閑話・セルン 2 ヘイルズ領にて
お疲れ様です。
今回はセルンのお話です。
仲間の元へ戻ったセルンが悠斗の事を色々と話します。
ですからバトルなどはありません^^;
それでは、閑話・セルン 2をお楽しみ下さい。
此処はヘイルズ領の北に在る街・・・フレック。
人口3000人ほどの小さな街。
ゲートが閉まる午後22:00、
セルンとラハトは何事もなく辿り着いたのだった。
「はぁぁぁ~っ!やっと着いたぜ~・・・」
「・・・・・」
背伸びをしながらそう声を漏らすラハトは、
横目でセルンを見ていた。
「・・・何よ?」
「いや、別に~?ただよ・・・。
旅の間、ずーっと顰めっ面だったと思ってよ~?
やっぱアレか?ユウトってヤツの事を考えていたのか?」
おどけつつもラハトはセルンの反応を見ていた。
顰めっ面・・・と、言ってはみたが、実際は「寂しさ・・・」
みたいなモノが見え、それを必死に隠そうとしているセルンを
少しからかいたかった・・・ただそれだけだったのだが・・・。
「なっ、何をっ!?あ、あんた・・・バカじゃないのっ!?
ど、どうして・・・わ、私が・・・ユウトの事なんか・・・」
(おお~っと・・・図星だとはな~?
そんなにそいつが気にかかるってか~?)
「はっはっはっ!悪りぃ、悪りぃ・・・ちょっとからかっただけだ。
なっ?機嫌直してくれよ~・・・なっ?なっ?」
「・・・覚えておきなさいよ?」
「・・・ははは」
冷たく突き刺さる視線を浴びながら、
2人は足早にアジトへ向かうのだった。
小さい街ながら、表通りは飲食店などで賑わういい街だった。
美味そうな匂いに釣られながらも2人は細い路地へと曲がって行く。
暗がりを暫く進むと、鉄の扉が鈍く光る建物へと向かって行った。
「ゴン、ゴン」と、ラハトは鉄の扉を軽く叩くと、
覗き窓がスライドし、中から鋭い目が光っていた。
「・・・誰だ?」
「・・・俺だ、ルワン・・・ラハトだ。
セルンも一緒に居る」
「おお~・・・帰ったか?みんな心配していたんだぜ?」
「・・・悪りぃーな?」
「はっはっはっ」
ルワンと呼ばれた男が鉄の扉の錠をはずすと、
その無骨な顔からは想像出来ないほどの笑顔を見せ、2人を迎え入れた。
「お二人さん・・・おかえり♪」
「・・・ああ、無事に戻ってきたぜ」
「・・・ただいま。久しぶりね・・・ルワン」
身長2mほどのルワンを見上げながら、セルンが何気ない挨拶をしたのだが、
ルワンはとても不思議そうな顔をしていた。
「・・・何よ?どうかしたの?」
「い、いや・・・よ?
セルン、お前さん・・・何かあったのか?」
「えっ!?べ、別に・・・いつも通りよ」
一見愛想のない物言いだったが、セルンは少し頬を染め、
恥じらっていた事を見逃さなかったルワンは、
口を開こうとすると、それを止める声がかかった。
「ルワン・・・それ以上言わないほうがいいぜ?
じゃないと・・・こうなるぜ?」
ラハトはルワンに首を掻っ切るポーズをして見せた。
「・・・お、おい・・・お、脅かすんじゃねーぜ?」
「・・・次はないぞ?」
「・・・ほ、本当かよ!?へぇ~・・・あのサイレントキリング様がねぇ~?」
腕を組みながらニヤけていたルワンに、
セルンは一瞬にして気配を消すと・・・。
「・・・ドカッ!」
「ぐはっ!・・・うぅぅぅ」
セルンの拳がルワンの腹にめり込み、思わず膝から崩れ落ちていた。
握り拳を見せたまま、セルンの鋭い眼光が光って見えると・・・。
「・・・ルワン、次はないって・・・言われたわよね?」
「・・・あ、ああ。す、すまねぇ・・・調子に・・・乗った」
「分かればいいわ・・・」
静かにそう言うと、セルンは中へ入っていく。
ルワンは崩れ落ちたまま、セルンの後ろ姿を見送ると、
苦笑するラハトへと視線を移した。
「・・・お、お前・・・」
「・・・俺は忠告したぜ?」
「だ、だけどよ・・・痛っつつつ・・・。
さ、流石にこんなドギツイ1発が来るなんて思っても見なかったぜ」
「まぁ~・・・そうだな?」
「後で詳しく教えろよ?」
「・・・そうだな」
ルワンに手を貸したラハトは、
立ち上がらせるとそのまま奥へと入って行った。
ヘイルズ領・フレック 「グローリーの隠れ家」
奥へと入った3人は、2つの部屋を抜けると地下への階段を下って行く。
階段を降りた先には分厚い頑丈な扉があり、
ルワンが一度叩くと、「ギィー」と、扉が開かれ中へと入って行った。
薄明かりの照明が光るその大きな部屋には、
2人の男と、2人の女がテーブルを囲み酒を飲んでいた。
「おっ!?セルンにラハトじゃねーか?久しぶりだな~?
