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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
グランフォール皇国
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第6話

瑠衣達に馬車の番を任せ、俺はスティクと一緒に襲撃現場を確認したのだが、大した手がかりは見つからず、再度瑠衣達と合流して皇国へと向かう。

俺は馬車の御者台で手綱を握り、瑠衣は俺の右隣でシエルを膝に乗せた状態で座っており、ノエルは俺の左隣に座っている。和也と玲は馬車の中で盗賊と荷物の番をしており、スティクは馬車の隣で自分の馬に乗って並走している。


「そういえば皇国ってどんなところなの?」

「どんなところ…そうですね…。やはりここら辺の首都ですから、活気があってにぎやかですよ。貿易も盛んなので、中央にある噴水広場では様々な国の出店が出ていますし」

「魔族との戦いは?」

「最前線であるブクリエに討伐隊を送ることはあるけど、それくらいですね。皇国と隣のサントテフォワは魔族領から遠いから。ここまで来ることはめったにないんですよ」

「へぇ…」

「…ちなみに、敬。お前だったら今のこの状況でここを攻めるとしたらどうする?」


会話が聞こえてきていたのか、突然の和也からの問いかけにふむと考え込む。

スティクが言うように皇国は魔族領から遠い。途中を占拠できていない以上拠点を作ることはできないから、物量作戦はまず無理だろう。となると、一番堅実な策だとすると…。


「皇国の中に配下を潜り込ませるかな」

「どうやって?」

「商人に扮してが一番楽かな。中枢にも入り込めるだろうし」

「中枢って…そこまで皇国の警備は緩くありませんよ?」

「別に直接中に入らなくてもいいんだよ。そうだな、順を追って手順を話すと…。とりあえず旅の商隊として、皇国へと入る。そして普通の商品に交じって希少な商品…魔族領にしかない商品とかを販売する」

「魔族領にしかない商品ですか?そんなの販売したらすぐに魔族だと思われるのでは?」

「前線で拾ったとか、魔族領に忍び込んでこっそり盗んできたとかいえば通るだろ。それなりに金額を上乗せしても『危険手当』ってことで通るしな」

「でも、なんでそんなものを?商売するだけならそんな事する必要ないよね?」

「貴族を取り込むためだ。貴族ってのは希少品に目がないからな。魔族領由来の希少品があると知れば欲しがるだろ。そしてそれを購入した貴族が別の貴族に自慢すればそいつも欲しがる。そうやって貴族とのコネを作っていけば時期に裏の方が動くだろ」

「裏?」

「闇社会って言った方がわかりやすいか?違法品とかを取り扱うあまり表に立たない奴らだ。貴族はそういう奴らとの繋がりを持っているもんだからな。そしてある程度裏社会に溶け込んだらヤバいものを流す」

「例えば?」

「魔物を召喚する壺とか、呪いを振りまく杖とか?さすがにどんなものがあるかわからないから予測はできんが、まあ時期が来たら内部から食い破るようなアイテムを仕込んでおくだろうさ」

「…待ってください。もしかしてマルシャン商会は魔族の…?」

「いや、その可能性は低いだろう。確かに違法品を流しているんだろうけど、魔族の勢力がここまで来れない状態でやっても孤立して終わりだからな。だから多分違うぞ」

「むぅ…」

「それにあくまで俺がやるとしたらの話だから、この通りに魔族が動いてる確証はないよ」

「そうですか…。もし魔族とマルシャン商会が繋がっているのなら早いうちに検挙しないとと思ったのですが…」

「ん~、あまりはっきりとわからないから何ともですが、マルシャン商会は多分その内尻尾掴めると思いますよ」

「なぜですか?」

「ああいう商会は商会の頭がキレ者だとそもそも感知すらできないレベルで隠れるんですよ。それがばれてるってことは、おそらく貴族のコネで隠れてるだけでしょうから、貴族から愛想尽かされたらすぐに見放されるだろうから」

