外伝・第1部・31話・完・ノーブル・謎の一団・後編
お疲れ様です。
今回で『外伝1シリーズ』は完結します。
お疲れ様でした。有難う御座いましたっ!
未だに『ベルフリード編』は最初にやっておくべきだった・・・。
その後悔が・・・><
次の『外伝シリーズ』では、
今回みたいな事がないようにしようと思いますw
それでは、外伝・最終話をお楽しみ下さい。
先行する『グラフィス達』は目的地へと辿り着く少し前、
後続に残した『バックス』から『通信』が入った・・・。
{ナイアド様、バックスです。
たった今『イオ様』率いる後続部隊が到着致しました}
「なっ!?ど、どうしてイオがっ!?」
『ナイアド』のその慌てた声に、
『グラフィス』が馬で駆けながらも頭を抱え顏を顰めていた。
すると『バックス』からの返答を遮るように、
その腕を掴み引き寄せると、
アクロバティックな態勢となる事も構わず、
『イオ』の張り上げたその声は、『ナイアド』の耳をつんざいた。
{お兄様っ!お兄様っ!?
聞こえておられますかっ!?}
「イ、イオ・・・お前はなんとはしたない・・・。
容姿とは伴わないその勝気さ・・・
も、もう少し何とかならないのか?」
そんな『ナイアド』の声を無視するかのように、
『イオ』の男勝りな声は響き続けた。
{そんな事、今はどうでもいいですっ!
お兄様達は今どの辺りなのですかっ!?
こちらは既に走り続けていますので、
早急に道をお教え下さいっ!}
その響き渡る勇ましい声に、
『グラフィス』と『ナイアド』は訝しい表情を浮かべ、
溜息を吐いたのだった・・・。
そして『ナイアド』は道を示すと返答する事もなく、
『ブチっ!』と『通信』が切断されると一度堅く目を閉じ、
顏を引き攣らせながら『魔石』に向かって声を挙げた。
「イ、イオっ!?お、おいっ!イオっ!?
・・・あ、あいつ・・・一方的に言いたい事だけ言って・・・」
『悠斗』の作った『魔道具』の灯りに照らされながら、
夜道を駆ける『父と兄』は再び溜息を吐くと内なる想いを漏らした。
「どこでどう間違ったのか・・・?
あやつは何故もっと女性らしく『上品』に出来んのだ?」
「・・・父上、イオのヤツはもう修正は利かぬかと?」
「ぐぬぬぬぬ・・・
何とも嘆かわしい・・・
あんな風だから、男の1人も出来ぬのだ・・・」
「・・・ははは」
『ナイアド』は顔を引き攣らせ『グラフィス』が嘆いていた時、
追従する1人の騎士が声を挙げた。
「グ、グラフィス様っ!街道に出るようですっ!」
その声に一言『うむ」と発すると、
表情を引き締めながら『ナイアド』に指示を出した。
「ナイアド、ライトに通信を送り、
『敵』に悟られぬよう『魔道具』の灯りを消せっ!」
「はっ!」
『敵』を追従する『ライト』に連絡を取った『ナイアド』は、
待ち伏せに成功した事を安堵するも『魔道具』の灯りを消させ、
冷静にこれから劣勢となる戦いに集中し始めていった・・・。
「まずは相手の足を止めねばならぬな・・・」
『グラフィス』の呟きに反応した『ナイアド』は、
ある一計を案じた・・・。
「父上・・・こういう策はいかがでしょう?」
そう進言した『ナイアド』は『グラフィス』の許可を取り、
追従させていた騎士と共に馬から降りると、
その『策』の準備に取り掛かった・・・。
そしてその『策』が整い『グラフィス』の馬の手綱を握ると、
その『グラフィス』が口を開いていった・・・。
「よいかっ!これから始まる戦いは、
奇襲をかけるものの、こちらが不利となる戦いだっ!
だがここを乗り切ってこそ騎士と言うもの・・・
己の中に在る『騎士道』を呼び起こせっ!
