表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
神徒の遺跡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/145

第40話


聖都サントテフォワを後にして数日。

過去に神爺さんが連れてきた俺達より未来に住む異世界人達『神徒』が作った遺跡を求め、俺達は街道を外れて森の中を歩いていた。


「森の中の方が襲撃受けないってどういうことかね?」


過去に別の街に行くたびに魔物や盗賊などに襲撃を受けていたのだが、サントテフォワからここに来るまで襲撃らしい襲撃が一切なかった。


「ここは街道からかなり離れているからねー。盗賊とかは潜むには適さないんじゃないかな?」

「街からも離れているものね~。拠点を置くにしても利便性がないんじゃないかしら~」

「盗賊が利便性を求めるのもどうかと思うがな。それでシエル、あとどれくらいだ?」


和也の問いかけにシエルが広げている地図の一部を指さした。そこが今俺達がいる場所らしく、そこから少し動いたところに俺が書いた印がある。そこが以前万能の書で調べた神徒の遺跡がある場所だ。


「この距離なら到着するころには暗くなっていそうだな。どうするか…」

「暗くなってる時に調べるのは大変だよね。だから急ぐ?」

「だが、急いだってすぐに暗くなったらまともに調べられないだろ?ここはいったん休んだ方がいいんじゃね?」

「んー、確かに。何があるかわからない以上、下手に急いで大量消耗した状態で行くのは得策じゃないな」

「ならここで一旦休憩して、明日の早朝から出発って感じかしら~」

「それが一番だな。んじゃシエル、この近くで休めそうな場所はあるか?」


俺の問いかけにシエルは周囲を見回してからある方向を指さして歩き出した。

ついていくと少し歩いたところに少し開けた場所があった。


「シエルちゃんよくこういうところ見つけられるね」

「シエルは俺より空間把握能力が高いからな。今まで通ってきた道も覚えているほどの記憶力の高さも相まって道案内に関してはかなり有能だ」


セレスの言葉に俺は答える。その言葉を聞いてかシエルが少し得意げにしていたが、その代わりにノエルが少し落ち込んでいた。


「あら~、ノエルちゃんも回復の力が大分成長してきたから落ち込む必要はないわよ~」


それに気づいた玲がノエルの頭を撫でて慰めだす。すると俺の背中に張り付いているクーが服を引っ張り、俺の事をじーっと見ていた。その瞳に「私は?」という問いかけが浮かんでいたのは言うまでもない。


「クーだって聖都の方では嗅覚で調べるのを手伝ってくれただろ?ノエルもそうだし、クーだって役に立つ場面がまだ来てないだけで、十分に役立つ能力を持っているんだ。変に気にする必要はねぇよ。ほら、話をするのもいいがさっさと休む準備するぞ」


俺の掛け声にそれぞれが動き出した。クーも背中から飛び降りて瑠衣達料理メンバーの手伝いをし始めた。


「肉ってまだあったっけ?」

「干し肉ならまだあるよー」

「干し肉か…料理用に狩ってくるか。和也、テントの方は任せていいか?」

「ん、いいぞー。さすがにもう慣れたからな」

「ん、よろしくー」


そういって森の中に入ろうとした瞬間にクーが俺の背中に張り付いてきた。


「ん?ついてくるのか?」


俺の問いかけにクーが頷く。


「んじゃちゃちゃっと行くかー」


クーを背負って森の中へと入っていく。取り合えず獲物を見つけなきゃいけないが、どうするか。兎の様な小さい獲物だと数が必要になるし、かといえ大物はそう簡単に見つかるとは思えない。ちょうどいい奴がいればいいんだが…。

