204話・擬体
お疲れ様です。
今回はマニアックな話となっており、
興味のない方には大変申し訳なく思っておりますが、
楽しんで頂けるよう頑張りましたw
少しゆっくり目なストーリー展開となっていますが、
内容を濃くして行きたいと思っておりますので・・・。
それでは、204話をお楽しみ下さい。
『さて、坊や・・・。
早速で悪いが『擬体』に入ってもらおうか?』
「・・・はい?」
悠斗は突然そう告げられると首を傾げてしまっていると、
ヴァマントは傍に控える『ライトニング』に説明を任せた。
「はい、かしこまりましたヴァマント様・・・」
足音もなく歩き始めた『ライトニング』は、
悠斗の傍まで来ると『マジックボックス』を開き、
その中から1体の『擬体』を取り出した。
「・・・これが擬体?」
少し不思議そうな表情を浮かべる悠斗に、
ライトニングは『はて・・・?』と首を傾げると、
悠斗に質問していった。
「ユウト様・・・。
この『擬体』に何か問題でも?」
そう問われた悠斗は素直にその質問に答えていった。
「えっと~・・・。
その『擬体』ってさ・・・。
俺の知っている『擬体』と少し違う気がする」
「・・・ふむ」
顎に手を当て考える素振りをして見せたライトニングは、
振り返りヴァマント達にこう尋ねた・・・。
「失礼ですが彼・・・。
ユウト様はどこから参られたのでしょうか?」
その問いにヴァマントは、
『そう言えば話していなかったな?』と返答すると、
悠斗が『創造神・ラウル』の創り出した星から来た事や、
ある程度の経緯を話したのだった・・・。
「なるほど・・・でしたら『擬体』も多少違っているのでしょうな?
ならばヴァマント様、今少しばかりお時間を頂きたく・・・」
そう頭を垂れながらライトニングが申し出ると、
ヴァマントは『うむ』と簡素に返答した。
『有難き・・・』と呟いたライトニングは、
早速悠斗に『擬体』について話をし始めたのだった・・・。
「ユウト様・・・。
簡潔に申しましてそちらと違う点は、
その素材の違いが大きいものと考えられます」
「・・・素材?」
「・・・はい。
我が主が住まう世界での『擬体』の『第一条件』と致しましては、
まず、見た目が何ら他の人族と変わらぬ事・・・。
それが最も重要視されているのです」
「・・・見た目が変わらない・・・か・・・」
「・・・左様で御座います。
ユウト様の世界ではどのような『擬体』なのでしょうか?
もし良ければこの私めにお教え願いたいのですが?」
礼儀正しく頭を下げそう尋ねて来たライトニングに、
悠斗はその丁寧な物言いに素直に応える事にした。
「俺の居たノーブルでの『擬体』は、
皮膚も堅く柔軟性に欠けたモノで、
簡単に言えば・・・『マネキン』
いや、『人形』に近い感じですかね?」
「ほう~・・・」
「あと言えるとすれば・・・。
戦闘においてはその中に宿った者の力を、
充分に発揮出来る代物ではないだろうと予測出来るし、
恐らく・・・中に入っている者の負担も大きいかと・・・」
悠斗の説明を興味深く聞いていたライトニングは、
更にこう質問したのだった・・・。
「・・・ユウト様?
