23話・日本・暴走・前編
お疲れ様です。
今回の話から『桜と戒斗』の話になります。
今回も『前後編』となりますので、
楽しんで頂ければ・・・w
それでは外伝・日本・23話をお楽しみ下さい。
『沙耶と修一』が戦闘を始めた頃・・・。
『桜と戒斗』もまた戦闘に突入し、
『異形』とも言える肩から『角』が生えた『黒いトロール』と、
『赤い三角帽子』を被った『ゴブリン』にいきなり苦戦する事となっていた。
『黒いトロール』が1体が発した『バインド・ヴォイス』に捕らわれ、
『桜』は脱出したものの『戒斗』まだ解けずに居た・・・。
「くっ!な、何故っ!?
どうしてこの『バインド』が解けないんだよっ!?
うぉぉぉぉぉっ!」
『戒斗』の目の前では、
突進して来る『黒いトロール』の前に『桜』が立ちふさがり、
『時間稼ぎ』の為、『威圧』を放ち『敵』は動けずに居た・・・。
「戒斗っ!一体何をやっているのよっ!?」
「わ、わかってますってっ!
で、でも・・・」
必死に藻掻きはするものの『バインド』が解ける気配はなかった。
「くっそぉぉぉっ!ど、どうして振りほどけないんだよっ!?」
怒声を撒き散らすも、一向に溶ける気配はない・・・。
眼前で威圧を放ち続ける『桜』だったが、
その表情はとても険しいモノだった・・・。
(いつまでもこの状態は続かない・・・。
戒斗・・・一体何をやってんのよっ!)
威圧を放ち続ける『桜』だったが、
元々『桜』は万全の状態ではない・・・。
最初こそ『桜』の放つ『威圧』にたじろいでいた『黒いトロール』も、
次第に戦いを仕掛けて来ない『桜』に違和感を感じ始めていた。
「グギィーっ!グゴゴガっ!」
『赤い三角帽のゴブリン』から何やら指示が飛んだ・・・。
その声を聞いた『黒いトロール』は、
『威圧』を放ち続ける『桜』に向いたまま頷いて見せたのだった。
「グガグゴっ!」
『ドシっ!ドシっ!』と一歩ずつあの足が踏み出し、
その『威圧』に顔を歪めながらも前へと進み始めた・・・。
その状況を良しとしない『桜』は、
一瞬背後で藻掻く『戒斗』に意識を向けると、
『こうなったら・・・』と、呟き覚悟を決めた。
「うだうだしていられないわっ!
『神力解放っ!』」
その言葉と共に『ブワっ!』と、
『桜』の身体から『神力』が『解放』された。
しかし『桜』は己の身体から吹き出した『神力』に、
その表情が険しさを増したのだった・・・。
(やはり『素体』のダメージが・・・。
くっ!騙し騙し・・・やるしかないわね・・・)
『桜』は己の『神力』に穢れを感じると、
もう一度・・・背後に居る『戒斗』へ意識を向け、
拳を固く握り締めると『黒いトロール』に向かって駆け出した。
「はぁぁぁっ!」
「ウガっ!?」
駆け出した『桜』は一瞬にして距離を詰めると、
渾身の蹴りを『黒いトロール』に向け放った・・・。
「うぉりゃぁぁっ!」
『ドコっ!』
『ピシっ!』
「ウガァっ!?」
咄嗟に『黒いトロール』は左腕で防御したのだが、
『桜』の放つその蹴りはとても強力で、
その太い左腕の骨にヒビが入るのを感じ取った。
顔を顰め左腕を庇う素振りを見せるものの、
『黒いトロール』は後ず去る素振りは見せなかった。
すると・・・。
後方でその様子を見ていた『赤い三角帽のゴブリン』から、
怒声に似た声が飛ぶと、
『黒いトロール』は苦虫を潰したような表情に変わった。
「・・・ウガゴギ」
(何だこいつ・・・?
急に不満げな・・・?)
『桜』がそう感じていると『黒いトロール』は、
眼前に居る『桜』を見下ろすと何故か・・・
『哀れむ』ような表情を見せ一言・・・『ウガ』と声を発した。
「・・・?」
いくら『犬神』と言えど、全ての種族の言語などわかるはずもなく、
ただ・・・『桜』の心に『哀しみ』だけが伝わって来た。
(こいつは私に何が言いたい?)
