表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移 ~魔を狩る者~  作者: 緋色火花
外伝・壱
265/407

閑話・日本・八咫一族・後編

お疲れ様です。


今回は修一の後編となります。

楽しんで頂ければ幸いです。


次週からは外伝の本編に戻りますので、

そちらも楽しんで頂けたらと思います^^


それでは、後編を楽しみ下さい。

父と母の事故現場から修二と祖父が立ち去った後・・・。


父の部下である大島さんが話がある言われ、

俺はとある場所に連れて行かれた・・・。


(・・・ここは何処?)


ヘリで1時間ほど飛んだ山中に着陸すると、

目の前には大きな木造の立派な屋敷があった・・・。


「修一様・・・。

 此処は御当主様の・・・。

 修様の隠れ家です」


「・・・隠れ家?」


俺は大島さんからそう聞かされ、再び目の前に建つ家屋敷を見つめた。


(ここが父上の・・・隠れ家?

 隠れ家なんて・・・どうして必要なんだ?)


俺がそう思っていると、

閉ざされた門が「ギギィー」っと音を立てて開いた。


そして俺は驚いた・・・。

何故ならその立派な門を開け姿を見せたのは、

父の母である人が、

涙を流しながら俺の元へと駆け寄って来たからだった・・・。


「修一ーっ!よ、よくぞ無事でっ!」


「・・・ば、ばあちゃんっ!?」


俺の頭の中は真っ白になり、上手く言葉が出なかった。

父親と母親が死んだから・・・?


確かにそれもある・・・。

だけどこの時、俺が驚いたのは、

どうしてこんな山奥に祖母が居るのか?

と、言うことだ。


「ば、ばあちゃん・・・どうして?」


「修一、とりあえず話は後にするとして、

 早く家に入りましょう・・・」


戸惑う俺に祖母は大島さん達に目配せをすると、

暖かな笑みを浮かべていた。


「大島・・・ご苦労だったわね?

 貴方達もよく無事で・・・」


「い、いえ・・・。

 わ、我々がもっと早く、先代の動きを察知出来ていれば・・・。

 修様達もこんな事には・・・」


「・・・・・」


俺をここまで連れて来た大島さん達に労いの言葉を言うと、

一同を招き家の中へと入って行った・・・。



~ 屋敷の居間にて ~


今、この部屋には、父の部下達5名と俺・・・。

そして祖母の「幸恵」が居る。


祖母の話では、この屋敷には総勢20名もの人達がいるらしい・・・。


(ばあちゃんはどうしてこんな所に・・・?)


俺はどうしてもそれが気になっていた。


そんな俺の心情を察したのか、真向かいに座る祖母は、

俺の顔を見つめると微笑みかけた。


「・・・まずは私がどうしてこんな所に居るのか?

 と、言うところから話そうかね?」


「・・・はい」


俺の返事を聞くと祖母は、ポツリ、ポツリと話しを始めた。

そしてその説明はこうだった・・・。


八咫一族の当主の子は生まれ、生後半年経った後、

一族の後継者に相応しいかを調べる事になっている。


一番分かりやすいのは・・・。

身体のどこかに鳥の翼に似たような痣があるかと言う事・・・。

まずはその痣を調べるのだが・・・。


ここでその痣について1つ話しておこう。

父親である修には、2cmほどある鳥の翼に似た痣が、

首の後ろ側にある。


そして祖父は・・・。

鳥の翼に似た痣が、背中と右の足首にある。

つまり祖父の痣は2つあり、

その2つの痣は祖父にとって誇りでもあるようだ。


「修一・・・。

 お前が生まれて調べた時・・・。

 後継者として導く証でもあるその痣・・・。

 お前には通常みられる鳥の翼に似た痣ではなく、

 カラス・・・いえ、ヤタガラス様そのものを形どった痣が、

 お前の左脇腹にあったのよ・・・」


確かに俺には後継者としての証でもある、

痣が俺の左脇腹にはあるのだが、

今、祖母が言ったように、俺の痣は通常とは違うモノだった。


無意識に俺は自分の左脇腹を押さえると、

少し険しい表情を浮かべた祖母は重々しく口を開くのだが、

その口調には更に重苦しい雰囲気を纏っていた・・・。


「修吾は・・・。

 お前のその痣を見た時、何と言ったか知っているかい?」


「・・・いえ」


「・・・そう。

 修吾はお前のその痣を見た途端、

 こんなモノは認めんっ!何かの間違いだっ!

