Side 勇者 2
友人たちの祝福にハグで応えて、すぐさま他星転移場に転移する。
顔見知りの管理官はめったにない笑顔で、「おめでとうございます」と祝福してくれた。
「運がよかったですね。転移先であるエルクラード星の技術では倒せないグラ龍という龍の卵が出現したようです。そのままにすれば、エルクラードは滅ぶようで、こちらに救援要請が来ました」
管理官の説明にともなって、赤黒い巨大な龍と、どす黒い紫の卵の映像が目の前に見えた。
粒子硬度、力学量、威力、魔術量をざっとチェックする。
なるほど、ツガイがいるからと調べていたエルクラード星の人間では、とうてい倒せない相手だ。
エルクラードは、先進星自主規制連合の存在すら明かされていないめちゃくちゃ未開の星だからな……。
ま、俺も自分の力量だけじゃ、こんなバケモノ倒せないけどね。
現状は、グラ龍は卵。
だけど卵の殻ですら、めちゃくちゃ硬度がある。
とすると他星の古い建物を破壊するときに使用する粒子鉾がいるかな。
つきさしたものの構造を粒子単位で変えられるやつ。
あれで卵を壊そう。
中身が育ってて出てきたらまずいから、元素変換鉾も持っていくか。
これで適当に動けないようにして。
後は、なんだ?
現地民がごちゃごちゃ言ってきた時用に、威圧雷とか、召喚獣とかもてきとうにピックアップしとこう。
ざかざか思念籠に武器を放り込んで、自分の思念スペースに取り込む。
やべ。
ごっそり生成ポイントもっていかれた。
いっしゅん、体がぐらつく。
まぁこれだけ派手に買い物すりゃ仕方ないか。
エルクラードじゃ、買い物も「お金」という実在物と「商品」という実在物を交換するらしい。
神代かよ……って、まぁ、文明レベルじゃ神代レベルだよな。
エルクラード星の生活は、現在の快適で安楽な生活とはかけ離れてる。
でも、あそこには俺のツガイがいる。
h2@;k-の鑑定でそう鑑定されたんだから、間違いないはずだ。
めちゃくちゃわくわくして、転移陣につく。
管理官が、ひらりと手を振った。
「どうぞ、よい転移を」
「あぁ!うちのめちゃくちゃかわいいツガイに会ってくるな!」
言い終わらないうちに、転移は終わってた。
ざわざわとした空気が、俺の登場によって静まり返る。
広いホールだ。
そこに重そうな衣服を来た未開の民がひしめいている。
醸し出される野性的な雰囲気に、ちょっとたじろいた。
だけど、視線をめぐらせて、見つけた。
俺の愛しいツガイの姿を。
先達の言ったことは、正しかった。
ひとめで、彼女が俺のツガイだとわかる。
ツガイは、こわばった表情で俺を見ている。
けど、めちゃくちゃかわいい。
h2@;k-のデータで想像していたのの10000倍はかわいい。
「勇者よ……」
ツガイに見とれていたら、壮年のおじさんが話しかけてきた。
悲壮な顔をしているから、「ツガイを見つめるのに忙しいんで話しかけないでください」とか言いにくい。
ツガイと位置が近いから、仲のいい人かもしれないし。
嫌われたら、ツガイにも嫌われるかもしれないから、気を使うな。
とか思っていたら、ホールの人々がばらばらと俺に頭を下げる。
おじさんも俺に頭を下げて、
「この星は、今、消滅の危機にある。おそろしいグラ龍の卵が現れたのだ。この窮地を助けていただきたいと、古来から伝わる儀式にのっとり、貴殿を呼び出した次第。どうか我々をお助けください」
「いいよ。けど、対価は承知してるね?」
「それは、もちろん。世界でいちばんの美女を、貴殿に献上いたします」
深々と頭をさげて、おじさんが言う。
その隣にいた小さい女の子も一緒に頭を下げる。
うん、と俺はうなずいた。
その約束さえしてくれれば、いいんだ。
俺は、ツガイを見て言った。
「君を嫁にもらえるなら、あの龍の卵は滅するよ。だから、俺の嫁になってくれる?」
ツガイは小さくうなずく。
なんでかおじさんと女の子、それにおじさんのお嫁さんっぽい人もうなずいている。
っていうか、この場にいる全員がうなずいているんだけど、これって了承ってことでいいんだよね?
俺が嫁にしたいのは、ツガイだけなんだけど。
まぁ、いいか。
俺のツガイもうなずいてくれているし。
「では、行ってくる」