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異世界転移 ~魔を狩る者~  作者: 緋色火花
外伝・壱
269/404

8話・日本・堕ちた贋物の鬼

お疲れ様です。


暑かったりジメジメっとしたりと・・・

まぁ~天気もよくわからない感じですが、

皆さんはいかがお過ごしでしょうか?


暑いのは苦手なので、

気温が落ち着く日を夢見ておりますw



それでは、外伝・日本・第8話をお楽しみ下さい。

黒蝶が含みある笑みを浮かべて居ると、

英二は底知れぬ悪寒に顔を顰めた。


(なっ、何だっ!?

 ヤ、ヤバい・・・何だかよくわかんねーがヤバいっ!)


本能でそう感じ取った英二は桜に向けて声を挙げた。


「桜さんっ!こいつはまだ何か企んでやがるっ!」


「なっ、何っ!?」


一瞬・・・。

ほんの一瞬英二に視線を向けただけだった・・・。


(・・・い、石?)


『コロコロコロ』と、

桜の足元に黒い石のようなモノが数個転がると、

『ピカっ!』と閃光を発した。


「きゃっ!」


「桜さんっ!?」


その閃光に包まれた桜が目を開けた時、

その周囲には薄く光る壁によって閉じ込められてしまった。


「くっ!なっ、何だこれはっ!?」


「・・・フフフ。

 桜様・・・その中でもう少しの間、

 大人しくして居て下さい♪

 そうすれば・・・フフフ。

 いいモノをご覧に入れますので♪」


「ふ、ふざけるなっ!こ、こんなコケ脅しをっ!」


桜が黒蝶を睨みつけながら拳を障壁へと放つも、

その拳はいとも簡単に弾かれ、桜の顏は苦痛に歪んだ。


「・・・こ、こんな事」


「・・・フフフ♪

 いくら神でもその障壁は破壊出来ませんのであしからず♪

 いえ、むしろ・・・神だから不可・・・。

 そう言った方が正しいでょうね?」


「・・・ちっ!」


意味有り気にそう言った黒蝶は、

今度はその視線を英二へと向けると一歩その歩みを進めた。


『ゾクっ』


(まっ、まただ・・・。

 な、何なんだよっ!?この悪寒はっ!?)


黒蝶の威圧に気押された英二は、

それに呼応するかのように一歩・・・後退したのだった。


「・・・フフフ♪

 私が与えた力によって、感覚系も鋭敏になっているようですね?」


「・・・か、感覚系・・・だとっ!?」


「はい♪

 まだ実験段階なモノですから・・・」


混乱する英二を黙って見つめる桜は、

黒蝶の発言に集中しながら、その正体を探るべく思考していた。


(まずこの黒蝶と言う女は間違いなく冥府の者と繋がっている。

 それは冥府魔道の力を使った事で証明されている。

 元来人間である限り・・・高度な闇の力は使えない・・・。

 だから黒蝶の背後には間違いなく・・・

 冥府の者が居ると言う事ね。

 そしてそれと同時に・・・可能性として出て来るのは・・・。

 この黒蝶と言う女・・・。

 『魔狩り人』の関係者の可能性が高い・・・。

 それは英二を強制的に鬼化させたのは、

 そう・・・あの『呪符』だから・・・。

 と、言う事はつまり・・・。

 神野の中に・・・?いや、それはまだわからない・・・。

 あくまで可能性があると言うだけ・・・。

 だけど分からない事もある。

 それはどうやって鬼を強化したのか?って事・・・。

 鬼の強化なんて、誰も知る由もないはず・・・。

 なのに、何故・・・?)


桜は持てる情報を最大限に活用し思考していくも、

情報が少ない為、その答えに辿り着く事は出来なかった。


(情報が少な過ぎるわ・・・。

 天照なら何か知っているかもしれないけど・・・。

 ちっ!それにしても・・・

 神の端くれとあろう者が・・・なんとも情けない話ね)



桜が思考する中・・・。

英二を威圧する黒蝶は仮面の中で薄く笑みを浮かべて居たのだが、

その瞳だけは鈍く青白く光っていた。


「英二っ!油断するなっ!」


突然桜から声も高らかに挙がった。


「さ、桜さんっ!?」


「決して気を抜くなっ!

