1話 日本・兆候・前編
お疲れ様です。
今回から外伝シリーズが始まります。
とは言っても、かなり重要な事があったりしますので、
読んでもらえると嬉しく思います^^
基本的には悠斗が亡くなる前の話がメインです^^
今後とも宜しくお願いしますっ!
それでは、外伝シリーズ第1話をお楽しみ下さい^^
俺の名は英二・・・。
神野家での俺の仕事は「魔を狩る」事・・・。
俺はその中でも第1班・・・つまり、精鋭中の精鋭を預かる者だった。
だが、悠斗が異世界に行った事で、
統括を任されていた悠斗の姉・・・涼華の仕事に支障が出て来た。
そんな時だった・・・。
俺達1班が突然現れた魔に、ほぼ壊滅させられた時、
一度死んだはずの俺を日本の神である天照が姿を現し、
俺を復活させてもらったんだが・・・それには裏があった。
俺の身体の中に、天照が人工的に作った鬼の因子を、
事もあろうに・・・俺に植え付けやがったんだ・・・。
それにより俺は鬼化し、
1班をほぼ壊滅させた鬼共を、突然現れた犬神である桜さんが現れ、
俺は倒す事が出来たんだが、
実はその夜以降暫くの間、俺は寝付く事も出来ず、
異常とも思えるぐらいの身体の痛みに、数日間苦しむ事になった。
その悩みを犬神である桜さんに話したところ、
こんな答えが返って来た。
「なるほどな?恐らくそれは天照が植え付けた鬼の因子・・・。
まぁ~正確には、悠斗の因子をマネたモノなんだけどね?
その影響で脳や身体に異常が出ているんだと思うわ」
「そ、そんな簡単に因子なんてモノ、植え付けられるのですか?」
「・・・出来るわよ?
だって・・・私達は神だもの・・・」
「・・・ま、まぁ~、そ、そうっスけど・・・」
俺は半ば呆れながら納得するしかなかった。
桜さんはそんな俺を見て色々と察してくれたんだろう・・・。
優しく俺に微笑みかけてくれると、こんなアドバイスをしてくれた。
「英二・・・。
正直に言うけど、貴方にはもう後がないわ」
「あ、後がない?」
「えぇ、天照が作り出したその因子に喰われるか、
貴方自身の意思で、抗い続けるか・・・」
「抗い続ける?」
「そうよ・・・。
つまりね?座して死を待つか、戦い続けるかって事よ」
「・・・・・」
俺はこの時、その意味を本当の意味では理解していなかった。
「抗い続ける」と言う事は、
いつ暴走するかわからない、そんな不安定な因子と戦い続ける・・・
俺はこの時、楽観的にしか考えていなかったんだ・・・。
勿論修練はしたぜ?
桜さんの元、血反吐を吐くような修練をな?
だけどまだ、俺の覚悟が足りなかったんだ・・・。
そう・・・あの時までは・・・。
ある日の事・・・。
日々英二は桜指導の元、修練に励んでいた。
そしてその修練中の最中・・・。
慌てた様子で大介が大声で叫びながら駆け寄って来た。
「え、英二さんっ!たっ、たた大変ですっ!」
「なっ、何だよ大介っ!?
