278話 遺言と共鳴
お疲れ様です・
腱鞘炎が爆発しそうな緋色で御座います。
さて今回は大きな戦いに結着が着くお話となります。
それでは、278話をお楽しみ下さい。
『ぜぇ、ぜぇぜぇ・・・』
悠斗とヴァンの口論から10分ほど過ぎた頃・・・。
離れて見ていたスターク達が2人の様子に溜息を吐き、
悠斗達の元へと歩き始めようとした時だった・・・。
『うぅぅっ・・・』っと薄目を開け口論する悠斗達を見て、
目を覚ましたニビルが恨めしそうに言った・・・。
「か、下等な者共・・・如きに・・・」
掠れた声ではあったが、その声は悠斗とヴァンに届き、
視線を向けた時、ヴァンは睨みを利かせながら怒りの形相を見せた。
「下等・・・如き・・・だぁ~?
貴様~・・・今のざま~ね~状態を理解していて言ってのか~?」
クレーターの中心で横たわるニビルに上から見下ろしそう告げると、
ニビルはボロボロになりながらも『フッ』と笑って見せた。
悠斗はニビルの仕草に『ん?』と違和感を感じたが、
ヴァンは気付かず、ニビルの態度に腹を立てていた。
「散々ボロクソに言ってくれたよな~?
この落とし前・・・どう着けんだよ、あぁん?」
ヴァンがブチギレそう声を荒げた瞬間だった・・・。
『クククっ』と小さく笑って見せたニビルは、
ヴァンの一瞬の隙きを付き伸びた爪を射出したのだった。
『バシュっ!』
「ヴァンっ!?」
「っ!?」
ニビルの奥の手とも取れるその攻撃に反応したのは悠斗だけであって、
ヴァンはただ驚きの表情を浮かべるだけだったのだ。
そしてヴァンに直撃する刹那の瞬間、
炎を纏わせた悠斗の手が、ニビルの奥の手を阻止したのだった。
「クっ・・・クッソォォォォォっ!」
射出した爪を掴んだ悠斗は眉間に皺を寄せながら言った。
「・・・どうして無駄な事をするんだ?
折角助けた命を無駄にすんなよっ!」
悠斗の言葉にニビルの顔が引き攣り、
『はぁ?』と声を漏らすと、
その鋭い眼光を悠斗へと向けた・・・。
「・・・助けた・・・だと?」
怒りから来る声なのだろう。
怨みをもったその眼光に悠斗も少し驚いていた。
「・・・この下等なる人族が、
いつまでも調子に乗ってんじゃねーぞ?」
そう言い放ちながら全身に力を入れ、
ガクガクと揺れながらも必死に立ち上がろうとした。
そんなニビルに睨みを利かせながら、
今度はヴァンが口を開いた・・・。
「ユウトが貴様に撃ち込んだあの一撃は、
俺からはどう見たって、あからさまに手加減した一撃だ」
「なっ・・・なんだ・・・と?」
中腰状態で身体をガクガクと揺らせながらその動きを止めると、
その表情に再び怒りが色濃く増した。
「て、手加減・・・だと?
あれが限界の一撃ではなく・・・手加減だとっ!?」
そう怒声を発するニビルに、
ヴァンは『あぁ』と言いながら笑みを見せた。
「ふざける・・・な・・・。
ふざけるんじゃねーぞぉぉぉっ!
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
『ドンっ!』とニビルが怒りの咆哮を挙げた瞬間、
ニビルを中心にヴァンパイアの神力が円形状に広がり、
その衝撃波が悠斗とヴァンに襲いかかった・・・。
『クっ!』と余りの圧力に顏を顰めた悠斗とヴァン。
だがニビルから放たれたその神力は長くは続かず、
『ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・』と息が上がってしまった。
その隙きをつきヴァンが『うおぉぉぉっ!』と咆哮しながらっ込んだ瞬間、
悠斗は『なっ!?』と声を挙げると大声を張り上げた。
「ヴァァァンっ!やめろぉぉぉぉっ!」
そんな悠斗の叫びにも、怒り心頭なヴァンには届かず、
『これで貴様も終わりだぁぁぁっ!』と咆哮した。
そして冥界の神力が凝縮されたヴァンの拳がニビルの胸板に直撃する寸前、
覚悟を決め諦めたニビルの身体を何者かが突き飛ばした。
「き、貴様っ!?」
ヴァンが悔し気にそう声を発するも、
一度放たれた凄まじいパワーを纏うその拳は止められない・・・。
『うおぉぉぉっ!』と先程とは違う声を挙げた瞬間、
『グボっ!』と・・・。
ヴァンの拳が何かを貫いたのだった・・・。
「グホッ・・・ゴホッゴホっ・・・」
「あ、あに・・・兄貴・・・?