 その女は一筋縄ではいかないわっ!」


「はいっ!」


英二は再び黒蝶に対し身構えると、

赤紫の鬼の気を身体中に漲らせていった。


そんな英二に黒蝶は『ふぅ~』っと溜息を吐くと、

鋭い視線を桜へと向け、扇子を下から上へと仰いで見せた。


すると・・・。


「〇✕%⇒-#÷!」


「ん、んっ!?な、何だってっ!?

 桜さんっ!?聞こえねーよっ!」


突然桜の声が英二へと届かなくなったのだ。

黒蝶は『・・・フフフ』と笑いながら、

再び扇子を顔の前で広げて見せた。


「少々・・・外野が五月蠅いものでしたから・・・♪」


「て、てめー・・・」


黒蝶を睨み戦闘態勢を取る英二を気にする事なく、

帯から何かを取り出した。


「・・・?」


『チリーン』


「・・・鈴?

 い、いやでも・・・あの形は銅鐸(どうたく)じゃ・・・?」


顔を顰め警戒する英二に、黒蝶は仮面の下でほくそ笑んだ。


「・・・フフフ♪

 英二さん、正解です♪

 そう・・・これは貴方のおっしゃる通り・・・銅鐸です♪

 その名を『銅鐸鈴(どうたくりん)』と申します♪

 この銅鐸の()は貴方に真実を知らしめる・・・

 そう・・・。

 言わば貴方にとっては導きの鐘・・・と、なります♪」


「・・・導きの鐘?

 それに真実って・・・一体何だよ?」


「・・・フフフ♪」



(さぁ~・・・英二さん。

 そろそろ仕上げと参りましょう♪

 貴方を冥界へと導くこの『音霊(おとだま)契り』

 ・・・フフフ♪

 存分にご賞味下さい♪)

 


『チリーン』


「英二さん・・・」


「・・・っ!?

 なっ、何だ・・・し、視界が歪・・・む。

 お、音だけが妙にハッキリと・・・」


「どうして私が桜様を回復して差し上げたか・・・

 おわかりになりますか?」


『チリーン』


「・・・ど、どうしてってっ!?

 そ、そんな事・・・俺に・・・分かる訳・・・が・・・

 あ、頭の奥で・・・お、音が・・・」


「・・・フフフ♪

 そして私がどうして・・・英二さん・・・。

 貴方の鬼の力を強化して差し上げたのか・・・

 おわかりになりますか?」


『チリーン』


「て、てめー・・・。

 さ、さっきから一体何を・・・言って・・・」


突然黒蝶から投げかけられるその質問に、

英二はただ戸惑い、

黒蝶の指先ほどしかない大きさの銅鐸の()が、

次第に英二の思考を鈍らせていった・・・。


(こ、こいつ・・・さっきから・・・何を・・・?

 桜・・・さんの回復と・・・お、鬼の・・・?

 ダ、ダメ・・・だ・・・さっきから頭がボーっとして・・・。

 あ、あの音が・・・俺の頭の中を・・・く、くそっ!

 な、何も・・・考・・・え、られな・・・く・・・)



そしてその状況をただ見守るしかなかった桜は、

障壁を何度も叩きながら声を張り上げていったが、

その声は英二には届かなかった。


『英二ーっ!英二ーっ!

 その鈴の音を聞いてはダメよっ!

 英二ーっ!』


桜の必死になるその姿に黒蝶は笑みを浮かべながらも、

英二に対し口を開いていった。


「英二さん・・・。

 貴方は神達に操られているのです」


『チリーン』


「操られ・・・て?」


「はい。

 知っていますか?

