第2章・完・200話 希望
お疲れ様です。
今回第2章・最終話となります。
だからと言って、この話が終わる訳ではなく、
今後も続きます。
一週ほどお休みを頂いてから「外伝」がスタートしますので、
楽しみにして頂けたら幸いです。^^
今回ですが・・・。
めちゃくちゃ話が長いです。
最初からこうするんだと決めていたのですが、
思っていたよりも・・・長くなってしまいました。
と、言う事で・・・。
次回から「外伝」がスタートしますが、
本編もまだまだ続きますので、宜しくお願い致します。
それでは、第2章・最終話をお楽しみ下さい^^
~ 現 在 ~
俺の名前は「神野 悠斗」・・・。
ノーブルと言う異世界に来て数カ月、
俺は漸く・・・
雪の降り積もる北の大地に在る「嘆きの森」に足を踏み入れ、
その森の中心に樹木もない広い空間で再びこの男に出会った。
「フッ・・・漸く来たな?」
「・・・やっぱ、あんただったか・・・」
「おいおい、久々に会うのに威圧するなよ?」
「・・・あの時は違う空間だったしから、
あんたの姿は知らないんだけど・・・。
まぁ~それでも、あんたには色々とは聞きたい事があるんだ。
今度こそ・・・答えてもらおうか?」
「・・・フッフッフッ。
ユウト・・・いや、神野 悠斗・・・。
あの時出会った小僧がまさか・・・だよな~?」
「・・・あの時?ちょっと何言ってるかわかんないけど、
ふ~ん・・・。色々知ってそうだよね?
まぁ~それも含めて全部話してもらおうか?」
2人が暫くの間会話のやり取りしていたのだが、
悠斗が話し終えたところで、相手の男の雰囲気が突然変わった。
(・・・気の質が変わったっ!?)
「・・・悠斗、お前に話す前に・・・
本気の手合わせをしようじゃないか?」
「・・・手合わせ?」
「まぁ~簡単に言うとだな?
俺がそれで納得出来れば全て話す事にするが、
もし・・・俺が納得しない場合は・・・」
「・・・しない場合は?」
「・・・死んでもらう」
「っ!?」
その男の衝撃的な言葉に、悠斗の表情に緊張が走ったが、
悠斗は真っ直ぐその男を見つめながらこう答えた・・・。
「・・・わかった」
「フッフッフッ・・・流石は悠斗だ・・・。
話が早くて助かる・・・」
悠斗とその男が対峙する嘆きの森で、
その男は笑みを浮かべながら期待に満ちた視線を向けていた。
「本気だ・・・ユウト・・・さぁ~、かかって来いっ!
そしてお前の全力を俺に見せてくれ・・・」
「全力・・・か?
ははは・・・ウケる♪」
「まぁ~、ハンデと言ってはなんだがな~・・・。
お前に一撃目をくれてやる・・・。
だから・・・全力で来いっ!」
「ハンデって、余裕そうじゃん・・・。
じゃ~お言葉に甘えて・・・そうさせてもらうかな♪
言っておくけど・・・もうあの時の俺とは違うからな?」
「・・・期待するとしよう♪」
緊張が張り詰める中、悠斗は大きく深呼吸をすると、
流れるように鬼魂門を解錠し始めた。
(フフフ・・・。悠斗のヤツ・・・中々腕を上げたようだな?)
(不動の鎧なら、防御力も期待出来るし・・・
ここは・・・飛び込むしかないな・・・)
互いにニヤりと笑みを浮かべると、
意を決し駆け出した。
そして・・・。
「はぁぁぁぁぁぁっ!三之門・・・解っ!
行くぞぉぉぉっ!ゼツのおっさぁぁぁんっ!」
「全力でかかって来いっ!悠斗ぉぉぉぉっ!」
そして今、嘆きの森で悠斗と絶との戦いが始まった。
時は数日戻り、ここは港町・アシュリナ・・・。
鬼達との熾烈な戦いを終え勝利を掴んだまでは良かったのだが、
突然カロンが原因不明で倒れると意識を失った。
悠斗は慌てて駆け寄ると、火山竜と相談した上で瞬間移動を使用し、
アシュリナの港町に在る冒険者ギルドへと移動していった。
そして悠斗達は冒険者ギルド内1階のフロアに瞬間移動すると、
受付けに居たポーラを見つけ声を張り上げた。
「ポーラっ!ウェズンを呼んでくれっ!
カロンがかなりヤバいんだっ!早くっ!」
「は、はいっ!わかりましたっ!」
慌てて2回へと駆け上がったポーラが、
ギルマスでもあるウェズンを呼ぶと、そのまま医務室へと連れて行った。
~ 冒険者ギルド内・医務室 ~
医務室に在るベッドには・・・。
カロン・テレス・・・そしてもう1人が静かに寝ていた。
「ユウト・・・こいつの顏を見た事ねーんだが、
この男は一体誰なんだ?」
ベッドに横たわる謎の男に、
ウェズンはやや不審気にその男の顔を見つめていた。
「まだ秘密にしておいて欲しいんだけど、
こいつの名は「童鬼」・・・簡単に言うと・・・
俺達の・・・つまり、この世界の敵だ」
「「「はぁぁぁ?」」」
悠斗の言葉に顔を顰め驚きを見せたウェズン達は声を荒げ、
悠斗の胸倉を掴むと「ユサユサ」と揺さぶった。
「ユ、ユウトっ!お、お前ってヤツはっ!
一体全体何だってこの世界の敵なんかを連れ帰ったんだよっ!!」
「こ、この世界の・・・て、敵って・・・ユウト様っ!?」
ウェズンは力任せに悠斗を揺さぶりながら問い詰めると、
胸倉を掴んでいたウェズンの手に悠斗は自分の手を重ね口を開いた。
「こいつは・・・悪いヤツじゃないんだ」
「お、お前っ!?な、何を根拠にそんな戯言をっ!?」
更に激高するウェズンに構う事なく、
童鬼に視線を送りながら言葉を続けた。
「こいつさ・・・俺に言ったんだ。
力を貸してくれ・・・ってさ」
「なっ!?」
「力を・・・ですか?ユウト様の?」
「あぁ・・・。こいつのボスを止めたいらしい」
「「・・・・・」」
そう悠斗から話を聞かされたウェズンは、
言葉が出なくなり胸倉を掴んでいた手の力が抜けた。
そしてウェズンとポーラもまた、
ベッドに横たわる童鬼に視線を向けていた。
それから暫くの間、悠斗と火山竜がその経緯を話すと、
ウェズンとポーラは医務室に在るソファーへと腰を下した。
「・・・そんな事があったとはな?」
「し、しかしそんな連中が暗躍しているだなんて・・・。
ギルドにもそんな情報なんて・・・」
俯き視線を落とす2人の気持ちを察する悠斗だったが、
そんな2人に構う事無く、火山竜は「事のついでだ・・・」とそう言って、
火山竜は自分自身とテレスの事も話をしていったのだ。
話しを聞き終えたウェズンとポーラは驚愕するも、
あまりの情報量の多さに頭がパンク寸前になり、
火山竜の話が終わらぬうちにその話を遮って来た。
「す、すまん・・・ユウト、そして火山竜様・・・
ちょ、ちょっと待ってくれっ!」
「「ん?」」
「も、もう、そ、その・・・何て言えばいいのかわからんが、
情報量が多過ぎてだな?
