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黒い塔の怪物  作者: だもん
第二幕 お告げとフィリエリナ
4/10

一 世界と旅人

 はるか北にあるノマイデ村。

 雪に覆われたこの村がある地域一帯は年間を通じ半分は冬の季節が占めている。

 屈強な戦士を輩出する村として有名で、精霊の加護によって魔法をつかさどることを許された民族だ。

 雪の残る円錐形の屋根を持つこの地方独特の形をした館の中で、フィリエリナは幼さを残す顔つきで儀式の終わりを待っていた。

 髪は肩口まであり、女性らしい体形だが引き締まって鍛えられているのが厚い服の上からでもわかる。この村では幼い頃から戦士として育てられる。そのため、狩りも伐採も魔獣の警戒でも村人全員で行っている。

 やがて儀式を終えた占い師のおばばからフィリエリナにお告げがあった。

 『南の荒野に立つ黒い塔がひとつ。そこに住む不幸な女を連れ合いにすれば幸福が訪れる』と。

 これは成人の儀式のひとつで「お告げの試練」と村では呼ばれているものだ。これを達成する者は未来の繁栄を約束されるといわれていた。

 しかし、お告げが難解なものが多く、達成できた者はごくわずか。

 たとえ達成したとしても繁栄できたものは、さらに少ない。それでも挑む者が後を絶たないのは儀式のためでもあるが、村特有の倫理観のためだった。

 今年成人になったフィリエリナに告げられた内容に周囲はどよめいた。

 それはいつにもまして達成が困難に思えたからだ。南の荒野など誰も行ったことがないからなおさらだ。

 だが、フィリエリナは喜んでこの試練を受けた。

 閉鎖的な村の状態に飽き飽きしていたのと、暖かい地方に行ってみたいと昔から憧れていたから。

 もし失敗したとしても特にとがめられることもない。成人の儀式は、お告げに立ち向かう勇気を試したものだからだ。お告げに対しての姿勢を村人たちは評価していた。


 さっそくフィリエリナは遠征の準備に取りかかった。

 先祖から受け継がれた鎧一式に剣。それに盾と弓矢。鎧はミスリルでできた軽量のもので表面には固い布が貼られ、この村独特の雪の結晶をモチーフにした柄で彩られている。

 細身の剣もミスリル製で青白い輝きを放っている。盾は固い樫の丸い形で縁に沿って鉄で補強してあるものだ。弓は射程の短いもので狩りにつかう。

 背負い袋には野営に必要な鍋やスプーン、ナイフや木の器などが入れられた。そして毛皮が数枚に乾いた木の棒も。数日分の食料もあるがすぐに現地で調達しなければならないだろう。

 こうして母や村人に見送られてフィリエリナは村を出ていった。


 夜空を見上げ星を頼りに行く方角を決める。

 元々狩りをしていたので村から二、三日離れた場所はよく知っていた。また、都市へ皮などを売りに村人と同行していたので三週間ほど離れた場所までは道を覚えていた。

 だが、雪景色を抜けた先は未知の領域だ。

 村に来る商人の話では南の荒野は、山を越え平原を進んだ森の先にあるようだ。

 どれくらい先にあるのか皆目見当がつかないフィリエリナは、ゆっくりと進むことにした。お告げが真実ならば行った先におのずと黒い塔が現れるはずだから。

 こうしてフィリエリナは旅を続けた。

 一人旅は決して楽しいことだけではない。魔獣や盗賊、詐欺師などがフィリエリナの前に現れ旅を困難なものとさせていた。

 フィリエリナは魔法と剣で敵や難を退けながら前へ進む。ノマイデ村の住人は魔法と剣に秀でている民族で冒険者として名を上げた者も多い。

 試練で成功したものも、こうした冒険者として名声を得た者たちだ。

 幼い頃から訓練していたフィリエリナは才能も手伝って村では強者として指折り数えるほどになっていた。

 黒い塔の情報を集めながら、いくつもの村や町を訪れる。そこに数日滞在して路銀を稼ぎながら先へと進む。

 広い世界にはフィリエリナが見たこともない文化や民族があった。こうした文化は新鮮な驚きをフィリエリナに与え、少なからず影響を受けていた。現地の人々と交流をしながらフィリエリナは旅を続けた。


 半年がたちフィリエリナの精悍さが増していった。

 厳しい自然や魔物などとの戦い、世界を旅していく中でフィリエリナは村のことを考えていた。世の荒波の中では、いままでいた村はなんと平和なことか。

 小さな紛争や魔物との争い。どんな小さな村でもさまざまな問題がある。ただの通りすがりとはいえ、フィリエリナでさえわかるほど飢饉や崩壊している村があったのだ。

 施しさえできない自分に歯痒はがゆさがあったが、目をつむり先を進んだ。

 旅を終えたら一度故郷へ帰ろう。

 望郷の念がフィリエリナの胸に灯る。だが、フィリエリナは知っていた。世界を知った者はあの村に長く留まっていられないことを。

 しっかりした足取りで進むフィリエリナには迷いはない。

 目的の黒い塔の情報を得て、ある町に向かっていた。この頃にはすでに一年近くを旅してきていた。

 森のはずれの荒野にたたずむ高い壁が囲む町を見て、フィリエリナは兜の中で久しぶりに笑みを浮かべた。


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