戦闘準備ぞっ!」
『はっ!』と『ナイアド』と騎士が威勢の良い返答をすると、
『グラフィス』は『個々の奮闘に期待するっ!』と告げた。
そして暫くすると、多数の馬の蹄の音が暗い街道に響き渡り、
それと同時に『ライト』から再び『通信』が入った・・・。
{ナイアド様っ!そろそろですっ!}
「うむ、今しがた、多くの馬の蹄の音を確認した」
{では、そちらが戦闘に入った後、
こちらも僅か2名ではありますが、戦闘に介入致します}
「僅か2名か・・・。
しかしながら助成とは有難い・・・頼むぞ」
「はっ!」
『魔石通信』を切った『ナイアド』は、
暗闇の中『グラフィス』を見ると、
『フフフ・・・滾ってくるわ』と勇ましい呟きを漏らしていた。
馬の蹄の音が迫った時、
馬上に跨っていた『グラフィス』が『剣』を突き上げ咆哮した。
『着火っ!』
暗闇の中『カチっ!』と言う音が静かに聞こえると、
その『着火』された火が走りあっという間に街道を塞いだのだった。
そしてそれを確認した『ナイアド』は手をかざすと、
魔力をその『火』へと流しながら『詠唱』し始めた。
『立ち塞がれ紅蓮の炎よ・・・。
我が意に従い『火の壁』と成せっ!』
そう・・・。
『ナイアド』の一計とは、
『魔道具』のおかげで不必要となった『ランタンの油』を街道に撒き、
自らの魔力でその『火』を強化・・・。
そして『呪文の詠唱』をする事によって、
街道を横切る一筋の『火』が道を塞ぐ『火の壁』となり、
『敵』の行く手を阻み奇襲をかける・・・。
と、いう『計略』だった。
そして『ナイアドの作戦』は見事に的中、
『敵』の行く手を阻むと同時に、
『パニック』による『判断力低下』へと誘い、
その『計略』によって『敵』は混乱を極めるのだった。
『なっ、何だこの火はっ!』
先頭を走る馬が突然出現した火に驚くと、
『ヒヒーンっ!』と嘶きながら急停止をし、
その勢いに抗う事が出来なかった馬上の男が落馬し呻き声を挙げた。
『ぐあっ!』
落馬した男がその激痛に悶絶している中、
それを追従していた『黒いフード』を被った者達が、
次々に落馬し、気付けば街道を防ぐように、
5頭の馬が倒れていた。
『と、止まれぇぇぇぇっ!』と、
その様子を見た1人が甲高い声で叫ぶ中、
突然『火の壁』の外から『戦気』を纏った声が響いた。
『突撃ーっ!』
『うぉぉぉぉぉっ!』と、その合図と共に、
『着火』を担当した騎士が剣を抜きながら咆哮を上げ、
『初手はこの俺がもらったぁぁぁっ!』と斬りかかった。
そしてそれに続くかのように、
『火の壁』の外からその『火』をもろともせず、
薄く笑みを浮かべた男が駆け抜けて来ると、
腰に収めてあった『ナイフ』を抜き落馬した『敵』に投げつけた。
『シュッ!ドスっ!』と『敵』が呻き声すら残さず地に伏し、
透かさず『剣』を抜くとその背後から・・・。
『儂の分も残さぬかっ!』と馬上に乗った『グラフィス』が、
『火の壁』をものともせず現れあっと言う間に『敵』を斬り捨てた。
「ははは・・・父上、もうお年なのですから・・・」
「フッ・・・。
この儂を見くびるでないわっ!」
そう言いながら『グラフィスとナイアド』は、
個々に2名の『敵』を斬り捨てると、
地に伏せた『5名の敵』に視線を向け・・・
『さて・・・ここからだな?』と『ナイアド』に視線を向けた。
『なっ!何者なのだ・・・』
『黒いフード』を纏った『敵のボス』らしき者が、
そう顏を顰めながら『火の壁』を背にする『グラフィス達』を、
睨みつけながら『・・・何処から情報がっ!?』と困惑していた。
その呻いた声が聞こえたかのように、
殺気を込めた視線を『グラフィス』が向けると、
『ナイアド』もそれに続き『気勢』を纏った声を発した。
「・・・父上、参りますぞっ!」
「おうともっ!
儂に続くのだぁぁぁっ!」
突然現れた『グラフィス達』によって、
奇襲を受けた『黒いフードの者達』は・・・。
『まっ、待ち伏せっ!?うぁぁぁぁぁっ!
