閑話 日本 17 英二といちか
お疲れ様です。
閑話二日目も英二の話になります。
英二といちかが衝突する話なのですが、
楽しんで読んでもらえると幸いです^^
明日の閑話の予告は活動報告に書く予定です^^
それでは、閑話 日本 17をお楽しみ下さい。
英二は桜と別れると、悠斗がかつて使用していた修練場にやってきた。
だがその修練場には、既に汗を流す者が居た。
(ん?あれって・・・?)
英二は薄く笑うと新しく仕上がった槍を担ぎ歩いて行く。
「よぉ!精が出るじゃねぇーか・・・いちか」
そう声をかける英二だったが、いちかは振り向きもせず木刀を振り続けた。
「お、おいっ!てめぇーっ!無視すんじゃねぇーよっ!」
英二はあからさまに無視をするいちかに腹を立て、
いちかの肩に手を伸ばすと・・・
「触らないでっ!」
いちかは英二の喉元に木刀を突きつけ鋭い眼光を向けたのだった。
「なっ・・・なんだってんだよっ! 」
いちかは英二の喉元に木刀を突きつけながら低いトーンで話した。
「・・・全部話してもらえますか?」
そのドスの効いた声に英二は怯みながらも答えた。
「・・・ぜ、全部って一体なんの事だよ?」
「・・・全部ですよ・・・全部」
「ゆ、悠斗の・・・事か?」
「・・・ええ」
英二は目を閉じ息を吐くと、悠斗について話す事にした。
「・・・話すのはいいが、他言無用だぞ?」
「・・・わかってますよ」
英二は渋々悠斗が消えた経緯を話していった。
そして話しながらも、落ち込むであろういちかのフォローを考えていた。
しかしいちかは落ち込む様子もなく英二にこう言った。
「な~んだ・・・ノーブルって言う異世界に行っただけなんですね?」
「・・・はい?」
「いや、だから・・・悠斗さんはちゃんと生きているんですよね?」
「あ、ああ・・・」
「ふっふ~ん♪だったらまた会えますよね~♪」
悲しむどころか嬉しそうにはしゃいでいるいちかに英二は違和感を感じた。
「いちか?でも悠斗は異世界に居るんだぞ?」
「ええ、ちゃんと理解してますけど?」
「り、理解してるって・・・お前・・・」
英二はいちかとの認識の差に戸惑うしかなかった。
しかしいちかは英二に強い意思を持ってこう言った。
「・・・私も行きます」
「・・・はぁ?お前何言ってんだよ?」
「・・・英二さんもいずれ・・・行くんですよね?」
「!?」
英二は激しく動揺した。
神野ファミリーしか知らない情報を知っていたからだった。
英二は厳しい口調でいちかを威圧した。
「てめぇ・・・どうしてそれを知ってやがんだ」
「ふふっ・・・やっぱり図星ね?英二さんわかりやすいもんね?」
「てめぇ、ふざけんじゃねぇーよ」
「ふざけてなんかいませんよ?だって色々とおかしいじゃないですか~?
悠斗さんは私に愛刀を預けるし~、涼華様達の様子もおかしい・・・
それに・・・英二さんも急に強くなりましたからね?」
英二は威圧を放ちつつも、いちかの鋭さに舌を巻いていた。
しかし英二はそんな「女の勘」みたいなモノで、
押し負ける訳にはいかなかった。
「俺は元々強ぇーんだよ?てめぇーが知らなかっただけだろうがっ!」
「英二さんの強さはよく知ってますよ?
それに・・・この前の魔に英二さんが勝てる訳ないじゃないですか~?」
「てめぇ・・・いい加減にしろよ?」
英二は初めていちかに対し殺気を放った。
しかしいちかは「ひらり」と受け流すと木刀を構えた。
「なんのつもりだよ?」
「・・・勝負です」
「けっ!てめぇ・・・ガチって訳だな?」
「・・・そうですね。殺すつもりで・・・行きます」
英二はいちかの殺気を感じると後方に飛び退き槍を構えた。
(や、やべぇ・・・こ、これじゃ・・・もう引けねぇーぞ!)
英二はいちかの殺気の凄まじさに思わず構えてしまったのだった。
「ま、待てっ!いちか・・・俺の槍は本身だ・・・だから・・・」
戦いを避けようとした英二だったが、
いちかは妖しげな笑みを浮かべていた。
「大丈夫ですよ・・・」
そう答えるいちかは構えた木刀を降ろすと、
英二に鋭い視線を向けながら後方に下がって行く。
そしてその先には、壁に立て掛けてあった白鷹を手に取った。
「・・・まじなんだな?俺と・・・ガチでヤろうってんだな?」
「・・・ええ」
英二といちかはジリジリと間合を詰めていく。
いちかは白鷹を納刀したまま・・・
そして英二は槍を中段に構え直した。
(こ、こいつ・・・俺はどうなっても知らねぇーからなっ!)
