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Side カミーユ 4

 カミーユが予想した通り、カミーユの婚約破棄は、城中の話題になった。

カミーユは、あっという間に人々の嘲笑と侮蔑の的になった。

 

 もちろん、当初はサイラスの言いざまや、アンリエール姫の言動も非難の的になった。

 しかし、アンリエール姫の素行に頭を痛めていても、娘にあまい王と王妃が先行して、噂をねじまげた。

アンリエール姫とシスレイのしたことはいつの間にか人の口にのぼらなくなり、ただサイラスが大金を得て、これまで金のために我慢していたカミーユとの婚約を破棄したことになっていた。

サイラスの足の治療は語られることなく、多額の援助も、カミーユがサイラスと婚約するために無理やり貸し付けたことになっていた。


 そのうえ、サイラスは王付きの騎士となった。

これは、口の軽いサイラスを見張るための処置であったが、はた目には婚約破棄をしたサイラスが出世したように見えた。

 そのため、カミーユへの侮蔑はいちだんとひどくなった。


 カミーユは、もはや城にとどまることはできなかった。

すぐさま辞職を申し出たが、女性騎士が少ないからと、アンリエール姫付きからも外してもらえなかった。

引継ぎができる人間を異動させるのに、3か月待つよう言われ、カミーユは泣く泣くその間とどまるしかなかった。


 カミーユは、もはや心を殺して生きていくしかなかった。

けれど、その直後、この国をゆるがす大事件が起きた。


 この星すべてを破壊することができるという龍の卵が、発見されたのである。


 その龍種は、グラ龍という。

そもそも龍は、小龍と分類さえれる龍種ですら、一国では倒すことができない天災である。

その中でもグラ龍は一級の天災とされている。

卵の時ですら、その殻の固さから破壊することはできないのだ。

このエルクラード星の技術では。


 この災いを退ける方法は、ただひとつ。

勇者の召喚である。


 ふだんは争いばかりしているエルクラード星の国々も、一級天災の発見時は、あっという間に集結した。

そして歴史上でもたびたびあったように、勇者の召喚について話し合いが行われたすえ、召喚が決まった。


 勇者は、きわめて簡易な儀式で呼び出せる。

報奨は、世界でいちばん美しい娘ひとりですむ。


 たいへんコストパフォーマンスのいい相手であるが、この星では決して対処のできない強力な龍をあっさりと下せるほど勇猛果敢であるという。

制御できぬ強者を、自身の住まう星に招くことは恐ろしい。

よって、滅多なことでは呼び出さないことが決められているが、グラ龍が産まれてしまえばどうせこの星は滅びる。

今回の召喚は、全世界一致で賛成となった。


 問題は、勇者に差し出す娘である。

世界でいちばん美しい娘と一言でいっても、それが勇者の気に入るかはわからない。

洗練された美女か、妖艶な美女か。

愛らしい少女か、清楚な少女か。

会議は紛糾したが、勇者の好みはわからないので、結論はでなかった。

しかし、相手はけっして怒らせてはならぬ勇者である。

とりあえず、各国数人ずつ美女を召喚の場に連れていくということで、会議は終わった。


 見た目だけは美しいアンリエール姫も、そのひとりに選ばれた。

アンリエール姫は激怒し、泣きわめいて、王に考え直すように訴えた。

けれど、王は言った。


「勇者は、たいそう美しく、この世界の頂点にたつ若者だ。アンリエールの夫にふさわしいだろう」


 アンリエール姫は、それを聞いて、態度を一変させた。

自分こそが、勇者の報奨となる。

そう宣言した。


 そして、カミーユに言うのだった。


「残念ね、カミーユ。あなたのような醜女には、関係のないお話で。でも、まぁ、わたしは優しいから、チャンスはあげてよ。あなたも選定の場に来るの。わたしの護衛として、ね」


「かしこまりました」


 カミーユは、静かに了承した。

アンリエール姫の嫌味など、もはや心に響かなかった。

いや、父や母、姉たち家族のことを思えば、アンリエール姫のおかげで勇者がこの星を救ってくれるというのなら、今までの自分へのふるまいなど、帳消しにできると思った。


 そんなカミーユを、アンリエール姫は鼻でわらった。


「つまらないこと。お前のようなものは、いつも絶望しておけばいいのに」


 そして、勇者が召喚される日が訪れた。


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