266話 陰流の理と迫る者達
お疲れ様です。
社畜ですっ!
完全に夏バテまっしぐら・・・orz
皆さんはどうですか?
食欲がないのが一番キツイですよね~・・・。
まぁ、何とか頑張りたいと思いますっ!
さて、今回から『悠斗編』となりますので、
楽しんでいただけたらと思います。
では、266話をお楽しみ下さい。
チャダ子達に助けられた悠斗は皆が去った後、
改めて祖父であり師匠でもある南雲と向き合い口を開いていった・・・。
「なぁ、じぃーちゃん。
改めて聞くけどさ・・・『陰流』ってそんなにヤバいモノなのか?」
悠斗の問いに南雲短く『うむ・・・』と相槌を打つと、
一呼吸置いてから話を切だって言った。
「本来『陰流』と言う武術はの?
儂ら『魔を狩る一族』の誰もが扱えるモノではないんじゃよ。
一世代に1人その『才』を持つ者が生まれれば『奇跡』と言えるじゃろう」
「・・・一世代に1人?
えっ?そんなに少ないの?」
悠斗が困惑気味にそう尋ねた時、
南雲の表情はふと和らぎ『そうじゃの』と微笑んで見せた。
「でもさ?
才能ってヤツだけならそれなりに・・・」
悠斗がそう言いかけた時だった・・・。
南雲は苦笑いを見せながら小さく首を振りながら話を続けた。
「ただ『才』があってもの・・・」
「・・・ダメなの?」
「うむ・・・。
一番の問題はの・・・それは血筋・・・なのじゃ」
「・・・血筋?」
少し小首を傾げながら悠斗は『血筋』について思いを巡らせると、
『一族の身内』の顏を思い出しながら口を開いて言ったが、
ソレに対し南雲は無言のまま首を振ったのだった・・・。
「・・・ただの身内ではダメなのか?」
「・・・ただ『強い』だけでもダメなのじゃよ。
『陰流の理』に在る・・・。
『揺るぎない歩み』と言う口伝がある」
「・・・揺るぎない歩み?」
「ソレはの・・・。
『陰流』を学ぶ事において最も重要で基本とされる事じゃ」
「・・・重要で基本」
「・・・そうじゃ。
眼前に立ちはだかる敵に対し、
引かず恐れず諦めず立ち向かう意思を意味しておる」
「引かず、恐れず、立ち向かう意思・・・か」
悠斗はそう言葉を数度呟きながら小さく頷いていた。
それを横目で見ながら微笑む南雲は話を続けた。
「思い出してみー・・・。
我が一族の中でそれらを実行出来る者がどほどおる?
お前の姉達なら・・・そこらへんは合格やもしれんが、
だが・・・の・・・。
決定的なモノが・・・欠けておる。
それが悠斗や・・・お前にわかるかの?」
そう尋ねられた悠斗は眉間に皺を寄せながら考え込むも、
南雲の質問に答えられずに居た。
すると南雲は少し哀し気な目を見せ、
隣に座る悠斗の頭に手を置いて優しくゆっくりと撫で始めた。
「・・・じぃーちゃん?」
南雲の行動に少し照れながらそう言った悠斗に、
『はははっ』と優し気な笑い声を挙げた。
「・・・お前の母親じゃよ」
「・・・えっ!?か、母・・・さん?
はぁ?母さんが一体何だってんだよ?」
南雲の言葉に驚きながら勢いよく顔を上げた悠斗に、
それ以上何も言わなかった・・・。
『じ、じぃーちゃん?」
無言が続く中・・・。
南雲は『さて・・・』と呟きながら立ち上がると、
悠斗を見ながら『続きをやろうかの?』と笑顔を見せ、
その声に無言で頷いた悠斗も続けて立ち上がったのだった・・・。
一方その頃・・・。
草木も生えぬ山の中腹附近に多数の動物達が集結していた。
「ルチアーノ・・・。
いや・・・長よ・・・俺達が目指す荒野は目の前だ・・・」
一匹の狼のオスがその身体を人間体へと変化させそう口を開くと、
ルチアーノと呼ばれた狼の族長が人間体に変化しながら頷いた。
ルチアーノは切り立った崖まで歩みを進め、
目を細めながら景色を見渡しながら口を開いた。
「ボレアスよ・・・偵察部隊からの連絡は?」
そう口を開くとボレアスが歩みを進めながらこう言った。
「・・・もうすぐ合流予定だ」
「・・・うむ、そうか」
そう返答すると一瞬後方に居るボレアスに視線を向けると、
その視線の意図を察したボレアスが振り返り声を挙げた。
「偵察隊が戻り情報を整理するまで暫く待機とするっ!」
その声に後方に居た20頭の狼達が頷きながら人間体へと変化すると、
各々で集まりその場に腰を下ろした。
各々の行動を確認したボレアスは踵を返すと、
未だ景色を見ているルチアーノに近付き声を掛けた。
「・・・ルチアーノ、何を考えている?」
不審な表情を見せそう尋ねるボレアスに、
ルチアーノの口角が少し上がると『念話』を使用した。
{・・・どうするも何も偵察隊の帰りを待たないと何とも言えないな}
{まぁ、確かにそうなんだがよ・・・。
本当にあの執事の依頼を受けるのか?}
何か疑念を抱くボレスの声にルチアーノの表情が険しくなり、
双眼に力が入ると返答した。
{・・・あぁ、依頼は依頼だからね~。
それに此処まで来ちまったんだ・・・私に迷いはないが・・・}
そうはっきりと答えたルチアーノだったが、
その言葉尻に違和感を感じたホレアスは『何かあるのか?』と尋ねた。
{・・・そりゃ~何かあるだろ?