兎に角慌てんなっ!まずは落ち着けってっ!」
大介は肩で「ぜぇぜぇ」と息をしながらも、
英二に言われたように落ち着く為、呼吸を整えていった。
「え、英二さん・・・涼華様から緊急の仕事ですっ!」
「えっ!?りょ、涼華からっ!?」
英二は咄嗟に視線を桜へと向けると、
無言で頷いて見せた。
桜の意思を確認した英二は、返事を待つ大介に口を開いた。
「わかったぜ・・・大介」
「よ、良かった・・・ダメだとか言われたら俺・・・」
安堵する大介に英二は笑いながら話しかけると、
緊急と言っていた仕事の為に、急いで神野家へと戻り、
涼華の私室へと入って行った・・・。
~ 涼華の私室 ~
入室するとそこには悠斗のもう1人の姉である「沙耶」と、
自称天才の弟・・・「戒斗」が居り、
入室して来た桜に対し、全員が立ち上がり頭を垂れたのだった。
「桜様・・・。修練中であるにも関わらず誠に申し訳御座いません」
「構わん・・・。
こいつの修練は私が言い出した事・・・。
だから私に気を遣う事はないわ」
「・・・有難う御座います」
桜の返事に涼華は桜と英二にソファーへ座るよう促し座ると、
丁度いいタイミングで一番下の妹・・・
「貴子」がお茶を持って入って来た。
お茶に口をつけたところで涼華の話が始まった。
「英二・・・修練中すまんな?」
「あ、あぁ・・・緊急ってんだから仕方がねーだろ?
で・・・?その緊急の仕事って一体なんだよ?」
やや深刻なそうな面持ちでそう問いかける英二に、
涼華は沙耶へと視線を送った。
すると沙耶が黙って頷くと部屋の照明が落とされ、
大きなモニターに映し出された映像を見せながら説明し始めた。
「まずはこれを見てくれ・・・」
桜と英二はモニターに映された惨状に顔を顰め、
言葉を捻り出すのがやっとだった・・・。
「ひ、ひでー・・・なっ、なんなんだよ・・・これは?
女ばかりか・・・こ、子供までっ!?」
「・・・恐らく魔である事に間違いはないが・・・だが・・・」
そう桜が呟くと、
次のシーンで桜が確信を得ると、
先程言いかけた言葉の続きを話していった。
「やはりな・・・」
「なっ、何だってんだよっ!?桜さんっ!?」
「確かに魔である事に間違いはないみたいだけど、
でもこれは・・・異世界の魔物ね」
桜の言葉に部屋の中には静寂が訪れた・・・。
それはただの静寂ではなく、「異世界の魔物」であると、
その言葉による静寂だったのだ。
すると涼華が「はぁ~・・・」っと溜息を吐くと、
椅子にもたれかかりながら口を開いて行った。
「予想はしていたけど・・・まさかよね?」
「予想はしてたってっ!一体どう言う事なんだよっ!?」
涼洟は英二の問いに答えるべく、姿勢を正し座り直すと、
沙耶に向かって小さく頷いて見せた。
すると沙耶がPCを操作しながらある場面をモニターへと映し出すと、
その静止画を拡大しながら説明していった。
「見ろ・・・英二・・・」
「み、見ろったってよ~?
こんな映像をそう何度も見られ・・・って、お、おいっ!?
な、何だよ・・・こりゃ~?」
モニターに映し出された静止画には、
歪に研がれた「石の矢じり」と、「石の斧」だった。
「石の矢じりと石斧って・・・?
おいおいおい・・・一体どうなってんだよこりゃ~?
今時こんな武器なんて存在してんのかよ?」
英二はその静止画に眉間に皺を寄せそう話すと、
今度は涼華がそれについて口を開いた。
「そうね・・・確かに今時こんな武器って思うけど、
でもこの加工された武器達は・・・たった数時間前に加工されたモノなのよ」
「は、はぁぁぁっ!?数時間前って、う、嘘だろっ!?」
「本当よ・・・残念ながらね?
それにこれを見て・・・」
再び涼華が沙耶に向かって軽く頷くと、
沙耶は次の静止画を英二と桜へと見せたのだった・・・。
「な、何だよ・・・?