そのような代物では誰にでも『擬体』だとバレてしまうのでは?」
その質問に悠斗は数回頷くと、
『恐らく・・・』と話を続けていった。
「中に入ってる者・・・。
つまり俺の居た世界では主に『神』が使用していた。
だからその中に入っている神が、
『神力』か何かで違和感をある程度感じさせなくしている、
と、俺はそう考えているんだけど・・・」
「ほうほう・・・神がご使用なさるのですね?」
「・・・ん?」
悠斗はライトニングの物言いに首を傾げると、
その理由を尋ねていった。
「神が使用なさるってのは?」
「あぁ~なるほど♪
ユウト様の世界では人族が使用される事はないのですね?」
「あ、あぁ・・・人族が使用する意味もないと思うからね」
「なるほどなるほど~・・・。
我が主の世界では『魔族』であったり、
また、正体を知られたくない『人族』
主に『貴族』ですが、それなりに『擬体』というモノは、
出回っております。
そして我が主もまた・・・訳有って使用されております」
「・・・その主って人、
まさか・・・悪い人なのか?」
悠斗の目に力が宿り真っ直ぐ見つめながらそう言うと、
慌ててライトニングは『滅相もない』と否定した。
「我が主と言うのは・・・『元・勇者』なのです」
「・・・ゆ、勇者っ!?」
「はい、今は冒険者として生計を立てておられますが、
それにもちゃんとした理由が御座いまして・・・」
「・・・今は冒険者。
ライトニングさん・・・。
その理由ってのは聞いていいのか?」
悠斗の問いに少し渋い表情を浮かべたライトニングは、
数回首を横に振ると『私の一存では・・・』と断って見せた。
『わかった・・・すまない』と答えた悠斗に、
優しい笑みを浮かべたライトニングは、
『擬体』についての説明を続けていったのだった・・・。
「擬体そのものの戦闘力は置いておくと致しまして、
まずその『皮膚』についてご説明致しましょう・・・」
悠斗はライトニングの傍に在る『擬体』の『皮膚』を見ると、
『確かに人のような皮膚だな』と食い入るように見ていた。
そんな悠斗に顏が綻ぶライトニングは、
『コホン』と咳払いをすると説明に入っていった。
「我々の擬体の皮膚の素材は主に・・・。
Aランク以上の魔獣の皮膚を用いる事が多いのです」
「・・・Aランク以上?」
「はい、Aランク以上の素材でなければ、
人族の皮膚のように加工する事が大変困難なのです」
「・・・困難とは?」
「はい、擬体の皮膚へと加工するのには、
様々な種類の薬品を使用したり、
より精巧なモノとなりますと魔力をも使用するのです」
その話に疑問を持ち首を傾げた悠斗は、
口を開き質問し、その質問にライトニングも答えていった。
「Bランクの素材でAランク並みには出来ないのか?」
「はい、Bランクの素材ですと、
まず、コストがかなりかかってしまいます。
設備に関しても大掛かりなモノになっり、
およそ2倍以上・・・費用などもかかってしまいますね。
それでも出来なくはありませんが、
完成したモノを見ると一目瞭然でしょうな」
「・・・コストがかかるのはちょっとな~。
あと設備投資の事も考えると確かにリスクが・・・」
「はい、ですから最初からAランク以上の素材を使用する方が、
あらゆる面で優れているのですよ」
「なるほどな~」
そんな2人の会話を静かに見守っているヴァマントは、
隣にいる『男』を見た時、ふとこんな事を呟いたのだった・・・。
「そう言えば・・・あんたの事、
あの坊やに話したっけ?」
「・・・あぁ~・・・っと・・・まだだな。
でもあの会話の弾みようを見たら、後の方がいいんじゃないか?」
「・・・そ、そうね。
それにしてもあの坊や・・・。
あんなに瞳をキラキラさせちゃって・・・。
どことなく、我が愛しの『ユウナギ様』に似ているわね~?」
「・・・そうか~?
『魔道具や魔道機』の話をしている時の『兄貴』の方が、
もっっっっと無邪気だろ~?」
「そりゃ~ね~♪
あの御方は『天才』だもの・・・フフ♪
でもきっとあの坊やも・・・
何かしらやってくれそうな気にさせる『男』だと思うわ」
「へぇ~・・・。
姉ちゃんが『兄貴』以外の『男』を認めるとはね~?」
玉座附近でそんな事を話していたヴァマント達を他所に、
悠斗とライトニングの会話は『関節』の話から、
『戦闘面』の話へと会話を移行させていた。
「ライトニングさん・・・」
「はい、何でしょうか・・・ユウト様」
「その擬体って戦闘面ではどうなんだ?」
「・・・戦闘面とはどういった事でしょうか?」
「例えば生身と違いこんな事が出来る・・・とか?
そう言った戦闘面での特性って言うか・・・」
そう質問する悠斗にライトニングも楽し気に話していった。
「ほっほっほっ♪
ユウト様はかなり研究熱心な御方なのですね?
