73話 説得と誘い
お疲れ様です。
今回はタイトル通りって・・・毎回そうなのですが^^;
そしてまた、狂信者が登場しますw
楽しく読んでもらえると嬉しく思います^^
それでは、73話をお楽しみ下さい。
屋敷に戻って仮眠を取った悠斗は、ドアのノックに起こされた。
「失礼します」
そう言って入ってきたのはメイドのリディだった。
「旦那様がお呼びです♪」
「わ、わかりました」
リディの視線に怯えながら悠斗はリディの後を付いて行く。
そしてリディは応接間に案内するとドアをノックして中へ入る。
「ユウト様、今後の予定を話して頂けませんか?」
サウザーは苦笑いしなが悠斗に問いかけてきた。
悠斗はソファーに腰を降ろすと話を始めた。
「まずベルフリード公爵に連絡しませんとね?
その時、僕は自ら正体を明かし、ロックバルの後ろ盾となっている
貴族を抑えて頂こうかと思ってます」
「わ、私は同席できないのですか?」
「ああ~確かベルフリード公爵は王族派でしたっけ?」
「そうなのだ・・・私はあまり面識がなくてな?
だからこの際、つながりを持っておきたいのです」
悠斗は「ニヤリ」と笑うと、サウザーにこう言った。
「公爵様にはこちらに来て頂きます」
「へっ?はぁー?ど、どうしてだ?此処に呼びつけるって事なのかっ!?」
サウザーは爵位の高い公爵を呼びつけると聞き、
今にも心臓が口から飛び出そうになっていた。
「ええ。サウザーさん・・・俺はですね?」
悠斗が口調を変え、真剣な眼差しでサウザーの目を見据える。
サウザーは緊張のあまり「ゴクッ」と喉を鳴らすと・・・
「俺はですね・・・いいかげん、港町に行きたいんですよぉぉぉっ!!
どうしてこう毎回毎回トラブルがっ!
ああぁぁぁぁっ!ストレスがまじ溜まるっ!」
悠斗の発言にサウザーは「きょとん」としてしまう。
「ま、まぁ・・・落ち着いて頂けませんか?ユウト様。
この問題が片付けば、必ず港町には行けますのでっ!」
「がるるるる」
っと、悠斗は白々しく動物のように威嚇のポーズを取っている。
その姿にサウザーは再び「きょとん」としたのだった。
悠斗はソファーに腰を降ろすと話を続けた。
「それでですね・・・まずステアさんを解放します」
「解放・・・ですか?」
「はい。もう彼女は大丈夫でしょう。弱みを握られる心配もないですしね
それとあと二人ほど・・・」
「二人?・・・と、言いますと?」
「ルドルフってヤツとメリーヌさんでしたっけ?その人の彼氏さんです」
サウザーはルドルフの名が出た事に驚いた。
「あ、あんなヤツをこちらへ引き込むと言うのですか?」
「はい。あいつはこちら側には逆らえませんので・・・」
悠斗の笑みを見てサウザーは思い出す。
ルドルフにしたと言う魔法の事を・・・。
「ユウト様、お聞きしたいのですが、ルドルフと言う男に施した魔法とは?」
「ああ~アレですか?アレは・・・まぁ~ちょっとした精神操作ってやつです」
「精神操作?」
「はい、一種の暗示・・・と思ってもらって結構です」
サウザーは一人で何かブツブツ言い始めたのだが、
悠斗はそれに構わず話しを続けた。
「サウザーさん、ああいう男は必ず必要になります。
最初は消そうかとも思ったのですが、貴方には手札が必要だと思います」
「て、手札ですか?」
「はい、グレイン達からも色々と聞きましたが、貴方は存外堅物な方だとか・・・
しかしそれが原因で後ろ盾も無く、敵が周りを囲み貴方は今、八方塞がりなのでしょ?
貴方の正義は素晴らしいと思うけど・・・
でもそれは正義なのですか?
貴方自身のエゴなのではありませんか?」
サウザーは悠斗の言葉に何も言えないでいた。
「し、しかし・・・わ、私は・・・」
「その結果、今回ロジーの一件が起こりました。
それは後ろ盾のない貴方が、苦肉の策のため・・・ロジーを使った。
それほど貴方は追い詰められていたって事です。
そしてロジーはそんな父親の姿を見ていられず、無謀な行動に出たと言う事です」
サウザーは図星だった。
街の為に善政に奮闘し、周辺の貴族からの不正を正面から拒絶した。
その結果・・・街はとても栄えてはいるが、
サウザーの周りには敵しか居なくなったのだった。
そして今回、ロジーとクレストを婚約させようとしたのは、
ロックバルと手を組む事によって、敵を牽制しようとしたからである。
だがそれは、ロックバルの思惑にまんまとはまってしまう結果となったのだ。
サウザーは自分のしてきた事の結果が今回の失策を招いた。
それをたった今、自覚したのだった。
「貴方は味方を見つけるべきだった」
「だが私は街の為に一生懸命だったのだ・・・
不正がはびこる街などに未来はないっ!わ、私はそう考えて・・・」
サウザーは頭を抱え込み己の事を悔いていた。
(・・・ほんとにいい人なんだな~?ふぅ~。ほっとけないよね?)
