第37話
サントテフォワ 大聖堂地下
「加減なしだと…!?貴様、今まで手加減していたというのか!!」
土で蓋をするように止血した左肩を抑え、眼前にいる上級魔族が驚くように叫んだ。
「殺さないように戦っていたことを手加減というならそうなんだろうな」
そう答えつつ、俺は魔族の血がかかった地面へとチラリと目線を向けた。
魔族の血がかかった場所、その付近の空気中の魔力がわずかだが揺らぎを見せている。おそらくあの周辺、もしくはこの地面ほぼすべてに魔法陣が描かれているんだろう。表面上に見えないことから、地面の浅いところに仕込んであるんだろう。さすがに見えない魔法陣の効果は読めない。つまりどんな効果だろうが妨害できるようにしなきゃいけないんだが…。
「ふざけるなぁ!!」
魔族の右手が俺へと向いた瞬間、俺は地面を蹴ってその場からすぐに飛び退く。その直後に地面から尖った石が飛び出し、その石を中心に周囲へさらに細い槍の様な石が飛び出し、飛び退いた姿勢の俺へと迫ってきた。俺も即座に左手から一気に風を吹き出し、体を上へと押し上げて石槍を回避した。そしてそのまま空中から一気に魔族へと迫った行く。
「ちっ!」
即座に俺の方向へと土の壁がせり上がり、そこから大量の石槍が飛び出してきた。
「ずいぶんとワンパターンだな」
「これを見てもそんな減らず口が叩けるかな!!」
その言葉と共に地面がひどく揺れ、魔族の後ろに巨大な土の山がせり上がってきた。
「まさかこいつを使うことになるとは思わなかったぞ…!」
土の山が振動し、その度にポロポロと余分な土がはがれていき、その巨大な姿が露わになっていく。
浮かび上がってくる模様はまるで爬虫類のうろこの様で、太い四肢、そして巨大な翼。その姿はまさしく…
「ドラゴン…だと…!?」
その圧倒的な姿に隊長さんが驚きの声を漏らしていた。
土で作り上げられた巨大なドラゴンはその目に本物さながらなどう猛さを宿し、俺を睨みつけてくる。
「これが俺の切り札だ!作り出すのに時間はかかるが、それでも貴様ら程度ではどうすることも出来まい!!」
自信に満ちた表情で魔族が言い放ってくるが、俺の頭には別の事が浮かんでいた。
「土のドラゴン…土の竜…土竜…モグラ?」
「貴様にはあれがモグラに見えるのか!?」
「ちょっと頭の中に浮かんだだけだから気にするな」
あのモフモフ害獣とは全く違い、目の前にいる土のドラゴンは迫力満点だ。俺は無意識に口元に笑みを浮かべていた。
「さて、作り物とはいえ初めてのドラゴン戦だ。その実力、とことん味合わせてもらおうか」
「その余裕そうな表情がいつまでもつかな!!」
魔族の言葉に呼応するようにドラゴンが俺へと噛みついてくる。
「ほっと」
それを余裕のある動きで空中に浮かぶことで回避し、そのまま浮上して距離を取った。
ドラゴンは俺を見てガパリと口を開けると、口から泥が大量に噴き出してきた。
「ぬおっ!?泥のブレスってか」
さすがに直撃したくはないので、ブレスを回避するが周囲にビチャビチャ音を立てて泥が張り付いていく。
飛び散った泥が隊長さん達へと降り注ぐが、二人もちゃんと避けていく。
二人と魔族の気配にも注意を払いつつ、とりあえずミスリルソードへと魔力を流し、風を圧縮しつつ纏わせる。様子見も兼ねて剣を振るい、真空刃を生み出して放ち、ドラゴンの首元へと直撃させるが、ドラゴンの首はかなり浅いところまでしか斬ることはできずにいた。しかもその傷もすぐにふさがってしまう。
土でできているのだから当然だろうが、それなりの硬度を有しているようだ。まあ、そもそも本来の生物ではなく、土が寄り集まってできている無機物である以上、首を斬り落としても意味はないのかもしれないが、物は試しという奴だ。
「ふはははは!貴様がいくら自由自在に風の刃を生み出せたとしても、このドラゴンには無意味!おとなしくこのドラゴンに押しつぶされてしまえ!」
「それはご免だ…よっと!」
放たれるブレスを次々回避していく。攻撃事態は回避ができるが、こちらも有効打がないのが現状だ。もともと土属性に対して風属性は相性が良くない。頑強な土属性に攻撃が軽めな風属性は効きにくい。それでも効果を出すにはそれ相応の準備が必要になってくる。
その準備をさせてくれるかどうかが問題なのだが…やれるだけやってみるとしよう。
右手でミスリルソードを握り、左手をグーパーと何度か開いては閉じていく。そして閉じた状態で左手へとどんどん魔力を集めていく。
「なにを考えているか知らんが…そんな余裕は与えん!」
魔族の言葉に呼応するようにドラゴンが大きく翼を広げ、羽ばたくと共に体が浮き上がった。
「その図体で飛べるのかよ!」
そんな俺の驚きをよそに、ドラゴンは翼を羽ばたかせて俺を喰らおうと大きな口を開けていた。少し虚を突かれたが攻撃を回避し、下に回り込んで顎を打ち上げるように左手で殴る。