唖然とする『桜』に『黒いトロール』の眼光が鈍く光ると、
『ウガァァァァァァっ!』と雄叫びを挙げながら、
左肩から生えている『角』を掴んだ。
『ウガガガガガガァァァっ!』
『黒いトロール』の顔が苦痛で歪み始めると、
今しがた見せたその眼光は瞬く間に『血走り』始めた。
(・・・ヤバそうな雰囲気ね)
咄嗟に『黒いトロール』から距離を取った『桜』は、
右手の『爪』を伸ばし攻撃に備えた。
『ヴッッッガァァァァっ』
「っ!?」
再び雄叫びを挙げた『黒いトロール』は、
『メリメリっ!』と音を立てながら左肩から生えている『角』を、
力一杯引き抜いたのだった・・・。
「・・・そ、それは武器・・・なのか?」
そう感想を漏らすほど、『黒いトロール』が手にしていたモノは、
『桜』にはとても歪に見えていた。
透かさず『桜』は『鑑定』を使用すると、
その内容が音声で頭の中に流れていった・・・。
『鑑定終了・・・。
リン酸カルシウム及びタンパク質・・・。
以上の事からこれは『骨』と推察されるが、
ただし・・・『不確定要素有り』』
『桜』は鑑定結果の『不確定要素』と言う文言に首を傾げた。
(どう言う事だ?
『不確定要素』・・・とは?)
『『不確定要素』とは・・・。
『骨』の表面上に『膜』のようなモノを確認』
(・・・それは何だ?)
『データ不足により確定は不可・・・。
しかしながら『鬼の気』と推察されます』
(・・・推察?)
『はい・・・。
今現在まで蓄積された『データ』には存在しませんが、
『質』としては『鬼の気』に近いモノだと推測されます』
(・・・鬼の気・・・ね~?)
『桜』は眼前で『血走った眼』を向ける『敵』に、
『面倒な事になったわね・・・』と呟いていた。
すると『黒いトロール』は左肩から引き抜いた『角』を、
頭上に掲げながら『ウガァァァっ!』と吠えた。
その行動に『悪寒』が走った『桜』は、
再び距離を取り態勢を低くし身構えのだが、
その目にした光景に釘付けとなったのだ。
「つ、角が・・・剣にっ!?」
驚くのも無理はない・・・。
頭上に掲げ吠え終わった瞬間、その『角』はグングンと伸び、
気が付けば『角』が『剣』へと姿を変えたからだった・・・。
『真っ白い骨刀っ!?』
『桜』ばかりか未だ『バインド』から脱出出来ずにいる『戒斗』も、
その『骨刀』の長さと白さに瞬きをするのを忘れてしまっていた。
「さ、桜様っ!?」
「・・・こっちはいいかからっ!
あんたは早く『鬼化』しなさいっ!」
「・・・そ、そう言われても俺はっ!」
「ビビってんじゃないわよっ!」
「・・・えっ?」
「あんたの一族で残って居る『男』はっ!
もうあんたしか居ないでしょっ!」
「・・・・・」
『桜』にそう言われた『戒斗』は顔を顰め、
『うぅ』っと呻き声を漏らした。
2人がそう話している中、
『黒いトロール』はその『骨刀』の感触を確かめるべく、
数度素振りすると納得したかのように無言で頷き、
『ウガっ』と『桜』に声を掛けたのだった・・・。
「・・・準備が出来たって言いたいの?」
その問いに小さく頷いた『黒いトロール』は、
その足を一歩前へと踏み出した。
「スゥ~・・・ハァァァ~・・・。
あんた『魔物』の癖に紳士なのね?」
「・・・ウガ?」
「・・・いえ、別に気にしなくてもいいわ。
さぁ・・・殺り合いましょうか?」
「・・・ウガァァァァァっ!」
陽が落ち視界が悪い中、
『桜』と『黒いトロール』は本格的に戦闘へと突入した。
真っ白い『骨刀』を横一閃薙いで見せるが、
『桜』は表情を変える事もなく躱し、
また『黒いトロール』も、『桜』の攻撃を余裕で躱して見せた。
『ザっ!』と2人が一度距離を取り構え直すと、
再びその背後から『赤い三角帽のゴブリン』が声を挙げた。
『グゲグガガっ!』
「・・・ウガ」
声を掛けられた瞬間・・・。
何故か『黒いトロール』の表情が曇ったように見えたが、
その鋭い眼光はまだ・・・怪しく光っていた。
(・・・どうにもやり辛いわね?