 鬼の力とは神達も恐れる力なのです。

 それに対抗する為・・・。

 貴方は神達によって実験台とされているのですよ?

 あの御方の遺伝子を土台に神が手を加えたのです。

 それを褒美と称して貴方に・・・。

 フフフ♪神ともあろう者が、そのような行いを成すとは・・・。

 英二さん・・・私は貴方の味方なのです。

 そして私の言葉をよく聞いて下さい♪

 誰が味方で誰が敵か・・・。

 下賤な神達の魔の手から、

 この黒蝶は貴方を救い出そうとしているのですよ?」


『チリーン』


「お、俺が・・・実験・・・台?

 お前は俺を救おうと・・・?」


黒蝶の言葉に導かれるように英二はその言葉を繰り返していくと、

次第に英二はユラユラと左右に身体が揺れ始めた。


(・・・フフフ♪)


「さぁ~英二さん・・・。

 私の元へ・・・」


そして英二は無意識に黒蝶に手を伸ばし始めると、

ユラユラと揺れながら一歩・・・また一歩と、

そのおぼつかない足取りで黒蝶の元へと歩み始めた。


『英二っ!しっかりしなさいっ!』


障壁の中で怒鳴る桜が、その声は英二には届かない・・・。

黒蝶は視線を桜へと向けると、念話を使用し話し始めた。


(桜様・・・?

 もう少し大人しくされた方が宜しいのでは?

 貴女様は・・・神・・・なのでしょう?

 今のそのお姿には、気品の欠片も無いように思われますが?)


(ね、念話っ!?

 こ、黒蝶ーっ!き、貴様ぁぁぁぁっ!

 英二を一体どうするつもりなのよっ!)


(フフフ♪私は言ったではありませんか?

 『宣戦布告』だと・・・♪)


(・・・ま、まさか英二を使ってっ!?)


(はい♪英二さんにはその先兵として・・・

 私の手足・・・。いえ、手駒となって・・・。

 神が与えし贋物の力を大いに奮って頂こうかと♪)


(きっ、貴様ぁぁぁぁぁっ!)


(神の分際でお声が五月蠅いようですので、

 そろそろお黙りなって頂きたいのですが?)


(こ、黒蝶ーっ!待ちなさ・・・)


桜の言葉を最後まで聞く事もなく、

黒蝶は念話を切ると、ユラユラと歩いて来る英二を迎え入れた。


「さぁ、英二さん・・・。

 冥府魔道の・・・いえ、この黒蝶の力を受け入れるのです♪」


「・・・くっ・・・お、俺・・・は・・・」


「っ!?」


そう英二が言葉を漏らした途端・・・。

微笑みに満ちた黒蝶の顏からその笑顔が消えた。


冥府の闇の力によって完全に支配出来たと思っていたが、

ほんの一欠片(ひとかけら)・・・。

英二の心が残っていた事に黒蝶は驚愕した。


(こ、この男・・・見かけに寄らずなんてしぶとい・・・。

 もうすっかり堕ちたとばかり思っていたのですが・・・。

 ならばこちらもそれ相応の対応をしなければならないですね)


黒蝶は後方へと飛び去り扇子を地面へと向けると、

目を静かに閉じ冥府魔道の力を・・・

闇の力を扇子へと流し集めていった・・・。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


そしてその力が充填された瞬間、双眼を大きく見開き、

扇子を下方へと大きく振りながら声を挙げると、

大地がそれに応えるかのように、地鳴りが聞こえ始めた。


『ゴゴゴゴゴゴ・・・』


『黒く染まる大地の亡者共よっ!

 ()の者に闇より深き安寧をっ!

