212話・ヴァン・アレンと羊
お疲れ様です。
新しいプロジェクトのおかげで、
この2週間ほど『脳がバグ』っている緋色で御座いますっ!
そんな中、小説を書く事は非常に困難なのですが、
ストックが数話分って、本当に良かったな・・・と、
そう思う今日この頃で御座います><
さて、先週『チラッ』と登場しました。
そして今後、悠斗とどう絡むのかを楽しみにして頂ければと思います^^
今後も頑張って行きますので、
応援のほど宜しく御願い致しますっ!
その応援が緋色の力になるのですっ!
また登録や感想など頂ければ非常に喜びますっ!
それでは212話お楽しみ下さい。
『ヴァンパイア・・・この勝負俺に譲れ』
突然姿を現した男が不敵な笑みを浮かべながら歩いて来た・・・。
その身体に纏う『冥界の神力の質』が異質だと感じると、
悠斗の表情が厳しく変わり、
また、その本能が・・・『この男は危険』だと、
警鐘を鳴らしていたのだった・・・。
(こいつ・・・ヤバい・・・)
『ゴクリ』と喉を鳴らしながらその男を見ていると、
ふと・・・違和感を感じ、視線がそちらへと向いた・・・。
「・・・えっ?
あ、あれって・・・羊・・・か?」
瞬きを何度か繰り返しながらも、悠斗は自分の目を疑ったが、
どうやら目の錯覚ではないようだった。
「・・・羊・・・だよな?
何でこんな所に・・・?
って言うか・・・に、二足歩行っ!?」
悠斗がそう疑問を口にした時だった・・・。
突然慌て始めたヴァンパイア達が駆け出すと、
その男の前に片膝を着き頭を垂れた・・・。
「ヴァ、ヴァン様・・・ご、ご無沙汰しております」
「・・・よう、パルサーとボイド、
久ぶりだな~?元気にしていたか?」
「は、はいっ!ヴァン様もお元気そうで・・・」
そう挨拶を交わしたヴァンパイヤ『姉弟』だったが、
その額に滲ませる汗から見て取れるように、
関係性が一目瞭然だった・・・。
『ヴァン』と言われたその男の姿は・・・。
身長は恐らく軽く2ⅿは越えており、
茶色と白のメッシュがかったその長髪を後ろで束ね、
浅黒い肌に『金色の瞳』・・・。
だが、そんな容姿とは打って変わって・・・。
その身なりはとても素朴で、
どう見ても『放浪者』を思い起こさせる薄汚れた服装だった。
そして一番目立つのが・・・。
『両腰に携えたロングソード』だった。
(・・・こいつ、二刀流なのか?)
一瞬・・・。
悠斗の口元が緩やかになった時、
ヴァンパイヤ達が頭を垂れたその『ヴァン』と言う男が、
悠斗に対し視線を向け口を開いていった・・・。
「・・・お前の名は?」
「えっと~・・・
少し古いけど『君の名は?』じゃなくて?」
「・・・ん?どう言う意味だ?」
「・・・お、おかまいなく。
こっちの話なので・・・」
そう言いながら苦笑いを見せた悠斗に、
『ヴァン』と言う男は話を続けていった・・・。
「これは失礼した・・・。
相手の名を聞く前に名乗るのがマナーと言うモノだったか?」
「・・・?」
悠斗はその男の物言いに首を傾げ内心・・・
『って言うか、あんたの隣に居る『羊』の事を説明して欲しい』と、
あからさまに分かりやすい態度を取っていたのだが、
その男は薄く笑みを浮かべると己の事を語り始めた。
『俺の名はヴァン・・・ヴァン・アレン。
見ての通りこの冥界の超絶イケメンだ・・・』
『カチン』
突然自分が『イケメン』だと言い始めた『ヴァン』に、
悠斗は反射的に『イラっ』とその表情を引き攣らせた・・・。
「・・・自分でイケメンって言うヤツ・・・
こんな異世界にもいるんだな?
って言うか、超絶って・・・やれやれ」
皮肉たっぷり目で悠斗はそう言ったつもりだったが、
このヴァンと言う男は動ずる気配すらなく、
それどころか突然高笑いをし始め饒舌に話し始めた。
「わぁ~はっはっはっ!
