閑話 日本 15 地獄の光景 後編
お疲れ様です。
また今日から金曜までアップしていきますので、
応援のほど、宜しくお願いします。
そて今回は、閑話・英二の話の後編となります。
因みに、明日も閑話となりますので、
そちらの方も読んで頂けたら幸いです。
ブックマークや感想など、宜しくお願いします。
それでは、閑話 地獄の光景 後編をお楽しみ下さい。
「い、いちか・・・を、た、頼んます・・・た、隊長」
英二の背中を見ながら、そうつぶやくと智之は意識を手放した。
「ああ・・・必ず俺が・・・」
気絶した智之にそう言うと、英二はいちかの元へ駆け出した。
「いちかぁぁぁっ!」
いちかは納刀した白鷹を杖代わりにしながら、
体中に走る激痛に耐えながら、ヨロヨロと魔に向かって行く。
(・・・し、師匠・・・私、駄目かも・・・)
そう思いながらもいちかは呼吸音変え、痛みを取り除きつつ歩いて行く。
「いちかぁぁっ!」と、直ぐ後ろで英二の声がすると振り返り・・・
「え、英二さんっ!」
「てめぇーっ!俺を置いて行くんじゃねぇーよっ!」
英二の言葉にいちかは背中を向けながら微笑んでいた。
それを悟られまいと、いちかはわざと悪態をつく。
「ぶ、武器・・・貸してもらえたんですね~♪・・・ごほっ、ごほっ。
へ、へぇ~英二さんも少しは成長したじゃないですかぁ~?」
悪態つくいちかに英二はイラつきつつも・・・
「お前と違ってな~?俺には人望ってもんがあんだよわかる~?」
背中を見せたままふらふら歩くいちかに、
英二もまた・・・悪態をつきつつ、いちかの後姿に目を閉じた。
仲間達を貪り食いながら、こちらを無視する魔の姿を捉えると・・・。
「いちか・・・マジでヤレんだろうな?」
「あ、当たり・・・前・・・じゃないですか~。
はぁ、はぁ、英二さんと一緒にしないで・・・下さいよ~」
「へへっ、てめぇー・・・言ってろっ!」
薄く笑いつつ強情ないちかを怒りつつも、その怒りの矛先は魔へと向けられた。
その英二の殺気に気付いた魔は、仲間を貪りつつ視線を英二に向けたが、
素知らぬ顔で視線をはずした。
「て、てめぇー・・・」
英二は無視された事に怒りを覚えると、
「コオォォォォォっ!」と、呼吸音を変え気を全身に駆け巡らせ始めた。
「最初っからっ!本気で行くぜっ!」
「私も・・・はぁ、はぁ、・・・行きますっ!」
いちかも呼吸音を更に高音へと変えると、
納刀されたままの白鷹をベルトに通すと構えた。
「英二さん、はぁ、はぁ、ばっ、抜刀術で・・・一気に決めますので・・・」
「ったく・・・てめぇーはよっ!」
いちかから「ギリッ」と、歯を食いしばった音が聞こえると、
英二はニヤリと笑って、智之から借りた刀を構えた。
(・・・こいつ、食う事に夢中になってやがる)
英二もまた、歯を噛み締めると・・・
「気道・操術っ!!」
そう叫びつつ魔に飛びかかった。
英二は気合いと共に、魔の左上腕辺りまで飛び上がると・・・
「神野流・剣術・奥義っ!」
気を溜め込んだ刀を抜刀すると、憎悪の眼光を向けた。
英二のその憎悪はとても禍々しいモノだった。
「羅刹刀断っ!」
英二は魔の上腕辺りから、落下速度を利用し、
禍々しい憎悪の気を纏った一撃が振り降ろされた。
「グゥギァァァァァッ!」と、魔は絶叫すると、
「ドサッ!」
仲間を貪り掴んでいた左腕が地面に音を立てて落ちた。
その切断面からは、毒々しい紫色の煙がゆらゆらと揺らめいていた。
英二は魔の視界にいちかが入らないように、正面へ移動すると・・・
「ざまぁぁぁっ!!てめぇーっ!この野郎っ!」
魔に刀の切っ先を向けて吠えたのだった。
「ガァァァァァっ!」
英二の叫びに魔は怒りの形相になり睨んできた。
いちかは囮となった英二を気で探りながらも集中していく。
左腕の肘から下を失ったいちかは、右手を柄に這わせると・・・
(ま、まだ・・・いける・・・まだ・・・やれる・・・
あと・・・3体っ!まだやれるっ!)