 黒地亡墳墓(こくちぼうふんぼ)っ!』


『ドドドドっ!』と音を立てながら、

英二の足元から真っ黒から壁が四方から出現し、

一瞬にして英二は囲まれると闇の力が英二の精神を喰らい始めた。


(ぐぅぅぅ・・・く、苦しい・・・。

 お、俺の心が黒く・・・塗り潰されて・・・)


四方を黒い壁に囲まれた英二は次第にトランス状態に陥った。

だがまたしても・・・英二の心は抗うように言葉を吐いて見せた。


「・・・ったく・・・よ」


「・・・普通でしたらこれに囲まれた時点で、

 自我などすっかり無くすモノなのですけど・・・

 しぶといにも程がありますね~?

 ならっ!これはどうですかっ!?」


再び驚愕した黒蝶は続けて印を結ぶと、

呪文のようなモノを唱え始めたのだった。


『・・・舞え・・・舞え・・・闇より生まれし黒蝶よ、

 彼の者の光を覆い尽くし、黒く染め上げよ。

 冥府の波動を浴びて共に黒地より這い出せ・・・。

 冥黒共振蝶(めいこくきょうしんちょう)


そう言霊を言い終えると、黒蝶の背後から無数の黒い蝶が飛び立ち、

四方を囲まれた英二目掛け降り注いでいった。


「うがぁぁぁぁっ!」


苦しみの雄叫びを挙げる英二は、

四方の壁に構う事なく、その中で藻掻き苦しんでいた。


「や、やめろぉぉぉぉっ!

 お、俺はっ!俺はぁぁぁぁぁっ!」


『え、英二ーっ!貴様ぁぁぁぁっ!黒蝶ーっ!

 私を此処から出せぇぇぇぇっ!』


桜はそう絶叫しながら障壁に何度も体当たりを試みるが、

その障壁は桜の力を以ってしても、びくともしなかった。


やがて桜は力なく崩れ地面に膝を着く頃、

英二の声が聞こえなくなったのだった。


『え、英二・・・す、すまぬ・・・。

 わ、私の力が・・・お、及ばず・・・お、お前・・・を』


「・・・フフフ♪

 桜様~?ご心中お察し致しますが、

 本番は・・・これからとなっておりますので♪」


『黒蝶っ!貴様・・・』


桜はこの時、初めて本気で怒り黒蝶を睨みつけた。

そしてそれと同時に桜はその身を震わせながら、

己の力の無さを呪った。


「・・・フフフ♪怖い♪怖い♪

 神ともあろう御方が・・・そのような眼光をされては、

 下等な人間共に示しがつきませんね?」


黒蝶がそう言い終えた所で、

『黒地亡墳墓』から無数の黒い蝶達が一斉に飛び立ち、

英二を取り囲んでいた黒い壁が『ガラガラ』と崩れて行った。


「・・・フフフ♪」


『え、英二っ!?』


障壁の壁に張り付いた桜は、

俯き加減で突っ立っている英二を食い入るように見つめていた。


『英二ーっ!英二ーっ!』


障壁を激しく叩きながらも桜は英二の名を叫び続けた。

勿論・・・黒蝶の妨害によって、桜の声は届かない・・・。

だが桜はそんな事を気にする事なく・・・

英二の名を叫び、その拳を障壁に叩き続けた。


「・・・フフフ」


仮面の下でニヤりと笑みを浮かべた黒蝶は、

(たたず)む英二の元へとその足を進めると、

扇子を畳みその先で、英二の顎を『クイっ』と持ち上げた。


「目覚めるのです・・・英二さん・・・。

 冥府魔道の力と共に・・・。

 そしてこれからは私の手駒となって、

 その命が尽きるまで・・・存分にお働き下さいね♪」


『チリーン』


再び取り出した銅鐸の音を響かせると、

英二の瞳から精気が抜け虚ろと化したのだ。

そしてその鈴に応えるように英二の口が開いていった・・・。


「・・・は、はい。

 黒蝶様のご命令とあらば、こんな命などご存分にお使い下さい」


「・・・フフフ♪

 あぁ~はっはっはっ!

 桜様・・・いかがでしょうか?