気にするな・・・人族・・・。
この俺を間近に見て動揺するのはよ~く分かるっ!
だがな・・・人族・・・。
貴様だって・・・中々イケている部類に入るぞ?」
(こ、こいつ~・・・まじでイラつく・・・。
って言うか・・・こいつはアレか~・・・
人の話を聞かない系なのか~・・・だろうな~・・・
だって・・・馬鹿そうだもんな~・・・)
悠斗は無意識にヴァンに対し哀れんだ視線を向けたのだが、
悦に浸るこの男はそんな視線にも気付かなかったのだった・・・。
それどころか・・・。
『ぺチャクチャ』と悠斗が理解出来ない事を口にし始めると、
深く溜息を吐いた悠斗は、この男の隣でこっちを見ている『羊』に、
興味深々だったのだった・・・。
ヴァンは未だ『悦』に浸り、聞いてもいない事を話しまくっている。
そんな様子に『はぁ~』と項垂れた悠斗はヴァンの話を聞く事もせず、
こちらを見ている『羊』に歩み寄った・・・。
「・・・メ、メルっ!?」
微笑みを浮かべながら近寄る悠斗に、
『羊』は驚きヴァンへと助けを求めようとするも、
そんなヴァンに諦め顔を浮かべながらこめかみをヒク付かせていた。
「よう・・・羊君。
君は一体何者なんだ?」
羊の背丈に合わせるようにしゃがみ込んだ悠斗は、
驚く羊にそう声を掛けた。
「・・・こ、こっちに・・・来るなメルっ!」
「おろっ!?」
先程聞いた『メルっ』と言う声ではなく、
どう言う訳か『日本語』に変換されて悠斗に聞こえたのだった。
「えっ!?どうして日本語でっ!?」
驚く悠斗はかなり以前に一度・・・。
自分のステータスを確認した時、
『言語』のステータスが『S』であった事を思い出し、
ラウルの笑みを思い浮かべながら感謝したのだった・・・。
「あぁ~・・・確かそう言うのがあったな~?
でもまぁ~いいか・・・こんな可愛い羊と話せるんだし♪」
そう呟きながらほんわかしていると、
羊が少し照れながら口を開いていった・・・。
「か、可愛いって・・・そ、そんな事言われても・・・
こ、困るメル・・・」
「あはは・・・こいつ~可愛いな~♪
身長も30cmくらいしかないのに・・・
・・・もふもふだぁ~♪」
悠斗は羊の頭を『もしゃもしゃ』としながら笑っていると、
その手を『パシっ』と払い除けながら、
その身体から『冥界の力』を放出し始めた・・・。
「ぼ、僕は人族が・・・き、嫌いだ・・・
わ、悪いヤツらが違法にこの冥界に侵入し、
ぼ、僕の仲間達を・・・メルゥゥゥゥっ!
だ、だから僕はっ!」
『冥界の力』を溢れさせながら、
羊は人族に『恨み』が在るとそう言った。
「・・・まじか?」
「・・・メ、メルっ!?」
突然その表情が厳しくなると、
先程までとは打って変わって怒りの表情を浮かべた悠斗に、
羊は気圧され後ずさった・・・。
「・・・なぁ・・・羊君・・・その人族・・・
そいつが誰かわかるか?」
王道ではあるが悠斗は両拳を『バキっ!ゴキっ!』と鳴らして見せると、
『俺がそいつらを始末してやる』と言い始め、
その目が血走っているのが見て取れた・・・。
「お、お前がっ!?な、何を言ってるメルっっ!?
お前達と同じ・・・人族じゃないメルかっ!?
それなのに・・・し、始末ってっ!?」
羊は悠斗の言葉と態度に驚きを隠せなかった。
同じ人族であるにも関わらず、
悠斗が『始末してやる』と言ったからだった。
『冥界の羊』の特徴としてあげられるとすれば、
それは・・・『感応力』である。
一般的にはその見た目の愛らしさとは違って、
その底知れない『パワー』が注目されがちだが、
それはこの『冥界の羊』の上澄みでしかない。
『冥界の羊』の最も優れている所は、
『感応力』なのである。
相手の内心を読み取り行動する・・・。
例えそれが戦闘でも交渉でも・・・。
『冥界の羊』の最も優れているのは『感応力』なのである。
(こ、この人族は本気でそう言っているっ!?
