第92話
「さて」
玲達と真白達。それぞれが動いている中、俺達も動く。
「敬、私達は冒険者ギルドに行くんだよね」
「ああ。以前起こったという水害とそれに関連しての動きだな」
「それって万能の書で調べられないの?」
「調べられるぞ。というかすでに調べてある」
そういって昨晩のうちに調べておいた情報のリストを瑠衣へと渡す。
「え?調べてあるのにギルドで調べるの?」
「ああ。万能の書は事実だけが書かれているから情報としては助かるんだがな。それによって見えてこない物っていうのもあるんだ」
「見えてこない物?」
「人の思惑とかだな。国やそれら報告を書く人。そういった人の思惑とかが消えるんだ」
「???」
俺の言葉に瑠衣が首をかしげていた。
「ま、そこらへんは調べればわかる。とりあえず水害によって被害が出た畑や牧畜関連、そしてそれらを買い取ったのが誰かを調べておきたい」
「はぁーい」
クーも背中でふんふんと言いながら頷いている。
冒険者ギルドの中へと入ると、昨日見かけて話をした冒険者二人がまたテーブルに座って酒を飲んでいた。
「ん?あんたら昨日も来てたな」
「あ、どうも。ってか今日も飲んでますけど仕事しなくていいんですか?」
「少し前にでかい依頼終えてな、ここ数日は休みにしてるんだよ」
「なるほど」
「あんたらはまた情報収集か?」
「そ、ちょっと仲間が気になる話を聞いてきてな。それについて情報を集めようと思ってね」
「気になる話?」
冒険者二人もこちらの話が気になっているようで、話を聞く気になったようだ。せっかくだからこの二人にも協力を願おう。所属する冒険者にしか見せない情報とかもあるだろうからな。
とりあえず俺は玲達とその畑の事は伏せつつも軽い情報を話す。
「いやね、実は俺の仲間も他のところで情報を集めているんだが、その途中でなんか畑荒らしにあってるところにあったらしくてな」
その言葉で冒険者二人の表情が引き締まる。
「まあ、それは普通に撃退できたらしいんだがな、そこの畑の持ち主に話を聞いた際になんか数年前に水害にあったって話を聞いたんだ」
「水害…ああ、確かにあったな」
「うちらからもそれなりの人数が救援に向かったよな。まあ、それでも被害が出ちまったが…」
「土砂崩れに巻き込まれちまったらな…」
痛ましそうな表情をしている。冒険者が死と隣合わせであるとはいえ、やはり同僚を喪うのはつらいのだろう。
「それで、その水害と畑荒らしに何か繋がりがあるっていうのか?」
気持ちを切り替え、話を進めてくる。
「それがわからないから調べておこうかなとね」
「なるほどな。水害についての情報って調べられたっけ?」
「俺達は調べられるな。だが、部外者には見せられねぇだろ」
「ちなみにどういう情報が知りたいんだ?」
「水害にあった畑とその所持者。そしてそれの現在の所持者ともし購入されていたとしたらその購入者ってところかな」
「購入者って国の事か?」
「国もだけどそれ以外にもいるんじゃないかなと思ってね」
「なるほど。面白そうだな。よし、その情報収集は俺達がやってやる」
「ありがたいがいいのか?」
「ああ。何となくだが俺の知り合いが今受けてる依頼につながる気がしてな。休憩中とはいえ飲んだくれてるだけだからな。ちょうどいい暇つぶしがてら恩を売るのにちょうどよさそうだ」
「ふむ。じゃあお願いしていいかな?依頼料は…」
「なに、またうまい酒でも奢ってくれればそれでいい。とりあえずリストにしておくから、そうだな…3時間ぐらいしたら戻ってきてくれ」
「わかった」
残った酒を一気に飲み干して二人は受付のほうへと向かった。おそらく調べるための手続きをするんだろう。
「敬、私たちはどうするの?別の方向から調べてみる?」
「そうだな…」
ギルドで調べたかったことはあの二人に任せるとして、3時間というそこそこの時間の長さの空きができた。ここでただ待つより何か調べておきたいが…。
「せっかくだ市場行くか」
「市場?」
「ああ。ここらへんで幅を利かせている商会とかについて調べておきたい」
仮に国以外のどこかが畑を買っているとしたら、それのためには多額の資金が必要になる。
国以外となると貴族か商会。そして貴族だとしたら国と敵対しかねないことはしないはずだ。となると考えられるのは商会。ならその商会をいくつかリストアップしておけば今後の動き方を考える一つの指標になるはずだ。
「商会って言うと…マルシャン商会だっけ?皇国にあったよね」
「ああ。ここでもその商会なのか、他の商会か、ちょっと調べておきたいんだよな」