って言うか、お前ら・・・土産はないのか~?」
陽気に声をかけてきた男・・・名はダブロ。
弓の名手で暗殺部隊の一人。
「あら?セルンじゃない?・・・あんた連絡もしないで、
一体全体何処で何をしていたのよーっ!
あれほど連絡は密にってっ!そう言ったでしょ?」
心配そうに声を上げたのは、この隠れ家の主。
名を・・・ハンナ。この隠れ家の管理を任されている女主。
ヘイルズ家との連絡役も兼ねている。
「よぉ~ラハト~。遅かったじゃねーか~?
なんだ~?セルンと・・・ヤリまくってたのか~?」
この下品な男は・・・ドーレス。
女を道具としか思ってないゲス野郎だが、
暗殺においてはかなりの腕を持ち、以前はAランクの冒険者だった。
「・・・セルン、生きていたのね?
し、心配なんか・・・して、してないんだからねっ!」
そして最後にツンデレな女、名を・・・レミー。
この街で娼婦宿を経営しながら情報収集をしている。
元、医者で薬剤を使った情報収集のスペシャリスト。
そして最後に・・・。
「はっはっはっ!これでみんな揃ったな?
久々の再会だっ!まずは乾杯といこーやっ!」
豪快に笑う男、その無骨な顔とは違いとても陽気な大男で、
ハンナの旦那でもある。
ラハト、セルンと、この街を拠点とする暗殺組織グローリーのメンバーだ。
暫く酒を飲み再会を喜んでいたのだが、ハンナの一言により宴は終わった。
「・・・ところで、何か情報を掴んだから、遅れたのよね?」
冷たい眼差しを向けるハンナはタバコに火を着けながらそう言った。
「・・・そうね」
「なら、聞こうじゃないか?」
セルンの視線にラハトは黙って頷いて見せると、
静かに話始めた。
「・・・ベルフリードとアシュリナが手を組んだわ」
「「「「!?」」」」
少しの間驚きのあまり言葉を失ってしまった者達に、
ラハトが話を続けた。
「まぁ・・・そうなるわな?
突然こんな話を聞かされると、そうなっても仕方がねー。
正直、俺達だったかなり驚いている・・・一人を除いてはな?」
そのラハトの言葉に、一同の視線がセルンへと集まった。
そして再びハンナが顔を引きつらせながら口を開いた。
「セルン・・・説明はあるんでしょうね?」
「そうね・・・」
酒の入ったグラスを口に着けながらそう答えるセルンに、
レミーが苛立ちながら口を開いた。
「・・・早くしゃべりなよっ!」
「やめろ、レミー・・・」
「だ、だってよっ!こ、こいつがこんな態度じゃっ!」
勢いよく立ち上がりつつ、セルンに指を差すレミーだったが、
ルワンは黙って頭を左右に振った。
「・・・ちっ!」
一同の視線が集まる中、グラスをテーブルに置くと、
セルンが話を始めた。
「・・・ロックバルの連中がベルフリードに撒いた種は、
ある一人の男によって阻止されたわ」
「ま、待てよ?・・・ちょっと待て・・・。
一人の男って、それは何かの冗談か?」
ドーレスは眉間に皺を寄せながらそう言った。
すると、他の連中もその話に興味を持ったようだった。
「セルン?そりゃ~いくらなんでも無理だろ?
種は一人や2人じゃねーぞ?
それをたった一人でどうにかするってのは・・・あまりにも・・・」
「・・・ルワン、それが出来るのよ」
出来ると言い切ったセルンにルワンは驚くしかなかった。
(セルンが認める男など・・・い、今まで聞いた事ねーぞ?)
ルワンの心のつぶやきは、他の連中のつぶやきでもあった。
それと同時に意見を求めるかのように、ラハトに視線が集まっていく。
「・・・ああ、確かな話・・・らしい」
「らしいって・・・あんた」
「いや、俺はそいつに会った事がねー・・・
だから俺は詳しくは知らねーんだ。
だがよ・・・、その男の仲間とは話をする事ができた」
「・・・仲間と話?」
ハンナの問にラハトは一度確認するかのように、
セルンに視線を送ったのだが、その目は閉じられていた。
(いいんだな?話してしまってよ?)