こ、こんな人族が居るだなんて・・・。
あっ、でも今日戦ったあの『人族の男』も、
中々面白いヤツだったメル・・・。
ま、まぁ・・・かなりハチャメチャだったメルけど・・・)
『がるるるる』と怒る悠斗に羊は『ふっ』と笑みを浮かべると、
その笑みを向けたまま声を掛けたのだった。
「なぁ・・・お前・・・。
面白い人族なんだメル」
「・・・ん?面白い?」
「フフフ・・・お前面白い。
ねぇ・・・名前、教えるメル♪」
そう笑顔を向けたまま優しい声で話す羊に、
悠斗は怒りの形相を押さえ微笑みながら答えた。
「あぁ、いいよ・・・別に名前くらい・・・。
俺の名は悠斗・・・。
神野 悠斗だ・・・宜しくな、羊君」
そう言いながら悠斗はしゃがみ込みながら右手を差し出すと、
羊もまた笑顔を向けたまま右手を差し出しこう言った・・・。
「宜しくメル・・・ユウト♪
僕の名は・・・『スターク』
『赤霧のスターク』って言うんだ・・・宜しくメルっ♪」
そう名乗った羊に悠斗は『おぉ~』と驚きの声を挙げると、
『2つ名持ちってすげーっ!』と感動したようだった。
そんな悠斗に『スターク』は『えへへ』と身体をくねらせ始めると、
突然・・・頭上から不機嫌そうな声が発せられた・・・。
「おい・・・貴様ら・・・」
「ん?」
「メル?」
「俺を無視するとはいい度胸だな?」
そう不機嫌そうな声を発すると同時に、
ヴァンの身体から凄まじい『冥界の神力』が放出された。
「くっ!こ、この風はっ!?」
「メルっ!」
その神力が突風を巻き起こすと、
容赦なく悠斗を包み込み始めると、その渦の威力が徐々に上がり始め、
それはやがて竜巻へと進化し、あっと言う間に悠斗を飲み込んだ。
(ちっ!この風・・・お、重いし硬いっ!?
ど、どうなってんだよっ!?)
悠斗がそう舌打ちをした時だった・・・。
突然竜巻の渦の外から羊である『スターク』の声が聞こえ、
悠斗はその声を聞く為意識を集中した。
「おいっ!止めるメルーっ!
ヴァンっ!?一体何やってるメルっ!?」
「フンっ!何をやっているって・・・
見ればわかるだろ?
この俺を無視したからこの人族を懲らしめようとな?」
薄く笑みを浮かべたヴァンにスタークは顔をヒクつかせると、
『止めるメルゥゥゥっ!』と怒声を発しながらみるみる・・・
その小さな体を赤く染め始めた・・・。
「・・・スターク、まさかとは思うが貴様・・・
この俺とやり合うつもりか?」
「あ、当たり前メルっ!?
初めて好感持てる人族に出会えたメルっ!
そんな人族を・・・ユウトを虐めるなぁぁぁぁぁっ!
メルゥゥゥゥゥゥゥっ!」
「・・・フンっ!いいだろう。
どの道俺を倒さねばこの竜巻は永遠に消えん・・・」
「メルゥっ!」
今すぐにでも戦闘が始まりそうな状況でふと・・・
悠斗は不思議に思った。
(・・・どうしてヴァマント達は何も言わないんだ?
どう考えたっておかしいだろっ!?)
悠斗は無言を貫くヴァマントに対し念話を試みたが、
それはヴァンが作り出したこの竜巻に阻まれ弾かれたのだった。
「くそっ!どうすれば・・・」
時は少し戻りヴァンがその姿を現した時に戻る・・・。
玉座で頬杖を着くヴァマントとサンダラーは、
念話を通じて話し合っていた・・・。
{姉ちゃん・・・これでいいんだよな?}
{あぁ・・・念の為、ヴァンのヤツに話しておいて正解だったわ}
{いや、でもよ・・・。
別にヴァンパイアの連中でも良かったんじゃ・・・?}
そう会話しながらサンダラーは無意識にその視線を向けると、
玉座で頬杖を着くヴァマントは、
竜巻に飲み込まれている悠斗に真剣な眼差しを向けていた。
{ね、姉ちゃん・・・もしかして・・・?}
{・・・そうよ}
静観し何も行動を起こさないヴァマントの意図を汲むと、
『それだけユウトに期待してるって事か?』と、
ポツリと言葉をこぼしたのだった・・・。
{ふっ・・・そうではない・・・}
{・・・そうではない?}
{えぇ・・・。
あの坊やに期待などこれっぽっちもしていなかったわ・・・。
ただ、絶に貸しを作るのと、
アスラを含めこれから先の事を考えた時、
もしかしたら・・・。
ただそう思っただけよ。
そしてもし・・・私の期待を裏切る者だった場合、
いくら絶が怒っても、坊やは無に帰すつもりだったわ}
{・・・無に帰すって・・・姉ちゃん・・・。
そんな事をしたら絶様とやり合う事になるんだぞっ!?
