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異世界転移 ~魔を狩る者~  作者: 緋色火花
第三章・冥界編
399/406

290話 悠斗vsイリア

お疲れ様です。


暑いのか寒いのかはっきりしてほしい緋色で御座います。


さて、今回はいよいよイリアとの模擬戦と成ります。

楽しんでいただけると嬉しいです^^



それでは、290話をお楽しみ下さい。


翌日の午後・・・。


悠斗とイリアは冥王の王宮内にある広場に来ていた・・・。


そこには既に事情を知る者達が揃っており、

その中には勿論・・・。


ヴァンパイアのパルサーとボイド、

そして堅狼族のルチアーノとボレアスも居た・・・。


悠斗は身体をほぐしながらイリアとの模擬戦を楽しみにしていた時、

突然念話が入った・・・。


{・・・誰?}


{ユウト様・・・私で御座います}


{あっ、ライトニングさん?

 どうかされましたか?}


そう聞いたライトニングは明るく振舞いながら言った。


{・・・ユウト様をお助けする為に来られたお仲間と対戦なさると、

 そう聞き及びまして・・・}


{あははっ、それはわざわざ有難う御座います}


{本当はそちらにて、私も拝見させていただきたいところなのですが、

 ちょっと・・・行けない事情が御座いまして・・・}


そう言ったライトニングの声に敏感に反応した悠斗は言った。


{・・・大丈夫なんですか?

 かなりヤバそうですけど?}


『えっ?』と驚いたライトニングは、

相変らずのその鋭さに『フフっ』と笑うとこう言った。


{はい、こちらは多少・・・厄介では御座いますが、

 我が主を含め、なんら一切・・・問題は御座いません}


そう答えたライトニングの言葉が嘘であると・・・

悠斗にはわかったが、あえて口に出さずにいた。


{わかりました・・・。

 あっ、ところでライトニングさんの主・・・

 って人の名を聞いてもいいですかね?}


悠斗の質問に一瞬、ライトニングは焦りはしたが、

『当人が恥ずかしがるもので・・・』と誤魔化した。


そしてそれから間もなく念話を終えた悠斗は考えていた。


(ライトニングさんの所・・・

 かなりヤバそうだったけど大丈夫なのかな~?)


そう深刻に考えていた時だった・・・。


『ギィィィっ!』と王宮内の扉が開くと、

その中からサンダラーとヴァマントが姿を見せた・・・。


サンダラーは玉座の前に立つと、

これから模擬戦を行う2人を見ながら言った。


「急遽・・・こういう事になってしまったが、

 お互いに最善を尽くすことを望むっ!」


悠斗とイリアが頷いたのを確認したサンダラーが玉座に着席すると、

その隣の席に座ったヴァマントは微笑みながら悠斗に手を振って見せた。


それに応えるように悠斗もまた軽く手を挙げると、

ヴァマントから念話が送られて来た・・・。


{ユウトよ・・・期待しているぞ?}


{・・・まぁ、恥ずかしくないよう頑張るさ}


{・・・ぬかせっ♪}


そう言い終えたヴァマントの念話が切れると、

両者は向き合い礼を取った。


するとイリアが何かに気付き声を掛けた。


「ね、ねぇ・・・ユウト?

 貴方・・・武器は?」


そう尋ねて来たイリアに『えっと~・・・』と言い淀んでいると、

『ヒュ~っ』と風切り音のような音が聞こえた瞬間・・・。


『ドッシャァァァっ!』と空から何かが降って来た。


土煙りが舞い辺りに充満した時、

悠斗が『はぁ~』っと溜息を吐きながら口を開いた。


「なぁ、卑弥呼~?

 そのヒーロー着地・・・もう見飽きたんだけど?」


そう言いながら笑みを浮かべる悠斗に卑弥呼は答えた。


「へぇ~そうかい?

 なら、今度は地面を割って飛び上って来ようかね~?」


「あっはっはっはっ!いいね~それ♪」


そう言いながら2人が笑い合っていると、

『貴様らぁぁぁっ!』とサンダラーの怒声が響いた。


玉座から立ち上がりワナワナと震えているサンダラーに、

卑弥呼は不敵な笑みを浮かべながら言った。


「ちょいと・・・遅刻しちまったかね~?」


その言葉にサンダラーの眼光が鋭くなった時、

卑弥呼は隣に座るヴァマントに軽く手を上げながら言った。


「よぉ~ヴァマ・・・お久~♪」


「・・・元気そうじゃないか?卑弥呼」


互いに何かあるのか、不敵に笑みを浮かべ合っていると、

サンダラーが再び吠えた。


「卑弥呼ぉぉっ!貴様ぁぁっ!

