286話 緋色の残響
お疲れ様です。
暑かったり涼しかったりと・・・。
溜息が出る緋色で御座います。
さて、今回は卑弥呼と悠斗の戦いの続きとなります。
それでは、286話をお楽しみ下さい。
『さぁ、いこうか?』
悠斗は半身で中腰になりながら構えるとそう言った・・・。
すると『キィィィンっ!』と・・・。
静かであるが卑弥呼の耳にはしっかりと届き、
またそれと同時に悠斗の身体から得体の知れない力が溢れ始めた。
((こ、この力は一体何なんだっ!?
それにこの音は・・・?)
卑弥呼は数回頭を振り悠斗へと視線を向けた時、
その瞳が赤よりは鮮やかな色へと変色している事に気付いた・・・。
「悠斗・・・ちょっといいか?」
「・・・ん?」
構えを解いた悠斗が不思議そうに首を傾げていると、
卑弥呼は尋ねた。
「お前のその力は・・・何だ?
私はてっきり『深紅の門』を開けたものばかりだと・・・」
悠斗の目を真っ直ぐ見ながらそう話した卑弥呼に、
悠斗は『フッ』と笑うとこう言った・・・。
『・・・まだちゃんとこの力を理解した訳じゃないけど、
この力は・・・『穂高』が俺に託してくれた力だ』
「・・・穂高?」
卑弥呼はその名を聞き、以前イザナミから送られて来た資料の中に、
『葉月 穂高』の名を見て、多少なりの事情を知っていた。
「フフフっ、そうか・・・そう言う事か?
なるほどな?実に面白い」
そう呟いた卑弥呼に悠斗は肩を竦めると、
ふと、少し離れた場所で倒れているヴァンとスタークに気付いた。
卑弥呼に『ちょっといいか?』と尋ね、
無言で頷く卑弥呼の横を通り過ぎると唖然としている2人に声をかけた。
「・・・2人共?
こんな所で何やってんだよ?
・・・あっ、昼寝か?」
平然とそう言った悠斗にヴァンとスタークは揃って、
『何でだよ(メル)っ!』と答えると、悠斗はしゃがみながら口を開いた。
「別に何でもいいけどさ?
ここに居たら巻き込まれるぞ?」
悠斗が真顔でそう言うと、ヴァンとスタークは互いを見た後、
南雲と虎恫によって運ばれて行った・・・。
ヴァン達は南雲達に肩を借り移動していた時、
冷汗を浮かべているヴァンは小声で言った・・・。
「ユウトのヤツに一体何があったんだ?」
「どう言う事じゃ?」
「あいつからまた別の力を感じる・・・。
それに、ユウトのヤツ・・・」
そう言いかけたヴァンはスタークへと視線を向けると、
虎恫に背負われながら口を開いた。
「・・・足音が全くしなかったメル」
そうスタークが言った途端、
南雲と虎恫の足が『ピタリ』と止まり振り返った。
そしてこちらを見ている悠斗を見た南雲は『ゴクリ』と喉を鳴らした。
「・・・け、気配がせん・・・の?」
南雲の言葉に皆が『あぁ・・・』と答えると、
そのまま元の場所へと戻って行った・・・。
悠斗はみんなが離れた事を確認すると、
待たせている卑弥呼へと振り返り、
悠斗は少し目を細めながら言った・・・。
「なぁ、卑弥呼?
鬼の気・・・さっきよりも弱くなってるぞ?」
そう言った悠斗に卑弥呼は目を伏せながら、
『何でわかんだよ?』と苦笑すると、悠斗を見据えながら答えた。
「まぁ~元々この奥義は短期決戦用なのさ。
だから時間が経過する度に力は落ちて行く・・・」
「・・・でも、確か鬼の気の補充は出来る的な事言ってなかったか?」
「あぁ・・・。まぁ~そうなんだが?
