106話 イリアの目覚め
お疲れ様です。
お知らせはいつもの活動報告に記載してますので・・・って、
内容は同じなんですけどね^^;
ブックマークや感想など、宜しくお願いします^^
それでは、106話をお楽しみ下さい^^
「だ、駄犬っ!」
「アンナさんっ!」
気絶した二人へと迫る黒い液体から、あざ笑うような声が聞こえてきたのであった。
「ニ・・・ニンゲ・・・ン・・・・エサ・・・チカ・・・ラ・・・ツケ・・・ル」
途切れ途切れながらも、人の言葉を発する黒い液体に、
イリアとセルカもその黒い液体に寒気がした。
「はっ!助けなくちゃっ!」
イリアの言葉にセルカは「瞬身」を使い、黒い液体からの触手攻撃を迎撃していく。
「セルカっ!少しお願いっ!」
「わ、分かったのにゃっ!」
セルカは身体強化を重ねがけして、触手の攻撃に対抗するが、
そう長くはもたない事が予想出来ていた。
(も、もたないのにゃ・・・)
その間に、白斗とアンナを救出したイリアは少し離れた場所に着地すると、
アンナを木の根本に寝かせ、セルカの援護に駆け出した。
(私達のせいでっ!)
イリアは唇を噛み締めながら己の怠慢に嫌気が差していた。
セルカの元に辿り着いたイリアは、援護のバフを掛けつつ攻撃に参加する。
「待たせたわねっ!」
そう言って引きつった笑みを浮かべるイリアに、セルカも苦笑した。
「わ、私達が出来る事は・・・あ、足止めしかないのにゃ・・・」
(今の私じゃ・・・ユウト様に置いて行かれるのにゃっ!
それだけは絶対に嫌なのにゃっ!だからっ!)
「分かってるわっ!でもっ!」
「・・・やるしかないのにゃ」
「ええ」
(ユ、ユウトの足手纏にはなりたくないっ!だからっ!)
負けると分かっていながらも、アンナと白斗を守るため、
そして悠斗に認められたいが為、
無謀としか言いようのない戦いに挑んでいた。
(こ、こいつっ!つ、強くなってる・・・)
そう感じたイリアは、セルカに聞こえるよう声に出した。
「こいつ、強くなってるわっ!」
それに答えるように、セルカも黒い液体の攻撃を捌きながら返答していった。
「や、やっぱりそうなのにゃっ!勘違いかと・・・」
それから数十分膠着状態が続きながらも、何とかしのいでいた二人にも限界が・・・
「はぁ、はぁ・・・も、もう・・・体力が・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・わ、私も・・・なの・・・にゃ」
黒い液体から少し距離を取り後退した二人は、木に寄り掛かり呼吸を整える。
「こ、これは私達の・・・怠慢から生まれ・・・た・・・ミス」
「わ、分かっているのにゃ。だから誰に・・・も、た、頼れないのにゃ」
もう無理だと分かってはいても、現状を招いた原因が二人にある事を自覚しつつ、
アンナと白斗を逃がす為に、二人は粘っていた。
「セ、セルカ・・・全ての力を集めて一撃をっ!」
「にゃ、にゃぁ・・・ま、任せる・・・のにゃ」
逃げ出したい衝動にかられながらも、セルカは「ぐっ」と、堪え
力の入らなくなった手で剣を構えた。
(わ、私の剣が・・・こんにゃに重いにゃんて・・・)
ユウト様、すまないのにゃ。最後に顔を見たかったのにゃ・・・)
そう思うと目を閉じ、最後の攻撃を試みるため・・・思い力を集約していく。
そして・・・
「行くわよっ!」
「行くのにゃっ!」
二人の蹴り出した地面が爆発したかのように音をたてると、
二人は左右同時に攻撃を仕掛ける。
(私は右から攻撃するっ!)
(私は左にゃっ!)
以心伝心で相手の思考を理解すると・・・
「はぁぁぁぁっ!」
「にゃぁぁぁっ!」
二人はありったけの魔力を刃に乗せ黒い液体を切り裂く。
「碧爆斬っ!」
イリアはこの数日、青い炎を纏わせた攻撃法に取り組んでいた。
まだ未完成ながらも、斬った瞬間爆発させるその威力には目を見張るものがあった。
そして・・・セルカもまた・・・
「瞬影双剣っ!」
セルカは猫人族の特徴であるスピードを強化し、残像を残すほどの速度で惑わせ、
双剣によって切り裂く技を身に着けていた。
今、二人が放てる最高の技である。
「ザシュッ!と、斬った瞬間・・・「「ピシッ」」と、手応えを感じた二人は、
「「ザザァァァっ!」」と、土煙を上げ地面を滑るように着地すると・・・
(手応えありっ!)
(やれたのにゃっ!)