ラハトの合図をスルーされると、了承を得たと解釈し、
仲間達に話始めた。
「その男の名は・・・ユウト。
何でもアシュリナの客人扱いらしいが・・・定かじゃねー。
そのユウトってヤツの事を話したのは、
港町の荒波の旅団のライトだ」
「あ、荒波の旅団のライトって・・・あの頭のキレるヤツだろ?」
「ああ、そうだ。そいつはこう言ったんだ・・・ユウト様ってよ?」
「ユウト・・・様?」
(様付けって・・・はは、何の冗談だ?)
ルワンは目を少し細めると、セルンのを真っ直ぐ見つめた。
「・・・話してもらえるか?」
「ふぅ~・・・そうね、いいわ。
一応本人からの了承も得てるから問題ないわ」
軽く息を吐いたセルンは目を開けると、ゆっくりと話始めた。
「ユウト・・・彼の年齢は15歳よ」
「はっ!?・・・15歳だぁー!?」
大声を張り上げ一番驚いたのは誰でもない・・・ラハトだった。
「お、お前・・・そ、そんなガキが趣味・・・痛っ!」
ユウトの事をガキと言った瞬間、セルンの拳がラハトの頭部を直撃した。
「痛てーだろっ!何すんだよっ!」
「・・・黙れ」
ラハトの抗議にセルンは威圧を放つと、その迫力に押し黙ってしまった。
「最後まで話を聞きなさいよ・・・」
「わ、わかった」
(こ、こいつ・・・そんなガキに・・・本気で!?)
ラハトのつぶやきを他所にセルンは話を進めていった。
「ユウトはね・・・創造神様の使徒よ」
「「「「し、使徒ーっ!?」」」
「ええ、本当の話よ?
アシュリナ邸に潜入した時に、目の前で聞いたから・・・」
「・・・・・」
セルンの話が衝撃的過ぎて、全員が何も言えずいると・・・。
「・・・続けていいかしら?」
「・・・あ、ああ。た、頼む」
「もっと正確に言うと、使徒と言うよりも創造神様と同格らしいわ」
「「「「!?」」」」
「まぁ~あなた達の気持ちはわかるけど、まだこんなの序の口よ?」
するとレミーがセルンに待ったをかけ、
酒をグラスに注いでいった。
「・・・さ、酒を飲みながらじゃないと、まともに聞いていられないわ
それにこんな話を聞いちゃったら・・・
そのユウトって人と敵対するだけ無駄じゃないのよっ!」
そのレミーの言葉と表情に、全員が同じように酒をグラスに注いでいく。
そして一気に飲み干し再び注ぐと、
意を決したようにセルンの話に耳を傾けていく。
「・・・ベルフリードの一件は私も正直に驚いたわ。
ロックバルの連中が撒いた種をあっさりと刈り取ったんだから・・・。
それにね?あ~・・・でも多分これを言ったら・・・」
勿体つけるように、セルンは言葉を濁らせ、
含んだ不気味な笑みを浮かべると・・・。
「なっ、何だよっ!ぜ、全部話せよっ!」
「んー・・・どうしようかしら?話していいものかどうか、迷うわね?」
「けっ!な、何だよっ!?さ、さっと話しやがれっ!
お、おど、脅しなら、お、俺には通用しねーからなっ!」
ルワンとドーレスは脂汗を浮かべながらも虚勢を張って見せるのだが、
ハンナとレミーは既に顔が青ざめていた。
そんな中、驚愕はしているものの、冷静に受け止めているダブロと、
違う意味で、顔を思っきり引きつらせてはいるものの、
苦笑いを浮かべるラハト達に視線を送り話を続けた。
「私の闇魔法・・・ユウトは解除できるのよね♪」
「「はぁー!?」」
「「「!?」」」
流石にダブロとラハトも驚愕が振り切った。
口をパクパク・・・まるで魚のようにして見せると、
ダブロとラハトはお互いを見ていた。
「セ、セルン・・・お、俺・・・そんな話・・・」
「ええ、言ってないもの♪」
「お、おまっ・・・」
そしてラハトが何か言おうとした時だった。
止めの一撃がセルンの口から放たれた。
「因みに・・・アシュリナ邸に攻めた本隊は、
ユウト一人によって全滅させられたわ♪
ふふふ♪アレはおかしかったわ~♪
だって・・・アシュリナ側は負傷者なしな上、
ベルフリード側は死人無しなのよね♪」
嬉しそうに、そして楽しそうに話すセルンの笑顔は、
今まで一度も見たことないモノだった。
そんな表情を見せたセルンに、ラハルは少し思いつめた顔をすると、
真剣な眼差しを向け話始めた。
「なぁ、セルン・・・。
やっぱりそのユウトってヤツを・・・仲間に出来ないか?」
「・・・ヤツ?」
「す、すまねー・・・ユウト・・・様だな。
お、俺の言い方が悪かった、謝る。
それに使徒様だもんな?言葉遣いは間違っちゃならねー・・・」
深く頭を下げるラハトにセルンは少し笑って見せるのだが、
それでもユウトを仲間にする事には反対だった。
「確かにユウトが私達の仲間に入ってくれたら・・・そう思うけど、
でも彼には創造神様から与えられた使命があるわ。
だから彼を誘う事は・・・私には出来ないわね」
「ねぇ、セルン・・・そのユウト様を仲間に出来れば、
あんただって弟を助け出す事なんて簡単に出来るんじゃないの?
