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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
グランフォール皇国
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第4話

「さて、それでは魔法の授業を始めるぞい」


風呂からあがり、時間となったので神爺による魔法講座が始まった。

参加者はノエルとシエルを含めた6人全員。ノエルとシエルに関しては眠いかもしれないから寝かそうとしたらイヤイヤと首を振っていた。まあ、さっき俺がいろいろと学べと言ったのだから、こういう時にこそ学ばせてやるべきなのだろう。


「さて、ではまず魔法の基礎からじゃ。魔法には大きく分けて6つの属性がある。火・風・水・土・闇・光じゃ。そしてその6属性でも火・風・水・土と闇・光の二つは分けられ、それぞれ一つずつ得意属性を持てる。例えば敬は風と光、瑠衣は火と闇といった具合にの」

「二つ以上の得意属性を持つことはないのか?」

「ないの。じゃがあくまで得意なだけであって、火・風・水・土の魔法は誰でも使うことが可能じゃ。ただし、光と闇は相反する物であるが故に得意属性しか扱うことはできぬ」

「得意属性じゃない属性ってどれくらい扱えるの?」

「普通はレベルでいうと3か4当たりじゃの。お主等4人は頑張れば5か6くらいにはなるがの」

「レベル?」

「うむ、便宜上そう呼んでおるがの、最大レベルは10、だいたい奇数ごとにできることが増え、偶数でその応用ができるといった感じじゃの。そうじゃの…敬の風属性を例に挙げてみると…」


レベル1:風を生み出す事ができる。

レベル2:生み出した風を操ることができる。

レベル3:風の刃を生み出せる。

レベル4:操った風の中から風の刃を生み出せる。

レベル5:空気を圧縮して質量を持たせることができる。

レベル6:圧縮した空気によって空中浮遊ができる。

レベル7:気圧を自由に操作できる。

レベル8:天候を操作できる。

レベル9:あらゆる大気を自在に操れる。

レベル10:あらゆる大気の主導権を得ることができる。


「…とまあ、こんな感じかの」

「ふむ…ちなみに今の俺のレベルは?」

「お主は6じゃの。他の者も5か6じゃ」

「ちなみにそのレベルってどうやって上がっていくの?」

「魔法を使っていけば感覚として理解していく感じじゃの。魔力量にも影響を及ぼすし、それによって低レベルの魔法も強力になっていくのじゃ」

「魔力量で威力が変わるの~?」

「うむ。例を挙げるならば、敬の風魔法。レベル1の風を生み出す魔法でも、レベル1では砂埃で視界をふさぐ程度じゃろうが、レベル6である敬が使えば人を飛ばすことも容易いじゃろう」


言われて思い出したのはウェアウルフでの戦いだ。

そこでは俺と和也をまとめて移動させるために、盾を傘代わりに風を生み出して吹き飛ばした。確かにあれをレベル1でできるかと聞かれれば無理だと答えるだろう。


「レベルというのはできる事、技術を便宜上明確にしたものじゃ。その威力まではレベルでは推し量れぬ。あまり例はないが、生まれたばかりでも多量の魔力を保有する者もおる。それらはできることがレベル1の魔法だけでも、威力はレベル3や4の者と同等となることもある。そのものは将来的に上位冒険者、もしくは英雄クラスまで成長するじゃろうがの」

