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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
勇者教育編

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第77話


虚空から話を聞き、村にて資料を読んでいたら夕方となっていた。


「これからどうするの?」

「とりあえず村長に報告しておく。で、ある程度ジェノのほうも戦えるようになっているから、俺達と一緒にダンジョン踏破してもらう。まあ、これも一つの鍛錬だな」


基本的な身体能力、そして聖剣による戦いの技術、殺気への耐性、魔法の技術、まだ未熟なところはあれどそれなりに様にはなってきている。

ダンジョン踏破に関しても必要ではあるが今すぐではない。資料曰く、スタンピード発生までまだ数か月は期間がありそうだ。早くても1か月ほど余裕があるようなので、魔法の件を詰めるのにおよそ一週間ほど、それからダンジョン踏破へと向かったほうがいいだろう。


「この村に来てそれなりに時間が経ったし、そろそろいろいろと区切りをつけるのにいい頃合いだろう」


そろそろこの村に来て二か月ほどになる。

工事なども踏まえると超特急な予定ではあったが、それもだいぶ進行している。

具体的な進行具合などに関しては和也やセレスに聞かなければわからないが、それが終われば旅立ってもいいだろう。


「そういえば病気の治療のほうはどうなんだ?」

「もうほとんど大丈夫みたいだよ。やっぱり栄養失調がほとんどだったみたいで、しっかり栄養を取って体力もついてきているから、これからもこの状態が維持できれば問題ないだろうって」

「そか。畑のほうも問題ないんだっけ」

「うん、作物のほうもだいぶ根付いてきたし、もともとここの人たちは農業を生業にしてるからね。だからある程度育て方とか教えればすぐに覚えたよ」

「なるほど。狩りのほうは…さすがに今の状態じゃ厳しいか」

「だねぇ。でも、教えてる人から問題なさそうな話聞いてるよ」

「なら大丈夫か」


農業と狩猟で食料がある程度安定すればまた同じような感じになることもないだろう。


「あとはジェノ君がどうするかだねー」

「ま、それはあいつが決めることだろ。勇者として生きるにしてもその先はきついものだ。他者が決めていいものじゃない」


勇者として覚醒させてしまったのは俺達だ。だからどんな道を選ぼうともある程度のフォローはするつもりだ。

だが、何となくだが…。


「あいつは勇者としての道を歩む気がするんだよな…」


この村はお世辞にも広いとは言えない。

限られた行動範囲に少数の人間関係。ここにいては見えないものが世界にはあふれている。

そしてそれに対する好奇心をジェノは抱いている。だから勇者となり、世界を見に行きたがっている節がところどころに見受けられている。

だが、その彼が素直に旅立てないのは妹がいるから。唯一の身内である彼女をどうするかで彼は悩んでいるんだろう。


「ま、それは俺たちが口出すことじゃない。家族の事は家族で、村の事は村で決めるべきさ」


とりあえず村長と話すときに軽く話題に出しておくとするか…。



和也達が戻ってくるまでいささか時間があるので、とりあえず俺は一度村長の家へと向かった。

村長の家は家の工事をするにあたって真っ先に建て直されており、基礎部分が石造りではあるが全体的に木造の平屋となっている。

最初は二階建てにする予定ではあったが、住んでいるのが老人の二人ということで二階があってもなかなか行くことはないということで平屋になった形だ。


「夜分遅くにすいません」

「いえいえ、いかがいたしましたでしょうか?」

「実はこの村の近くにダンジョンが発生しているようなんです」

「ダンジョンですか?」

「ええ、わかりやすく言うと魔物の巣ですね。ちょっと知り合いにダンジョン関連に知識がある人物がいまして、少し前に狩人から獲物が少ないって話を伺いまして、頼んで調査してもらったらダンジョンが発生していると報告が来たんです」


魔物の巣と聞いてその危なさに気づいたんだろう、夫妻の顔色が一気に悪くなった。


「ただ今すぐに何かしらの影響があるというわけではありません。そしてこの際なのでジェノに修行の一環としてダンジョン攻略をしてもらおうかなと」

「そ、それはいくら何でも危険なのでは…?」

「ご心配なく、さすがに一人でやらせるわけではないので。自分たちもちゃんとついていきます。それとそれが終わってからになりますが、おそらくそろそろこちらでやるべきことが一通り終わると思います。なので、その後私たちはまた旅の続きをしようと思いまして」