「なるほど、それまでは証拠集めに動いていた方がいいですかね」

「あまり悟られないようにですがね。下手に今目を付けられると、尻尾を掴む前に潰されかねないので」

「そうですね、また何かあったらご協力の方をお願いします」

「まあ、滞在中ならいいですよ。いつまでいるかはわかりませんが」


そんな会話をしていると正面に皇国の門が見えてきた。


「っと、見えてきましたね。それじゃあ僕は先に行って話を通しておきます」

「お願いします」


スティクは一度大きく手綱を振って乗っている馬を走らせた。


「…ねえ、あんなこと言ってよかったの?」


スティクがいなくなると瑠衣が心配そうな表情で問いかけてきた。


「あんなことって?」

「協力の打診に頷いただろ?それの事だよ」

「ああ、問題ないよ。というか、別に必要以上に騒ぎを起こす必要なんてないんだから、協力できる分には協力しておけばいいのさ」

「そうなの?」

「そ。俺達も行くぞ」


手綱を振るって俺も馬を歩かせていく。


「あ、そうだ瑠衣、この板になんか適当に文字書いておいてくれ」


そういって一枚の木の板を渡した。特に何の変哲もない普通の板だ。


「適当にって何書けばいいの?」

「なんでもいいぞ。適当にカタカナで「カタカナ」って書いてもいいし」

「何に使うんだ?」

「割符だよ、割符」

「割符?」

「昔使われてた通行証みたいなもんだよ。文字とか絵を書いた板を二つに割って、それを関所と行政でそれぞれ持って、許可を得た人に渡すってやつ。それがきちんと合えば許可を得て通っているってことだし、持ってなければ無許可で通ろうとする奴だってことだからな」

「へぇ~。でもなんでそれを今?」


言った通りカタカナと書かれた板を受け取り、真ん中から縦に割ってから和也へと片方を渡す。


「ほい、とりあえずこっちの交渉がうまくいけばそれのもう片方を商会の奴に渡しておくから、それを持った奴が来たら商品を渡してくれ」

「持ってない奴が来たら?」

「丁重にお帰り願っとけ」

「あいよ」


渡した割符をポケットへと入れ、盗賊の番をしている玲の元へと戻っていった。

そして門が近づいてくると、先に戻っていたスティクが門番の兵士を何人か連れ、こちらへと近づいてきた。


「敬さん、お待たせしました。盗賊たちを引き取りますね」

「お願いします」


何人かの兵士が檻へと向かい、中にいる盗賊たちの手首を縄で縛り、連れていく。


「あれで全員ですか?」


兵士の一人が問いかけてきた。


「はい。捕らえたのはあれで全部です」

「なるほど…。数が合わないのでまだ逃げた奴らがいそうですね」

「あくまで襲ってきたやつらを捕らえただけなので」

「なるほど、了解しました。リーダーは捕まえていますし、後程アジトを突き止めて残党捕縛をしますね」

「ええ、あとのことはお任せします」

「はい。ではこちらが完了書です。ただ、ギルドの方で10日ほど前に一度受領されているようなので、もしかしたら何やらもめ事になってしまう可能性も…」

「ああ、そこらへんは大丈夫です。こっちで対処しますので」

「すいません」

「いえ、お気になさらず。あ、ただ一つだけ。ちょっとその荷馬車ここに置かせてもらいたいんですがいいですか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます。もしかしたらちょくちょく騒ぎが起きるかもしれませんがご了承を」

