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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
グランフォール皇国
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第8話


マルシャン商会にて、皇国門番であるスティクの手伝いのために商会の違法商品に関しての情報を探りに内部へと侵入した。


「それでどうやって見つけるの?しらみつぶし?」

「こういう時に便利なのがこれさ」


そういって万能の書を見せる。重要書類や違法品なんかはそうやすやすと見つかるような場所には置かないだろう。というわけで在りかを万能の書で調べるのだが…。


「どう?」

「ん~…書類は二階、商品は地下二階だな」

「地下があるの?」

「ああ」


頷きつつ万能の書を瑠衣へと見せる。そこには建物の見取り図が描かれており、二つの赤い点が描かれている。それぞれ書類と商品だ。


「なんか地下、変な間取りだね」


瑠衣の言う通り、地下二階へと続く階段は二つあり、一つは地上からそのまま地下一階、地下二階へと通じるものと、地下一階の一室から地下二階へと通じる階段の二つだ。


「多分隠し階段だろ。素直に地下二階に置いてたんじゃすぐにばれるだろうからな」

「そっか、それでどうするの?」

「とりあえず書類はこっちで確保。違法品は没収後にスティクに預けるよ」

「書類は渡さなくていいの?」

「見せはするがな。一応一通り終わったら渡すが保険を確保しておきたいのさ。といってもあくまで欲しいのは取引書類。品目に関しては渡しても問題ないだろう」

「保険?」

「そ。もめ事は終わってないからな。んじゃ、まずは書類を確保しに行くぞ」


頭の中に見取り図を叩き込み、とりあえず二階へと向かう。


「うん。行こ、二人とも」


ノエルとシエルの手をつなぎ、頷く二人をひきつれ瑠衣も俺の後を付いてきた。

二階に上がると一本の廊下が伸び、左右にいくつかの扉が点在していた。それぞれの部屋には誰かいるようで、人の気配はするのだが、誰も出てくる気配はない。


「誰もいないのかな?」

「いや、いるが出てくる気はないみたいだ。非戦闘員なのかもな」

「事務員とかそんな感じかな」

「多分な。っと、ここだ」


左側の一番奥の扉。そこが重要書類がある部屋だ。内部から人の気配はしないから、特に警戒もせずに扉を開け、中へと入っていく。


「ほえ~…立派な部屋だね」


上質な赤い絨毯にテーブル。左右には様々な書類や本が入っている下段が引き出し、中段から上段が本棚となっているキャビネットがあった。


「多分あの商人の商談部屋だろ。え~っとご所望の書類はっと…ここだな」


引き出しの一つを開け、中をあさる。いくつかの契約書類に紛れ、望みの書類が見つかった。


「あった。取引関連が書かれている書類だ。あとは…これこれ、保管品目のリスト。これだけあればいいだろう」


必要な書類を一通り手に取ってアイテムボックスへと入れる。


「うし、こっちはOKだ。次行くぞー」

「はーい」


眉間に皴を寄せながら本を見ていた瑠衣が本を元の場所へと戻しつつ返事をした。


「読めなかったのか?」

「うん。あとで私にも文字教えてー」

「ノエル達と一緒でよければな」

「うん。一緒に頑張ろうね!」


瑠衣の言葉にノエルとシエルもふんすと意気込んでいた。

そんな三人を連れ、今度は地下へと向かう。違法品は隠し部屋の地下二階にあるようなので、そこに行くために一度地下一階へと降りていく。

地下一階はどうやら奴隷などを置いておく場所らしく、いくつかの牢屋にそれぞれ複数人の奴隷が入れられていた。奴隷たちは虚ろな目でこちらを見ていたが、俺は特に気にせず進んでいく。