ど、どうして・・・?どうしてこんな事をーっ!?」
『ゴホッッ!』
ヴァンの拳から紫色の血液が『ポタポタ』と滴り落ち、
血液の匂いと感触を感じたヴァンは、
拳を突き刺したまま顔を伏せ『チっ!』と悔し気な表情を見せていた。
『ゴホっ!ゴホっゴホっ!』
『ビシャっ!』と大量に吐血したエビルの血液が、
ヴァンの胸板に吹きかけられた・・・。
「あ、兄貴・・・う、嘘だよな~?
兄貴が・・・兄貴とあろう男が・・・お、俺の身代りなんて・・・」
立ち上がる事も出来ず這いつくばってエビルの元へと這いずるニビルに、
ぎこちなく顔を向けたエビルはその口元を紫色に染めながら、
『フフフっ』と笑って見せたのだった・・・。
「ニ、ニビ・・・ルよ・・・。
お、お前・・・は・・・で、出来の悪い・・・弟では・・・ない。
た、ただ・・・や、やり・・・方を、間違・・・えただけなの・・・だ」
「あ、兄貴ーっ!?
な、何言ってんだよっ!?
意味わかんねーよっ!?」
兄であるエビルの声が静けさの中響き、
またその掠れながらも発するそのエビルの声には、
暖かさに似たモノが込められている事を、
この戦いを見守っていた者達にも理解出来たのだった。
その光景に南雲は目を伏せながら、
『これが戦と言うモノじゃ・・・』
その言葉の意味を理解したスタークと虎恫は悔しさを滲ませ、
ゆっくりと顔を背けたのだった・・・。
『ゴホっ!』
一段と大きく咳き込んだエビルの口から再び大量の血液が吐かれると、
ヴァンは顏を背けながら、エビルの身体を貫いていたその拳を抜いた。
『ズルっ・・・ドサっ!』
拳を引き抜かれたエビルの身体は、
まるで糸が切れたマリオネットのように崩れ落ち、
『兄貴ーっ!』と・・・。
悲痛な叫びをあげたニビルは藻掻くように這って行った。
「兄貴・・・?なぁ、あ、兄貴?
お、俺は今まで・・・」
ニビルは心の中にあるモノを全て吐き出そうとしたが、
上手く口が回らずただ、『兄貴』と呼ぶ事しかできなかった。
だがエビルはそんな弟であるニビルに微笑むと、
震えるその手で這いつくばるニビルの頭に手を置いたのだった。
そして『クシャクシャッ』と頭を撫でると、
『フっ』と微笑んで見せ、もうほとんど聞き取れないその声で言った。
『・・・つ、強く・・・なれ・・・ニビル。
お、お嬢様を守るのは・・・お、お前なの・・・だから・・・』
『兄貴ぃぃぃっ!』
ニビルの絶叫が今のエビルに届いたかどうかはわからない。
だが、兄で在るエビルの『遺言』とも取れる言葉を聞いたニビルは、
掠れ小声ながらも呻くように『わ、わかったよ・・・兄貴』と、
兄の遺言に応えるかのように、そう口にしたのだった・・・。
『うっ、うぅぅぅ』
声を殺し呻くように泣くニビルを見ていたヴァンは、
バツが悪そうに『チっ!』と舌打ちすると、
傍に寄って来た悠斗がそんなヴァンの肩にそっと触れたのだった。
そして小さく頭を横に振ると、
どうしようもないもどかしさによって全身に力が入っていたヴァンは、
『ふぅ~』っと溜息と一緒に力を抜いたのだった。
すると悠斗達の背後で成り行きを見守っていたライトニングが口を開いた。
「ヴァン・・・。
戦いとは常に互いの同意の元にやり合う訳ではありません。
