149話 ・・・ポンコツ。
お疲れ様です^^
昨日とは違って今日は寒かったですね^^;
皆さんも気をつけてくださいね^^
それでは、149話をお楽しみ下さい^^
激しい雨の中を駆けて行く一人の男・・・。
左眼を抑え街中を突っ切って行く。
(このまま街に居たら・・・罪もない人達まで巻き込んでしまう)
悠斗は港町の北ゲートまで来ていた・・・。
昨日悠斗が巻き込まれた・・・その北ゲートに・・・。
そんな悠斗を閉じ込めるかのように、
ゲートは既に閉じており、街を出る事は叶わなかった。
だが、悠斗は一般人ではない・・・。
こんな街の城壁など、彼にとっては意味を成さなかった。
悠斗は城壁を身体強化を使い昇り、軽々と飛び越えて行った。
(何人かは追って来るだろうけど・・・
ゲートが閉じているから、街の外へ出たとは思わないかもしれないな?
みんな・・・済まない、だが・・・今の俺と居るのは危険過ぎるんだ)
土砂降りへと変わった雨の中、悠斗はある場所へと向かっていた。
(あの場所なら、誰も寄り着かないかもしれない)
そんな悠斗が目指す場所は・・・暴走馬車の一件で、
眠れるロジー・アシュリナを連れ、逃げ込んだあの森を目指した。
(あの森には洞窟が確か・・・あったはずだ・・・)
木の上で悠斗達を見張っていたセルカを驚かせた時、
偶然見つけた場所だった。
そう思い速度を上げる悠斗に、土砂降りの雨が激しく打ちつけるのだった。
そして此処は冒険者ギルトの会議室・・・。
沈黙が続く中、チタニアは紅茶を飲みながら考えていた。
(このまま放置してしまったら・・・恐らくユウト様は闇堕ちに・・・。
それだけは何としてでも阻止せねば成りません。
例えこの生命に代えてでも・・・
だから・・・頼みます。
貴女なら・・・何とか出来るかもしれませんから・・・)
チタニアはある女性を思い浮かべると、
静かにティーカップをソーサーの上に置いた。
すると・・・。
「バンっ!」と、突然ポーラが部屋へと入ってきた。
「な、何事だっ!」
勢いよく立ち上がったウェズンがそう叫んだ。
「ギルマスっ!只今リディ様がステア様を連れて・・・」
「な、何だとっ!?どう言う事だっ!」
会議室に居た者達は冒険者ギルドの1階ロビーへ降りると、
ステアのその姿に言葉を失った。
それは勿論、この激しい雨で全身ぐっしょり濡れた姿にではなかった。
言葉を失うほどの・・・その虚無な瞳に・・・だった。
「お、おいっ!どうしてステアがこんなにも憔悴しているんだっ!」
その瞳を見たウェズンが怒鳴っていた。
「ウェズン様・・・。
ステアが何故・・・このような事になっているのか・・・
それをお聞きしたいのはこちらの方なのですが?」
ステアの傍でウェズンを睨み付けていたリディがそう言った。
「リディ・・・来ていたのか?」
ウェズンの背後から現れたのは、リディが仕える主・・・サウザーだった。
「こ、これはサウザー様、お見苦しいところを・・・」
そう言ってリディは片膝を着き頭を下げ礼を取った。
サウザーは毛布に包まれ横たわるステアを見ると、
拳を硬く握り締めた。
その表情は、あの会議室に居た者達の失態に顔を顰めていたのだった。
ステアを冒険者ギルドの医療班に任せたウェズン達は、
再び2階の会議室へと移動した。
その間・・・誰も何も話さなかった。
いや・・・。話せるはずもなかったのだ。
そして・・・。
「何から説明して良いものか・・・」
そうサウザーが話を切り出した。
だが、何も思い浮かばなかったのだ。
「私から・・・説明致しましょう」
サウザーが悩む中、そう声をあげたのはチタニアだった。
「!?・・・チ、チタ・・・」
「!?」
驚愕するリディは思わず声を漏らしたのだが、
その声が届いたのは・・・運命神・チタニアだけだった。
(貴女・・・もしかして?)
(・・・・・)
(フフ・・・。それで構いませんわ・・・)
(・・・・・)
意味有り気に笑みを浮かべると、チタニアは着席した。
そして何があったのかを、事細かく説明していく。
「・・・分かりました。チタニア様、お手数をおかけ致しました。
先程の失礼な振る舞いをお許し下さい」
片膝を着き頭を垂れ礼を取るリディに、チタニアはただ微笑んでいた。
「フフ、構いませんよ?