しかし、左手が下顎へと直撃した直後、ズプリと下顎に左手が飲み込まれた。
「っ!」
「さあ捕らえたぞ!そのまま飲み込め!!」
その言葉に呼応するように左手が引っ張られるようにどんどん飲み込まれていく。
「そういうことかよ!」
土で固められているから一つの個体と思っていたが、どうやらこのドラゴンは泥としての特性も持っているようだ。底なし沼のようにもがけばもがくほど囚われるようだが、むしろこれは好都合。
「はじ…けろぉ!!」
左手で先ほどまで貯めていた風と自らの魔力から変換させた風を一気に解放させ、下顎から一気にドラゴンの顔面を吹き飛ばした。
「なっ!?」
魔族が驚いていたが、俺は即座にミスリルソードを鞘へと戻し、ドラゴンの上へと移動し、両腕を合わせて風と魔力を両手へと集め出した。
それと同時にドラゴンの首の土がグネグネうねりだし、断面から新しい頭が生成された。そして即座に体勢を立て直し、新しい頭で俺へと噛みつこうと口を開けて迫ってくる。
しかしそれより早く…
「吹き飛べ!!」
両腕に貯めた風と魔力を一気に竜巻としてドラゴンへ目がけて解放し、押し飛ばす。
ドラゴンも抗うように翼を広げるが、それはむしろ風の影響を大きく受けることになるから悪手となる。
周囲の空気を常時集め、そのまま竜巻として放っているので威力が落ちることはない。
そのまま地面へとたたきつけるが、それでも致命傷を与えることはできない。起き上がらせないためにそのまま竜巻を放ち続けるが、ドラゴンの動きが阻害されているだけで、ダメージにはなっていない。
このままだとジリ貧になってしまうので、何とかダメージを与える算段を付ける。
今は竜巻に使っている風は周囲から集めている空気と自分の魔力で5:5だが、それを少しずつ周囲の空気だけにして、自分の魔力を使わないようにしていく。
6割…7割…8割…少しずつ周囲から取り込んでいく空気を増やしていく。ドラゴンを自由にさせないように、威力を落とさないようにしつつ、割合を変えていき竜巻全てを周囲からの空気で賄えるようになった。
そして今度はその竜巻の中に、俺自身の魔力で変換させた風の弾丸を混ぜ、ドラゴンへと撃ち続ける。
放たれた弾丸がドラゴンの体へと入った瞬間、固められた空気がはじけ、ドラゴンの体を削っていく。ドラゴンもすぐに削れた部分の土がうごめき、修復しようとしていくが、それよりも早く風の弾丸を叩き込んでいき、どんどん体を削っていく。
「これで…どうだ!!」
風の弾丸の量を増やし、一気にドラゴンの体を破壊した。
四肢と首、翼が周囲へと吹き飛んでいく。とりあえず仮にここから修復されるにしても、それなりに時間がかかるはずだ。今のうちに魔族の方を倒せばドラゴンも倒せるはずだ。
そして見失った魔族の姿を探すと、少し離れた位置に立っていた。その目には憤怒の色が宿っていた。
「…まさかあのドラゴンを倒すとは…だが、これで終わりではない!俺には奥の手がある!!」
その言葉に呼応するように大地が突如輝きだす。
「これは…魔法陣!?」
隊長さんが驚いているようだが、俺は想定内。しかしその効果がわからないのが問題点だが、発動する前に止めればそれで十分だ。
「さあ、周囲全てを破壊する魔法陣!直撃すれば貴様も無事ではあるまい!魔剣の封印も、地上の大聖堂も、この街もろともすべて破壊しつくしてやる!!」
「やらせんよ!」
ミスリルソードを抜き、魔法陣の中心へと駆け出す。
セレスティアの一件以降、万能の書を教科書代わりに、セレスに魔法陣についていろいろと教えてもらっている。魔法陣は大きく分けて三つで構築されており、効果を発動させるための言霊。その言霊へと魔力を流すための魔力回路。そして回路へと魔力を流す核だ。
この中で即座に影響が出るのは魔力の供給源である核。そこを破壊すれば魔法陣全体へと供給される魔力も途絶え、発動前ならば魔力不足で不発させることも可能だ。
そしてその核は魔法陣全体に均等に魔力を供給するため、魔法陣の中心に設置される。
「ハッ!!」
魔法陣の核にミスリルソードを突き刺し、核を破壊するために風の魔力を送り込む。
ただ送り込むとそのまま魔法陣が発動しかねないので、各内部で風が生み出されるように展開し、内部から斬り裂いていく。それによって核が壊れ始めたようで、魔法陣の輝きがどんどん弱まっていく。
「なっ…!?馬鹿な!?一体なぜ…」
「さてな…わざわざ教えてやる義理はないだろう」
完全に魔法陣の輝きが失せ、効果を失ったのを確認してから剣を引き抜き、魔族へと切っ先を突きつけた。
「さて、まだ手はあるかい?」
俺の言葉に魔族は答えず、ただ膝を着いてうなだれていた。どうやら打ち止めらしいのでこれ以上追撃することはせず、捕らえる事にした。
こうして魔剣をめぐる魔族との戦いは静かに決着を迎えたのであった。