背後に居る黒い液体を見た。
すると、徐々に黒い液体の体が地面に流れ始めた。
「や、やったのにゃっ!」
「ええっ!手応えあったもの♪」
イリアがそう言って立ち上がり、セルカに笑顔を向けると・・・
「セルカ?どうしたのよ?そんな顔しちゃって・・・」
イリアの問いに、セルカは険しい顔をしていた。
「・・・イリア、私にも手応えあったよ?」
「ど、どう言う事よっ!」
お互いに手応えがあるという現実に困惑する二人だった。
動揺が隙を生み、それを待っているモノもいる・・・
弱肉強食が世界の理、従って・・・卑怯という摂理はないのだ。
動揺により、隙が生まれた二人を狙って、
黒い液体は触手で無防備となった二人を吹き飛ばした。
「かはっ!」
「ぐはっ!」
二人は別々に吹き飛ばされる事となり、剣を持つ力のない二人は、
黒い液体の餌食でしかなかった。
「グゥケケケケケっ!」
高笑いしながら二人を見る黒い液体は2体に分裂した。
「ぶ、分裂って・・・」
イリアは何故二人共に手応えがあったのかを理解した。
「セルカァァァっ!」
セルカは先程の黒い液体の攻撃により、意識が朦朧とし返事ができなかった。
(ヤバイのにゃ・・・でも・・・諦めたく・・・ない・・・にゃ)
「グギァーグルル」
気絶したセルカを確認した黒い液体の一体が、もう一体に何かを知らせていた。
イリアは剣を支えにしながら立ち上がり黒い液体を睨んではいたが、
その目に力はなかったのだ。
「グゲッゲッゲッ」
あざ笑うかのように笑う2体の黒い液体。
(さ、最後くらいは・・・潔く・・・)
イリアはフラつきながら剣を構えると・・・
「少しは成長したみたいね?」
その声が遠くから聞こえたイリアは空を見上げるが、どこにも居ない・・・。
(幻聴?)
体力も魔力も尽きたイリアは苦笑した。
その時、イリアの目の前に迫って飛びかかろうとしていた黒い液体に、
「グギァァァっ!!」
何かが突き刺さると黒い液体の悲鳴と共に、爆発し土煙が辺りを包み込んだ。
(い、一体何がっ!?)
戸惑うイリアは身を屈め土煙が晴れるのを待つ。
万が一に備え、呼吸を整え力を回復しようと試みた。
(この間になんとか・・・)
そして視界が開けていき、土煙が収まった時・・・
イリアは見た・・・
セルカが倒れているであろうその場所に、長い銀髪をなびかせて、
一人の女性が威風堂々と立っていた。
(あれって・・・まさか・・・)
イリアはその女性を見た事があったのだが・・・自信がなかった。
何故なら、その纏っている雰囲気は、イリアが知る女性と全く同じなのだが、
見た目が違っていた。
「・・・誰?」
口から溢れるように出た言葉は、その女性には届いていた。
「誰って・・・本気で言ってるの?」
その声には勿論、聞き覚えはあるものの・・・
「私よ、私っ!ミランダよっ!」
「えっ!?」
イリアが驚いた瞬間、ミランダは姿を消し、イリアの傍に立っていた。
見上げたイリアは、ミランダの顔が以前とは違っていた事に驚いていた。
「・・・本当にミランダ・・・さん?」
「・・・ああ~この姿じゃ分からないわよね?」
ミランダはそう苦笑すると数歩ほど歩み、
粉々になった黒い液体らしき物体から、邪神槍を引き抜いた。
「何とか間に合ったわね♪」
そう言って振り返ったミランダの背後から、もう一体の黒い液体が飛びかかってきた。
「危なっ・・・」
イリアがそう言いかけた瞬間、黒い液体は吹き飛ばされ木に激突していた。
「えっ?」
ミランダの攻撃が全く見えなかったイリアは、ただ唖然とした。
黒い液体が木に張り付き、薄い紙でも剥がすように「ペリっ」と、剥がれ落ちる。
「しぶといわね・・・」
そう言ったミランダは、背中を向けたまま、眼球だけが動いていく。
ミランダはイリアに微笑みかけると、「パーフェクト・ヒール」を使用し、
二人を全快させた。
「あ、有難う御座いますっ!」
「いいわよ、礼なんて♪」
優しく微笑みかけたミランダの姿は、とても邪神の女神とは思えないくらい、
チャーミングな笑顔だった。
「アレがミスティが言っていた黒い液体ってヤツなのね?」
ミランダは邪神槍を肩に担ぎ上げながらそう言った。
「はい、私とセルカでなんとか核を破壊したのですが・・・」
そこまで言い終わると、その話の続きをミランダが答えた。
「でも・・・生きていた。核は一つではなかった・・・って事ね?」
「えっ!?どうしてそれを?」
驚いたイリアに、ミランダは事の説明をした。
まず最初にミスティから連絡をもらい、万が一の為に悠斗がミランダを
ここに向かわせたと言う事。
そして、ミランダがここに向かう途中、悠斗から直接連絡があり、
黒い液体の核に関する考察を聞かされた事など・・・。
「ユウトが私達の為に・・・」
「ええ、黒い液体がアレだけとは思えないって言っていたわ」
「でも・・・どうしてユウトは私達では勝てないと・・・?」
イリアの言葉に悔しさを感じ取ったミランダは、真っ直ぐイリアに目を見て答えた。
「貴女達の強さでは足りないから・・・そう言っていたわ」
「!?」
イリアこの時、自分がトレーニングを疎かにしていると、
悠斗は誰かから聞いていて知っていた・・・そう思った。
「ユウトはお見通しだった・・・そう言う事ですね?」
「違うわよ?」
「違う?」
「ええ、ユウトは神獣達でも勝てない相手に人族では・・・ね?」
「そう・・・ですか・・・」
がっくりと肩を落とすイリアを見たミランダは溜息を吐きながら呆れていた。
「あんたね~・・・落ち込む暇があったら、もっと気合い入れて強くなりなさいよっ!」
ミランダから激を飛ばされ思い出す・・・
(このまま逃げていたら・・・前の私と同じ・・・それは嫌っ!)