貴女もユウト様と、色々とご関係がありそうですものね?」
「・・・お心遣い・・・感謝・・・致します」
そう言うと、リディは立ち上がり席に着いた。
それから暫くすると、ゼノと勇者が冒険者ギルドへと戻り
ステアの姿に言葉を失っていた。
(・・・ステア、お前ってヤツはよ)
顔を背けるゼノは悔しさに顔を歪めていた。
そしてともに居るはずの悠斗を思い浮かべていたのだった。
「・・・何処へ行ったんだよ」
土砂降りの雨が振る街道を駆けて行く悠斗は・・・。
(俺の修練不足が原因だと思いたいが・・・やれやれ。
俺は今まで何をやって来たんだっ!)
そんな事を思いながらも、闇に包まれた街道を駆けて行く。
すると突然・・・。
「ズキンっ!」と、再び左眼に激痛が走った。
「ぐぁぁぁっ!」
「ドシャッ!」
突然の激痛に悠斗は前のめりに倒れ込んでしまった。
そしてそんな雨の中、
一人街道の真ん中で地面を転がり激痛に藻掻き苦しんでいた。
「ぐぁぁぁぁっ!!!」
叫び声をあげながら、その力の制御が破綻仕掛け、
次第に意識が薄れてきた時だった・・・。
暗闇の中、街道を歩いて来る何者かが悠斗に近づいて来た。
(だ、誰だっ!こ、このま・・・ま・・・では・・・)
(・・トっ!・・トっ!・・・・あんたっ!)
何者かが悠斗の手を掴んだ時、悠斗は意識を手放した。
「パチッ!パチパチっ!」
(・・・ん?何だ・・・この・・・音・・・?)
目を覚ました悠斗は見慣れない場所に戸惑っていた。
「こ、此処は・・・どこだ?」
体を起こすと全身に痛みが走っていく。
「痛っ!・・・か、体が・・・」
ふと気が付くと、体には毛布が掛けられており、
焚き火が目の前にあった。
(誰かが助けてくれたのか・・・?
で、でも、今の俺と居たら・・・危険だ)
痛みが走る体を無理矢理立ち上がらせると、
壁伝いにヨロヨロと外へと向かって歩き始めた。
すると、背後から突然声を掛けられた・・・。
「・・・あんた、何やってんのよ?」
「・・・え、えっ!?」
振り返ったその先に居たのは、邪神の女神・ミランダだった。
「お、お前・・・何故此処に?」
驚いた悠斗はバランスを崩し倒れてしまった。
「ぐぁっ!」
「ユウトっ!」
駆け寄るミランダはそっと悠斗の肩を抱き起こすと、
涙を流していた跡に気付いた。
「あんた・・・本当にボロボロなのね?」
苦笑するミランダに悠斗の表情は曇っていた。
「ミ、ミランダ・・・今の俺は・・・」
悠斗がそう言いかけた時だった。
ミランダは「クスっ」と笑うと、呆れた顔を見せていた。
「あんたの状態は聞いているから知ってるわよ?」
「!?」
ミランダは悠斗を寝かせると傍に座り話を続けていく。
「・・・禍々しい力って・・・あの赤銅色の力の事よね?」
「・・・ああ」
「だから言ったじゃない、あまり使わないでってっ!」
「・・・わ、分かってはいるけど・・・でも・・・」
「はいはい、あんたはそういう人だもんね?
いざとなったら、所構わず使うのよね?」
「・・・・・」
半ば呆れた口調になっているミランダに、
悠斗は何も言えなかった。
「パチ、パチ」と焚き火の音が静寂の中響いていた。
悠斗は気持ちが少し落ち着いたのか、唐突に話始めた。
「俺の事は・・・チタニアに聞いたのか?」
一度悠斗を見たミランダは、焚き火に薪を焚べながら、
悠斗の問いに口を開いた。
「そうよ・・・。
突然あの女から念話が送られてきたのよ」
「はは・・・な、仲・・・いいんだな?」
悠斗の言葉にミランダは太い薪を「バキっ!」と、素手で折ると・・・。
「!?」
「そんな訳ないでしょ!?私は邪神の女神なのよ?
あいつらが私なんかと仲良くするはずないでしょ?