 そう言って、激怒し立ち去ったのよ」


「・・・立ち去った?そ、それに認めないとか、間違いってっ!?」


祖母は眉間の皺がより一層険しくなると、

その理由を話し始めた。


「・・・要するに気に入らなかったのよ」


「・・・?」


「先祖代々後継者たる者の証であるその痣を、

 2つも所有している自分に誇りを持って当主を務めて来たの。

 それを孫であるお前の痣は、

 翼どころかヤタガラス様そのもののを示すかのような・・・。

 そう・・・まるでヤタガラス様の意思でもあるかのような、

 そんな痣をお前の身体に見つけた時、

 修吾は孫である修一・・・。

 お前に嫉妬したのよ」


「・・・嫉妬ってっ!?

 たまたま偶然ヤタガラス様に似たような痣があったくらいでっ!?」


「・・・えぇ、情けないわよね?

 歴代で一番・・・。それが修吾の誇りだった・・・。

 文献にも翼の痣が2つも在る者など居なかったのだから・・・。

 でも、孫であるお前には、修吾の2つの痣をも凌ぐほどの痣が在る。

 それを感じ取った修吾はお前に嫉妬し、

 それがいつの間にやら憎悪へと変わってしまったのよ」


そんな話を祖母から聞かされ俺は驚きを隠せなかった。

俺の眉間にも皺が寄ったのだろう・・・。

祖母はそんな俺の表情を見ると、少し和らいだ表情を見せ、

俺の最初の疑問・・・。

どうして祖母がここに居るのか?

