閑話 アンナ編 1 能力解放
お疲れ様です。
閑話シリーズの今回は、アンナ編ですね。
オウムアムアとアンナの訓練がスタートします。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
それでは、閑話 アンナ編1をお楽しみ下さい。
話し合いが終わりアンナはオウムアムアと訓練場に来た。
「アンナよ、まずはお前の力を見せてもらいたい」
「力と言うのは、亜神様と戦うと言う事でしょうか?」
「ああ、その通りだ・・・。武器や魔法も好きなだけ使用しろ」
「・・・わかりました」
元S級冒険者としてのプライドを捨てたアンナは、
純粋な気持ちでオウムアムアに挑んでいく。
アンナは近接用のガントレットと腰にショートソードを装備すると、
軽く息を吐き、緊張を解すのだった。
「お前のタイミングで仕掛けて来い」
「はい」
軽く目を閉じたアンナは集中すると魔法で強化せず駆け出した。
「参りますっ!」
「うむ」
駆け出したアンナはフェイントを織り交ぜながら亜神に接近した。
その動きを追わず、オウムアムアは気配だけで、
アンナの攻撃に対処するつもりだった。
(亜神様の動きが・・・?)
疑問を抱きつつもアンナは果敢に攻めていく。
側面からアンナは蹴りを繰り出し、亜神にそれを捌かれると、
逆サイドからの蹴りと、次々に攻撃を繰り出した。
(うむ、流石は元、S級と言ったところか・・・)
鈍ってしまったとは言え、アンナは速度を活かし攻撃していく。
(やはり、当たりませんね)
アンナの攻撃は全て亜神の片腕で捌かれていく・・・。
(捌かれても体がブレないとは・・・
ふむ・・・かなりの体幹を持っているようだな)
するとアンナは後方へ一度飛び退くと、その動きを止めた。
「亜神様?先程から何かしておられますか?」
アンナの攻撃を捌いていた亜神に違和感があったのだ。
ニヤリと笑う亜神はアンナの問いに答えた。
「うむ、すまぬが我もある訓練をしている。
だからと言って、お前の訓練を妨げるような事はしない。
安心して攻撃してこい」
アンナを見降ろす視線に、寒気を感じるアンナだったが、
不敵にも笑って見せたのだった。
「ん?何が可笑しいのだ?」
「いえ、真の亜神となられても努力はなさるのですね?」
「当たり前だ・・・サボリ癖を我は是と思わんからな」
「・・・その姿勢に感服致します」
「フッ・・・さぁ、来い」
「参ります」
アンナは再び駆け出すと、亜神の後方から攻撃を仕掛けた。
「ふん、見え見えだな」
それを察知した亜神は体を捻り片腕で捌こうすると・・・
(かかったっ!)
アンナは亜神の腕が攻撃を捌こうとした瞬間・・・
「身体強化っ!」
魔法を使用し速度を上げると、捌こうとした亜神の腕に絡みつくと、
「もらったっ!」
その頭部へと蹴りを放った。
「ガンッ!」と鈍い音が鳴り響く。
アンナは完全に決まったモノと思い込み動きを止めてしまったのだ。
しかしアンナの攻撃は亜神のもう片方の腕で遮られていた。
「そ、そんなっ!」
「・・・甘い」
亜神はすぐさまアンナの足を掴むとそのまま放り投げた。
「ダンッ!ザァザァザァァ・・・」と、
放り投げられたアンナは地面に落ちると、そのまま滑っていく。
「くっ・・・」
苦悶に歪むアンナの表情に亜神はこう言った。
「うむ、機転は悪くはない・・・。
だがな?己の思い込みで動きを止めるモノではないぞ?」
「・・・・」
亜神の言葉に己の未熟さと鈍った勘を呪っていた。
「ただ放り投げただけだ・・・ダメージはほとんどあるまい?」
「・・・・」
「ふむ。精神的なダメージがあるようだな?
だがな?自惚れるモノではない。
忘れたのか?お前は現役を退いていたのだぞ?」
「・・・そう・・・でした」
そうつぶやくとアンナはゆっくりと立ち上がった。
そして立ち上がったアンナの視線の先に亜神が仁王立ちしていたのだった。
「・・・亜神様、本気で行かせて頂きます」
「・・・来い」
オウムアムアはこの時、アンナから放たれた凄まじい魔力を見た。
(・・・何だ、このプレッシャーは?)