しかし、瑠衣達はそうもいかないのか、三人とも俺の服を摘まんで付いてきた。微妙に歩きにくいんだが、文句は言えなかった。

とりあえず万能の書が示した場所へと向かうと、そこはちょうど牢屋と牢屋の間に、牢屋と同じくらいのサイズの通路が敷かれ、物置としているのか様々な道具が置かれていた。


「この奥?」

「そ。荷物で隠されているようだがな、この壁の奥に隠し階段がある。開け方はっと…壁の一つがスイッチになっているみたいだな。土魔法による偽造のようだ」

「土魔法ってそんなことまでできるの?」

「みたいだぞ。っと、とりあえず荷物どかすから少し下がっててくれ。一応索敵はしているが、後ろから襲われる可能性もあるから警戒だけはしておいてくれ」

「はーい」


戦える面子はほぼすべて入り口付近で寝ているみたいだから大丈夫だろうが、それでも目が覚めた奴や出払ってた奴が降りてくる可能性も十分にある。狭いうえに地下という環境は弓使いであり火魔法の使い手である瑠衣には相性最悪だろう。

とりあえずあまり長居するのもリスクを高めるだけだ。さっさと片付けて撤退するとしよう。

荷物を手早くどかして道を作り、奥の石のレンガでくみ上げられている壁の一つに触れる。

すすると触れた石レンガがへこんでから横にずれ、その周囲の石レンガも順々にへこんで横にずれ、入り口を開けた。

その先には地下へと続く階段があり、入り口が開くことが条件なのか、左右の燭台にある蝋燭が自然に火を灯して階段を照らした。


「おー…前に見た魔法使いの映画でこんな動きする場所あったよね」

「ん?…ああ、確か横丁への入り口だっけ。また懐かしいな」


いつだったか忘れたが、瑠衣が見たいからって言ってシリーズ一気見に付き合わされたんだよな…。作品自体は面白かったんだが、いかんせんぶっ通しで見てたせいで後半ほとんど記憶に残ってないんだよな…。


「あの映画って他にどんなのがあったっけ?」


階段を降りつつ聞いてくる。石造りの階段は暗いが、左右の燭台からの灯りで足元は見えるから少し気をつけておけば踏み外すことはないだろう。


「忘れた。ってか、ほぼ徹夜で見てたから後半記憶に残ってないんだよ…」

「あはは…実は私も…。またその内見直そうかなーって思ってたんだけどねー」

「こっちきちまったからなー」


その内やろうって考えていたことはこっちに来たことでできなくなってしまった。まあ、そこまで未練があるわけでもないが、やっておけばよかったなーって思いはどうしても出てくる。


「まあ、こっちでできることを探していこうよ」

「せやな」


まあ、どうせ向こうにいてもやっていたかどうかわからんものだから気にするほどでもないだろう。そんなことを考えていると階段が途切れ、正面に扉が見えた。


「ここ?」

「そそ、中に見張りらしき人は…いないな。扉に罠もなさそうだし、入るか」


最低限の確認を終え、扉を開けて中へと入る。

内部には灯りはなく、真っ暗闇だった。


「暗いねー」

「明かりつけるぞー」


光球を生み出して内部を照らす。室内には木箱が積み上げられていたり、巨大な壺や絵画などが置かれていた。


「これ全部が違法品?」

「ん~…全部が違法品って訳じゃねぇみたいだな。ただの高級品ってのもあるみたいだ」

「どれが違法品なの?」

「ん~…ちらほらあるみたいだし、とりあえず整理だけしておいてくれ。万能の書曰く、触れてまずい物とかはないみたいだから、箱から出して並べておいてくれ」

「はーい。ノエルちゃんとシエルちゃんは小さい箱の方お願いね」


こくりと頷いて二人も瑠衣を手伝い出す。俺も万能の書と商品のリストを確認しつつ、違法品だけを仕分けていく。ただの高級品に関しては興味もないし、捌くルートもないから放置。違法品は押収してスティクに渡すとして…ってかやってること強盗じみてる気がする。ま、喧嘩売ってきたの向こうだから一切容赦する気はないんだが。