だいたいね~?あの女とは今まで一言もしゃべった事なんてないわよっ!」
悠斗はこの時、ミランダが悲しそうな表情を見せていたのが、
とても印象的だった。
「で、でもさ・・・今はアマルテアやミスティ達とも上手くやって・・・」
そう言いかけた時、再び悠斗の左眼に激痛が走った。
「ぐぁぁぁぁっ!ま、また・・・かよ・・・うがぁぁ・・・」
突然苦しみ出した悠斗に、
ミランダは焚き火台に掛けてあったヤカンを掴むと、
カップに注ぎながら、何かを唱えていたのだった。
苦しみながらも悠斗はそれを視界に捉えていた。
「ぐぁぁっ!くっ・・・くそ・・・ったれ・・・めっ!」」
激痛が増し、悠斗は床を転げ回っていく。
その様子を横目に見ながら、汗を滲ませたミランダは呪文を唱え終わると、
暴れる悠斗を抱き起こしカップの中身を強引に口の中へと注いでいく。
「!?・・・◯✕△□%っ!」
何とも言えないその液体の苦味と不味さに耐えられず吐き出そうとするが、
ミランダはそれを許さず悠斗の口を手で塞ぐのだった。
「我慢しなさいっ!飲み干してっ!お願いっ!全部飲み干してっ!」
藻掻き苦しむ悠斗の姿に涙を浮かべながら、
ミランダは無理矢理カップの中身を全て注ぎ込んだ。
そして全て飲み干した時・・・。
悠斗は気絶してしまい意識を再び手放したのだった。
「・・・バカなんだから・・・」
そうつぶやくとミランダは、悠斗に飲ませた薬の調合を再開し始めた。
そして再び此処、冒険者ギルドでは・・・。
一夜明けたその朝も、雨は激しく降り注いでいた。
ギルドマスターの部屋で窓辺に立ち外を眺めていたポーラがつぶやいた。
「雨・・・止みませんね?」
「・・・・・ああ」
「この天候だと・・・今日は止まないのでしょうね?」
「・・・・・ああ」
「・・・・・」
ポーラが話しかけても上の空なウェズンに、
溜息1つ・・・漏れていた。
(昨日の関係者の皆さんも同じ感じね?
ユウト様の失踪がこんなにも多くの人達に影響を与えるなんて・・・)
ポーラはギルマスの部屋を出る時、もう一度振り返って見たが、
机の上に両肘を着き、項垂れているウェズンの姿は何も変わらなかった。
ドアを締めたポーラは廊下を歩いて行く・・・。
(ステア様もあれから一度も目を覚まさない・・・。
そしてこんな雨の中、ユウト様を探し回っている人達が居る。
私にも何かお手伝い出来る事があれば・・・)
そう思いつつ1階に降りたポーラは、今日も冒険者達の相手をするのだった。
だが・・・。
港町・アシュリナの英雄である悠斗の失踪は、
その冒険者達にも、少なからず影響を及ぼしていた。
冒険者ギルドの朝は、依頼を受ける冒険者達によって、
普段ならごった返しているはずだが、
この天候と悠斗の失踪のショックにより、
今までにない程、暇だったのである。
暇な時間が続く中・・・。
ポーラは昨夜の事を思い出していた。
ステアの憔悴した姿・・・それと運命神・チタニアの説明・・・。
様々な事が起こり過ぎた昨夜は、
ポーラにとってもかなりキツイ出来事だった。
あの時、一同が会議室に集まり様々な案が出されたが、
何も答えには辿り着かなかった。
だが、1つだけ・・・ギルマスより厳命された事があった。
それは・・・「ユウト様の事を口外する事は許さん」
ただそれだけが、あの会議室で決まっただけだったが、
既に噂は広まっているようだった。
「はぁ~・・・今日は暇ね~?」
「そうね?こんな雨の日でも、冒険者達はうるさかったはずなのにね~?」
「だけどさ、こんな日があってもいいだろ?」
「あはははっ!そうね♪こんな日があってもいいわよね?」
「なんで今日はこんなに暇なのかしらね~?」
事情を何も知らないギルド職員達は、当然お気楽である。
そんな職員達に説教するポーラだったが、
心此処に有らず・・・だった。
すると、突然冒険者ギルドの扉が開いた。
「おはよう御座います。ようこそ冒険者ギルドへ・・・って・・・
あ、あれ?お2人とも・・・今日はどうされたのですか?」
「ギィィィィ」っと扉を開け中に入って来たのは、
エルバドに雇われた他所の冒険者の生き残り・・・
ギラルドの冒険者を尋問していたゼノとレダだった。
「よっ!おはようさんっ!」
「・・・おはよう」
元気よく挨拶するゼノとは反して、レダはとても憂鬱そうな顔をしていた。
「どうしたって・・・一応ギルマスに尋問の報告を・・・な?」
受付カウンターにもたれ掛かり、ゼノが雑談していると・・・。
「・・・先に・・・行っているぞ?」
「・・・あ、ああ」
そう言ってゼノを言葉をスルーすると、レダは2階へと上がって行ってしまった。
「あ~ああ・・・辛気臭せーな~・・・」
「レダ様・・・どうかされたのですか?」
ポーラの言葉にゼノは溜息を吐いていた。
「どうされたも、こうされたもねーよ?