と、言う疑問に答えていった・・・。


「それからというもの・・・。

 修吾は日々苛立ち、今まで大切にしてきた身内にまで、

 罵声を浴びせたり、失脚させたりと・・・。

 もうそれは本当にひどかったわ。

 私自身も日々・・・色々とね?」


和らいだ表情を浮かべそう話したのも束の間、

祖母の顔を怒りによって端正な顔立ちが崩れるほど、

その表情を歪めた。


「そんな或る日・・・。

 修吾とその側近達が密談していたの。

 そしてその内容は・・・。

 修一・・・。

 『お前を亡き者とする』・・・。

 そんな計画をしていたのよ」


「な、亡き者ってっ!?僕を殺すって事っ!?」


「ええ、そうよ・・・。

 何をとち狂ったのか、よりにもよって自分の孫であるお前を、

 八咫一族から排除する計画を立てていたのよ」


「・・・こ、この痣1つだけで、僕をっ!?」


「えぇ・・・」


俺はこの時何を言っているのかさっぱりわからなかった・・・。

いや、祖母の話の意味はわかっている。

だけど、この痣が原因で俺を排除しようとする祖父の事が、

当時はまだ理解出来なかった。

いや、今現在でも・・・俺は祖父の気持ちなど理解出来ない・・・。


俺は何も言葉を発する事も出来ず、

ただただ俯いていると・・・。


「私は日々、修一に魔の手が及ばぬよう務めてきました。

 ですが当時修吾の暗躍に立ち向かえる者などおらず、

 私はその焦りからか精神をすり減らしていったの。

 そしてそれが限界を迎えた時・・・。

 無力を悟った私は八咫の家を出たのよ」


俺はそんな事になっているのも知らず、

厳しくもあるが平穏と呼べるほどの生活をしていた・・・。


祖母には大変申し訳なく思い、俺は深々と頭を下げたのだった。

だが祖母は無言で静かに首を左右に振ると、話をこう続けた。


「この屋敷はお前の父・・・修が私の為に建ててくれたの」


「・・・父上がっ!?」


「ええ、優子さんも色々と手伝ってくれたわ」


「父上と母上が・・・知らなかった。

 全然そんな素振りも・・・」


俺の知らないところでそんな事になっているとは露知らず、

観察力のない自分が憎らしくもあった・・・。


そんな時だった・・・。

「ボーン」と言う柱時計の音が鳴り響いた。


一同がそま音がした柱時計に視線を向けると、

午後11時を知らせる音だったのだ・・・。


すると祖母は部屋から廊下に向かって「・・・誰か」と静かに言うと、

「スゥー」っと(ふすま)が開き、

初老の男性が頭を垂れながら「お呼びで御座いますか?」と答えた。


「望月・・・。

 時間も時間です・・・。

 食事の支度は整っていますか?」


「はい、滞りなく・・・」


「わかりました」


祖母の返事を聞き終えると、初老の男性・・・。

望月さんは「スゥー」っと襖を閉じ、足音もなく姿を消した。


(・・・あの望月さんって人、一体何者なんだろ?)


俺がそう考えていると祖母は少し笑みを浮かべると口を開いていった。


「先程話した怒りに任せ失脚させた人と言うのが、

 今の望月なのよ?

 誰よりも修吾に長年仕えて来たというのにね?」


そう話し終えた祖母の顔は、どこか悲し気だった・・・。


食事を終えた俺・・・いや、俺達は部屋に案内されると、

様々な事が有り過ぎた当時の俺は、溶けるように眠りに着いたのだった。



そして翌朝・・・。


朝食を終えると大島さん達が揃って俺に当てがわれた部屋へと来た。


「修一様・・・お話があるのですが、お時間は宜しいでしょうか?」


大島さん達の張り詰めた様子に、

俺は何事かと緊張しながら部屋へと入れた。


すると大島さん達は部屋へと入るなり、俺に土下座をして見せたのだ。


「修一様っ!この度は大変申し訳なくっ!

 それと共に、我々の話を聞いて頂きたく、

 不躾ながらもこうして一同参上致しましたっ!」


俺は大島さん達の迫力に圧倒されつつも、

その話を聞く事にした。


大島さん達は元々祖父に使えていた者達だったのだが、

或る日祖父から現・当主である父の行動を知らせるべく潜り込ませた、

言わば「諜報員」として父の元へ潜り込んだようだった。


だが日々父と母を見て感じて行くうちに、

大島さん達は父や母の温かみに触れ、

次第に祖父に対し疑念を抱くようになった。

そしてその潜入した一同の意見が一致すると、

祖父にはこれと言った情報を渡さず、

現・当主である父の為に、尽力するようになった。


それから暫くして、祖母の行動を知る事になった父達は、

疲れきった祖母を匿うように、この屋敷を建てたと言う事だった。


そしてこの屋敷が完成すると、

この屋敷内にて度々祖父について話し合いが行われ、

俺の警護も兼ねて、皆が一致団結する事になったのだが、

月日が流れて行くうちに、

大島さん達の裏切りが祖父の耳に入ったようだった。


「そうか・・・バレてしまったか・・・」


「も、申し訳御座いませんっ!