悠斗は誰に言うでもなく心の中でつぶやいていた。
「さてっと・・・サウザーさん?もう頭を抱え込むのは終わりです。
これからは打って出ましょうっ!」
「う、打って出るとは、ど、どう言う事なのでしょうか?」
(あ~・・・ちょっと、虐めすぎたかな?すみませんでした)
「はい、まずはステアとルドルフを此処へ呼んで下さい。
あとは・・・あのエリーヌさんの彼氏さんの名前ってご存知ですか?」
「あ、ああ・・・。確か、ゼノ・アルバだったかと・・・」
「分かりました。その三人を呼んで頂けますか?」
悠斗がそう言うと、リディに三人を呼びに行かせた。
そしてそれから暫くすると、リディが護衛付きで三人と部屋へ来た。
するとステアはサウザーと悠斗に膝を着き礼を取るが、
ルドルフとゼノは頭を下げる程度に留まった。
悠斗はソファーから立ち上がると三人の元へ歩き出す。
(あれ?・・・この香りって・・・?)
「そして・・・護衛の皆さん、ここで下がってもらって結構です。どうも有難う」
護衛達がサウザーの顔を見て頭を下げると退出して行った。
「さてっと、ステアさんとルドルフさん・・・ここで働かない?」
突然の悠斗の言葉に驚きが隠せない二人は言葉を失ってしまった。
それでも悠斗は構わず話を続けた。
「それと、ゼノさん・・・ベルフリード公爵と連絡を取ってもらえませんか?」
ゼノは一度悠斗を睨んだが・・・
「俺が今更連絡など取れるはずもないだろう?
公爵の元に帰ろうものなら・・・すぐに処刑されるはずだ」
ゼノは冷静を装い悠斗にそう答えた。
「えっとですね?」
悠斗は三人にステータスを見せた。
するとステアを除いて二人はすぐさま膝を折り礼を取った。
ルドルフはステアの情報を見て知っていたのだが、
到底信じられるはずもなく現在に至っていたので
現実を突き付けられ受け入れるしかなかったのだ。
「使徒様でしたか・・・数々の無礼な振る舞いと言動をお許し下さい」
ゼノは信心深いのか、すぐさま謝罪してきた。
それに習ったのかルドルフも言葉を続ける。
「こ、これは本当に申し訳ねぇー・・・いや、ないです。
ま、まさか本物の使徒様とは・・・」
悠斗は三人に対し「にこり」と笑う。
そして三人の前にしゃがんで話を続けた。
「えっと~俺は縁あって、このアシュリナ家の・・・」
悠斗の言葉がそこで途切れると、サウザーやリディもまた
固唾を呑んで次の言葉を待っていた。
「・・・や、屋敷神・・・的な?あれ?何か違うな?」
悠斗の締まらない言葉に全員が溜息をつく。
「だって・・・しょうがないじゃないかぁーっ!」
悠斗が恥ずかしさのあまり逆ギレしてしまった。
そして全員が悠斗に対して・・・「り、理不尽な・・・」と思っていると、
突然応接間のドアが開き部屋へ入ってきたのは・・・
そう・・・部屋へ入ってきたのは、「狂信者」こと、ロジーだった。
しかも、白斗を肩に乗せたままの登場である。
ロジーは両手を腰に添えると・・・
「話は聞かせてもらったわっ!」
「せやせやーっ!ワシ抜きで主もなんの話しとんねんっ!」
突然の登場で悠斗を含めた全員が唖然としていた。
「なんや?なぁーロジーはん、皆固まってしまっとりますけど?」
「・・・刺激が強過ぎたのではないでしょうか?聖獣様?」
「いやいやいや、大丈夫やってっ!ワシの言う事は絶対やからなっ!」
何やらロジーと白斗は、登場の仕方がどうとか、キメポーズがどうとか、
くだらない話が始まった。
その間に復活した悠斗はロジーの前に立つと・・・
伝家の宝刀ハリセンを取り出し、ロジーの頭を叩いた後、
ロジーの肩に乗っている白斗をハリセンでフルスイングした。
「あべしっ!!」
そう叫びながら白斗は「キラーンっ!」と、星になった。
そして再び悠斗が頭を押さえているロジーの前に立つと・・・
「ユ、ユウト・・・様?御顔がと、とてもこわ・・・怖いのですが?