ゆらゆらと蒸気のようにアンナの体から立ち上る赤い魔力。
オウムアムアは目を細めると初めて構えを取ったのだった。
(妙な感じがする・・・これがアンナの本気か?)
そう感じ取る亜神にアンナの視線は鋭くなっていた。
(・・・久しぶりの本気・・・ね。理性は保てるかしら?)
アンナは元S級冒険者・・・。
その当時のアンナの異名は・・・「ブラッド・フィスト」血の拳。
ゆらゆらと立ち昇る赤い魔力は、アンナが解放状態になった証だった。
その力でアンナは数多の魔物達を蹂躙してきた。
その時、アンナの拳は赤く染まっていた事から、
その異名が付く事になったのだ。
アンナは亜神を凝視しながら、赤い魔力を解き放ち、
自らを解放状態に移行させていく。
「フェンス・オブ・ディフェンス・・・防御の柵、パージっ!」
「何だ・・・この気迫は・・・」
オウムアムアはアンナの力が跳ね上がるのを感じると、
その額に汗を滲ませた。
※ フェンス・オブ・ディフェンス
己の感性を解放するのと同時に、常識や理性をも解放させる。
強大な相手に対し、己の柵をはずすと言う行為である。
「亜神様?・・・必ず躱して下さいね?
じゃないと・・・亜神・・・様は・・・」
話が聞き取れないほど、アンナの魔力は唸りを上げていく。
その赤い魔力はまるでアンナ自身を侵食していくかのようだった。
「・・・能力・・・解・・・放・・・」
その言葉が終わると同時に、
アンナは「ドンっ!」と言う音ともに駆け出した。
アンナが居たその地面はえぐれ穴が空いていたのだった。
まるで巨大な一本の矢が放たれたように、亜神に迫ってくる。
アンナは亜神の懐に飛び込むと、その強力無比な拳を放った。
「ドゴーンっ!」と鳴り響く音が訓練場に木霊した。
その音に遅れるように突風が亜神を貫いていく。
手応えを感じたアンナは後方へ下がり再び構えると、
土煙が晴れるのを待った。
しかし・・・
「フッフッフッ・・・ハッハッハッハッ!
これがお前の能力解放かぁっ!素晴らしいぞっ!」
まだ晴れぬ土煙の中から、亜神の高笑いが木霊した。
その土煙の中、青く光った亜神の瞳がアンナを見据えていたのだった。
「まっ、まさか・・・効いて・・・ないの?」
驚愕するアンナに亜神がゆっくりと歩み出す。
「う、嘘・・・でしょ?手応えは・・・手応えはあったわっ!」
狼狽えるアンナの前に、亜神は立ちはだかった。
その姿にアンナの視線は下から上へと流されていく。
アンナの目の前に立ちはだかるオウムアムアの腹部の鎧には、
大穴が空いていたのだが、その下の肉体には、傷1つ付いていなかった。
「ど、どうして・・・?」
口から漏れ出す言葉に、亜神は拳を繰り出した。
瞬きをする間もなく、アンナの眼前でその拳は止められた。
「あっ・・・」
アンナはストンと膝から崩れ座り込んでしまった。
俯いたアンナの視線はただ地面を見ていただけだった。
「うむ。気迫に満ちた一撃だった」
亜神の言葉にアンナは視線を上げた。
「あっ・・・あっ・・・」
放心するアンナにオウムアムアは静かに語っていく。
「よいかアンナ?我はこれでも神の端くれだ・・・。
それに我とお前とでは、そもそも格が違うのだ。
理不尽だと思うか?だがそれが現実と言うモノだ。
お前は一度現役を退いている。
しかし我は、努力を重ね今に至るのだ。
アンナよ?今はそれでいい・・・
だがな?お前達が立ち向かう相手は、我よりも強いのだ。
今はひたすら精進せよ。そして一歩でも前へ進んで見せよ」
静かに語る亜神の言葉に、アンナの目からは涙が流れていた。
「ここで終わるも良し・・・先へ進むも良し・・・
己の意思で決める事だ」
座り込むアンナにオウムアムアは背中を向けると、
訓練場の出口へと向かって行くのだった。
(アンナよ?これは恥ではない。
むしろ人族がよく我に立ち向かった。
これは誇っていいのだ・・・アンナよ)
出口へと歩むオウムアムアは見事に立ち向かったアンナを称賛していた。
「・・・お、お待ち下さいっ!」
亜神の背後からアンナの声が響いてきた。
歩みを止め振り向くと、ヨロヨロと立ち上がるアンナの姿があった。
「お、お待ち下さい・・・亜神様」
無言でアンナを見つめるオウムアムア。
全てを出し切ったアンナは、フラフラと亜神の元へと歩んでくる。
「私は・・・負けません・・・
この世界の為にとは申しませんが・・・
ですが、私の愛する家族を守る為にも・・・
私は此処で負ける訳にはいかないのですっ!」
「・・・ほう」
「アシュリナ領主の妻としてではなく・・・
ただの冒険者アンナとして、私は理不尽な相手と戦いたいと思います」
「・・・死ぬかも・・・しれぬのだぞ?」
亜神の言葉にアンナは足を止め拳を握った。
「・・・覚悟は・・・たった今、決まりましたっ!