て、撤退っ!撤退だぁぁぁっ!』と恐怖に染まった声を発した。
跨る馬を反転する者・・・。
馬上から降りて街道を戻る者・・・。
そしてこの暗闇の中『街道』から外れ逃げる者・・・。
それぞれが突然の奇襲によってパニックを起こし、
散り散りになった時『火の壁』で照らされていない、
その街道の奥から『逃がすなっ!』と、
聞き慣れた声が聞こえて来た。
『タッタッタッタッ!』と足音が響くと、
『ぐぎゃぁぁぁぁっ!』と言う断末魔の声が響き渡って来た。
『敵』の断末魔を耳にした『ナイアド』は、
馬上の『グラフィス』の前へと躍り出ると『剣』を構え警戒した。
そして再び『タッタッタッ』と・・・
『火の壁』の灯りが届かない『闇の中』から、
『白い布』を顔に撒いた背の高い男が現れ、
『奴らを逃がすなっ!』と『闇の中』に指示を出すと、
片膝を着き手に握られた『ショートソード』を背後に隠し頭を垂れた。
『御無沙汰しております。
グラフィス様、ナイアド様・・・』
『ん?』と訝し気な表情を浮かべる『グラフィス』に、
『ナイアド』は馬上に居る『父』に手を広げ制すると、
頭を垂れる『者』に近付いた・・・。
「お前は・・・ライトか?」
『はっ!』と言葉短く返答する『ライト』に、
『グラフィス』は声を掛けた。
「よくぞ介入してくれた・・・。
このグラフィス・・・心より礼を言う・・・」
「・・・勿体なきお言葉を」
そう言うと『ライト』は・・・。
『まずは残党を・・・』と頭を垂れながら申し出ると、
『そうだな・・・』と『グラフィス』から返答があった。
それぞれが散り散りになる『敵』を掃討して行く中、
『ライト』の懐にある『通信用魔石』が震えた・・・。
『○÷-□△#×っ!』
『なっ!?』
その『通信内容』は当然誰にも聞こえていない・・・。
だが『ライト』はその内容を聞くと顔色を変えたのだった・・・。
『グラフィス様っ!
敵数名が果樹園沿いの道へとっ!』
そう声を発した『ライト』に『んなっ!?』と声を挙げたのは、
馬上にて奮戦する『グラフィス』だった・・・。
すると『父』の傍で戦う『ナイアド』が焦りの表情を浮かべ、
『そ、その道はまずいっ!』と声を荒げた。
その声に『ライト』が戸惑っている間、
『ナイアド』が顏を顰めながら駆け出し、
退避させていた馬に飛び乗り馬を反転させながら、
『グラフィス』に声を挙げた。
『父上ーっ!』
『う、うむっ!』
何かを確認するかのように声を挙げた『ナイアド』は、
焦りながらも頷く『グラフィス』に頷き返すと、
気合いを入れた掛け声と共に馬の腹を蹴り駆け出した・・・。
「あ、あの道はまずいのだっ!
このままではイオと衝突する事にっ!
ち、父上ーっ!」
「おうともっ!
す、すまぬがライトっ!
緊急で在るが故、ここは頼んだぞっ!
ぐぬぬぬ・・・どうか間に合ってくれっ!」
「えっ?えっ!?
グ、グラフィス様っ!?ナイアド様っ!?
い、一体何があったのですかっ!?
・・・って、おいおいおいっ!?
あぁ~あ・・・行っちゃったよ・・・
此処を任せるって言われてもな~・・・」
2人の行動に焦る『ライト』は、
遠ざかる2人に『・・・この人数を流石に追うのは?』と、
意気消沈する言葉を漏らしていた。
そして懐より取り出した『通信用魔石』を取り出すと、
『△□✕様・・・頼みます』と呟き『敵』を追う為姿を消した・・・。
この時・・・。
近場の高い樹木の枝が揺れた事に誰も気づかなかった・・・。
~ 果樹園沿いの道 ~
『もう少しですっ!
この道を抜ければお父様達にっ!
皆っ!もう一踏ん張りですっ!』
果樹園沿いに伸びる細く暗い道を、
『イオ達』は激しく揺れる『ランタンの灯り』に照らされながら、
駆け抜けようとしていた・・・。
『パカっ!パカっ!パカっ!
○□÷×△-#っ!』
(んっ!?今一瞬馬の蹄の音と、人の声らしきモノが?
この暗闇と静けさのせいで幻聴を・・・?)