「ふむ、レベルでだいたいの冒険者のクラスがわかるのか」

「大雑把じゃがの。1・2は駆け出し。3・4は一人前。5・6は上級。7・8は英雄。9・10は勇者クラスじゃの」

「ってことは俺たちはもう上級冒険者と同等なのか」

「そうなるの。じゃがお主等は段階を飛ばしてレベルが上がったからの。発動はできるがそこまで扱えないじゃろう」

「ってことはまずそれを覚えるところからか?俺は勉強とか苦手なんだが…」

「なに、勉強といってもできることを知るだけじゃ。あとは発動させて覚えていく感じじゃの」

「ちなみに、風属性以外はどんな感じなの?」

「そうじゃの…」


火属性

レベル1:火を生み出す事ができる。

レベル2:視界内に火を生み出す事ができる。

レベル3:火の形を変化させられる。

レベル4:生み出した火を自在に操れる。

レベル5:火に触れた物質の熱を操れる。

レベル6:物質の熱を操作できる。

レベル7:様々な特性の火を生み出せる。

レベル8:複数の特性を火へと宿せる。

レベル9:あらゆる火を自在に操れる。

レベル10:あらゆる火の主導権を得ることができる。


水属性

レベル1:水を生み出す事ができる。

レベル2:視界内に水を生み出す事ができる。

レベル3:水の形状を変えられる。

レベル4:水の流れを操れる。

レベル5:水の温度を変化させられる。

レベル6:水の温度を自在に変化させられる。

レベル7:水の特性を変化させることができる。

レベル8:様々な特性を持った水を生み出す事ができる。

レベル9:あらゆる水を自在に操れる。

レベル10:あらゆる水の主導権を得ることができる。


土属性

レベル1:土・岩を生み出せる。

レベル2:様々な鉱石を生み出せる。

レベル3:土の形状を変えられる。

レベル4:土の硬度を変えられる。

レベル5:土の性質を変化させられる。

レベル6:土の性質を自在に操れる。

レベル7:重力を操れる。

レベル8:引力を操れる。

レベル9:あらゆる土・鉱物を操れる。

レベル10:あらゆる土・鉱物の主導権を得ることができる。


「…とまあこんな感じかの」

「レベル9とレベル10の差ってなんなんだ?」

「レベル9は自然発生した物を操れて、レベル10は他者の魔法によって生み出された物の主導権を奪って操れるということじゃな」

「相手の魔法を奪えるの?」

「うむ。基本的に自分よりレベルが低い者の魔法だけじゃがの。前に勇者と魔王の属性が被ったことがあっての、共にレベル10の猛者じゃ。お互いの魔法を奪い合い、放ち合い、なかなかに見ごたえのある戦いじゃったぞ」

「ふむ。レベルが同じだと互いの魔法を奪い合うのか…面倒だな…」

「勇者と魔王くらいしかレベル10には至れぬからそこまで考える事でもないじゃろう。それにそこに至るまでには長い時間がかかるじゃろうからの」

「なるほど。ま、最後あたりで必要になるかもだから頭には置いておこう。にしても基礎と応用とは聞いていたがやっぱ似たような能力があるな…。ってか、土属性の魔法で重力と引力を操れるのかよ」

「重力と引力は星の力じゃからの。星というても様々な鉱石の集まりじゃ。故に土属性と密接な関係にあるのじゃ」

「ってか重力と引力ってどう違うんだ?」

「知らん。以前どっかでそれぞれ違う物とか聞いたことはあるが詳しいことはわからん。

俺は重力は上から抑えられる力で、引力は下から引かれる力みたいな感じで覚えてるがな」

「適当ね~」

「必要以上の知識なんて扱えないんだからいいんだよ。知りたくなったらこいつで調べるし」


そういって万能の書をひらひらと見せる。

実際知識があるのは悪い事ではないが、ありすぎると逆に扱えなくなりかねない。

一つの問題に対して、それと同じ事例、対処法が複数個あるとどれを取るべきかで悩み、逆に問題を大きくしかねないこともある。必要以上の知識はむしろ思考の妨げになりかねないのだ。


「そういえばさっき四属性を教えてもらったが光と闇はどうなんだ?」

「光と闇に関しては特別での。他の属性のように大まかな指針の様なものはないのじゃ。光も闇もそれぞれの属性を操れる。悪しき光もあるし、正しき闇もある。それらはすべて使い手次第じゃ」