って言うかボレアス・・・お前、何を怖気づいてる?}
そう言いながらルチアーノはボレアスへと視線を向けると、
『・・・不吉じゃねーか?』と表情が強張った・・・。
{・・・不吉?)
{・・・だってよ、そうだろ?
死者の地であるこの冥界にだぜ?
『生者の人間』が居るんだぜ?
そ、それによ・・・太古に『異形なる者』が来訪した年に、
『生者』がこの冥界に来たらしいじゃねーか?
だから少しはおかしいと思うのが普通だろ?}
ボレアスの最も意見にルチアーノは『まぁーね』と愛想無く答えると、
眼前に広がる荒野から『偵察部隊』が戻って来るのを確認した。
「・・・戻って来たな」
そう確認したルチアーノが踵を返し皆が固まる場所へと歩み始めると、
すれ違うボレアスが再び声をかけ尋ねた。
{・・・この依頼、確かに報酬は大きいが、
あのうさん臭い執事のじじぃ・・・ヤツは油断ならんぞ}
{・・・わかってる。
別に私は気を許している訳じゃない・・・。
むしろ警戒しているさ}
{・・・な、なら、いいんだがよ}
そう『念話』で会話し終えた2人は皆の所へと戻り、
山を登り始めた『偵察部隊』の帰りを待つのだった・・・。
そして再び南雲と悠斗は『陰流』の修練に入っていた。
「では本格的に始めるかの・・・」
南雲は悠斗にそう告げた時、
祖父である南雲の目付きが鋭くなった事に気付いた。
「・・・本格的にって?
じゃ~今までのは違うってのか?」
『ふっ・・・』と笑みを浮かべた南雲は、
悠斗に背を向け名が口を開いた。
「一番最初に起こった修練はの、
『陰流』の最も基本的な体力を得る為のモノじゃよ」
「・・・ま、まじか?
めっちゃキツかったんだけど?」
「ひょっひょっひょっ♪
あれくらいでヘバっているようでは・・・の」
そう言ってのける南雲に、悠斗は苦虫を噛み潰したような顏を見せた。
「・・・擬体であれだけキツかったってのにな。
って言うかさ・・・じぃーちゃん。
当時、じぃーちゃんは今の俺を越える体力があったのか?
到底信じられないんだけど?」
悠斗の問いに『ふっ』と笑みを見せた南雲は続けざまにこう言った。
「・・・当時の儂が今のお前ほどの体力なんてある訳なかろう?」
「じゃ・・・じゃ~なんで?」
視線を動かす事無く再び問う悠斗に南雲はこう言った。
「・・・お前が『擬体』だからやらせたんじゃ」
「・・・はぁ?擬体・・・だから?