故に・・・。こういう結果に成り得る事も当然あるのです。
ヴァン・・・学びなさい。
私の・・・いえ『破壊神』の名を継ぎたいのであれば、
もっと多くの事を学ぶのです」
ライトニングの言葉がヴァンの奥底に染みて行った。
「・・・わかったよ」
俯きそう呟いたヴァンに、
悠斗とライトニングが顏を合わせ口元を緩やかにしていたのだった。
皆がこの戦いの結末を見守り、
全ての決着が着いたと思われた瞬間だった・・・。
突然『うわぁぁぁっ!』と絶叫し始めたニビルが、
その腕の中に抱かれている兄の・・・
エビルの首筋に『ガブり』と嚙みついたのだった。
『おっ、お前っ!?」
ニビルの突然の行動に驚いたヴァンが声を挙げると、
ライトニングその背後から『いけませんっ!』と声を挙げ、
すぐさまエビルからニビルを引き剥がそうとした。
ライトニングの行動に悠斗は察すると駆け出し、
2人で必死に引き剥がそうとするのだが、
途轍もないニビルの力に、2人は驚きが隠せなかった。
(な、何と言う・・・ち、力なのですかっ!?
わ、私とユウト様2人がかりであるにも関わらず、
引き剥がせない・・・とはっ!?)
(こ、こいつ・・・ま、まだこんな力を残してっ!?)
『は、離れるんだぁぁぁっ!』
悠斗の身体は今、女性ではあるものの亜神である。
その亜神の力を以てしても引き剥がせないその力に違和感を感じた。
すると突然『ブワァっ!』とヴァンパイア独特の赤い神力が放たれ、
その放出力に悠斗とライトニングは一旦後方に離脱した。
『こ、この異常な程までの力は何ですっ!?
いくら深淵の者と言ってもこれほどの力は・・・?』
険しい表情のライトニングの声に、
悠斗は感じていた違和感を口にした・・・。
「ライトニングさん?
前に聖域でラウルに見せてもらった書物に、
これに似たような事が書いてあったんですけど?」
『グゥォォォォォっ!』と眼前で未だに力を放出する姿を見ながら、
ライトニングは悠斗の話を続けるよう促した。
「ユウト様?・・・その書物には一体何が?」
その声に悠斗は頷くと、視線をニビルに向けたまま続けた。
「その書物にはヴァンパイアの特性のような話が書いてあって、
依存・・・だったか『生存共鳴』だったか?
確かそんな事が・・・」
悠斗の話を聞いたライトニングは双眼を『カっ!』と見開き、
『せ、生存共鳴・・・な、なるほど・・・』と納得したようだった。
悠斗はライトニングの表情の変わりようを見て、
確信へと変わった瞬間、『説明してくれっ!』と頼んだ。
すると少し考えるような素振りをしたライトニングは、
視線をニビルへと向けると、
『もし、その生存共鳴であるとするのなら・・・』と呟くと、
『分かりました』と言って、
ヴァンは未だ状況を飲み込めないまま説明を始めた。
「生存共鳴・・・恐らくユウト様が読まれたその書物・・・。
神界の宝物庫にある代物なはず・・・」
そう説明を始めたライトニングの言葉に、
悠斗は『神界の宝物庫?ま、まじか、あいつ・・・』と顔を顰めた。
そんな悠斗を気にする事も無く、
ライトニングはニビルを見ながら話を続けた・・・。
「ヴァンパイア特有・・・。
でもそれは未だ確証された事象で御座いません。
神の鑑定を以てしても、未確認なのです」
「神の鑑定で未確認?
