71話 密偵
お疲れ様です。
今回は71話ですね。
密偵・・・まぁ、そのタイトル通りなのでw
楽しんで読んでもらえたら幸いです^^
それでは、71話をお楽しみ下さい。
時は少し遡り、此処はアシュリナ邸の屋敷内。
深夜を過ぎた頃、ある個室のドアがゆっくりと開き・・・人が出てきた。
「・・・・・」
周りの様子を伺いつつ音もなく廊下を歩いていく。
月明かりに照らされながら歩く姿勢はとても洗練された動きだった。
屋敷の屋内の裏口へと辿り着くと、周りを警戒し鍵を開け外の様子を伺う。
そしてそのまま気配がない事がわかると、
歩くペースを乱さず、気配を消しつつ裏門へ移動して行く。
松明で照らされた裏門へ辿り着くと・・・
「だ、誰だっ!」
裏門の門番をしていた男二人が槍を構える。
「・・・私よ?」
そこに現れたのは、顔をマスクで隠したメイドだった。
「遅かったな?」
「ええ、色々と手間取ってしまったけど、これでだいたい掴めたわ」
「俺達も少しは出世できそうだぜ」
そのメイドと門番二人は軽い会話をすると・・・
「はい、これ・・・私からの報酬よ」
メイドはそう言って、ポケットから出した銀貨数十枚を渡す。
「へっへっへっ・・・有り難てぇ~なぁ~♪おい♪」
「ああ~。これでまた飲みに行けるぜ」
門番達は手に銀貨を渡されると、掌でその銀貨の感触を楽しんだ。
「・・・開けてもらえる?」
「あ、ああ・・・すまねぇ」
そう言って門番二人は門を開けた。
メイドが門を出た時・・・
「いつもの場所に出迎えが数人来ているはずだ・・・気を付けて行けよ?」
「わかったわ、帰りもまた・・・宜しくね?」
「ああ・・・それが俺達の仕事だからな♪」
「あ~それとよ?相手が欲しかったら、俺達に言ってくれれば相手するぜ?」
「・・・貴方達に興味ないわ」
「チッ!つれねぇなぁ~」
その言葉を言うと、門番達は門を締めた。
そしてメイドもまた、踵を返し暗闇に消えて行った。
屋敷からおよそ30分の距離を歩いた所に、小さな廃屋が建っていた。
その廃屋は農民達の休憩所だった所だが、
今では使われなくなってしまい、自然と朽ちていった場所である。
メイドは近づくと木で出来たドアをノックする。
すると中から・・・「誰だ?」
しわがれた声が中から聞こえた。
「私よ・・・開けなさい」
手慣れたやり取りを済ませるとドアが軋みながら開いていく。
「・・・手筈は?」
メイドの目元が笑っているのが見て取れた。
「フッフッ・・・流石だな」
そう不気味な笑みを浮かべると、メイドを中へ招き入れる。
メイドは部屋の中に置かれたテーブルの元へ歩くと椅子に座り、
胸のボタンを外し、胸の谷間から小さな紙をテーブルの上に置いた。
しわがれた声の男は、その紙を手に取り中身を確認する。
「ほ~・・・こりゃ~また・・・驚きだな?」
「ええ、私も突然の事だったから、多少慌てたりもしたけどね・・・」
「はっはっはっ。まぁ~この世界で生きていれば、
何度かそういう目にも会うものだ。お前が一番わかっているだろ?」
「そうね・・・伊達に私もこの世界で生きてないわ」
「はっはっはっ」
するとメイドがもう一枚・・・紙を取り出した。
「ん?どうした?それはなんだ?」
「こっちの方がそれより重要になるわ」
「わかった・・・見せてくれ」
しわがれた声の男がその紙に手を伸ばすと、メイドは一度手を戻し・・・
「これは国がひっくり返る程の重大な案件よ?」
「・・・ほう~、そこまでとは・・・な」
メイドは再び手を戻し、しわがれた声の男は紙を受け取る。
「こ、これはっ!ほ、本当の事なのかっ!」
「ええ・・・私もサウザー様の部屋で一緒に聞いていたから
間違いなく本当の事よ?」
「・・・確かにこれは俺達の判断には余るな。改めて相談せねばなるまい」
メイドは男の不審な物言いに疑問を持つと・・・
「あんた・・・まさか、他の誰かに情報を?!」
「はっはっはっ、まぁーそう怖い顔をするな?これも生きていく為だ」
男はそう言うと、別の紙に二つの情報を書き、懐にしまった。
「あんたってヤツは・・・」
メイドはそう言うと男の胸ぐらを掴む。
「ほ~・・・そういう態度なら俺達にも考えがあるぜ?
