閑話 日本神界 1 紅葉と稲穂
お疲れ様です。
今回の閑話は、いつもとちょっと変わった感じかと思います。
登場人物は、英二やラウルでもなく・・・
気に入って頂ければ幸いです。
その時にブックマークや感想など、宜しければお願いします^^
それでは、閑話・日本神界 1をお楽しみ下さい。
天照は神界より、英二が奮戦し桜の介入による勝利を見届けると、
泉に映る映像を切った。
(ふむ、英二の奴、何とか勝利はしたものの・・・課題が多く残ったの。
しかしの・・・いくら擬物とは言え、
阿修羅の因子の不安定さには、流石の妾も頭を痛めるの~?
一体これで何人目なのじゃ?)
天照が額を押さえつつ思考していると、
背後からこちらを見る気配に気付いた。
「ふむ・・・。二人揃って妾に何か用でもあるのかえ?」
眉間にしわを寄せつつ、背後の二人に声をかけた。
「姉上・・・」
屋敷の庭で枝を張る赤松の傍に、
天照の妹である月読が悲し気な目で見つめていた。
「何用じゃ?」
「姉貴・・・一体何を企んでんだ?」
渡り廊下の欄干に腰を降ろしている男がそう言いながら立ち上がった。
「須佐之男よ、何か証拠があっての戯言であろうな?」
「けっ!証拠も何もよ・・・まるわかりだろうが?」
「ほう~・・・それでうぬは妾をどうするつもりじゃ?」
不貞腐れた表情を浮かべる須佐之男は、天照から顔を反らした。
「けっ!別にどうもしねぇーよ。ただよ?忠告に来ただけだ」
「ほぅ~・・・うぬ如きが、妾に忠告とは・・・の♪」
「ふんっ!言ってろっ!俺はただ・・・
人間如きにあまり関わるな・・・って事を言いに来たんだっ!」
須佐之男の忠告に天照は振り返ると、強烈な威圧を須佐之男に放った。
「ぐぁっ!」
天照の威圧に膝を屈した須佐之男は、苦悶の表情を浮かべていた。
「ま、待てっ!姉貴っ!」
「・・・なんじゃ?」
抑揚のない言葉が須佐之男の御霊に悪寒を走らせた。
「お、俺は、ただ・・・ちゅ、忠告をだな?」
その言葉に顔を引きつらせた天照は声を荒げて言い放った。
「何もせぬ輩に、人間の何がわかるのじゃっ!不届者めっ!
ふむ・・・うぬには仕置が必要じゃの?」
「ぐぅっ! 」
次第に追い詰められていく須佐之男が見ていられず、
月読が二人の会話に割って入った。
「あ、姉上っ!」
月読の介入に天照は怒気がこもった視線が向けられた。
「うぅっ・・・」
一瞬視界が歪みふらつく月読は足に力を込め踏み留まった。
(ほう~、いつの間に抗う力を?)
そう思いつつも、怒気を込めた視線から月読を逃さなかった。
「あ、姉上・・・お戯れはおやめ下さいっ!」
「ほう~・・・妾が戯れていると?」
「はい、私達が争っていても、何も解決致しません。
それに姉上の口から、何も語られぬとあっては協力する事も・・・」
「偽善・・・じゃの?」
月読の言葉を聞いた天照は、先程とは打って変わって、
悲しい表情を浮かべていた。
「姉上・・・何かあるのでしょ?私も微力ながら力になりますので、
姉上の抱えているモノが何かお聞かせください」
天照は悲しい表情のまま月読と視線を合わさないまま口を開いた。
「それが・・・偽善だと言うのじゃ・・・」
「姉上・・・」
静かに口を開いた天照の口調が、次第に荒々しく言い放たれていく。
「何を今更・・・何を今更っ!どこの誰がそれを言うのじゃっ!
月読よっ!うぬは引きこもりのニート同然であろうがっ!
かたや須佐之男っ!うぬはうぬでただのロクでなしであろうがっ!
