Side カミーユ 3
カミーユは、アンリエール姫の護衛についたが、同時に王からアンリエール姫の男性関係を注意するよう命じられていた。
カミーユはもともと貞淑な性質だったし、王からの命もある。
アンリエール姫が男性に淫らな行為を持ちかけるたび、注意した。
アンリエール姫は、素直に従うような性格ではない。
あっという間にアンリエール姫はカミーユを嫌い、王に護衛を変更するよう願いでた。
けれど王も、アンリエール姫の男性関係には頭を痛めていたため、護衛の変更は許されなかった。
だから、アンリエール姫は、カミーユが自ら護衛を辞めるよう、嫌がらせに励むようになった。
初めは、わざとグラスを割ってカミーユに片付けさせたり、紅茶をカミーユにかけたりという物理的な嫌がらせが多かった。
けれど観察眼に優れたアンリエール姫は、すぐにカミーユにはそういった物理的な嫌がらせよりも、精神的な嫌がらせのほうが利くと気づいた。
シスレイのような仲のいい侍女とともに、カミーユの容姿や女性としてのいたらなさを笑い、年齢や、未婚であることを笑う。
カミーユの家族や、騎士という職業そのものを馬鹿にする。
そういったことのほうが、カミーユには辛かったし、アンリエール姫はすぐにそのことに気づいた。
そしてことあるごとに、カミーユを嘲笑した。
そんなことが続くうちに、カミーユは、もはや騎士としての仕事にも、誇りも喜びも感じなくなった。
ただもう、はやく結婚して退職することだけが、カミーユの望みになっていた。
サイラスとも、結婚さえしてしまえば、情が通い合うこともあるだろう、と思っていた。
だが、いまサイラスは、彼が望んでいた美しい女性と寄り添い、カミーユを嘲るように見て言う。
「サイラス……。考え直せないのか。私たちは8年も婚約していたじゃないか」
無駄だと知りつつ、カミーユはサイラスにすがってしまった。
けれどサイラスは、そんなカミーユを心底嫌そうに見た。
「お前のそういうところが嫌なんだよ! いつもいつも恩着せがましく、上から見やがってよ! そりゃ、俺はお前の家の金で、この足を治してもらったさ。それは感謝している。だからってよぉ、そのせいで、お前に買われたもののように扱われるのは、もううんざりなんだよ!」
「そんな……。私は、そんなつもりは」
「ない? なら、どうして俺がお前と結婚するなんて、のんきに信じていたんだ? ふつう、お前みたいな女と結婚してやろうなんて男なんていないだろう。金だよ。お前に金があるから、お前は、俺が結婚してくれるだろうって、のんきに考えていたんだよ!」
「私が、サイラスと結婚すると考えていたのは、あなたと婚約しているから。ただそれだけだ」
言っても仕方がないと知りつつ、カミーユは言った。
けれど、サイラスはもちろん、なにひとつ反省した様子はなかった。
「アンリエール姫が、そんな俺のことを憐れんで、俺のために金を用意してくださったんだ。お前の家に慰謝料を払っても、じゅうぶんに残るだけのたっぷりの金をなぁ! おまけに、そのやりとりの最中で、こーんな綺麗なシスレイとも仲良くなったんだ。お前との婚約を続ける理由なんかないってわかるだろ?」
カミーユは絶望した。
周囲で見ていた騎士たちは、サイラスのあまりな言葉に苦言を呈するもの、サイラスの尻馬に乗ってはやしたてるものと様々だった。
けれどまちがいなくこの婚約破棄は、あっという間に城中の噂になるだろう。