「そういう物なの?」

「そりゃそうだろ。善悪なんて人間が作った指針の一つってだけだ。実際俺達がいた世界でもとある宗教の神様が別の宗教では悪魔にされてた、なんて話腐るほどあるしな」

「ふぅん…」


とりあえずある程度知識を得たなら、これから魔法の鍛錬をしないといけないんだが、どこから手を付けるか…。

そんな事を考えているとシエルが首をかしげていた。


「どうした?」


俺の問いかけにシエルは自分と姉であるノエルを指さして再度首を傾げた。


「なにか聞きたいことがあるの?」


瑠衣の問いかけに頷くが、喋れないからその内容がわからない。

今までの話の中で出てくるとしたら…。


「そういえばこの二人って探知と回復に優れてるんだったよな」

「そうじゃの」

「でも、さっきの属性の時にはそういった話はなかったわよね~」

「まあの。あれはあくまでその属性を持つもの全員が扱える魔法というだけで、それ以外に特化している者もおる。ノエル達はそれじゃの」

「ふむ。探索特化、回復特化…それならほかにもあるのか?」

「うむ。シエルのような探索特化とは真逆の隠蔽特化。蜃気楼や陽炎を駆使した幻惑特化。中には洗脳や魅了といった精神感応特化といったものまである」

「それら特化でもレベル10になれば支配できるのか?」

「同じ属性ならばの。例えば幻惑と言っても火属性の熱によるものもあれば、風属性の大気の圧縮による光の屈折によるものもある。そして光属性と混ぜることで発動することも出来る。一つの事象をたとえで出したとしても複数の属性で出せるのじゃ」

「複合属性ってことか。それって同じ属性じゃないと支配できないのか?」

「完全にはできぬの。支配できる属性はあくまで同じ属性の部分だけ。しかし割合…例えば風と光で風の割合が強ければ風の属性として支配することも可能じゃろう」

「ふむ。」

「じゃが、ここまで説明したがお主等がそれをできるのはまだ先じゃろう。とりあえずこれから皇国へと行くまでにお主等は現在扱える部分を把握してもらう。具体的には先ほど教えたレベルでできることをイメージし、自在に操れるようになってもらおう」

「了解。んじゃあ時間があるときは極力魔法の練習にするか。分かんないことがあれば爺さんに聞くってことで」

「おう」

「わかったわ~」

「今はお爺さんに教われるんだよね?」

「うむ。基本的にこの時間はお主等に儂が教えよう」

「だ、そうだ。ま、それ以外は教わった事の復習程度でいいだろう。んじゃやるとしますかね」


ノエル達と共に爺さんの指示でいろいろと魔法を使っていった。


その後、見張りの時間まで魔法の授業を受けた後、俺と瑠衣だけが残って見張りをし始める。

和也が作った石の椅子に腰を下ろし、俺は万能の書とメモ帳、錬金道具を取り出し、薬のレシピの研究を、瑠衣は手元で先ほど習った魔法の復習をしだした。

玲と和也に頼んで窯には水がたっぷり入っているし、採取によって材料もそれなりにある。ある程度なら失敗しても大丈夫だ。

とりあえず基本となるヒールポーションとマジックポーションの作成から取り掛かろう。レシピを見てみると基本的にはポーションは全部液体。内臓などの内部の怪我は飲んで、切り傷などの外傷に関しては直接かけることで効果があるようだ。まあ、外傷に関しては飲んでも効果はあるようだが、直接かける時よりか幾ばくか効果が劣るようだ。

液体である以上直接塗りにくいから軟膏(なんこう)の様なものを作れれば作っちゃおう。

材料はヒールポーションの原料である癒し草と効果を増幅させる増強の実。

とりあえず基本的な手順からいろいろと考えて軟膏用に改良していこう。とりあえず癒し草を一枚細かく刻んでから乳鉢へと入れ、増強の実を薬研の入れ物へと入れ、石の輪に取り付けられている棒を両手で持って前後に動かしてゴリゴリと砕いていく。


「……敬、楽しそうだね」

「んあ?」


無意識に鼻歌交じりにやっていたからか、瑠衣がおかしそうに笑っていた。


「鼻歌歌ってる敬なんて久しぶりに見たよ」

「そだっけ?」

「うん、木の棒とか木の実とかで玩具作ってた時は結構歌っていたけどね」

「ガキの頃の話だろ」


まあ、18の俺達だって子供といえば子供ではあるがな。


「まあね。でも何か作ろうとしているとき、いつも楽しそうだったよね」

「そうだったかね。あんまり覚えてねぇや」


砕いた増強の実を錬金一式の中に合った小さな箒でまとめ、全部乳鉢へと入れていく。

小匙ですくった水を少しずつ入れ、乳棒で全体的になじむように丹念に叩いていく。


「それ、何作ってるの?」

「ヒールポーション軟膏ver(バージョン)