「何かあるのですか?」

「いえ、ちょっと襲われて落ちていた荷物を拾ったのですが、それがとある商会の物でして。交渉が終る前に奪いに来たら追い返せって荷物番に言っているので」

「ああ、なるほど。それなら了解しました」

「お手数おかけします、それでは」

「敬さん、また」

「はい、スティクさん」


スティクと兵士は挨拶を済ませると盗賊を連行している兵士たちに合流した。


「さて…んじゃ予定通りいくとするか。和也は悪いがここで荷物番を頼む」

「あいよ」

「玲は買い物を頼むな」

「は~い。宿も探しておくのよね~?」

「ああ。一通り終わったら和也と合流してくれ」

「わかったわ~」

「瑠衣とノエル、シエルは俺とまずは冒険者ギルドな。そのあとに商会に行って交渉するから」

「はーい」


瑠衣の返事と共にノエルとシエルは少し緊張した面持ちで頷いた。


「んじゃ行きますか」

「おう、気を付けていけよー」


和也に見送られ、俺達は皇国へと入っていった。


―――――――――――――――――――――――――――――


皇国に入ると大勢の人が行き交い、大通りをにぎやかしていた。


「わぁー、人がたくさんだね!」

「さすが皇国ということかしらね~」

「人込み苦手なんだがな…。ま、とりあえずはぐれないようにしないとな。適当なところで市場と冒険者ギルドを聞いて別行動するか」

「そうね~」


歩き出そうとした瞬間、両手をそれぞれ小さな手が掴んできた。


「ん?」


左右を見てみるとノエルとシエルが不安そうな表情で俺の手を握っていた。

やれやれとわずかな苦笑を浮かべつつも、二人の手を握ってやり、ゆっくりと歩き出す。

その様子を瑠衣と玲は微笑ましそうに眺めていた。


「さて、んじゃどこで聞くか」

「ここら辺にもカフェあるし、あそこで聞いてみたら?」

「だな」


手近なカフェへと入っていく。


「いらっしゃいませー、ただいまパンが焼きあがりましたのでサンドイッチなどがおすすめでーす」

「すいません、ちょっとお訪ねしたいのですが」

「はい、なんでしょうか。ちなみに当店のおすすめはサンドイッチですよ♪」

「………いえ、道を聞きたいのですが…」

「そうですか。では歩きながらでも食べられるサンドイッチはいかがですか?」


ニコニコと笑みを浮かべている店員からそこはかとない圧を感じる。


「…じゃあサンドイッチを6つ」

「ありがとうございまーす♪それでどちらに行きたいんですか?」

「冒険者ギルドと市場のように店が集まっている場所はありますか?」

「あ、それでしたらここを道なりに進みますと噴水広場につきます。そこがここの中心で、左側が市場や武器屋などがある商業地区、右側が冒険者ギルドや宿屋があります」

「なるほど。ついでですがマルシャン商会は商業地区に?」

「マルシャン商会ですか?確かにありますけど…あまりいい噂は聞きませんよ?」

「ええ、ですが行かなきゃいけない理由がありますので」

「そうですか。それでは少々お待ちください。サンドイッチをご用意しますので」

「あ、お願いします。それと入れ物を二人分と四人分で分けてもらえますか?」

「畏まりました」


一礼してから店員は店の奥へと向かっていった。


「想定外の出費ね~」

「ま、たまにはいいだろ。旅先の飯も乙なもんだし」

「だねー」

「玲、悪いけど二人分の方和也に持って行ってもらえるか?」

「いいわよ~」

「サンドイッチってどんなのだろうね」

「さてな~。美味けりゃ俺としては満足だ」

「もう…」


俺の言葉に瑠衣はどことなく不満げだ。


「あ、そうだ~、明日ノエルちゃんとシエルちゃん借りていいかしら?」

「なにするんだ?」

「二人の服を買いたいのよ~。さすがにサイズの合わない私達の服をずっと着せてあげるわけにもいかないからね~」

「ああ、なるほど」


ノエルとシエルは最初はぼろ布をそのまま肌着として来ていたのだが、さすがにそれは可哀そうだということで瑠衣と玲の着替えを着せていたが、サイズが合わな過ぎて袖や裾を折って何とか着せている。

不格好だから衣服も買っておこうと思っていたのだが、さすがに一緒にいないとサイズがわからんか。


「それなら別にいいぞ。というか、俺も一緒に行くか」

「あらいいの~?」

「ま、何があるかわからんから、護衛も兼ねてな。お前らだけだと妙な男もすり寄ってきそうだし」

「あはは…」


過去に何度か経験があるからか。瑠衣は引きつった笑みを浮かべていた。

瑠衣自身、俺以外の男性にかなりの恐怖心を持っているから、一緒にいた方がいいだろうしな。


「お待たせいたしましたー。こちらが二人前、こちらが四人前のサンドイッチですー」


そういってそれぞれ二つのサイズの藁で作られたバスケットを渡してきた。


「ありがとうございます。おいくらですか?」

「銀貨5枚ですね」

「ういうい」


代金を支払い、バスケットを受け取る。


「ありがとうございましたー」


店員に見送られ、店を後にする。


「サンドイッチ6人前で銀貨5枚って高いのかな?」

「さあ?テイクアウト用のバスケットの値段も入ってるだろうし、普通なんじゃね?」

「なのかなー?」

「ま、材料やらなにやらで金額の相場何て向こうが決めるんだ。食って満足したかどうかで考えりゃいいさ」

「それもそっか」


実際、よくある100g数千円っていう高級ブランド牛だって、味はうまいとは思うけど、食い足りなかったりすると物足りなさが勝って微妙な感じになるんだよな。質より量ともいうが、結局、消費したときに満足したかどうかで高いか安いか決めればいいんだ。