わかってんのかよ?}
{えぇ、勿論その時は・・・ね。
今の私達には現状・・・アスラとやり合う力はないでしょ?}
{まぁ~な・・・。
立場上、分体をあちこちに派遣し過ぎて、
アスラとやり合うだけの力はないな・・・。
それに『最高神様』の命が在る以上、
俺達はその『分体』を戻す事が出来ない。
もし『命』に背けば俺達『神』は堕とされちまうからな}
{・・・全く、歯痒いったらありゃしないわよ。
私達の代わりに・・・ってのも気に入らないけどね・・・}
{・・・全くだぜ}
『キュっ』と唇を噛み締めたヴァマントは、
握り締められたその拳を更に握り締め、
何も出来ずに居る自分自身の無力さを痛感していた。
そしてそれはサンダラーも同様であり、
『神』である不自由さに苦悩するのだった・・・。
{全世界の治安維持・・・。
フッフッフッ・・・聞いて呆れるわね・・・。
神が成すはずの行為を、たかが人族に任せなければならない・・・
私達は何の為の『神』なのよ?
今更だけど『神』になった事を後悔しているわ・・・}
{・・・姉ちゃん}
そう念話で語りながらヴァマントが悔しさを滲ませていた時だった。
『メルゥっ!』と気合いの籠る声がこの『玉座の間』に響くと、
ヴァンとスタークの両者が激しく衝突した。
『ドンっ!ドドーンっ!』
羊であるスタークが力を解放すると、
その白き体毛を変化させ『赤い体毛』をその身に纏った。
「メッルゥゥゥゥゥっ!」
気合い一発・・・。
スタークが雄叫びと共に駆け出すと、
途轍もない速さで移動し冷笑を浮かべるヴァンの背後を取った。
「メルメルメルゥっ!」
スタークの握り固められたその拳が、
背後を取られたヴァンの後頭部に迫るも、
『パシっ!』と難なく掴まれ、
驚きの表情を見せた小さな身体のスタークに容赦なく蹴りが放たれた。
『バキィィィィっ!』
『メギャっ!』
その強烈な蹴りに悲痛な声を挙げたスタークは、
『玉座の間』の壁にぶち当たるとその威力の為、
小さな身体をめり込ませ、口からは夥しい量の鮮血が飛び散った。
「メ・・・メッ・・・メ・・・ル・・・」
「おい・・・スターク。
先程までお前は『人界』で戦った後なのだぞ?
ダメージも抜けきらないお前に一体何が出来ると言うんだ?
その実力の半分も出せない状態で・・・フッフッフッ。
この俺と殺り合うだなんてな~?
いい加減諦めろ」
スタークはそのめり込んだ壁から必死に藻掻き抜け出るも、
その1つ1つの動きを見ていれば、
もう余力がない事は分かりきっていた・・・。
「ま、まだだ・・・メル・・・。
そ、それにユウトが・・・こ、此処に居るって事は・・・
ユ、ユウトに・・・な、何かある・・・からメル・・・
だ、だから僕は・・・あ、諦めない・・・メル・・・」
「・・・幻滅したぜ・・・スターク」
だがそれを見ていたこの『玉座の間』に居た者達は、
ただ・・・見ているだけ・・・。
助ける事もせず・・・言葉を発する事もなく・・・。
そんな時だった・・・。
未だヴァンが放った竜巻の渦の中に居た悠斗に、
突然ヴァマントから念話が届いた。
{・・・いいのかい・・・坊や?