まずはサウザーの元へ走りお前さんの事をチクらせてもらおう。
そうすれば、近くに住むお前の家族も・・・。
それに、お前の家族の住む家には、常に仲間が監視しているからな?」
「ちっ!!」
メイドは舌打ちをした後、静かに椅子に座り直した。
そして二人は廃墟と化した小屋の中で待機していると・・・
「ガサガサッ!」と、何者かの気配が外から聞こえ、すぐに明かりの火を消す。
すると・・・「トントン」と数回ノックの音が聞こえた。
しわがれた声の男がドアの壁にもたれかかる。
「誰だ?」
「俺達だ・・・公爵様の命により、受け取りに来た」
しわがれた声の男はドアを開け、
中へ招き入れるとメイドは再びランプに火を着けた。
中に入ってきた男達は二人、そして外のドアの前に二人・・・
男二人は椅子に腰を掛け、出された酒を一気に飲むと・・・
「例のモノは?」
「はっ、これに御座います」
男が差し出したのは小さな紙が二枚だった。
「ご苦労だった」
使いの者達はそう言うと、金貨を数枚置いた。
しわがれた声の男は金貨を拾い集めると・・・
「中を確認しないので?」
使いの男達は、訝しげな顔で男の方を見た。
「貴様・・・まさかと思うが・・・中を見たのか?」
「いえいえ、俺だって命は惜しいやな・・・見てませんぜ?」
「そうか・・・ならそれでいい。じゃーな」
使いの男二人がドアに手を出した時、ドアの外で何かが倒れる音がした。
使いの男達は慌てて外へ飛び出すと・・・
ドアの両サイドに居た顔を隠したイリアと悠斗が二人を気絶させた。
その瞬間、中に居た男とメイドが壁を突き破って外へ飛び出す。
しかし悠斗とイリアは動こうとしなかった。
壁を突き破り一度回転し着地し再び飛んだ瞬間・・・
「バキンっ!」と、男とメイドが何かに衝突し倒れた。
イリアの肩に乗っていた白斗は得意げな顔をしたが、声には出さなかった。
そんな白斗を見たイリアは指でそっと撫でると、
凄まじい速度で尻尾を振っていた。
悠斗はイリアと顔を向け合うと、わずかに笑っているのが見て取れた。
悠斗はイリアに5人を拘束するよう指示を出す。
「・・・その男は?」
「・・・こっち見るなよ?」
(あ、あの時と同じ・・・)
イリアが思い出したのは、見回り隊の隊長との出来事だった。
「その男・・・どうするの?」
「その少し尋問してから・・・」
そう言うと、男を連れて悠斗は消えた。
「・・・殺すのね」
イリアは拳を「ギュッ」と、握ると冷たくなった風に身を委ねた。
そしてその一部始終を木の上から見ている白いモノがいた。
その頃セルカは走りながら・・・折り紙魔法で状況を把握していた。
木の上に止まっていたのは、セルカの折り紙魔法で出来た梟が見たモノを
セルカは感覚共有で見ていた。
そしてセルカの肩に乗っている、
少し出来の悪い赤い梟は悠斗が作ったモノだった。
(セルカ・・・聞こえるか?)
(聞こえるにゃよ?)