 何度も何度も・・・いい加減にしろぉぉっ!」


そうサンダラーが怒鳴る中、

ヴァマントは悠斗とイリアに対し念話でこう言った。


{貴様達は互いに準備せよ}


その言葉に頷き合うと両者は広場の中心から離れ、

互いのセコンドたる立場の者達が居る場所へと戻った。


イリア側には『イザナミ(分体)・ジェミー・セルン・黒紅』が居り、

悠斗の所には『南雲・ヴァン・スターク・虎恫』が居た・・・。


イリアはイザナミ達の元へと戻ると、

飲み物をセルンから手渡され、それを飲みながらイザナミの話を聞いた。


「い~い~?

 相手は悠斗殿だかんね?

 生半可な攻撃は全て向こうにされると思ってろしっ!

 だから短期決戦を挑むつもりで、

 イリアっち?

 今回は消エネのブルスピじゃなくて、

 本気モードの『ばーにんぐ・ぶるー』でいくのよっ!む


迷宮のダンジョンでイリアは、

戦闘継続が短い『バーニング・ブルー』よりも、

力はそれほどでもないが、継続力がある、

『ブルースピリット』からの『灯び』と、

『アンダーワルールド・モード』だったのだ


その事をアドバイスされたイリアは『はいっ!』と答えると、

セルンに肩を叩かれ『勝気でいくのよ?』と言われたのだった。


「えぇ、引き分けでもいいなんて事は言わないわ。

 私はユウトに勝つつもりで戦う・・・」


そう力強く言ったイリアに大きく頷いたセルンは、

イリアの背中を『バシっ!』と叩くと『行っておいでっ!』と言って、

見送ったのだった・・・。


そして悠斗側はと言うと・・・。


ヴァンが『おい・・・』と不思議そうな表情を見せていた。


「・・・お前さ、武器は?」


すると悠斗は『あはは』と笑いながら返した。


「・・・な、ないから~素手で?」


そう言った瞬間・・・。


『はぁぁぁっ!?』と・・・。

一同が驚きの声を挙げた時、悠斗は口角を上げながら言った。


「卑弥呼・・・ごめん・・・」


その声に『あいよ』と返答と共に、

『シュルシュルシュルっ』と何かが悠斗に向かって飛んで来た。


悠斗は振り返りもせず『パシっ!』と受け取ると、

いつもの癖を披露した後、納刀し『カチン』と鳴らしながら言った。


「・・・これってこの前の?」


「あぁ、この前私とやった時のモノだ」


「確か銘はなかったんだっけ?」


「あ、あぁ・・・そうだが?」


悠斗の声に『ん?』と首を傾げた卑弥呼に悠斗は言った。


「・・・この刀の銘は俺がつけていい?」


その言葉に『あ、あぁ・・・』と答えた瞬間・・・。


突然それはダメだぁぁぁっ!』と、一同から声が上がった・・・。


卑弥呼は顏を引き攣らせながら『何っ!?』と戸惑うと、

卑弥呼はヴァンに事情を聞かされた・・・。


「・・・ネ、ネーミングセンスがゼロだとっ!?」


「あ、あぁ・・・しかも相当ヤバいレベルでな?

 こいつは自分が使っている枕に『枕草子』って付けやがってよ?

 『俺の草子がぁぁっ!』とか騒いでよ?

 結局自分の寝相の悪さで枕を投げ飛ばしていただけだったとかよ?