「軟膏?」

「そ。この世界のポーションって全部液状の物らしいからね。軟膏みたいな塗り薬を作っておきたくてな。少量塗って効果が十分にあるようなら、同じ量で通常のポーションより長く扱えるかもしれん」

「そうなの?」

「ああ、浅めの傷でも下手するとポーション1本丸々使うかもしれないんだ。それだともったいないだろ?だから少量を患部に塗って治癒を促すタイプを作ろうと思ってね」

「へぇ…」


加えた水によって砕いた実が湿り、それと癒し草の汁と混ざっていく。


「本来のヒールポーションってどうやって作るの?」

「え~っと…さっきチラッと見た感じだと、ビン1本より少し多めの水を窯で沸騰させないように熱を加え、そこに刻んだ癒し草を3枚入れ、ゆっくりかき混ぜる。そして草が柔らかくなり始めたところで砕いた増強の実3つを入れ、沸騰しないようにしながらまたゆっくりとかき混ぜ、草と実の成分が十分に浸透したらこして、残ってる草や実を取り除いてビンに詰めるって感じだな」

「1本ずつじゃないと作れないの?」

「いや、これは複数本作れるレシピだな。本数分量を増やせば一気に作れる。まあ、地味に大変といえば大変だが」

「今作ってるのはどうなの?」

「これはテストだからな。とりあえず少量作って効果を確かめて、問題ないようなら量産も検討する」

「問題って何かあるの?」

「予測できる問題としては効果がありすぎるか、もしくは回復に時間がかかりすぎるってところかな」


水気が少し不足しだしたから匙でわずかに水を掬い、加えてから再度すりつぶしていく。

ん~…草の方がうまくすりつぶしきれない。これもうちょっと細かく切った方がよかったかもな。


「それってやっぱり自分に使って試すの?」

「そりゃな。自分で作った奴なんだから自分で試すさ」

「大丈夫なんだよね?」

「多分」

「多分って…」

「まあ、薬だからな~。そこまで特殊なことをしていないとはいえ、どういう影響を与えるかはわからんからなんともいえんよ。まあ鑑定スキルのおかげで毒か薬かくらいはわかるからそこまでリスクは高くねぇよ」

「ならいいけど…」


どこか不満そうにしているが、それ以上特に何かを言うこともなくまた魔法の練習をし始めていた。


「あ、そういえば」


癒し草がいい感じに擦り切れ、なじみ始めたころ、瑠衣が何か思い出したように声を上げた。


「私がお風呂から出た時、玲達と何か話してたみたいだけど、何話してたの?」

「ん?…ああ、ちょっとな」

「言えないこと?」

「わざわざ言うことじゃないってだけだ。気になるのか?」

「うん」

「まあ、隠すようなことでもないからいいか。ちょっと玲に異世界にまで付いてきた理由を聞いてたんだよ」

「なんで?」

「今後の事を考えてな。争いを止めようと動いたら、それで儲けてる奴らは俺たちの邪魔をしようとするだろう。で、まず手っ取り早い方法の一つとして俺達を仲間割れさせようと考えて、おそらくだが玲、もしくは和也のどっちかに接触を図るはずだ」

「なんでその二人なの?」

「俺は主犯だからまず論外。で、他のメンバーと俺との距離感…仲の良さ?とかを探れば一番篭絡(ろうらく)しやすいのが玲か和也だと思うだろう。和也は俺と友人同士だからまだ後になるだろうが、玲は瑠衣を間に挟むからこの4人の中では手を出しやすいだろうから多分一番最初に狙われるのは玲だ」

