第84話
敬達が冒険者ギルドへと赴き情報収集をしていたころ。
市場へと来ていた和也、瑠衣、シエル、ノエルの四人はのんびりとお店を見て回っていた。
「やっぱりパッと見た感じ他の市場より格段に安いな」
「そうね~。でも思ったよりかは安くはないわね~」
確かにここの市場に卸されている食べ物などは皇国や聖都よりかは安い。
だがそれでも2割か3割ほど安いというだけだ。
盗賊などが跋扈しており、配送技術もそこまで発展していない以上、当然他国に卸すには配送料に加えて護衛費用に保存するための何かしらの費用等を合わせれば、市場との金額の差は4割ほどになるかと予測していた。まあ、そこらへんは予測が間違っていたということなんだろう。
「それにしてもたくさん野菜あるのね~」
「旬とかそういうのもあるだろ?そっち側はどうなんだ?」
「温室とかそういうものが無いのよね~、だからここにあるのが旬の作物だとは思うのだけど…」
市場を見て回ってもいくつかたくさんある野菜とかもある。しかし、それでもそこまで安いっていうほどでもない。
「何か違和感を感じるわね~」
明確におかしいとは言えない。だがどこか変な感じがする。
ほんの僅か、何かがずれている。そんな感覚がしてしまう。
「あんたたち旅の人かい?」
唐突に声をかけられ振り返ると恰幅のいい女性が気のいい笑顔を浮かべていた。
「ええそうですよ~。あなたは~…市場の人ですかね~?」
「ああそうだよ。そこで野菜を売っていてね。悪いとは思ったが話が聞こえてね、ちょっと声をかけちまったのさ」
そういって豪快に笑う女性。唐突に声をかけられたので少し警戒していたが、気のいいひとのようだ。
「それにしてもアンタら結構鋭いね。それなりに旅人が来たりはしてたけど、ほとんどがなにも気づかずにいたよ」
「まあ、他国より安いのは事実だからな」
実際ここが生産地だからゆえに他国より安いのは事実だ。だがどうにも移動や搬送コストを考えると値段の差が少なすぎるというだけで。
「それにしても移動のためのお金とかも踏まえるとむしろ他国のほうが安すぎる気がするのだけど~、なんでかしらね~?」
「詳しい事情はおえらさんがたが考えていることだから私はわからないところだね。でも…」
「でも?」
「最近は畑荒らしの被害がひどくてね、国に税を納められない農家がちょくちょくいるのよ。その税の代わりに農家が持っている畑を買い取ってるって話なんだよね」
「それって元の農家の人たちはどうなるのかしら~?」
「家はそのままその人のままで畑だけ買い取る感じらしいよ。それにその畑でそのまま働いてもらうんだってさ」
「ふむ、聞いているとそこまで悪い話じゃなさそうだな」
「まあねー。ただ、やっぱ国所有の畑になるわけじゃない?だからそこで採れる野菜に関しても市場に流れるより国に流すほうが多くなるのよ。それでこっちに流れてくる量がそれなりに減ってるみたいなのよねぇ」
「ふむ」
国所有となれば国に野菜が卸されるのは当然だ。その割合が増えるのもおかしいところはない。畑荒らしの被害がひどくなっているという話は気になるが、それに関しては国の問題だし、これだけ畑が多く広ければそういう話が出てきてもおかしくはない。
「そうねー、もし、もうちょっと詳しく知りたいのならここに行ったらどうかしら」
そういって一枚の紙にさらさらと何かを書いて渡してくる。それを見ると簡単な地図のようだった。
「ここは?」
「最近畑荒らしにあったらしい畑よ。冒険者雇ったらしいけど痛み分け。被害を受けることはなかったけど、相手を捕まえることもできなかったらしいのよ。もうお店を占めて畑仕事にいそしんでいるはずだから話は聞けるはずよ」
「なるほど、ありがとうございます」
とりあえず案内役ともなっているシエルへとその地図を渡す。
一通り話し終えて満足したのか、女性はそのまま立ち去って行った。
「さてどうしましょうかね~」
「敬に報告…はまた夜のほうがいいか。こっち来てもらっても二度手間になりかねないし」
「そうね~。とりあえず聞ける話は聞いておきましょうか~。あとで報告した時に気になる事を調べればいいものね~」
「だな。シエル頼むな」
「うん!」
シエルの案内で町の外にある畑の一つへ向かっていく。