 さ、細心の注意を払ったつもりではいたのですが・・・」


「いや、謝罪など必要ない・・・。

 いずれバレてしまう事だからな?」


「し、しかし、このままでは・・・」


「いや、丁度良かったかもしれんな?」


「・・・はぁ?」


父は大島さん達の裏切りが発覚した事を聞くと、

ある計画を進める事にした。

だがその計画とは、ごく単純なモノであり、

計画と呼ぶには少々大雑把過ぎた・・・。


そしてその計画とは・・・。


そう・・・。それはごく単純な事・・・。

俺をより一層厳しく鍛え、

祖父達が俺に手を出し辛くしようとするモノだった。


今更ながら父達に対し俺は「脳筋かっ!」とも思ったが、

単純に手っ取り早いとも思った。


そしてそれが行われたのが、

丁度俺が小学生になったばかりの頃だった・・・。

確かにその頃から俺の修練は、

まるで地獄を見るかのようなモノだったのだが、

あれがあってこその今・・・だと俺は思っている・・・。


父達は俺を厳しく鍛えつつも祖母に代わって俺を陰から守り、

神経を擦り減らすような日々を送っていたであろう事は、

たやすく想像出来る・・・。


・・・感謝でしかない。



大島さん達の話を聞き終えた俺は、

此処に居る大島さん達や無念な思いで死んでいった父と母に対し、

心から感謝した。


俺はその悔しさからか涙を流していると、

「入りますよ?」と祖母の声が聞えて来た・・・。


部屋へと入って来た祖母は真剣な眼差しを俺へと向けると、

封筒を差し出して来た。


「修一・・・。

 これはお前の父・・・修からお前へと預かっていた手紙です」


俺は祖母の言葉に流した涙を衣服の袖で乱暴に拭い、

手紙を受け取りその中身を確認すると、中には5枚の便箋があった。


「修一へ・・・。

 お前がこの手紙を読んでいると言う事は、

 父や母はもうこの世には居ないのだろうな?

 最後まで守ってやれなかった父達を怨んでくれて構わない。

 だが私達は死んでも尚・・・修一・・・。

 息子であるお前の事はずっと見守っている」


そんな父の言葉から始まった・・・。

俺は込み上げる涙を必死で堪え父の最後の言葉であるこの手紙を、

しっかり読む事で前へと進もうと思ったのだ。


そして3枚目の内容はこんな事が書かれていた。


「前に会った「神野半蔵」の事は覚えているか?

 あの男にお前の事を頼んである。

 お前がこの手紙を読む頃、あの男にも私の手紙が届くはずだ。

 あの男ならすぐに対応してくれるはずだから何も心配するな。

 父がお前に伝えられなかった事を、

 半蔵からしっかりと学びなさい・・・」


「は、半蔵様にも手紙がっ!?」


俺がそう驚きの声を挙げると、

大島さんが「滞りなく・・・」と声を挙げた。

 

俺は驚き大島さんを見ると、しっかりと頷き笑顔を向けて来た。

俺も大島さんの気持ちに応えるように力強く頷き返すと、

祖母のスマフォから着信音が響いて来た。


「ちょっと失礼するわね?」


そう言いながら祖母は俺にウインクをして見せると、

部屋を出て廊下で話をし始めたのだった。


俺は再び父からの手紙の続きを読み始めた。


「修一・・・。

 神野に行ったら半蔵の息子の「悠斗君」に会っておくといい。

 彼は今のお前以上に・・・。

 いや、この事は本人に聞くといい・・・。

 お前にとっていい兄貴分になると思うからな?