(そろそろ感度が悪くなり共有できなくなるはずだ。
どこかに中継する俺の梟を置いてくれ)
(らじゃーなのにゃ♪)
セルカは悠斗と二人で作り出した新たな折り紙魔法を開発した。
セルカの折り紙魔法の欠点は、その距離にある。
視覚や聴覚を共有するには、距離がある程度近くなければ出来ないという欠点。
それをクリアするために、中継地点となる場所に、魔石を利用した梟を置いて、
その距離を伸ばすというやり方を編み出したのだった。
簡単に言うと中継地点にあるアンテナ見たいなモノである。
魔石に悠斗とセルカは同等の魔力を封じ込める事によって、
お互い相互通信が出来るのだった。
それを使用し、セルカは悠斗の指示に従い、一人草原を駆けていく。
そして再び悠斗から通信がきた。
(聞こえるか?セルカ?)
(聞こえるにゃよ?中継地点は上手く機能してるにゃよ~♪)
(ははは・・・今、イリアを援軍に行かせた。場所はわかるな?)
(任せるのにゃ!此処は私の庭みたいにゃものにゃのにゃぁぁぁ!!)
セルカが叫びその声がダイレクトに悠斗の耳に届くので
暫くの間、悠斗は「キーーン」とする音に顔をしかめていた。
セルカの確認が終わり連れて来た男を見ると・・・
「ウォーター」
悠斗はそうつぶやくと男に水を浴びせていった。
「うわっ・・ぷっ・・・くっ、くそっ!」
「起きたか?」
悠斗はマスクをしたまま話す。
「あんた・・・何者だ?」
「・・・お前などに話す訳ないだろ?」
「だよね?まぁーでも小屋の中での話は全部聞かせてもらったしさ、
それにこれも・・・回収させてもらったよ」
悠斗は自分の胸のポケットから、男が別に書いた紙を持っていた。
「き、貴様っ!」
「もうそう言う罵りとかいらないからさ?
ちゃっちゃっと話すか・・・死か?あんたにはその二択しかないんだよ?」
「貴様・・・今俺を殺せば、情報源を失うんだぞ?」
悠斗は男の前にしゃがむ。
「・・・ああ~別に俺はそんな事気にしないけど?
これってさ~・・・俺が勝手にやっている事だしさ~」
「・・・・・・」
「黙るのなら別にそれでいい・・・
ああそうだ・・・コレさ・・・何かわかる?」
悠斗はマジックボックスからは取り出せないので、
懐から細長い10cm程の鉄の棒を取り出して見せた。
「そ、それが一体なんだと?」
「そっか・・・知らないか?じゃ~教えてあげよう♪」
これはさ・・・中は空洞なんだよね?」
「空洞?ただの細い鉄の棒なのだろ?」
「あれ?・・・拷問とかでは使わないのかな?
これはさ、突き刺すとこの空洞を通って・・・わかるよな?」
男は無言で汗を流しながら何度も頷いた。
「で・・・?どうする?」
「・・・は、話せば・・・た、助けると言う保証は?」
「そうだな・・・じゃ~こういうのはどうかな?」
悠斗は再びポケットから小さな玉を取り出す。
「こ、今度はなんだ!?」
「まぁ~見ててくれよ」
そう言って悠斗は立ち上がると、あの玉を遠くへ投げた。
そして再びしゃがみ込み男と目線を合わせる。
「い、いいい一体さっきのに何があ、あるって言うんだ?
