表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
グランフォール皇国
6/145

第5話


森での探索を切り上げた翌日。俺は一人皇国の入り口付近へと来ていた。

門には旅の行商や冒険者といった風貌の人々が往来していた。

門番もいるが、さして検閲の様な事をしていないのか、ほとんど素通りの状態だ。

俺は手近で暇そうにしている門番の一人へと近づき声をかける。


「すいません、ちょっとお聞きしたいのですが」

「ん、なんだい?」


三十代前半ほどの男性が気さくに返事を返してくれる。

国の兵士なのかそれなりにちゃんとした全身鎧と全長2m近くの槍を持っているその男性は、穏やかな笑みを浮かべている。


「この辺りで馬車を引く馬を借りれる場所はありますか?」

「馬車を引く馬?借りれる場所はあるけど…なんで馬車じゃなくそれを引く馬だけなんだい?」


問いかけてくる表情と声音は穏やかだが、その目は何かを探るようにわずかに細くなった。


「後程冒険者ギルドに報告に伺いますが、こちらに来る途中、20匹近くのウェアウルフの群れに襲われまして。幸いこちらに被害はなくウェアウルフは討伐したのですが、どうやら自分達以外で同じようにウェアウルフに襲われた人たちがいたようで、その被害に遭ったのが、どうやらこちらに向かっていた商人らしいのです。それでその商人の馬車をこちらまで運ぼうと思ったのですが、あいにく馬も被害に遭っていたので…」


下手に嘘を吐くと後で面倒なのでここは正直に話しておく。


「なるほど…それで、その商人の方々で生存している人は?」

「その商品として奴隷となっていた少女二人だけです。それ以外は周囲を探してみましたが見つかりませんでした。その二人に関しても後程商人の方と話をして、可能であればこちらで引き取るつもりです」

「そうですか。ウェアウルフに関しては冒険者ギルドへ?」

「そのつもりです」

「わかりました。では、後程ギルドから城へと報告が行くでしょう。馬車は何台ですか?」

「一台です。そこには三台の馬車がありましたが状態がいいのは一台だけでしたので」

「わかりました。少々お待ちを」


そういって門番の人は詰所へと入っていき、少しラフな格好で再度出てきた。


「それじゃあ行こうか」

「場所さえ教えてもらえれば一人で行きますが?」

「そうしたいのはやまやまだけど、ウェアウルフに教われたのであれば現場を見ておかないといけないからね。あとで冒険者ギルドから城へと報告が上がってくるだろうけど、その前にこちらでも調査をしないといけないからね」

「なるほど」

「それじゃあ行こうか。着いてきて」


そういって歩き出した門番の人の後を俺も追いかける。


「そうだ。道すがら軽く自己紹介をしておこう。僕はスティク。城の兵士だよ」

「自分は敬です。まあ…旅人ですかね」

「旅人?冒険者ではないのかい?」

「ええ。いろんな国に行く場合冒険者でないほうが都合が良さそうなので」

「なるほど。確かに冒険者は登録した国が本拠地になって、他国に行く際にはいろいろと手続きが必要らしいからね」

「みたいですね」


そう、スティクが言うように冒険者が他国へと行くにはそれなりの審査と手続きがいる。

冒険者ギルドは5カ国それぞれに本部があり、そこに所属する町や村に支部がある。主に国内のモンスター討伐や採取といった依頼があり、近隣の支部がそれらを受付や斡旋をする形だ。

所属している国の依頼なら制限などはないのだが、他国で依頼を受ける際、ランクの制限や報酬の一部譲渡などかなり制限がかけられている。遺跡を発見した際も自国であれば遺跡内で見つけた宝などもよほど貴重な物じゃなければ、ほとんどもらえるのだが、他国であればそれらも譲渡しなければならない。故にほとんどの冒険者は登録した国からは出ず、それぞれの国で活動を続けているのだ。

例外があるとすれば大規模な依頼…魔物の大量発生や魔族領への侵攻、防衛戦などを行う時に各国の本部がそれぞれ冒険者を他国へと派遣している時くらいであり、その時はそれぞれの冒険者にランクに見合った報酬が支払われているとのこと。


「高ランク冒険者を他国へと移させないためとはいえ、少し窮屈な感じがしますね」

「確かにね。まあ、魔族との戦いもあるし、この国も後方にあるとはいえ魔物の被害もあったりするから、自国を護るためには冒険者たちに頼らざるおえないからね。僕たち兵士だけじゃ手が足りないし」