あいつはさ、昨夜自分が言った言葉に、罪悪感を持ってしまったんだよ」
「罪悪感・・・ですか?」
「ああ、ユウト様が・・・」
ゼノは話を続けようとした時、
思わず周りを見渡すと誰も居ない事を確認し話を続けた。
「ユウト様が闇堕ちしたらって話の事だよ。
後悔するなら最初から言うなっつーのっ!
今朝からずっとこの調子だぜ?いい加減にしてくれよな~」
陽気な顔をして、そう話すゼノの言葉に違和感を感じた。
「ゼノ様は元気なんですね?
どうしてそんなに平気な顔をしていられるんですか?」
ポーラはレダの心情を察すると、そんなゼノに少し苛立ちを覚えるのだった。
だがポーラの考えは甘かった。
口ではそう言っているゼノだったが、ポーラの言葉に苛立ちを見せた。
「ん~?俺がどうして平気な顔をしているかだって~?」
「はい、何事もなかったかのようにお話なされるので・・・」
「・・・平気な顔か~・・・。そんな訳ねーだろっ!」
「きゃっ!」
突然怒鳴ったゼノに、ポーラは怯えてしまった。
「あ、わ、悪りーな?ほんと・・・ごめん」
「い、いえ・・・私の方こそ・・・」
この時ポーラは、受付カウンターの上に置かれたゼノの拳が、
強く握られている事に気付いてしまった。
「も、申し訳御座いませんっ!
ゼノ様の心情も察せず、大変無礼な事を言ってしまいましたっ!」
「あっはっはっ!いいって、いいってっ!あんたが気にする事じゃねーよ♪
じゃ~俺もそろそろ上へ行ってくるわ~
邪魔して悪かったな~」
そう言って階段を上って行くゼノの顔はとても厳しいモノだった。
(やはり皆さんはユウト様の影響が・・・
ユウト様・・・。今、何処におられるのですか?
皆さんはずっと貴方を探していますよ?
だから・・・早く戻って、その笑顔を皆さんに見せて下さい)
降りしきる雨の音を聞きながら、
ポーラは悠斗を探し回る人達の顔を思い浮かべていた。
そして朝を迎えた悠斗とミランダは・・・。
「ゴリゴリ・・・ゴリゴリ」っと、悠斗はその音に目が覚めた。
(ん?何の・・・音だ?)
右目を開き体を起こすと、
焚き火の前で何か作業をしているミランダが背中を見せ座っていた。
「・・・夢じゃなかったのか?」
そう声を漏らした悠斗に気付いたミランダが振り返ると、
元気な声で挨拶をしてきた。
「おはよう、ユウト♪」
「・・・お、おはよう」
「ちょっと待っててね?今、朝ごはん作るから・・・」
そう言って立ち上がったミランダは、鍋を焚き火台に置いた。
「あ~・・・ミランダ?食欲がないから・・・いいよ」
そう言った悠斗にミランダは振り返ると笑顔を向けた。
そして・・・。
「ダ・メ・よっ!今のあんたは「ポンコツ」なのよっ!」
「ポ、ポンコツっ!?誰がポンコツだ誰がっ!」
「あんたよ・・・あ・ん・たっ!」
「お前なぁ~?」
悠斗はそう言って体を捻った時、体の痛みがない事に気付いた。
(あれ?体が・・・痛くない?)
悠斗は自分の体のあちこちを触り立ち上がると・・・。
(痛くない・・・?あれは一過性のモノだったのか?)