『イオ』の正面に伸びる暗い道の先を、
訝しい表情を浮かべ見つめていると、
すぐ傍を走る『バックス』から進言された。
「イオ様っ!何者かがこちらに向かって来ますっ!」
「や、やはり・・・私の聞き間違いではなかったのですね?
皆の者っ!止まりなさいっ!
そしてランタンの灯りを消しなさいっ!」
『ザザァァー』と馬が地面を滑るように停止し、
『ランタンの灯り』が消え去り周りが『闇』へと変わった・・・。
(・・・何者なのよ?こんな時間に・・・
でもこの状況を考えると・・・)
目を凝らし道が伸びるその先へと目を凝らしていると、
数名の人の声と2頭の馬の蹄の音を聴き取った・・・。
『イオ』は数歩馬を後退させると、
小声で追従する者達に指示を出した・・・。
「よいですか・・・。
まず様子を見る為、こちらから手を出してはなりません。
ですが『敵』だとわかれば・・・
私の合図で・・・」
『はっ』と『イオ』の指示に小さく返答すると、
追従する者達はそっと腰に携える『剣の柄』に手を添えた・・・。
『イオ』もまた背中に背負う『大剣の柄』に手を添えると、
暗がりで目を凝らしながら何者かを見極めようとした。
駆けて来る蹄の音のリズムが少し緩やかになり、
暗闇の中から聞こえるその声がハッキリとし始めた・・・。
『サディラ様~・・・
どうやら逃げ切ったようですが・・・』
その声を聞いた『イオ』は顔を顰めつつ頭の中で、
『サディラ・・・?』と何度か復唱していた・・・。
『大剣の柄』に添えられた『イオ』の手に、
一瞬力が入ったのを傍に居た『バックス』は、
この暗がりでも見逃がさなかった。
そしてゆっくりと慎重に『イオ』の肩に手を添えると、
『イオ様・・・』と意味有り気に囁いた・・・。
『・・・わかっています』
そう返答した『イオ』の表情は堅く・・・。
それを横目で見た『バックス』は小さく溜息を吐いた・・・。
それから少しの時間が経過した時、
再び暗がりの中から声が聞こえて来た・・・。
『サディラ様~・・・。
そう言えば最近サディラ様の姉上・・・。
サルディ様をお見掛け致しませんね?』
『えぇ、そうね』
『いや~それにしてもヤツらは一体・・・?』
その声に『サディラ』と呼ばれた女性は、
眉間に皺を寄せながら答えた・・・。
『・・・恐らくヤツらはベルフリードの・・・。
火の壁を背にしていたからよく見えなかったけど、
アレは、グラフィスとその嫡男であるナイアドだったと思うわ』
『・・・ベ、ヘルフリードっ!?
で、ですが此処まで来れば流石に・・・』
『・・・まだ油断するのは早計よ?』
『ハッハッハッ!計画は失敗しましたが、
いや~何・・・。
機会はいくらでもありますぜっ!
それに我々がこの道を行く所を誰も見てはいませんぜ?
流石に気にし過ぎでしょう・・・』
追撃がないと安心しきったのか、
男達の声が賑やかしく聞こえ始めた・・・。
『バックス』を含めた者達の顏に緊張の色が濃くなり始めた頃、
1人『イオ』だけが浮かない表情を見せていた・・・。
「・・・イオ様、いかがされましたか?」
「・・・・・」
心配し声を掛ける『バックス』の言葉が耳に入らないのか、
『イオ』の表情はあからさまに歪み始めた。
(・・・サディラ?サルディ?
ど、どこかで・・・どこかで聞いた覚えが・・・)
『イオ』の仲間達も互いを見合わせ、
『少年騎士パックス』に不安の目を向けていたのだった。
そんな時だった・・・。
暗闇の中、突然はしゃぎ始めた男達の声が、
苦悶している『イオ』の耳に届いた・・・。
『しかしよ~・・・どうして、
リヒテル様やエリナリナ様達は来られなかったんだ~?』
『お前~昨日作戦前の話を効いてなかったのかよ~?
リヒテル様はケリオス様達と共に、王都・・・。
『グランフォート』の街に行っておられるのだぞっ!
お前は一体何を聞いていたんだ・・・』
その言葉を耳にした『イオ』の表情が一片し歪みを見せると、
『ギチっ!』と奥歯を噛め締め怒りを露にし始めた。
(サディラ、サルディ・・・。
そしてエリナリナっ!リヒテルってっ!?