もしこの国でメインに扱われている商会が裏で控えていた場合、そこをつぶすと様々な影響が出てしまう。それを補える候補を見繕っておきたいのもある。
というわけで市場へと行く。ここはどこの国でも変わらずにぎわっている。まあ、ここが賑わっていなかったら国としてまずいのだが。
人が多く賑やかだということは、それだけ犯罪が起きる可能性も高くなるということだ。
だからきちんと警備の兵士がところどころにいたりする。
その一人に近づいて声をかける。
「すいません少しお聞きしたいのですが」
「はい、どうしました?」
鎧をしっかり着込み、少し威圧感のある兵士に声をかけるが相手は笑みを浮かべて気さくに答えてくれる。
まあ、犯罪を抑圧するためにある程度の威圧が必要だから仕方ないが難儀な物だ。
「自分たちは旅人でして、消耗品などを補充したいのですがどこかいい商会とかございませんかね?」
「そうですね。品揃えで言えばローゼット商会でしょうか。本店が我が国にあるので必需品は様々な物がそろっております」
「ふむ。何か引っかかる言葉ですね」
自国に本店がある商会ならば問題なしにお勧めすればいい。しかしこの兵士は『品揃えで言えば』と前置きした。何やら問題があるような言い回しだ。
「あはは…鋭いですね…。ちょっと言いにくいのですが…」
そういって兵士が顔を近づけてくるのでこちらも近づけると小声でしゃべりだす。
「…ココだけの話、最近あそこの品質がいささかよろしくなくなってきまして…」
「ふむ」
「少し前に商会長さんが引退いたしまして、息子さんが引き継いだのですが…儲けばかり気にする人でして…」
「なるほど、品質と値段があっていないんですね」
「はい。なのでもしお買い物をするというのでしたら他の商会でもいいと思います。ただ、やはりそちらはそちらで輸送費などでいささか割高となってしまいますが…」
「ふむ、他の商会ですか…マルシャン商会はありますか?」
「ありますよ。そういえば今はちょうど商会長がお越しになっていると聞きましたな」
「ふむ」
マルシャン商会の会長であるシリウス・マルシャン。彼とは一度面識がある。
皇国にてシエルとノエル、クーに関連した一件であったが、悪い人ではないがいろいろと容赦がなく食えない人物でもある。
マルシャン商会の名前が出て昔を思い出したのか、背中に張り付いているクーが少し体を強張らせた。
「なるほど、その二つの商会の場所ってどこですかね?」
「それぞれ行こうとすると迷いやすいので簡単な地図を用意しますね」
「すいません、お願いします」
そういって兵士がさらさらと地図を書き出す。
「…ねえ、敬。マルシャン商会に行くの?」
「ん?ああ、話ができそうな商会がそこだけだからな」
おそらく他の商会もあるだろうが、面識はない。他国の商会ならば商会長がこの国にいるとも思えない。仮にいたとしても面識がない旅人である俺達とあってくれるとも思えないし、万が一会ったとしても話を信用してくれるとも思えない。
兵士の話を聞き、今までの推測があっていたとしたら怪しいのはローゼット商会だ。もしそこが元凶であり、その代わりをマルシャン商会に勤めてもらえば他の住民に関しては大きな影響は出てこないはずだ。
まあ、一番としては国がローゼット商会を手直ししてくれることだが、それができれば最初からやっているだろうし、それをやっている間に補う商会があったほうがいいだろう。
まあ、そこらへんは必要とあらば国と話し合ってもらうとして、俺がやるべきことは事前に話を通しておいて、同じ懸念をして二の足を踏んでしまう可能性をつぶすことだ。
「お待たせしました。どうぞ。こちらがマルシャン商会でこちらがローゼット商会です」
そういって渡してくれたのは市場を中心に簡易的に書かれた地図だった。それぞれの場所を指で指し示す。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お気をつけて」
兵士へと礼を述べて地図を見ながら歩き出す。
「まずどっち行くの?」
「マルシャン商会だな。商会長であるシリウスさんがいつまでいるかわからないから、先に話をしてここに滞在してもらわないといけない。その後ローゼット商会へ行って状態確認ってところかな」
おそらくだが黒幕はローゼット商会だろう。二代目が利益を求めて水害によって復興中の畑などを襲わせ、価値を落として自らが得て、その後本来その畑の所有者が得る利益を奪おうとしている。といった事が予測できる。
まあ、そこらへんの証拠に関しては真白達が何か掴んでくれることを期待しよう。