大変好ましく思いますよ」
「・・・あはは」
「では、次は戦闘面での大まかではありますが、
説明させて頂きましょう・・・」
そう楽し気に話すとライトニングは『擬体』の背中を見せると、
左の肩甲骨の下辺りに触れ軽く押した・・・。
するとその軽く触れた箇所が、
縦横5cmほどの正方形に溝が出来ると横へとスライドした。
そしてその中には車のシガーソケットのようなモノがあり、
ライトニングはその中に魔力を流し始めたのだった・・・。
「・・・魔力を?」
「はい、この擬体の機能を御見せするのには、
こうした方が手っ取り早いかと思いまして・・・」
軽く微笑んでそう説明する中、『ウィーン』小さな音が聞こえ、
悠斗は音がした方へと視線を移した。
「・・・えっ!?こ、これってっ!?」
「ユウト様はこれが何かお分かりになるのですね?」
「あ、あぁ・・・わ、分かるも何も・・・
これって・・・スラスター・ノズルじゃ?」
「・・・ほっほっほっ♪ご明察です♪」
悠斗は驚きの表情を浮かべると、
左足のふくらはぎ辺りから左右と後ろの3箇所に出現した、
『スラスターノズル』を興奮気味に見ていた。
「・・・こ、こんなモノが擬体にっ!?」
「ほっほっほっ♪ユウト様・・・。
この擬体は我が主が製作したモノですので、
我々の世界でも、かなり特殊な部類かと・・・♪」
「す、すげーな?
ライトニングさんの主って・・・」
「お誉め頂き光栄で御座います♪」
食い入るように脚部の『スラスター』を見る悠斗に、
ライトニングは後方に居るヴァマント達へと視線を向けた。
するとヴァマントは笑顔を浮かべながら肩を竦めて見せると、
ライトニングの頬もにこやかに緩んだのだった・・・。
悠斗はライトニングが持参した『擬体』を見回し、
『うおっ!?』と何度目かの唸り声を挙げた時だった・・・。
実に興味深く見ていた悠斗は突然真顔になると、
視線を『擬体』へと向けたまま残念そうに口を開いていった。
「なぁ~、ライトニングさん・・・。
魔力で動くって事は・・・今の俺には無理じゃね?」
「・・・?」
「だってさ・・・俺、魂だけの存在だからさ、
この中に入れたとしても操れないだろ?
実際今の俺はこの擬体に触れる事も出来ないんだから・・・」
残念そうにそう口を開いた悠斗に、
ライトニングは微笑みながらこう答えたのだった・・・。
「ご心配ありません・・・ユウト様。
この擬体の原動力は体内に埋め込まれている『魔石』ですので、
ユウト様が魂だけであろうと関係御座いません」
「・・・ま、まじ?」
「まじ・・・で、御座います」
ライトニングがそう答えると悠斗は、
ヴァマントへと視線を向け『どうやって入るんだっ!?』と、
やや興奮気味に口を開いたのだった。
子供のようにそう尋ねて来た悠斗にヴァマントは、
『・・・坊やはやっぱりユウナギ様に似ているわね』と、
優しい笑みを浮かべながらそう呟くと、
『私をどれだけ待たせるのよっ!』とわざと悪態付いて見せた。
そしてゆっくりと悠斗の所まで歩いて来ると、
この『擬体』への入り方を説明し始めたのだった・・・。
「坊や・・・。
この擬体に入る方法は坊やの魂の波動を、
擬体に内蔵されている『魔石』に記憶させるだけよ」
「た、魂の波動って・・・何?」
『・・・・・』
悠斗の発言にこの場に居た者達は唖然とし、
ヴァマントは『創造神はちゃんと仕事しているのっ!?』と、
ライトニングに愚痴を漏らしていた・・・。
そして『ふぅ~』と溜息を漏らしたかと思えば悠斗に向き直り、
その説明を面倒気に話していった。
「まぁ~別段・・・。
坊やが何か特別な事をしなくちゃいけない訳じゃないわ。
ただ坊やはこの擬体に内蔵されている魔石へと、
手をかざすだけでいいのよ」
「・・・そ、それだけでいいのかっ!?
・・・わ、わかった」
横目でチラっとヴァマントを見ながら、
悠斗は擬体に向かって手をかざすと、
『ヴァマント、これでいいのか?』と尋ねた・・・。
するとヴァマントの片眉が『ピクリ』と動き、
一瞬ライトニングへと視線を移すと、
『どうして私は呼び捨てなのよっ!?』と声を荒げたが、
悠斗は『そんな事は気にするな』と素っ気なくそう言った・・・。
その言葉に『イラっ』としたヴァマントは、
悠斗に『感知』されないように『感知遮断』のスキルを使用すると、
ライトニングに『念話』飛ばしたのだった・・・。
{ライよ・・・}
{はい・・・何で御座いましょうか?}
{この坊やってまさか・・・。
ユウナギ様が前におっしゃっていた、
噂の最強生物・・・『天然』ってヤツじゃないの?}
{・・・奇遇ですな?