ロックバルのバカ息子を操っているのはっ!
や、やはり・・・ヘイルズ家かっ!?)
『ギンっ!』と見開かれた『イオ』の双眼に光が宿ると、
『ハイヤァァァっ!』と声を発し馬を駆け出させたのだった。
『えっ!?』と『バックス』を含めた者達が唖然とする中、
1人馬駆けした『イオ』は怒声を発しながら突っ込んで行った・・・。
「やはり貴様らかぁぁぁぁっ!
ヘイルズーっ!
この私がっ!イオ・ベルフリードがっ!
国家転覆の罪のにより叩き斬ってあげるわっ!」
駆け出した馬の上から怒声を発し、
その容姿には似つかわしくない『大剣』を抜いた『イオ』は、
『ズッバァァァっ!』とすれ違い様に男を斬り捨てた・・・。
その背後では慌てた『バックス達』が、口々に愚痴を言いながら、
必死に馬を駆け出させていた。
口々に愚痴を言い始める10名の騎士達を他所に、
『バックス』だけが1人・・・その声を発する事がなかったが、
その表情は険しく苛立ちを見せていた。
(予想はしていたけど本当にこの人は・・・。
コレがグラフィス様の娘とは・・・)
そう思いつつもそれぞれが『イオ』を追いかけ、
『剣』を抜き戦闘に突入した。
その頃・・・背後から追いかける『グラフィスとナイアド』は・・・。
「父上ーっ!急ぎませんとーっ!」
「わ、分かっておるわっ!
急がねば『イオ』がっ!儂の娘がっ!」
「何をバカな事を言っておられるのですかっ!?
心配なのは『敵』の方ですよっ!父上っ!
私は『妹』の事は露にも気にしておりませんっ!」
「・・・なっ、何故じゃっ!?」
一頻りそう話すと『ナイアド』は、
額に手を当てながら答えた。
「あの猪突猛進なあいつの事です・・・。
敵を捕縛し情報を聞き出す・・・。
そんな事ですら、恐らく考えてもいないでしょう」
「・・・ま、まさか
ははは・・・い、いくら何でも・・・」
「いいえっ!父上っ!そのまさかですっ!
イオのヤツはきっと・・・全員斬り伏せ殲滅戦に突入をっ!」
「・・・う、うそん」
顏を盛大に引き攣らせた『グラフィス』は、
悠斗から学んだ『日本語』でそう答えたのだった。
「父上っ!このままではっ!」
「い、急ぐのだっ!ナイアドっ!
せ、殲滅は・・・ならんっ!
殲滅は決してならんのだぁぁぁっ!」
『グラフィス』がそう声を荒げている頃・・・。
その『娘』である『イオ』は、
『兄』である『ナイアド』が予想した通りになり、
『殲滅戦』へと突入していたのだった・・・。
『この私が此処に居た事を呪うがいいっ!
ベルフリード家を敵に回すと言う事がどう言う事かっ!
このイオ・ベルフリードがっ!
国家に変わって1人残さず殲滅して差し上げましょうっ!
はぁぁぁぁぁぁっ!』
そう声を荒げながら『イオ』が『大剣』を振るう中、
やや遅れた『バックス達』もそれぞれに戦い始めていた。
「イオ様ーっ!殲滅はなりませんっ!
それに貴女では単騎駆けはまだっ!」
『バックス』が剣を振るいながらそう声を挙げるも、
『イオ』の耳に届く事はなかった・・・。
「はぁぁぁぁっ!」
『ガキンっ!ガキンっ!』
勢いよく突っ込んでみたものの、
その勢いは次第に遅くなり、気付いた時にはその馬の脚は、
止まった状態で『敵』と刃を交える事になった・・・。
「くっ!もう少しなのにっ!」
悔しそうにそう言葉を漏らした『イオ』に、
刃を交える男が笑みを浮かべながら口を開いた・・・。
「クックックッ・・・。
貴様程度の剣の腕では、これから先になど進めねーぜ?」
そう声を発した『男』が剣を振りながら後方に向かって声を挙げた。
「サディラ様っ!今のうちにっ!
