると店主から聞いた特徴が一致した娘が現れた。

 町娘のような格好だが薄汚れて遠くから町へやってきたのがわかる。

 雑貨店でいくつかの品を買うと別の商店へと向かっていった。フェリエリナは後をつけていく。

 まるっきり警戒心がないのか娘は買い物をすますと食堂へ入っていくのが見えた。フィリエリナは同じ食堂へ入ると娘の座るテーブルから離れた場所を選んで座り、飲み物を注文した。

 安い定食をそれはうまそうに食べている娘に、フィリエリナはどういう境遇なのだろうかと勝手に想像を膨らませていた。

 やがて娘が食堂を出ていき、再び店で買い物をすると町の門へと向かい始めた。

 このまま尾行していこうか迷ったフィリエリナは声をかけることにした。

「ちょっとそこの君。いいかな?」

 ビクッと体が跳ねた娘は恐る恐るフィリエリナの方へ顔を向けた。怖がらせてしまったのかと思ったが続けた。

「君は黒い塔からやってきたのか?」

 娘は押し黙ったまま顔を向けたままだ。顔は幼さなが残るが大人びていて長い髪は手櫛で整えたのか、あちこちが跳ねている。何かに恐れているような瞳は揺れ動き、怯えているかのよう。

 困ったフィリエリナが口を開こうとしたとき、急に娘は町の門へと駆け出してしまった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 慌てて娘の後を追い門のところで思いとどまり足を止めた。

 娘が荒野に走り抜ける方角を見定めて急いで宿屋へとフィリエリナは向かった。

 あの足の速さななら一日あれば楽に追いつけるだろう。長年の経験で移動距離の目算はついていた。

 フィリエリナは荷物をまとめると宿で精算をすまし門へ走り、娘が向かっていた荒野へと出ていった。


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