「白鷲流・抜刀術・極奥・・・」
そうつぶやくと、いちかは後ろ足に体重かけつつ重心を低くした。
「カチッ」と、静かに鯉口を切ると・・・
「操術・・・極み」
静かに駆け出すと一瞬でトップスピードに達した。
刀に溜め込まれた気を、トップスピードと鞘走りによる抜刀で抜かれた刀は、
「グッオォォォォォンッ!」
「ザシュッ!」
獅子の咆哮を思わせるほどの斬撃音だった。
魔の左脇腹から右脇腹へと光の斬閃が走ると、
「プス、プス」っと、焦げ臭い匂いを放っていた。
着地と同時に納刀した刀が「キンっ!」と、音を立てると、
「ドシャッ!! 」
そのまま地面に落下した。
「獅電咆哮」
そうつぶやくと、いちかの眼球は「ぐるん」と上を向き地面に倒れた。
「い、いちかぁぁぁぁっ!」
英二はいちかの倒れる様子を見ると、慌てて駆け出した。
まだ焦げ臭い匂いを放つ魔を見る事もなく。
「い、いちかっ!お、おいっ!しかっりしろっ!」
口から血を吐きつつ、英二に抱き抱えられると・・・
「ごふっ、はぁ、はぁ、はぁ・・・や、やりましたよ・・・し、師匠」
いちかの口から出た言葉は、師匠である悠斗の名前だった。
「お、お前・・・も、もう・・・。バッキャローっ!」
暗闇に閉ざされたいちかの手は空を彷徨っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・え、英二・・・さん・・・
や、やりま・・・したよ?」
「あ、ああ・・・見てたぞっ!や、やるじゃねぇーかっ!」
「えへへ・・・ごふっ・・・はぁ、ヒュー、はぁ、はぁ、ヒュー」
いちかの呼吸音に「ヒュー・ヒュー」と、音が混ざり始めた。
英二は咄嗟にいちかの手を強く握り締める。
(こいつ・・・こんな冷えきった手で・・・)
いちかはそんな状態でも起き上がろうと必死になっていた。
「ば、馬鹿っ!もう動けねぇーだろうがっ!じっとしてろよっ!」
「ヒュー、はぁ、はぁ・・・ま、まだ・・・ヒュー、あと・・・
はぁ、はぁ、に、2体・・・」
顔も青白くなっていたいちかを見た英二は咄嗟に・・・
「い、いちかっ!よく聞けよっ!今、悠斗がっ!お前の師匠が到着したぞっ!」
英二はもうもたない、いちかに嘘をついた。
その嘘は、いちかの為の嘘だった。
「し、師匠・・・はぁ、はぁ・・・ヒュー・・・はぁ、はぁ」
英二は悠斗の代わりにいちかの手を強く握ると、悠斗のような口調で・・・
「いちか、俺が入るまでもなく・・・やれた・・・な。
しっかりと・・・み、見ていた・・・から・・・な?」
」
「し、師匠・・・ゆ、悠斗・・・さん・・・ど、ど・・・こ?」
「此処だっ!此処に居るぞっ!今、お前の手を握っている・・・」
もう体が反応しきれなくなっていたいちかにとって、
悠斗の声など理解は出来ないのだが、
悠斗への想いが、微かにいちかの鼓膜を振動させていた。
「わ、わた・・・し・・・が、がん・・・ばっ・・・た・・・よ?」
「ああ、ああっ!しっかり見てたぞっ!すげーじゃねぇーかっ!いちかっ!」
英二は止めどなく流れ出る涙を拭かず、いちかの手を握り締めた。
「え、へ・・・へ・・・あ、あ・・・とは・・・」
「ああっ!俺に任せろっ!だから・・・ゆっくり・・・休んで・・・ろ」
「じ、じゃ・・・わ、わた・・・し・・・ここ・・・で、まっ・・・て・・・る。
か、かなら・・・ず・・・む、む・・・かえに・・・」
「ああ、少しの間・・・待ってろよな?
必ずあいつらをぶっとばして・・・迎えに来っからよぉっ!