「まあ、実際に襲撃されていますしね」

「ええ。他にも何度か襲撃の報告がありますので…。大半は襲撃された方々はほとんど亡くなっているので情報がないのですがね…。一応こちらでも周囲の警護はしていましたが、そこまで広範囲はできませんので」

「冒険者に依頼するにしても調査も含めればどれだけかかるかわかりませんからね~。それなら一応役には立つかな?」


そういって野営中にまとめた報告書を差し出す。


「これは?」

「俺が周囲を探索し、そこから得た結果をまとめたものです。といってもほとんど推測の域を出ませんし、俺が調べたのは襲撃周辺のみで相手の拠点が分かったわけではありませんが」


書面を流し読みしていくスティクの表情が徐々に強張り、顔色が青くなっていく。


「…ここに書かれていることは本当なんですか?」

「正確ではありません。推測の域を出ないので考え過ぎだ、と言われたらそれまでですが、俺はそこまで外れていないと考えています」

「…魔獣ライカンスロープの存在…そして100匹近くのウェアウルフ…。それらが皇国の近くにいると…?」

「ま、可能性ですがね。ウェアウルフに関しては商隊を襲ったウェアウルフが、その後の増援も含め20体近くいたので、そこからの大雑把な計算です」


ウェアウルフが統率され、リーダーらしき存在があそこにいなかった以上、どこかに拠点があるはずだ。そしてその拠点にいる戦力をすべて投入するとも思えない。

襲撃地点周囲に拠点があれば多くても50匹くらいと考えられるが、見つからなかった以上拠点は別にあると考えていいだろう。拠点の防衛、ここ以外の場所の派遣されたであろう数。それらを合わせれば100匹前後が妥当だ。

まあ、これらに関してはあくまでライカンスロープがリーダーであったらの場合であり、ほとんど最悪の可能性というのも否定できないことではないが。


「ま、それはあくまで可能性の話です。相手がライカンスロープだという確証もないですし、襲撃してきたウェアウルフ達で戦力がすべてだったという可能性もゼロではありません。相手のリーダー格もライカンスロープじゃなくて魔物を使役している人物かもしれませんしね」

「だけど、魔物の使役は禁止されているはずで…」

「禁止されているからといって絶対にやらないって訳じゃないですよ。むしろ禁止されているからやりたがる人もいますし、それをやったから国を追い出されたとかだったら、むしろ隠れてやるでしょうし」


俺の言葉にスティクは難しい顔をしていた。

まあ普通の価値観を持つ人からすれば、禁止されていることをわざわざやる理由はいまいち理解できないんだろう。

俺からすればリスクとリターンが見合っていればやってもいいとは思うが、価値観とかから認められない物もあるんだろう。


「っと、長話しちゃったね。君の仲間も待っているんだよね?急ごうか」

「そうですね」


足早に馬屋へと向かった。

案内された馬屋は店として展開しているというよりかは兵舎に近いような気がした。

スティク曰く、この馬屋は門へと派遣された人たちの馬の世話をしているらしく、その日に返却することを前提とし、兵士と一緒ならば馬を貸してくれるとのこと。


「それじゃあ僕は担当している人に話を通してきます」


そういって建物の中に入っていったスティクは少ししてから2頭の馬を連れてきた。

スティクは片方の馬に乗りながらもう1頭の手綱をゆっくりと引いていた。


「ケイさんは馬に乗れますか?」

「ん~…どうでしょう。乗ったことがないので何とも」

「そうですか…。とりあえず試しに乗ってみますか?この子は結構人懐っこいので暴れることはないと思いますが」

「ですね」


とりあえずすぐに乗ることはせず、軽く馬の顔を撫でて挨拶をする。

馬の方はというと人馴れしているからか、俺の顔を鼻先で突いて、はよ乗れと催促してきた。

俺は苦笑を浮かべつつも左足を(あぶみ)へと乗せ、勢いをつけて乗り込んだ。


「っとと…。視点高いな~…」


馬に乗ったのだから当然だが、普段よりか高い視点にわずかだが心が躍る。

空を飛ぶときはもっと高い視点なのではあるのだが、馬に乗っているという状況も相まってワクワクしている。

前の世界で馬に乗るなんてことはまずなかったからな。


「行けそうですか?」

「ん~…多分?」


少し馬を歩かせてみると、揺れるがゆえにバランスをとるのが少し難しいが、それでも空を飛ぶ時よりかは大分楽だ。

馬自身も人を乗せるのに慣れているからか、いくらかこちらに気を使ってくれているように感じる。(気のせいかもだが)