 まぁ~ちょっと・・・?いや、かなり困ったレベルで天然だが、

 まさに天才と呼ぶべき男だ。

 だから多くの事を学び、そして経験しなさい。

 父と母は空の上からお前の成長を見守っているからな?」


「・・・父上、母上・・・」


そして残りの手紙には母の文字で書かれており、

いかに俺を愛しているか・・・など、

子供の心配が尽きないと言う想いが永遠と書かれていた。


「父上、母上・・・。本当に有難う。

 僕は二人の子供で本当に良かったと心の底から思います」


俺は小声で呟くようにそう言うと、

再び部屋の襖が開き、電話を終えた祖母が入って来た。


「修一・・・。

 神野の御当主である半蔵様が、すぐにお前を迎えに来るそうですが、

 どう・・・しますか?」


俺は祖母のその言葉に最初は意味が分からなかったが、

大島さん達に視線を向けた時、

とても切なそうな表情をしていた事に気付いた。


「・・・あっ」


俺は咄嗟にその真意を理解すると、祖母にこう言った。


「明日・・・でも、構いませんか?」


「っ!?」


俺の言葉に祖母は驚くも優しく微笑むと・・・。


「ええ、構いませんよ?」と、どこか嬉し気な表情を見せたのだった。


また、大島さん達も祖母と同じような表情を浮かべると、

祖母は再び廊下に出て、相手は半蔵様であろう人と話を始めていった。


それからその後は、祖母や大島さん達・・・

そして屋敷に居る全ての人達と家族として、

最後の晩餐をし、楽しい一時を過ごしたのだった・・・。



そして時間は流れ翌朝・・・。


俺は半蔵様が寄越したヘリに乗る為、玄関先で靴を履いている時、

募る思いを堪えた祖母から声がかかった・・・。


「修一・・・。これを・・・」


そう言って祖母から手渡されたのは、大きな風呂敷だった。


「・・・これは?」


「この中には八咫の書・・・。

 つまり「陰術」について書かれている奥義書全巻です」


「・・・えっ!?」


八咫一族・・・。

いや、当主のみが読む事を許されている奥義書が全10巻。


その奥義書が入った風呂敷を手渡され、

俺の顔が無意識に引きつっていた。


すると大島さんが苦笑いを浮かべながら、

話の続きをしていった。


「その奥義書は「幸恵様」が、

 修一様にも読めるように翻訳されたモノです」


「・・・ほ、翻訳ってっ!?こ、これ・・・全部っ!?」


「はい♪」


驚きながらも俺は祖母の顔を見ると、

何だか照れ臭そうにしていたのを今でもよく覚えている・・・。


「修一・・・。

 神野に行っても、貴方は八咫一族の人間です。

 それをくれぐれも忘れないように・・・」


「・・・はいっ!

 では、ばあちゃん・・・。

 いや、お婆様・・・修一は行って参りますっ!

 そして大島さん達も、色々とお世話になりました。

 どうか・・・くれぐれも身体には気をつけて長生きして下さいっ!」


「・・・あ、有難う・・・修・・・一・・・。

 あ、貴方も・・・身体に・・・は・・・気をつけて・・・」


「修一様もお元気で・・・」


「・・・はいっ!」


俺は今にも流れ出て来そうな涙を必死に堪えながら祖母達に背を向けると、

玄関の扉を開き駆け出したのだった。


飛び出す俺の背後から大島さん達の声が響き渡り、

祖母の泣き叫ぶような声が聞こえて来たが、

俺は決して振り返らずそのまま出迎えるヘリへと飛び乗った。


ヘリが浮き上がり大きな屋敷が下に見える頃、

屋敷に居た人達が大きく手を振りながら走って来るのが見えたのだった。


「ばあちゃん・・・み、みんな・・・。

 ぼ、僕は必ず・・・みんなの元へ・・・帰って来るからっ!