そんな事を考えているとクイクイとクーに服を引っ張られた。


「どうした?」

「…あっち」


そういって森の一角を指さした。


「あっちになんかいるのか」


コクリとクーが頷いた。


「んじゃ行きますか」


トンッと静かにジャンプして、手頃な高さの枝に飛び乗った。そしてそのままクーが示した方向へと行くと、体長150cmほどの猪がいた。


「お、いいのがいたな。よく見つけたな」


俺が褒めるとエヘンといった感じで胸を張っていた。


「んじゃとっとと捕まえるとしますか」


音を立てないように枝から飛び降り、その勢いそのまま猪の眉間へと拳を叩き込んだ。

全体重を乗せた一撃を受けた猪は短く鳴いてそのままバタリと倒れこんだ。


「うし、あとは血抜きをして…内臓はどうすっか…一応残しておくか」


木の根元に手頃な穴を掘り、その気に猪をぶら下げ、首を斬って中の血を全部抜いておく。穴に溜まった血はそのまま埋め、血抜きが終った猪を背負って瑠衣達の元へと戻った。


「ほい、ただいまっと猪狩ってきたぞー」

「わっ!立派な子だねー。そんなに時間かかってないけど良く見つけられたね」

「クーが見つけてくれたからな。血抜きは終わっている。内臓はそのままだから処理するならさっさとしちまえよー」

「はーい。あ、せっかくだから焼肉にしよっか。敬、匂いで魔物たちが引き寄せられても困るから何とかして」

「ほいほい。風のドームで匂いが上に飛んでいくようにするか」


パチンと指を鳴らして広場を立ち昇るような風が囲い込み、そのまま上空へと飛んでいくように風の流れを作っておく。


「ってかそういえば瑠衣、猪の捌き方知ってるのか?」

「知ってるわけないじゃん!万能の書で調べられない?」

「えーっと…あったあったほいよ」

「ありがとー、えーっとまずは…玲、63℃のお湯って出せる?それを当てながら毛を剥いで行くんだって」

「いいわよ~」


そんな話をしながら瑠衣達が猪を捌き始めた。俺はとりあえず和也の方へ行ってテントを張る手伝いをすることにした。さすがに俺も慣れたものでさっさと建てていく。

黙々と二人でテントを立てていると…


「ねぇ~、和也君ちょっと借りていいかしら~?」

「ん?どうした?」

「猪を捌き終えたから焼肉用に焼く土台が欲しいのよ~」

「あ~鉄板とかか。作ればいいのか?」

「ええ~お願いできるかしら~」

「あいよ。んじゃ敬、ちょっと行ってくるな」

「あ、せっかくだから石焼きにしね?こういう時にしか出来ねぇだろ」

「いいなそれ。じゃあそれ用に作るか。万能の書でどういうのがいいか調べていいだろ?」

「お好きにどうぞー。俺はこのまま寝床の準備しておく」

「ああ」


和也達が準備に向かったので俺もさっさと寝床の準備をしていく。

といってももうほとんどテントは建て終えたので、あとは荷物をそれぞれのテントへと押し込んで寝袋を敷いておく。ついでなので夜の見張りのために焚火の場所も作っておくが…。


「やべぇ、和也じゃねぇと椅子とか風呂場とか作れねぇ」


和也の土の魔法によって壁や風呂場、焚火の周囲の椅子などを作ってもらっていたのだが、俺自身にそれを作る能力はない。一応爺さん曰くほかの属性も扱えないわけじゃないみたいだが、和也のように短時間で壁や椅子を作ることはできない。


「仕方ない、飯食った後に頼むか。とりあえず…周囲の風の奴少し光とか混ぜて強化しておくか」


深夜の見張りが多少は楽になるように、匂いを上へと逃がすだけじゃなく、周囲から見えにくくしておこう。

少し意識を集中して周囲に展開させた風に光の魔力を混ぜて変えていく。

そんな感じで準備をしていると肉が焼けるいい匂いがしてきた。


「お、できたかな」


こちらもやることはやったので瑠衣達の処へと戻った。


「あ、敬。そっち終わった?」

「一応な。和也、飯終わったらでいいから風呂場と見張り用の椅子作っといてもらえるか?」

「あいよ」

「じゃあケイも来たことだし、食べよっか」

「だね~。はい、お箸とお皿よ~」

「サンキュ。んじゃあ…」


「「「いただきます!!」」」


「焼肉だと米が欲しくなるな」

「ご飯…最後に食べたのここに来る前だったよねぇー」

「久しぶりに白米食いたいなぁ…」

「コメってなに?」

「あーセレスは知らないのか。俺達が暮らしてた場所で主に食べられていたものでな。稲っていう植物の…あれ、種でいいのか?まあいいや、それを精米っていうまあ、殻を剥がす行為なんだが、それをして炊くとふっくらと炊き上がる食べ物なんだ」

「へー!そんな食べ物があるんだ」

「…セレスちゃんが知らないってことはこっちにはないのかな…」

「さてな。市場で見た事はないんだろ?」

「ないわね~。小麦がほとんどよ~」

「ワンチャン、神徒の遺跡にねぇかな」

「どうだろうな…かなり昔の遺跡だからあったとしても現存しているかどうか…」

「あー、確かに。にしてもどんな遺跡なんだろうな、その神徒の遺跡って」

「さてなぁ。万能の書で調べてみたが、それらしい知識がまったく書かれてなかったんだ」

「どういうこと?」

「神徒の遺跡で調べてみたが、内部がどうなっているかの説明がなくて、『過去に神によって連れられてきた神徒が残した遺跡』としか書かれていないんだよ」

「なんでそんなことに?あれって知りたいこと何でも書かれているんだよね」

「おそらくだが、神徒の遺跡が複数あって、それぞれで役割があるからじゃないかと考えている。だから遺跡の事を調べても総称としての情報だけで、個別としての情報が出てこないんだと」

