第51話
すさまじい水音と共に大量の魔物が押しつぶされ、生き残った魔物達もおぼれていく。そんな光景を見ながら俺は上空を飛んで大量の水を飛び越して後方にいる魔物の群れへと突っ込んでいく。腰にさしてある刀の鍔をわずかに押し上げ、空いた隙間から自らの風魔法を送り込んで圧縮させていく。そして大量の魔物達の前に降り立ち、腰を深くして居合の構えを取る。
そういえば虚空に魔法の事を教わった時に言霊の事を教わったな、とふと思い出す。
「そうだ、君達魔法を使う際名前を言うといいよ」
「名前?」
「そうそう。敬なら知ってるんじゃない?よくあるファイアボールとかそう言うの」
「知ってるが、意味あるのか?」
「言霊って聞いたことない?名前を付けるとそれをイメージしやすくなるし、昔から名前には力が籠るからね。威力が上がったりするんだ」
「へー、今度機会があったら試してみるか」
そんな会話を思い出し、せっかくの機会だから試してみることにする。
魔物達が俺目がけて駆け出してくるが、息を深く吸い込んで落ち着かせる。
「風牙…」
踏み込んだ右足へと重心を動かし、腰をひねって体全体で鞘から刀を抜き始める。
「絶影!!」
抜刀と同時に圧縮された風の魔力が解放され、巨大な風の刃となって木々をなぎ倒していく。
横薙ぎに広がっている風の刃が周囲の空気を吸収して巨大化していく。そして木々だけでなく向かってきている魔物達の体すら斬り裂き突き進んでいった。
「…威力上がり過ぎじゃね?」
元々この技はちょくちょく使っていた。今まで刀ではなく剣だったから扱い方は少し違うが、剣に纏わせて斬撃として放ったりはしていたが、ここまでの威力はなかった。
今回は鞘の中でいつも以上に圧縮させたことで威力の上昇は考慮していたが、ここまでとは思わなかった。
「特訓の成果か?名前を付けたのも要因の一つかな。まあ、強くなったのなら良しとしよう」
そう呟いた瞬間、俺の体に影が重なった。空を見上げてみると有翼の魔物が俺に向けて急速に下降してきた。さすがに空中にいるやつに向けて斬撃を飛ばしても避けられるだろうから、接近してきたところを斬り伏せようと待ち構える。
しかしそんな魔物達へと次々に矢が突き刺さり、どんどん火だるまになっていく。
「これは…瑠衣か」
矢が飛んできた方向を見てみると、和也に用意してもらったんだろう、高台の上から瑠衣が俺に向けて笑顔で手を振っていた。
「ずいぶんと高いところから見てんな~…ってかあいつよく俺が見えるな」
こっちからは目算だが高さ15~20メートルほどの場所だというのに、よく見える物だ。俺に関しては魔法の力で視力を強化(主に光魔法)しているからわかるが、あいつはそれもないだろう。
「ま、とりあえず空は任せるとして、俺は…」
ドスンという地響きと共に、少し離れた位置に巨大なオークの姿、オークキングが見えてきた。
「大物の相手もしますかね」
オークキングの周囲にまだ残っている雑魚たちの処理も残っている。上空の魔物の掃討まで瑠衣の援護を期待できないのはいささか辛いが、やるしかないだろう。
そう考えつつ刀を一度鞘へと納めて姿勢を低くして駆け出した。
同時刻、和也と玲はというと、和也が作った巨大な壁の上にいた。
玲は壁の中に入れた水を少しずつ地面へと浸透させ、地面をぬかるませており、和也は今は床となっている壁に手をついている。
「もうそろそろこっちは片付いたかしらね~。和也君はこれからどうするの~?」
「俺はこの壁を広げてスタンピードによって出てきた魔物達を閉じ込める予定だ」
「どれくらいでできそう~?」
「そうだな…結構な広さだし、数十分から一時間ってところかな」
「そう、じゃあ私がここにいるから壁つくりに集中したらどうかしら~?そうすればもっと時間短縮できるでしょ~?」