 その時まで・・・どうか、お元気で・・・」


俺はこうして俺を陰ながら守ってくれた人達に見送られながら、

神野一族が待つ屋敷へと向かうのだった・・・。



それから数時間後・・・。


ヘリを降りた俺は迎えに来た2人の男性に促されるまま、

バカでかい車に乗り込んだ。


この車の事は当時知るはずもなく、

ただバカでかい車と言う認識だったが、

後にこの車がかの有名なハマーと知ったのはかなり後の事だった。


神野の屋敷に到着すると、とても美人なお姉さん達に出迎えられた。

年齢こそ数個ほど上ではあるとわかるものの、

余りの大人びた雰囲気に俺はかなり緊張してしまっていた。


「貴方が修一君ね?」


「は、はいっ!よ、よろひくおねがしゃあ・・・うぐっ」


余りに緊張し過ぎて、この時の俺は噛みまくっていた。


「はっはっはっ!噛んでやんの~♪

 ってな事で~、これから宜しくねん♪」


「・・・うぅっ」


噛んだ俺を大声で笑い飛ばした人が、

神野の次女である名を「沙耶様」と言い、

そのこんがりと焼けた肌をし、

とても健康的な印象を持った沙耶様からは太陽の匂いがした。


「八咫修一君・・・。

 ようこそ、今日から貴方の家はここになるのよ?」


肌は雪のように白く、

銀色の眼鏡越しに見えるその切れ長の目に俺は、

まだ幼いながらもその美貌に心臓が脈打っていた。


その人の名は「涼華様」と言い、神野の長女だ。


そんな美人達に先導されながら、屋敷内へと入って行った。

そして案内されたのは、とある一室・・・。


部屋の中へと入り美人姉妹達は頭を下げるとすぐに退室し、

暫くソファーに座り待待つように言われると、

すぐに神野の御当主である「半蔵様」が入って来られた。


「よく来たな?修一君・・・。

 しかし突然の事で君もさぞや辛かっただろう?

 修・・・。

 いや、君の父から手紙が届き、その内容に俺は言葉を失った。

 修一君・・・。

 この度の事・・・。お悔み申し上げる・・・」


半蔵様は明るく振舞おうとするも、

その悔しさが滲み出ており、

無念と思うその気持ちが当時の俺には嬉しかった。


「知っているとは思うが、君の事は前々から聞いていたし会っても見た、

 だがまさかこんなに早く・・・とは、思ってもみなかったが、

 俺の戦友の頼みだからと言うのは勿論、

 あいつの・・・いや、修と優子さんの最後の願いだからな?

 君は此処で気兼ねせず暮らして行きなさい」


「・・・あ、有難う・・・御座います」


緊張からか俺の喉が渇いた頃、

それが分かっていたとでも言うように、

涼華様がドアをノックし、お茶を持って来たのだった。


すると半蔵様が涼華様に声をかけた。


「涼華・・・。

 修一君を部屋へと案内してやってくれ」


「・・・はい」


そう言って涼華様が俺の部屋へと案内しようとした時、

何かを言い忘れたのか、半蔵様から声がかかった。


「あっ、そうだ・・・修一君」


「・・・は、はい、何でしょうか?」


「このまま此処で「八咫」の性を名乗らせるには、

 少々君に負担がかかってしまうと思うのだが?」


俺は半蔵様の言葉に(あっ、そうか・・・。確かに・・・)と、

そう思うと頷いて見せた。


「もし良ければだが・・・。

 私の妻方の性を名乗ってはどうだろう?」


「・・・奥様方の性・・・ですか?」


「あぁ、その性を「塚本」と言うのだが、

 「塚本修一」と名乗ってみたらどうだ?」


俺は半蔵様の提案に「はい、有難く名乗らせて頂きます」と答えると、

半蔵様はグっと親指を立て、にっこりと笑みを浮かべたのだった。


そして再び半蔵様は涼華様に視線を向けると、

軽く頷きながら支持を出していった・・・。


「涼華、聞いての通りだ・・・」


「・・・承りました」


そう静かに答える涼華様は俺に視線を向け、

「行くわよ」と一言告げると、その部屋を後にしたのだった。


俺は半蔵様に向き直りお辞儀をすると、

涼華様を追って速足でその後ろに着くのだが、

その雰囲気と言うかそのオーラに俺は気圧されていたのだった。


そして涼華様に部屋へと案内される中、会話の1つもなく、

ただ息苦しいさだけが俺を包み込んでいた。


少しして案内された部屋の前で立ち止まり中へと入り説明を受けると、

その去り際に涼華様が背中を向けたまま声を掛けて来た。


「修一君・・・。

 私の下には長男の悠斗、さっき会った次女の沙耶・・・。

 そして次男の戒斗、最後に三女の貴子がいるわ。

 勉強の事だったら、私か悠斗に・・・。

 遊びにおいては沙耶一択ね・・・。

 戒斗は自称天才とか意味なく言うから、その内鬱陶しくなると思うけど、

 悪い子ではない・・・と、だけ・・・言っておくわ。

 そして貴子は・・・かなり癖のある子だから、

 ある意味・・・気をつけてね?」


そう一気に話すと涼華様はその場を後にし、

俺は1人部屋に残されたのだった・・・。


「・・・気をつけてって・・・何をだろ?