「意外と不便なんだね」

「便利すぎても困るがな」


情報収集は人と人とのつながりを作るのも一つの目的だ。それをすべて万能の書だけで補ってしまうと、いざという時に困ってしまう。

それに文字だけではわからないその場の雰囲気も一つの情報になる。たとえ表向きは何も起こっていなくとも、その雰囲気の違いで事件の気配を感じることも出来るだろう。


「ま、とりあえず遺跡の探索は明日だ。見つかるかどうかもそうだが、何があるかわからないから気を引き締めておいてくれよ」


俺の言葉に全員が頷いた。



翌日。日が昇ると共に一通り朝食と後片付けを済ませ、俺達は早速遺跡がある場所へと向かった。

そして昼になる少し前ほどで目的の地周辺へと到着したはずなのだが…


「ここら辺…なのか?」


俺の言葉にシエルも地図を見ながら首をひねっていた。

到着した場所はただの森の中。洞窟になりそうな小山があるわけでも、穴らしきものもなく、周囲は特に目立ったものもない木々が生い茂っている森だった。


『ばしょとしてはここであっています』


シエルのそのメモに俺達は再度周囲を見回すが、それらしいものは何もない。


「大きな木があるって訳でもないし…本当にこんなところに遺跡があるのか?」

「万能の書に間違いがないのとシエルの案内に間違いがなければそうなるが…」

「どっちも信用できることだし、とりあえず周囲を探してみよっか」


俺達はそれぞれ手分けして周囲を探し始めた。


「んー…ん?おい敬―」

「あん?」


和也が何かを見つけたようで俺達を呼んだ。


「これ、なんか変じゃね?」

「どれどれー?」


和也が示したのは木のすぐそば、そこにある一本の石の棒だ。コケや蔦に覆われ、いまいち全容は見えないが、どこか人工物っぽい雰囲気がある。


「んー…とりあえずコケと蔦を取るか」


右手に風を纏わせ、掴んだ蔦を右手で斬って左手で苔を剥がしていく。そしてその石の棒の全貌が見えてくると確信した。


「これ、人工物だな」


綺麗な四角柱のその柱は泥などで汚れてはいるが、傷などは一切ついていない綺麗な黒色の石の柱だった。縦横およそ50cm、高さ1m程のその柱は玲が水で洗うときらきらと輝いて見えた。


「もしかしてこれが遺跡の?」

「入り口…を開けるためのなんかだろうな。さて、問題はどうやって開けるかだが…」

「こういう時こそ万能の書じゃない?」

「だな」


書を開いて調べてみると、どうやら石の柱の天辺に手を置けばいいだけのようだ。そして資格があれば扉が開くとのことなので…。


「とりあえず、えい」


躊躇なく手を置いてみた。


「け…敬、大丈夫なの?」

「危険はなさそうだから多分な」


心配そうに見ている瑠衣達をよそに、俺は石柱に変化がないか見ている。しかし今のところ何か変わった様子は見受けられない。


「………何も起きない?」

「資格がどうこう書かれてたからそれがないってこと…ん?」


さすがにもういいかと思って手を放そうとした瞬間、柱全体に光が走ったように見えた。


「ケイ!なんか魔力が…」


セレスが叫んだ瞬間、柱を中心に一瞬で足元に魔法陣が広がった。


「なっ…!?」


驚く間もなく、俺達全員は魔法陣の光に包まれ、その場から姿を消してしまう。

そして次の瞬間には…。


「ここは…?全員いるか?」

「うん…私は大丈夫…」

「私もいるわよ~」

「俺もいるぞ」

「私もいるよー」

「シエルとノエルは?」

「大丈夫、私の近くにいるから」


喋れないシエルとノエルは瑠衣の近くにいるようだ。そしてクーはいつも通り俺の背中に張り付いているみたいでとりあえず全員の無事を確認した。


「にしてもここはどこだ?ってか暗すぎて周囲が見えないんだが…」

「ちょっと待ってろ今灯りつける」


光の魔法で光球を生み出そうとした瞬間、バンッ!という音と共に無機質な光が俺達を照らした。


「あれは…LEDライト?」


俺達をてらした光は、元の世界でも見慣れたLEDライトの灯りだった。


「それにここ…どこかの廊下か?」


LEDに照らされた周囲は無機質な壁と天井、床だったが、これも俺達の世界ではそこまで珍しいものではなかった。


「…ここが神徒の遺跡ってことかね」

「多分そうなんじゃないかな…」


どこか不安そうな瑠衣の言葉に答えつつ、周囲を警戒する。おそらく先ほどの魔法陣はここまで転移させるための物だろう。

既にどこにいるか、出口などが把握できていない以上、何が起こるかわからない。警戒だけはちゃんとしておかないと。

そんな俺達の耳にコツンコツンと足音が聞こえてくる。

俺達は咄嗟にシエルとノエル達を護るように囲み、足音が聞こえてくる正面を見据える。

それぞれが武器に手をかけ、一瞬の隙すら見せないように警戒していると、徐々に足音の主が近づいてくる。そして姿を見せたのは…。


「ようこそお越しくださいました。私はこちらを管理しているメイド『クロエ』と申します」


メイド服を着た黒髪の少女、クロエだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