そんな事が・・・」
「はい、それほどレアな事象なのですが、
私が聞いた話ですと、ヴァンパイアとは元々繁殖率がとても低く、
また、その行為自体も余り積極的でないとか・・・」
「・・・・・」
「自らの血液を与え下僕としてしまえば、
繁殖自体・・・無意味であると考えている者もいるでしょうしね」
そうある程度基礎知識として話したライトニングは、
厳しい表情へと変わると本題となる話をし始めた。
「生存共鳴・・・。
それはどんな個体同士でもという訳ではなく、
あくまで血統・・・。
その血統が近ければ近いほど、力を受け継ぐ確率が増し、
また、片方の能力までも引き継がれる・・・
その力を定着させるのにそれなりの時間は必要されると聞きますが、
それが本当かどうかは未だ誰も証明されておりません」
そう説明したライトニングにな悠斗は質問した。
「・・・血統が重要だという事はわったけど、
それが例え『死体』であっても・・・?」
「ほほう~・・・ユウト様、素晴らしい質問で御座います。
正解を先に答えるのなら、ユウト様のおっしゃる通りで御座います。
新鮮な死体・・・であれば、可能であるようです。
ですが先程申しましたように、
それを目撃、または実証した者はおりませんので、
推測の域を出ませんのでご容赦を・・・」
説明を終えたライトニングに悠斗は礼を述べると、
未だ力を放出するニビルへと視線を向けた。
すると『バシュッッッっ!』と、
ヴァンパイアの赤い神力が弾けると、ニビルは不気味に笑い始めた。
『グアッハッハッハッハァァァっ!』
突然の笑い声に皆が警戒すると、
ニビルはヴァンを睨み口を開いた・・・。
「・・・結果的にエビルを・・・兄を殺したのは貴様だが、
所詮は冥界の者・・・。
深淵たる民は貴様に慈悲を以て許そうではないか?」
そのニビルの物言いにヴァンは『はぁ?』と睨み返すと、
ニビルの視線は亜神の力で女性化している悠斗へと向けられた。
「俺が許せないのは・・・貴様だっ!
この下賤なる人族風情がっ!
よくも高貴なる深淵のヴァンパイアに血を流させたなぁぁっ!?
俺の血統に・・・そして俺の兄に誓い・・・
貴様だけは・・・人族のユウトなる者をっ!
断じて許す事はできんのだっ!」
『ビシっ!』と悠斗に向かって指を差し示したニビルに、
悠斗は肩を竦めると口角を上げながらこう言った。
「・・・あっそ。だから何?」
「何だとっ!?」
「正直さ・・・。お前がどこの誰であれ・・・
俺の仲間達を傷付けた事を許す気は・・・ない」
そう悠斗が宣言した瞬間、
ニビルに向かって『赤い波動』が飛び、
その力を受けたニビルの顔が、突然何故か焼けただれたのだった。
その事象に皆が『何だあれは?』と驚く中、
力の定着を果たしていないニビルは『クソがっ!』と吠えると、
背中から蝙蝠の羽を広げ飛び去ろうとした・・・。
「貴様は必ず俺の手で・・・」
そう言い残して飛び立とうとした瞬間、
悠斗は何かの力を感じ上空を見上げると、
そこには見慣れた女性の姿があった・・・。
「・・・遅いよ」
そう呟く悠斗を知らず、
羽を羽ばたかせ浮いた瞬間、突然ニビルの目の前に何かが舞い下りた。
『なっ!?』とニビルが声を出した瞬間と同時に、
ニビルの顔を何者かが掴み締めあげ始めた。
「グゥゥっ・・・グアァァァァァァァっ!」
激しい痛みに膝を折ったニビルは、
顔面を掴むその手首を握り締め、必死に引き剥がそうとしたが、
『は、外れ・・・ない・・・い、一体何者・・・だっ!』
そう呻いた瞬間、再び顔面を掴むその手に力が込められ、
離れていた悠斗達にも『メキメキ』と言う骨の軋む音が聞こえたのだった。
『はっ、離せぇぇぇっ!』とニビルが吠えると、
顔面を掴む腕が『グっ』と閉まり、その腕は上へと挙げられた。