も、もう頭がこんがらがっちまってよ・・・。
じ、自分でももう、何を考えているかもわかんねー・・・」
そうウェズンが疲れた顔を見せながらそう答えると、
それに同意を示すようにポーラも頷いて見せていた。
「うむ・・・では今度は少しずつ話を整理していこうか?」
「よ、宜しくお願いします」
火山竜の提案でウェズン達も納得すると、
最初にウェズン達から質問してきた。
「ユウト・・・。カロン・・・さ、様は一体どうなってんだ?」
「えっと、突然倒れたから慌ててパーフェク・ヒールを使ったんだけど、
それが効いている様子もないし、それに意識も戻らないしさ?
一応念の為に鑑定も使ってみたんだけど、
鑑定不可・・・としか・・・」
「ふむ・・・なるほど。それで?」
「それでって・・・。
ま、まぁ~とりあえず外じゃどうしようもないじゃん?
だからここに連れて来たんだけど?」
悠斗達は暫くの間頭を悩ませ、治癒師とも話してはみたものの、
それらしい具体案などは思い浮かばなかった。
悠斗達は医務室に常駐している治癒師達に後を任せ、
場所を移動する事になった。
そして2階に在る会議室に入ると同時に、
ウェズンは一番気になっている事を口にし始めた。
「なぁ~ユウト?お前・・・あの童鬼ってヤツをどうするんだよ?」
「・・・どうって言われてもさ~
ただ、このまま殺すにはおしいヤツだと思ったからなんだけど?」
「お、思ったからって・・・お、お前なぁ~?
いくらお前がそう思ったところで、
実際どうなるかはわかんねーだろうが?」
「・・・ま、まぁ~・・・そう・・・だね」
「全く・・・お前ってヤツはよ~?」
椅子に座り呆れ返りながらそう話したウェズンに、
ポーラがコーヒーをそっと差し出してきた。
そしてそれに口を付けながらも、悠斗から視線ははずさなかった。
そんな時だった・・・。
ウェズンの視線を浴びながら、
ポーラに出されたコーヒーを口にしていた時、
ふと・・・悠斗の頭の中に、突然念話が送られて来た。
(やぁ、初めまして・・・)
「ブゥゥっ!?」
油断仕切っていた悠斗は突然の送られて来たその念話に、
思わず口に含んだコーヒーを吹き出してしまった。
「なっ!何だよっ!ユウトっ!?きったねーなぁーっ!」
「ユウト・・・どうした?」
そんな言葉が聞えて来る中、悠斗は念話に集中する為、
手を突き出しながらみんなを制した。
その悠斗の様子から察すると静かに着席し、
それが終わるまで静観する事にしたのだった。
(・・・誰?)
(・・・すまないがまだ・・・名乗る事は出来ないんだ)
(・・・そうなんだ?
でも、俺の事は分かっているんだよね?)
(勿論分かっているよ?
君が地球から来たノーブルの救世主って事もね♪)
(・・・ふ~ん。
で・・・、何の用?)
(武神・カロンの事なんだけどさ?)
カロンの名を聞いた瞬間、悠斗の目は鋭くなり、
そして握られたコーヒーカップの取手を持つ手に、
「ギュッ」と力が入るのを、ここに居た3人が目撃する事になった。
(カロンがどうなっているか、その原因を知ってるのか?)
(あぁ、勿論知っている。
だから俺は危険を侵してまで、君に念話を送っているんだよ)
(わかった・・・。そこまで言うなら・・・。
今だけは・・・信用しよう)
(今だけは・・・か)
やや呆れ声でそう言うも、その念話の主は具体的な話をし始めた。
(今のカロンの身体って擬体じゃないんだよ)
(・・・えっ!?擬体じゃないの?
い、いや、だって・・・神達は擬体がないと・・・)
(あぁ・・・。彼には俺が生身の肉体を与えたんだ)
(・・・生身って)
(ラウルの擬体製作は間に合っていないようなので、
特別措置って事と、復活の記念・・・的な?)
(て、的な?)
(それでまぁ~地上に降りる為に、その生身で戦ったんだけど、
やっぱりと言うか何と言うか・・・。
ある程度強く発した神力には問題なく耐えられるんだけど、
彼の放出した神力に耐えられるだけの器じゃなかったみたいなんだ)
(・・・どう言う事?)
(つまり・・・。カロンに渡した生身の肉体のベースは、
覚醒前の情報をベースに作り出している。
だけど覚醒した今のカロンの神力の前には、
全然ダメだったって話なんだよ)
悠斗はそう聞かされると、今までのカロンの神力の濃さに、
今更ながらに気付いたのだった。
そして念話の主からこう言葉が続いた。
(生身の肉体は俺が後で何とかしておくから、
君は自分がすべき事をやってくれ)
(えっ!?)
(ハハハ・・・。驚く事はない。
君は元々1人で旅立つつもりだったんだろ?
仲間を巻き込まない為にさ)
(・・・・・)
(それと童鬼だっけ?あの鬼の事も心配しなくていい・・・)
(わかった・・・。ありがとう)
(気にしなくていい・・・。
それじゃ・・・またな?悠斗)
そう告げた念話の主は悠斗との念話を切った。
そして悠斗は今話した内容を、ある程度濁しながら説明し終わると、
今後の対応策を話し合って会議室を後にしたのだった・・・。
ギルドの階段を降りる中、悠斗は火山竜に念話を送って会話をしていた。
(火山竜。テレス達の事を頼んでいいか?)
(・・・どう言う事だ?)
(俺にはやらなくちゃいけない事があるんだ)
(・・・し、しかしそれではっ!?
と、言うか、そんな事カロンがまず納得しないぞっ!?
とは言っても・・・ユウトはもう決めているのだな?
わかった・・・テレス達の事は任せておくがよい)
(ありがとう・・・火山竜)
悠斗と火山竜は1階フロアで別れると、
火山竜は医務室へと向かい、そして悠斗は・・・。
~ 神界・自室 ~
(も、もう時間が・・・)
ミスティの自室には、地上の時間を知らせる時計が置かれており、
チクタクチクタクと時を刻む音に、
ミスティの苛立ちも増して行くばかりだった。
(ど、どうして誰も悠斗様をお助けになられないのっ!?
そ、それにどうして私の念話がユウト様に届かないのよっ!?