いつまでそんな所で油を売っているつもりだい?
このままだとあの子・・・死んじゃうけど?}
{・・・くっ!}
(坊やが焦れば焦るほど・・・
あんたはドツボにはまるのよ・・・
学びなさい・・・坊や・・・そして私に見せなさい・・・
あの『鬼神・絶』が期待する『力』をね)
{ヴァマントっ!どうしてスタークを助けないんだっ!?
あいつはこの冥界の住人なんだろっ!?}
{あぁ・・・そうさ・・・。
ヤツは私が治めるこの冥界の森の住人さ・・・。
だからこそ・・・止める訳にはいかないのよ。
それはあの子も充分理解しているはずよ?
フッフッフッ・・・それがこの冥界の掟よ}
{・・・お、掟ってっ!?
く、くだらない・・・くだらないぜ・・・ヴァマントっ!}
{今、あの子を何とか出来るのは坊や・・・
いえ・・・ユウト・・・あんたしかいないのよ?
さぁ、どうするのよ・・・ユウト}
悠斗は竜巻の渦の中で何もしていない訳ではなかった。
その拳を竜巻にぶつけ渦の壁を破壊しようと何度も試みたが、
その強固な渦の壁はびくともしなかったのだった・・・。
藻掻き苦しむ中・・・ヴァマントの念話が送られ、
そう言われた悠斗はその瞳を閉じ思考の海に潜った・・・。
(ん?坊やから出ていた焦りが・・・消えた?
どう言う事なのよ?)
『ドンっ!』と再び衝撃音が地面を伝わり悠斗に届くと、
『カっ!』と目を見開き『コォォォォっ!』と呼吸音を変えた。
(・・・坊や?)
勿論今の悠斗は魂だけの存在である・・・。
そしてその身体は『擬体』である・・・。
従って呼吸音を変える意味はないのだが・・・。
だが何故か悠斗はこの時、『気道』の呼吸を無意識にしていた。
生身ではない悠斗の行動にヴァマントは集中し、
その行為に眉間に皺を寄せていた・・・。
(さぁ・・・坊やっ!
その可能性の一歩を踏み出しなさいっ!)
『コオォォォォォォっ!』
『全身全霊を以って・・・この渦の壁を破壊するっ!』
そう力強い意志の元、
見開かれたその瞳が渦の壁の向こうへと向けられた・・・。
そして一歩・・・踏み出そうとした時だった・・・。
ある人物から念話が送られその動きをピタリと止めた。
{ユウト様・・・聞こえますかな?}
{ラ、ライトニングさんっ!?
と、止めないでくれっ!今はっ!}
{その壁は力任せにどうにか出来るような代物では御座いません}
{わ、わかってるよっ!で、でも俺はっ!}
{まずは焦りと怒りをお鎮め下さい・・・。
でなければ突破口など見つける事は出来ませんよ?
力づくなどはまさに愚の骨頂・・・。
己の中に在る力を信じなさい}
{・・・己の中に在る力って言われてもさっ!}
{もう一度言いますがユウト様・・・。
意識を己の内側へと向けるのです。
そして見つけなさい・・・己の魂に刻まれている力をっ!}
ライトニングの声は悠斗に冷静になるよう促し、
その声に悠斗はこの地で経験した事を思い出していた・・・。
「己の魂に刻まれる・・・力・・・」
ライトニングに諭された悠斗は、
『魂』と言う言葉に険しい表情を浮かべると、
目を静かに閉じ再び思考の海へと潜った・・・。
(力と言えば俺の魂に刻まれた鬼の力・・・。
だけどその力は生身の時ほど及ばず、
ただ赤い霧と化した鬼の気が螺旋状に・・・)
悠斗はライトニングの言葉に螺旋状に立ち昇る鬼の気を思い出すと、
集中力を高めイメージを膨らませていった・・・。
嵐吹き荒れる竜巻の渦の中で悠斗は、
両足を肩幅に広げ更にイメージを増大させていった。
すると『ゴォーゴォー』と五月蠅い風の音が消え、
渦の壁の外の様子が感じられるようになっていった。
(こ、この感覚は・・・?)