そんなこんなで作業を進めていると…。


「敬―、ちょっと来て―」

「んあ?」


部屋の奥の方で作業していた瑠衣に呼ばれ、近くへと行く。


「どうした?」

「これ…」


そういって困った表情の瑠衣の視線の先には一つの檻があり、そこにはボロボロの服を着ている少女がいた。しかもその頭には犬耳と腰のあたりに尻尾が生えていた。


「…獣人の少女…か?」

「みたい。どうしよう…かなり衰弱しているみたいだし、このまま放置しておくと死んじゃうかも…」

「ん~~~…あ~~~…」


瑠衣が視線で見捨てちゃうの?と聞いてくる。いや、はっきりいってどうするのが正解かわからないんだよな…。獣人について調べてみると亜人種と呼ばれる種族の一つで、人からも魔族からも冷遇されているとのこと。仲間同士のつながりは強く、人や魔族にはかなり排他的な種族らしい。まあ、冷遇されてればそうもなるだろう。

この子を助ける利点があるかどうかで考えればあるだろう。旅をしていれば獣人…というより亜人種と呼ばれる種族と関わることもあるだろう。その時にこの子を助けたという実績が相手の警戒を解く一手として活躍する可能性もある。だから助けたいのはやまやまなのだが…問題点は彼女が奴隷として捕まっており、俺が彼女を連れ出す正統な理由がないということだ。

違法品であれば押収し、スティクに渡すという面目が立つ。(過程が問題?知らんな)だが、彼女は奴隷であり、合法の内にある以上、ここで連れていくとこっちが犯罪者になりえる。

ノエルとシエルはもともとこっちが襲撃現場から回収したという言い訳が立つのだが彼女に関してはそれができない。故に悩むのだが…。


「ま、なるようになるか!」


面倒くさくなったので思考放棄することにした。もともとノエル達の件で犯罪者になる可能性も考慮してたんだ。プランをそっちに移せばいいだけだろう。よし、決めた。


「助けるか」


ミスリルソードを抜いて檻の一部を斬って入り口を作る。そして中に入って繋がっている枷も斬り落として少女を確保した。


「いいの?何か厄介なことに…」

「なるようになるだろ!」

「敬、それただの思考放棄…」

「まあ、考えてもわからんから直感に任せるのもありだろ。とりあえず続きをするか。ノエルとシエルはこの子よろしく」


アイテムバックから冒険者セットの一つであった外套を取り出し、床に敷いてその上に少女を寝かせた。

ノエル達に見てもらっている間に違法品を一通り回収し終える。小さい物二つほど瑠衣のアイテムバックに入れてもらい、残りは俺のバックに放り込んでおく。こうすることで最初は瑠衣に二つだけ渡してもらい、残りは別の場所で渡すってことができる。


「これで全部?」

「だな。んじゃ、とりあえず…」


少女を背負い、その上から外套を背負う。


「なんで隠すの?」

「まあ、奴隷解放だし、上の階にほかの奴隷もいるからな。この子だけ連れて行くのは揉めるだけだろ」

「なるほど」


少女を背負って商会から外へと出る。途中で玄関の方を様子見たが、いまだにほとんどの奴が気を失ったままだった。1時間程度じゃやっぱ目が覚めないか。

とりあえずさっさとスティクのところに行くか。

商会をあとにし、和也やスティクがいるはずの門へと向かった。



門へと到着すると、そろそろ夕方だというのにざわざわとにぎやかな雰囲気だった。だがその雰囲気はどことなく不穏ではあるのだが、もめ事が起こっている、という感じではなさそうだ。