「お前優しい奴だな~」


首元を軽く撫でると、こちらに向いてブルルッと軽く鳴いた。

そんな俺達を見て微笑みながらスティクも自分の馬へと乗った。


「大丈夫そうですね。では行きましょうか」

「ういうい。たのむな」


そういって手綱を振るうと最初はゆっくりと歩き出し、徐々に速度を増して走り出す。

この速度なら到着までにそこまで時間はかからないだろう。一応ウェアウルフに襲撃されたわけだから周囲の索敵だけはしておこう。


「そういえば…一つ聞きたいんですが、ここら辺って盗賊が出たりとかはしないんですか?」

「皇国周辺ではめったにないですね。ただ、ある程度離れた距離…。だいたい半日ほどが目安でしょうか。それくらい離れていると被害が報告されたりしていますね」

「なるほど」


半日ほどか。となるとあいつらがいる場所もギリギリ入っているかもしれないな…。まあ、あいつらなら大丈夫だろう。…大丈夫だよな?


「すいません、少し急ぎましょうか」

「いいですけど…どうしかしましたか?」

「ちょっと荷物の番をしている仲間達が心配になりまして」


戦力としては問題はない。だが戦い慣れしているわけではない以上、後れを取らないとも限らない。和也は喧嘩慣れしているから大丈夫だと思うが、瑠衣と玲はまだまだだ。ノエルとシエルという戦えない奴もいる以上、和也だけでは荷が重いかもしれない。盗賊に襲われていなければ問題ないが、万が一もある。急ぐに越したことはないだろう。

俺の気持ちを汲んでくれたのか、乗っている馬も速度を上げてくれた。


――――――――――――――――――――――――


同じ頃、残っていた瑠衣達は街道にて馬車の中に荷物を乗せていた。

さすがに襲撃現場で行うわけにはいかないから、敬が行く前に和也と二人で街道まで馬車を引っ張って移動させた。その馬車に敬から預かった荷物を箱に詰め、乗せていく。


「敬大丈夫かなー」

「大丈夫だろ。あいつ口は達者だし」

「ん~…でも、敬、短気だし…」


瑠衣には傲慢(ごうまん)な態度を取る門番にキレて拳を叩き込んでいる様が容易に想像できた。

尚その後応援に来た兵士たちを全員なぎ倒している様子もセットだ。


「さすがに大丈夫だと思うわよ~」

「だといいんだけど…」

「まあ、あいつは瑠衣がいなければ落ち着いてるから大丈夫だろ。一応神爺も付いているんだし」

「多分寝てて何もしないと思うわよ~」

「…あいつ何しに来たんだ?」


寝てばかりでほとんど役に立っていないあの爺さんに対して首をかしげずにはいられなかった。

そんな話をしつつも手を動かしていると、唐突にシエルが周囲を見回し始めた。


「シエルちゃん、どうしたの?」


喋れないシエルは身振り手振りで何かを伝えようとしているが、あいにくと何を伝えようとしているのかはわからない。


「敬君がいないからなにを伝えたいのかわからないわね~。和也君はわかるかしら?」

「ん~…なんか気になることでもあるのか?」


その言葉に周囲の森を適当に指をさしていくシエル。


「もしかして…」


何かを察した瑠衣が索敵を周囲に広げると、身を隠すような反応が周囲に多数あった。


「っ!玲、和也君。囲まれてるよ」


瑠衣の言葉にそれぞれ荷物を置き、担いでいた武器に手をかける。

それを見たからか、周囲の草むらが動き、盗賊らしき身なりの男たちが出てきた。

前方には5人、後方には7人。それぞれ徐々に距離を開け、街道をふさごうとしている。

そして姿は見えないが前後の森の中にそれぞれ2人ずつ。弓を構えている盗賊がいるようだ。


「なかなかに勘がいいようだな。だがテメェ等を完全に取り囲んだ。さあ、身ぐるみ置いていってもらおうか。ああ、男はいらねぇが女は上玉だな。売り払えばいい金になりそうだ」