だからてめぇーは・・・大人しく、此処で待ってろよな・・・」
「・・・うん」
感覚がない体で笑顔を作ると、いちかの頭は・・・「カクン」と、垂れた。
英二はいちかを強く抱き締めると、天に向かって泣き叫んだ。
「いちかぁぁぁぁぁっ!」
強く抱き締めた英二の体は、「ブルブル」と振るわせていた。
ひとしきり泣き叫ぶと英二は涙を拭き、白鷹を手に持ち立ち上がり・・・
「いちか・・・わりぃー。白鷹・・・借りるぜ?」
いちかを見下ろす英二の目は、禍々しい光を放ちながら怒りに満ちていた。
「いちか・・・必ず迎えに来るから・・・よ?少しの間・・・待ってろ・・・」
そう言うと英二は、呼吸音を変えると魔に向かって駆け出した。
その様子を神界の泉から見ていた天照は・・・
「うむ、あの女子も落ちよったか・・・の」
そうつぶやく天照の表情に温かさはなかった。
すると、それを見ていた屋敷の柱にもたれ掛かっていた者が・・・
「天照よ?その言い草はなんだ?」
その者に顔を向ける事もせず、泉を見続ける天照が口を開く。
「言い草も何も・・・ただの事実ではないのかえ?」
「・・・貴女と言う人はっ!」
怒気を混ぜて言い放とうが、天照は表情を変えず泉を見ていた。
「ちっ!」
そう舌打ちをする者は、立ち去ろうと渡り廊下を歩き始めた。
「行くのかえ?」
「ああ、私の好きにさせてもらう・・・」
天照に背を向けたまま、その者は目を細め怒りの形相を浮かべると、
歯を食い縛るその口からは、大きな犬歯が顔を覗かせ、一筋の血が流れた。
「好きにするが良かろうて・・・誰にも止める事はできぬゆえ・・・の♪」
その者は怒りによって震える体から力を抜くと、無言でその場を後にした・・・
「さて、英二よ?妾にうぬの価値を見せてたもれ・・・」
神界の泉から英二の様子を伺う天照は口角を上げると・・・
(英二よ・・・うぬには悠斗様の能力を模倣した因子の種を埋め込んだのじゃ・・・
それが芽吹く時、うぬはどうなるのじゃろうな~?
擬物とは言え、その片鱗くらいは見せてもらわぬとの~?)
そう心の中で薄く笑う笑みは、言葉とは裏腹に悲しい表情を見せていた。
そして・・・
英二は仲間を貪る魔の背に駆け上がり頭部へ辿り着くと、
二人の仲間から預かった二振りの刀を上段に振り上げ・・・
「はぁぁぁぁっ!気道・剣術・双刃っ!」
「ブッシャァァァ!」っと、振り下ろした二振りの刃は魔の頭部を斬り裂いた。
「グゥァァァァァっ!」と、血しぶきをあげながら、
魔は掴んでいた仲間を離すと、両手を地面に着けた。
「ちっ!なんて硬てぇー頭なんだっ!ったくよーっ!」
歯ぎしりする英二は再び構えると・・・
「もらったぜっ!気道・剣術・・・双穿牙っ!」
英二は両手を着いた魔の懐に潜り込むと、そのがら空きとなった腹部へ
二振りの刀を突き入れた。
「グゥァァァァァァァァァっ!」
鼓膜が破れそうなほど叫び声を上げる振動の波に耐えながらも、
英二は刀をグルリと捻り抜こうとした。
「ぬ、抜けねぇーっ!ど、どうなってやがんだっ!