でも、いいのか?」
『何が?』と首を傾げた悠斗に卑弥呼は『はぁ?』と声を挙げた。
「い、いや・・・さっきの続きだぞ?」
「・・・だから何?」
『はぁ?』と、唖然した卑弥呼に外野から声が挙がった。
「そいつはそう言うヤツだぞ~?」
「ユウトは細かい事を気にしないメル~♪」
そんな声が外野から聞こえて来たのだか、
卑弥呼はイザナミの資料に書かれていた事を思い出した・・・。
(あぁ~、そう言えば・・・。
悠斗きゅんって確か・・・天然って?)
そう書かれていた事を思い出した卑弥呼は『フフっ』と笑ってしまい、
それを見ていた悠斗は『何故かはわからないけど、腹立つな?』と言った。
『すまん、すまん』と言いながら悠斗に近付くと、
両腕を腰に当て、目を『ギラギラ』させながら口を開いた。
「事のついでだ・・・。
悠斗も『鬼術や鬼道』について興味あるらしいしな?
だからまた説明してやんよ?
でだ・・・。その後、ガチでやりあおうぜ♪」
悠斗は一瞬考えたが、折角の申し出だと言う事もあり、
素直に『わかった』と答えた。
卑弥呼は見ている者達に手を軽く振りながら説明すると、
一同が『あ、ありえね~』と口々に言っていた・・・。
悠斗と卑弥呼はそのままその場に座り込むと説明した。
「私の奥義『一徹繚乱と鬼華繚乱』の説明はしたよな?」
「あぁ・・・まぁ、戦いの最中だったけど、理解は出来たよ」
悠斗は薄く笑いながらそう言うと、
苦笑しながら卑弥呼は続けた・・・。
「その奥義は私の身体能力だけに特化した奥義なのさ」
「・・・身体能力に特化した奥義?
って・・・すごっ!?」
「あははは・・・まぁ、褒めてもらって悪いが、
何もやらんぞ?」
『あはは』と乾いた笑いを見せた悠斗に卑弥呼もまた笑うと続けた。
「本当の鬼道ってのはな?
私の腹の中にある鬼の小指で創られた『鬼の勾玉』が核となり、
そこから溢れ出る鬼の気を行使するのが鬼道なのさ」
『なるほど』と興味深く聞く悠斗に頷きながら、
卑弥呼は『でもな?』と続けた・・・。
「確かに身体能力特化の『鬼華繚乱』の猛攻は凄まじい。
それはお前も受けて分かったはずだな?』
『コクリ』
「うむ・・・。
だがな悠斗・・・。
総合力という面に関して言うと、
『鬼華繚乱』は『鬼纏い』よりも数段落ちる」
「・・・鬼纏い?」
「あぁ・・・。
鬼道と丸薬を利用し、必要以上の鬼の気・・・。
いや、勾玉に宿る鬼の気を一気に爆発させる技が在るのさ」
『一気に?でもそれって?』と・・・。
悠斗は怪訝な表情を見せると卑弥呼も大きく頷いた。
「あぁ、お前が思っている通りだ・・・。
所謂『ドーピング』に近くはある。
だがそれは一旦置いておくとしてだな?
それを一度使用すると数日は動けなくなるからな~」
そう苦笑しながら卑弥呼は『冥界眼』との戦闘を思い出していると、
悠斗は再び目を細めながら『最近使ったんだな?』とそう言った。
一瞬、悠斗の言葉に驚いた表情を見せたものの、
『あぁ・・・』と答え、続けた・・・。
「それにお前は格闘戦での勝負をしたいように見えたものでな?」
「あぁ~、それで使わなかったのか?
それともまだ、何かしらの理由で使えなかったのか?
って、ところかな?」
『フフっ』と笑った卑弥呼は内心『あざといな?』と、
悠斗の観察力に驚いていた。
「まぁ~、そんなところだ・・・。
だがまぁ、悠斗が格闘戦にしてくれたおかげでな?」
「あははは、だってさ?
俺・・・今、刀持ってないし・・・」
そう言って苦笑している卑弥呼は『刀?』と尋ねた。
「あぁ、俺の居る異世界では『刀』は存在しないんだ」
「・・・ほうほう、興味深いな?
ラノベ的発想をするのなら、東方の国とやらで刀はありそうだが?