「それじゃあ、サンドイッチを和也君に渡してから買い物してくるわね~」

「悪いがよろしく頼む。宿屋の方はどうする?」

「冒険者ギルドによってから商会で交渉でしょ~?私が買い物のついででやっておくわよ~」

「そうか、悪いがよろしく頼むな」

「はいは~い。じゃあまたあとでね~」


玲と別れ、冒険者ギルドへと向かっていく。


「広場に入って右側だっけ?」

「うん、建物の特徴は言ってなかったから多分行けばわかるんじゃないかな」

「ま、そういったギルドはたいてい目立つくらいでかいからな」


そんな話をしている間に巨大な噴水がある広場へと到着した。


「そういえばこれ、いつ食べる?」


瑠衣が持ってるバスケットを軽く振る。


「ん~、ギルドの方が終ったらでいいだろう。そこまで時間かからないだろうし、商会に行く前に軽い腹ごしらえってことで」

「はーい」


瑠衣もノエルもシエルもどことなく楽しみにしているようだった。

噴水広場にはベンチもあるし、ギルドでの用件が終ったらここで食うのもありだな。

噴水のおかげで少し冷ややかな空気を感じつつ、冒険者ギルドがある右側の地区へと向かっていく。


「…わっかりやすいな~」


噴水広場から伸びている大通りの正面。ひと際大きな5階建ての建物が奥に鎮座していた。


「あれが冒険者ギルド?」

「むしろあれで冒険者ギルドじゃなかったら詐欺だろ」

「確かに」

「んじゃちゃちゃっとやること済ませちゃいますかー」

「おーう」


お気楽な様子で瑠衣が片手を上げ、ノエルとシエルも真似して上げていた。

呆れるように苦笑を浮かべつつも、手を引いて冒険者ギルドの中へと入っていく。

室内は受付が3つと依頼を張り出すための掲示板。受付の隣に二階に上がる階段があり、広いホールには何組かの机と椅子が置かれ、そこでは冒険者らしき人物達が集まっていた。

冒険者たちは入ってきた俺たちを一瞥し、じろじろとまるで見定めるように見てくる。


「敬…」

「大丈夫だっての」


少し怯えている瑠衣達を連れ、さっさと受付へと向かう。


「いらっしゃいませ、ご用件は何でしょうか?」

「とりあえずこちらを」


そういって門の兵士から受け取った依頼完了書を渡す。


「これは…盗賊団の捕獲の依頼完了書ですか。どうしてこれを?」

「ここに来る途中で襲われまして。それで捕らえて兵士に引き渡したのです」

「なるほど、確かに受け付けました。報酬をお持ちしますので少々お待ちを」

「あ、その前にこちらも」


今度はウェアウルフに関する報告書を差し出した。


「こちらは?」

「そちらもここに来る途中20体近くのウェアウルフに襲われまして。それに関する調査報告書と、そこから推測できる脅威をまとめたものです。脅威に関してはあくまで推測ですが」

「20体のウェアウルフ…!?わ…分かりました。書類を査定し、必要であればギルド長へと報告します」

「お願いします」

「では、先ほどの報酬をお持ちしますので、少々お待ちを」

「わかりました」


受付の人は渡した書類を一通り手にし、奥へと入っていった。

それを見送ってから俺達はとりあえず手近なテーブル席に座った。


「これでウェアウルフの件、何とかなるのかな~」

「さてな。これ以上俺達が関わる義理はないだろ。ここでの問題はここの冒険者や兵士たちが片付ければいいんだから」

「そうなのかな~」


どことなく不満げな瑠衣だが、俺はそこまで手を貸す気はない。実際一から十まで手を出してたらそのままここに縛り付けられかねないし、ノエル達の事も考えれば引き際はきっちり見極めておかないとまずいことになりかねない。さすがにそれは勘弁だからな。優先順位はしっかりつけておかないと。