い、いかが・・・なさったのでしょうか?
わ、私、何かやってしまいましたか?」
上目遣いでもじもじしながら質問してくるロジー。
(・・・まぁ、可愛いけど、確かにその仕草は可愛いけどっ!
流石の俺も鬼になるぞっ!って・・・あれ?俺って鬼だから・・・
別にそれはいいのか?・・・・ん?でもこの場合・・・)
悠斗はどうでもいい事を考え始めてしまい、収拾がつかなくなってしまった。
悠斗がそうなってしまった場合・・・
ロジーは「ニヤリ」と笑うと・・・(チャーーーンスっ!)
そう心の中でガッツポーズを決めると、
信者を増やすべく、布教活動が始まってしまった。
そしていつの間にかロジーの肩に戻ってきた白斗もその話に続いた。
「いいですか皆さん?・・・私は創造神ラウル様より直接お話を伺う事が出来ました。
それは・・・ユウト様は創造神様と対等な存在なのだと・・・」
ロジーの一連の話が始まると、サウザーも含めた全員が話に聞き入った。
そして悠斗が戻ってきた頃には・・・
「あ、あれ?皆さん・・・ど、どうしたの?」
悠斗の前に全員が片膝を着いていたのだった。
「チラッ」と、ロジーと白斗の方を見ると・・・してやったり満面の笑みだった。
(あちゃー・・・ま、まじか。ま、まぁ~話が前に進むのならっ!
進むのなら・・・まぁ~・・・もういいや・・・諦めよう)
悠斗はそう思う事で無理矢理納得したのだった。
「で・・・、ゼノさん・・・俺が言った事なんですが?」
ゼノは片膝を着いたまま悠斗の問いに答えた。
「はっ!ユウト様の為ならば俺は・・・
いえ、、私は命を持って成し遂げたい所存ですっ!」
顔を上げたゼノのその瞳は、眩しいほど輝いていた。
そして、ステアもまた・・・
「ユウト様、私もこのままアシュリナ家に仕えたいと思います。
これからはサウザー様のお役にたってご覧に入れます」
物静かな話し方だが、ステアもまた・・・瞳は「キラキラ」と輝いていた。
「ユウト様っ!」っと、突然ルドルフが声が上ずりながら話始める。
「お、俺・・・い、いや、わ、私も誠心誠意サウザー様に御仕えする事を誓いますっ!」
「・・・えっと・・・まっ、が、頑張ってね?」
(うおぉぉぉっ!なんじゃそりゃぁぁぁっ!話が纏まっているんですけどぉぉっ!)
と、思っていたとは微塵にも見せずポーカーフェイスを貫く悠斗だった。
そして暫くすると、ゼノは悠斗とサウザーの連名を認めた手紙を持って、
仲間達と一緒にベルフリード公爵の元へ戻って行った。
ステアはそのままメイドとして、
ルドルフは兵舎などの管理人として働く事になった。
だがしかしこの二人は密偵である。
屋敷の仕事とは別に、情報収集の仕事がメインとされているのだった。
そしてその夜・・・
イリアとセルカと白斗は、イリアの魔法の特訓の為力を注いでいた。
悠斗はサウザーの許可を取り、一人で屋敷の外へ散歩をしに行った。
しかしそれは、散歩ではなく、悠斗もまた・・・修練していたのだった。
瞬間移動を何度も繰り返し、移動できる距離を岩場の聖域の時から、
ずっと繰り返しやっていた事だった。
(日々精進なり♪)
そして今日もまた修練を繰り返す。
「少し休憩でもするかな?」
そう言って適当に見つけた切り株に腰を降ろすと・・・
「ねぇ~ ステアさん?そこで何してんの?」
「・・・バレてましたか?割と本気で気配を消していたのですが?」
少し離れた木の上からステアが降りてきた。
「サウザーさんの命令かな?」
悠斗はタオルで体を拭きながらステアに問いかけた。
「はい。それもありますが・・・。貴方様の護衛の任に付いております」
「はい?俺に護衛なんていらないんだけど?」
「はっ!承知しておりますが・・・しかし・・・」
悠斗は片膝を着き頭を垂れているステアを改めて見た。
(年齢的には確か・・・26歳って聞いていたけど・・・もう少し若く見えるな?
あと・・・暗殺者や密偵独特の足の運び方と・・・
ふむ。あのくびれはいいものだっ!
胸は小ぶりだが・・・かなり鍛え込んだあの筋肉も実に素晴らしいっ!)