何を今更・・・一体どのツラを下げて、妾に説教垂れるのじゃっ!」
「あ、姉上・・・も、申し訳御座いませんっ!」
「姉貴、す、すまねぇ・・・」
天照の剣幕に二人は土下座をして謝っていた。
土下座する二人を無視するかのように、天照はゆっくりと歩みだした。
「お、お待ち下さいっ!姉上っ!」
「ま、待ってくれ、姉貴っ!」
天照はその歩みを止めると、微動だにする事なく口を開く。
「うぬらが何を致そうと、妾の歩みは止められぬ・・・」
そう答えると、天照は再び歩みだすと消えて行った。
取り残された月読と須佐之男は・・・
「須佐之男よ・・・聞きたい事があるのですが?」
「・・・お前と話す事などない」
「須佐之男・・・」
月読は荒ぶる心を押し殺した須佐之男の背中を、
ただ見つめる事しか出来なかった。
(姉上が何を成されようとされているかはまだわかりませんが、
私もただ黙って見過ごす事など出来ません。
しかしこのままでは・・・)
何も出来ず苦悩する月読は、肩を落とし立ち去って行った。
そして姿を消した天照は、ある山中の粗末な墓の前に居た。
天照は神界から人界へと、擬体に入り降りてきていたのだった。
天照の今の容姿は、25歳前後の黒髪のロングヘアーで、
長袖の白と黒のボーダと黒のデニムを身に纏った、
眼鏡をかけた普通の女性だった。
天照は首にタオルを巻き、長い黒髪を赤い紅葉の髪留めを使うと、
その身を屈め手袋をはめた。
その墓に生えた雑草を自ら引き抜き掃除を始めていく。
「穂高よ?お主の身内は掃除もせぬのかの?
いくら家名を貶めたからと言って、このような扱いを受けるとは・・・
あやつらも親であろうに・・・の」
穂高の墓に語り掛けながらも、一生懸命掃除をしていく。
そして時折、異世界に行った悠斗の話を穂高に聞かせていった。
「穂高よ、今、悠斗様はの?ノーブルに行っておるのじゃ。
お主の伴侶はの?面倒臭いと言いながらも、人々を救っておるのじゃ。
あのように悠斗様が変われたのは、穂高のおかげじゃの?
馬鹿者共のせいで、お主とは結ばれなくなってしもうた・・・
誠に申し訳なく思っておる。
だからせめての償いじゃ・・・妾の手で必ず・・・」
穂高に語り掛けていた時、不意に人の気配を感じた天照は、
立ち上がりこちらに向かってくるその気配を見つめていた。
「こ、この道っていつ来ても・・・」
そうボヤきながら、草木を薙ぎ払いながら道を進んで行く。
「悠斗お兄ちゃんが居なくなっちゃったから、この道もすっかり・・・」
そう言葉を言い終わらないうちに、墓の入り口へと抜けようとした時、
人の話し声が聞こえてきた。
(えっ?誰かいるの?・・・こんな所に一体・・・女性の声?)
そう思い咄嗟にしゃがみ込むと、気配を消し様子を伺った。
しかし先程まで聞こえていた声は聞こえなくなり、
辺り一面静寂と化した。
(んー・・・バレちゃってるよね?)
そう思いながら覚悟すると、草木を打ち払いながら姿を現した。
すると墓の前には、女性がこちらを見て警戒していた。
(そりゃ~警戒するわよね?)
「お、驚かせてしまってごめんなさいっ!」
墓の前に居た女性に向かって、頭を下げ謝罪するのだった。
天照はその謝罪する女性に微笑みながら返答した。
「いえ、こちらこそ・・・」
そう言うと、謝罪して来た女性が天照の元へ歩いてくる。
(ああ~・・・穂高の・・・)
「は、初めまして、わ、私・・・稲穂と言います。
驚かせてしまって、本当にごめんなさいっ!」
「ふふ、礼儀正しい人なんですね?ですが謝罪はもう受け取りましたから♪」
そう言って笑顔を見せた天照に、稲穂もまた笑顔を返した。
「あ、あの~?その墓の人・・・わ、私の姉なのですが、
お友達か知り合いなのでしょうか?」
突然そう聞かれた天照は一瞬「ドキッ」とするが・・・
「え、えっとーじゃの?」
「・・・じゃ、じゃの?」
「いやーそうじゃなくて、えっとー・・・ゆ、ゆ・・・・
そうっ!悠斗様に頼まれていたので、掃除に・・・」
悠斗の名前を聞くと、稲穂の顔が明るくなり・・・
「ゆ、悠斗お兄ちゃんの部下の方なんですか~?」
「そ、そうです、そうですっ!おっほっほ~♪」
冷や汗をたっぷり流す天照は、首から下げていたタオルで拭っていく。
「やっぱり~♪悠斗様とおっしゃっていたので♪」
「おっほっほっ・・・あっ、申し遅れたの・・・
じゃなくて~、申し遅れました。
私は悠斗様の部下で・・・あまて・・・・」
名を名乗ろうとし、つい天照と答えそうになって慌ててしまい、
途中で言葉を止めてしまった天照を見て、稲穂は首を傾げていた。
(な、名前、名前・・・な、何に・・・
い、いや・・・こ、ここは普通に・・・)
天照の挙動に稲穂は苦笑すると・・・
「フフッ・・・別に言わなくてもいいですよ?