そういいながら下衆な笑みを浮かべていた。


「…今の言葉、敬が聞いたらどうなったかね?」

「全員殴られる…で済めばいい方かな」

「そうねぇ~。じゃあそうならないためにも抗わせてもらいましょうか~」


そう言って玲が杖で地面をトンッと叩くと馬車事全員を水が包みだした。


「なっ!?魔術師か!」

「クソッ!かかれぇ!」


盗賊頭の号令と共に何人かの盗賊がとびかかってくるが、見事なまでに水によって弾き飛ばされていく。


「クソッ!中に入れやしねぇ!」

「焦るな!これだけの魔法だ、そう長続きしねぇはずだ!」


そういって周囲の盗賊たちは持久戦の姿勢を見せ始めた。


「だ、そうだが玲、どれくらいもちそうだ?」

「さあ~?どれだけできるかやったことないからわからないわね~」

「でも、あまり長引かせると敬が来て酷い事になるよ?」


主に盗賊たちが。


「じゃあさっさと片付けるかー。こんな奴らにまで苦戦してちゃあいつの足を引っ張っちまうからな」


そういって盾を地面に立てると盗賊たちの周囲の地面が盛り上がった。


「なん…っ!?」


盗賊たちが足元を見た瞬間、突然そこから鉄の棒が飛び出し、首元、脇、脇腹、股下等を通過し、挟み込むようにして体を固定した。


「なんだこりゃ!?う…うごけねぇ!!」

「クソッ!こんなもん…!」

「おっと、逃がさねぇよ」


そういって盾を介して魔力を注いで鉄の棒からさらに棒が飛び出し、それぞれ関節へと巻き付いて固定させた。これで逃げることはできないだろう。


「確保完了っと。森の中にいるやつらはどうする?」

「ん~…当たるかな…」


瑠衣が弓へと矢を番えて森の中にいる盗賊へと向ける。索敵によって大体の配置はわかるが、当てるには精度が不安だ。そもそも瑠衣はスキルによってある程度扱えているが、そこまで弓の扱いが上手というわけではない。ある程度の距離なら当てれるが、視認できない距離となると当たらない割合の方が高い。だが…


(こういう余裕があるときにできるようになっておかないと…!)


もっと切羽詰まった状況。それこそノエルやシエルが人質に取られたとか、そういった状況ではミスは許されない。だからこそ、今のうちに慣れておきたい。

幸いにも玲が作った水のドームは外側からの攻撃は弾くが、内側からの攻撃には特に影響を与えない。だから狙いに狂いは生まれない。

呼吸を落ち着け、弓を引く。

息を止め、しっかり狙いを付けて手を放すと共に息を吐く。

放たれた矢が木々の間を通り抜け、そのままこちらを狙っていた盗賊の一人の肩に突き刺さった。


「当たった!」


視認できなくても索敵の気配などで手ごたえを感じる。

索敵の感じからして、当てた盗賊をもう一人の盗賊が射線から外そうとしていた。


「当たるみたいだが、これ以上は決め手にかけそうだな」


火の属性を矢に込めれば相手を倒せるだろうが、森の中に火矢を放つのは森火事の可能性も考えればさすがにリスクが高い。そこまでする必要もないだろう。


「どうしよっか。捕まえに行った方がいいかな」

「でも~、敬がいないから接近戦できる人いないわよ~?」

「俺も接近戦だが敬ほど身軽じゃねぇしなぁ」


タンクタイプである和也は高所から狙ってくる弓兵には対処しにくい。

魔法も土属性であることから地面に近い敵には強いが、空を飛んでいたり地面から離れている敵には当てにくい。


「じゃあ軽く牽制しておくだけにしておこっか」


当たればそれでいいけど結局決め手に欠けるうちはそこまで狙う必要もないだろう。

とはいえ適当に撃つ理由もないので狙いはつける。

さっきよりかは短い間隔、呼吸で矢を撃っていく。

命中率は高くはないが、十分な牽制にはなっているようで盗賊たちも動けずにいた。

狙っている方と逆にいる盗賊たちも瑠衣達を狙って矢を放つが、全て水に叩き落されていた。

周囲で捕まっている盗賊たちが何か喚いているが、わざわざ耳を傾ける必要もない。

何発か矢を放っていると森の中の盗賊たちがさらに奥に逃げるような動きをし始めた。


「退こうとしているね。どうしよっか」

「ほっといてもいいんじゃね。別に俺たちの目的は盗賊退治って訳じゃないんだし」

「そうね~。じゃあ問題なさそうだったら水を消しちゃいましょうか~」

「だな。よし、ノエルーシエルー、続きやるぞー」


戦いが始まった瞬間から馬車の中へと逃げ込んでいたノエル達が顔を出し、木箱へと詰め込み始めた。

逃げていった盗賊たちも索敵にはひっからなくなり、玲も水の魔法を解除する。

捕らえられている盗賊たちはそのままにし、和也達も荷台への詰め込みを再開した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…何があった?」

