第86話
宿屋にて報告し、今後の方針を決めた敬達。
その敬に言われ、玲と和也、シエルとノエルの4人は昼間来た畑へと戻ってきていた。
日が暮れ夜となった畑はところどころに松明があり、それによって照らされている部分はあれど、大部分は夜の闇に飲まれている。
「こんばんは~」
持ち主の家族の家からいささか離れた場所、畑が見渡せる場所に陣取って警備がてらの野営をしている冒険者達へと声をかける。
「ん?あんたらは昼間の…どうしたんだ?」
「リーダーさんはいるかしら~?」
「リーダーなら今依頼主とお話し中ですよ」
「じゃあちょうどいいわね~。ちょっと家主さんにもお話があったのよね~。ありがとうね~」
笑みを浮かべながら家主のほうへと向かうが、その様子を見て冒険者たちは首をかしげていた。
「シエル、気配探知のほうを頼むな」
「うん、任せて」
普段は敬と一緒にいることが多いゆえに気配探知なども主に敬が担っていた。
別行動しているときもシエルは様々な気配に気を付けてはいるが、そこまで必要な場面がなかったが、それでも気配には気を配ってくれていた。
それに敬曰く、気配探知に関しては敬以上に高い能力を持っているらしく、気配だけでなく悪意なども察せるらしい。
今のところ反応がない以上、そういった気配はないようだ。
まあ日が暮れ夜になっているとはいえ、寝るにはまだ早い時間帯。動くのはもう少し夜が更けてからだろう。
「そういえば私が話している間和也君たちはどうするの~?」
「そうだな…俺はちょっと家の周りを見ておきたいかな。誘拐を企てるにしろ、それができそうなルートとか見ておきたいし」
窓があり、そこから侵入するにしてもそこに行くまでのルートを軽くだが見ておきたい。
まあ、相手が闇ギルドなら足場とかは関係ないかもしれないが、それでもある程度の目算は立てておきたい。
「わかったわ~。じゃあシエルちゃんとノエルちゃんは息子さんと娘さんと軽くお話しておいてね~。何が起きているかは話す必要はないけど~、仲良くなっておいたほうがいいからね~」
「わかりました」
「はーい」
とりあえず到着してからやることを決めたので、玄関をノックする。
「……どちら様で?」
「昼間来た旅人の玲です~」
警戒しているような声音にいつも通りの声音で答える。まあ、こんな時間に訪ねてくる人を警戒するのは間違っていないだろう。
少しの間があってからゆっくりと扉が開く。
「夜分遅くにすいません~」
「いえ、大丈夫ですけど…」
顔を出した女性がこちらを見て本人だと確認した後に後方にいるリーダーへと視線を移した。
「玄関で立ち話もなんでしょうから、問題ないようでしたら入っていただいたらどうでしょう」
リーダーも玲達が中を招くことを勧めた。とりあえず現状で害意がないと判断したんだろう。
「ありがとうございます~。それと一緒にいる和也君が少し気になる事があるみたいでちょっと家の周り見てもいいかしら~?」
「気になる事?」
「ええ~。それについてもきちんと説明しますので~」
玲の言葉に再度伺いを立てるとリーダーが頷いた。
「わかりました。ではどうぞ」
玲と和也も見合って頷き、玲はシエルたちと共に屋内に入り、和也は家の周囲を見に行く。
「ごめんなさいね~。突然お邪魔しちゃって~」
「いえ…でも、どうしたんですか?」
「何かわかったんですか?」
「いえ~、実はうちの頭脳担当が少し警戒をしていましてね~」
「警戒?」
玲は宿屋で話したことを順番に話していく。
その中で昼間の襲撃に関しては一つの陽動で、本当の狙いは子供たちではないかということを告げた。
「子供たちが…?」
「あくまで彼が考える目的がですけどね~。だから今和也君が家の周りで侵入経路になりそうな場所にあたりを付けているんですよ~」
「でもなぜ子供たちを?」
「相手の目的がわからないので仮定だけど~、もしこの畑を手に入れるのが目的だとしたら脅しに使うんじゃないかな~と言っていたわね~」
「なんでそうまでして…」
「そうなのよね~。そこがわからないから仮定にしかならないのよ~」
畑荒らしにしても、子供を誘拐するにしてもなぜそこまでしてここを手に入れようとしているのか。それがわからないせいで判断に困ってしまう。
とりあえず現時点の目的として畑であると仮定し、その背景の目的に関しては敬や真白達が何か掴むことを期待しておこう。
「とりあえず現時点でわからないことを悩んでも仕方がないのよ~。だから発生しそうな問題に対して警戒しておきたいというのがこちらの目的ね~」
「だったら俺達は子供たちを守って…」
「そうしたら畑荒らしの被害が増えると思うわよ~。おそらく畑荒らしを昼間にすることで陽動だと思わせるって策もあると思うのよ~。あなたたち冒険者の数がそこまで多くないことを考慮して、畑荒らしか誘拐かどちらかが成功すればよしって感じの策じゃないかしらね~」
普段やらない昼間に襲撃することで、それが陽動だという可能性を考慮させる。そうすれば戦力を二分させどちらか片方だけでも成功させられるんじゃないかという策が一番可能性としてある。
冒険者たちは全員で5人。畑の警備をしつつ持ち主たちを守るというのはいくら何でも厳しいだろう。
「というわけで頭脳担当さんの指示もあって私たちが来たのよ~。あなたたちには畑の警備をしてもらって、私たちがこっちを防衛するって感じね~」
「…確かにその方法が一番だが…。なぜ手を貸してくれる?君たちの目的はなんだ?」
「そうね~…なかなか説明が難しいのよね~…あえて言うとしたら~…」