「ま、確かにな。でも大丈夫なのか?」
「ええ~、これでもちゃんと特訓したんだもの~」
そんな玲に向けて、上半身が魚で二足歩行の魔物『サハギン』が水の中から飛び出してきた。サハギンに向け、玲が杖の先端を向けると、そこから水が放出してサハギンの足元へと張り付くと玲は杖を振り回してサハギンを振り回した。
「粘着性の水か」
「あたりよ~!」
振り回しながら徐々に引き寄せ、近くなったら床へと一気にたたきつけ、倒れているサハギンの頭へと超公圧縮された水を放って頭を吹き飛ばした。
「…まじかよ…」
「私だってちゃんと特訓していたのよ~」
いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべる玲に呆れたよ肩を竦めた。
そして瑠衣はというと…
「結構遠くまで見えるんだねー」
そんな呑気なことを言いながら、和也に用意してもらった高台の上から森を俯瞰する。
さすがに数メートル程度の高さではわからないので、およそ15メートルほどの高さから周囲を見回しているが、それでも瑠衣の目には前線で戦っている敬も、きちんと見える。
「私ここまで視力よくなかったはずなんだけどなー。あとで虚空さんんい聞いてみようかな」
ぼやきつつも魔法によって火を矢の形で固定して弓へとつがえる。
そしてしっかりと弦を引き、指を話して矢を放つと、矢は空中でいくつもの矢へと別たれ、敬に向けて急降下していた魔物達へと突き刺さってすべて火だるまへと変えていた。
「んー、飛んでる魔物が意外とおおいなー」
洞窟の中から出てくる魔物がほとんどで、狭い洞窟内では鳥型の魔物の様な空を飛ぶ魔物は少ないと考えていたのだが、当てが外れてしまう。
「ま、ぼやいていても仕方ないか、さっさと片付けて敬の手伝いしなきゃ」
そういって手の中に先ほどと同じく分裂する火の矢を生み出して、次々と放って魔物達を屠っていく。
その間にも敬の様子にはちゃんと気を配るようにして、いつでも援護できるようにしておく。
「あ、大物と戦い始めたんだ。オークキングだっけ?敬大丈夫かなー」
そう呟きながらも声音はどこか呆れたような感じで、心配している様子は一切ない。いつでもオークキングへと攻撃できるように意識を向けつつ、瑠衣はそのまま上空の魔物のせん滅へと取り掛かった。
そしてオークキングと戦い始めた敬はというと…。
巨大な石の剣を振り上げ、俺へと振り下ろしてくるが、それを横に飛ぶことで回避し、地面へと剣が当たった直後に空中を蹴って腕へと居合で斬りかかる。
しかし、オークキングの筋肉が分厚いのか、わずかに腕を斬って血が出ることはあれど、そのまま斬り落とすまでにはいきそうにない。
「クッソかてぇなこの筋肉馬鹿は!」
オークキングの攻撃は単調で、回避自体は難しくないが、その見た目通りの巨躯から繰り出される攻撃は一撃一撃が致命傷になってもおかしくはないほどの威力だ。
それに比べて俺の攻撃は一撃がそこまで威力が伴ってないからか、致命傷へと至るには程遠いだろう。
こういう相手はどちらかというと和也の方が得意なのだが、そうもいっていられない。
そして、俺自身もその弱点は以前からわかっており、それを完全にとまではいかなくても克服できるように特訓した。細かな移動とそれに伴う速度をどんどん増していき、一撃を重くする。生半可な武器だと攻撃の衝撃で折れてしまうが、この刀やミスリルソードはそう簡単に折れる物じゃないから問題ない。