どうしてあいつらは攻撃して来ないのよ?)
背後を気にする『黒いトロール』に違和感を感じ、
また『赤い三角帽のゴブリン達』の行動にも、
何か理由があるのではないかと考え始めていた。
(単騎でって事は・・・。
何か理由があるのだろうけど今は・・・)
『桜』の表情に不安げな暗雲が立ち込めたが、
その理由は実に単純なモノだった・・・。
『無理し過ぎた・・・』
その言葉が吐き出される事はなく、
ただ胸の中で呟くに留まったが、実際もうそんなに余裕はなかった。
(神気が黒く淀み始めた・・・
早めに『ケリ』を着けないとこちらが・・・)
『桜』と『黒いトロール』の戦闘は続いて行く・・・
が・・・。
その戦闘を目の前で無様に見ている事しか出来ない『戒斗』にとって、
これほど情けない思いをした事はなかった。
(ど、どうして俺はっ!?
わ、わかってるっ!頭の中ではちゃんとわかってんだよっ!
だ、だけど・・・こ、怖いものは怖いんだってっ!
この『力』を開放した途端・・・。
俺の意識は急激に薄れ遠のいて行く・・・。
そして気がつけば・・・見るも無残な光景が・・・。
くっ!も、もしかしたら・・・だ・・・。
その場所で殺されていた此処の住人達は、
お、俺が意識のない間に・・・こ、この手で・・・)
あの時の『惨状』を思い出した『戒斗』は、
全身に『悪寒』が走り『ガタガタ』と震え始めたのだった・・・。
(あ、あの子、こんな時に一体何やってっ!?)
『敵』と戦いながらも背後に居る『戒斗』を気遣う『桜』だが、
次第に『骨刀』を振る『黒いトロール』に押され始めた。
「・・・くっ!?」
「ウガァァァっ!」
『骨刀』の斬撃が圧倒し始め、
『桜』は汗を流しながら防戦するのが精一杯な状態になっていた。
(神力が・・・。
こ、こうなったら・・・一気に『素体』で・・・)
『素体』とは『桜』の本来の姿である『犬神』の事である。
だがしかし『人間界』で『素体』を晒した時間が、
余りにも長く、『素体』に掛かる負担も『深刻な状態』になっていた。
(だ、だがこの状況を打破し、
形勢を逆転せねば・・・取り返しのつかない事に・・・)
再び『桜』は意識を背後に居る『戒斗』へと向けると、
『・・・や、やるしかないわねっ!』と声を挙げた。
「・・・ウガ?」
「・・・こっちの話よっ!はぁぁっ!」
覚悟を決めた『桜』は気合と共に距離を取ると、
身体から一瞬『ブワっ!』と『神力』を放出させ声を挙げた。
『・・・犬神天現っ!』
『桜』は『犬神』である『素体』に戻り、
一気に『勝負』をつけようとした・・・。
だが・・・。
「・・・ど、どう言う・・・事・・・なの・・・だ?」
『桜』の表情は今・・・戸惑いに満ち、
身体を震わせながら己の両手を凝視していたのだった・・・。
「・・・ウガガ?」
その様子に『黒いトロール』も呆気に取られていたのだろう。
首を傾げながら戸惑っているようだった。
「ど、どう・・・して?」
『桜』の口からか細い声が漏れた時だった・・・。
『・・・はっ!?』とした『桜』は、
己の身体から漏れている『神力』に愕然とした。
「・・・わ、私の『神力』が・・・
く、黒く・・・染まり始めて・・・う、嘘・・・でしょ?」
この場に居た誰もが『一目瞭然』と言わんばかりに理解出来、
『桜』の身体から漏れている『神力』は、
『神々しい』とは程遠い・・・
限りなく『黒』に近い『神力』が漏れていたのだった・・・。
「・・・あ、在り得ない」
そんな言葉が『桜』の口から漏れ出ると、
その膝を『ガクっ』とおり、崩れ落ちてしまったのだった・・・。
「・・・さ、桜様」
崩れ落ちる『桜』の背後に居た『戒斗』は、
掛ける言葉も見つからず、その名を声に出す事がやっとだった。
「・・・こ、この、わ、私が・・・?