あ、ありえないわ・・・女神である私の念話が・・・。
現状がわからないばかりか念話まで・・・。
い、一体私の知らないところで何が起こっていると言うのですっ!?)
神で在るはずの自分に嫌気を覚えながらも、
ミスティは今も自室内をウロウロとするしかなかったのだ。
~ 神界・ラウルの製作ラボ内 ~
新しい擬体を前にして、ラウル、白斗そして神界樹の3人が、
素材を前に討論していた。
「あかんっ!あかんってっ!」
「えっ!?でもさ~・・・やっぱり関節はこうでないとさ?」
「ラウルはん、それやったら旧バージョンの関節と同じやんかっ!?
そんなん新しい擬体にする意味なんてあらへんやんかっ!?」
「うぅぅぅ~・・・だってさ~」
「ラウル様?折角新しい素材で作り上げた擬体なのに、
意味がなくなるではありませんか?」
「神界樹~・・・き、君までそんな事を言うのかい?」
「私は別に白斗が私の彼氏だからと言って、
肩を持っている訳ではありませんわ。
ただ、客観的におかしい・・・と、そう申し上げているだけです」
「・・・わ、わかったよ~」
~ 岩場の聖域 ~
聖域内に在る精霊樹の前で、特訓をする双子・・・。
そんな双子が特訓の合間に会話をしていたのだが、
何かの不安に少し怯えたミアプラが口を開いていった。
「ねぇ・・・エルナト?」
「どうしたんだい・・・ミアプラ?」
「女神様達の言いつけ通り、パパに念話を送るのは我慢してるけど、
何だろう?あのね、私のお胸がね・・・ザワザワするの」
「・・・ミアプラもそうなんだね?
僕もここ最近・・・ずっとそうなんだよ」
「これって・・・パパの事なのかな~?」
「僕にも正直わからないけど・・・。
でもミアプラ・・・パパが言った事を思い出してよ」
「パパが言った事?」
「うん、今僕達はやるべき事をやらないと、
パパやみんなの力になんてなれないんだよ?」
「・・・そう・・・よね?
私達はパパの子供だもんね?」
「そうだよ、ミアプラ。
僕達のパパは強いんだっ!だから僕達も・・・」
「うんっ♪ミアプラ・・・頑張るっ♪」
「よ~しっ!僕も頑張るぞぉぉぉっ!」
(でもねパパ・・・。
僕もミアプラと同じで不安でたまらないんだ・・・。
今、どこにいて、何をしようとしているの?
パパ・・・無理しないでね?)
~ イルミネイト本部に向かう街道 ~
悠斗達が童鬼達との戦いを終え、
慌てて港町に帰還した頃・・・。
勇者達一行は任務を終えて、
イルミネイト本部に帰還している最中、
先頭を歩くバカ勇者と精霊達・・・。
そしてやや後方から微笑ましい表情を浮かべながら見守っている、
そんな仲間達が街道を歩いて居た・・・。
「それにしてもよ~・・・。
何も修行中に任務をする事もねーよな~?
ハード過ぎてクタクタだぜ~」
(あんたっ!だからあんたはバカ勇者だって言うのよっ!)
「うっ!バ、バカってっ!?
で、でもよ~ミツチ様よ~・・・
毎日修行修行だってのによ~?
これじゃ~こっちの身体が持たないぜ~」
(それはあんたが今まで怠けていたせいでしょうがっ!?
ピカりんも何か言いなさいよっ!)
(わ、わかったよ、お姉ちゃん・・・。
ロジー様達はジュゲムの成長と僕との親和性を・・・)
「うぅぅ・・・とうとう自分のスピリットにまで、
ジュゲムって言われるようになってしまった・・・がくっ」
あたふたとしながら光のスピリット・ピカりんと、
水のスピリット・ミツチが前方で騒ぐ中、
それを温かく見守っていた仲間達も何やら会話をしていた。
「しかしなんですな~?
我々は日々、本当の勇者一行として、
世の為人の為に役立つ日が来ようとは・・・感無量ですっ!」
「ハッハッハッ!ダンケル~?
あんたの口からそんな言葉が出るとはね~?」
「な、何を失礼なっ!フォルティナこそ、もう少し女らしくですね~?」
「はぁぁ~?あんたそう言う事を言っちゃ~いけねーって、
ユウト様にそう言われてただろ?
って・・・な、何て言うんだっけ?
クトゥナ・・・教えておくれよ・・・・
セ、セク~・・・何だっけ?」
「・・・セ・ク・ハ・ラ・よっ!
フォルティナも何回言わせたら気が済むのよ?」
「ハッハッハッ!悪い悪い♪」
そんな会話をする中、1人黙っていた者が居た。
ずっとその事を気にしていたクトゥナは、
ククノチを肩に乗せると静かに話しをしていった。
「ねぇ、ククノチ・・・最近どうしたのよ?」
(じ、実はさ・・・オイラ、最近ずっと胸騒ぎが・・・)
「胸騒ぎ?」
(うん、ミツチやピカりんにも一度話したんだけど、
気のせいって言われちゃってさ・・・)
勇者一行は日々の訓練の成果も有り、
スピリットたちとの親和性も生まれ、
その姿や声までもはっきりと認識する事が出来るようになっていた。
それによって今現在・・・
思い悩んでいる樹木のスピリットであるククノチの表情も、
はっきりと見えていた。
歩きながらもクトゥナは少し考えていた。
そして考えた結果を口にしていくのだった。
「ねぇ、確かククノチって・・・。
ユウト様との親和性が高いのよね?」
(・・・うん)
「それってもしかすると・・・
ユウト様に何か災難でも降りかかるって事なのかもしれないわね?」
(ま、まさか・・・そんな・・・)
「在り得ない事じゃないわ・・・。
ピカりんは勿論、ミツチだって、
貴方ほどユウト様と親和性があるスピリットは居ないもの」
(ク、クトゥナ・・・こ、怖い事言うなよ~?
オイラ・・・もっと不安になっちゃうぜ)
「ククノチ・・・。
ひょっとしたら今・・・。
こうして悠長にしている場合じゃないかもしれないわ。
だから今は兎に角急いで帰って、早急に情報を集めましょ?」
(・・・わかったっ!)
クトゥナとククノチの話に耳を傾けた仲間達は、
急ぎイルミネイト本部まで駆け出したのだった・・・。
~ イルミネイト本部 ~
悠斗達が童鬼達と戦っている頃の事・・・。
ここイルミネイト本部に在るもう1つの精霊樹の下で、
物思いにふけるアヤメが立って居た。
(ここ最近とても胸騒ぎが・・・)
胸を押さえ少し息苦しさを感じていると、
精霊樹のすぐ傍に在る、小さな泉の水面がせり上がると、
人型へと形成していった。
(・・・アヤメ様?)
