253話 選択
お疲れ様です。
湿度と暑さで虫の息中の緋色で御座います。
まだ6月なのに・・・。
さて、今回のお話で一旦・・・。
悠斗の話は終わり『女子~ず』の話となります。
って言うか・・・。
今回の終わり間際で話は変わり、
254話からは完全に移行します。
それでは、253話をお楽しみ下さい。
チャダ子が開いた『時空洞』に入った悠斗は今、
暗闇の中を歩いていた・・・。
「えっと・・・チャダ子・・・さん?」
「はい、何でしょうか?」
悠斗は己が掴んでいるチャダ子の肩すら見えず、
不安がりながらもそう口を開くと、
その優し気な返答に少し・・・気持ちが落ち着いた。
「この時空洞の長さってどれくらいあるんですかね?」
「そう・・・ですね~」
『ん~』と声を出したチャダ子は何故か楽し気に、
『あと200mくらいよ♪』と、言葉が返って来た・・・。
『わかりました』と返答した後は、
先頭を歩くチャダ子の肩を掴んだまま黙々と歩き、
『時空洞』の出口まで後少しという所で、その足はピタリと止まった。
「・・・チャダ子さん?」
不思議に思った悠斗がそう尋ねると、
チャダ子は悠斗の手を肩から降ろし振り返って笑みを浮かべた。
「・・・もうすぐ出口です」
「・・・はい」
「今のこの私の身体は特殊なスキルによって創られた身体です。
ですから出口まではこの身体を維持する事は出来ないのです」
「・・・な、なるほど」
「此処まで来れば別の亜空間に飛ばされる心配はないので、
此処からはご自分で・・・」
笑顔を向けながらそう言い、
悠斗が『分かりました、此処まで有難う御座います』と、
笑顔を向け握手をすると、チャダ子の身体は足から順に消えて行った。
姿を消したチャダ子に対し、今一度『有難う』と礼を言うと、
悠斗は自らの足を踏み出し出口へと向かった・・・。
~ 冥界のとある荒野 ~
『シュイン』と音を立て渦を巻くように『時空洞』が開くと、
その暗闇の中から悠斗が姿を現した。
「・・・ゆ、悠斗」
「ユウト・・・様」
「て、てめー・・・この・・・野郎」
「・・・~♪」
『時空洞』から出て来た悠斗の姿を見て安堵した南雲は笑みを浮かべ、
ライトニングは深く安堵の息を漏らした・・・。
だが、サンダラーだけは・・・
何故か鋭い視線を悠斗へと向けていた。
「な、何だよ・・・サンダラー?
どうして俺を睨んでんのさ?」
首を傾げ訝しい表情を浮かべる悠斗に、
サンダラーはブルブルと身体を震わせ今にも怒りの声を挙げようとした時、
悠斗はこちらに向かって微笑んでるチャダ子を見つけた。
「チャ、チャダ子さんっ!?」
「~♪」
微笑みを浮かべこちらを見ていたチャダ子に駆け寄ると、
正面に立ち深々と頭を下げ礼を口にした。
「チャダ子さんっ!助けてくれて有難う御座いましたっ!」
「・・・いえいえ♪
私は私に出来る事をしたまでですから♪」
「いえ、見ず知らずの俺の為に・・・
感謝しかありません」
「ふふふ♪律儀な人ですね?」
深々と頭を下げていた悠斗が顏を上げ、
2人して笑っていると、突然怒声を発したサンダラーの声が響いて来た。
「て、てんめぇぇぇっ❕
俺の事を無視してんじゃねーぞぉぉぉぉっ❕?」
その怒声に悠斗とチャダ子が肩をビクっとさせていると、
サンダラーは怒涛の如く口を開いていった。
「ユウトォォォっ!?
貴様ぁぁぁっ!一体誰のおかげで助かったと思ってんだっ!?
まずは俺達に感謝しろってんだよっ!
っつーかだなっ!