例えこの生命が散ろうとも、愛する家族の為に・・・
私は戦います」
決意を漲らせるアンナにオウムアムアは静かに笑った。
「フッフッフッ・・・良かろう。
我もまた強くならなければならぬ・・・。
我と共に・・・強くなろうぞっ!」
「はっ!仰せのままに・・・」
アンナはオウムアムアに片膝を着き礼を取ると、
必ずこの戦いに生き残ると誓ったのだった。
そしてアンナはこれを機に亜神に弟子入りする事になったのだった。
「では、アンナよ・・・。
どうして我が無事であったかを話そう」
「はいっ!」
オウムアムアはアンナの攻撃をまともに受けたのではなく、
気道の基礎となる「反響」を使用したのだった。
※ 反響とは、相手の強力な一撃に対して、
防御したり捌いたりするのではなく、
その力を気道によって波へと変換し跳ね返す技である。
相手の一撃が強力なほど、その威力を増す。
「うむ。我は師匠より頂いた修練方法と、
気道の初歩の初歩である、先程使った反響の訓練をしていたのだ。
まだ上手く扱えぬ故、アンナの一撃を腹に受けてしまい、
我の鎧に大穴を空ける事になったのだがな?
はっはっはっ!気道とは摩訶不思議なる技よ・・・」
そう笑って話す亜神は指を「パチン」と鳴らすと・・・
「パキンっ!」と、アンナの右腕のガントレットが砕けたのだった。
「えっ!?」
驚くアンナに再びオウムアムアは説明をした。
「その波というモノが・・・私のガントレットを?」
「ああ、そうだ・・・。我は未熟故、その程度になってしまったが、
だが我もまた、一段上へと登って見せる。
お前もあの・・・能力解放を制御出来る事が出来た時、
今以上に、攻撃や防御も今とは段違いになるであろう
」
「師匠、私にも・・・ユウト様の気道は扱えますでしょうか?」
アンナの願いに亜神は空を見上げ考える。
「・・・それは我が師匠に弟子入りする・・・と、言うことだぞ?」
「はいっ!私も更に一段上へと・・・」
「はっはっはっ!アンナよ?気持ちは受け取った。
だがな?こればかりは我が師匠に聞いてみぬ事にはな?」
「はい、是非・・・」
「うむ・・・アンナの気持ちを必ず伝えると約束はするが、
あとは師匠次第と言う事で構わぬか?」
「はい、それで構いません」
「ならば、オウムアムアの名にかけて誓おう」
「宜しくお願い致します」
片膝を着き、亜神に頭を垂れるアンナの目には、
力強い光が宿っていたのだった。
「ふむ・・・ではアンナよ?訓練を再開しよう」
「はいっ!宜しくお願いします・・・師匠っ!」
師弟となったアンナは、亜神と共に更に上へと目指す事になった。
魔力制御と防御力を更に強化するための訓練。
アンナのその強力な拳を効率的に放つ訓練・・・。
そして、基礎である気道の呼吸法を訓練して行くのだった。
息も途切れ途切れになりながらも、
決して弱音を吐かず食らいついてくるアンナの姿勢に、
オウムアムアは師匠としての喜びに満ちていたのだった。
「うむ。アンナよ?今日はこれくらいにしておこう。
今は無茶をする時ではないからな?」
「・・・は、はい・・・わ、わかり・・・ました」
「うむ。では今日のところはこれまでとする」
「あ、有難う・・・ござい・・・ました」
フラフラとしながら礼を述べ頭を下げたアンナは、
そのまま意識を手放すと地面へ倒れ込んでしまった。