「っ!?・・・ウンディーネ?」
(はい、分体ではありますが、ウンディーネで御座います)
「しかしまたどうして分体なの?」
(はい、これには理由が御座いまして・・・)
アヤメの問いに分体であるウンディーネはその理由を話して行った・・・。
そしてその理由はアヤメ自身、ここ数日に感じる胸騒ぎと同じだったのだ。
「つまりユウト様に関して胸騒ぎがすると言う事で、
貴女は分体を方々へと調べに行かせていると?」
(はい、ですがユウト様の所在がまだ・・・)
そんな話をしていると、アヤメ達の元へと走って来る者達が居た。
それはロジー、ゼノ、レダの3人が何事かと駆け寄ってきたのだった。
アヤメとウンディーネは今の話をロジー達に伝えたところ、
真剣な眼差しを向けて来たロジーが事の深刻さを理解すると、
ゼノとレダに命令を下した。
「ゼノっ!レダっ!至急方々に人をやり調べなさいっ!
私はウェズンに連絡を取ってみますっ!
兎に角今は時間がおしいわ・・・急いでっ!」
「了解っ!」
「では、後ほど・・・」
2人が慌ただしく立ち去ると、
静かに目を閉じたロージが口を開き名を口にした。
「ステアっ!」
「はっ!此処に・・・」
「貴女はベルフリード家に連絡をして下さいっ!
お父様やグレイン達も居るはずですから・・・。
でも、あちらの現状を考慮すると、
手伝ってもらえるかどうかも・・・。
そんな事言っている場合じゃないわね・・・。
ステア頼みますっ!」
「かしこまりました。では、失礼致します」
ステアが頭を下げた瞬間姿を消すと、
ロジーは通信用の魔石を取り出しウェズンに連絡をし始めた。
(お父様達もヘイルズ家の謀反に手が足りないはず・・・。
よりにもよって、こんな時にっ!
タイミング悪いわね・・・)
※ このお話は外伝にて・・・。
~ 港町・ベガの鍛冶屋 ~
「カーンっ!カーンっ!カーンっ!」と、甲高い金属音が聞えて来た。
今もベガは工房で一心不乱に武器を鍛え上げているのだろう。
金属を打つ音が悠斗の胸を「チクリ」と刺した。
そして悠斗はベガの店の前に立つと、折れた「炎鬼」見つめていた。
(・・・炎鬼が俺にとっては力不足だって事はわかってる。
それにまだ未完成でもあるし・・・。
でも、炎鬼が折れたのは・・・俺自身の未熟さ故だ。
ごめん・・・炎鬼)
悠斗は心の中で炎鬼に謝罪すると、ベガの店の扉を開いた。
「ギィィィ」っと言う木製の扉の独特な音をさせ中へと入ると、
店の中は薄暗く、その奥からは武器を鍛え上げる金属音が響いていた。
悠斗はカウンターにあるベルを「チーンっ!」と鳴らすが返事はなく、
ただ・・・鳴り止まない金属音の音が聞こえていた。
悠斗は少し笑みを浮かべると、再びベルを鳴らした。
すると金属を鍛え上げる音が「ピタリ」と止まると、
苛立った足音を響かせ、店内へと続く扉を開けながら怒声を挙げた。
「聞こえとるわいっ!何度も鳴らしおってっ!!」
怒鳴りながら扉を開いたベガは、
薄暗い店の中で笑みを浮かべて居る悠斗の姿に一瞬息を飲んだ。
(い、一体何があったんじゃっ!?
ユウト殿の雰囲気がまた・・・変わっておる・・・)
薄暗い店の中で見た悠斗の印象が、
後にベガには忘れられない光景となった。
「・・・ユウト・・・殿・・・。
お、おうっ!やっと戻ったか?」
「・・・ただいま」
「ん?どうしたんじゃ?」
「・・・これ」
そう言って悲しい表情を浮かべた悠斗は、
納刀されたままの炎鬼を差し出した・・・。
差し出された炎鬼を受け取ったベガは顏を顰め、
小さくだが「クっ!」と唸ったのだ。
「すまないベガ・・・。
俺が未熟なばかりに、折角苦労して打った炎鬼を・・・」
悠斗の心からの謝罪を感じたベガは言葉にならなかったが、
漸く言葉を捻り出した。
「・・・役にたったのか?」
「あぁ・・・とても・・・」
悠斗もベガと同じように言葉を捻り出した。
「そうか・・・」
ベガがそう言ってからどれくらいの時間が経ったのだろう・・・。
気が付けばもう陽は傾いていた。
するとベガが何も言わず折れた炎鬼を持ったまま奥へと下がった。
そして奥の方でガサゴソと物音がし、戻って来たベガの手には、
刀が一振り握られていた。
「・・・それは?」
「フッ・・・ユウト殿・・・。
これは折れた炎鬼の兄弟刀「炎鬼・焔」じゃ」
「炎鬼の兄弟刀・・・焔っ!?」
ベガは炎鬼の兄弟刀を手渡すと、この武器の経緯を話し始め、
その話を聞きながら抜いた焔の出来に悠斗は感動していた。
「ベガ・・・この焔・・・いい刀だ・・・」
「じゃろ?儂の会心の出来・・・じゃが、
それでもユウト殿にとってはまだまだ役不足じゃ」
「そんな事は・・・炎鬼を上回る完成度・・・。
正直驚いてる」
「ユウト殿?ちょっと・・・いいか?」
「・・・何?」
「ユウト殿・・・武器は壊れても変わりはいくらでも在るが、
お前さんの変わりは・・・おらん。
儂自身も先程の態度は職人として失態じゃったが、
ユウト殿ももう・・・炎鬼を哀しむのは止めろ。
じゃないと・・・炎鬼が浮かばれんわい」
「・・・わかった。有難う・・・ベガ」
悠斗はベガに深々とお辞儀をすると、顔を上げ踵を返した時、
ベガがポツリと言葉を漏らした。
「・・・このまま行くのじゃな?」
「・・・えっ!?」
ベガの言葉に一瞬悠斗の心臓が跳ねた。
「・・・カロンが傍におらんからな?
だがユウト殿はヤツの話をせんかった・・・。
つまりは・・・じゃ。
ヤツは無事じゃが、此処に来れない理由があるんじゃろ?
そんな状態であってもユウト殿は此処へ来た・・・。
普段なら、ヤツと共に来るはずじゃからな?
って事はだ・・・。
新しい武器を手に取り、1人・・・旅立つつもりなんじゃろ?」
「・・・ベガ、その通りだよ。すまない」
「わっはっはっ!謝らんでもええ・・・。
だけどな?ユウト殿・・・いや、ユウト・・・。
必ず無事で帰ってくるんじゃぞっ!」
「・・・ははは・・・わかったよ・・・ベガ。
必ず・・・帰って来る」
「約束・・・したぞ?」
「・・・約束・・・だ」
悠斗とベガが会話する中、そう約束した悠斗だったが、
その時・・・1度たりとも悠斗が振り返る事はなかった。
それから悠斗は陽が沈んだ頃、新しい刀である炎鬼・焔を携えて、
1人北の大地リント村の傍に在る「嘆きの森」へと急ぐのだった。
~ 岩場の聖域内・闘技場 ~
悠斗が港町を旅立って半日過ぎた頃・・・。
聖域内の闘技場では修練が済んだ、
オウムアムアとアマルテアが話し合っていた。
「しかしさ~・・・兄弟子?