それだけ強いとなれば、尚更そうでしょ?」
「俺もそう思うぜ?俺達には仲間が必要だ。
使徒様の力なら、あのヘイルズにだって立ち向かえるだろうによ?」
ダブロやハンナも同意を示しセルンを説得してみるのだが、
セルンが頷く事はなかった。
するとルワンが悔しさを滲ませながら口を開いた。
「なぁ、セルン・・・。分かっているだろうが、
ここに居る・・・
いや、俺達の仲間はみんなロックバルやヘイルズに恨みがある連中ばかりだ。
お前のように人質に捕らわれている者達や、
俺とハンナのように無残に息子・・・いや、身内を殺された者達がいる。
立場上ヘイルズの言いなりにはなっているけどよ?
だが俺達は同じ気持ちを抱く者同士だ。
それにこれは・・・俺達だけの問題じゃねー・・・。
特に・・・リヒテルの野郎だけは、この世に放っといていい人間じゃねー。
だから・・・頼むっ!一度でいい・・・俺達をユウト様に会わせてくれ」
グラスを強く握り締めたルワンの手が震えているのが見て取れた。
だが、セルンは苦悶の表情見せながらも、
悠斗を仲間に加える事に首を縦には振ることはなかった。
ロックバルやヘイルズの残虐振りに、
身内を殺され、人質にされた者達ばかりが集まった組織。
立場上、スパイ活動を余儀なくされてはいるが、
日々、反逆に向けての活動も続けていたのであった。
そのレジスタンスの数・・・わずか35名。
決して多いと言えるほどの戦力はなかったのだった。
一夜明けた昼頃・・・。
セルンは部屋から出て来ると、丁度ハンナが出かける所だった。
「ゆっくり眠れたかい?」
「ええ、久しぶりベッドだからよく眠れたわ♪」
明るく優しく・・・いつものように声をかけてくれたハンナ。
小綺麗に身支度したハンナは中々の美人だった。
「・・・でかけるの?」
「ええ、ヘイルズに貴女が持ち帰った情報を知らせに行くところよ?」
「そう・・・。あっ、ハンナ・・・」
セルンが少し慌てた様子を見せると、ハンナは微笑んで頷くと・・・。
「わかってるわよ?ユウト様の事を話すつもりはないわ。
でも、ベルフリードとアシュリナの事は伝えても問題ないわよね?」
「・・・ええ」
「心配しないの?いつの日か貴女を説得して、
ユウト様を仲間に引き入れるから♪」
おどけてそう言ったハンナに苦笑するのがやっとだった。
ハンナも笑みを返すと、そのまま出掛けて行った。
暫くの間、セルン達には平穏な日々が続いた。
そう・・・。「黒い液体」の情報が入るまでは・・・。
ミスティ ・・・ ミスティで御座います♪
アリエル ・・・ アリエル・・・です。
ミスティ ・・・ あらあら、今回はセルンさんのお話なのですね?
アリエル ・・・ う、うむ。私は名を聞いた事があるくらいだな。
ミスティ ・・・ 彼女のお仲間も色々とあるようですわね?
アリエル ・・・ うむ。確かにユウトを仲間にと言う気持ちはわかるが。
ミスティ ・・・ 女神としては何とかしてあげたくはありますが・・・。
アリエル ・・・ そうだな?だが今は正直私達は手が離せんからな?
ミスティ ・・・ 成り行きを見守るしかありませんわね?
アリエル ・・・ 他の神達がもっと・・・。
ミスティ ・・・ それを言っても仕方がない事ですから・・・。
アリエル ・・・ 嘆かわしいな・・・。
ってなことで、緋色火花でした。