 説明は・・・ないんですね・・・ふぅ~・・・」


俺は頭を捻りながら部屋にあるベッドへと横たわると、

その疲れからか、いつの間にか寝てしまっていた。


それから暫くの間、俺が熟睡していると突然・・・。


「コン、コン」とノックをする音に目を覚まし、

慌てて部屋のドアを開きに行った・・・。


そしてドアを開くと俺の目の前には、

どう言えばいいのだろう?

無表情とでも言うのだろうか?

感情が無いとでも言うのだろうか?


涼華様に似た感じの切れ長の目をし、

綺麗な顔立ちをした子が、目の前に立っていたのだった・・・。

そして抑揚のない声で俺に話しかけて来た。


「・・・君が修一君だね?

 僕は悠斗・・・。

 何気に宜しく・・・」


(な、何気にって・・・何?

 それに・・・男だったのかっ!?)


そう・・・。

この綺麗な顔立ちをした男の子が父の手紙にあった悠斗・・・様。


父の手紙にあった『かなり困ったレベルの天然児』みたいだ。


俺が悠斗様の事を考えながら暫く固まっていたのだが、

この時、悠斗様は首を傾げるだけで、

お互い黙って立ち尽くしていたと言う展開になっていた。


俺は咄嗟に(この展開はは気まずいっ!)と思い、

慌てて挨拶をしていった。


「はっ!し、失礼しましたっ!

 ぼ、僕の名は修一ですっ!

 半蔵様の計らいで今後「塚本修一」と名乗らせて頂きます。

 今後とも宜しくお願いしますっ!」


「・・・塚本?それって・・・あの人の・・・」


(・・・あの人?お母さんの・・・じゃなくて?)


俺はこの時、悠斗様から妙な違和感を感じたが、

それを口にする事はせず、ただ頭を下げていたのだった。


そんな慌てた様子を目にしたはずの悠斗様だったが、

この時、悠斗様からはこんな声が返って来た・・・。


「うん、名前は聞いていたから知ってるけど、

 苗字は聞いてなかったな・・・。

 ところで修一君・・・。おにぎりは好き?」


「・・・はい?」


母親の苗字の事に対して悠斗様から再び変な違和感を感じたが、

その事を忘れさせてしまうくらい、

インパクトのある言葉を投げかけられたのだった。


「え、えっと~・・・お、おに・・・おにぎり・・・ですか?」


思わず俺はそう聞き返してしまった。

不躾なのは当然わかってはいたが、

そう声を発せらずにはいられなかったのだ。

 

「・・・うん、おにぎり」


「・・・えっと」


これが神野家で初めて悠斗様に出会った時の話だ・・・。

ま、まぁ~この出会いをきっかけに俺は、

父の言っていた「かなり困ったレベルの天然」の意味が、

嫌と言うほど味わうのだが、今回はここまでにしておこうと思う。


また今後話して行く予定なので、

その時はまた俺の話を聞いてやってほしい。


それではまた会う日まで・・・。


八咫 修一改め、今日この日から俺は、

塚本 修一と名乗る事になった・・・。



と、言う事で・・・。


今回のお話はいかがだったでしょうか?

修一が神野へと来た理由なんかは分かって頂けたと思います^^


次週からは再び外伝の本編へと戻りますが、

そらも楽しんで頂けたら幸いです。



ってなことで、緋色火花でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