 英二さんはご覧の通り・・・堕ちました♪」


『英二ーっ!!』


そう叫びながら桜は泣きながら障壁の中で崩れ落ちていった。

その様子に黒蝶は笑みを浮かべると、

桜に向かって扇子で一仰ぎすると、障壁は消え去り、

桜は解放されたのだった。


「・・・フフフ♪

 さて、桜様?障壁は取り除きましたので、

 これから先は桜様のご協力の元・・・

 私の実験にお付き合い願いますか?」


「・・・・・」


「おやおや?

 愛弟子の闇落ちがそんなにも・・・悲しいのですか?

 こんなちっぽけな命・・・。

 神で在らせられる貴女様にはどうでも良い事ではありませんか?」


這いつくばる桜は黒蝶のその言葉に身体を『ビクっ』と反応させていた。


『ジャリっ!』と地に着いた両手に力が込められると、

土を(えぐ)り取り、ゆっくりと静かに立ち上がって見せた。


「・・・フフフ♪

 漸く御心を決められましたか?

 この黒蝶・・・。この時を今か今かと待ち詫びておりました♪」


どこか悦に浸ったその物言いに、

俯いたままの桜が静かに口を開いた。


「・・・今、なんと言った?」


「・・・はい?」


「貴様・・・。

 英二の事を・・・ちっぽけな命と言ったのか?」


「・・・え、えぇ、確かにそう言いましたが?」


「・・・訂正しなさい」


「・・・はい?」


「英二の命をちっぽけと言った事っ!

 訂正しろと言ったのだぁぁぁぁっ!」


「クッ!」


桜の怒声と共に、凄まじいまでの神力が周りの建物までも巻き込んで、

吹き荒れ始めたのだった。


『ベキっ!バキっ!ドカっ!』と、建物がひしゃげ倒壊し始めた。

そんな桜に流石の黒蝶も仮面の下の顔を引きつらせ動揺していた。


(・・・こ、これは、そ、想定外ですね?

 桜様の事をただの犬だと少々見くびっていたようです)


桜の周りを幾つもの小さな竜巻がうねりを挙げ、

その力の強大さを物語っていた。


「たかが犬神と侮ってしまいましたが、

 さすがは神・・・と、訂正しておきましょう。

 ですが・・・」


そう呟くと黒蝶は静止している英二に命令を下した。


「英二・・・。

 貴方の力を存分に発揮し、あの神を天に還しなさい」


「・・・ご命令のままに」


黒蝶の声にそう答えた英二が振り返ると、

桜の周りで渦巻く竜巻を見て薄く笑みを浮かべた。


「・・・桜さんよ?

 悪りぃ~けど・・・その命・・・天に還すぜ?」


「え、英二っ!?め、目を覚ませっ!英二っ!」


「はっはっはっ!そいつは無理な相談だぜ。

 俺はもう・・・あんたの知っている英二じゃないんだよ・・・」


「・・・英二、お、お前・・・何を言って・・・」


「桜さんよ~?まじで悪りぃ~な~?

 俺は冥府の力で爆誕したっ!NEW EIJI様だっ!」


「「は、はぁぁぁっ!?」」


己の胸に親指を向け、決めポーズを取って見せた・・・。

そんな英二に桜と黒蝶は・・・唖然とするしかなかった。


「・・・にゅー・・・英二?・・・はぁ?」


「・・・・・」


瞬きを数度した後、桜から出たのはその一言だった。

そして黒蝶は大きく広げた扇子でその顔を隠すと、

深く溜息を吐いていたのであった。


(・・・え、英二さんって・・・バカ・・・なの?

 えっ?私・・・人選間違えました?)


軽く眩暈を起こした黒蝶は、咳払いをした後、

再び英二に命令を下した。


「え、英二っ!・・・さ、さっさと行きなさいっ!」


「・・・わかってますって~黒蝶様~・・・。

 まぁ~・・・茶でも飲んで(くつろ)いでてくれよ。

 す~ぐ終わらせっからよ~」


(ほ、本当に大丈夫なのかしら?