いくらラウル様の命令だと言って、師匠に連絡出来ないのは、
ちょっと困りモノよね~?」
「うむ、確かにな・・・。
師匠に念話が遅れたならば・・・と、
正直そう思った事は我も何度もある」
「でしょ~?でもまぁ~・・・。
師匠の思うがままに冒険者としてって言われちゃうとさ~?
やっぱり邪魔出来ないものね~?
あぁぁぁっ!もうっ!
師匠の声が聞きたいっ!姿が見たいっ!抱き着きたいっ!」
「・・・なっ!?
アマルテア・・・最後の物言いは不敬であるぞっ!?」
「不敬でも何でもいいっ!私は師匠に会いたいのっ!」
「う、うむ・・・」
ここ数日このようにアマルテアの発言に、
オウムアムアは頭を悩ませるのだった・・・。
だが本音は・・・。
(私の気道の成果を早く見せたいっ!
繰術だって、LV・3まで使えるようになったんだからっ!)
(我は今一度・・・師匠と手合わせがしたい・・・。
我の気道がどこまで通用するかを試したい・・・)
こうして亜神と剣神の修練は今日も続いて行くのだった・・・。
~ リント村へと向かう街道 ~
リント村へと続く街道を行く者達が居た・・・。
「右門の兄者・・・彼は本当に来るのかよ?」
「フフフ・・・左門よ。
彼は間違いなく来るっ!」
「って・・・。しかし良かったのかね~?」
「ん?何がだ?」
「いや~あのユウトってヤツの監視から離れちゃってよ~?
彼の仲間に連絡でもされたらよ~?
絶様に迷惑がかかっちまうって事になるんだぜ?」
「ハッハッハッ!心配するな左門。
ユウトと言う男はそう言う男ではない」
「何故・・・そう言えるんだ兄者?」
「彼は何もかも1人で背負う性分のようだからな?
それに絶様も「必ずヤツは1人で来るっ! 」と、
そう断言されておられるのだよ」
「・・・まぁ~絶様がそうおっしゃるなら、間違いねーか♪」
「・・・左門よ・・・無駄話は此処までだ。急ぐぞ」
「了解っ!」
忍者のような黒装束を着た者達が急ぎ向かう中、
その頭部には3本の角が生えていたのだった・・・。
~ 日本・神界 ~
悠斗と絶が戦闘に入った頃・・・。
桜咲き乱れる丘の小屋・・・。
天照は1人・・・美しく咲き乱れる桜を見ていたが、
その表情は曇っていた・・・。
(姉上様・・・妾は成し遂げる事が出来るのかの?
これまで妾は幾つもの命を代償に・・・)
天照は一筋の涙を流し身体を震わせていた。
それから少しの間、咲き乱れる桜の中に身を置くと、
小屋の縁側へと向かい湯呑を両手で持ちながら、
再び視線を桜へと向けた・・・。
「誰じゃっ!?」
突然何者かの気配を感じると、
手に持っていた湯呑を何者かへと投げつけた。
「パリンっ!」と湯呑が割れるも、
その者に当たらず難なく避けて見せながら口を開いたのだが、
その口調はとても荒く怒りに満ちていた。
「天照っ!!」
「・・・さ、桜っ!?
と、突然何事じゃっ!?無礼であろうっ!?」
桜の表情に驚きを見せた天照だったが、
そんな事に構う事なく、桜は怒声を浴びせていった。
「天照っ!一体これはどう言う事なのですっ!?
ぜ、絶様と・・・悠斗がっ!どうして戦っているのですっ!?」
「なっ!?なんじゃとっ!?ぜ、絶と悠斗殿がっ!?
桜っ!どう言う事なのじゃっ!?」
「それを聞きたいのは私の方よっ!」
桜がそう怒鳴り散らし、
拳をこれにまでないほど握り締め天照を睨みつけていたのだが・・・。
「私も聞きたいですわ・・・姉上様」
天照達が居る空間に突然声が響くと、
宙より姿を現し、ふわりと着地したのは月読だった・・・。
「「月読っ!?」」
着地した月読は立ち上がると
真っ直ぐ天照を見つめ口を開くのだが、
その口調はとても冷ややかなモノだったのだ。
「説明・・・していただけますね?」
天照はこの時初めて見た・・・。
月読の怒りの眼差しと冷たく研ぎ澄まされたその殺気に・・・。
「わ、妾は知らぬのじゃっ!
ど、どうして悠斗殿と絶が戦う事にっ!?
む、むしろ説明して欲しいのは妾の方じゃっ!」
怒りにも似た感情を見せた天照に、
月読も桜も顔を見合わせ訝しい表情を浮かべて居た。
「・・・では、姉上はこの事には無関係だと?」
「あ、当たり前じゃっ!
い、一体今、ノーブルはどうなっておるのじゃっ!?」
慌てた天照は誰も見せた事のないような慌てっぷりを見せると、
形振り構わずノーブルへと念話を送った。
だが・・・。
「な、何故・・・じゃっ!?
な、何故・・・念話が通じぬのじゃっ!?
な、何者かが邪魔をっ!?」
「「っ!?」」
天照はがくっと膝から崩れ落ち、
身体を震わせながらぶつぶつと呟き始めた。
「わ、妾の・・・ね、願いが・・・。
妾の・・・望み・・・が・・・ほ、ほ・・・だか・・・」
月読と桜は天照の様子に息を飲んだが、
そんな天照に構っている暇などなかった。
「桜っ!現状はわからないけど至急・・・英二をノーブルへっ!」
「わかったわっ!行ってくるっ!」
桜がそう言いながら犬神へと姿を変えた時、
月読は慌てながら話を続けた。
「待ちなさい、桜っ!これはあくまで緊急措置ですっ!
ノーブルには許可を取っていませんから、
短時間しか滞在出来ませんよっ!?」
「わかってるわっ!出来るだけ頑張ってみるわっ!」
「お願いしますっ!
私も方々へ連絡してみますので・・・」
「じゃっ!」
こうして桜は日本に居る英二の元へと向かい、
天照は絶望の表情を浮かべ、月読が冷たい眼差しを向けているのだった。
~ 現 在 ~
三之門を解放した悠斗は、赤銅色の気を噴出させながら、
絶の周りを駆け巡り始めた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
「フッ、小賢しいまねをっ!」
この時悠斗が真っ直ぐ駆け出し、
渾身の力を込めた攻撃をしなかったのには理由があった・・・。
(鬼の気が具現化し収束するまで時間がかかり過ぎるっ!)