オークキングが俺へと向けて横薙ぎに剣を振るってくるが、俺はそれを飛び越して回避し、足に風を纏わせてブーストとし、空中を蹴って勢いよく加速する。そしてそのままオークキングを通り過ぎ、地面に着地すると同時に勢いを殺さないように体を回転させ、体の方向を変えて再度加速する。それを何度も行い、途中でオークキングをすれ違いざまに斬って牽制しつつ、周囲を駆け回りながらどんどん加速していく。そして最後にオークキングとすれ違うように胴体を斬り裂き、地面へと膝を着く。
「…風神乱舞」
キンッと刀を鞘に納めきると今まで移動時に発生した風の刃もろともオークキングへと襲い掛かり全身から血が噴き出した。
ぼたぼたと大量の血が地面へと広がり、オークキングが倒れそうになった瞬間。
「グオオオオオオオオッ!!」
すさまじい雄たけびと共に俺へと体を向け勢いよく剣を振り下ろそうとしてきた。
しかし、その直後にズドドドッとオークキングの顔面へと火の矢が突き刺さり、一瞬で顔が火だるまと化し、そのまま倒れ伏した。
俺はその火の矢の元である瑠衣の方を見てみると肩を竦めるような態度を取っていた。「油断禁物だよ」って言いそうだな。
オークキングとの戦いの最中で周辺の小物はある程度始末した。だがまだまだ続きが出てくるだろうな。
「さて、次は何が来るかね…」
そんな事を呟いていると俺の隣にある木に矢が突き刺さった。その矢には何やら手紙がくくられている。
「矢文?何ぞや」
瑠衣からの矢文に首を傾げなかを見てみると、短くこう書かれていた。
『上空に大きな影がいるよ』
俺は即座にて風の力で上へと飛び上がると、少し離れた位置に大量の有翼魔物の群れとその背後にいる巨大な魔物が見えた。その魔物は獅子の体に鷲の翼と頭を持っている魔物『グリフォン』だった。
「…あれは魔物じゃなくて魔獣じゃね?」
グリフォンはその見た目通りかなり高い能力を持っている。それ故に魔獣として扱われているところも多いはずだが、ここにいるということは一応魔物に分類されるのだろうか。
「今度虚空に魔物と魔獣の違い聞いておくか…」
そんな事を考えている間にも後方から瑠衣が放った大量の火の矢が遠くにいる魔物達を打ち抜き、燃やしていく。
「…あの距離よく届くなぁ…俺も負けてられん」
抜いた刀を縦に構えて頭上に掲げる。横薙ぎの斬撃を飛ばすだけでは避けられてしまう。ならばどうするか?単純に回避不可の攻撃を放てばいい。斬撃の時は刀に纏わせるように圧縮していた。しかし今回は違う。今回は刀を中心に渦巻くように風を纏わせて竜巻を生み出した。
「空を飛ぶなら風の影響を受けてるだろ。それならこれから逃げることはできないだろ!」
一気に踏み込み、掲げた刀を振り下ろす。
「臥竜旋風!」
振り下ろされた刀より纏っていた竜巻が飛び出し、周囲の空気を巻き込みながらどんどん巨大な竜巻となって魔物達へと襲い掛かっていく。
ただ巻き上げるだけではなく、吹き飛ばされて体勢を崩された途端に内部で発生した真空刃によって切り裂かれる。そしてそれらは大量の魔物を飲み込み、グリフォンすらも飲み込んだ。
けたたましい雄たけびと共に強引に竜巻から逃れようとするが、その度に翼や体に切り傷ができていく。そんな時に大量の火の矢が竜巻へと投下されると、途端に竜巻が炎の渦へと立ち替わった。
「う~ん…えぐい」
竜巻によって巻き上げられ、真空刃によって切り裂かれ、炎によって焼かれる。
命尽きた魔物達は真っ黒な状態で吹き飛ばされ、そして大きな影と共にグリフォンも黒こげの状態で地面へと落ちていった。
「…脅威を感じる前に終わったな」
先ほどの竜巻で空に飛んでいた魔物のほとんどを処理できた。
これから出てくる分はまだできないが、今の時点で空からの攻撃を気にする必要はないだろう。
「虚空の話じゃいるとしたら大物は残り三体。次は何が来るのやら」
そんな事を呟きながら俺は一旦態勢を整えるために和也達の元へと戻ることにした。