お前の居る世界にはないんだな?」
『あははは』と互いに笑うと悠斗は言った。
『現実はラノベより奇なり・・・ってね?』
『あははは』と、再び笑いあった時、
悠斗は卑弥呼に言った・・・。
「卑弥呼、そろそろ鬼の気を補充したらどうなんだ?」
『ん?』と悠斗の声に首を傾げると、
悠斗は親指を背後に向けながら『お待ちかねのようだしね?』と言い、
肩を竦めたのだった。
「フっ・・・そうだな?」
そして悠斗は立ち上がりながら『やりますか~?』と声を挙げると、
卑弥呼も立ち上がりながら『あぁ、やるぞ』と言って、
左足の太ももの『虎のタトゥー』を見た瞬間、驚いた顔を見せた。
「ちょ、ちょっと・・・待て?」
「ん?」
卑弥呼の声に悠斗が振り返ると、唖然とした顔を見せていた。
悠斗は視線のみを下げ裾をめくって、
『虎のタトゥー』が露出しているのを見ると、
『あぁ~』と、別に何でもないような声を挙げた。
悠斗の反応に『やはりお前が?』と声を挙げると、
悠斗は歩き始めながら手をヒラヒラとさせ、
『気にしなくていいから』と言ってそのまま歩いて行った。
悠斗の素振りに『はははっ!』と笑みを浮かべた卑弥呼は、
頭を数回振って背中を見せるとそのまま歩き始めた。
(私の『虎のタトゥー』は以前、『冥界眼』との戦いで、
負傷し完全には治癒出来なかったんだがな?)
そう思いながら歩いて居る卑弥呼の表情は真顔になっていた。
そして互いに振り向き呼吸を整えるのと同時に、
卑弥呼は左足の太ももの『虎のタトゥー』の内側にある、
『赤い般若のタトゥー』に触れた・・・。
『バシュっ!』
『赤い般若のタトゥー』に触れた瞬間、
真っ赤な鬼の気がタトゥーから吹き出し、
それを吸い込み取り込んだ卑弥呼は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「・・・悠斗、待たせたな?」
「俺も5分ほど待たせたからね?
貸し借り無しって事でいいんじゃね?」
「フっ・・・そうだな?」
そう言い終えた2人は静かに構えると、
卑弥呼は『鬼華繚乱』の前段階である『一徹繚乱』を発動した。
『シュゥゥゥゥっ!』と・・・。
卑弥呼の身体から濃度の高い鬼の気が吹きだすと、
悠斗もまた双眼を閉じた・・・。
~ 悠斗の精神世界・紅の門の前 ~
悠斗は眼前にある『紅の門』を見上げると、
『穂高』を探した・・・。
だが、穂高の姿は無く周囲を見渡していた時、
ふと、地面に何かが書かれている事に気付いた。
「・・・これは?」
悠斗は鬼の気を軽く放出させると、
赤い霧は鬼の気と反応して霧散し、地面に書かれていたモノが見えた。
それは穂高が最後に悠斗へ残したメッセージだった。
『悠斗へ・・・。
この門は別名『不死鳥の門』と言って、
浄化の力が使えるらしいわ・・・。
それと私はもういないけど、
『不死鳥の門』の傍で『赤い華』として悠斗を見守っているから。
じゃ、さようなら、悠斗。
ずっと愛してるわ。
穂高』
悠斗はその日本語で書かれた文字を見て涙を流しながら、
『相変わらず、字が汚いね?』と呟いた。
文字としてはこのメッセージが穂高である事には違いないが、
でも・・・その声は思い出せなかったのだった。
『声が思い出せないってさ、
こんなにも辛い事だったんだな?