やがてその腕は顔面を掴む者の眼前に開けられた。
『きっ、貴様は・・・ま、まさか・・・』
ニビルの言葉が終わらぬうちに、
その者は『チラっ』と悠斗達を覗き込んだ・・・。
「・・・よお、お前達~。
こんな所で一体何やってんだよ?」
ニビルの顔面を締めながらそう話すと、
悠斗は『はぁ~』っと溜息を吐いた・・・。
「ヴァマント・・・お前は此処に何をしに来たんだよ?」
その声を聞いたヴァマントはその表情を一変させると、
『誰だ?貴様・・・この露出野郎がっ!』と怒りを滲ませた。
ヴァマントに指摘された悠斗は一瞬声を挙げようとしたが、
『モジッ』と身体を捻りながら、『こっち見んなっ!』と声を荒げた。
『このアマァァァっ!』とヴァマントが神力を放出した瞬間、
その隣に瞬間移動したライトニングが肩を掴み、
『ほっほっほっ♪』と笑いながら説明した・・・。
~・・・5分後 ~
説明されたヴァマントは『ほ、本当にあの坊やなのっ!?』と、
余りの衝撃に女性の身体を持つ悠斗をマジマジと見ようとするが、
眼前で未だ唸り声を漏らすその男に苛立ちを募らせていた。
「貴様・・・。一体何者かは知らんが、
その羽とその独特な神力・・・。
そうか・・・貴様は『深淵の者』か?」
そう呟いた途端、『メキィッっ!』と
今まで聞いた事も無いように骨の軋み音が聞こえると、
悠斗に向かってヴァマントは尋ねて来た・・・。
『・・・やっちゃっていいよな?この雑魚』
『・・・・・』
ヴァマントの発言に皆が沈黙する中、
悠斗は一歩前へと出ると葬ろうとするヴァマントへ願い出た。
『悪いんだけどヴァマント?
そいつ・・・このまま行かせてやってくれないか?』
「・・・はぁ?
あんた、自分で何を言っているかわかってる?」
「あぁ・・・勿論分かってる」
「・・・ユウト、勿論その理由を聞かせてもらえるのよね?」
ヴァマントの問いに悠斗は頷くと、
『わかったわ・・・』とそう返答した。
そして沈黙する中・・・。
悠斗は首を傾げると、
こちらを未だにじっと見ているヴァマントに声を掛けた。
「・・・逃がしてくれるんじゃないのか?」
その質問にヴァマントは『チラっ』と視線をニビルとへと向けたが、
『・・・お前の話を聞いてからだ』と言いながら、
ニビルの顔面を掴む手に更に力が込められたのだった。
『ぐぁぁぁぁっ!』
『っ!?』
全く容赦をするつもりもないヴァマントに悠斗は額を押さえたが、
掴んだ手を離すつもりがないと分かる今、
悠斗は溜息を吐きながら説明したのだった・・・。
そしてその結果・・・。
掴んだ手はそのままで、ヴァマントは額を押さえると、
呆れながら声を挙げた。
「こいつの兄の遺言だと思える言葉を受けとったばかりだから・・・?
はぁ?お前・・・本気でそう言ってんのかい?」
「あぁ・・・本気だ」
するとヴァマントは悠斗に向け威圧を込めると、
一瞬悠斗の顔に汗が滲んだ。
「・・・まじ、らしいね?」
コクリと頷いたヴァマントは呆れを通り越し、
何だかとても可笑しい気分になり声を挙げ笑った。
そしてひとしきり笑った後、悠斗を見ながら口を開いた。
「ユウト・・・お前は本当に狂ってるわよ♪」
そう楽し気に話すヴァマントに、
悠斗は『ムっ』としながら『失礼だなっ!』と怒って見せた。
「こいつが何か問題を起こせば、その時は俺を呼んでくれ。
俺が必ず・・・その責任を取るからさ」
「ったく・・・とんだ甘ちゃんだよ、お前は・・・」
「・・・時分でもそう思うよ」
するとヴァマントは掴んでいた手を離すと、
『ドサっ』と落ち、地面に膝を着いたニビルに声を掛けた。
「・・・って言う事だ、雑魚ヴァンパイア。
人族に助けられるなんて・・・ざまぁ~ないね~?