英二はいちかの殺気に覚悟を決めると、本気で戦うと心に決めたのだった。
「はぁぁぁっ!」
いちかの静かな気合いと共に駆け出すと、英二の真正面から抜刀していった。
「ちっ!」
舌打ちをする英二は抜刀してきたいちかの剣筋を予測すると、
防ぐ事をせず身を屈めいちかに空を斬らせようとした。
「甘いっ!水流っ!」
いちかは英二が視界から消えた一瞬で気配を読むと、
手首を曲げ身を屈めた英二へと刃を下方へ変化させた。
「なっ!」
英二は急に方向を変えた剣筋に地面を転がりながら回避した。
(や、やばかった・・・今のは・・・ガチでヤバかった・・・)
地面に伏している英二はいちかを見ると、
そのいちかは薄く笑って英二に立つよう促した。
「調子・・・乗ってんじゃねぇーぞ?」
英二の言葉にいちかは再び薄く笑って見せると、
「カッ!」と目を見開き、一足飛びに英二に肉薄してきた。
「させねぇーよっ!」
肉薄するいちかに英二もまた突っ込むと、
薙いできた刀をかいくぐりつつ、いちかの脇腹を槍の末端である
「石突」で抉った。
「ぐはっ!」
いちかは体がくの字に曲がり、肋骨にめり込む石突に顔を歪ませると、
体勢を整え正眼に刀を構えた。
「や、やるじゃないですか・・・」
「ったりめぇーだっ!俺を舐めんなっ!」
英二といちかは何度も打ち合い体力気力ともお互いを削っていく。
(・・・このままじゃ埒があかねぇー・・・こうなったら・・・)
いちかの強さが英二の予想を遥かに上回っていた。
そう感じ取った英二は、魔との戦いで使った「あの力」を、
この場で使うことにしたのだった。
(あの感覚は体に残ってる・・・いちかには悪りーが、練習させてもらうぜ)
「コオォォォォっ!」英二は呼吸音を変え、体中に気を巡らせていく。
それを見たいちかも呼吸音を変え英二から放たれる気に波長を合わせた。
(まだだ・・・あの時の感覚はもっと・・・こう・・・)
体中に巡らせていく気を、更に加速させ気の密度を上げていった。
それに対していちかは呼吸音を更に上げると刀を納刀し、
抜刀術の構えを取った。
英二は薄く目を開くと抜刀術の体制になったいちかを視界に捉えると、
友人で後輩でもある悠斗の姿を見たのだった。
(悠斗・・・)
心の中でそうつぶやく英二はその時、
「ドクン」と心臓が跳ねる感覚に見舞われた。
(きたぁぁぁっ!これだっ!)
体が覚えていた感覚に英二は身を任せていくと、
溢れ出した英二の気が紫色へと変化していく。
いちかは目を細めると、更に身を低くし攻撃に備えた。
「へっへっへっ・・・待たせたな・・・いちか」
英二の声にいちかは禍々しい気を感じ取ると、不敵にも笑って見せた。
「ああ~・・・それ・・・ですか?」
「!?」
驚く英二だったが、沸き立つ闘争心を押さえる事が出来なくなってしまい、
頭で考えるよりも体が強制的に動きいちかに突進して行った。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「はあぁぁぁぁぁっ!」
突進しつつ吠える英二と、待ち構え唸るいちか・・・
英二は認識出来ない状態のまま槍を突き出すと、
いちかは「カチッ」と鯉口を切り半歩踏み出し抜刀した。
予測を上回る英二の攻撃にいちかはにやりと笑っていた。
「ドクンっ!」
(なっ、何?!)
しかし出遅れた事がまるで嘘かのように、英二の突き出した槍の穂先と、
いちかの放たれた刃が「ギィィンっ!」と鈍い音を立てて衝突した。
「どわっ!」
「きゃぁっ!」
その衝撃が二人を後方へ弾き飛ばし倒れたのだった。
「痛っつっっっっ・・・」
「いったぁぁぁぁぁいっ!」
二人はその衝撃の威力に手の皮膚が裂け痺れていた。
そんな状況であっても、二人はお互いを睨みつける。
「けっ!やるじゃねぇーか・・・いちか」
「それはこっちのセリフですぅ~っ!」
「なんだと、てめぇぇっ!」
「どっちがよっ!!」
悪態着く二人だったが、心の中は少しスッキリとしていた。
(あの力に打ち負けないって・・・あいつは化け物かよっ!
師匠が師匠なら弟子も弟子だぜっ!ったくよーっ!)
苦笑する英二を他所にいちかは先程の感覚を思い出していた。
(さっきのアレって・・・一体なんだったの?
ほんとなら・・・打ち負けていたはずなのに・・・)
二人はゆっくりと立ち上がると再び構えた。
「いちかよ~?このままじゃ、終われねぇーよな~?」
「ふんっ!あっったり前じゃないですかっ!