イリアの目に力が戻ると、勢いよく立ち上がり、ミランダを見つめた。
「ミランダさん、あいつの倒し方・・・教えてくださいっ!」
力に満ちた目を見たミランダは苦笑すると、こう答えた。
「まぁ~別にいいけど・・・そのままの貴女じゃ・・・倒せないわよ?」
「そのままって・・・どう言う意味ですか?」
「あんた・・・あの力を使いなさいよ」
「あの力って・・・まさかあの青い炎ですか?」
「他に何があるのよ?」
ミランダに言われた事は、イリアの奥底にあるあの・・・青い炎の事だった。
「し、しかしあの炎では威力がっ!」
「あんた・・・自分の力を信じないでっ、一体何を信じるのよっ!
あんたはこれからずっと、ユウトに助けられて行くのかしら?」
「・・・・」
押し黙ってしまったイリアだったが、その目はまだ死んでいなかった。
(やる気は・・・あるのよね~この子は。
甘え癖がついているのかしらね~・・・誰のせいなのかしら?)
心の中で苦笑するミランダはイリアの口から、どうするのか聞きたかった。
ミランダはイリアに睨みを効かせつつ考えていた。
(それにしてもユウト・・・自分は助けに行かないだなんて、
やせ我慢しちゃってさ~・・・まぁ~ユウトらしいけどね♪)
綻びそうな顔を引き締めながら、イリアの言葉を待っていると・・・
「ミランダさん・・・私は負けませんっ!必ず強くなりますっ!」
「言うじゃない・・・いいわ、倒し方を教えてあげる。
だけどね、あの青い炎じゃないと・・・貴女には倒せないわよ?」
「はいっ!」
覚悟を決めたイリアの横に並ぶと、ミランダは説明していく。
「貴女があの力を引き出せるまで、私がアイツを食い止めておくわ」
「はいっ!」
「いい返事ね・・・」
そうポツリとつぷやくミランダはイリアの前を歩き始めた。
そしてイリアは剣を納刀すると、目を閉じ意識を内に向けていく。
前をゆっくり歩いて行くミランダは背後に居るイリアにこう言った。
「大切なのはイメージじゃないわっ!一番大切なのは・・・貴女の心よっ!」
薄く笑ったミランダと同じ様に、イリアもまたその言葉に薄く笑っていた。
(大切なのは心・・・イメージだけじゃない・・・心・・・
確かに青い炎に使用するモノは・・・魔力だけじゃなかった・・・
魔力だけじゃないモノ・・・・そう・・・別のモノ・・・
魔力や体力、それに生命力だけじゃ、あの炎は私に力を貸してくれない。
つまり・・・それが心。
そう大切なのは私の心・・・)
目を閉じ10分近く経った頃、イリアが目を開けると、
視線の先にミランダが黒い液体を相手にダメージを与え続けていた。
「ミランダっ!」
そう叫ぶと、ミランダはイリアに振り向き薄く笑った。
(何とかなったみたいね?)
心の中でつぶやいたミランダはイリアの横に着地すると・・・
「行けるわね?」
「はいっ!」
返事と共に剣を引き抜いたイリアは真っ直ぐ黒い液体を見つめた。
「・・・もうあんたには負けないわ」
新たな力を身に着けたイリアは視線を離さずつぶやいた。
「ブルー・フレイム・スピリット」
(目覚めたわね・・・)
そうつぶやくとミランダは背を向け、セルカの元へ歩いて行った。
長い銀髪をなびかせながら微笑んでいたのであった。
ラウル ・・・ ミランダが間に合ったようだね♪
ミスティ ・・・ あのタイミングで連絡出来て良かったですわ♪
ラウル ・・・ 僕が制作した擬体も順調そうで良かったよ♪
ミスティ ・・・ そしてあの青い炎・・・ですわね。
ラウル ・・・ ああ、まさか・・・だよね。
ってなことで、緋色火花でした。