筋肉の繊維にでも絡まっちまったってのかっ!うぉぉぉぉっ!」
英二が刀を抜こうと必死にもがいていると、
その叫びを聞きつけた魔が、こちらに向かってきていた。
だが英二は刀を抜こうと必死になっていた為、
その存在に気付く事が出来なかった。
すると突然・・・
「ドスンッ、ドスンッドスンッ!」と、魔が迫るとその太く大きな足を振り上げた。
四つん這いで隙間になっている箇所から、魔の足が入り込み、
「ドッコォーンっ!」
爆音と共に仲間の魔ごと蹴り上げた。
「ぐはぁっっ!! 」
左腕を智之の刀ごと折られた英二は、蹴り飛ばされた地点で、
激痛により意識が飛びそうになっていた。
いちか達仲間を思い出し気力を振り絞り出すと地面に落下した瞬間、
気道を使い痛みを和らげていく。
(こ、このままじゃ・・・お、終われねぇー・・・な・・・)
英二は白鷹を強く握り締めると、ヨロヨロと立ち上がり刀を構えた。
「お、終われねぇーんだよ・・・このままじゃ~よぉ~・・・
終われる訳ねぇーだろうがぁぁぁぁっ!」
そう叫ぶ英二の怒りが頂点に達すると、体に異変が現れた。
「ふっふっふっ・・・来たようじゃ・・・の♪」
泉の淵を両手で掴むと、禍々しく歓喜に満ちた笑顔を向けていた。
「ドクンッ!」と、心臓が波打ち崩れ落ちると、全身が紫の炎に燃え上がり
地面を転がり続けていた。
「ぐぁぁぁぁぁっ!」
こちらに向かって来ていた魔は、英二の様子に足を止めていた。
「ガァァ?」
まるで観察するように英二を眺めていく。
そして魔によって蹴り上げられた同種は、血を吐きながらも立ち上がると
「ゴフッ。ガァ・・・ァァァ」
英二の異変にも構わず、ヨロヨロと向かって行く。
地面を転がり回っていた英二の動きが止まると、
仲間によって蹴り上げられた魔が、握り潰そうと英二に手を伸ばした時・・・
「ザシュッ!」と、その腕を切断させていた。
「グゥゥゥ?・・・グッ、グァァァァァァァっ!」と、叫ぶ魔が英二を睨みつけると、
そこには紫色をした何者かが立っていた。
(か、体が熱い・・・そ、それに・・・こ、この感情は・・・)
魔の前に立っていた者は、変異した英二だった。
英二は自分の両手を見ると、肌が紫色に変異し、爪が鉤爪のようになっていた。
「な、何だよ・・・コレ?」
困惑する英二は思考が停止し・・・ただ棒立ちになってしまっていた。
それに気付いた片腕を切断された魔は、英二を掴み上げると、
「ゴアァァァァァァっ!」と、雄叫びをあげながら、
太い幹ををした木にめがけ英二を投げつけた。
「バキッ!バキバキバキンッ」と、
音を立てた木は、そのまま折れて轟音を響かせ地に倒れ落ちた。
しかし・・・
「い、いっつー!痛て、てててててっ!」と、立ち上がる英二に傷はなかった。
「おいおい・・・まじでよ~?一体どうなってんだよっ!」
自分が無傷な事に気付いた英二は、自分が投げつけた魔を見るとブチギレた。
「てっ、てめぇーーーーっ!!」
そう叫ぶと同時に、体から異常なほどの気が漏れ始めていく。
まるで毒ガスのような紫色の煙を流し始めると、
英二の心の中に、禍々しい憎悪が止めどなく膨らんでいった。
「うおぉぉぉぉぉっ!ぶっ殺すっ!」
雄叫びを挙げながら、英二は一瞬にして魔に接近すると、
高速で気を巡らせた拳を放った瞬間。
「神野流・体術・六・破岩っ!」
英二は魔の土手っ腹に破岩を打ち込むと・・・
「ドコーーンっ!」と、大砲をぶっ放した音と共に、魔の腹に大穴が空いた。
「ゴァ?・・・ガ、ガガガ・・・ガァァ・・・」
「まだ行くぜっ!体術・四」
そう叫びつつ体を屈ませた魔の背中を伝って頭部まで駆け上がり・・・
「豪脚旋蹴っ!」
英二は振り上げた右足を振り抜きつつ、その足を軸足にすると、
その遠心力で左足の踵が、魔の頭部に直撃した。
「パーンっ!」と、
ライフルを撃ったような音と共にその魔の頭は弾け飛んで消えた。
崩れ落ちる魔から飛び降りると、残された魔に睨みを効かせこう言った。
「あとは・・・てめぇーだけだな?」
後ずさる魔に英二は構えると・・・
「今更逃げんじゃねぇーぞ・・・てめぇっ!」
だが英二がそう叫んだ時、「プシュゥゥゥ」っと、音を立て、
英二の体からいくつもの白い煙が、勢いよく吹き出していく。
「こ、今度はなんだってんだっ!」
まるで英二の体から高圧の蒸気が漏れ出すように、辺りが白く霞んでいく。
「ぐあっ!」っと、英二は体中を襲う激痛に身を捩ると・・・
「ガァァァァっ!」と、雄叫びを挙げながら、魔が突進してきた。
英二は動く事も出来ず直撃すると、全身の骨が砕ける音と共に、
「ゴキッ!ブチッ!ブシュッ!」と、嫌な音と激痛が体を伝う。
薄く目を開けた英二は、自分の手足が飛んでいくのが見えていた。
「ぐはっ!」と、英二は吹き飛ばされつつ地面に落下すると、
衝撃により意識が朦朧する中、魔が醜い笑みを浮かべながら、
英二に向かって駆け出して来るのが見えた。
(へっへっへっ・・・ち、ちくしょーめっ!)