どう言う意味?」
「今のお前は『魂だけの存在』
良いか悠斗よ・・・。
『陰流』とはその力を『魂に刻む』モノなのだ」
「・・・魂に刻む?」
「うむ・・・。
儂があの時・・・あの『鬼』と戦えたのは、
儂の『魂に刻み付けた陰流』だからこそ、
あの年齢でも行使する事が出来たんじゃよ・・・」
南雲そう言いながら当時の事を思い出し、
上空を見上げながら遠い目をしていた。
『じゃがの・・・』と呟きながら悠斗を見ると、
無邪気に笑いながら言葉を続けた。
「・・・老いには勝てん。
だから『陰流』を行使出来る回数は当然少なくなるからの、
本当に・・・老いとは哀しい事よな」
そう言い終わった南雲は自己嫌悪に陥ってるらしく、
やや俯きながら数度首を左右に振っていた・・・。
「・・・まぁ、老いは流石に避けられないけどさ、
当時の年齢で『陰流』が使えるって、正直凄いって思う」
「・・・ひょっひょっひょっ♪
孫にそう言われると老いも悪くないと思えてくるの~♪」
そう無邪気に笑う祖父の姿に悠斗は渋い表情を浮かべたが、
すぐに呆れたように息を吐くと、
悠斗は『なぁ、じぃーちゃん』と口を開いていった・・・。
「・・・親父はダメだったのか?」
その言葉に困り顔を見せた南雲はこう話しを続けた。
「以前・・・闘技場でも言った事じゃが、
お前の父・・・半蔵・・・あやつはダメじゃ」
「あぁ・・・確かにそう言ってたけど・・・
駄目って言われてもね・・・」
「うむ・・・。
流石に今のあやつの事は知らんが、
あやつは私利私欲が強過ぎる・・・。
いや、強過ぎると言うより・・・まさに『強欲』の権化じゃな。
力を持つ者にはそれに相応しいだけの『器』がいる。
しかし『強欲なる者』に『器』など無いに等しい・・・」
「・・・強欲の権化?」
「うむ・・・。
己が持つ全ての力を使って欲するモノを掴み取る。
・・・悠斗や。
お前の母も・・・その犠牲者の1人なのじゃ・・・」
「・・・なっ!?か、母さんもっ!?
犠牲者って・・・。
じ、じぃーちゃんっ!一体どう言う事だよっ!?」
南雲によりそう聞かされた悠斗は詰め寄り、
その理由を話してくれと威圧するも、小さく首を振り話さなかった。
「・・・ど、どうして教えてくれないんだよっ!?
一体母さんと親父の間に・・・一体何があったんだよっ!?」
怒りを抑える事もせずそう声を荒げる悠斗に、
南雲は溜息を吐きながら口を開いた。
「・・・いずれ嫌でも知る事になろう。
だがそれは、今・・・ではない。
だが、悠斗や・・・覚えておくんじゃ・・・。
『陰流の理』にある『揺るぎない歩み』を忘れるでないぞ?」
そう言って真っ直ぐ悠斗を見つめる視線に、
悠斗は強く拳を握りながらも『・・・わかった』とそう言ったのだった。
暫くして悠斗の気持ちの整理が着くと、
再び『陰流の修練』が再開された・・・。
「良いか・・・悠斗よ・・・。
『陰流』の基本とは無手であろうと武器を持とうとも、
その『神速の踏み込みと円運動』に在る・・・」
「神速の踏み込みと円運動・・・」
「そうじゃ・・・。
じゃがの、ただ速く踏み込めばいいと言う訳ではない。
勝負には駆け引きが重要なのはお前も知っておろう?」
「あぁ・・・勿論わかってるよ」
「うむ、じゃがの・・・。
その『駆け引き』とは・・・『賭け』であってはならん」
そう言われた悠斗は手を止め『はぁ~?』と驚きの声を挙げた。
「・・・賭けじゃダメって・・・どういう意味なんだよ?
駆け引きってそう言うモノじゃないのか?」
声を大にそうだ拗ねる悠斗に南雲は口角を上げた。
「何度も言っておるじゃろ?
『陰流の理』とは、揺るぎない歩みだと・・・」
『あっ・・・』と悠斗は声を挙げ、
それを見た南雲は『この未熟者め♪』とどこか楽し気だった。
それから暫くの間・・・。
『陰流の基本』となる体捌きをこなし、
時間が経つのも忘れ修練に励むのだった・・・。
そしてひたむきに修練に励む悠斗の姿を見て、
今後悠斗に訪れる出来事に思い巡らせると、
その心中は決して穏やかなモノではなかったのだった。
(悠斗や・・・真実を知った時、怒りに取り込まれるでないぞ)
そう念じるように呟きながら、
悠斗の修練は続くのであった・・・。
一方、山の中腹で『偵察部隊』の帰りを待つ『堅狼族』は・・・。
『族長っ!只今戻りましたっ!』
偵察部隊のリーダーが声を挙げると、
部下達を休ませ報告を始めた・・・。
「例の人間は今、老人と2人で何かの訓練中なようで・・・」
「・・・訓練?」
そう声を挙げたのはボレアスだった・・・。
『訓練』と聞いたボレアスは訝し気な表情を見せ、
隣で座るルチアーノに視線を向けた。
「ほぅ~・・・何かの訓練ね~?