「あ、敬。おかえりー」


スティクを連れ、瑠衣達との合流地点へと戻ると、荷詰めが終り、昼食を作ってる瑠衣達の周囲を、奇怪な鉄の棒によって拘束されている盗賊らしき風貌の男たちが囲むように配置されていた。


「これは…あそこで囚われているのは盗賊でしょうか…」


そういうとスティクは腰のポーチを開け、中から紙の束を取り出して何かを調べ始めた。

俺はというと周囲の盗賊たちを無視してとりあえず瑠衣の隣に座った。


「はい、敬の分」

「サンキュ。んで、あいつらはなんなの?」

「ここで荷造りしてたら襲い掛かってきたから、とりあえず捕獲しておいた。何人かは逃げちまったが大半はあそこで捕まってるぞ」

「ふぅん…」


塩気の聞いたスープを飲みながら周囲の盗賊たちを眺めていく。

目立った怪我はない。どうやら捕らえるだけ捕らえてそのままにしておいたんだろう。

大半の奴が騒ぎ疲れたのか、諦めたのか項垂れているのだが、一人だけ、ほかの奴より装備が充実している奴はずっとこちらを睨んでいた。おそらくあいつがリーダー格だろう。そうあたりを付けるとスティクが俺の隣へと腰を下ろす。