(・・・あいつの鬼の気で、し、視界がっ!?)
絶の周りを駆け巡る事によって、
悠斗にとっては予想だにしない副産物が生まれた。
噴出した続ける悠斗の赤銅色の気が、
動き回る事によって、赤銅色の気が、
煙幕の代わりを果たしていたのだ。
(これなら・・・あのおっさんもっ!?)
やがてソレは周辺の景色を赤い煙幕で覆い隠し、
絶からは視認不可能となった。
だがしかし・・・。
(フッフッフッ・・・あの時具現化しようとしたのは、
間違いなく「不動の鎧」・・・。
三之門を開けて何故・・・「阿修羅」ではなく、
あのイレギュラーな「不動」なのか?
考えられる事があるとすれば・・・、
それは悠斗のヤツもまた・・・
イレギュラーな存在だと言う事だから・・・か?
面白い・・・実に面白いっ!
悠斗のヤツ・・・あいつは間違いなく・・・「特異点」だっ!)
絶は赤銅色の気で出来た煙幕に構う様子もなく、
ただ、己の思考に没頭し、その可能性を感じると、
ニヤりと笑みを浮かべるだけだった・・・。
そして決着の時・・・。
(具現化完了っ!)
悠斗は己の身体に「不動の鎧」が具現化し定着した事を確認すると、
絶の膨大な鬼の気を感じ取り、一直線に突っ込んで行くのだが、
ここで悠斗に悪寒が走り、その対策を施すと、
一瞬・・・悠斗の身体が淡い緑色の光を放った、
(これでよしっ!後は全力で・・・
最速でヤツを斬るっ!頼むっ!炎鬼・焔っ!)
悠斗は右手を刀に添えると更に加速し、
トップスピードで絶に抜刀した・・・。
「シュインっ!」
「白鷲流・極伝・一爪斬っ!」
この技はトップスピードから抜刀する事によって、
加速と体重移動を炎鬼に乗せつつ、抜刀からの鞘走り、
そして最後に己の瞬発力を生かした高速系・抜刀術を放った。
その一撃は鷲が上空3000ⅿから対象物の獲物目掛け滑空し、
一撃をもってその鋭き爪で狩る・・・。
絶の周りを駆け巡っていたのは、この為だったのだ。
「まだだっ!ぐぉぉぉぉっ!」
悠斗はそう声を張り上げると、
絶の横を駆け抜けた瞬間「ザザァァァっ」っと身体を捩じり、
強引に反転させたその反発力で錐揉み状に回転すると、
逆風・・・真下から2連続で斬った。
この連撃は技を繰り出す本人の身体にも負担がかかる技ではあるが、
まさに電光石火の攻撃と言えるだろう。
「白鷲流・至伝・雷鳥疾風・連撃っ!」
悠斗はその遠心力からか、地面をゴロゴロと転がり、
傷だらけになりながらも立ち上がろうとしたその時だった・・・。
「ズキっ!」と左脇腹に痛みが走ったのだ。
咄嗟に右手で押さえると、
悠斗の右手に炎鬼がない事に気付いた。
「えっ、炎鬼がっ!?ど、どこだっ!?」
左手には炎鬼の鞘が握られてはいたが、・
炎鬼・焔はその姿形も見当たらなかった・・・。
慌てて周辺を探す悠斗だったが、
「フフフ・・・」と言う声に我に返った時、
悠斗は愕然とするのだった・・・。
「・・・ど、どうして・・・?」
そう震えながら言葉を漏らした時、
悠斗の正面・・・およそ5ⅿ手前に居た絶が声を発した。
「・・・炎鬼と言うのか・・・この刀は?」
悠斗が視線を絶へと向けると、
そこには絶の親指、人差し指、中指の3本の指で、
炎鬼の切っ先を摘まんでいるのが見えたのだった・・・。
「・・・バカな・・・そ、そんな・・・あの速さで・・・?
い、一撃目は完全に入ったはずだっ!
そ、それに・・・あ、あの・・・
れ、連撃の中・・・い、いつ炎鬼をっ!?
いつだっ!?いつ炎鬼を取られたんだっ!?」
放心状態にも似た悠斗の言葉に、絶は笑みを浮かべて居た。
「フッ・・・三之門まで開けられたからと言って、
その力を操れるとは限らないんだよ・・・。
速度はそこそこ速いようだが、斬撃は話にならんな?」
「なっ!?お、俺の抜刀が・・・お、遅いっ!?」
「あぁ~・・・三之門を開いてあの程度とはな~?
力の使い方が、なっちゃいね~な~?
でもまぁ~、俺の指が痺れる程度には威力はあるようだから、
まぁ~・・・悪くはなかったがな?
だがな~・・・悠斗・・・?」
絶は摘まんでいた炎鬼・焔を悠斗の足元へと軽く投げると、
「ガシャン」と悠斗の足元に炎鬼が転がった。
その転がった炎鬼をしゃがみながら取ろうとした時だった・・・。
「ドスっ!」と言う衝撃と共に、悠斗の目の前が真っ赤に染まりつつ、
己の身体が浮遊する感覚に陥った。
「ポタっ、ポタっ、ポタっ」と、悠斗の耳に水の滴る音が聞こえ、
悠斗の眼前には絶の顔が至近距離で見えたのだった。
「えっ?・・・な、・・・な・・・に・・・が?
あ、あ・・・れ?」
悠斗は朦朧とする意識の中、己の状態を認識すると、
突然大量の血液を嘔吐し、雪が降り積もる白銀の大地に、
真っ赤な鮮血の花を咲かせていた。
「ゴフッ!ゴホっ!ゴホっ!ゴボっ!
お、おっ・・・さん・・・の・・・う、腕が・・・
お、お・・・れの・・・か、身体に・・・埋まって・・・」
悠斗は絶の右腕によって、「不動」の鎧ごと貫かれていたのだ。
貫いた絶の右腕は悠斗の血によって真っ赤に染まっており、
その血液が「ポタリ、ポタリ」と滴り落ちていたのだった。
「は、はは・・・お、おっさ・・・ん・・・
い、いてぇー・・・よ・・・ははは・・・ゴフッ!」
「悠斗・・・不動の防御力を過信したな?」
「・・・だ、だよ・・・ね・・・」
「お前・・・1度、死んで来い・・・。
そして見せてくれ・・・この俺に・・・希望を・・・。
その先に引き継がれていく・・・希望をこの俺にっ!」
「・・・き・・・ぼう・・・?
ひ、引き継が・・・れ・・・る?
はは・・・は・・・。
ちょっ・・・と、何・・・言ってるのか・・・
わ、わ・・・かんな・・・い」
~ 日本・〇✕△県・山中 ~
悠斗が不動の鎧を具現化し終えた頃・・・。
ここ山中では、英二といちか・・・そしてサポートの大介が、
山ごもりで修練に励んでいた。
「へっへっへっ~♪いちか~、俺の今の攻撃・・・どうよ?♪」
「・・・び、微妙・・・」
「なっ!?て、てめーっ!い、今の下段からの切り上げにっ!