これのどこが変だってんだよ?」
次に映し出された静止画には、
コンクリートに生えている雑草と何かの液体が垂れたような跡があった。
するとその静止画を見た桜がポツリと呟いた。
「これは・・・血液ね?」
「は、はぁっ!?」
桜の発言に英二は咄嗟に振り向くと、
涼華がこのコンクリートの上に垂れた液体について説明し始めた。
「知っての通り私達人間の血液は・・・赤い。
だけど英二もこれを見てわかるように、これは・・・「紫」なのよ」
「こ、この紫色の液体が・・・け、血液だってっ!?」
「えぇ、でもそれだけじゃないわ・・・。
人の赤血球は骨髄で作られ穴の開いていないドーナツ状になっていて、
その赤血球の中には核はなく、そのスペースをヘモグロビンが埋めて、
酸素を運搬しているのよ・・・それでって・・・」
そう涼華から説明され始めたのだが、
まだ血液について序盤にも関らず、英二の表情が引きつり始めると、
涼華もまたその表情が引きつり出し、
再びあきらめの溜息と共に説明するのを止めてしまったのだ。
「・・・ど、どう・・・したん・・・スか?」
「い、いえ・・・英二に説明してもわかってもらえないと悟ったのよ」
「・・・し、失礼なっ!?」
「じゃ~・・・説明を続けるけどいいのよね?」
「え、えっと・・・あははは・・・遠慮します」
英二の言葉に再び溜息を吐いた涼華は首振って見せると、
苦い顔を見せながら沙耶はPCの電源を落した。
「あんたってヤツは、本当にどうしようもないね~?」
「だ、だってよ?
そんな専門的な説明をされてもよ~。
わかる訳ねーじゃねーかっ!?」
不貞腐れそっぽ向く英二に、ここに居た全員が呆れていた。
「しかたがないわね・・・」
そう言葉を切り出した涼華は具体的な話へと移行していった。
「わかっている事だけ説明するわ」
「・・・ウス」
「桜様がおっしゃったように、恐らくこれは異世界からの侵入者・・・。
そう思ってもらって間違いないわね。
だから英二・・・どうせ貴方は悠斗の所に行くんだから、
腕試しのつもりで軽く殲滅してきて頂戴・・・」
「・・・はい?せ、殲滅って言ったか?」
「・・・そう言ったけど?」
英二は涼華の言葉を聞いて数回瞬きした後・・・、
顏を引くつかせながら口を開いた。
「殲滅って言ってもよ?
敵が何体居るかもわかんねーんだぜ?」
「・・・そうね」
「・・・それがわかってて・・・殲滅しろ・・・と?」
「ええ、その通りだけど?」
英二は「バンっ!」とテーブルを叩きながら立ち上がると、
眼鏡越しに冷徹にこちらを見る涼華の眼差しに嫌悪感を抱いた。
「・・・てめー、自分が何を言ってるかわかってんだよな?」
「・・・・・」
「たった1人でヤレってんだよな~?
てめーら血統の者がここに雁首揃えてるってのにかっ!?」
「・・・えぇ、そうよ?
私達血統を継ぐ者は別にやる事があるのよ・・・。
お前とは違って、私達には成すべき事があるのよ。
代われるモノならいくらでも代わってあげわよ?」
「ちっ!でもよく考えて見りゃわかるだろうがよ~?
リスク・・・高けーだろうが?」
「あら?そんなのがリスクの内に入るのかしら?」
「へっへっへっ・・・てめー・・・いい加減に・・・っ」
英二の怒りが見て取れるほどに高まると、
それを見ていた沙耶が2人の言い争いに割って入って来た。
「待ちなっ!2人ともっ!
それと姉貴も言い過ぎよっ!」
「・・・・・」
「英二もっ!そう簡単に頭に来てんじゃないわよっ!」
「だ、だってよっ!?今の見てたらわかんだろっ!?
