267話 陰・呼吸
お疲れ様です。
緋色火花です。
今現在、忙しさも半分ほど・・・。
でもまぁ~、すぐにまた伊佐が敷くなるんだろうけど・・・。
ってな感じなので、
相手時間に頑張って書いておりますっ!
実際には・・・。
趣味に走るほどの時間は・・・ないっ!
なので・・・orz
ってか、キャンプに行きたい・・・。
それでは、267話をお楽しみ下さい。
ルチアーノとボレアスが仲間達の所へと戻ると、
ボレアスが皆に『聞けーっ!』と声を張り上げた。
その声に静まり返った皆を前に1歩踏み出したルチアーノが皆を見渡し、
鋭い眼光を向けながら口を開いた。
「・・・皆聞けっ!
偵察部隊により標的の居場所は判明したっ!
そして狙いは『カミノ・ユウト』と言う男だがっ!
この男の傍にはじじぃが1人居り、邪魔してくることが予想されるっ!
だからまずっ!そのじじぃを叩くっ!
その後・・・人間を美味しくいただこうじゃないか?♪
お前達っ!『堅狼族』の誇りに掛けてっ!
その命・・・賭けなっ!」
そう気合の入った声を挙げたルチアーノに、
皆が『おおーっ!』と声を張り上げ、狼の姿に変異すると、
ルチアーノの雄叫びと共に、皆も空へと雄叫びを挙げた。
勢いよく山を下る『堅狼族』を見つめる執事は不気味な笑みを浮かべ、
舌舐めずりをしながら呟いた。
『味見・・・くらいは・・・♪』
そう呟くと一瞬にして山頂から姿を消したのだった・・・。
『堅狼族』が駆け出す中、
南雲と悠斗の修練は続いていた・・・。
南雲が投げる石礫を悠斗が避けると言うモノだが、
そう単純な修練ではない・・・。
直線的に進みながらも南雲が投げる石礫を円を描くように避ける。
『ジャリっ!ザァっ!シュっ!』
最初は石礫の大きさも小石程度で投げる速度も遅かった。
だが修練の内容が色濃く増して行くと、
次第の石礫の大きさも、その投げる速度も変化していった。
『ジャリっ!ザァっ!シュっ!ドカっ!』
「ぐふっ!」
一歩前へとその足を踏み出した瞬間、
速度を増した大きな石礫が悠斗の腹に直撃し、
蹲る悠斗に対し無表情で南雲は投げ込んだ・・・。
「ぐはっ!うっ!」
石礫の痛さに片膝を着いた瞬間、
南雲は投擲を止め悠斗に対し厳しい表情を見せた。
「悠斗・・・身体の使い方が全然なっとらんっ!
踏み出し小円で攻撃を躱すだけじゃろっ!
何度同じ事を繰り返すんじゃっ!」
そう叱咤する南雲に可愛い孫への思いは微塵もなかった。
ただそこには『師匠と弟子』が居り、
修練に明け暮れる光景があった・・・。
「くっ・・・。
い、痛て・・・ぇ・・・く、くそっ・・・
まじで・・・キツい・・・」
顔を顰め、まるで愚痴を吐くように声を漏らす悠斗に、
南雲の表情は微塵も動かない・・・。
「・・・やめても良いのじゃよ?」
「・・・っ!?」
静かにそう言った南雲に悠斗は苦悶の表情のまま顏を上げ、
南雲の揺るぎない視線に『チっ!』と舌打ちした。
「・・・や、やめない・・・よ。
な、何の為に・・・お、俺はこんな所に・・・。
俺は・・・あいつに勝ちたいからね・・・
だ、だから・・・じぃーちゃん・・・つ、続けようぜ・・・」
「・・・ふっ」
苦悶に顏を歪めながらもそう言った悠斗に、
南雲の口角が少し上がった・・・。
「うむ・・・続けると言うのならそうするが、
しかしの・・・悠斗や」
「・・・?」
「お主は気付いておるかの?」
南雲の言葉に思い当たる節がない悠斗は首を傾げて見せた。
その様子に南雲は顎を『クイっ』と指し示しながら口を開いた。
「・・・ほら、そこを見てみー」
「・・・ど、どこ?」
「地面じゃよ・・・」
南雲の声に『地面?』と呟きながら視線を向けたが、
何を指し示しているのがわからず再び首を傾げた。
「・・・わからぬとはの?