 少々不安になって参りました・・・。

 と、言うか・・・。

 私・・・手順間違えたのかしら?)


「・・・そ、そうですか。

 そ、そう・・・ですね?

 で、では・・・そうさせて・・・頂きます」


黒蝶は再び眩暈に襲われながらも、

薙ぎ倒された倒木に腰を下したのだった。


そんな黒蝶の気配を感じた英二は桜を見据えると、

『行くぜ』と呟き駆け出した。


「・・・英二」


桜もそう呟き終えると駆け出し、

桜と英二・・・その師弟が激突した。


『ガキンっ!』と、桜の鋭く伸びた爪と、

英二の無骨に伸びた爪が激突し『ギチギチ』と激しい音を奏でていた。


「桜さんよ~?

 本気で行かせてもらうぜっ!」


「・・・ちっ」


激しく激突した後は、双方が一旦離れ距離を取った。

だが英二は『ニヤっ』と笑みを浮かべると・・・。


「・・・えっ?き、消え・・・た?」


か細い声でそう声が漏れた桜は唖然としたが、

背後から迫る異質な気捉えると即座に反応し、爪を横に薙ぎ払った。


『シュっ!』


「うおっとぉぉぉっ!?」


紙一重で桜の爪を躱した英二は着地すると同時に笑みを浮かべた。


「何だよ・・・桜さん。

 さっきより全然速ぇーじゃねーかよ?」


「・・・そうか?それは失礼したな・・・バカ弟子よ」


「けっ!言ってくれんじゃねーかっ!

 見てろよ・・・」


『ジリっ』と2人がタイミングを計り間合いを詰めていく・・・。


英二は腰を落し後ろ脚に力を溜めると声を張り上げながら駆け出した。


「行くぜっ!行くぜっ!行くぜぇぇぇぇっ!」


「・・・バカ弟子が」


『ガキンっ!ガキンっ!ガキンっ!』と、

数度激しく双方が打ち合った。


だがお互いに決定打となる攻撃は1つも入らなかった。


「けっ!色々と制限があってもよ~?

 あんた・・・やっぱ強ぇーな?」


「・・・当たり前でしょ?」


「けっ!でもまぁ~・・・ここからが本気だぜ?」


「・・・来い」


構えを取った桜に英二は『鬼魂門』を開いた。


そして英二の身体から赤紫の気が噴き上がると、

猛然と突進したのだった。


(またあの赤紫のっ!?)


「うおぉぉぉぉっ!」


「はぁぁぁっ!」


桜が鋭く伸ばした爪で応戦するのに対し、

英二は爪ではなく・・・右拳だった。


「なっ!?こ、拳だとっ!?」


「うおりゃぁぁぁぁっ!」


『バキンっ!』と音と共に英二の右拳が桜の右肩に直撃した。


『バキっ!』と音を立てながら桜が吹っ飛ばされると、

それを英二は猛追して行った。


「まだだぜぇぇぇっ!桜さんよぉぉぉぉっ!」


「ちぃぃぃっ!」


仰け反る身体を捻り左手を地面に着くと、

猛追して来る英二に合わせて蹴りを放った。


『ドカっ!』と桜の蹴りが英二の厚い胸板へと直撃するが、

大したダメージが得られず、それどころか英二の拳が眼前に迫った。


「鬱陶しいわねっ!」


そう吐き捨てながら英二の拳を身体を捻って躱すと、

着地と同時に距離を取っていく。


「はぁ、はぁ・・・」


(あの鬼の気・・・面倒ね・・・。

 だからと言って・・・あの子を傷つけるのは・・・ちっ!)


複雑そうな表情を浮かべる桜に、

振りかえった英二は頭を掻きむしりながら声を挙げた。


「だぁぁぁぁぁぁぁっ!うざってぇぇぇぇっ!

 あのな~・・・桜さんよ~?