「なにかあったのかな?」

「ん~…そういや、マルシャン商会から何人か行ってなかったっけ?」

「あ、そういえば…じゃあ和也君が?」

「多分、強引に奪おうとして和也に蹴散らされてスティクに連行されたとか」

「そっかー」


ざわついているが、それでも人の流れが止まっているというわけじゃないので、ささっと通り抜けて和也達がいる場所へと向かった。


「お、おーい敬―!瑠衣―!」

「あら、向こうも終わったようね~」


馬車の近くで和也と玲がこちらに気づいた。


「おいっす。玲も戻ってたんだな」

「ええ~、買い物は一通り済ましたし、宿屋も取ったからね~」

「和也君、こっちは大丈夫だった?」

「ああ、荷を奪おうとした奴らが来たが、全員返り討ちにしておいたぞ」

「門の前で暴れたのか?」

「あいつらが強引に奪っていこうとしたからな。騒ぎにはなったがスティクが状況を知っていたからな。こっちはおとがめなしでまとめて向こうが捕まったぜ」

「いろいろと世話になっちまったな…後で礼を言っておかんと」

「おや、敬さん」


声をかけられてふと視線を向けると門の中からスティクがきた。


「どもっす。いろいろと騒がせてすいません」

「いえいえ、事情は伺っていましたから。それで交渉の方はいかがでしたか?」

「あ~…まあ、いろいろと?」

「難航したのか?」

「いや、難航というか…」

「敬、交渉を有利にしようと挑発しながら話してたら向こうが思いのほかこらえ性がなかったみたいでねー。実力行使してきたから返り討ちにしたんだー」

「で、ついでだから…ほい」


スティクにバックから取り出した商会で回収したリストを見せる。


「これは…?」

「マルシャン商会で取り扱っているリストですよ。違法品も書かれています」


俺の言葉にスティクが驚き、急いでリストへと目を通した。その表情がどんどん驚愕へと染まっていく。


「これがあればマルシャン商会を追い詰めることも…!」

「ついでに見せたいものもありますので…ちょっと一室借りてもいいですか?」

「あ、わかりました」

「敬、荷に関してはどうする?」

「あー…どうしよう。金貨はこっちで回収するとして…それ以外は邪魔なんだよな…」


売り払うルートがあるわけでもなく、装備の質としても今俺達が装備している物の方が上だ。となるとわざわざ確保しておく必要性がない。

悩んでいるとスティクが手を挙げた。


「ならこちらで引き取りましょうか?もちろんそれ相応の金額をお支払いしますが」

「ん~…むしろ引き取ってくれた方がありがたいですね。いろいろと面倒書けたみたいですし、寄贈でいいですよ」

「確かにそうして頂けるとありがたいですが、いいのですか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます」