誰だってそんな言われ方すりゃ~よぉ~
怒りたくもなるぜっ!?」
涼華を指差しながら怒りの表情を浮かべる英二に、
声をかけ口を開いたのは桜だった・・・。
「よせ・・・英二」
「さ、桜さんっ!?どうして止めんだよっ!?」
「お前・・・悠斗の・・・いや、ノーブルへ行くのよね?」
「も、勿論っスよっ!」
「なら・・・お前はこの仕事を受けた方がいい・・・」
「・・・どうしてっスか?」
「お前の鬼の力は未知数だからよ」
「なっ!?」
いきり立つ英二に桜は涼華の真意を告げると、
英二自身も不安になっていた「鬼化」について図星を突かれたのだった。
その事に不安気に表情を浮かべた英二に、
涼華は冷ややかな視線を向けながら口を開いていったのだ。
「コレくらいの事・・・言われないと気が付かないの?」
「そ、それは・・・」
「どうしても不安だ・・・って言うのなら、
サポート役として桜さんの同行を認めるわ。
どの道・・・悠斗が居ない今・・・。
鬼化出来る英二・・・貴方に頼るしかないのよ」
「・・・涼華・・・おめー・・・」
英二はふとソファーに座る桜に視線を落とすと、
こちらを振り返る事もなく頷いていた。
そんな桜に英二は少し安心しながらも、
自分が情けなくて仕方がなかった。
(わ、わかってんだよ・・・これでもよ?
自分自身、鬼化については不安要素が有り過ぎる・・・。
それを確かめる為ってのはわかんだけどよ?
それでも・・・釈然としねーな・・・)
英二は涼華の任務を了承すると、部屋を出て行ったのだが、
涼華の気分はすぐれなかった。
何故なら今回の件を含め、
最近この日本の地で不可思議な事が多かったからだった。
(・・・英二に任せるしかないのだけれど、私の不安は消えない。
何者かが陰で動いている事は確かだけど、
その正体までは・・・。
そしてこれらの件が頻繁に起こるようになってから、
私達家族の異変も連動している
悠斗・・・貴方がここに居れば意見が聞けたのでしょうけどね。
だけど居ない貴方には頼れない・・・。
私は神野の一族を継ぐ者として、歩いて行かなければならないわ。
そう・・・私は次期当主として・・・)
涼華が目を閉じたまま微動だにしない事に、
ここに居る、沙耶、戒斗、貴子の3人は静かに見守っていた。
それから30分ほどすると、涼華の硬く閉じられた目が開いた。
「・・・姉貴、これからどうするのよ?」
「・・・貴子」
「は、はいっ!」
「お前はまずあのやかましい小娘に連絡してっ!」
「や、やかま・・・しい?」
「あぁ、いちかだ・・・」
「あはは・・・は・・・や、やかましい・・・ね?」
貴子は涼華に言われた「やかましい」と言う言葉と、
貴子の兄である悠斗を日々追い回している彼女の姿を思い出し、
苦笑いを浮かべて居た。
「お姉様・・・。塚本に連絡したほうが宜しいのでは?」
貴子の進言に涼華は頷くと、すぐさま部屋を後にし、
いちかと共に居るはずの執事である「塚本 修一」に連絡を取りに行った。
貴子が部屋を出てから涼華は戒斗へと視線を向けると・・・。
「戒斗・・・。お前は装備を整えたら英二達を追え」
「・・・は、はい?」
「あ、姉貴?」
涼華の言葉に驚き声を挙げたのは戒斗だけではなかった。
次女である沙耶までもが驚き声を挙げたのだった。
「・・・どうしたのよ?」
「い、いや・・・姉貴?