地図とメモを合わせてみてみるとその畑は周囲に広がる畑の真ん中あたりにある場所だった。
「?」
その位置にシエルが首をかしげる。
「どうしたのシエル」
「お姉ちゃん、これおかしくない?」
「ん?どうした?」
シエルとノエルが二人で地図を見ていたので和也と玲ものぞき込んでみる。
「これ、あの人からもらったメモの位置なんだけど、ここなんだよね」
そういってその地図の場所を示す。
この国は中心に城や貴族街があり、その周囲に市場がある。そしてそれを囲むように城壁が配置されている。
そしてその周囲に広大な畑が広がっており、近、中、遠と三つに分けた場合、その畑は中距離に配置されている。
「…確かに変だな。なんでここが襲撃されているんだ?」
「そうね~。普通狙うなら一番城壁から離れた位置を狙うわよね~」
一番外の畑ではなく真ん中あたりが狙われている。周囲を柵で囲んでいるとはいえ、かなり開けており視界は良好だ。
確かに夜は明りがないと暗くて見えにくいだろうが、それは他のところでも同じはず。
なのになぜ真ん中あたりが狙われるのか。
「なぁんかきな臭さが出てきたな」
「そうね~。明らかに何かありそうね~」
何か特別なところには必ず意図がある。とか敬なら言うだろう。
さすがにその意図を見抜くことは無理だろうが、何らかの思惑が絡んでいるのは確かだ。
「もし本当に何かがあるとしたら…本当にただの畑荒らしなのかね?」
「どうかしらね~。そこらへんも怪しいものね~」
とりあえず歩きつつ思考を巡らせていく。基本的にこういうのは敬の役割だが、だからと言って和也達がそれをやらなくてもいいというわけでも無い。
「とはいえ考えるにもまずは話を聞いてからになるかな」
「そうね~。何かを判断するにしても何も知らない状態じゃできないものね~」
門から抜け、城壁の外へと出ていく。
建物はちらほらとあるが、おそらくそれらは畑の持ち主の家だろう。
しかしそれでもほとんどが畑なせいでかなり視界が開けており、やはり襲撃にはあまり向いているようには見えない。
それらしい明りもないから夜は真っ暗だろう。夜目が効くようなタイプなら別だが、普通ならほとんど何も見えないだろう。
「あれ?」
「ん?どうした?」
「なんか…争ってる?そんな気配がする」
「は?こんな時間にか?」
情報収集していたので陽が傾いてきてはいるが、それでも夕暮れにはまだ早い。
後1時間かそこらしないと暗くはならないだろう。
「場所はどこらへんかしら~」
「ん~…これから向かう場所かな?その近くっぽい」
「んじゃあちょっと急ぐか。もしかしたら助太刀できるかもしれんし」
「そうね~。二人は和也君に捕まっててね~」
「はい」
「わかったー!」
それぞれ肩にしがみつくようにくっつき、二人は駆け出す。
しばし走っていると目的地となる畑が見えてきた。その近くで確かに争っている団体がいた。
片方は装備がちゃんとしているおそらく冒険者であろう5人組。もう片方は山賊のような服装をしている。しかしその立ち回りは山賊とは思えない動きだった。
「ありゃ結構な腕前だな」
「山賊…としては違和感あるわね~」
遠目から見た感じ、冒険者と山賊は拮抗した戦いをしている。
しかし、その冒険者たちも十分な実力を持っており、並みの山賊なら相手にすらならないだろう。それだけに相手の実力の高さが際立つ。
「ん。弓の人がこっちに気が付いた」
「敵だと思われたら面倒だ。ちょっと新技で援護するとしよう」
しがみついている二人を落とさないように気を付けつつ、右手に石を作り出す。その石にさらに魔力を注ぎ込んでいく。しかしその見た目的には特に変化は見受けられない。
「それが新技なの~?」
「ああ、ジェノの村でセレスと魔法陣作ってた時にな、あいつに教えてもらったやり方なんだ。この何の変哲もない石を投げつけて…」
そう言いつつ和也が石を山賊たちへと向けて投げる。
唐突に投げ込まれた石だが、山賊たちは慌てる様子もなく、当たらないとわかるとすぐに無視した。
しかし、それが悪手となる。
パチンッと和也が指を鳴らした瞬間、石が砕けて内部に込められた魔力が鉄柱となって周囲へと放たれる。
「なっ!?」