なぁ、穂高・・・。
俺も愛してるよ』
悠斗は穂高からのメッセージを消す事無く、
不死鳥の門の前に行くと、傍で咲く一輪の『赤い華』に目が止まり。
『・・・行って来るよ。穂高』
そう言って、悠斗は『不死鳥の門』を開けたのだった・・・。
~ 冥界・闘技場内 ~
双眼を開けた悠斗は目の前で鬼の気を放出させる卑弥呼を見て、
『ふぅ~』っと息を吐くと『さぁ、いこうか?』と薄く笑みを浮かべた。
そして互いが『はぁぁぁっ!』と気合いと共に駆け出した瞬間、
卑弥呼の耳に再び『キィィィンっ!』という、
金属音のような澄んだ音が聞こえた。
(や、やはりあの時に聞こえた音だ)
そう考えながらも卑弥呼は駆け出し、
悠斗とぶつかると互いに攻撃を始めた。
『シュっ!シュバっ!ヒュンっ!』
互いの攻撃が空を切り、互いに一度も攻撃が当たる事はなかった。
悠斗は一旦距離を置こうと後ろにバックステップした瞬間、
卑弥呼は口角を上げその瞳を真紅に染めながら吠えた。
『行くぞっ!鬼華繚乱っ!』
前段階である『一徹繚乱』を終え『鬼華繚乱』を発動させた卑弥呼は、
悠斗に猛攻を仕掛けた。
『ドドドドドドドドドドっ!』と・・・。
再びガトリングガンのような音を響かせ攻撃した卑弥呼だったが、
悠斗の左腕1本だけで全て弾かれていたのだった。
「くっ!この程度ではどうにもならんなっ!?
・・・ならばっ!」
卑弥呼は拳だけではなく蹴りをも使い、
縦横無尽な攻撃へと変化させた。
『ドドドっ!ブォンっ!ヒュンっ!シュバっ!』
卑弥呼の攻撃に悠斗は左腕で弾き返しながら、
全ての攻撃を紙一重で躱して見せていたのだった。
そして悠斗が無意識に『フっ』と笑った瞬間、
卑弥呼の真紅の双眼が見開かれ声を挙げた。
『鬼華繚乱・烈火っ!
これが私のとっておきだぁぁぁっ!』
卑弥呼は更に高濃度の真っ赤な鬼の気を放出させ、
そして身体に纏わせながら攻撃を始めた・・・。
「くっ!?こ、これは流石に・・・」
縦横無尽に卑弥呼の攻撃が襲い掛かる状況に、
悠斗も紙一重で捌き弾き・・・そして躱すものの、
卑弥呼の攻撃の回転速度は徐々に増していったのだった。
悠斗はたまらず一度大きく後方へと跳び距離を取ると、
軽く息を吐きながら『じゃ~、俺も・・・』と言った・・・。
「今、なんと?」
悠斗の呟きに卑弥呼は怪訝な表情へと変えた瞬間、
『ズワっ!』と・・・。
つい今の今まで悠斗は卑弥呼から10メートル近く離れていたはずだが、
ほんの僅か・・・刹那の瞬間に悠斗は卑弥呼の懐へと入っていた。
『なっ!?』と、声を挙げるのが精一杯だった卑弥呼は、
慌てて胸の前で腕をクロスさせると、防御の態勢を取った。
(このまま凌げば・・・)
そう思ったのも束の間・・・。
突然背後から『ドーンっ!』と強い衝撃が卑弥呼を襲い、
気が付いた時には既に卑弥呼は上空へと舞っていた。
(い、一体何が?)
思考が追い付かず状況が理解出来ないでいた時、
腹部に激痛が走り、自分が蹴り上げられた事を悟った。
(こ、このままではっ!?)
卑弥呼は上空を舞いながらも身体を捻り、
胸の前で印を組むと声を挙げた。
『我は今っ!ここで限界を超えるっ!
行くぞぉぉぉっ!
