殺人鬼『鏡面』を捕まえろ!
東京都某所。
そこは最近現れた殺人鬼によって恐怖の街へと姿を変えていた。日を跨いで繰り返される残忍な殺害。そして被害者は顔に鏡を貼り付けられて捨てられる。
だが犯人の目撃情報もなく、防犯カメラも遺棄した瞬間も捕らえていない。その特異な殺し方に警察内では『鏡面』と呼んだ。
だがそんな殺人鬼も人間だ。暗がりの犯行では僅かにボロが残る。
それを見逃さなかった二人の刑事は、弛まぬ努力で証拠を集め、殺人鬼の逮捕状を取るに至った。
「鏡山さん、遂にこの時が来ましたね」
「ああ、恐怖の殺人鬼もこれでお終いだ。田中、さっさと済ませようか」
殺人鬼を追い詰めた二人の刑事、鏡山と田中は殺人鬼の住むアパートへと足を運んでいた。
長年コンビを組んでいるこの二人は数々の難事件を解決してきた。
鏡山は長年の経験と勘により犯人の勘所を鋭敏に捉え、若い田中は緻密に組み立てた理論で溝を埋めていく。
今回の事件も難敵だったが二人にかかれば問題ではなかった。
「返事しませんね。メーターは回ってますから中にいるはずですが」
インターホンを鳴らし、呼びかけても返事がないことに田中は首を捻った。
「鍵は……開いてるな。居留守か罠か、どちらにしても中を改めないといけない。田中、準備はいいか?」
玄関口が開くことを確認した鏡山は、相棒である田中に目配せをした。珍しく緊張したような声に田中も顔を強張らせて頷く。
相手は連続殺人犯だ。何をしてくるか分からない。
鏡山と田中は互いに頷きあって部屋の中へと入っていった。
「こ、これは一体……金田という奴は狂ってやがる」
鏡山は驚愕して言葉を詰まらせた。
彼らが踏み込んだ先は部屋全体が鏡の世界だった。壁も床も天井も、鏡面シールが貼り付けられ、壁には縁にはまった鏡が大量にかけられていた。
どこに目を向けても自分の強張った顔が歪んで写る。鏡山はこの異常な空間に早くも嫌悪感を感じていた。
「金田は留守か。田中、一度外に出よう。気が狂いそうだ」
鏡山は眉間にシワを寄せ田中を呼んだ。しかし、一緒に踏み込んだはずの田中は返事をすることなく俯いていた。
その口角が徐々に吊り上がっていく姿は部屋の鏡に写っていた。
「た、田中?」
鏡山は不気味に笑って近づく相棒を見て後退りした。心臓が早鐘のように打つ音を聞きながら迫る狂気を凝視していた。
「鏡山さん、あんたで17人目だ」
その直後鏡山の視界が反転する。
彼が最後に見たものは鏡に映った金田だった。