此処は我々に任せて早くこの場からっ!」
その声に馬上で様子を伺っていた者が、
フードを取ると殺気を込めた眼差しを『イオ』へと向け、
一言『お前如きが・・・』と声を漏らしていた。
『ガキンっ!ガキンっ!』
怒りを滲ませ大剣を振るう『イオ』は、
その見下される声に顏を引き攣らせ怒声を挙げた。
「貴様がサディラかぁぁぁぁっ!
今すぐその首を叩き斬ってあげるわっ!
私と正々堂々勝負しなさいっ!」
「・・・雑魚ほどよく吠えるのね」
「おのれぇぇぇぇぇっ!」
『イオ』の怒りが頂点に達し憤怒の如き勢いで大剣を振るうと、
立ち塞がる男が声を荒げた。
「此処から先行かせねーよっ!
てめーは此処で死ぬのだっ!うぉらぁぁぁっ!」
男が『イオ』が奮う『大剣』をかいくぐると、
切っ先を立て真っ直ぐその刃を『イオ』の喉元へと突き出した。
『・・・えっ!?』
『お、お嬢ーっ!』
横目で『イオ』の戦闘を見ていた者達の声が響く中、
攻撃を躱された事に唖然としてしまった『イオ』の動きが止まった・・・。
『きゃぁぁぁぁぁっ!』
絹を裂くような悲鳴を挙げた時だった・・・。
『死』を予感した『イオ』の頭の中に、
突然聞き覚えの無い声が流れて来た・・・。
{・・・やれやれ、まるで『猪』のような女だな~?}
(・・・こ、この声はっ!?)
『ドスっ!』
「・・・あ、あ・・・れ?」
『ドサっ!』
突然男が漏らした声に目を開いた『イオ』は、
地に倒れた男に視線を向けた・・・。
(・・・ナ、ナイフが男の後頭部に・・・?
い、一体誰がっ!?)
『ハっ!』とした『イオ』は辺りを『キョロキョロ』と見渡すも、
その存在や気配でさえも全く感じる事はなかった・・・。
「・・・だ、誰が私を?」
そう呟いた時、再び先程の声が頭の中に流れて来た。
{・・・いつまで呆けているんだよ?
今は戦闘中だろ?集中しなよ?}
(くっ!誰かは知りませんが偉そうにっ!)
そう心の中で悪態をつきながら、
馬上で薄く笑みを浮かべる『サディラ』を睨むと、
その『サディラ』は手招きをして見せた・・・。
「お嬢ちゃん・・・少しばかり相手をしてあげるわ」
「お、お嬢・・・ちゃん・・・ですってぇぇっ!?
この私を舐めないでよぉぉぉっ!」
「お前如きにこの私が遅れを取る事なんてある訳ないでしょ?
現実ってヤツをお嬢ちゃんに教えてあげる・・・」
「サディラァァァァっ!」
激高した『イオ』は『サディラ』の挑発に乗ってしまい、
己の現状を把握する事なく、感情のまま馬を走らせた。
「サデイラァァっ!はぁぁぁっ!」
『ガキンっ!ガキンっ!』と、激しい金属音が鳴り響き、
『イオ』は怒りに身を任せたまま『大剣』を振り回した。
「アシュリナを襲おうとした理由を話しなさいよっ!」
『ガキンっ!』
「・・・フンっ!何も知らないお嬢ちゃんが何をっ!」
『シュっ!』
「へぇ~・・・お嬢ちゃんは結構動けるのね~?
お姉さん・・・関心しちゃった♪」
「・・・ま、また・・・お、お嬢ちゃんってっ!?
おのれーっ!サディラァァっ!」
見事なまでに『サディラ』の挑発に乗る『イオ』は、
次第に息を荒げ防御をする事が多くなり始めた・・・。
『シュっ!』
『ガンっ!』
『シュっ!シュシュっ!』
『ガンっ!ガガンっ!』
(か、身体・・・が・・・重い・・・。
こ、呼吸が上手く・・・で、出来ない・・・)
『サディラ』のその『サディスティック』な攻撃に、
『イオ』の視界はボヤけ始めると、
その顔には『チアノーゼ』の症状が出始めた・・・。
(・・・フフフ、頃合いかしらね?)
『ガキンっ!シュっ!ガァァァンっ!』
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「・・・お疲れのようね?
そんな重い武器を連続で振り回したら、
そりゃ~バテるでしょ?
そんな事もわからないなんてね~?