どことなくそわそわしているノエルとシエルと不満げな瑠衣を眺めつつ待っていると、勢いよく扉が開き、4人の男女が入ってきた。

勢いよく開いた扉にノエルとシエルが驚いていたが、さして俺は気にもとめず、ぼーっとしていた。

その4人に受付の一人が駆け足で近づき、何か話し始めた。


「んだとぉ!?依頼が完了されたってどういうことだ!!」


唐突にリーダー格の男と思わしき男のそんな声が聞こえてきた。

その瞬間に確信した。これは絡まれるな、と。

案の定受付から話を聞いていた4人はこっちを睨みつけていたかと思うと、ずかずかと肩を怒らせ歩いてきた。


「テメェか、俺達の依頼を奪った野郎ってのは」

「あ?いきなりなんだ」

「しらばっくれてんじゃねぇぞ。テメェが俺達が受けてた依頼の盗賊団を壊滅させたらしいじゃねぇか!」

「盗賊団?ああ、あいつらか。確かにそうだがなんか問題が?」


全力で喧嘩吹っ掛けてくる奴には売り返す。それが主なスタンスだからというのもあり、こちらも喧嘩腰になる。瑠衣は慣れているからか、呆れたようにため息を吐いていた。


「問題も何もあれは俺達が受けた依頼なんだよ!それをテメェが…」

「だったらとっとと解決しとけよ。こっちはあいつらに襲われたから返り討ちにした。ただそれだけだぞ?それともそっちが受けてるからって俺達に被害に遭えとでもいうのか?それこそふざけんな」

「テメェ…」

「そもそも聞いた話だとアンタら、10日も前に依頼受けたんだろ?それだけの時間があってなんで依頼完了できなかったんだよ」

「それは…」

「アンタらがちんたらしてたからこっちは被害受けかけたんだ。文句を言われる筋合いはねぇと思うんだが?」

「この野郎…!」


喧嘩売ってきたから挑発しまくったら顔真っ赤にして今にも殴り掛かってきそうだ。

まさに一触即発の空気(作り出したのは俺だが)の中、唐突に。


「そこまでです!」


凛とした声と共に一人の女性が割り込んできた。きっちりとした服装にきつめの目つき。肩の少し下まで伸びている髪をした女性は目を細め、俺と相手の男を睨みつけている。

その女性の後ろには先ほど俺が書類を渡した受付の人がいた。


「冒険者ギルドの中でもめ事を起こさないでもらえますか?」

「文句なら俺じゃなくて喧嘩吹っ掛けてきたそっちに言ってくれ」

「んだとぉ?」

「だとしてもあからさまに挑発した以上あなたも同罪でしょう」

「売られた喧嘩を買っただけだ。で、それを注意するためだけに来たのか?」


俺の言葉に女性はため息を吐き、袋を俺へと差し出してきた。


「こちらが達成報酬です。それとあの報告書は事実ですか?」

「俺の推測が入ってるからすべて事実とは言えないが、大まかにはな。少なくとも調査する必要はあると思うぞ」

「それは依頼ということですか?」

「いんや。あくまで報告しただけ。俺達は旅人だ。長くここにいるわけじゃないからどうするかはそっち次第だよ」

「そうですか。では、一つの報告として受け取りましょう」

「おい、ちょっと待てよ。その報酬は…」

「依頼を受けたのはあなたがたですが、完了したのは彼らです。だから受け取る権利は彼らにあります。それに文句を言う権利はあなた方にはありません」


ピシャリと女性が言い放つと、冒険者たちは唸るだけで反論できずにいた。

そんな冒険者たちからすぐに俺達へと向き直り、話を仕切りなおす。


「それであなた方宿の方はどこの宿を?」

「まだとってないから決めてないがなんでだ?」

「こちらの報告書で確認したいことができれば招集したいのです」

「ふむ。ま、こっちもいろいろと予定があるからそれが終ったらまた寄ることにするよ。その時には宿も決まってるだろうしな」

「お願いします」

「んじゃ、行くか」


そういって俺が立ち上がり歩き出すと、事の次第を見守っていた瑠衣達も後に続いた。


「…珍しく手を出さなかったね」

「相手に出させる前に横やりが入ったからな」


瑠衣の言葉に小声で返事をしつつ、ギルドを後にした。


「ギルド長、いいんですか?何か聞きたかったことがあったのに…」


受付の人が女性…ギルド長へと問いかける。


「あの場では騒ぎを治めるのが最優先ですから。あなた達も必要以上に騒ぎを起こさないように。分かりましたね?」

「…チッ。分かったよ」

「それと依頼の違約金ですが、今回は不問にします。依頼自体は終わっていますからね」

「そうかい。それじゃあな」


そういって冒険者たちもギルドを後にした。

その背中を見つめつつ、ギルド長は大きなため息を一つついたのであった。




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