英二さんご・と・き・にっ!遅れを取ったなんて師匠に知られたら、
ぜっっったいに破門にされますよっ!」
「てっ、てっ、てっめぇ・・・もう一回言ってみやがれっ!」
「・・・言うのが面倒臭いので嫌ですよぉぉぉーだっ!べぇぇっ!」
いちかの挑発する態度に英二はブチギレつつ構えた時・・・
(なっ・・・槍の穂先が・・・砕けてやがる・・・嘘・・・だろ?
前の槍の耐久値より倍だぞ?・・・まじ・・・かよ!?)
驚愕する英二はいちかの白鷹の刀身を見つめた。
(・・・ヒビすら入ってねぇ・・・ガチで化け物だったって事か・・・
へっへっへっ・・・滾ってくるよなぁ~・・・)
英二は悠斗に匹敵する強さを持ったいちかに感謝していた。
(礼を言うぜ、いちかよ~。これで俺はまだ強くなれるぜ・・・)
槍の穂先が無くなろうと、今の英二には関係なかった。
いちかは英二の持つ槍の穂先が無い事を確認したのだが、
この勝負から降りる気はなかった。
「決着・・・着けますか・・・」
「ああ、てめぇーをぶっ飛ばす」
静かに発する言葉に強い意志が感じ取れたその時・・・
空から無数の花びらが舞い降りてきた。
その光景に二人は構えを解き、呆然と眺めていた。
「な、何だよ・・・これ?」
「うわぁ~・・・すっごく綺麗~♪」
眺めるいちかの掌に一枚の花びらが降り立つと、
それを見たいちかが驚きの声をあげた。
「えっ!?え、英二さんっ!これ・・・桜の花びらですよっ!」
「はぁ?何でまた桜の花びらが?もうすぐ冬だぜ?」
「でも・・・ほらっ!」
いちかは英二に駆け寄ると、その花びらを見せた。
「ま、まじかよ・・・ありえねぇーだろ?」
「どこかで狂い咲きでも?」
不思議に思っている二人の背後に、凄まじい気配を感じた二人は、
その気配から距離を取ると構えた。
「だ、誰だっ!」
霧のように霞がかった中から現れたのは・・・
「これは失礼致しました。私の名は・・・「月読」と言います。
この勝負、この月読にお預け下さい」
月読と名乗る人物は・・・
かなり長い黒髪と黒と黄色を基調とした着物を着ていた。
その華奢な身体つきには不釣り合いな、切れ長の目をした女性だった。
「つ、月読って・・・あの陰キャ・・・の?」
英二はうかつにも先程自室で受けた鉄アレイの事をすっかり忘れていた。
すると月読は引きつった笑みをこぼしながら、
指を「パチン」と鳴らすと・・・
「ゴンッ!」と、英二の頭に再び10kgと刻まれた鉄アレイが落下した。
再び苦悶と苦痛の叫びが聞こえる中、
状況がまだ飲み込めないままでいるいちかに近づいた。
「川崎いちかさん・・・ですね?」
「は、はい」
「近い将来、貴女をノーブルと言う異世界に送りたいと思いますが、
貴女にその覚悟がありますか?」
突然の質問にいちかは言葉の意味をよく理解していなかった。
「もう一度言います。貴女はノーブルと言う異世界に居る、
悠斗様の力になるために、異世界に行く覚悟はあるのか・・・
と、私は聞いているのですよ?」
「・・・かっ、覚悟ならありますっ!私を連れて行ってくださいっ!
月読様、お願いしますっ!」
月読はいちかに微笑みかけると頷いて見せた。
「いつ・・・呼ばれても良いように鍛錬を続けなさい。
近い将来、貴女を必ず呼びに来ますから・・・」
「はいっ!悠斗さんに会えるよう、日々精進したいと思います」
苦悶と苦痛に地べたを這いずり回る英二を他所に、
月読といちかは交流を深め、
来る日に備えるため打ち合わせをしていくのだった。
「だ、誰か・・・俺を助けてくれ・・・がくっ」
英二の声は・・・誰にも届かなかった・・・南無
英二 ・・・ うおいっス!俺が指宿英二だっ!
いちか ・・・ ・・・誰もそんな事聞いてませんよ?
英二 ・・・ い、いちかっ!なんでてめぇーが此処にっ!
いちか ・・・ なんでって、月読様に言われて来ただけなんですけど?
英二 ・・・ こ、此処は俺の領域なんだぜっ!てめぇーは帰れ!
いちか ・・・ 嫌ですよぉーだっ!月読様と約束したんですからっ!
英二 ・・・ や、約束・・・?
いちか ・・・ はい。この仕事が終わったら、悠斗さんの話を・・・って。
英二 ・・・ えっ?そ、それ・・・俺も聞きたいんだけど?
いちか ・・・ 男子禁制ですっ!
英二 ・・・ 差別はんたぁぁぁぁいっ!
ってなことで、緋色火花でした。