頭の中で浮かべた敬の姿。優しくもありながらそれを認めず、ただ己の思うがままに行動する身勝手なリーダー。彼が言いそうなことはやはり…。
「面白そうだから、かしらね~」
報酬や利益で手を貸す者がほとんどだろう。だがあのリーダーは自分が満足できるかどうか。それが一番のかかわる判断基準だ。
当然というか二人は胡乱げな視線を向けてくるが、こればかりは仕方がない。
これに関しては『御神楽敬』という人物とかかわってみないとわからないことだ。
「まあ、たぶん今回は裏側で暗躍し続けると思うから、一通り解決してから紹介することになるかもしれないわね~」
「そうなのか?」
「彼曰く、『認識されていないからこそ動きやすい』ってことらしいのよね~。まあ彼は彼なりの方法で元凶へとたどり着くと思うわよ~」
「そうなのか?」
「ええ~。だから私たちは表で動いている輩たちに注意しましょう」
その時にこんこんと玄関がノックされた。
「シエルちゃん~?」
「開けて大丈夫だよー、和也お兄ちゃんだから。それ以外の人もいないよ」
「わかったわ~」
シエルの言葉を受け、玄関を開ける。
「君はその気配が誰なのかもわかるのかい?」
「一緒に旅している人なら覚えているからね!」
リーダーに問われ、ドヤ顔で答えている。
「おかえり~、どうだった~?」
「いくつか窓から侵入できそうな場所があったな。ほかにも屋根裏のほうへと入れそうな場所もあった。ある程度は大丈夫だろうが、たまに部屋から離れた時とか狙われると厄介だな」
「防衛は可能かしら~?」
「まあ、いくつか気を付けないといけないところはあるが、何とかなるだろう」
「そう~、じゃあ防衛はお願いね~」
「任せておけ」
「じゃあ俺たちはいつも通り畑の防衛をしていればいいんだな」
「ええ。こっちは任せて頂戴~」
とりあえず方針が固まったのでリーダーが立ち上がった。
「あ、そういえば~」
「どうした?」
「お二人の名前を聞いていなかったな~と思ってね~」
「あ」
そういえば最初に会ったときはただ少し話すだけだったので自己紹介まではしていなかった。
ただこれからは一緒に戦ったりもするのでそれぞれ自己紹介をしたほうがいいだろう。
「そういやそうだったな。俺はあの冒険者達『暁の空』のリーダーであるトレンだ。すまんな自己紹介が遅くなって」
「私はこの農場の責任者のリディです。皆さん、子供たちをよろしくお願いします」
冒険者であるトレンと農場主であるリディの自己紹介を聞き、玲達も軽く名乗っておく。
そしてそれぞれ自己紹介を終えたのでトレンはそのまま家を出て畑の防衛へと向かっていった。
それからしばらくし。夜も深まったころ。
「…来たか」
畑を警備しているトレン達は夜闇に紛れて動く気配を察した。
「……数がいつもより少なくないか?」
「確かにな。だが無視すれば畑を荒らすには十分な数でもある」
数人程度ではあるが、それでも荒らすだけなら十分な人数だ。
「他のやつらを起こしてきてくれ、その間に気を引いておく」
「わかった」
一緒に見張りをしていた弓使いが近くのテントのほうへと向かっていった。
トレンも装備である剣を手にし、しっかりと周囲に気を配る。
「さて、与えられた仕事をしっかりこなしましょうかね」
昼間の襲撃にいつもより数が少ない闇ギルド。おそらくあの旅人たちが話していた陽動である可能性が高いだろう。
だからと言って無視していい理由にはならないし、向こうは向こうで彼女たちに任せるしかない。まだあって間もないがそれでも高い実力者であることは察していた。
だから敵でないのならば頼っても問題ないだろう。長年培ってきた冒険者としての勘がそう告げていた。
だから自分に与えられた仕事をこなしていく。本来の目的がわからなくとも、畑荒らしに来たこいつらを撃退する。それが今トレン達がやるべきことだ。
「……ん…?」
眠っているシエルがふと目を開ける。
「どうしたの~?」
「なんか今変な気配がした気がして…」
一瞬だけ、ほんのわずかだが悪意が感じられた。
もともと奴隷として売られ、ウェアウルフに襲われたシエルは悪意に敏感だ。そしてその感覚を敬達に魔法を教わることでさらに鋭敏になり、鋭い気配探知へと昇華させた。
その気配探知が一瞬だが悪意を感じた。
「来たみたいね~」
声を抑えつつ、近くに置いてある杖を手に取った瞬間。
ガシャーーーン!!
唐突に大きい物音が響いてきた。
「お、かかったか」
のんきな声音で和也が言ってくる。
「なにしたの~?」
「いやー、いくつか入ってきそうな場所に罠を仕掛けてな」
そう答えながら急いで準備をして音がしたほうへと駆け出す。
さすがにあれだけの大きい音を出したのだ、向こうもそのまま強硬策に出る可能性があった。
「罠って…リディさんたちが引っかかったらどうするのよ~」
「そこはきちんと報告してあるから。それに罠と言ってもそこまで危険な物じゃない」
「そうなの~?」
「ああ。せいぜい黒土で作った段差なだけだからな」
「あらら~」
こちらに襲撃してきた奴らもある程度夜目は効くだろう。
だからと言って暗い中で黒いものをはっきりと見極めることができるかといわれるとそうではないはずだ。
真っ黒の土で作り上げた段差は相手に地面や床を誤認させ、転倒させる。その罠に相手は引っかかったのだ。
「うし、シエル相手の位置の把握は任せたぞ」
「うん!任せて!」
「ノエルちゃんは私と一緒にリディさんたちと守りにいきましょうか~」
「はい!」
二手に分かれ、それぞれで襲撃者を撃退することにした。




