Side カミーユ 2
カミーユは、華奢で小柄な女性が美人とされるこの国の基準でいえばお世辞にも美しいとは言えなかった。
身長は並みの男よりこぶしひとつ分ほど大きく、騎士として鍛えた身体はどこかごつごつしている。
オレンジがかった真っ赤な髪は炎のように美しかったが、きりりとした目元と相まって、美しさよりも男性的な強さを感じさせた。
大きいということのぞけば、不器量といわれる容姿ではない。
ただ小さく細身の女性を最上とするこの国においては、カミーユは女性としては評価されなかった。
それでもカミーユの両親は、カミーユのことをかわいいと言い、美しい姉とかわらず愛した。
とうに結婚して子どもも2人いる姉も、子どもを身ごもっているとき、「この子があなたみたいにじょうぶで元気な子だと嬉しいわ」と言ってくれた。
真面目で、働き者で、優しく、穏やかで、ひかえめ。
そんなカミーユならば、見た目がどうあれ、愛する男性はいる、と。
サイラスがその男性だと、カミーユは思ったこともあった。
20歳の時に見合いで出会ったサイラスは、身長こそカミーユよりすこし高いくらいだったが、たくましく鍛え上げた身体の持ち主だった。
その彼の隣にならぶと、カミーユでさえ若干小柄に見えた。
サイラスも、カミーユの見た目に言及することなく、婚約者として丁重にカミーユを扱った。
だから、カミーユは期待してしまった。
サイラスなら、自分のことを、情熱的にではなくとも、穏やかに愛してくれるのではないかと。
けれど、そんな夢は、すぐに砕けた。
サイラスの家は貧しく、上昇意欲の強い彼は、そんな実家を不満に思っていた。
カミーユには、彼女の将来を案じた両親が持たせてくれる多額の持参金がついていた。
彼にとって、この持参金こそが、婚約を決めた理由のすべてだった。
実家が大金持ちでなければ、あんな男女と結婚するはずがない……。
そうサイラスが男友達に言うところを、カミーユは何度も聞いてしまった。
彼のほんとうの望みは、一般的に美しいと言われる女性と多額のお金、両方を手にいれることだった。
カミーユを選んだのは、多額のお金を手に入れるほうを優先したからだ。
結婚さえしてしまえば、後は美しい女を愛人にすればいいから、と。
それでもカミーユは、婚約解消しなかった。
サイラスが足を失ったときも、サイラスの足の治療をしてくれる治癒師の手配を両親に頼み、自分でも懸命に彼を看護した。
彼の妹たちが亡くなった時も、彼の実家に頼まれ、葬儀の費用も差し出し、細々とした手配も行った。
そして喪が明け、サイラスと結婚する日を待っていた。
そこまでしてサイラスと婚約し続けたのは、静かに絶望していたからだ。
自分は、女性として愛されることなどない、と。
カミーユをかわいいという家族だとて、それはカミーユの内面をおしはかってのことで、外見をほめてくれたことはなかったのだから。
カミーユは、女性としての自分の未来に見切りをつけ、騎士としての未来にかけた。
そして懸命に訓練に励み、実直に任務にあたることで、評価されるようになった。
女性でありつつ逞しいカミーユの特徴は、騎士としては、女性の護衛任務などで重用された。
カミーユはさらに任務に励み、ひとかどの扱いを受けるようになった。
カミーユは、騎士としての誇りを自分の中で大切に育てた。
けれども、アンリエール姫の護衛任務を命じられ、それも終わった。