「フッフッ・・・よく心も折らず耐え抜いたものだ・・・。
これからの成長が我にも楽しみで仕方がない。
期待しているぞ・・・アンナよ」
オウムアムアは倒れたアンナを担ぎ上げると、
そのまま訓練場を後にするのだった。
屋敷へと戻る途中、オウムアムアは悠斗に魔石で連絡を取った。
{あっ、もしもし・・・師匠ですか?オウムアムアですが・・・
今、宜しいですか?}
{ん?オウムアムアか?今?んー・・・ちょっと厳しいけど、
そっちで何かあったのか?}
{いえ、お忙しいのなら・・・また後日にでも・・・}
オウムアムアは緊張しつつも悠斗との会話を楽しんでいたのだが、
魔石の向こうから聞こえる悠斗の荒い息使いに違和感を持った。
{師匠、一体どうされたのですか?}
{あ~・・・今、俺のパイモモを追っているんだ}
{パ、パイモモ・・・ですか?}
{ん?そうだよ・・・そのパイモモ~っ!待てぇぇっ!こらぁぁぁっ!}
悠斗の謎会話が続く中、オウムアムアは困惑していた。
{こ、こいつっ!たくさんに化けやがってぇーっ!
赤毛ーっ!ずるいぞーっ!こらぁぁぁぁっ!}
そう叫ぶ悠斗の声に益々オウムアムアは困惑していった。
(パ、パイモモが・・・化ける?!あ、赤毛でしかも複数とはっ!)
混乱する中、オウムアムアは悠斗にアンナの話をすると・・・
{ん?・・・お前の弟子にアンナが?
んー・・・俺は別にいいと思うぞ?
俺としても・・・待てぇぇっ!まじで汚ねぇーぞっ!
あー、えっと俺としても、アンナの事をお前に頼むつもりで・・・
げっ!まだ増えるのかよっ!いい加減にしろってっ!}
{で、では・・正式に弟子と言う事で宜しいでしょうか?}
{ん?ああ~いいよ?}
{それでは、気道を教えても・・・?}
{んあ?気道?・・・んー・・・いいよ?}
{はっ!有難う御座いますっ!}
{・・・お、お前まだ・・・増えて・・・もう体力が・・・}
{で、では、師匠、お取り込み中のところ・・・有難う御座いました}
{えっ?何?よく聞こえ・・・って・・・
急に方向転換とかするなよぉぉぉっ!まじで・・・許さな・・・}
{プツッ!プーッ、プーッ、プーッ}
「し、師匠?もしもーしっ!師匠ーっ!
き、切れた・・・師匠の追っている赤毛のパイモモって・・・?」
悠斗の状況が全く飲み込めなかったオウムアムアは、
化けて増える赤毛のパイモモについて考えながら、
アンナを担いで屋敷へと戻るのだった。
そしてその夜・・・。
オウムアムアは、赤毛で複数に化けるパイモモが気になり、
眠れぬ夜となったのだった。
「・・・赤毛で複数に化けるパイモモって何なのだぁぁぁっ!」
と、部屋で叫んでいたらしい。
亜神 ・・・ 我は亜神・・・オ、オウムアムアだ。・・・です。
アンナ ・・・ サウザーの妻、アンナです。お見知りおきを・・・
亜神 ・・・ く、訓練・・・は、始まった・・・な?
アンナ ・・・ はい。ところで亜神様?ユウト様には・・・?
亜神 ・・・ うむ。弟子の件・・・師匠と話し、許可をもらったぞ?
アンナ ・・・ あ、有難う御座いますっ!これからも精進致します。
亜神 ・・・ うむ。我と共に強くなろうぞっ!
アンナ ・・・ はいっ!
亜神 ・・・ ところで・・・サウザー殿には連絡したのか?
アンナ ・・・ ・・・・・・・・あっ。
ってなことで、緋色火花でした。