「そうですか…おかげさまでこの村もだいぶ暮らしやすくなりました…このご恩は決して忘れません」

「いえいえ、こちらも必要なことでしたので。それで最後にジェノの事なのですが…」

「…やはり彼は勇者として旅立つのでしょうか?」

「それはわかりません。こちらは彼を勇者としても活動できるようにきちんと鍛えました。しかしそれは彼を勇者としたいからではなく、自らが持つ力に振り回されないように、自分で道を選べるようにするためです。彼がこの村に残るというのであれば、それを否定する気はありません」

「…そうですか…」


村長はどこか難しい表情で悩んでいる。


「勇者として旅立つかどうか、それを決めるのはジェノです。しかし彼には妹であるソアラがいます。現時点で唯一の身内である彼女を放置して旅立つということもできないのが現状でしょう。ですので、それらの事も踏まえて旅立つか、それとも村に残るのか、彼らとしっかり話し合ってほしいんです」

「私たちがですか?」

「はい。俺たちはあくまで旅人、この村の整備やジェノの鍛錬などで手を貸すことはしましたが、それ以降、旅立った後に関してはそこまでかかわることはできません。これはジェノとソアラの未来、そしてこの村の未来についてのお話になります。この村の人たちで話すべきなのです」


勇者として動けばそこには様々な貴族や権力者の思惑が絡みついてくる。それがどう影響を与えるか、それに関しては俺にもわからないし、読み切れるものではないが、それらを踏まえての旅だ。良くも悪くも、いろんなことを経験すればそれに伴う成長も受けるだろう。


「………わかりました。みんなで今後について話し合ってみます」

「ええ、よろしくお願いします。自分たちが旅立つときに、応援として来てくれた人たちも帰ることになります。おそらく今後は普通に生活できるとは思いますが、それらも踏まえてご相談を」

「はい、何から何までありがとうございます」


とりあえず一通り言うことは言ったので、その後は軽い雑談後に村長の自宅を後にした。

そして俺たちが家に戻ると和也達もすでに戻ってきていたのでダンジョンの事、そして今後の事について一通り話をしておく。


「ダンジョンなぁ。まさかあそこで魔王と会ってそんなことになるとはな…」

「さすがに想定外ね~」

「ま、こればっかりはな。とりあえずジェノの鍛錬の最後の仕上げとしてダンジョンに向かう。メンバーは俺、瑠衣、和也、玲の4人だ」

「ん…」

「ああ、クーもな。真白とセレスは万が一に備えて村の防衛を頼む。シエルとノエルは二人の補佐を」

「かしこまりました」

「あ、ケイ。ダンジョンってことは魔石手に入るよね?」

「ああ、ダンジョンを踏破するのに魔石を取り除かないといけないからな」

「だったら水の魔石あったら持ってきてくれない?この村の魔法陣のコアにしたいんだ」

「あー…どうすっか」


個人的にはその魔石はジェノへの報酬に渡すつもりではあったが…。


「無理なら私と玲で作る予定だけど、ダメかな?」

「複数手に入ったら問題ないが、一つだとな…できればジェノに渡しておきたい。せっかくここまで頑張ったんだから何か形として残るもんがいいんだが…」

「それなら何かアクセサリー的な装備を渡したら?魔道具的なのって作れなかったっけ?」

「あー、そういうのもありか。虚空に聞いてみるか…この世界にあって問題ないレベルの魔道具なら渡してもいいだろう。ついでにプリエ達勇者パーティーの居場所とか聞いておきたいし」


さすがにずっとジェノ一人で旅をさせるわけにもいかない。あいつが旅立つと決めたのなら、どこかで合流できるタイミングを作っておかないといけない。明日ジェノとの鍛錬が終わったらまた虚空のところに行くか…そん時にジェノにダンジョン行くこと話しておかないと…。