それは興味深いじゃないか~♪」
「・・・ぞ、族長?」
そう言いながらルチアーノは楽し気に舌舐めずりをし、
それを見た偵察部隊のリーダーは顏を引き攣らせた・・・。
そしてそれを見ていたボレアスは『はぁ~』っと溜息を吐いて見せた。
「ん?なんだいなんだい?
ボレアス・・・何か言いたい事があるんなら言いなっ!」
怒声混じりではあったがその表情は笑みに溢れ、
今後の展開に胸を膨らませるルチアーノに呆れていたのだった。
「い、いや・・・長よ・・・。
これから『不吉の前兆』とやり合うかもしれねーんだぜ?
そんなに浮かれることはないだろうよ?」
そう愚痴をこぼすボレアスに同意するかのように、
偵察部隊のリーダーも小さく何度も頷いていた。
「不吉の前兆ってお前・・・。
フンっ!まさかとは思うがてめーら・・・
ビビってんじゃねーだろうな~?」
威圧ともとれるその声色にリーダーは身体が震え、
またボレアスは『やれやれ』と言わんばかりに頭を押さえていた。
そして少しの時間が経過し、報告を終えたリーダーが戻り、
その場にはルチアーノとボレアスだけとなった・・・。
地面に座り小枝で地面に仲間達の配置図などを書いていた時だった・・・。
「おやおや・・・皆さんこのような所でどうされたのですかな?」
突然そう声を掛けたられたルチアーノとボレアスは、
咄嗟に回避行動を取り、身構え戦闘態勢に入った・・・。
だが戦闘態勢はすぐに解除され、
『なんであんたがこんな所に・・・』とルチアーノが声を漏らした。
「はっはっはっ・・・。
我がお嬢様が進捗具合が気になるようでしてな。
見て来い・・・と、そうおっしゃるものですから・・・♪」
満面の笑みを浮かべそう言った『初老の執事』に、
ルチアーノとボレアスは訝し気な表情を見せた。
「・・・私達が信用ならないって事でいいのかい?」
「はっはっはっ♪
いえいえ、決してそのような事は御座いません。
少なくとも・・・私は『堅狼族』の皆様を信用しております」
「・・・ほんとかね~?」
疑惑の視線を向けるルチアーノに続き、
ボレアスは疑念を持って一歩踏み出すと口を開いた。
「じゃ~お前は何しに来たんだよ?
信用しているんじゃねーのかよ?」
睨みを利かせそう威圧するボレアスに執事はこう言った。
「ですから、私はただ・・・お嬢様に言われたもので・・・」
笑顔で初老の羊がそう言ったのだが、
だがその目の奥は決して笑ってなどはいなかったのだった・・・。
それを感じ取ったルチアーノはボレアスに並ぶように前に出ると、
片手を伸ばし制して見せた・・・。
「お、おい・・・長よ・・・」
そう戸惑いの声を漏らすボレアスだったが、
となりに並ぶルチアーノの表情は真剣そのものだった。
「・・・ボレアス、これは仕事だ」
「・・・わ、わかってるけどよ。
で、でも・・・い、いいのかよ?」
「・・・フっ、別に構わないさ。
『堅狼族』の名誉に賭けて依頼は全うする」
眼前に立ち笑みを崩さない初老の執事にそう言い切ると、
執事は『・・・それは結構♪』と笑みを崩さなかった。
『・・・・・』
そして辺りの雰囲気が『ピリっ』とした時だった・・・。
くるりと踵を返した執事はルチアーノ達に背を向けながらこう言った。
「期待・・・しておりますぞ♪」
そう言い残した途端・・・。
一瞬にしてその場から姿を消した執事に、
ルチアーノとボレアスは厳しい表情へと変え呟いた。
「・・・どうにもきな臭いったりゃないね~」
「・・・あぁ、同感だ」
そう呟き合った2人もまた、
くるりと踵を返すと皆が待つ所へと戻るのだった・・・。
『・・・堅狼族。
はてさてどこまでやれるか見物・・・ですな~』
山頂付近からスキルを使用し見ていた執事の表情は、
舌舐めずりをし、悪意に満ちた笑みをこぼしていたのだった。
ってな事で・・・。
今回のお話はこんな感じですかね~。
いつになく真面目な話なったかと思いますが、
楽しんでくれたら幸いで御座います。
ってか・・・。
ちょい仕事が詰まりまくっていますので、
今回はこのくらいにて・・・。
ってなことで、緋色火花でした。