笑顔で頷くとスティクも穏やかな笑みで礼を述べた。

こっちとしては使う当てのない荷物な上に、マルシャン商会から奪ったような感じだから体のいい厄介払いなんだが…まあ、わざわざ言うことでもないだろう。


「んで?さっき渡したいものがあるって言ってただろ?」

「っとそうだったそうだった。さすがにここでは出せないので」

「あ、わかりました。ではこちらへ」


スティクに連れられ、門の中へと入っていく。そして一室、おそらく検閲などで使うのだろう部屋へと瑠衣達と共に入っていく。


「そういえば敬、聞きそびれたんだがなんで外套なんて羽織ってるんだ?」

「それにずいぶん背中側が膨らんでいるわよね~、何を隠しているの?」

「ああ、これね。面倒な物見つけちゃってね」


そういって外套を外すと和也達が驚いた表情を浮かべた。


「その子は…獣人の子供ですか?」

「ええ、商会の隠し部屋に軟禁されていたんですよ。おそらく奴隷として」

「それを連れてきて大丈夫なの~?」

「ん、まずいよ。ノエルとシエルは問題ないけど、この子は奴隷解放に近いからね」

「それなのに助けたの~?」

「まあな」

「…それを私の前で言われると困るのですが?」

「それはこちらで帳消しってことで。瑠衣」

「はーい」


瑠衣がバックから違法品を二つ取り出して机へと置いた。

皇国の兵士という立場上、俺の奴隷解放を見逃すのも問題ありなのだが、そこらへんはこの押収した違法品で帳消しにしてもらいたい。


「マルシャン商会から押収した違法品だ。リストにも載っているよ。あといくつかあるからそこらへんは馬車の方にあとで乗せておくよ」

「………はぁ…分かりました。とりあえず今は目を瞑ります。ただ、発覚したときは庇いませんよ?」

「それでいいですよ。そちらにも立場があるでしょうから」


俺の言葉にスティクは重いため息を吐いていた。


「それでリストはこれで全部ですか?」

「いえ、取引リストもありますが…それに関してはこちらでまだ預からせてもらいます」

「なぜ?」

「商会がもしノエル達を諦めていなければ、多分次は貴族が動くと思います。そしてその貴族は商会のお得意様のはず。しかも優先させるほどってことは違法品の取引もしている可能性があるんです」

「つまりその貴族に対する防衛にも使える…と?」

「防衛といいますか、取引には使えるかな、と」


俺の言葉にスティクが腕を組んで考え込む。


「そちらとしては商会さえ押さえることができればいいでしょうし、貴族の汚職となるとさすがに一兵士には荷が重いと思います。だから商会の検挙の証拠だけにとどめておくのが吉だと思いますよ」

「そうかもしれませんが…」

「軽く取引リストを調べた限り、違法品を取引していた貴族はそれなりにありますし、そこそこの権力者も居ました。そこまで検挙しようとすると無用な混乱を招きかねませんので」

「………分かりました。とりあえずそのリストに関しては敬さんにお任せします」

「ありがとうございます」


ニッコリと笑みを浮かべる俺に反し、スティクは大きなため息を吐いた。



マルシャン商会


敬達が立ち去った数時間後。この商会に足を踏み入れる人物がいた。

どこかの執事なのか、ピシッとしたスーツの様な服を着た男性は内部の惨状に驚き、気絶していた商人を叩き起こし、被害の状況を聞いた。

状況を聞いた執事はその緊急性を知った瞬間に商人と共に主である貴族の元へと急いだ。

そしてその貴族へと商人は事情をすべて話した。

豪華な部屋の中には商人とその正面に40代の貴族の男性が座っており、その後方には先ほどの執事ともう一人10代の男性がいた。その青年は貴族の男性と似ており、おそらく親子なのだろう。


「………それで、そのよくわからぬ奴に負け、商品リストに取引リスト、そして違法品をすべて盗られた…ということだな」

「は…はい…」


睨んでくる貴族に対して商人は顔を真っ青にしていた。


「なぜ相手の言う取引を受けなかった?それをすればここまで大きな被害にはならなかったであろう?」

「そ…それは…」

「なぜだ?」


もごもごといい淀む商人に貴族はさらに鋭い目つきで睨む。


「実は、相手が提示した条件ですが…以前お伝えしたアルビノの姉妹を報酬でよこせと言われまして…」

「なに?」

「相手はその姉妹以外では二人だけでしたので、いっそのこと…」

「そう考え、手ひどく返されたというわけか。商人として人を見る目ぐらいはあると思ったのだがな」


貴族の言葉に商人はぐうの音も出なかった。


「状況は分かった。あとはこちらでやる」

「はい…。あのそれで私は…」


商人も今の自分の立場が分かっているのだろう。処遇がどうなるか、聞こうとしたのだがその言葉が出るより先に貴族に睨まれ、言葉に詰まった。


「…いえ、何でもありません」

「そうか、では下がるがよい」


商人は一礼し、部屋を出ていった。


「…潮時だな」


商人が立ち去った後にボソリとつぶやいた。


「それで父上、いかがなさいましょうか」

「品物リストに関してはこちらには関係ない。だが取引リストはまずい。何としてもそれだけは取り返さねばならないだろう」

「ではまず相手の事を調べてきます」

「ああ」


執事が一礼してその場から出ていった。


「では父上、私も少し交渉の準備をしてきます」

「ああ。くれぐれも欲張らないように。あくまで目的は取引リストだ。アルビドの姉妹に関しては諦めろ」

「…分かりました」


青年も一礼してから部屋を出ていった。


「…まったく面倒なことだ…」


一人残った貴族はため息と共にそう呟いた。



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