そう思うと悠斗は安堵の息を吐いていた。
「あんた・・・さっきから何やってんのよ?」
「い、いや・・・あはははは」
苦笑いをして見せる悠斗に、ミランダはジト目を向けていた。
「はぁ~・・・まぁ~いいわ。
それじゃ~今のあんたが、どれだけポンコツかって事を教えてあげるわ」
「お前・・・まだそんな事言ってんのかよ~勘弁してくれよ」
「私に着いて来て・・・」
そう言うとミランダはスタスタと歩いて行った。
「へいへい、分かりましたよ」
半ば諦めつつ悠斗はミランダの後を着いて外へ出ていく。
「こっちよ?」
「・・・あ、ああ」
外に出た悠斗は周りの景色を見て驚いていた。
「此処って・・・何処なんだ?」
空が薄紫色をした場所に悠斗は違和感を感じていた。
「ああ~・・・此処?此処は私の簡易聖域よ?」
「へぇ~・・・此処がミランダの簡易聖域か・・・
あっ!それに俺達が居た場所って・・・廃墟だったのか!?」
「そうよ・・・こんな場所に廃墟以外の家なんてないわよ~」
感心する悠斗に、ほんの少し頬を染めたミランダだったが、
悠斗の現状を考えると、浮かれている場合ではなかった。
それから少し歩きミランダは立ち止まると・・・。
「・・・此処で何をするんだ?」
そう問いかける悠斗にミランダは振り返ると、
真剣な眼差しを向けてきた。
「な、なんだ!?」
「い~い?今からあんたは私が作り出したゴーレムと戦ってもらうわっ!
今のあんたがどれだけポンコツかを私が教えてあげるっ!」
「へいへい・・・朝から何だよ・・・ポンコツ、ポンコツってさ~」
愚痴をこぼしながら背を向ける悠斗に、
ミランダは悲し気な目を向けていたのだった。
お互い適度な距離に離れた2人が対峙すると・・・。
「・・・さぁ、出て来なさいっ!私のゴーレムっ!」
目を閉じ地面に手をかざすミランダは「ストーンゴレーム」を作り出した。
「おお~・・・ゴーレムすげ~♪
あ~・・・でもさ?ストーンゴレームってかなり遅くね?」
「やってみれば・・・わかるわよ。
それに、このストーンゴーレムは、あんたに合わせた特別性なのよ」
「特別性・・・ね。にゃるほど♪」
愛想の悪いミランダに悠斗は少し拗ねて見せたが、
ミランダの表情は険しいままだった。
(な、何だよ・・・あいつ・・・意味が分からないんだけど・・・?)
悠斗はそう心の中でこぼしつつ、ショートソードを取り出した。
「準備は出来た?」
「あ、ああ・・・いつでもいいよ」
悠斗はゴーレムの大きさを考慮すると、少し距離を取った。
(予想以上にでかくなったな?)
そう思いつつ剣を構えた。
「じゃ~・・・行くわよ?」
「・・・いつでもどうぞ」
少しの沈黙が流れると、ミランダが先に仕掛けた。
「行きなさいっ! ゴーレムっ!」
ミランダの言葉にストーンゴーレムは猛然と悠斗に駆け出した。
(・・・動きはやはり遅いな・・・まずは小手調べっと・・・)
悠斗は身体強化も気道も使用せず駆け出した。
「グオーンっ!」
「・・・遅いっ!当たるかよっ!」
ゴーレムの正面に躍り出た悠斗はゴーレムの一撃を難なく躱した。
そして悠斗はその躱した瞬間、ゴーレムに斬りつけた。
「はぁぁぁぁっ!」
「ガキンっ!」
「・・・ちっ!」
硬い石で出来たストーンゴーレムに舌打ちするも、
悠斗は笑顏を浮かべていた。
(・・・ユウト、笑っていられるのは、今のうち・・・よ)
険しい表情を浮かべたままミランダは悠斗の動きを観察していた。
「おお~っ!いててててて・・・硬ったぁーっ!いたたたた。
まぁ~そりゃ~石だからな~硬くて当たり前か・・・」
笑っているとゴーレムが悠斗へその硬い拳を打ち付けてきた。
「ドカっ!」
「ははは・・・大した事ないんじゃね?」
ゴーレムの攻撃を躱した悠斗は、
その拳の破壊力の小ささに笑みを浮かべていた。
「あんた?真面目に戦いなさいよっ!」
鋭い目付きで睨むミランダに、悠斗は頬を膨らませて見せた。
「へいへい、真面目にやりますよ~だ」
半分拗ねて見せた悠斗だったが、背中を見せた時、
その笑みは消えていた。