これだからお嬢ちゃんは・・・」
「・・・ま、まだ・・・いける・・・わよ。
バ、バカにしないで・・・」
「そう・・・?
お嬢ちゃん・・・でも私は思うんだけど・・・
もう少し修練してから出直して来なさいよ?
それに・・・1つ教えてあげるわ。
戦場では連続で剣を振るう時、無呼吸になる事が多いのよ・・・
お嬢ちゃんはそんな事も知らないのかしら?
そこんところ・・・勉強してからにしなさいよ」
「・・・よ、余計なお世話よっ!」
青ざめた顔色を見せつつも、
戦う意思だけはまだ潰えてはいなようだった。
「噂通り・・・男勝りのようだけど、
でもね・・・お嬢ちゃん?
この遺憾しがたいこの実力差をっ!
埋めてから・・・この私に戦いを挑みなっ!」
『ガァァァンっ!』
「くっ!わ、私の・・・剣・・・が・・・」
「・・・ちっ!
吹っ飛びなっ!はぁぁぁっ!」
『ドカっ!』
「うがっ!」
苛立ちを見せた『サディラ』の一撃が『大剣』を吹き飛ばし、
意識が朦朧とする『イオ』を見て更に苛立つと、
馬の背に立ち上がった『サディラ』は、
『イオ』の顔面に蹴りを放ったのだった・・・。
『ドカっ!』
『うぐっ』
『ドサっ!』
『ぐはっ!』
蹴り飛ばされた『イオ』は錐揉み状に地面へと落下すると、
その強烈な背中の痛みに一瞬・・・意識が飛び悶絶した。
そして馬上から見下ろす『サディラ』は、
無様な姿を晒す『イオ』にこう告げた。
「無様ね・・・イオ・ベルフリード・・・。
弱過ぎて話にならないばかりか自慢にもなりはしないわ。
だからせめてもう少し・・・強くなったら・・・
その命・・・もらいに行くわね?」
「・・・うぐぅぅ」
「・・・その時までさようなら・・・お嬢・・・ちゃん♪」
「・・・っ!?」
『サディラ』は余裕な笑みを浮かべると、
夜空に向かって手をかざし、魔法を使用した・・・。
『・・・閃光』
『ビカーっ!』と激しく閃光を放った『サディラ』は、
地面に這いつくばる『イオ』を最後に見ると、
『フフフフフ』と含んだ笑い声を残しその姿を消したのだった・・・。
そして『閃光』が収まった時、既にその姿はそこには無く、
『フード』を被った者達の屍だけが横たわっていたのだった・・・。
『こ、この借りは・・・絶対に忘れないわ・・・
み、見てなさいよ・・・サディラァァァァっ!』
まるで『断末魔』のような声を挙げた時、
陰から見守っていた男が『ポツリ』と呟いた。
『・・・また面倒事が起きそうだな』
そう言い残すと人知れずこの場から、その姿を消したのだった。
それから少しして到着した『グラフィス達』は、
『イオ』の打ちのめされたその姿に顏を顰めるも、
『A級ポーション』を渡し回復させると、
『話は帰ってからだ・・・よいな?』と厳しく申し付けた。
そして肩を落とし帰路に向かう『イオ』の背中を見送った後、
事後処理をする為『ライト』と合流する為、戻って行った・・・。
「・・・すまぬな、ライトよ。
1人を除いて殲滅したようなのだ・・・」
「・・・そ、それはまた・・・な、何とも勇ましい事で・・・。
でもまぁ~こちらは数人ほど捕縛しておりますので・・・」
「重ね重ね済まぬ・・・。
いやはや・・・何とも言い難いが、
儂の娘はどうやら敵の親玉に見逃された形となった・・・
ベルフリード家の者が何とも情けない・・・」
「・・・ははは、と、とりあえずご無事であった事は、
大変良い事ではありませんか?」
乾いた笑いと最大限気を遣った『ライト』に、
『グラフィス』は『すまぬ』と謝罪し終わると、
『少し良いか?』と『ライト』に申し出た・・・。
「はい・・・?何でしょうか?」
「ところでお主・・・ライトよ・・・。
その剣技もさることながらその立ち回り・・・
お主は一体何者なのだ?」
「え、えっと~・・・何者と言われても~・・・ですね?