悠斗お兄ちゃんの部下の方でしたら、何か必ず理由があるのでしょうから・・・」
「え、えっと~・・・じゃな?そ、そんな事はないのじゃぞ?」
あまりに動揺した天照は、言葉が本来のモノに戻っている事に気付かなかった。
その言葉遣いに再び苦笑する稲穂は天照に落ち着くよう言うと・・・
「す、すまぬの?み、見っともない姿を見せてしもうたの?」
汗を拭きながら謝罪してきた天照を見た稲穂は、
ある人達の事を思い出した。
「・・・も、もしかしてっ!皇族の・・・?」
急にかしこまった稲穂を見て、その設定に乗る事にした。
「うむ、その事は内密にしてもらえると助かるのじゃが?」
声を潜めて話す天照に稲穂もまた小声で了承すると・・・
「だ、大丈夫ですっ。私、口は堅い方なので・・・」
「た、助かる・・・のじゃ」
二人だけしか居ない空間で小声で話している二人だった。
それに気付いた二人は、お互いに見つめると、大笑いした。
「あ~っはっはっはっ!わ、私達小声で・・・」
「ふふっ、そうじゃの?全く何をやっておるのやら・・・」
とても楽しそうに笑う稲穂の顔に、天照は穂高の面影を見た。
(・・・よく似ておるの~?)
少し悲しげな表情を見せる天照だったが、稲穂に気付かれまいとし、
話をしはじめた。
「ところで稲穂?ここへ何をしに来たのじゃ?」
「えっと、私の姉の墓なので掃除をしに来ました。
そう言えばさっき、悠斗お兄ちゃんに頼まれたって・・・」
「えっ?あ、ああ・・・
そうじゃ、ボスの言う事は例え理不尽な事であろうとも、絶対なのじゃ♪」
肩をすくませ笑いながら言う天照に、稲穂もまた笑っていた。
「えっと~・・・ところで私は何とお呼びすればいいのでしょうか?」
そう言われて腕を組み考えてしまう天照は・・・
「うむ、本名は言えぬとなれば・・・」
そう考え込む天照を見つつ、稲穂は提案した。
「それでは、ハンドルネーム的な名前では如何ですか?」
「ほぅ~・・・ハンドルネームとな?」
「はい、ネットなどで使用するニックネーム的な名前です」
「ふむ・・・つまり何でもいいと言う訳じゃな?」
「はい、私が分かればいいと思いますので・・・」
天照は少し考え込むと・・・
「うむ、ならばじゃ・・・稲穂よ?そなたが付けてくれぬか?」
「わ、私ですかっ!?」
「うむ、そうじゃ。稲穂が付けてくれる名ならば・・・
妾も嬉しく思うのじゃが・・・どうかの?」
稲穂は「うーん」と、少し唸りながら、天照の容姿を見つめていた。
すると稲穂は天照の長い束ねた黒髪に目を止めた。
「その髪留めって?」
その言葉に目を見開いた天照は・・・
「こ、これはっ!そ、その・・・」
稲穂の言葉にかなり動揺を見せつつ、天照はその髪留めを手で覆った。
「そ、それ・・・どこで・・・」
天照は目を閉じると、稲穂の問いに答えようとした。
「それ・・・どこで売っているんですかっ!」
「へっ?!」
「その髪留め~とっっっても綺麗じゃないですかぁ~♪」
「あははは・・ははは」
引きつった笑みを見せた天照は、適当に誤魔化し難を乗り切った。
すると・・・
「あっ!名前、決めましたっ!」
突然大きな声を上げた稲穂に天照は笑顔を向けた。
「名前は・・・紅葉でどうですか?」
「ふむ・・・紅葉とな?紅葉か・・・うむ、その名、気に入ったのじゃっ!