 兎に角・・・こいつにだけは名を決めさせちゃいけねーんだよ」


「・・・ま、まじか?」


ヴァンの説明に卑弥呼はどこか納得すると、

悠斗にこう言った・・・。


「そいつの銘は今・・・私が決めた」


そう言った卑弥呼に悠斗は興味深そうに『なに?』と聞くと、

『ニヤり』と笑みを浮かべた卑弥呼は言った・・・。


『その刀の銘は・・・ズバリっ!『卑弥呼』だっ♪』


「おぉ~♪」


卑弥呼という名を気に入ったかどうかは分からないが、

悠斗は刀身を抜くと刀に軽くキスしながら言った。


「・・・卑弥呼、よろしくな?」


そしてその瞬間・・・。


『ボっ!』と卑弥呼の顏が真っ赤に染まり、

頭のてっぺんから白い湯気が立ち昇るのが見えた・・・。



それから数分経過し時間となると、

悠斗とイリアは広場の中心で対峙していた・・・。


「ユウト・・・全力でいかせてもらうわっ!」


「あぁ、わかった・・・受けて立つよ」


それぞれの定位置へと戻ると、

そこにはそれぞれの武器を持ち待機している者達が居た。


『イリア・・・勝ちなさい』


そう言いながらセルンがイリアにレイピアを渡すと、

『うんっ!』と言いながらその瞳に力が宿るのが見えた。


そして悠斗の刀を顔を真っ赤にしている卑弥呼が渡すと、

『ま、まさか負けるとは思わんが』とたどたどしく話す卑弥呼に、

悠斗は笑みを浮かべながら言った。


「慢心も何もない・・・ただ戦うだけだよ」


その言葉を聞いた卑弥呼の顔からは赤みが消えると、

『バシっ!』とその背中を叩きながら言った。


「・・・行って来いっ!」


「あぁ」


こうして広場には2人が相対し、開始の合図を待っていた。


イリアは集中し勝つ事だけを考え、

悠斗はこの戦いが楽しみで仕方がない様子だった。



そして試合はサンダラーの『始めぇぇっ!』の声と共に開始された。


両者は互いに離れ距離を取ると、イリアは迷う事無くレイピアを抜き、

駆け出すと同時に吠えた・・・。


『行くわよっ!バーニング・ブルーっ!ウェイクアップっ!』


『バシュッ!』とイリアの身体から『蒼き業火』が吹き出すと、

イリアはすぐさま声を挙げた。


『バーニングブルー・ソードっ!』


イリアのレイピアに『蒼き業火』が纏いつくと、

激しい『蒼き炎』を噴き上げながら悠斗に接近した。


そしてそれを見ていたセルンが声を挙げた。


「イリアは防御を捨てたって事ね?」


そう言ったセルンにイザナミは説明した。


「そうなんよね~?

 昨夜遅くにアタシんとこ来てさ?

 色々と作戦を練っていたんだけどさ~・・・」


そう言ったイザナミに『ん?』とセルンが首を傾げると、

イザナミは肩を竦めながら言った・・・。


「勝つイメージがなくて・・・」


そう言って苦笑いを浮かべると、

セルンは『どうしてですかっ!?』と口を開いた。


「イリアのあの力は決してユウトに対しても有効であるはずですっ!」


そう興奮気味に言ったセルンにジェミーが答えた。


「・・・私も最初にあの男に会った時、

 こいつヤベーな?って思ったよ?」


「ジェ、ジェミーまでっ!?」


「ういうい・・・アタシらにはわかんのさ・・・

 悠斗殿の強さが・・・ね?

 だから下手な小細工をするよりも、全身全霊・・・

 イリアっちの持ち味であるそのスピードに賭けて、

 悠斗殿を翻弄するしかないってね?」


そう説明されたセルンは『なるほどだから防具は?』と口にし、

再び対戦を見守るのだった・・・。


そして悠斗とイリアの戦いを楽しみにしていたのは、

イザナミ達だけではない・・・。


サンダラーのその瞳は真剣そのものであり、

それを横目に見ていたヴァマントも笑みを浮かべるほどだった・・・。


(ユウトよ・・・貴様は正直気に喰わん・・・

 だがな?憎いわけではない・・・。

 貴様の力にはこれでも敬意を払っているつもりだ。

 だから見せてくれ・・・ユウトよ。

 貴様が深淵に対抗できる強者としての力を、

 この俺に見せてくれ・・・)


サンダラーが真剣に見つめる中、

悠斗とイリアは激しい攻防を繰り返していた・・・。


『キンキンキンキンキンっ!』


『ザザァァァっ!』


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


イリアは全力を出しレイピアでの攻撃を繰り出し、

悠斗もその攻撃に紙一重で凌いでいた・・・。


(さ、流石・・・ユウトね?