鬼華繚乱・烈火の螺旋っ!』
『はぁぁぁっ!』と鬼の気を放出させながら、
右脚の太ももの内側にある『青い般若のタトゥー』に触れると、
消耗した鬼の気が放出され、再び卑弥呼は鬼の気を補充した。
悠斗は上空に舞う卑弥呼を見て、
『何かしてくるな?』と察知し、そのまま地上で待機していたのだった。
そして卑弥呼の『烈火の焔』と言う声と、
その吹き出し吸収した鬼の気を見た悠斗は『ニヤり』と笑みを浮かべた。
「そう来るのなら・・・」
悠斗は後方へと跳び着地すると、
『コオォォォォォォっ!』と呼吸音を変え、
着地した卑弥呼が向かって来るのと同時に腰を深く落し、
左足に体重を乗せながら右腕を引き絞った・・・。
そして顔を上げた途端・・・。
『ボっ!』と悠斗の身体から鬼の気ではなく、
鮮やかな赤・・・。
つまり『緋色の力』が吹き出し、その瞳もまた高濃度の緋色へと変わった。
周囲で見守る者達は、その戦いに固唾を飲んでいたが、
突如、卑弥呼が限界を超えるであろう技に対し、
悠斗もまた得体の知れない雰囲気を纏っていた事に、
一同は何も言葉が出なかったのだった。
『悠斗っ!うぬが何をしようともっ!
この一撃に全てを賭けるっ!
最期に立っているのは・・・我だっ!』
拳を引き絞った態勢のまま微動駄にしない悠斗に違和感を感じた卑弥呼だったが、
何も考えず『己を信じるっ!』と何の躊躇いなく、
引き絞られた右拳を放つと同時に捻りながら放った。
『ボっ!』と卑弥呼の拳に全ての鬼の気が宿り、
『ゴォォォっ!』と爆音を轟かせていた。
『烈火の螺旋っ!』
そして直撃した・・・。
と、思われた瞬間だった・・・。
何故か眼前から消えた悠斗に混乱していると、
突然『キィィィィンっ!』と言う音と共に、
『ボっ!』と卑弥呼自身が燃えている事に気付いた・・・。
そして『ブワっ!』と遅れて凄まじい風圧が襲いかかった瞬間・・・。
『ピィヤァァァァァっ!』と・・・。
鮮やかな赤い光りが卑弥呼を包み、
鳥の嘶きと共にやって来たのだった・・・。
『ドゴっ!』
『ぐはっ!』
鳥の嘶きの後・・・。
卑弥呼の身体の中を何かが突き抜けた感覚に捕らわれ、
気が付いた時には卑弥呼は膝を折り地面に膝を着いていた・・・。
『がはっ!ごほっごほっ!』
(い、今の・・・は一体?
ゆ、悠斗の姿がよー私の拳が当たる刹那に消え、
その後、凄まじい風圧と赤い光り共に鳥の嘶きが聞こえ・・・
い、いや・・・まだ音が?
ざ、残響・・・だとでも言うのか?)
卑弥呼は片膝を着いたものの、意識は切れておらず、
背後に居るであろう悠斗に振り向くと、
何故か悠斗の周りには赤い鳥の羽根が幾つも舞っていたのだった。
「なっ、何だ?」
そう呟き瞬きをした瞬間、
悠斗の周りに舞っていた赤い鳥の羽根は消え失せ、
『シーン』とした静けさが闘技場内を支配していたのだった・・・。
悠斗は微笑みながら半身になり構えると、
卑弥呼だけが聞き取れるように言った・・・。
「その傷を治すから動くなよ?」
「っ!?」
卑弥呼は悠斗の言っている意味がわからなかった。
(傷を治すと言う割にどうして拳を構える?
一体どういう事なんだ?)
悠斗の言葉と高度の落差に卑弥呼は困惑していると、
悠斗は拳に『緋色の力』を纏わせると、
何の躊躇いもなく放った。
卑弥呼は咄嗟に身体を捻り拳を躱そうとしたが、
ダメージが残るその身体では到底無理な話だった・・・。
『くっ!』と歯を食い縛り衝撃に備えよとした時だった・・・。
突然卑弥呼の身体が『ボっ!』と火が着くと、
慌てて地面を転がり始めた卑弥呼に悠斗は言った。
「動くなよ卑弥呼?
今、傷を治しているんだからさ?
それに・・・別に熱くも何ともないだろ?」
「えっ?」
卑弥呼は悠斗の言葉に転がるのを止めると、
正座の状態になりながら自分の両手を眺めていた・・・。
「こ、これはっ!?