わ、私達が出るのは・・・ま、まずくないか?」
「・・・そう?」
「そう?って・・・言われても・・・」
沙耶と戒斗は顏を見合わせていると、
そんな2人に涼華は「フッ」と笑みを浮かべた。
「あんた達・・・このまま英二だけに任せるの?」
その言葉は沙耶と戒斗に重く圧し掛かった。
何故なら神野の血統を継ぐ者達は、
英二達にはない生粋の「魔狩り」の一族。
その血統を継がない者が今回の任務に選ばれた意味・・・。
それを考慮しても沙耶も戒斗も動けずに居たのだった。
すると涼華は立ち上がりながら机を「バンっ!」と叩いた。
「「っ!?」」
驚く2人を他所に涼華は話を始めた。
「私達一族の身体の異変はこの際・・・どうでもいいわ」
「ど、どうでもいいって涼華姉~?」
「黙りなさい」
「うっ」
「2人共・・・。
こんな私達の姿をあの子が・・・
「悠斗」が見たらなんて言うのかしらね?」
まるで殺し文句のように涼華は笑みを浮かべながら言うと、
戒斗は「い、言われるまでもなく、わかってるしっ!」と、
ぶつぶつ言いながら部屋を後にした。
そして残った2人は・・・。
「姉貴?やっぱあんたは私達の姉だわ~♪」
からかうように言った沙耶だったが、
何故が全身汗でぐっしょりと濡れていた。
だがそれは沙耶だけではなく、涼華、戒斗、そして貴子までもが、
その身体に宿る高熱と全身に広がるその痛みに苦しんでいたのだった。
ふらっと突然眩暈を起こした涼華が椅子に座り落ちた。
「ふぅ~・・・英二の前で無様な姿は見せられないものね?」
「ははは・・・そうだな?でもよ・・・姉貴・・・?
このままじゃジリ貧だぜ?」
「そうね~・・・」
高熱と痛みに悶絶しつつもそのプライドだけで堪える者達。
椅子をくるりと回し窓から外を見た涼華は一言・・・。
「・・・こんな姿、悠斗に見せられないわね」
そう呟きながら「フッ」と笑みを漏らした涼華は、
そのまま深い眠りに落ちてしまうのだった。
~ 某県某〇村 ~
英二は桜と共に大介が運転する車に揺られて現地へと赴いたのだが、
映像で見た以上に現状はもっとひどいモノだったのだ・・・。
「ひ、ひで~・・・な、なんなんだよ?コレはよ?」
「そうね・・・。
思っていたよりもひどいわね」
村の入り口付近で英二は大介にここで待機するよう指示を出すと、
トランクから荷物を出し、
通信用のインカムなどをテキパキと用意していった。
装備を整えた英二と桜は大介と別れ村の中へと浸入して行った。
この村は谷合にある村で、人口がおよそ50人にも満たない人数で、
ほぼ限界集落と化していた。
「・・・むご過ぎる。
これが異世界から来た・・・魔物の仕業なのかよ?」
英二はこの時、心臓の鼓動が異常に早くなっている事に気付いたが、
その鼓動の早さが緊迫感から来ているモノだと思っていた。
そんな時だった・・・。
英二の心臓が1度「トクン」と跳ね上がったその瞬間、
まるで何かを予知していたかのように、
森の中で何かがざわめいているような感覚に襲われたのだった・・・。
「どうかしたのか?英二?」
「さ、桜さん・・・い、今の、気付かなかったんですか?」
「今・・・の?」
英二にそう問われた桜だったが、
桜自身何も感じておらず、ただ英二の顔を訝し気に見ているだけだった。
「あははは・・・。
犬神である桜さんが気付かないって事は、
俺の・・・勘違いって事っスね?」
「・・・そうね」
桜は何か物思いにふけながらも、
道なりに歩いているとふと・・・何かが匂ったのだった。
「待て・・・英二」
「・・・はい?」
桜の深刻そうなその表情に英二もその足をピタリと止めると、
桜は目を細めながら民家の隣に生えている桜の木を見ていた。
桜はその桜の気に近付くと、
手に触れ何かを探りながら静かに目を閉じると、
一瞬桜の顔に嫌な陰が差したように英二は感じ不安が過った。
「さ、桜さん・・・何だかヤバそうな雰囲気なんスけど、
な、何かわかったんスか?」
桜の雰囲気を察した英二が喉を鳴らしながらそう言うと、
再び目を閉じ、英二にとっては・・・
いや、この世界の人間にとって・・・
とてもつらくなるような事を言い始めた。
「英二・・・心をしっかり保って聞くのよ?」
「な、なんスか?と、突然・・・?