まぁ、良い・・・悠斗や・・・
己の足跡を見てみー・・・」
「・・・足・・・跡?」
悠斗は南雲が示した自分の足跡を見て見ると、
『あっ』と声を漏らした。
「・・・わかるかの?
お前は無意識で儂が投げる石礫の距離を空け、
躱しやすいようにしておったのじゃ・・・」
「ま、まじか・・・全然気づかなかった・・・」
顏を顰め悔しがる悠斗に南雲は再び口角を上げ、
『まだまだじゃな?』と笑みを浮かべた・・・。
その後・・・。
暫くの間は『陰流』の基礎となる、
踏み込みと小円の体捌きをみっちりと修練し、
悠斗も疲労困憊になった時だった・・・。
「・・・ん?なんじゃ?」
突然険しい表情を見せた南雲に悠斗は『どうしたの?』と尋ねた。
「・・・何者かがこちらに向かって来ておるようじゃ」
「こっちに?」
悠斗の声を聞き終わらないうちに南雲は目を閉じると、
サーチを使いこちらへと向かって来るモノを調べた・・・。
「こ、これは・・・1人・・・じゃない?
なっ!?」
双眼を見開き、その眼光が鋭さを増すと悠斗に告げた。
「悠斗っ!こちらに20体ほどの・・・。
いや、この速さは四足歩行の・・・。
と、言う事は・・・群れでこっちに来よるの・・・」
「・・・に、20頭の群れって事っ!?
じ、じぃーちゃん・・・敵なのかっ!?」
驚く悠斗に南雲は『恐らくの・・・』と返答すると、
これからの展開を予想しながらふと・・・悠斗を見た。
(い、いかんっ!ゆ、悠斗のヤツ・・・
今は『魂』だけの存在じゃ・・・
ま、まずい・・・の・・・)
そう考え焦った南雲は悠斗に声を挙げた。
「悠斗っ!お前は戦ってはならんっ!
良いな?」
「なっ・・・何でだよっ!?
俺も戦うに決まってんだろっ!」
南雲の言葉に苛ついた悠斗がそう声を挙げると、
南雲は『バカもんっ!』と声を荒げた。
「忘れたのか?!
お前は今、擬体ではないのだぞっ!」
「・・・あっ。
い、いや・・・でも・・・」
「向こうの攻撃はお前には当たるが、
お前の攻撃は全て当たらんのだっ!
忘れたのかっ!」
「うぐっ」
南雲の激に顏を顰めた悠斗は『じゃ~どうするんだよっ!』と聞き返すと、
『うむ・・・』と考え込んだ南雲はこう言った・・・。
「お前は今すぐ逃げるか・・・
もしくは・・・隠れておれっ!
邪魔になるっ!」
「じゃ・・・邪魔っ!?この俺がっ!?
そ、そんな・・・そんな馬鹿なの事があるかよっ!
俺に逃げろだってっ?!
ふ、ふざけるなっ!」
そう南雲に怒鳴り返しはするが、
南雲の言った事を理解している悠斗は困惑した表情を見せていた。
(た、確かにじぃーちゃんの言う通りだけど・・・
で、でも・・・20体以上なんだろ?!
このまま1人にできるかってんだよっ!)
そう考えるも『魂だけの存在』である悠斗には何も出来ない・・・。
それを理解した上で他に手はないかと苦悩したのだった。
『ドッドッドッドッドっ!』
まるで地鳴りの如く大地を震わせ駆けて来る『堅狼族達』
先頭を駆ける長であるルチアーノが仲間達に吠えた。
「いいかっ!お前達っ!