等と思っていても、でもそこはやはり悠斗・・・
(あ~でもそんな事より、気配遮断をちゃんと教えたいな・・・)っと、
ブツブツ言っていたのである。
そんな事を考えていると・・・
風の音に混じって口笛がかすかに聞こえた。
悠斗はステアに屋敷に戻って気配遮断の練習をセルカから学べと言って
屋敷に戻したのだった。
気配察知を使用し、ステアが戻った事を確認すると・・・
「セルン・・・出てこいよ」
汗を吹き終わり服を着ると悠斗はセルンに声をかけた。
「ふふ♪気付いてくれて良かったわ♪」
セルンはステアが降りてきた同じ木から音もなく降りてきた。
「セルンって気配察知に引っかからないんだな?驚いたよ」
素直に認められたのが嬉しかったのか、
セルンは上機嫌だった。
そして悠斗の傍まで来ると・・・
「ねぇ?今日はコーヒーはないの?」
「あははは・・・気に入ってくれたみたいだな?」
そう言って、悠斗はテーブルと椅子とコーヒーを取り出しお湯を注いだ。
「ねぇ・・・ユウト?」
「ん?ハチミツが足りなかったのか?」
「ち、違うわよっ!そうじゃなくて・・・」
悠斗はセルンが何を言いたいのかわからなかった。
「・・・あの女って・・・誰?」
セルンの言葉にどこかトゲのようなモノがあった気がして
思わずセルンの方を見ると・・・
「・・・な、何で怒ってるんだ?」
「怒ってないわよぉっ!ど、何処がお、怒ってるのよっ!」
そう言って、怒り出した。
「ま、まぁ~いいわ・・・それよりユウト?貴方・・・公爵家を巻き込むつもり?」
悠斗はセルンのその言葉を待っていた・・・
「はっはっはっ・・・やっぱりあの部屋の中にお前が居たんだな?」
悠斗の発言に驚くセルンは笑みを浮かべた。
「どうしてわかったのよ?気配察知にも引っかからないのに?」
「あっはっはっ!そうそう、前から言おうと思っていたんだよね・・・」
「な、何をよ?」
「その香りだよ?」
「香りって・・・ま、まさか?」
「そうだよ。いい香りだけどさ・・・バレるだろ?」
悠斗は微笑って見せるとセルンもまた微笑って見せた。
「ふふふ♪この匂いに気付くなんて貴方くらいなモノよ?」
「ふむふむ・・・にゃるほど~♪俺は鼻も利くんでね♪」
悠斗がおどけて見せるとセルンもまた笑い始めた。
「それで・・・どうして公爵なんて巻き込んだのよ?」
「それか~・・・いい加減面倒臭くなってさ~」
「め、面倒臭いって・・・あ、貴方ねぇ~・・・?」
そうセルンが言うと、悠斗は少し真剣な声で・・・
「まだグローリーの事を話す気はないんだろ?」
「・・・ええ」
「それに俺はサウザーさんにやっかいになってるしね?
伯爵とやらが後ろ盾になっているのなら、それをどうにかしないとさ~
後々大変な事になると思ってさ・・・」
セルンは溜息を吐くとこう言った。
「貴方ねぇ~・・・貴方の事がバレだら公爵に利用されてしまうわよ?
それをわかってて言っているのかしら?」
「あははは・・・まぁ~それは分かってるけどさ・・・
あまりしつこかったら・・・王国ごと・・・潰すっ!」
悠斗は笑いながらそう言ったのだが・・・
「ユウト・・・私の仲間にならない?」
悠斗はセルンに微笑んで見せた。
「・・・そうよね。ごめん、今のは忘れて?」
「俺を誘ってもいい事ないぞ?それに・・・使命もあるしね?」
「わかってる・・・つもりではいるわ・・・ごめんね?」
悠斗は黙って頷くだけだった。
セルンは立ち上がると最後に悠斗に言った。
「もし何かあったら私を呼んで?近くに居るから・・・」
振り向きもせずそう言ってきたセルンに対して、悠斗は切り返す。
「・・・今日みたいにか?」
「ふふふ♪」
そう笑うとセルンはそのまま闇に溶けていった。
「・・・気を遣い過ぎなんだよ」
コーヒーに口を付けながら、そうつぶやいた悠斗もまた・・・
「・・・俺も同じか」
そう言って苦笑いしたのだった。
ラウル ・・・ ほらっ!あのロジー君っ!やっぱりヤバイ娘じゃんっ!
ミスティ ・・・ そ、そうですわね。しかしあの娘は優秀なんですよ?
ラウル ・・・ まぁ~悠斗君の為には動いているけどさ~
ミスティ ・・・ ならば良いではありませんか?
ラウル ・・・ そ、その油断が一番怖いんだよっ!
ミスティ ・・・ も、もう少し様子を見ましょう♪
ラウル ・・・ あ、あの娘は恐ろしい娘ですっ!
ってなことで、緋色火花でした。