激痛に翻弄されながらも、片目を開き魔を睨み続け、
直撃する瞬間に、英二は「ちっ!」と、舌打ちすると・・・
「ドカッ!」と、鈍い音を立てるのと同時に、英二の目の前が暗くなっていた。
「・・・な、なっ?・・・えっ!?」
無理矢理顔を上げた英二の目には、誰かが魔の突進を阻んでいた事がわかった。
かすれてしまい声にならないほど小さな声で・・・
「だ、だ・・・れ・・・だよ?」
その言葉に反応した何者かが振り向きもせず、英二の声に答えた。
「よく頑張りましたね?指宿 英二」
「!?お、お・・・ん・・・な・・・?」
驚く英二だったが、「かはっ!」と、突然吐血する英二に、
その女は片手を英二にかざした。
「パーフェクト・ヒール」
そう言い放ち英二の体が白い光に包まれ何もかもが完治していく。
激痛から解放された英二は、改めてその女を見ると立ち上がった。
「ガァァァっ!」と、唸る魔の拳を細い左手一本で受け止めていたのだった。
「あ、あんた・・・何者なんだ?そ、それに・・・こ、これは・・・」
英二の言葉がまだ続こうとした時、その女はこう言った。
「英二・・・まずはこやつを倒してからよ?」
そう言って英二を諭す女は、何もない空間から白い槍を取りだすと、
その槍を英二に手渡した。
「えっと・・・この槍は?」
「その槍は、神槍白皇よ」
「つ、使っても・・・いいのかよ?」
「ふっ、当たり前でしょ?その為にそれを渡したのよ?」
「あ、ああ・・・あ、有難う御座います」
少し戸惑いつつも、英二は神槍・白皇を振り回し構えると、
その女は笑みを浮かべつつこう言った。
「いけそうね?」
「ああ・・・いけるぜっ!」
「じゃ~任せたわ♪」
そう言うと、その女は握り潰そうとしていた魔の拳を解放した。
魔は拳を離されると、屈み込みながら、
自分の拳をかばいつつ後ろへ下がっていく。
「英二っ!」
「おうよっ!」
女の声と共に、英二は呼吸音を変えた。
「コオォォォォォっ!」
「気道・操術・・・そしてっ!
槍術・奥義・一槍震撃っ!」
英二は操術を使用すると、己の気を槍に流し込みつつ溜めた。
駆け出しつつ右手を内側に巻き込み気を充填すると、
その槍の間合に入った瞬間、英二は凄まじい回転を加えた槍を突き出した。
魔に槍の穂先が衝突すると、「ギュギュルギュルルっっ!」と、
凄まじい速度で回転し魔の腹部を貫く。
「ギュパァァァンっ!」と、
魔の腹部辺りから、喉元辺りまでが弾け飛ぶと、
その魔は声を発する事なく塵と化し消えていった。
魔の討伐を果たした英二は、力なくその場に座り込むと・・・
「お、終わったん・・・だな?」
誰に聞くでもなく、英二は言葉を漏らした。
「ええ、終わったわ・・・よくやったわ。指宿 英二」
その声に座ったまま振り向く英二は、改めてその女を見た。
肌の色は白く髪の色も白くなびき、その姿はとても凛々しかった。
(身長・・・たけぇーな?)