反応出来てなかったじゃねーかっ!?」
「・・・い、今のはっ!そ、その~なんて言うか~?
一瞬ちょっと・・・何かザワっとして・・・」
「・・・けっ!何がザワっとだよ~・・・
ったく~、てめーの減らず口なんざ・・・もう・・・」
英二が呆れ納刀しながらそっぽ向いた時だった・・・。
「英二ーっ!」
「「「っ!?」」」
突然空から出現した巨大な白い犬に、
英二、いちか、大介の3人は言葉に詰まったが、
その白く巨大な犬に英二といちかは声を挙げた。
「「さ、桜さんっ!?」」
「・・・えっ!?さ、桜って・・・あ、あの犬神のっ!?
えぇぇぇぇぇぇっ!?」
驚き叫ぶ大介を他所に、「タンっ!」と着地した桜は、
慌て急ぐように英二に声をかけた。
「英二っ!急いでっ!」
「は、はぃっ!?ど、どこへっ!?」
「時間がないのよっ!早くしなさいっ!」
「は、はひぃっ!?」
桜のあまりの迫力に英二は慌てながら駆け出すと、
いちかは桜の様子で何かを察し、、
同じように駆け出しながら声を挙げた。
「さ、桜さんっ!し、師匠にっ!
悠斗さんにっ!な、何かあったんですかっ!?」
「いちかっ!?お前は来なくていいっ!そこで待っていなさいっ!」
「い、いちかっ!?」
英二が驚き振り返ると、桜から怒声が飛ぶが、
いちかの慌てっぷりに動揺の色を浮かべて居た。
「英二っ!早くっ!」
「は、はいっ!」
(ゆ、悠斗のヤツに何がっ!?)
英二は慌てて桜の元へと駆け寄ると、
「乗ってっ!」と声を荒げる桜の言うままに背中に乗った。
「手を離さないでよっ!?」
「お、おっけーっス!」
英二が桜のいい香りのする体毛にしがみ付こうとすると、
いちかが怒りの形相を浮かべながら声を荒げ始めた。
「英二さんっ!私も連れて行ってーっ!」
「い、いちかっ!?お、お前はダメだーっ!」
「ダメとか言うなぁぁぁぁっ!
このバカ英二ーっ!後でぶっ殺すわよぉぉぉぉっ!」
「な、何でてめーにキレられなきゃいけねーんだよっ!?
お、お前は戻れっつーのっ!」
桜が立ち上がり神界の門を開いて扉へと消える瞬間・・・。
「私もーっ!連れて行けぇぇぇぇぇっ!
バカ英二ーっ!」
そのあまりある迫力と殺気に英二は、
「掴まれぇぇぇっ!いちかぁぁぁぁっ!」と声を張り上げた。
そして扉が閉まる瞬間、「ガシッ!」と英二はいちかの手を掴むと、
神界の門の扉は締められ、桜達は姿を消したのだった。
残された大介は・・・。
「・・・か、必ず戻って来て下さいね」
そう祈りつつ英二といちかの帰りを待つのだった。
そして現在・・・。
桜に乗った英二といちかはここ・・・。
ノーブルの北の大地・嘆きの森の中に降り立ち、
雪が降り積もる大地と音1つ無いこの森に、
神秘的な印象を与えていた。
そして背後では、
神界の門が「バタン」と音をたて閉まると姿を消していたが、
その3人の目の前では、
あまりに衝撃的な光景を目の当たりにしていた。
「くっ!ま、間に合わなかった・・・」
そう桜が声を漏らしていたが、
英二といちかにはその桜の声は届いていなかった。
「あ、あれって・・・ゆ、悠斗・・・さん?」
「・・・ゆ、悠斗?」
そう2人が声を漏らした時、悠斗の身体を貫いていた絶が、
こちらへ視線を向けた。
(・・・あれは桜か?何故・・・ヤツが此処に?
そしてあの人間達は・・・なんだ?)
「せ、せん・・・」
「ゆ、ゆう・・・と・・・お、お前・・・」
半ば意識を失いかけていた悠斗が、
壊れた人形のようにその顔を向けようとしていると・・・。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
ゆ、悠斗さんがぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「悠斗ぉぉぉぉぉっ!てっ、てめーっ!この野郎っ!
待ってろよーっ!悠斗っ!
い、今助けてやるからなぁぁぁぁっ!」
英二はそう声を張り上げ、流れる涙を気にする事もなく、
身体を貫かれた悠斗の元へと駆け出した。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!て、てめぇぇぇぇっ!
俺の後輩に何してくれてんだぁぁぁぁっ!
その汚ねー腕を抜きやがれぇぇぇぇっ!」
刀を抜きながら駆け出した英二に背後から、
焦る桜の声が聞こえて来たのだが、
今、そんな事はどうでもよかった。
「英二っ!もう時間がないわっ!」
「うっせーよっ!桜さんっ!
今すぐ悠斗を助けなきゃなんねぇーんだよっ!」
崩れ落ちるいちかを他所に、英二は駆けて行くのだが、
雪が降り積もるこの大地では、思うように走る事は出来なかった。
(くっそぉぉぉっ!悠斗までの距離が恐ろしく遠く感じやがるぜっ!?)
その時だった・・・。
漸く英二達の方へと顔を向けた悠斗は、
その懐かしい顔を朧げに見つめながらも、
ゆっくりとだが口を動かし始めた。
「はは・・・は・・・え、英・・・二・・・さん。
そ、それ・・・に・・・い、いち・・・か?
それ・・・と・・・は、白斗の・・・」
悠斗の声が一瞬英二には聞こえたようで、
その弱々しい声に気を取られた英二は、
雪が降り積もる大地に足を取られ倒れ込んだ。
「・・・ゆ、悠斗っ!?」
「悠斗さぁぁぁぁぁんっ!?」
「ま、待ってろよっ!悠斗っ!
い、今この・・・英二様がお前を助けてやっからよぉぉぉっ!」
「ははは・・・ゴフッ!」
「「悠斗っ!」さんっ!?」
血を吹き出した悠斗を見た絶は軽く目を閉じると、
(これが今生の別れになるだろうからな・・・)っと、
絶は薄く笑みを浮かべながら、
ほとんど声を発していない悠斗の声を、
桜、英二、いちかへと念話を通じて聞かせ、
また、それぞれの声が悠斗に届くようにスキルを使用した。
(な、なん・・・だ・・・え、英二・・・さん・・・。
い、いちか・・・も、げ、元・・・気・・・そ、そう・・・じゃん)
(て、てめーっ!悠斗ーっ!?
お、俺が来るまで待ってろって言ったろうがよぉぉぉっ!)