被害の拡大を防ぐのは玲達に、黒幕の発見や裏付けに関しては真白達に任せ、俺達がやるべきなのはこの事件の後始末に対する布石だ。
必要なのは国と別の商会とのつなぎ役。商会に関してはこれからマルシャン商会に話を通しておくとして、問題は国のほうだ。
一応手段はあるが、表立って動けない以上、相手が気づいてくれることを願うだけだが…。それが上手くいくかどうか。いかなかったとして次の手を考えておかないといけないな。
「まあ、いろいろと思うところはあると思うが、クー達に手出しはさせないから安心しな。それより、今はこの国で起こってることについて対処しちゃわないとな」
「わかった」
今回の一件、もしマルシャン商会の協力を取り付け、うまく解決させることができれば下手したらその二つに恩を売ることができるかもしれない。
皇国や聖都とは違い、農業国家であるシャンフォレに関してはその恩は結構大きなものになるだろう。報酬はないと思っていたがこの一件、思いのほか大きい見返りがもらえるかもしれない。
そんなことを考えつつ歩いていると目的地であるマルシャン商会へとたどり着いた。
扉を開け、中に入って受付に要件を話そうと向かった際。
「おや?まさか…ケイ殿ですか?」
突如名前を呼ばれ振り返るとそこにはこのマルシャン商会の商会長であるシリウスがいた。
「シリウスさん。お久しぶりです」
「お久しぶりです。まさかこんなところでお会いするとは。何かご入用ですかな?」
「ええ、そんなところです。それとシリウスさんがこちらにいると伺ったので少しご相談を」
「何かご入用の物でも?」
「いえ、ちょっと頼みたいことがありまして。ただここではちょっと…」
「ふむ。わかりました。ではこちらへどうぞ」
そういうと受付と軽い会話をしたのちに二階へと上がっていく。その後をついていき、シリウスの案内で応接間へと入った。
「どうぞ」
「失礼します」
「さて、ではお話を伺いましょうか」
「はい。実はまだ調査の段階で確定ではないのですが…」
そう前置きして現在このシャンフォレで起きている畑荒らしの件、そして国と何者かがその被害にあった畑を買い占めていること。その何者かがシャンフォレに本部を置くローゼット商会である可能性が高いこと。仮にこの一件を解決してもローゼット商会が担う物流がめちゃくちゃになりかねないことを伝える。
「ふむ、なるほど」
一通り聞き終えシリウスが考え込む。
「実際まだあなたの推測がほとんどなんですよね?」
「ええ。まだ調査の部分が多いので」
「そうですか。それで私に何をしてほしいと?さすがに推測だけでこちらも動くことはできませんよ?」
「ええ、わかっています。シリウスさん…というよりマルシャン商会にお願いしたいのはそのめちゃくちゃになってしまった場合の物流を補ってもらいたいということです」
「ふむ、それをして我が商会に何の得が?」
「一つはローゼット商会の販路をいくつか手に入れられるということ。もう一つはこの国に恩を売ることができます」
「……」
「ローゼット商会をこのままにしておくわけにはいかないでしょう。かと言え、潰してしまったら他国との取引が上手くいかなくなる可能性もある。だからローゼット商会が建て直すまで、あなた方が代わりに販路を維持する。その条件で契約すれば、その間にあなた方はローゼット商会と契約している農家から信用を得られれば、今より楽に手広く仕入れができるのでは?」
おそらくローゼット商会が建て直した場合、その販路は使えなくなるかもしれないが、それでもよくしてくれた商会を邪険にすることはできないだろう。そして一つの商会とだけ契約した際の危うさが今回浮き彫りになれば、ある程度は別商会との取引をすることも考慮するはずだ。
そんな時に信用できる商会は優先的に契約を取ることができる。それをマルシャン商会にするというのが今回の一番の利点だ。
「なるほど。確かにそれはそうですが…そううまくいきますかね?」
「それに関してはそちら次第なところがあります。あくまでこちらとしてはローゼット商会の信用が落ち、それに伴う物流の乱れが懸念しているので、そのチャンスをあなた方マルシャン商会がどう自らの得にするか。ということになるので」
「なるほど、確かにそうですね」
納得したようにシリウスが頷く。
「わかりました。さすがに確約とまでは言えませんが、必要とあればあなたの策に乗るとしましょう」
「よろしくお願いします」
これにてローゼット商会が揺らいだ際に発生する物流の乱れに関しては打てる手ができた。
次は国のほうと接触し、それらを踏まえてどうローゼット商会を追い詰めるか。相談しないといけないな。