このまま一気に雪崩れ込むっ!
隊列を守りっ!陣形を崩すなっ!」
『ワォォォォーンっ!』
ルチアーノの声に仲間達が雄叫びを挙げると、
20頭の狼達が3つに別れ隊列を取りながら駆け抜けて行く。
「と、遠吠えっ!?」
獣の遠吠えに険しい表情を見せた悠斗が声を挙げると、
南雲は『この遠吠えは・・・』とその表情を滲ませ声を挙げた。
「悠斗っ!この遠吠えは『堅狼族』じゃっ!」
「け、堅狼族っ!?
な、何だよ、それっ!?」
そう声を挙げた悠斗だったが、南雲にその声は届かず、
ただ・・・その表情がより一層険しくなったのだった・・・。
(じ、じぃーちゃんのあの表情・・・。
余程の相手って事か?
しかも敵は20頭ほど・・・ど、どうする・・・
どうするんだよ、じぃーちゃん・・・)
己が今、何も出来ない状態に苦悩していた時、
南雲が腕を翳しこの場から離れるよう促した。
「さ、下がれっ!下がるのだっ!悠斗よっ!」
その切羽詰まった声に『チっ!』と悔し気な声を漏らすと、
悠斗は南雲の指示に従い距離を取った・・・。
そんな悠斗の気配を背中で感じながら、
南雲は悠斗へと念話を送った。
{よいか、悠斗よ・・・。
『堅狼族』とはかなり厄介での?
その体毛や皮膚は異常なほどまでに硬く、
通常の剣撃などダメージは通らんのじゃ・・・
しかも・・・じゃ。
魔法耐性90%ときておる・・・}
{・・・ま、まじか?
魔法耐性90%って・・・}
{うむ、それにの・・・}
そう口走った南雲は一瞬その言葉を淀ませるも、
直ぐに話の続きをした。
{・・・あやつらの爪と牙はの、
今のお前にとっては致命傷となりかねんのじゃ・・・}
{・・・致命傷?今の俺にとって?
何だよそれ・・・どう言う意味だよ?}
{うむ・・・。
あやつらの牙と爪は、魂そのものをも殺傷する能力があるのじゃ}
{・・・・・}
{儂がお前に戦うなと言った理由は・・・ソレなのじゃ}
そう説明された悠斗は苦悶の表情を滲ませ、
成す術が己にない事を完全に理解し、再び南雲からの距離を取った。
(くそっ!ぎ、擬体があれば・・・)
そう自分の胸の中で吐き捨てるも、
どうしようもないこの現状に悠斗は苛立ち己を呪った。
そんな時だった・・・。
苦悩する悠斗を無視するかのように、
南雲の『来たぞっ!』と言う声が響き渡った。
南雲は咄嗟にマジックボックスから刀を取り出し、
流れる様な動作で刀を腰に据えた。
そして両目を閉じ『ふぅ~』っと呼吸を整えると、
刀を引き抜き正眼に構えた。
(・・・どこまでヤレるかの?)
迫り来る『堅狼族』を前にそんな思いが脳裏に過ると、
『堅狼族』の遠吠えが響き、それを合図に隊列が分散した。
(・・・な、何をっ!?)
突然隊列の分散を目撃した南雲は半歩後退し、
正眼の構えから刀を肩に担いだ・・・。
南雲から見て三方向に別れた『堅狼族』を感じ、
周辺視野で細かな感覚を研ぎ澄ませて行く・・・。
(さて・・・どこから仕掛けて来るんじゃ?)
南雲は右手で刀を担ぎ、左手に魔力を集中し始めた。
(闇雲に魔法を放っても、
あの統率されたモノ達じゃ・・・
簡単に避けられてしまうの・・・)
そう考えながらも準備は整えたが、
統率が取れ予想もつかない敵の動きに、
南雲の顔に汗が滲み始めた・・・。
南雲を囲みながら三隊の『堅狼族達』が南雲の集中力を削ぐかのように、
グルグルと駆け回って行く・・・。
(くっ!こ、こうも走り回られたのではっ!)