今、この時もスタークはボロボロになりながらも、
悠斗の為にヴァンと戦っていた・・・。
(・・・スターク・・・すまない・・・
今の俺には・・・こ、この渦は・・・)
壁の外の様子が感じられた事によって、
悠斗の集中力が乱され、再び焦りが生まれ始めると・・・。
{ユウト様・・・}
{・・・す、すみませんっ!}
『可能性はユウト様の『魂』の中に・・・』
ライトニングの声に助けられた悠斗は、
自分の魂に刻まれた力を感じ取り始めた・・・。
(・・・何だ・・・この霧は?)
意識の中に居た悠斗は大きな空間の中で1人佇んでいた。
だがその広い空間の中に立ち込める赤い霧に、
その視界が防がれていたが、奥に・・・
何かが・・・。
誰かがいる気配を感じた・・・。
(これは・・・何だ?
ひ、人の・・・人の気配っ!?
俺の中に・・・誰か居るのかっ!?
い、いや・・・でも・・・何だろ?
何だかとても懐かしい感じがするな・・・)
悠斗は感覚が教えるまま、
その『赤い霧』の空間の中を歩いて行った・・・。
そして何かを感じ取り、悠斗の伸ばされた腕が、
一瞬・・・ソレに触れたのだった・・・。
「え・・・?えぇっ!?こ、この人って・・・っ!?」
『・・・ユウト』
「メ、メル・・・っ・・・」
『ドサっ!』
赤い体毛を纏ったスタークが地に倒れるも、
その瞳はまだ戦う意思を捨てていないようだった・・・。
「おいおい・・・もうそのくらいでいいだろ?
正直ここまで戦えるお前に俺は驚いている・・・
流石はライトニングの血縁なだけはあるな・・・」
「あ、あきらめ・・・ないメル・・・
ぼ、僕が・・・僕がユウトを・・・助ける・・・メル」
ボロボロの身体を奮い立たせて、
スタークは震える足を掴みながら必死に立ち上がろうとした。
「・・・終わりだ、諦めろ」
「・・・メルゥ」
『シュっ』と音を立てながら赤かった体毛が白に戻ると同時に、
ヴァンは悲し気な目を向けながらその拳を振り下ろした。
だが・・・。
「・・・んっ?」
瀕死だったスタークの姿はそこにはなく、
その現状に唖然としている時だった・・・。
『無茶しやがって・・・お前は・・・』と、
ヴァンの耳にその声が聞えたのだった・・・。
「メっ・・・メルっ・・・」
「なっ!?」
勢いよく振り返ったその先に、
ボロボロになった羊を抱きかかえる悠斗の姿があったのだった。
『お、お前・・・どうやって?』
「・・・あぁ~、あの竜巻の事か?
あんな壁・・・斬り捨ててやったよ・・・」
そして今更ながらヴァンは気付いた・・・。
あれだけ唸っていた風の音が消え去っていた事を・・・。
「斬り・・・捨て・・・た?
い、いつ・・・?」
ヴァンは竜巻が吹き荒れていたはずの場所に慌てて視線を向けると、
その荒れ狂っていたはずの竜巻がいつの間にか消え去っていた。
「・・・ど、どうやって?
どうやって出て来たんだぁっ!?
な、何も・・・何の気配もなかったぞっ!?」
悠斗は怒鳴るヴァンに鋭い視線を向けると、
不敵に笑みを浮かべてこう言った・・・。
「お前がスタークを・・・
俺の友達を夢中でいたぶっていたせい・・・だろ?
それにさ~・・・
いつまでも囀ってんじゃねーよっ!
いい加減黙れよ・・・」
「・・・嘘・・・だろ?
友達って貴様・・・何をほざいていやがる?」
「お前・・・ヴァンと言ったよな?
必ずぶっ飛ばすから黙って少し待ってろ・・・」
羊を抱えたまだ少年っぽさが残る悠斗の瞳に、
ヴァンの身体が『ブルっ』と震えるのを感じたのだった・・・。
ってな事で・・・。
今回のお話は楽しんで頂けたでしょうか?
『羊』・・・いいですよねw
昔に一度、羊の毛を狩る体験をさせて頂いたのですが、
かなりドキドキした事を思い出しましたw
・・・懐かしいw
まぁ~そんな感じでふと思い出しましたが、
ストックはまだありますので、ご安心下さいww
来週もいつも通りにアップしますのでww
ってなことで、緋色火花でした。