ゆ、悠斗っ!これは一体っ!?」
訝し気にそう尋ねる卑弥呼に悠斗は肩を竦めながら言った。
「いや~・・・実はまだよくわかってないんだよね?
でも、さっき卑弥呼の怪我を見た時、
何故だかこうすれば治るって思ったからさ~?
だから今度もきっと・・・ってさ?」
そう言って笑う悠斗の笑顔に卑弥呼はほっと胸を撫で下ろしたのだった。
卑弥呼の身体から『緋色の炎』が消失したと同時に、
立ち上がると自分の身体を確認した。
「・・・な、治ってるっ!?
ま、まじかぁぁぁっ!?」
卑弥呼がよくわからない事象に目を奪われている間に、
いつもの癖で頬をポリポリと掻いていた時、
悠斗は『はっ!』としつつも笑みを浮かべていた。
(はははっ・・・早くこの力に慣れないとな?
まさか卑弥呼の一撃がほんのわずかに届いていたとは・・・)
悠斗は左手の指先に緋色の力を纏わせると、
卑弥呼に向って歩きつつそっと指で傷口をなぞった・・・。
『スゥ~』っと・・・。
緋色の炎が悠斗の指の後をついて行くように燃えると、
その傷は跡形もなく消え去ったのだった。
その後・・・。
悠斗と卑弥呼は固い握手をするとお互いの健闘を讃えていると、
この戦いを見守っていた者達が2人の周りに集まった。
ワイワイと騒ぐ中、
虎恫が卑弥呼に声を掛けた。
「しかし卑弥呼様・・・。
お噂は我々鬼の間でも聞き及んでおりますよ?」
虎恫の言葉に『ほう~』っと目をギラつかせた卑弥呼に、
虎恫は余計な一言を口走ってしまったのだった・・・。
「何でも鬼道使いの卑弥呼様は剣術もお得意だとか?
その速き剣捌きは一目置かれているとか聞き及んでおります」
そう誉められて嬉しくない者などこの世にはいない・・・。
卑弥呼はご満悦な表情をして、
『まぁ~、私も一応名の知れた者だからな?』と笑って見せると、
虎恫は続けてこう言った・・・。
「ですが、卑弥呼様?
悠斗のヤツは刀を持った時の方が本来の姿なのですよ?」
その時だった・・・。
この場の雰囲気が一瞬にして『ピシっ!』と音を立てると、
今まで騒いでいた連中までもが押し黙ったのだった。
そして卑弥呼は表情をヒクヒクとせながら虎恫に言った。
「・・・つまりはアレか?
刀を持った時が本来の姿であって・・・
素手でただ殴り合った悠斗は・・・そうたいして強くないと?」
「はっはっはっ!
いやいや、卑弥呼様・・・そんな事はありませんよ?
素手の悠斗も化け物級ですからね♪」
何故かそう言った虎恫は胡麻悦になると、
卑弥呼は盛大に顔を引き攣らせながら悠斗へと振り向いた。
「・・・げっ」
思わず悠斗がそう声をもらした瞬間だった・・・。
卑弥呼は花魁衣装の左の肩口にある『黄色い蝶のタトゥー』に触れると、
そこからは一振りの刀が出て来たのだった。
そしてそれを『ポイっ』と投げると、
悠斗は人ごみの中、ソレを受け取った・・・。
そしていつもの癖で『くるり』と回ると『カチンっ!』と、
金属音が聞こえ、その音に卑弥呼は再び盛大に顔を引き攣らせながら言った。
「悠斗・・・」
「な、何?」
「勝負だぁぁぁっ!」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
再び卑弥呼と戦う事になった悠斗は渋い表情をしており、
周りにいた連中も同様だったが、
1人・・・只1人・・・虎恫だけは空気が読めておらず、
卑弥呼と悠斗の対決に胸を膨らませていたのだった・・・。
ってな事で・・・。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
楽しんでいただければと思います。
次回は卑弥呼と悠斗の続きとなりますが・・・
でも、後半は・・・と、言うは小名氏になるかと思います。
ってなことで、緋色火花でした。