な、何も・・・何も起こらないじゃないか!?」
「・・・いいか、もし・・・今後何か俺達に歯向かう事があったら?」
「あ、あああったら?」
「バンッ!」と、悠斗がつぶやくと・・・「ドカーンっ!」と爆発し、
玉を投げ捨てた一面が炎の海と化した。
男は完全にビビってしまい、下から漏らしてしまった。
「こ、こここここれで・・・おれおれおれおれ俺をどうするんだっ!」
悠斗は再び先程見せた玉を取り出すと・・・
呪文を唱えつつその玉を男の胸に埋めていった。
そして悠斗は「ニヤリ」と笑うと・・・
「今の呪文でお前は俺達・・・言い換えよう、アシュリナ家に楯突いた場合、
その玉が勝手に感知して爆発するっていう仕組みなんだ。
威力は・・・まぁ~見ての通りだよ?」
男はよりいっそうガタガタと震え始めると、何度も頷いた。
「話す気になったかな?」
「は、はいっ!な、ななな何でも話しますっ!」
そう言うと男は緊張の限界なのか、気絶してしまった。
「やれやれ・・・」
悠斗は男の首襟を持つと、「ズルズル」と男を引きずって行った。
そして再び廃墟と化した小屋に戻ってくると・・・
男を引っ張ったまま瞬間移動して中庭の池の畔に着地した。
それを数回繰り返すと・・・
「・・・つ、疲れた」と、愚痴っていた。
瞬間移動をしていく中で、何度かセルカと白斗と連絡を取り合い、
順調に事が進んでいる事を確認した。
そして暫くすると・・・セルカと白斗から任務完了の知らせを受ける。
その知らせを受けた時、気が付けば朝日が昇ってきた。
「しまった・・・徹夜してしまった」
悠斗は愚痴を言いながらも作業を続けていく。
「事のついでと・・・申しましてなぁ~♪」
悠斗は気にいっていたドラマのセリフを言いながら、
全員の身体検査を始めた。
「・・・身元の分かるモノなんて持ってない・・・の、かな?」
捕らえた者達は確かに身元の分かる物は持ち合わせていなかったのだが、
一人の男が首から下げていたメダルに目が止まった。
「おお~ラッキーだな・・・ん?これは?」
悠斗は騎士風の男のメダルに手が触れた時、その男の口の中に違和感を感じた。
男の口を開けると・・・
「毒薬か?」
悠斗は念の為それを取り除くと、全員の口の中をチェックした。
「・・・騎士風の男達だけ・・・か」
そしてそのカプセルらしいモノを見ると・・・
「ははは・・・まじか?家紋入りって・・・なんだよそれ?」
呆れて物が言えなくなった悠斗は、セルカ達と連絡を取り、
正面の門で合流する事に決め一度屋敷に戻ると、
執事に全て伝え、悠斗は正面の門へと向かった。
門番達に状況を伝えると、
その門番の一人が兵舎に走る、そして10人程の騎士達が慌ただしく外へと出ていった。
少しすると・・・正面の道にイリア達の姿が見えた。
お互いが手を振り喜び合う。そして、イリア達が門へ付く頃、
サウザーファミリーが物凄い勢いで駆けて来た。
「ユ、ユウト様ぁぁぁっ!」と、サウザーは物凄い形相で近づいてきた。
サウザーは息を切らせながら何かを話そうとするが、
息切れのせいで全く言葉が通じなかった。
すると・・・屋敷の奥から、男が二人連行されて来るのが見え、
また、屋敷の方から捕獲した連中が連れて来られた。
「こ、これは一体何事ですか?」
サウザーは「オロオロ」としながら悠斗に説明を求めてくる。
「お、落ち着いてください、サウザーさんっ!」
「い、いや・・・しかし・・・コレは・・・」
動揺を体で表現するほど困惑しているサウザーを見た妻アンナが・・・
「あなた?あなたってばっ!」
そう言うと、アンナはサウザーに当身を当てると、ぐったりとしたサウザーを抱え
屋敷内へ戻って行った。
「ロ、ロジー・・・アンナさんって・・・?」
悠斗は壊れたブリキの玩具のようにぎこちなくロジーを見ると・・・
「ふふ♪お母様はその昔・・・S級クラスの冒険者で武闘家だったの♪」
悠斗達全員が完全にフリーズしてしまい、復活するのにそれなりの時間がかかった。
そして悠斗達が復活する頃、
セルカ達が倒した者達を捕らえ戻ってきたところだった。
「さてっと・・・ここからが本番だな~っ!」
悠斗達は大きなあくびをしながら、ロジーと一緒に屋敷に戻って行くのだった。
そして・・・
「ワシ・・・今回全然しゃべってへんねんけどっ!! 」
白斗の叫びが敷地内に木霊した。
ラウル ・・・ 最近シリアス展開多くない?
ミスティ ・・・ 私は別に構わないと思いますが?
ラウル ・・・ 読者の皆さんはどっちがいいのだろう?
ミスティ ・・・ 個人的には両方あると嬉しいのですけど?
ラウル ・・・ 僕としてコメディ一色って感じだね♪
ミスティ ・・・ なるほどですわね?存在がコメディみたいなモノですものね?
ラウル ・・・ ひどくないっ!?
ってなことで、緋色火花でした。