グラフィス様・・・私は只の冒険者で・・・」
「正体を明かしてはくれぬか?」
そう言いながら『公爵』が頭を垂れた姿を見た『ライト』は、
目を堅く閉じる『ウーン』と悩み始め、
『ふぅ~』と息を吐くと諦めた様子を見せた。
「・・・グラフィス様の頼みとはあっては、
断る訳にはいきませんね?」
そう言いながら『ライト』は顔に撒いていた白い布を取ると、
『グラフィス』の表情が険しくなっていた・・・。
「父上・・・?いかがされたのですか?」
『ナイアド』の声に応えることもなく、
ただ・・・『ライト』の顏を凝視していると、
その顔にある違和感を感じた・・・。
「も、もしや・・・貴殿はまさか?」
何かに気付いた『グラフィス』は、
咄嗟に馬から飛び降り片膝を着く『ライト』の傍へと寄った・・・。
「ははは・・・」
苦笑いを浮かべる『ライト』に手を差し出すと、
『バレてしまったようですね?』と頭を掻きながら立ち上がり、
自分の顏を左手で覆うと一瞬光が放たれその素顔を現した。
「・・・やはりな?」
その光に『不信感』を感じた『ナイアド』が、
『父』を守るように立ち塞がると、
『グラフィス』が『はっはっはっ!』と突然笑い始めたのだった。
「・・・ち、父上?」
そんな『父』に『ナイアド』が唖然としつつも、
『グラフィスとライト』の表情を交互に見ながら口を開いた。
「ち、父上・・・もしかして、お、お知り合いなのですか?」
「お知り合いと言うのも何だがな?
そうか・・・お前はまだ会った事がなかったか?」
その言葉に『ライト』は薄く笑みを浮かべると、
『不審』に思う『ナイアド』に向き合い、
その右手を胸へと当てながら答えた。
『お初に御目に掛かります・・・。
私は王都・グランフォート近衛隠密騎士団所属・・・
S級隠密の『ライト・シーベル』と申します。
こんな所でなんですが・・・。
以後・・・お見知り置きを・・・』
『なっ!?こ、近衛隠密っ!?ち、父上っ!?』
『ライト』の正体を知った『ナイアド』は、
『グラフィス』の言葉を聞く間もなく、
暫くの間茫然とする事になったのだった・・・。
そして事情を説明し終えた『ライト』は、
『グラフィスとナイアド』をこの場で見送ると、
『ふぅ~』と溜息を吐き安堵による言葉を漏らしたのだった。
「・・・やっと片付いたな~?」
そう言いながら残りの雑務を集まった数人の部下へと指示を出し、
『ライト』は地べたに寝転がり『休息』を取り始め、
夜が明けようと陽が昇り始めた時、
夜の帳が降りる空を見上げながら独り言を呟いた。
「あぁ~あ・・・。
王都に何て報告すればいいんだろ?」
そう呟きながら自笑していると、
突然頭の中に声が流れて来た・・・。
{お疲れさん・・・ライト・シーベルさん♪
後の事は宜しく~♪}
突然流れて来たよく知る声に、
『ライト』は勢いよくその身体を起こすと・・・。
『ユ、ユウト様っ!?』
と、声を挙げ、雑務をする部下達が驚く中、
再び地面に寝そべり自己嫌悪に陥っていた・・・。
「あぁ~あっ!ユウト様にもバレちゃったな~・・・
ほ、本当にこれから・・・どうしよ?」
こうして謎の一団との争いは終わりを告げ、
この日『悠斗』は冒険者としての『初仕事』に出かけて行くのだが、
『ベルフリード家とヘイルズ家』にとっては、
『遺恨』残す戦いとなったのだった・・・。
外伝・第1部・完
ってな事で、今回のお話はいかがだったでしょうか?
と、言うか・・・。
この『外伝シリーズ』はいかがだったでしょうか?
面白かったと思ってもらえたのなら良かったですっ!
さて次回からは・・・。
『第三章・冥界編』がスタートします。
楽しみにしてもらえたらと思うのですが・・・。
只今仕事で頭が『パーンっ!』となっております><
んー・・・このままでは非常にまずいっ!
ちょっと気分転換しなくちゃな~・・・^^;
さて、次回は・・・。
『第三章・冥界編・プロローグ・神々の円卓』をお送りします。
ってなことで、緋色火花でした。