(す、すみま・・・せん・・・)
(バっ、バッキャローっ!?あ、謝ってんじゃねぇーよっ!
お、お前らしくねーぞっ!)
(はは・・・は・・・)
悠斗が心なしか薄く笑みを浮かべたような気がした時、
今度はいちかが泣きながら悠斗へ声をかけた。
(ゆ、悠斗さん・・・し、師匠・・・。
わ、私・・・い、今・・・が、頑張ってるんだよ?
も、もう・・・え、英二さん・・・な、なんか・・・
よ、弱過ぎ・・・て・・・あ、相手になんか・・・)
(ははは・・・す、すご・・・いじゃ・・・な、ないか・・・。
ま、まぁ・・・で、でも、え、英二・・・さん・・・
も、元々・・・よ、弱い・・・し・・・。
それと・・・え、英二・・・さん・・・に、頼み・・・が・・・。
お、俺・・・の・・・子・・・達を・・・た、頼む・・・よ」
(ゆ、悠斗ーっ!?てめーっ!って・・・こ、子供ーっ!?)
(ちょ、ちょっとっ!?い、今なんてっ!?
悠斗さぁぁぁんっ!?)
(ははは・・・さ、最後に・・・
ふ、2人に会えて・・・よ、よかっ・・・)
英二の怒る声に、悠斗が笑みを浮かべた時だった。
「ゴフっ!」と再び吐血すると、悠斗の頭が「カクン」と前へと垂れた。
(悠斗ーっ!?お、おいっ!?う、嘘だよな~?
冗談キツイってんだっ!この野郎っ!?悠斗ーっ!?)
(いやぁぁぁぁぁぁっ!悠斗さぁぁぁんっ!?)
絶が悠斗の心肺停止を己の腕を通じて感じると、
首を横に数度振って見せていたのだが、
その絶の顔色は青ざめており、汗が噴き出していたのだった。
そして・・・。
「桜・・・もういいだろう?」
「ぜ、絶・・・貴方・・・まさか時間を?」
「ああ・・・止めている。
悠斗とその友に敬意を表してな?」
「・・・絶、あんた・・・自分の命を削ってまでっ!?」
「・・・うるせーよ。余計な事を言ってんじゃねーよ。
だが、こいつはたった今・・・死んだ。
これが現実だ・・・人間ども・・・受け止めるんだな?」
「て、てめーっ!」
「俺が憎いか?殺したいか?
ならばその強さを自らの手で掴み取れっ!
そして・・・悠斗の屍を越えて・・・強くなって見せろっ!」
「・・・て、てめーっ!
か、必ず・・・必ず・・・この俺がっ!!」
「・・・待ってるぜ。人間共っ!
・・・うっ!?」
「「「っ!?」」」
突然絶が自らの口を手で塞いだかと思うと、
その指の隙間から赤い血液が「ツー」っと流れ落ちた。
そしてそれと同時に絶が止めていた時が動き出すと、
悠斗の身体が淡い緑色の光を放ったのだった。
「なっ、何だ・・・これはっ!?」
「悠斗の身体が緑色に光ってっ!?」
「・・・英二さんっ!?あ、あの光ってっ!?」
「あ、あの子・・・一体何をって・・・まさかっ!?」
「・・・い、いちか・・・。
き、希望はまだあるかもしんねーぜ・・・」
「・・・希望・・・?」
驚く絶は悠斗の身体から腕を抜き離れると、
落下した悠斗の身体は地面に落下したのではなく・・・。
その緑色の光がまるで柔らかいクッションのように、
ゆっくりと悠斗の身体を雪のベッドへと寝かせたのだった。
「悠斗ぉぉぉぉっ!」
「悠斗さぁぁんっ!」
2人が手を伸ばし悠斗を助けに行こうとした瞬間、
絶の「時間だ・・・」と言う言葉が聞こえると、
桜を含めた3人はノーブルの世界から姿を消したのだった。
そして残された絶は一言こう呟いていた。
「・・・これからが楽しみだな」
~ 日本・神界・冥界の門 ~
天照はあれから我に返ると、桜が咲き乱れる場所から移動し、
岩場ばかりの大地へとその歩みを進め、大きな岩戸の前に辿り着いた。
「・・・出来る事なら、此処には来たくなかったんじゃがの?」
そう呟いた天照は岩肌に在るインターホンらしきモノへと近づき、
溜息を吐きながらそのボタンを押すと、
「ピンポーン」と音が鳴り響きくその音が木霊していた。
少しの間の静寂が訪れると、
インターホン越しに「ん?誰~?」と女性の声が返って来た。
天照はとても緊張した面持ちになりながら、
マイクらしきモノに向かって口を開いた。
「わ、妾は・・・あ、天照と申すが・・・。
至急の要件につき、ここに参った・・・」
(な、何故インターホンなのじゃっ!?
わ、妾にはさっぱり意味がわからんのじゃが?)
するとその声の主は不思議そうな声を出しながら返答してきた。
(・・・ん~?アマテラス・・・あまてらす・・・アマてらすね~?
えっと~、天照って・・・ひょっとして地球の神の・・・
あの・・・天照か?)
「・・・あ、あの・・・とは、どう言う意味かはわからんのじゃが、
地球の・・・と、言う意味合いでは・・・さ、さようじゃ」
(って言うか・・・
どうしてこの直通のインターホンを知ってるのよ?)
「ちょ、直通と言うのは初耳じゃが、
そ、それはい、以前・・・は、母上から・・・」
(あ、あぁ~・・・あのうっさい女か~?
これは冥界のトップシークレットってっ!何度言えば・・・)
「・・・し、失礼かとは存じるが・・・。
貴女様は一体、どこの御方なのじゃ?」
天照はこの時、インターホン越しに聞こえるその声に、
身体の芯から寒気を感じるほど異様な力を感じていたのだった。
(フッ、私か?
私の名は・・・「ヴァマント」・・・。
冥王の・・・姉じゃ♪)
(・・・っ!?)
驚く天照は暫くの間声を発する事も出来なかったが、
その後、冥王の姉と名乗る女に事情を説明していくのだった。
そして嘆きの森では・・・。
念話が通じるようになった者達は、神々に連れられ、
緑色に光る悠斗の周りを囲み、全員が涙し泣き崩れていた。
だが1人・・・ノーブルの創造神ラウルだけは、
緑色に光る悠斗に向かって話しかけていた。
「悠斗君・・・僕は君を信じているからね?」
涙を堪えたラウルだけが、希望を捨ててはいなかったのだった。
第2章 完
と、言う事で・・・。
今回、第2章が完結しました。
一週空けて次回からは「外伝」がスタートしますので、
そちらも引き続き読んで頂ければ・・・と、思います^^
これまで応援コメント又は登録者の方々には、
本当に感謝しております。
今後とも宜しくお願い致します^^
ってなことで、緋色火花でした。