俺達に迷惑かけてすみませんってのが礼儀だろうがぁぁぁっ!?
貴様は礼儀を親から学ばなかったのかぁぁぁっ!?」
『ゼェ、ゼェ、ゼェ』と一気の捲し立てたサンダラーの息は荒く、
悠斗が気付くとそこには・・・。
力無く地面に座り込んでいる男達の姿があった。
「・・・み、皆、一体どうしたんだよっ!?」
何も知らされていない悠斗が驚きの声を挙げ、
へたり込む南雲の元へと駆け出して行った。
「じ、じぃーちゃんっ!?
そ、それにライトニングさんまでっ!?
みんなどうしてっ!?」
驚き声を挙げる悠斗に南雲は『い、いや、その~じゃな?』、
悠斗にそう口を開き説明を始めようとすると、
その態度に我慢ならなかったサンダラーは、
ヨロヨロとしながら立ち上がり悠斗を指差した・・・。
「だ、だから・・・き、貴様・・・。
お、俺の話を聞けってんだよっ!」
ヨロヨロとしながらも睨みつけて来るサンダラーに、
悠斗は訳もわからずただ『はぁ?』と発した。
悠斗の反応にサンダラーは『チっ!』と舌打ちをした後、
その鋭い視線はチャダ子へと向けられた・・・。
「つーか・・・女・・・」
「・・・わ、私ですか?」
突然サンダラーに声を掛けられ、
戸惑うチャダ子にサンダラー拳を握り締めながら口を開いた。
「・・・女、話がちげーだろ?」
「・・・何の事でしょうか?」
「俺達の力を吸うって話の事だっ!」
苦虫をつぶしたような表情でそう言ったサンダラーに、
チャダ子は手を『ポン』と叩きながら『ああ~♪』と納得した。
「てめーが戻って来るまで力を吸い続けられるなんて、
俺達は聞いてねーんだが?」
表情が引き攣り今にも爆発しそうなサンダラーに、
チャダ子は肩を竦ませながらその問いに答えたのだった。
「・・・思いの他、時間がかかった事に関しては、
お詫びするしかないのですが・・・」
そう言ったところでチャダ子はライトニングに視線を移し、
意味有り気に笑みを浮かべると言葉を続けた。
「主様の創られたその空間が予想以上に強固てあり、
また、私の想像を軽く上回るほどの力の濃度により、
皆様方には大変ご苦労をかけたかと・・・」
申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げるチャダ子に、
皆は顔を見合わせ『そういう理由ならば』と一応の納得を見せた。
皆の反応にチャダ子が安堵の色を見せる中、
再びサンダラーはその鋭い視線を悠斗へと戻し、
やや無関心そうに背伸びをするその態度に、
冥王のこめかみがヒクついた・・・。
「ユウト・・・な、何だその態度は?
き、貴様は・・・い、一度・・・
し、しっかりと・・・ぐぬぬぬぬ・・・
シメておかねーといけねーとと・・・思ってたんだ・・・」
そうブチギレたサンダラーが冥界の神力を身体から溢れさせ、
悠斗に向かって一歩踏み出し、
『ぶっ飛べーっ!』とそう声を発した瞬間・・・。
サンダラーの背後から『・・・ちょっと宜しいでしょうか~?』と言いながら、
黒く長い髪の毛がサンダラーの首に巻き付いた・・・。
「なっ!?」
この時、サンダラーは心底肝を冷やしていた。
何故なら絶対零度とも言えるほどの冷気を首に巻きつく髪から感じ取り、
言いようのないその威圧感にサンダラーは微動だに出来なかったのだった。
「悠斗さんは何も状況をご存じないのですから、
ブチギレたところで意味はありませんよね~?
貴方は『冥界の王』なのでしょう?