クックックックっ・・・。
もう行きなっ!私の気が変わらないうちにねっ!」
そう怒声を挙げたヴァマントの威圧に屈したニビルは、
再び羽を広げ上空へと舞い上がったのだった。
そして一度下に居る悠斗へと視線を向け、
最後に何か言おうとした時だった・・・。
『かはっ!』と突然崩れ落ち地面に膝を着いた悠斗の姿が、
見る見るうちに元の15歳の少年に戻ったのだった。
その光景を見たニビルは、
『あいつは何なんだ?』と頭の中で呟くと、
背を向け飛び去って行った・・・。
そして兄、エビルが仕えた『主の元』へ急ぎながら、
『確かあのガキ・・・ユウトと言ったな?』と思い出しながら、
ニビルはその姿を消したのだった・・・。
そしてその夜・・・。
今現在、悠斗達は冥界の地に在る、
『温泉宿』に来ていた・・・。
今では冥界の希少種として知られる『堅狼族』を救い、
『深淵の者』を退けたとして、ヴァマントが褒美をくれたのだった。
一頻り騒ぎ、この地の名物だと誉れ高い温泉の湯に浸かり、
一時の至福を味わい、それぞれが就寝した・・・。
『ザァ~、ザァ~』っと・・・。
温泉宿のすぐ傍には釣りが名物の1つでもある、
大きな湖に悠斗は涼みに来ていた・・・。
『冥界の魚の大物ってどれくらいの大きさなんだろ?』
そんなどうでもいい事を口に出した時、
背後から『よう・・・ユウト』と、ヴァンが歩み寄って来た。
暫くお互いに湖を見ながら沈黙していると、
ヴァンが少し言い辛そうに話を切り出して来た・・・。
「ユ、ユウト・・・今日は・・・」
ヴァンが言いにくそうにする姿に、
悠斗は口角を上げながらその意図を察し『破壊者になるんだろ?』と、
静かにそう言った・・・。
その言葉に『あぁ・・・』と答えると、
ヴァンは悠斗に質問した。
「お前はどうしてあんな場面でも毅然としていられるんだ?
お前はあんな場面でも顔色一つ変えなかった・・・。
一体ユウト・・・お前は何を見ているんだよ?
俺は強くならなくちゃならない・・・だからユウト、教えてくれ」
その問いに悠斗は湖を見ながら答えた。
「・・・俺にはやらなきゃいけない事がある。
だからこんな所で死んでなんかいられない。
いつ死んでもいいと思っていたこの俺だけど、
今は岩にかじりついてでも・・・『生』を掴む」
そう応えた悠斗にヴァンは『こいつは一体何を背負って?』
そう感じたヴァンは何か言いたくても悠斗の纏う雰囲気に、
何も言えなかったのだった・・・。
すると悠斗はくるりと踵を返すと、
宿に向かって歩き始め、何も声を発する事が出来なかったヴァンに、
その歩みを止めた悠斗が背中を向けたままこう言った・・・。
『俺は何があろうと前へと進む・・・。
だがその道を進む限り、後悔や反省もする思う。
だけどな、ヴァン・・・。
これは俺が歩む道なんだ・・・。
だから俺がお前に教えられる事は・・・何もないよ』
そう悠斗から告げられたヴァンは、
残念そうに『そうか』と答えると、悠斗は最後にこう言った・・・。
『・・・お前はお前だけの進むべき道を見つけろよ?
それが例え、茨の道だったとしても・・・
ヴァン・・・それがお前の選んだ道だ・・・』
「・・・ユウト」
振り返りもせずそう告げた悠斗はそのまま、
宿へと姿を消したのだった・・・。
そしてヴァンは悠斗のその言葉を噛み締めながら、
その視線を湖へと向けると『・・・あぁ、必ず見つけるよ』と呟き、
湖をただ見つめていたのだった・・・。
ってな事で・・・。
今回のお話はいかがだっでしょう?
ちょっと哀愁を感じさせる最後の場面もありましたが、
楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
ってなことで、緋色火花でした。