妾の名は紅葉じゃっ!」
「良かった~♪気に入ってもらえて♪
これからも宜しくね?紅葉さん♪」
「うむ。稲穂よ?妾の方こそ・・・宜しく頼むのじゃ♪」
名前が決まった天照は、「紅葉」と言う名を名乗る事になった。
そしてそれから二人は、穂高の墓を綺麗に掃除していく。
汗を流しながら丁寧に・・・
そして掃除が終了し、お供え物を供え、蝋燭と線香に火をつけると、
穂高の墓の前で二人して手を合わせた。
二人は休憩すると、飲み物を飲みつつ談笑していく。
(妹御の笑顔はとても穂高に似ておるの♪)
全てを終え、帰路につく時・・・
「紅葉さん、帰りましょうか?」
「そうじゃの?妾もそろそろ・・・」
そう言いながら空を見上げると、夕暮れで空が赤く染まっていた。
「稲穂はどこから帰るのじゃ?」
「私はさっき出てきた獣道から帰りますけど?」
「ふむ、妾は残念ながら逆方向じゃの・・・」
そう言って天照はその方向を指差した。
「そうですか・・・残念ですね」
「すまぬの」
少し残念そうにする稲穂に謝った。
「じゃ~・・・またね?紅葉さん」
「稲穂よ・・・また会おうぞ」
そう言って二人は握手をすると、お互い背を向け歩き出した。
天照は山へと入る道へと来ると、後ろを振り向いた。
稲穂も丁度こちらを振り返ると、お互いに手を振ると道へ入って行く。
「また・・・来るからの?穂高」
そうつぶやくと、山へと入って行き、神界へと戻って行った。
稲穂は天照が山へ入って行くのを確認すると、
姉である穂高の墓の前に戻ってきた。
そして・・・
「・・・あの人って何者なの?あの髪留め・・・お姉ちゃんのだった」
姉の墓の前で拳を固く握りしめた稲穂は、
天照が消えた山道を見つめていた。
「間違いないわ・・・いえ、間違えようがないもん・・・
だって、あの紅葉の髪留めは・・・
悠斗お兄ちゃんが作ってくれたモノなんだから・・・」
そう言って、稲穂はバッグの中から同じ紅葉の髪留めを取り出した。
その紅葉の髪留めは、悠斗が穂高に送った時、その場に居合わせた稲穂が、
だだをこねて悠斗に同じモノを作ってもらったのだった。
一つ違うとすれば・・・それは穂高が赤色で、
稲穂が黄色の色違いなくらいだった。
「この世に二つしかない紅葉の髪留め・・・一体どこで?
必ず正体を・・・」
天照が消えた山道を睨みつけると、
稲穂は踵を返し帰路に着くのだった。
月読 ・・・ 皆さん、ご無沙汰しております。月読です。
須佐之男 ・・・ ・・・・うっす
月読 ・・・ ・・・もっとしっかりと挨拶して頂けませんか?
須佐之男 ・・・ はぁ?俺は此処に来たくて来ているんじゃねぇーよ?
月読 ・・・ それならばどうして引き受けたのですか?
須佐之男 ・・・ 原作者の圧力だっ!
月読 ・・・ そ、そうなのですか?
須佐之男 ・・・ ああ、もし此処に出ないと言うのなら・・・
月読 ・・・ い、言うの・・・なら?(ごくり)
須佐之男 ・・・ 俺が昔姉貴にした事を、寝所の前でそっくりそのまま・・・
月読 ・・・ そ、そんな恐ろしい事をっ!?
須佐之男 ・・・ あ、ああ・・・ヤツには気を付けたほうがいいぜ?
月読 ・・・ はい。私も気をつけたいと思います。
ってなことで、緋色火花でした。