「ん~…玲なら大丈夫だと思うけど…」

「どうだろうな。あいつの考え方は瑠衣を中心にしてる節があるから、そこを突かれると俺と敵対しかねない」


そうそうないとは思うが、瑠衣を盾にされればないとは言い切れないだろう。


「…裏切るかもって疑っているの?」

「利用されかねないなとは思ってる。って訳でそこらへんの手綱はしっかり握ってやってくれ。俺には無理だし、下手にやろうとするとかえってこじれる」

「ん~…大丈夫だと思うけどなぁ…」

「ま、そこらへんの事をやるにしても大分先だろうしな。あくまで頭の片隅に置いておいてくれってことで」

「わかった。でも、よかった。玲が変なこと言ってなくて」

「変なこと?…瑠衣に対しての事なら言ってたぞ」

「えっ、なんて?」

「ん~…異世界にまで付いてきてくれたんだからなんか思うところないのか?ってさ」

「それでなんて答えたの?」

「向き合い方くらいは一考しておくよって答えておいた」

「そっか、じゃあ少し期待しておこうかな」

「お好きなように。期待に答えられるかはわからんがな」

「え~…。でも、以前みたいに露骨に距離を置こうとはもうしないよね?」

「ま、もうしても意味ないだろうからな」


元の世界にいた時、瑠衣とは高校卒業を機に疎遠になるようにしようと思っていたのだが、まさかその前に異世界へと連れていかれるとは思わなかった。


「敬、最初中学卒業の時に私から距離置こうとしたでしょ?」

「あ、やっぱバレてたか」

「バレないと思ってたの?お父さんとお母さんに中学卒業したら県外に行くって言っておいて」

「デスヨネ。まあ、俺の両親に変わって面倒見てくれたんだ。そこらへんの報告はするのが筋だろ。まあ、まさかお前まで付いてくるとは思わなかったがな。しかも俺のアパートの隣の部屋とか」


俺の両親はいまだ健在だが、中学の時に大喧嘩して一方的に縁を切るように家を出た。そこを事情を知っている瑠衣の両親が拾って世話してくれたのだからある程度筋を問うすべきだと思ったのだ。

まさかその結果県外にまでこいつが付いてくるとは思わなかったが。


「私がお父さんたちに無理言ってそうさせてもらったからね~。本当は一緒の部屋の方がお金かからないし、いいと思うよって言ったんだけどさすがにそれはダメだって言われちゃった」

「当たり前だ」


いくら仲が良くても嫁入り前の娘を男と一緒に住まわせるわけにはいかないだろう。


「まあ、ほとんど毎日部屋に乗り込んで同棲しているのと変わりなかったがな…」

「まあね~。高校卒業したらどうやってくっ付いていこうかって悩んでいたんだよ」

「ついてくることは確定かよ…お前はお前で進路考えておけよ」

「でも、異世界に来ちゃったわけだから進路考えていても無意味になっちゃったじゃん」

「結果論だろ」


呆れてため息が出てしまう。


「そろそろいいかな」


乳棒を置いて乳鉢の中で練られた薄緑色の軟膏を見る。

癒し草をしっかり擦り切れたようで、葉などの欠片は特に見受けられなかった。

後は効能を調べないといけないからと、とりあえずナイフを手に取るとすかさず瑠衣が俺の手首をつかんだ。


「…何する気?」

「いや、軟膏ができたから効果を確かめようと」

「どうやって?」

「治癒系だから軽く手のひら斬ってそこに塗ろうと」

「なんで手のひらなの!そこは普通指先とかでしょ!というか、自分を傷つけるのもダメ!!」

「いや、そんな深くは斬らないから大丈夫だって。ってか試すには怪我に塗らなきゃダメだろ」

「そうかもだけど…」

「まずそうだったらすぐに洗うから大丈夫だっての。だからほら」

「む~…」


不満そうに手を放す瑠衣を見て思わず苦笑を浮かべてしまう。

昔さんざん無茶したからか、どこか心配性になりすぎている気がする。

とりあえず手を放してくれたので、左手のひらをナイフで浅く斬る。わずかに血が滲んだのを確認した後、窯の中にある水で軽く傷口を洗い、水気を布で吸い取ってから乳鉢の中にある軟膏を少々人差し指で(すく)って傷口に塗った。