い、嫌だな~?お、驚かさないで下さいよ~」
桜のあまりの迫力に英二は1歩後ろへと後ずさった・・・。
「もしかすると・・・。
異世界からの魔物の侵入は・・・
この世界の人間による仕業かもしれないわ」
「えっ?・・・えっ!?
いやいやいやっ!ちょ、ちょっと待って下さい~?
い、いくら何でもこっちの人間が異世界との関わりなんて・・・
ははは・・・そ、そんな事、ありえる訳が・・・。
そ、それにですよ?
一体どうやって異世界から魔物なんて連れて来るんスかっ!?」
動揺が隠し切れない英二に、
桜は悲しそうな表情を浮かべ何かを呟くと、
あるモノを桜の木から「ペリっ」と剥がし、英二の掌にソレを置いた。
「・・・へっ?そ、そんな・・・バカなっ!?
ど、どうしてこんなモノが、こんな・・・と、所に?
な、何かの間違いっスよねっ!?桜さんっ!?
何か・・・何か言って下さいよっ!桜さんっ!?」
その訴えかける言葉に目を閉じ無言を貫く桜・・・。
その桜の反応に英二は膝から崩れ落ち、
桜から手渡されたソレを見ると、
ワナワナと震え始め・・・ソレを「ぎゅっ!」と握り締めた。
「なっ、何でだよ・・・。
何で同じ人間がっ!こんな事出来んだよっ!!
ふっ・・・ふざけんじゃねぇーぞぉぉぉぉっ!
そんな事があってたまるかってんだよぉぉぉぉっ!!」
まさに心から叫ぶ・・・絶叫だった。
英二は絶望し項垂れ涙を流しながら、
ソレを握り締めた拳を地面に叩きつけ、泣きながら苦悶の言葉を口にした。
「な、なんで・・・だ、・・・よ・・・。
なんだっ・・・て、こんな・・・所に・・・
こんな・・・ま、禍々しい・・・
「呪符」なんて・・・モノがあるんだよっ!
そ、それに・・・こ、これは・・・」
この時英二はその呪符に見覚えがあったのだった・・・。
それに気付いた英二の感情が暴走したのだった。
「・・・英二?お、おいっ!英二っ!?
私の声が聞えないのかっ!?」
「うぉぉぉぉぉぉっ!
ま、まさか・・・だろっ!?まさかだよなーっ!?
う、嘘だと言ってくれぇぇぇぇっ!!」
「え、英二・・・お前は何に気付いたんだ?」
狼狽する英二に桜はそう声をかけるのがやっとだった。
そして英二の肩に手を触れようとしたその瞬間・・・。
「ハァ、ハァ、ハァ」っと、英二の息が荒さを増し、
桜が気付いたその時には、
英二の呼吸に合わせて、口から紫がかった湯気のようなモノが、
唇の両端から立ち昇っていたのだった。
「え、英二っ!?そ、それは・・・一体何だっ!?
そ、それって・・・お、鬼の・・・気なのかっ!?
な、なんて・・・ま、禍々しいっ!?
英二っ!気持ちを落ち着けなさいっ!
感情に流されてしまったらっ!
あんたの中の鬼の因子に喰われるわよっ!?」
桜が後ろへと身じろぎながらそう言うと、
顏を上げた英二の瞳が・・・
縦に割れ、瞳も紫色になっており・・・
その瞳はまさに・・・「鬼」の瞳だった・・・。
そして呼吸を荒くしながら顔を上げた英二は、
呻くようにこう言ったのだった。
「・・・裏切者には・・・死を・・・」
そう言って英二はニヤりと冷たい笑みを浮かべるのだった。
と、言う事で、いかがだったでしょうか?
楽しんで読んでもらえたなら嬉しく思います^^
皆さんの感想など是非聞きたいので、
コメントなど頂けると幸いです^^
ってなことで、緋色火花でした。