そんな理不尽な対応されるなんて・・・
ふふふ♪『王の器』がとても小さいのですね~?」
『・・・ゴクリ』
チャダ子の顔はとても穏やかで温かみのある笑みを浮かべて居るが、
その表情とは真逆に、黒い髪はサンダラーの首を締め上げ、
『チューチュー』と効果音が聞えるかのように、
サンダラーの神力を吸い取っていた・・・。
「や、やめろっ!?お、女っ!?
ま、まじで・・・く、苦しい・・・
ち、力が・・・お、俺の力が・・・す、吸われ・・・パフン」
『パフン?』と悠斗がサンダラーの言葉に首を傾げていた頃、
チャダ子は気絶したサンダラーを解放し、
再び悠斗に対し微笑みを浮かべて居た・・・。
「あ、有難う・・・チャダ子さん・・・
チャダ子さんって・・・す、凄く・・・強いんですね?」
少し顔を引き攣らせながらそう話す悠斗に、
チャダ子は『ふふふ♪』といたずらな笑みを見せるだけだった・・・。
そして・・・。
チャダ子に首を絞められ、
力を吸われたサンダラーが回復するまでの間、
悠斗は南雲達に事の顛末を聞き感謝の言葉を伝えたのだった。
すると突然チャダ子から『念話』が届いた・・・。
{悠斗さん・・・。
私が貴方にしようとした事をどうして話さないのですか?}
チャダ子に念話に驚いた悠斗はその顔を見ると、
にこっと笑みを浮かべながら念話を返した。
{・・・話す必要・・・なくない?}
{・・・えっ?}
{俺は別に気にしてないしね?}
{こ、殺されそうになったのにっ!?}
{あははは・・・こういうのってさ、
よくある話じゃん♪}
{・・・い、いや・・・こ、殺されそうになるのって、
普通の人にはないって言うか・・・。
そ、そもそもよくあっていい話じゃないですよね?}
{あははははっ!
例えるなら『俺、殺されそうになってて草♪』
って、俺にとってはそんなレベルの話だよ♪}
{・・・そ、そんなレベルって}
『あはは』と笑って済ませる悠斗に、
チャダ子は呆れていると、ふと・・・
似たような事を言い笑みを見せるユウナギの事を思い出した。
『ライトニング様っ!?』
そう突然声を張り上げたチャダ子に、
ライトニングは小さく『コクリ』と頷くとゆっくりと立ち上がった。
そして静かな口調でこう尋ねた。
「それで・・・状況は?」
その問いにチャダ子は無言で首を横に振ると、
『・・・そうですか』とだけ口にした。
何とも言えない雰囲気を珍しく察した悠斗は、
2人に対し口を開いた。
「2人共・・・何かあるんだよね?
それも急ぎの・・・」
『コクリ』
「・・・俺の事はいいから、2人共早く行ってあげてくれ」
悠斗の言葉に静かに頷いた2人は、
お互いに頷き合うとチャダ子が『時空洞』を開いた・・・。
『それでは皆様、私共は少し急ぎますので・・・』と、
ライトニングが口を開いた時だった。
突然『・・・待て』と気絶したサンダラーが目を覚まし、
急ぐ2人を止めたのだった・・・。
そんなサンダラーに悠斗は『この2人はっ!』と声を挙げた時、
苛立た様子を見せる悠斗に構う事無く、2人にこう言った。
『・・・たった今、兄貴は死んだ』
『っ!?』
悠斗はサンダラーの言葉がの意味はわからなくとも、
茫然としているライトニングとチャダ子の様子から察し口を閉じた。
サンダラーはそんな悠斗を尻目に言葉を続けた。
「・・・手遅れだ。
それにあの場所に行く事はならん」
「な、何故でしょうか?」
そう尋ねて来るチャダ子にサンダラーは言葉を濁すように言った。
「あの亜空間は我々『冥界の管轄にあらず』だからだ」
「・・・管轄ですか?