凛々しい顔立ちと女性らしい仕草を見せるその女性に英二は見惚れていた。
「英二?貴方・・・大丈夫なの?」
「えっ?あ、はいっ!俺は元気ですっ!」
上ずった声にその女性は少し笑みを浮かべた。
「厳しい戦いだったわね?」
そう言われると英二は立ち上がり、その女性の言葉に続いた。
「はい。しかし貴女は?」
「そうね?まずそれが先かしらね?自己紹介するわ。私の名前は・・・桜よ」
「桜・・・さん?」
英二は体の中で、何かが繋がっているのを感じたのだが、
その理由まではわからなかった。
呆然とする英二は、ふと我に返ると・・・
「あっ!な、仲間がっ!智之といちかがっ!」
仲間達の事を思い出した英二は、走馬灯のように流れる仲間達に涙した。
崩れ落ちる英二に桜は身を屈め、肩に触れると声をかけた。
「智之って人と、いちかさんは助けたわ」
泣きじゃくる英二に桜はそう告げると・・・
「ほ、ほんとっスか?」
「ええ・・・ほら・・・」
そう言って桜はある方向を指差すと、苦笑いを浮かべた二人が、
こちらに向かって歩いてきた。
「と、智之っ!いちかっ!」
涙を拭いながら顔を上げ二人を見ていると・・・
「やっほ~♪英二さーんっ!ワンチャンゲットで生還しましたよ~♪」
「ははは、・・・隊長~すんませーん!」
「い、生きていたのかよっ!てめぇーらっ!」
英二は立ち上がると、桜に頭を下げ二人の元へ駆け出した。
そして三人は抱き合い、生きている事を喜び合っていた。
「てっ、てめぇーらっ!心配かけやがってよぉーっ!」
「い、痛いっ!痛いってばっ!ちょっ、ちょっと英二さんっ!
セクハラでガチで訴えますよおっ!」
「い、いちか・・・てめぇー・・・こんな時くらいいいだろうがっ!
それにワンチャンゲットって何んなんだよっ!
日本語で話せよっ!日本語でっ!ったくよぉーっ!」
「いいわけないじゃないですかっ!
私の心と体は、悠斗さんのモノなんですからっ!」
いちかは本気で嫌がって怒っているが、英二は嬉しさのあまり、
いちかと智之に抱きついて離さなかった。
「ははは・・・隊長・・・そんな事だからモテないんスよ?
いや、マジで・・・」
「・・・と、智之・・・今、それ・・・関係ねぇーだろうがよ~
この戦いの後に、俺のハートをガチでへし折るのは止めてくれねぇーか?」
「あはは、す、すんませんっス」
「うふふふふぅ~だっ!智之~英二さんに本当の事言っちゃ可哀想よ~?
この人ガチでガラスのハートなんだから~♪」
「てっ、てめぇーら・・・いい加減にしろぉぉぉっ!」
二人の態度に怒りつつも、英二は嬉しさのあまり涙を浮かべながら、
二人を追いかけていた。
それはいちかと智之もまた、同じだった。
そんな二人を微笑ましく見ていた桜は・・・
「天照・・・一体英二に何をしたのよ?
あの姿は尋常じゃないわね。
それに今の英二からは・・・異質で危険な匂いがするわ・・・
天照・・・貴女・・・一人で何をするつもりなの?
貴女が何を企もうとも、私は・・・」
朝焼けが眩しく光る山々と冷たい風が流れるこの場所で、
桜は天を見上げ目を細めるのだった。
天照 ・・・ よっ!妾じゃ♪皆の衆は元気かの?妾は元気じゃ♪
英二 ・・・ あっ、ども・・・英二っス。俺も元気っスよ?
天照 ・・・ うぬの事など誰も気にしておらんわ
英二 ・・・ いやいやいや、俺だってきっとフアンの一人や二人・・・
天照 ・・・ そんな者などおらぬわ。うぬはお笑い担当であろうが?
英二 ・・・ お、お笑いって・・・いつそんな担当が?
天照 ・・・ 生まれ出た時からじゃ・・・の♪
英二 ・・・ ま、まじかっ!俺の運命ってそんな頃からなのかっ!
天照 ・・・ いや・・・うぬの運命は、室町の頃から決まっておるわっ!
英二 ・・・ そ、そんな昔からっスか?
天照 ・・・ ・・・嘘じゃ♪
英二 ・・・ こ、こいつ・・・い、いつの日か、必ず・・・
ってなことで、緋色火花でした。