「やっぱり思った通りだね。あいつらはここら辺を根城にしている盗賊団だよ」

「規模は?」

「中の下といったところだね。討伐のために部隊を編成するほどじゃないけど、冒険者に依頼するにはBランクくらいないと辛いかなってところだよ」

「ふむ。まあ、壊滅じゃないにしてもリーダー格にこれだけ捕まえれば別にいいだろ。とりあえず連行していって突き出すか」

「そうしてくれると助かるかな」

「で、敬。そいつは誰なんだ?」

「ああ。彼はスティク。皇国で門番していてな。馬を借りる際についてきてもらわないといけないらしくて、来てくれたんだ」

「あ、そうなんだ」

「そ。んでこいつらが俺の仲間。俺の隣から瑠衣、和也、玲だ。で、その隣にいるのがノエル、シエル。二人は今ちょっと立場が微妙なんで一応別枠ってことで」

「どういうことです?」

「ここに来る前に話した奴隷二人、それが彼女たちなんですよ。とりあえず…瑠衣、品目のリストは?」

「はい」

「ん、サンキュ。これ、襲撃された商隊の所持品目です」

「みてもいいんですか?」

「まあ、あなたがどこまでできるかどうかはわかりませんが、その商隊、ちょっと面倒そうなんである程度は皇国側の人に知ってもらったほうがいいかと」


俺の言葉にスティクは首を傾げ、品目へと目を向けた瞬間に顔をしかめた。


「……マルシャン商会…ですか…」

「それってどんな商会なの」

「奴隷はもとより武器やら薬、毒薬とか取引してるらしいぞ。まあ、品物見る限り普通の商品も取り扱っているみたいだがな」

「…ですが裏では違法品の取引も行っています。何度か捕まえようとしたのですが…」

「できなかったの?」


瑠衣の言葉にスティクは沈痛な面持ちで頷いた。


「証拠がつかみきれないのです。可能性は高くとも確たる証拠がないので、店にまで押し掛けるわけにもいかず、証拠を捕らえるために調査してもことごとく逃げられ…」

「ま、大方取引相手の中に貴族がいるんだろう。下手に捕まると芋づる式で取引した貴族たちすら捕まりかねないんだから」


俺の言葉にスティクは渋面を浮かべていた。

スティク自身も貴族との癒着に気づいているんだろうが、どうにかできるほどの力はないのだろう。


「にしても、ある程度国からも目を付けられているのか。…ならちょっと派手にやってもいいかもな」

「おい、何する気だ」

「相手の出方次第♪」


笑顔の俺に瑠衣達三人はため息を吐いていた。ほとんど俺のことを知らないスティク、ノエル、シエルの三人はキョトンとしている。


「スティク、覚悟しておけよ。最終的に敬にその槍向けることになるかもしれないぞ」

「え」

「敬、いくら何でも犯罪はダメだよ?」

「相手が俺を犯罪者にしたいならお望み通りにってだけだ。ってか無関係な人まで巻き込まんから大丈夫だ」

「まあ、敬なら大丈夫だと思うけど」

「問題があるとするなら犯罪者になった際に兵士がどう動くかだなー。向こうは仕事だからなー」

「というか~、なんで犯罪者になる前提で話してるのよ~」

「確かに」


起こりうる可能性があるとはいえ、軍に所属してるスティクの前で話すようなことじゃないだろう。


「んで、荷積みに関してはもう終わったのか?」

「ああ。途中であいつらが邪魔してきたがすでに終わってるぞ」

「ふむ。…あいつらはどうするか。荷台に乗せれないしなぁ…引きずってくか?」

「昔の拷問かな?」

「でも、実際のところあの人数は運べないよね。荷馬車に乗せるのも無理だろうし…」


瑠衣の言う通り複数の馬車に入っていた荷物を一つの馬車に詰め込んだ故にそこまで余裕がない。

そんなところに盗賊たちを置いておいて、万が一が起きると面倒だ。逃げられるだけならまだしも品物を壊されたり、盗まれたら交渉にも影響が出かねない。


「仕方ない。瑠衣、玲、ノエル達と一緒にちょっと長めの蔓を見つけてきてくれ。和也、あいつらが全員入る檻作れるか?」

「ん、できるがどうするんだ?」

「適当にそこらへんの木を輪切りにして車輪にして簡易的な荷台作ろうかと」

「なるほど。んじゃ車輪への加工もやっておくから輪切りにした木だけくれ」

「あいよ。んじゃ俺は別件をやっておくか」

「別件?」

「あいつら素直に言うこと聞くと思えないから適当に心へし折っておこうかと」

「ほどほどにしておけよー」

「おうー」


片手をあげて返事をしつつ手近な木の近くへと向かう。とりあえず車輪のために切らなきゃいけないんだが、幅どうするか。5cmくらいあればいいかな。

手頃な太さの木を見繕い、ミスリルソードへと風の魔法を纏わせ、一度軽く振るうとゆっくりと木が傾き始めた。高さ5m程のその木に向け再度剣を振るうと、木の周囲に風が流れ、枝を斬り落とし、4枚ほど輪切りにしたのち、残った部分は手頃なサイズに輪切りされ、それぞれ8等分に切られた。


「これで良し。薪に使えるだろうし、移動中に少し乾燥させるか。さて、次は…」


捕らえられている盗賊の方達を見ると、全員が顔を青ざめさせていた。


「…あれ?俺、まだなにもやってないんだけど…」

「いや、あれだけの技術見せられたらああなりますよ…」


呆れ顔でスティクが俺の方へと歩いてきていた。


「…そんな驚くようなもん見せたっけ?」

「…無自覚ですか。あの高さの木を1回剣を振っただけで切り倒しただけでなく、倒れるまでのわずかな間に枝を切り、均等に切り分けるなんて芸当、よほどの実力者でないとできませんよ」

「そんなもんか」


これくらいなら風の魔法を扱える奴ならそこまで難易度高くないと思ったんだがな。ま、どっちにしろ手間は省けた。


「おーい、檻できたぞー」

「あいよー。んじゃこれ車輪代わりにしてくれー」

「敬―、蔓これくらいでいい?」

「んー…大丈夫だろ。馬車の後ろに括り付けておいてくれ」

「はーい」

「んじゃ、こっちはあいつらをとりあえず解放しますか。手首縛るロープくらいならありますし」

「いいですけど、あの鉄の棒はどうするんですか?」

「んー…あれくらいなら…」


風を纏わせて剣を震わせると、鉄の棒の根元部分が綺麗に斬れた。


「うし、これで動かせる」

「鉄すら斬れるですね…」

「動かない物ならな。打点さえきちんとしてれば斬れるもんさ。さて、縛って檻の近くに運ぶかね」

「あ、じゃあロープ用意しますよ。不測の事態に備えて馬の鞍に括り付けているので」

「お願いします。俺はあいつらを一か所に集めておきますね」


先ほどの木を倒した時の技術と、今鉄を容易く切った腕前を見たからか、盗賊たちはおとなしくスティクに縛られた後に、檻に入れられた。


「さて、想定外の事があったようだが、とりあえず予定通り皇国に向かうとするか」

「おー」


手綱を振るって馬車を走らせはじめ、スティクと共に皇国へと向かった。


「…あ、襲撃現場確認してない」


スティクのその言葉で出鼻をくじかれるのであった。


筆が遅いうえにストックが終ってしまったので次から投稿が遅くなるかもしれません。

できる限り早めに投稿できるようにしますので、それまでお待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