ちょっと待ってくださいサンダラー様、
そもそも『亜空間』に管轄など・・・」
やや苛立ったようにそう言ったチャダ子の肩に、
ライトニングが優しく手を置いた。
「ライトニング様?」
「・・・あるのですよ、チャダ子さん」
「・・・はい?」
「亜空間には管理する存在が居るのです。
その主が神であったり魔族だったり・・・・」
「・・・そ、そんなっ!?
で、では・・・あ、主様はっ!?」
涙を浮かべライトニングにすがるように抱き着くチャダ子に、
目を閉じたライトニングは静かに首を左右に振ったのだった。
「・・・そ、そんなの・・・そんなのって・・・」
軽く吐き気を感じたチャダ子が嘔吐していると、
『何だかよくわかんないけどさ・・・』と、悠斗が歩み寄り、
蹲り嘔吐するチャダ子の背中を優しくさすりながらこう言った。
「・・・死んでいようがどんな場所であろうが、
行けばいいんじゃんか?」
悠斗の言葉に皆が驚きの表情を浮かべ、
チャダ子は口を押えながらも『一体何を言って?』と呆然とした。
「俺は部外者だし、正直関係性なんかは全然わかんない・・・。
だけどさ、『主様』って言うくらいなんだからさ、
主従関係である事くらいは俺にもわかるよ?
大切な主であり仲間・・・なんだろ?
亜空間だから何?管轄違うからって何?
そんな事、あんた達には全然関係なくね?
行けよ・・・2人共・・・。
選択の余地なんてないと思うけど?
それに生きていようが死んでいようがさ・・・
どんな時でもどんな状況でも、駆け着けるのが仲間ってもんだろ?
それが例え亜空間だったとしても・・・さ」
そう話終えた悠斗は立ち上がると、
皆が呆然とする中、サンダラーに向き直り真剣な眼差しを向けた。
「ってな事で、サンダラー・・・。
2人を黙って行かせてやれよ?」
「なっ!?
お、お前・・・い、一体何を言ってっ!?」
「別におかしい事なんて言ってないだろ?
仲間がピンチな時に駆けつけて何が悪いって言うんだよ?
それとも何か?
この冥界の地ってのは『仲間』を見捨てるのが当たり前なのか?」
悠斗の真っ当な意見に、
流石のサンダラーも『うぐっ』と口を堅く結んだのだった。
「し、しかし・・・む、無断で侵入する事は・・・
ほ、法に・・・触れてしまう・・・」
真っすぐ向ける悠斗の視線から顔を逸らし、
悔し気な表情を浮かべ額にもやや汗が滲み出ていた。
そんな表情を浮かべ苦悶に満ちているサンダラーに、
悠斗は『おいっ!冥王っ!』と語気を強くした。
悠斗の声に『ビクっ』と体を弾ませながら顔を向けると、
妙な笑みを浮かべる悠斗は口を開いた。
「・・・いい事教えてやるよ」
「いい・・・事だと?」
「あぁ、だから耳の穴をかっぽじってよーく聞けっ!」
この時の悠斗の笑みに皆がいい予感はせず、
ただ背筋に冷たい汗が流れたのだった。
そして満面の笑みを浮かべた悠斗はこう言った・・・。
『ルールは破る為にあるっ!』
『・・・・・』
悠斗の言葉に皆の思考が止まった・・・。
暫くの間思考停止した後、
サンダラーは『ゴゴゴゴゴっ』と地鳴りでも聞こえそうなほど、
身体を震わせニヤける悠斗に殺気を込めながら視線を向けた。
「・・・ルールは破る為にあるんじゃねーよっ!