「なんか急に忙しくなりそうだね」

「終わり際だからな。今までやってたことを一通り区切らんといけないからそれなりにやることが増える。和也と玲もほかのメンバーにそろそろ区切りつけるように話しておいてくれ」

「あいよ。まあ、こっちもそろそろ終わりそうだがな」

「早いな」

「みんな腕がいいからな。手際が良くて一日で家が建つぞ」

「まじか」

「まあ、ここの家は大半が平屋だってのもあるがな」


二階建てとかだともっとしっかりした基礎とかが必要になるようだが、どうもここの村の人はそういうのが合わないようで、広い家と言っても縦に広くなるより横に広いほうが好むらしく、二階建てより平屋で部屋を増設という感じだったらしい。だから基礎などがある程度のレベルで済んでその分時間短縮できたとか。まあ、かといって手を抜いたというわけではなく、家を壊すにもいささか苦戦するレベルで頑丈な物ができたとか。


「魔法陣のほうもほとんど完成して、あとは水で満たして流れを作り、コアを設置して発動するだけだねー。一応井戸と村長の家から内部に入って点検できるようにはしてあるけど、まあ、それもそこから侵入して壊されても困るからかなり頑丈にしてあるけどねー」

「相変わらずいい仕事をしてくれますな」


セレスが担当していた魔法陣のほうもほぼほぼ完成へと至っている。

地下水路が上下二つに分けており、それぞれの家につながっている。雨などが地面へとしみこみそのまま下水へと流れて中心にある浄水層へと行き、生活水へとなる。

生活排水に関してもきちんとそれぞれから下水のほうへと流れて同じように浄水層から上水道へと行く。一応井戸があるのはいささか過剰になりつつあるその技術が露呈しないためへの偽装工作だが、宴会などをする際にその井戸から水を回収して料理などに使ったりもする。これによってこの村の水回りに関しては格段に快適になったはずだ。

ちなみに大雨などで増水した際は複数の貯水タンクがひそかに作られており、よっぽどの事でもない限りあふれることはないとのこと。うん、気候の事完全に頭から抜けてたね。


「食生活のほうもだいぶ安定してきているわね~。まあ畑に関しては時間がかかるから、あとは収穫量次第かしらね~」


この村で安定生産できそうな野菜を一通り植え、きちんと根付いたようだが、それがどれだけの収穫量が見込めるかまではわからない。

畑などは気候次第で収穫量にも大きな差ができてしまうので、最低限飢えることがなければいいのだが。


「ふふふ、それに関しては心配ご無用!」


セレスが何やら不敵な笑みを浮かべている。


「畑の近くに小さな井戸作ってもらったの覚えてる?」

「そうなん?」

「ああ、なんかセレスに頼まれてな。作っておいたぞ、畑の水まき用だって」


俺の問いかけに和也が頷く。


「そこにちょぉっと細工をしてね。植物の成長促進に貢献できるようにしてあるんだぁ」

「まじかよ。それって人が飲んだらどうするんだ?」

「問題ないよ。あくまで植物だけに影響与えるだけだから、よっぽど大量に飲まない限り人体に影響はないから。これで最低限の収穫量は見込めるのだ!」


えへん!といった感じで胸を張るセレス。相変わらず言わなくてもいい仕事してくれるのがありがたい。


「となるとあとはジェノ次第だな。それ以外で俺たちがこの村でできることはないか」

「そうね~私たちも私たちでやることがあるし、そろそろ次の目的地も考えておいたほうがいいかもしれないわね~」

「だねー、次はどこ行くの?」

「立地的に近いのは…農業国家かな?」

「じゃあ次はそこか」

「だな。何事もないといいがなぁ…」

「あと他の神徒の遺跡にもいかなきゃ」

「あー、そうだった。やることまだまだ山積みだなぁ…」

「ま、一つ一つこなしていけばいいだろ。まとめてやってうまくいくわけなんてないんだしな」

「だな。んじゃとりあえずまずは目の前の事ってことで、ジェノの魔法関連が落ち着いたらダンジョン行くからそのつもりでよろしく」


俺の言葉に全員が頷いた。


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