 想定していたよりも・・・速くて強いわ・・・)


距離を取ったイリアは腕で額の汗を拭うと、

呼吸を整えながらジワリジワリと距離を縮め始めた・・・。


(私の特性は速さ・・・

 それに私にはまだ奥の手がある。

 迷宮で新しく掴んだ力・・・

 アンダーワールド・モード

 そしてそれを最も活かせる技・・・)


イリアは再びバックステップを行い距離を取ると、

『はぁぁぁぁっ!』と『蒼き業火』を吹き出しながら咆哮した。


『アンダーワールド・モードっ!』


『バシュっ!』とイリアの身体から噴き出た力は、

『蒼と紫』が混ざった炎と化した・・・。


そしてこの瞬間・・・。


悠斗の瞳の奥に鈍く光りが灯った。


(・・・これか~?

 イリアの奥の手ってのは?)


イリアの本気を見た悠斗は笑みを浮かべ、

『卑弥呼』を納刀すると抜刀術の態勢に入った。


そしてそれを見た卑弥呼は今、まさにあの時の光景が頭を過ぎっていた。


(こ、この構えは・・・。

 クックックっ!これだよこれ・・・

 片や力を解き放つ者に対し、悠斗は『静』を見せる・・・

 この不格好なその低重心の抜刀術の態勢・・・。

 これってつまり・・・)


腕を組み戦いを見守る卑弥呼の手に力が入り、

再び見られる悠斗の技に興奮しない方がおかしかった。



『はぁぁぁぁっ!』


イリアが『蒼紫の炎』を身体から放ち終えると、

『フラっ』と突然イリアの身体が左右にブレた・・・。


抜刀術の態勢に入り相手を見る事がなかった悠斗は、

その異質な気の流れに閉じた目を潜ませた。


『タッタッタッタっ』と聞こえていた足音が突然消失し、

見ていた者達も顔色を変えた。


イリアは駆け回りながら考えていた・・・。


(今の私じゃ勝てないと本能で感じた・・・。

 でもね?

 このまま黙って負けるのはごめんだわっ!

 だから見せてあげるわ・・・ユウト。

 貴方の隣に立って戦う為に、今の私が放てる最高の一撃をっ!)


駆け回るイリアの耳には、もはや周りの音など聞こえて居なかった。

そしてその音は自分の足音さえも消し、

何処を駆け回ろうとも、悠斗の居る場所だけが見えていた・・・。


(行くわよ・・・ユウトっ!

 私の熱き想いを貴方にっ!)


イリアは動かない悠斗が気にならなかった。

どこでどんな動きをしていようとも関係ない・・・。


その一撃に全てを賭けたイリアは迷う事無く突っ込んだ。


『うぉぉぉぉぉっ!行くわよっ!ユウトォォォっ!

 これが私のアンダーワールドを超えた力っ!

 ファントム・ブルー(幻蒼紫)っ!』


『ズザザザザァァァァっ!』と地面を滑りながら放たれた連続突きは、

いくつもの蒼紫の炎を纏い残像を生む程の攻撃だった。


そして地面を滑りながら蹴り上げると、イリア宙に舞った。

身体を回転させながらその落下速度を利用し声を挙げた。


『そしてこれがぁぁぁっ!

 本当の私の奥の手よっ!

 ファントム・ブルー・ピアッシングっ!』


放った連撃が抜刀術の態勢のまま静止している悠斗に届く頃、

イリアは上空からの最大の技を放った。


その一撃は幻蒼紫の閃光と成り、悠斗に向って放たれたのだった。


『いっけぇぇぇぇっ!』とイリアの咆哮が響く中、

悠斗は心静かに静止していた・・・。


そして『カっ!』と双眼を開いた瞬間・・・。


悠斗の瞳は『キィィィィィンっ!』と・・・。

音を放ちながら瞳が緋色に変わった・・・。


襲い来る幻蒼紫の連撃を難なく体術の円運動のみで躱すと、

その意識を上空から迫る圧迫感へと向けた。


悠斗は更に身を屈め体重の全て後ろ脚に乗せると、

『はぁぁっ!』と気合いを込めながら跳躍した。


それを見ていたヴァンは声を挙げた。


「だめだぁぁぁっ!ユウトォォっ!