「そこまで言うなら・・・やってやるよ」
「コォォォォォっ!」
悠斗は操術を使うと、火球を投げながら接近して行った。
「・・・火球っ!」
「ボンっ!」と、音を立て命中するが、ゴーレムは何処にも異常はなかった。
(石だから・・・当然だな)
火球を牽制に使いつつ一気にゴーレムとの距離を詰めると・・・。
「気刃剣っ!」
悠斗はニヤリと笑みを浮かべると、ゴーレムの攻撃を躱しつつ斬りつけた。
「・・・これで終わりだっ!」
そう悠斗が声を出した時、それを見ていたミランダは笑みを浮かべた。
「はぁぁぁぁっ!」
「ガキンっ!」
「・・・えっ!?ま、まじでかっ!?」
着地した悠斗にゴーレムの拳が迫るが間一髪躱し退避した。
「う、嘘だろ!?気刃剣が・・・弾かれた!?」
かなり驚いた悠斗だったが・・・。
「・・・舐め過ぎたか?」
悠斗の表情が再び変わると、本気で駆け出し攻撃を仕掛けた。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ガキンっ!」
「ま、またかっ!何でだよっ!」
悠斗がそう声を漏らした時だった・・・。
ミランダは腕を組むと一言つぶやいた。
「・・・そろそろね?」
そんな事など露知らず、悠斗は再びゴーレムに攻撃を仕掛けていく。
「特別性だったよな~っ!ならばだっ!セィヤァァァっ!」
悠斗は全開で気刃剣を振り降ろした。
「ガキンっ!」と、再び弾かれ驚いていると・・・。
「ぐわぁぁぁっ!」
突然悠斗に激痛が走り地面に両手を着いた。
それはもはや左眼だけではなく、全身に広がっていたのだった。
「いっ、一体・・・な、何が!?・・・し、しまっ・・・」
そう声を漏らした時、ゴーレムの拳が打ち下ろされ、悠斗に直撃した。
「ドカっ!」
「ぐはっ!」
ゴーレムの拳に下敷きになった悠斗は、這いつくばり呻き声をあげていた。
するとミランダがゴーレムを停止させると、ゆっくりと近づいてきた。
這いつくばる悠斗を見下ろすミランダの頬を・・・涙がこぼれ落ちた。
「わ、わかったでしょ?これが今の・・・今のあんたの実力よっ!」
「・・・バカな・・・な、なんで・・・」
そう呻く悠斗に、涙を流しながらミランダは答えを口にした。
「赤銅色の影響で・・・あんたは・・・。
今のあんたは・・・新人冒険者と変わらないほどの実力しかないのよっ!
い~い?このゴーレムはね?
そんなあんたに分からせる為に作ったゴーレムなのよっ!
新人冒険者が4人揃って倒せる程度でしかないゴーレムなのよ?
それすら分からないなんて・・・いいザマだわ。
今日、あんたが動けたのは・・・私が調合した薬のおかげなの。
その薬がなければ・・・あんたは激痛に苦しみ悶えながら死ぬか・・・
それとも・・・や、闇堕ち・・・するしかないのよ・・・。
これで分かったでしょ?
あんたにはもう・・・じ、時間が・・・」
「ははは・・・ま、まじか・・・」
「ユウト・・・あんたはもう・・・戦えないわ・・・
普通に暮らしてほしいの・・・お願い・・・ユウト・・・お願い・・・
私の調合した薬で普通の生活ならなんとかやって行けるわっ!
このまま戦いの中に身を投じたら・・・あんたにはもう闇堕ちするしか・・・」
膝から崩れ号泣するミランダに、
這いつくばる悠斗には話しかける言葉などなかった。
ただ・・・。
(・・・ポ、ポンコツ・・・か・・・ははは)
そう思う事しか出来なかった。
ラウル ・・・ うぎゃああああっ!
ミスティ ・・・ ラ、ラウル様っ!いかがされたのですかっ!?
ラウル ・・・ ぼ、ぼぼぼぼホクの親友の悠斗君がぁぁぁぁっ!
ミスティ ・・・ お、落ち着いて下さいっ!ミランダが着いているのですよっ!
ラウル ・・・ あ~・・・無理っ!僕以外は信用できないっ!
ミスティ ・・・ あら?・・・私も・・・ですか!?
ラウル ・・・ し、神力で急に・・・い、いや・・・部屋が凍って・・・はぐっ!
ミスティ ・・・ あらあら、まぁまぁ・・・凍ってしまいましたわ♪ふふふ♪
ってなことで、緋色火花でした。