「どう?」

「ん~…特に問題はないかな。なんか傷口がむず痒いが」


傷口は軟膏でよく見えないが、さして悪化しているというふうには見えない。

少しするとむず痒さがなくなったので、とりあえず軟膏を洗って落としてから傷口を見てみると綺麗にふさがっていた。


「すげぇ、いくら小さい傷とはいえこうも早く治るとはな」

「材料はヒールポーションと同じなんだよね?」

「ああ。少しだけ作る気だったから同じ量は使ってないが、割合としては同じだ。だが、これだけ効果があるならそれなりの量作っておいた方がいいかもな」


俺の言葉にほっとしたようで瑠衣がふぅと一つ息を吐いた。


「本当はどこまで治療できるか試したいんだが…」

「絶対ダメ」

「わかってるって」


これ以上の実験となるとそれなりに大きな怪我をしなきゃいけなくなる。さすがにそこまではできないだろう。


「ま、とりあえず問題もなさそうだし、それなりの数を作っておくとしますか」


メモ帳で軟膏の分量と作成法をメモり、採取した癒し草と増強の実を取り出す。


「作るのはいいけど、入れ物どうするの?」

「ああ、見張りに入る前に和也の魔法で陶器の器作ってもらったからそれに入れてもらうよ」

「そっか」

「ってか、さっきからだべってるけど魔法の練習はいいのか?」

「復習終って暇になったの」

「さいですか。ま、軟膏作りながらでよけりゃ雑談に付き合うぞ」

「邪魔しない程度に話しかけるよ」

「そうしてくれ」


追加の軟膏を作りながら時折瑠衣と雑談をしていると、見張りの交代の時間が来たので和也達と交代し、眠りにつく。

その後特に起こされることもなく朝を迎え、朝食をとる。

そして野営の片づけを終えると生存者とライカンスロープの痕跡を探し、日が暮れるとまた野営をする。それを数日ほど続けたのちの夜。


「で、そろそろ皇国に行くのか?」


夕飯のスープを飲みつつ、和也が聞いてきた。


「だな。ここ数日探ってみたが生存者もライカンスロープの痕跡、両方とも見つからなかった。多分これ以上探っても意味ないだろうから明日にでも向かおう」

「じゃあ明日の予定は…」

「とりあえず俺が皇国で馬借りてくるから、馬車を使って商隊の品物を全部運ぼう。さすがに国内には入れることはできないから見張りが欲しいんだが…」

「それなら俺が見張りをやるぞ。瑠衣は敬に付いていなきゃいけないだろうし、玲は雑貨の買い物があるだろ」

「そうねぇ~。敬を一人にすると危なっかしいものねぇ~」

「おかしいな…一応まとめ役なのに信用されてないぞ…?」

「敬、無茶する時は一人でやろうとしちゃうじゃん」

「前科があるから否定できねぇ(´・ω・`)」

「というわけでストッパーとして瑠衣を付属しておく」

「私でストッパーになるかな…?」

「大丈夫よ~、敬君は瑠衣を巻き込まないためにも無茶しないでしょうから~」

「まあ、瑠衣がいるせいで騒ぎが大きくなる可能性もあるが、そこらへんは弁えているだろ」

「…俺ってそんなにわかりやすいかな…」

「瑠衣に関してはな。んじゃ俺が見張りで玲は買い物。敬と瑠衣が交渉でいいんだな?」

「だな。まあ、交渉の前に一回冒険者ギルド行くがな」

「宿はどうするの~?私が探しておこうかしら~?」

「ん~…」


交渉がうまくいくか、ノエルとシエルの状況等を鑑みると交渉の後で探した方がいいだろうが、そうなると下手すると夕方近くになって宿が取れない可能性も出てくる。

万が一にも貴族とのもめ事になった際、宿屋の主人に全員の顔を知られるのも厄介になるかもしれないが、俺と瑠衣、和也に関しては商人から情報が行くかもしれないし、それなら玲一人知らなくても変わらないか。


「そうだな、よろしく頼む。とりあえず二部屋、四人用と二人用のを取っておいてくれ」

「あら、二部屋だけでいいの~?」

「ああ、四人用は俺と瑠衣とノエルとシエル、二人用は玲は和也と一緒になっちまうがな」

「ん?なんでだ?」

「ノエルとシエルが貴族連中に目を付けられていた場合もめ事になるからな。一か所に集まると逃げにくくなるから、もし衛兵とかに追われる事態になったら二人が先行して逃げ道作ってくれ」

「あいよ」

「私は?」

「瑠衣は俺と一緒にこいつら担いで逃げる。移動は俺の風でどうにかするから」

「はーい」

「ま、そうならないのが一番なんだがな」


そう呟きながらもスープを飲み干し、空を見上げる。

暗くなった空にはポツポツと星の輝きが点り始めていた。




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