まじでお前っ!頭おかしいんじゃねーのかっ!?」
「失礼なっ!って・・・ま、まじかっ!?」
『っ!?』
悠斗がとても驚いた表情を向けている事に、
皆が驚き再び固まった・・・。
そして数回・・・
頭を振ったサンダラーが『はぁぁぁ~』と深いため息を吐いた。
「お、お前と話していると・・・疲れる」
「・・・まじで失礼なヤツだなっ!」
『プンっ!』とサンダラーの言葉にそっぽ向いた悠斗に、
ライトニングとチャダ子は突然『プっ!』と笑い声がこぼれた。
その声に咄嗟ににらみを利かせたサンダラーに、
2人は『コホン』と咳払いで誤魔化した後、
ライトニングは歩み寄り、そのふてくされる悠斗の肩に手を置いた。
そしてにっこりと笑みを浮かべると、
優し気な声でこう言った・・・。
「・・・ユウト様の言う通りです」
「お、おいっ!?ラ、ライっ!?
貴様・・・一体何を言っているっ!?」
慌てるサンダラーに視線を移したライトニングは、
笑みを浮かべながら口を開いた。
「・・・彼の言う通りですよ。冥王。
主のピンチに駆けつけなくて・・・何が仲間ですか?
主を守れず此処に留まる事になんの意味が?
そのような部下・・・。
もし、私なら・・・殺していますよ♪」
そう言いながらその視線をチャダ子へと向けると、
素早く何度も『コクコクコク』と頷いていた。
そんな2人を見たサンダラーは少しの間唖然とする、
やがて大きなため息と共に口を開いた。
「・・・あぁぁぁっ!もういいっ!
お前らに何があっても俺は知らねーからなっ!?」
そんな冥王の声にライトニングとチャダ子は笑みを浮かべ、
また悠斗はニヤけながら意味有り気に指を差していた。
指を向けられたサンダラーはその手を『パシっ!』と払いのけると、
ライトニングとチャダ子に声を掛けた。
「本当にどーなっても知らねーからな?
お前達がどうなっても・・・絶対に助けてやらねーからな?」
ふてくされながらそう言ったサンダラーに、
ライトニングは『ほっほっほっ♪』と笑い声をあげ、
チャダ子は『はいっ♪』と嬉しそうに声を挙げた。
嬉しそうに微笑むチャダ子に悠斗は近付き声を掛けた。
「チャダ子さん・・・。
もし良ければ今度・・・。
いつになっても構わないんだけど・・・」
悠斗が少し緊張しながらそう口を開くと、
チャダ子は『何でしょうか?』と笑顔を向けて答えた。
「・・・えっと~、今度会った時、
スキルの習得方法と言うか、
習得する・・・コツ?ってのを教えてもらいたいのですが?」
「・・・スキルですか?」
不思議そうに首を傾げたチャダ子に、
今度は背後からライトニングが楽し気に口を開いたのだった。
「ほっほっほっ♪
それはそれは実に素晴らしいですな~♪」
ライトニングの声にきょとんとした悠斗に、
白い顎鬚を摩りながら口を開いた。
「チャダ子さんは言わば『スキル・コレクター』ですからね。
ユウト様が自分を更に高みへと御昇りになりたいとお思いなら、
スキルは当然必須となりますからな♪」
「・・・スキル・コレクター」
「はい♪
スキルは多いにこしたことは御座いません。
だからと言って何でもいいって言う事では御座いませんが、
ユウト様には何か目的がお有りなようですし、
新たにスキルを幾つか習得されるのが良いかと思います」
「・・・はい、頑張りたいと思いますっ!」
悠斗が笑みを浮かべそう答えると、
チャダ子は悠斗に一歩歩み寄り、
『スキルのコツ』を教えると約束したのだった。
その後、ライトニングとチャダ子は壊れた擬体を回収し、
『時空洞』の中へと消えて行き、
サンダラーもまた文句を言いながら、
『俺は帰るっ!』と怒声を挙げその姿を消したのだった・・・。
残された悠斗と南雲は、
この後、修練についてお互いの意見を交わして行くのだった・・・。
そして此処は冥界のダンジョン内・・・。
現在70階層を攻略中・・・。
『キンっ!キンっ!キンっ!』と、
激しい金属音が響き渡っていた・・・。
『はぁぁぁぁっ!』と、気合の籠った女性の声が聞こえ、
『イリアっ!避けてっ!』と別の女性の声が響いていた・・・。
『シュっ!』と風を切り裂く音が耳に届く頃、
『オーケーっ!』とイリアの声が響いた。
『ビシっ!』
『うぎゃぁぁぁっ!』
矢じりが魔物に命中し『ドサっ』と音を立てて倒れると、
ニヤっと笑みを見せるセルンが親指を立てて見せたのだった。
『セルン~♪』と声を弾ませ駆け寄るイリアに、
セルンはイリアのある部位を見て顔を引き攣らせた。
「セルンっ!お見事っ♪」
「え、えぇ・・・当然これくらいはね?」
未だ顔を引き攣らせながら返答したセルンに、
イリアは首を傾げながら口を開いた。
「セルン・・・?