私めも今、同じ事を思っておりました}
{・・・くっ、や、やり辛いわね}
諦めが着いたのかヴァマントは項垂れると、
悠斗の問いに『そうそう、それでいいから・・・』と、
素っ気なく返答された。
暫くしてかざした悠斗の手から、
『淡い光』が細い糸となって、擬体の中へと吸収され始めた。
「・・・こ、この糸って?」
「ほっほっほっ♪
その光の糸こそがユウト様の『魂の波動』で御座います。
そしてもう少しすれば・・・
そう・・・。その様に擬体が光り、
擬体の中の魔石がユウト様の魂の波動を記憶したと知らせるのです」
悠斗の目の前で擬体が魂の波動を記憶した事を知らせる光を放つと、
やがてその『擬体』は『悠斗の容姿』に姿を変え、
その擬体は完全に『悠斗専用』となったのだった・・・。
『専用』となった『擬体』を前に、
悠斗が微動駄にしなくなり、首を傾げたライトニングは、
『どうかされましたか?』と声を掛けた、
「・・・まさか擬体が自分そっくりになるとは思わなくてさ」
「ほっほっほっ、初めて目の当たりにするのですから、
驚くのは致し方がないかと・・・」
「驚くって言うよりも・・・キモい」
「・・・はい?」
ライトニングは悠斗の顏を覗き込んだ時、
その表情が引き攣っている事に苦笑いを浮かべるしかなかった。
するとその後方から『カミノ・ユウト』と、
悠斗の名を呼びながら歩いて来る『男』に視線を向けた。
「あんたは誰だ?」
悠斗のやや鋭い視線に顏を顰めたその男は、
頭を『ボリボリ』と掻きながら『今更だが・・・』と、
その口を開いていった・・・。
「俺の名は『サンダラー』そこの『ヴァマントの弟』であり、
この『冥界の王』だ」
「へぇ~・・・」
悠斗がそう言った瞬間だった・・・。
突然『貴様ぁぁっ!今なんっつったぁぁぁっ!?』と怒声を挙げ、
『青紫色の神力』を纏わせたその拳が、
『冥界の王・サンダラー』の顔面を捉え・・・
『グシャっ!』と思わず目を閉じてしまいそうな音を立てると、
『ぷぎゃっ!』と妙な声を挙げながら、
『玉座』の後方に在る壁を突き抜け、
何処かへと飛んで行ってしまった・・・。
「フンっ!偉大な姉であるこの私にっ!
『そこの』ってっ!無礼にもほとがあるでしょっ!?
・・・また後で『修正』しなくちゃね」
怒り心頭なヴァマントを見ていた悠斗は、
心の中で『やっぱり逆らっちゃいけないと人っているよね?』と、
そう感想を漏らすと、
『それがこの世の摂理なれば・・・』と、
何故かライトニングから『念話』が送られて来たのだった。
そして気を取り直した悠斗は、
ヴァマントから『専用』となった『擬体』の入り方の説明を受けた。
「坊や・・・。
この擬体に入るには『キー』となる言葉を言わねばならん」
「・・・キー?」
「うむ、まぁ~、この擬体は坊や専用となったから、
自分の好きな言葉を『キー』とすればいいわ」
「・・・んー。ヴァマント」
「・・・何よ?」
「ちょっと時間もらっていいか?」
「・・・えぇ、坊や専用だから、
好きな言葉にするといいわ・・・」
「・・・わ、わかった」
悠斗は『自分専用』となった『擬体』を凝視すると、
そのまま座り込み『胡坐』をかくと『うーん』と唸り始めた。
それを見ていたヴァマント達はお互いに顏を見合わせると、
『・・・謎な子よね?』
『・・・そう・・・ですな』と苦笑いを浮かべ見守っていた。
するとヴァマントは『じゃ~今のうちに』と呟くと、
誰かに『念話』を送り何かを手配した。
それを見ていたライトニングは、
『武器はどのように?』と口を開くと、
ヴァマントの表情はどこか妖艶に笑みを浮かべ・・・。
『ユウナギ様の刀を・・・』
「はっ、承知致しました」
ヴァマントの言葉に頭を垂れた瞬間、
ライトニングの表情は含んだ笑みを浮かべて居た。
そしてそのまま姿を消すと、
ヴァマントの目の前で未だに唸る悠斗に笑みを浮かべたのだった。
ってな事で・・・。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
『擬体』のお話なので、賛否はあるかと思いますが、
緋色なりに頑張ったつもりです。
これからも応援宜しく御願い致しますっ!
ってなことで、緋色火花でした。