 それじゃ~間に合わねーぞぉぉっ!」


ヴァンの声が悠斗に届く寸前・・・。


悠斗は再び笑みを浮かべると口を開いた。


『白鷲流・対空抜刀術・青狼(せいろう)っ!』


そう声を挙げた瞬間、悠斗に迫ったイリアの一撃・・・。

『ファントム・ブルー・ピアッシング』の蒼紫の一撃は、

悠斗の技である『青狼(せいろう)』の一閃によって打ち消され、

先に着地し唖然とするイリアに対し、

今度は悠斗が上空から降りながら納刀すると声を挙げた。


『白鷲流・下降抜刀術・迅雷白鷲(じんらいはくろ)っ!』


落下しながら唖然とするイリアに襲いかかった悠斗の攻撃は、

誰にも見えなかった・・・。


そしてその音すらも・・・。


気が付いた時にはイリアはの顏の一寸先には、

悠斗の刀の刃が鈍く光りを放ち、

イリアは全身から力が抜け、その場にぺたんと座り込んでしまったのだった。


そしてその瞬間だった・・・。


この大広間に『ビィヤァァァァァっ!』という鳥の鳴き声が木霊したのだった。



するとその瞬間・・・。


『そ、それまでぇぇぇっ!』と慌てた様子のサンダラーが試合を止めると、

見ていた者達が『おぉぉぉっ!』と、

声を挙げ拍手が雨のように降って来たのだった。


未だに座り込むイリアに悠斗は手を差し伸べながら言った。


『いい攻撃だったし、その技の1つ1つの完成度が高かった。

 だけどイリア?

 上空から攻撃する時は、魔力で空を蹴りながらの方が、

 その技はもっと威力が出せるはずだよ?』


そう笑顔でアドバイスをしたのだった・・・。


「あ、有難う・・・ユウト。

 とてもいい勉強になったわ♪」


そう言いながら差し出された悠斗の手を掴むと、

イリアは応援してくれた者達に対し大きく手を振りながら声を挙げた。


「応援有難う御座いましたぁっ!

 負けはしましたが、悔いはありませんっ!

 これが今の私の実力ですっ!」


そう元気に笑顔で声を挙げたイリアに、

イリアを知らない者達までもが声を挙げ、

この戦いがとても素晴らしかったことを伝えたのだった。



戦いが終わり、サンダラーは自室にて、

姉であるヴァマントとお茶を飲んでいた・・・。


「な、なぁ~・・・姉貴よ?」


「なんだ?」


「今日のあの模擬戦・・・姉貴はどう見た?」


そんな質問をされたヴァマントはカップを置くと笑みを浮かべ言った。


「・・・あのダークエルフのお嬢ちゃん。

 灯を使いこなしているとはね~?

 正直に驚いたよ・・・まさか生身でなんてね?」


満足そうにそう言ったヴァマントに対し、

サンダラーは少し苛立った様子で口を開いた。


「ちげーだろっ!

 正直・・・あの女がここまでやるとは思ってもいなかったが、

 俺が聴きたいのはユウトの方だっ!」


そう捲し立てたサンダラーにヴァマントは答えた。


「・・・正直、寒気がしたね?』


「寒気?姉貴がか?」


「お前・・・私を一体何だと思ってんだい?」


ジト目を向けたヴァマントにサンダラーが謝罪すると、

カップを持ち上げ中に入っている琥珀色の液体を見つめながら言った。


「あの子・・・。

 ユウトはあの時・・・。

 そう・・・跳躍した時・・・鬼の気を使っていなかった。

 い、いや・・・違うな?

 アレも鬼の気がベースになっているとは思うが、

 全くの・・・別物だった・・・。

 それにあの・・・残響とでもいうのか?

 あのダークエルフの顏の前で止められた刃の後から聞こえて来た、

 鳥の鳴き声のような・・・?

 あの力は一体・・・?」


そう呟くように言ったヴァマントの声がとてもか弱く聞こえ、

サンダラーもそんな姉の姿に驚いていたのだった。


(あの姉貴が?)


「・・・俺は正直、ユウトの事がわからねー。

 俺はあいつが嫌いだ・・・。

 自分勝手過ぎるし俺に対して敬意払わん。

 だがあの強さは認める・・・いや、間違いなく領域を超えた強さだ。

 あいつに何があってそうなったかは知らねー。

 そう言う意味じゃ、あいつの事は尊敬もする・・・。

 だが、ユウトは大丈夫なのか?」


「・・・大丈夫とは?」


「だってよ?

 あいつ・・・あれで人族なんだぞ?

 今は魂だけだが・・・。

 あいつからは恐れを全く感じねーんだ。

 それって異常な事じゃねーのかよ?