突然の意識外からの鉄柱。その不意打ちに対応しきれずに何人かに直撃し、当たらずとも態勢を崩される者がほとんどだ。
そしてそれを逃すほど冒険者たちも抜けていない。
態勢を崩した山賊たちへと一気に攻撃を仕掛け、そのまま押し切ろうとする。
「ちっ、退くぞ!」
一気に劣勢となったとわかった瞬間、リーダーと思わしき人物が撤退を指示する。
その瞬間、一斉に武器を引いて戦線から離脱するために後方へと下がっていく。
劣勢とわかった瞬間の切り替えの早さ、そしてそれに従う部下たちの迷いのなさ。やはり山賊にしては練度が高すぎる。
「リーダーどうする?」
「おそらく追っても巻かれるのが関の山だろう。ここは防衛できたということで良しとしておこう」
「了解」
冒険者たちも深追いをすることはせず、警戒はしながらも武器を納めた。
「悪かったな、いきなり横やりいれて」
「いや、むしろ助かった。あのままじゃそのうち押し込まれてたかもしれないからな」
リーダーが手を出してきたので和也も咄嗟に手を出し、お互いに握手をする。
「それで、あなたたちはなぜここに?」
「ちょっと市場で最近畑荒らしが頻発してると聞いてな。少し話を聞きに来たんだ。まさかこんな時間から襲撃してきているとは思わなかったが」
「それは俺達もだ。ここ最近の襲撃は夜だったんだがな…」
はぁとリーダーはため息をついていた。
「今まで夜だったのに今日に限って昼間に襲撃してきたのか…なんか目的があったのかね?今じゃなきゃいけない理由が」
「理由か…」
「理由としてはどっちかしらね~?」
「どっちって?」
「この時間にやらなきゃいけない理由があるのか~それともこの時間にやることで意味があるのか~。それによって理由も変わってくるものよ~」
「確かに」
玲の言葉にリーダーが頷いていた。初対面の人の言葉でも素直に聞き入れる。実力者だからこその余裕の持ち方かな。
「とりあえずそれはこっちも頭脳担当に話を聞いてみる。それで少し情報が欲しいんだが、あいつらって山賊なのか?」
見た目だけで言えば確かに山賊ではあったが、実力に関しては明らかに異常だった。
「確証はないが俺たちはあれを闇ギルドの一員だとにらんでいる」
「闇ギルド?」
「ギルドでは受け付けれない非合法な依頼を主に受けるギルドよ。表立って認められてないから闇ギルドって言われているの」
「どこにでもそういうのあるものなのね~」
「ああ。さすがにあいつらの階級まではわからないが、俺たちは一応Aランクの冒険者だ。それと同等の実力だからそれなりに高位のギルド員だろう」
「なるほど」
「そういえばあなたたちは依頼でココにいるのかしら~?」
「ああ、最近畑荒らしに狙われているからそいつを捕まえてほしいって依頼でな」
「その依頼主ってここの家主かしら~?」
「そうだが…それがどうかしたのか?」
「最近畑荒らしが増えてきているのよね~?」
「ああ。確かにそうだが…」
「ここの畑を狙っている畑荒らし『だけ』が闇ギルド員だと思えるかしら~?」
玲の言葉に冒険者達が考え込む。
「闇ギルドということは誰かから依頼があったってことだよな?」
「そうなるな」
「そして本来こういった畑荒らしが増えてきた場合~、依頼を出すのって国からじゃないかしら~?」
「それは…」
畑自体が国ではなく個人の持ち物であったとしても、畑荒らしは重罪であり、それが頻発しているということは国の問題として取り掛かってもおかしくはない。
「そういえば畑荒らしによって税を納められないところの畑を国が買い取っているって話だよな」
「ああ…」
「もしかしたら闇ギルドの依頼人、国のお偉いさんかもしれないわね~」
玲が笑顔を浮かべて言う言葉に冒険者たちが驚きの表情をしていた。
確かに国と闇ギルドがつながっているという噂はあった。だが…。
「そうだとしても俺達冒険者には何もできない…。冒険者ギルドはそれぞれの国によって運営されているんだ、だから国に逆らうことは…」
「そうでしょうね~。でも…私たちには関係ないわよね?」
「え?」
「私たちの仲間にこういう時に暗躍するのが好きな頭脳派さんがいるのよ~。その人ならこういう状況、こういうかもしれないのよね~」
「『面白くなってきた』ってね~」