堕ちる・・・?
そ、そんな事が・・・?
『犬神』たる・・・こ、この私が・・・堕天・・・?」
己の現状に身体を『ワナワナ』と震わせ、
その表情も『絶望』とも取れるほど双眼を見開いていた。
「さ、桜・・・様・・・」
『戒斗』の目には『犬神』である『桜』がとてもか弱く見え、
どこにでも居る1人の女性のように見えた。
「・・・お、俺が何とかっ!」
頭をフル回転させ周囲に目をやっていると、
本堂の裏の離れた場所で『ドーン』と言う音と共に、
その周囲が赤く燃えているのが見て取れた・・・。
(・・・沙耶姉達も今必死に戦っているのに、
お、俺は一体・・・)
目の前で蹲る『桜』を凝視していると、
それを見ていた『黒いトロール』が後ろを振り返りながら、
何かを話しているようだった・・・。
(・・・今の間に)
『戒斗』は『桜』から漏れ出る『黒くなり始めた神力』を見ると、
覚悟を決めざるを得なかった。
(・・・や、やるしか・・・俺しか・・・)
『ゴクリ』と喉を鳴らした『戒斗』は覚悟を決めると、
ゆっくりと呼吸をし始め、『コォォォォっ!』と呼吸音を変えた。
そして目を閉じた『戒斗』は己の中に在る、
『一之門』と書かれたやや『緑』がかった『門』を見た。
(・・・半分開きかけている)
その『門』は半分ほど開いており、
中から少量の『緑色のもや』のようなモノが漏れていた。
(多分これが俺の鬼の気ってヤツか・・・。
今の状態でも意識が乗っ取られるのに、
全部開いてしまったら・・・?
い、いやっ!今はそんな事言ってられないだろっ!?
お、俺がやらなきゃ・・・桜様がっ!)
『戒斗』は強くそう思いながら双眼を見開くと、
『門』を開けるべく『鬼の気』を解放し始めた。
(・・・ひ、開けっ!一之門っ!
この状況を打破出来るのならっ!何でも構わないっ!)
『ギギィィ』
『戒斗』の意思に呼応した『一之門』と書かれた『緑色の門の扉』が、
ゆっくりと軋む音を立てながら開いて行った・・・。
「くっ・・・くぅぅぅ・・・。
ヤ、ヤバ・・・い・・・意識が・・・俺の意識が・・・」
呻くように漏れ出た言葉が示すように、
『戒斗』の双眼が『ぐるん』と白く剥いてしまった・・・。
『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
雄叫びを盛大に挙げた『戒斗』は、
『バインド』を強引に引き千切るように脱すると、
眼前に居る『黒いトロール』に向かって鋭い視線を向けた。
「・・・ウ、ウガっ!?」
「グギィーっ!?」
「・・・・・」
「・・・か、戒・・・斗・・・」
突然豹変した『戒斗』にそれぞれが驚く中、
見開かれたその双眼に『桜』は『はっ!?』と息を飲んだ。
何故なら見開かれた『戒斗の双眼の瞳』は、
禍々しく縦に割れその瞳の色は、
『桜』も初めて見る『緑色』をしていたのだった。
『・・・み、緑色の鬼眼だとっ!?』
驚愕する『桜』の声が終わった瞬間、
豹変した『戒斗』は音も立てずにその場から姿を消し、
気付いた時には『黒いトロール』が派手な音を立てながら、
仰向けに倒れていたのだった・・・。
「・・・ヤラセ・・・ナイ・・・。
ミ、ミナ・・・ゴ、ゴロ・・・シニ・・・スル・・・」
呻くように呟かれたその言葉に、
『桜』は言い知れぬほどの『恐怖』を感じずにはいられなかったのだった。
ってな事で・・・。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
楽しんで読んで頂けたらなら嬉しく思います。
とりあえずの予定としては・・・。
後編の後、いちかの話となりますが、『前中後』を予定しております。
その後についてはまた後程と言う事で・・・。
本年の残り1カ月ちょっとですね~。
頑張って行きたいと思いますので、応援のほど宜しくお願いします^^
登録や感想など頂ければと思います^^
ってなことで、緋色火花でした。