 なぁ、姉貴・・・これからあいつは何を目指しどこへ向かうんだ?」


そう実の姉の前苦悩して見せるサンダラーを見て、

ヴァマントは『フっ』と優しい笑みを浮かべた。


(なんだかんだ言って、こいつもユウトの事が気に入ってんじゃねーか?

 まぁ~でも、その気持ちもわからんでもないが・・・。

 でも確かにあの子は見ていて危ないね~?

 ユウナギ様なら・・・こんな時どうするんだろうね~?)


ヴァマントはそう心で呟きながら、

惚れた男の顔を思い出していたのだった・・・。



~ イザナミ達の宿舎前 ~


模擬戦が終わったイリアは1人になりたいからと言って宿舎を出た。

そして宿舎の前にある池の前で、

水面に映る怪しげな月を見ていた・・・。


「あぁ~あ・・・負けちゃった~・・・」


そう言いながら傍にあった小石を池の中に投げ込むと、

その波紋が池全体に広がり、怪しげな月を揺らしていた。


そんな時だった・・・。


突然イリアに声がかかった・・・。


「イリア?」


驚き身構えながら振り返ると、そこには飲み物を手に持つ悠斗が居た。


「・・・ユ、ユウト?

 い、一体どうしてここに?」


そう驚きつつも尋ねるイリアに悠斗は言った。


「えっ?だってさ?もう戦いは終わったじゃんね?」


逆に驚いた悠斗の言葉にイリアは『プっ!』と笑うと、

『笑う事無くね?』と苦笑する悠斗に言った。


「普通はさ~?

 負けた相手の所になんか気を遣って来ないでしょ~?」


そう照れながら言ったイリアに悠斗は『確かに~』とおどけて見せた。


(あぁ~なるほど・・・。わざと・・・なのね?

 フフっ・・・魂だけなのに、相変わらずなのね?)


模擬戦が終わるまではなるべく悠斗と接触しないように心掛け、

休憩などの時も会わずにいたのだった。


それを伝えられていた悠斗は了承したが、

模擬戦が終わった今・・・。

もうその必要はないはずだと思ってのことだった。


悠斗から飲み物を手渡されそれに口をつけたイリアは言った。


「ねぇ、ユウト・・・」


「ん?」


一瞬・・・そう、ほんの一瞬・・・。


イリアは自分とセルンの魂が実は悠斗の追い求めていた、

『葉月穂高』の魂だと口に出してしまいそうになり、

慌てて口を閉じた。


イザナミやサンダラー・・・そしてヴァマント達にも口止めされており、

事実を言えないイリアは歯痒くもあった。


イリアは空を見上げる悠斗を見ると口を開いた。


「ねぇ、ユウト?」


「ん?何?」


「私ね?ユウトの事が・・・好きなの」


突然告白された悠斗は一瞬驚いた顔を見せたが、

『あぁ、知ってるよ?』と答えると、今度はイリアが驚いた顔を見せた。


悠斗は申し訳なさそうにし、口を開こうとした時、

イリアはその口に人差し指を押し付けながら言った。


「今は何も言わなくていいわ・・・。

 別に今、その答えを知りたい訳じゃないもの・・・。

 でも、覚えておいて?

 貴方には貴方の事を想っている人達がたくさん居るって言う事を、

 しっかりと覚えておいてほしいの・・・」


「・・・わかった」


そう言いながら少し哀しげな表情を見せた悠斗が立ち上がろうとした時、

イリアは悠斗を抱き寄せその口にキスをしたのだった・・・。


そして少しの間・・・時が止まったと感じた時、

唇を離したイリアは言った・・・。


「どこまでも着いて行くし、私達は貴方から何があっても離れないわ」


そう言ったイリアの目には涙が滲み出ていた。


そんなイリアを悠斗は抱きしめながら言った。


「・・・ごめん」


『ごめん』・・・その悠斗の言った言葉の意味はわからないが、

イリアにとってこの時間は幸せの一言に尽きるものだったのだった・・・。



ってな事で・・・。


今回の話は~・・・長かったですよね?

す、すみません><


楽しんでもらえたら嬉しいのですがw


それと今回の曲はまた『活動報告』でさせていただきますので、

もし良かったら聞いてやって下さい。



ってなことで、緋色火花でした。

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― 新着の感想 ―
イリアの見せ場があって良かったです♥︎
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