南雲に圧し掛かるプレッシャーが増し、
汗が頬を伝った時だった・・・。
グルグルと駆け回る『堅狼族』の一頭が、
突然『ワオンっ!』と声を挙げた。
「く、来るかっ!?」
無意識でそう声がこぼれた瞬間、
南雲の真後ろを駆けている狼のうち2頭が隊列を離れ、
緊張の中に居る南雲に襲い掛かった。
『グァオンっ!』
2頭同時に飛びかかっては来たが、咄嗟に身体を屈め回転させながら、
襲いかかる狼に対しすくい上げるように切り上げた。
『ヒュオンっ!ガキンっ!』
南雲の反応速度と技術の高さにルチアーノは驚き、
己の見積もりの甘さを修正せざるを得なかった・・・。
『タンっ!タンタンっ!』
南雲に躱され着地した狼達はリズム良く弾むと、
丁度その着地地点の先に駆けて来た隊列へと戻り、
その身体に刀の傷など1つもなかったのだった・・・。
そしてそれを見ていた南雲は改めて『堅狼族』の堅さに驚き、
『うむ・・・』と言葉を漏らしながら舌を巻いた。
(普通なら完全に斬っておるはずなんじゃがの・・・
まさかコレほど硬く俊敏とは・・・の・・・
・・・厄介な事・・・この上ないの)
そう考えながらも周辺視野をブレさせもせず、
刀を担ぎ次の行動を待つ南雲の手に汗が滲んだ・・・。
次第に疲労していく南雲を見ていたルチアーノはボレアスに指示を飛ばし、
仲間達に対し複数の吠え方をした。
その異様な圧迫感を感じた南雲は更に集中力を上げ、
これから始まるであろう戦いに備え、乱れる呼吸を整えていった。
(・・・何かが来る。
ここは久々に儂も『気道』を使うかの・・・
と、なればじゃ・・・。
持続と耐久特化の『陰・呼吸』・・・。)
南雲は周辺視で気を配りながら呼吸を変化させた・・・。
『スゥゥゥゥゥ・・・コォォォォォォォォォォォォォォォォ』
『っ!?』
突然南雲から発せられた奇妙な音に、
敏感に反応した『堅狼族達』は後方に飛び退きその足を止めた。
(ひょっひょっひょっ♪
凄まじいほどの危険察知能力じゃの~・・・
見事としかいいようがないの~♪)
心の中でそう考えながらも、
実際はそんな余裕などどこにもなかった・・・。
そして一連の動きを離れた場所で見ていた悠斗は、
鋭い眼光へと変わっていた・・・。
(あ、あの緩やかで独特・・・。
そしてあの籠るような重厚な呼吸音・・・
あ、あれってもしかして・・・『陰・呼吸』なんじゃ?
ま、まじか・・・じぃーちゃんすげー・・・
俺の家族も誰一人・・・扱えないのにな・・・
実際俺も未だ未完成の呼吸法・・・。
出来なくはないけど、持続しないんだよな~・・・
超難関の『陰・呼吸』・・・。
俺もいずれは・・・)
南雲の『技』を見る事になった悠斗は、
改めてその凄さに舌を巻き目を凝らし見つめていた。
呼吸音を変えた南雲に危機察知した『堅狼族達』が距離を取る中、
南雲は更に集中し『陰・呼吸』を発動させた。
『陰・呼吸・・・四忍気息・・・』
そう呟きニヤり笑みを浮かべた南雲に、
ルチアーノとボレアスに悪寒が走ったのだった・・・。
ってな事で・・・。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
南雲の戦いがこれから始まりますっ!
実際に武道では様々な呼吸法があり、
今回の南雲の呼吸法にピンと来る人がいるのでは?
もし、居るのであれば、嬉しく思いますw
もうマイナー過ぎてw
ってなことで、緋色火花でした。