どうしてそんなに不機嫌なのよ?」
困り顔でそう口を開いたイリアに、
セルンは『はぁぁ~』っと深く溜息を吐いた。
「別にそんな事どうでもいいから、
さっさと進むわよ」
そう言いながらセルンは後方を振り返ると、
腕を組みニヤニヤしているイザナミと黒紅を見たのだった。
セルンの視線にイザナミは後ろで控える黒紅に声を掛けた。
「・・・ヒミぞうの作ったあの武器、
黒紅たんはどう見る?」
突然そう尋ねられた黒紅は『そうですね~』と声を挙げると、
続けて感想を口にしたのだった・・・。
「冥鉱石で作られたあの武器・・・。
卑弥呼様が作られただけあってとても素晴らしいと思いますが・・・」
そう感想を述べた黒紅にイザナミは『フッ』と笑みを浮かべると、
『思いますが・・・何?』と尋ねた。
「・・・確かに凄いとは思いますが、
その機能と言いますか機構と言いますか・・・
あの武器を扱うのはとても大変なのでは?」
「・・・確かにね。
基本ベースは弓で、その弓の中央部分から割れ、
接近戦に対応するために双剣となる。
まあ、ヒミぞうらしい考えられた武器ではあるが、
弓の弦はセルンの魔力で作り出し矢もまた魔力で・・・。
そして双剣もまた、切れ味を強化する為に、
魔力を纏わせていないといけない・・・。
そう考えるとあの子の魔力消費が心配になるわね」
「はい、セルンさんはエルフですから魔力量は多いですが、
連戦や大きな戦いとなりますと不安が残りますね。
と、言うか・・・。
この70階層に入った途端、
明らかにセルンさんの消耗が激しくなり、
その動きにもキレが無くなって来たような?」
そう答えた黒紅イザナミは『そうよね~?』と呟きながら、
イリアとセルンの元へと歩き始めたのだった・・・。
ゆっくりとこちらへと向かって来るイザナミ達の姿を見ながら、
セルンはやや俯き手に持つ卑弥呼から渡された武器を見ていた。
(・・・確かにこの武器は凄いとしか言いようがない。
でも・・・魔力の消費が半端じゃない。
弦と矢・・・私の魔力に依存する武器・・・。
短期戦なら兎も角・・・
長期戦ともなれば選択もまた難しくなるわね・・・
それに『灯』を発動しながらともなると、
その『灯』の発動時間も当然短くなる・・・。
そしてその結果・・・。
疲労が色濃く・・・なるって訳よね)
セルンは手元の武器を見ながら『クっ』と小さく呻くと、
何事もなかったかのようにイザナミ達へと視線を戻したのだった。
ってな事で・・・。
今回はこのようなお話となりました。
感想などあれば聞かせてほしく思います。
ってか、これから・・・。
こんな時間からリモート会議・・・まじでか・・・orz
この暑さと湿度に負けず、
頑張って行こうかと思っておりますので、
応援していただければと・・・w
ってなことで、緋色火花でした。