 いい加減本気出せってっ!」


「・・・・・」


「じゃないと、あんた・・・まじで死ぬぜ?」


「・・・・・」


桜と英二の戦いを静かに見守る黒蝶は顔を顰めていた。

仮面でその表情は伺い知れぬのだが、あからさまに苛立っていた。


(・・・桜様はこの状況でも本気出さないと?

 いい加減にして欲しいモノですね?

 折角この私がここまで手間暇掛けたと言うのに・・・)


苛立った黒蝶は倒木から降りると桜を見据えて声を挙げた。


「桜様~?本気を出さないと・・・

 本当に死んでしまいますよ~?」


「・・・ちっ」


その声に舌打ちで答えた桜だったが、

本音を言えば英二を傷付けたくなかった。

それは桜が英二の事を、可愛く思えていたからだった。


(・・・こ、この子を助けるには一体どうすれば・・・)


そう悩み一瞬・・・桜に隙が生まれた。


その瞬間、音もなく飛び上がった英二は、

桜の顔面に拳を振り下ろそうと振りかぶっていた・・・。


「油断大敵ってなぁぁぁっ!」


「し、しまったっ!」


眼前に迫り拳を振り上げる英二に、

桜は完全に対応が遅れ腕をクロスさせ防御態勢を取った。


「そんな防御如きでっ!」


英二が勝ちを確信したその瞬間だった・・・。



「オラァァァァァァァァっ!」


「なっ!?」


「っ!?」


雄叫びと共に、何かが英二の頭上から降ってきた。


「うぉぉぉっ!?」


『ドォーンっ!』


間一髪躱した英二は着地と同時に構えを取っていた・・・。

だが、空から突然降って来たその来訪者の顏を見た瞬間、

『ヒクっ!』と英二の表情は引き吊り上がったのだった・・・。


「・・・な、何で・・・あ、あんたがっ!?」


「フッフッフッ・・・」


英二は己の前でヒーロー着地をしている者をよく知っていた。

それは英二にとって・・・最悪の天敵・・・。


その拳の破壊力によって地面は(えぐ)れ、

小さな爆発でもあったのではないか?

そう思えるほど地面が抉れていた。


「・・・さ、沙耶・・・さん・・・?

 い、いいいい一体どどどどどーして・・・

 こ、ここここんなと、所にっ!?」


英二の声に不敵に笑みを浮かべながら立ち上がると、

自分の拳同士を『ガシっ!』と打ち着けながら声を挙げた。


「英二・・・お前をボコりに・・・な?」


「・・・うっ」


英二の顔をかから血の気が引くと、

じわじわとゆっくり・・・後退し始めたのだった。


そんな英二に構う事無く、

沙耶は満面の笑みを見せながら一歩踏み出すと、

半身になり構えを取って見せた。


そして沙耶の顏から笑みが消えた途端、

熱い眼差しを向けながら静かにこう言った・・・。


「さぁ、英二・・・。殴り合い(パーティー)しようぜ?」


沙耶から放たれる威圧に、英二は益々悪寒が走るのだった。





ってな事で・・・。

今回はこのようなお話になっております。


ん~・・・。

闇落ちはしたものの、やはりと言うかなんと言うか・・・

英二は英二なんだな~っと思いましたw


書いてる本人がつくづくそう思った訳で・・・w


次回も楽しみにして頂けたなら幸いです^^


それと、登録や評価・・・そして感想など書いてもらえるととても嬉しく思いますっ!


ここで報告なのですが・・・。


来週仕事の都合でアップ出来ない可能性が濃厚となりました><

もしそうなってしまったら・・・

どうがご容赦下さい。


あっ・・・まぁ~個人的な事なのでなんですが・・・。

『なろう』に投稿してから2年となりましたっ!


これも登録して下さった皆様のおかげです。

心より感謝致しますっ!



ってなことで、緋色火花でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「NEW EIJI」は良かったですね♪ ぜひ映像で見たいなーと思うシーンでしたw 黒蝶の術は相手を闇堕ちさせたり、自分の手先にはできるものの、その相手の根本的な性格までは変えられないという…
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