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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
グランフォール皇国
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第3話


翌日、朝食を終えて野営の片づけを終えた後、地図を開いて襲撃現場にあたりを付ける。


「え~っと…確かシエルと出会ったのがこの辺…だったかな?」


全員が地図をのぞき込む中、森の一部を指で示す。

俺達が来た場所、そこから移動した方向と距離を考慮した大体の位置だから多少のズレはありそうだが。


「んで、え~っと…ここがノエルとシエルが分かれた場所で、そこからこの方向に行ってここで合流したから…」


指でルートをなぞっていくと、シエルが地図の一か所を指さした。

そこはグランフォール皇国に向かう街道から少し外れた森の中だった。


「そこで襲われたのか?」


問いかけるとコクリと頷く。


「よく覚えてるね…」

「…助けている途中も今まで通った道中を覚えているようだったし…。空間把握能力と記憶力がいいのかもな。一度通った場所を覚えているとかそんな感じ」

「なるほど、じゃあそこに行ってみるのか?」

「だな」


元々は大雑把に襲撃場所を推測して端から調べていく感じで行こうとしてたんだが、シエルのおかげで大分時間が短縮できそうだ。

地図を丸めてバックに入れ、背負ってから立ち上がり、腰の左右にそれぞれ剣を差す。


「んじゃ行きますか」


俺の言葉に全員頷き、シエルが示した場所へと向かった。


「にしても…」


出発してから少ししておもむろに和也が口を開く。


「襲撃された場所街道からずれてたけど、なんであんなところにいたんだろうな」

「ん~…思い浮かぶとしたら…野営してたとかじゃね?皇国まであと半日はかかりそうな距離だし」


この世界では半日はだいたい6時間くらいだ。日が暮れ始めていたとしたら、皇国に急ぐよりも一度野営してから出発する方が余裕が出てくるだろう。


「でも、私達がシエルちゃんと会ったのだいたいお昼過ぎだよね?その間ずっとあそこにいたのかな?」

「あ~…確かに。人数が多かったりすると動きがその分鈍くなるが…まあ、そこらへんは調べに行けばわかるだろ」

「もし取引の途中とかで襲われてたとかだったらどうする?」

「面倒くさくて考えたくないので放置で」


実際、もし取引の途中だったとしたらその進展具合によってどっちに所有権があるかが変わってくるからそれを調べて…いや、むしろ所有者両者死亡ってことですんなり引き取れる可能性が…?


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、なんか嫌な臭いがした気がしたんだが…」

「ん~?」


俺の言葉に全員が鼻をひくつかせて周囲の臭いをかぐが、それらしい臭いはしない。


「…しないわね~。気のせいじゃないかしら~?」

「いや、多分気のせいじゃない」


そう言ってから地図を取り出し、その場に体を屈めて全員に見えるように広げた。

え~っと、出発地点と方向、んで移動時間を考慮すると…。


「………!」


現在位置を算出しようとしているとシエルが地図の一か所を指さす。


「……そこが現在位置なのか?」


そう聞くとコクリと自信に満ちた表情でうなずいた。


「すごいね…私全然わかんないよ…」

「そういえばシエルの魔法の適正は空間把握に優れておったのぅ」

「ん?なんだ爺さん、起きてたのか」


ひょっこりと俺のポケットから顔出したネズミがそのまま俺の肩に乗る。


「まあの。敬よ、お腹がすいたぞい」

「飯はおととい食べただろ」

「毎日食べさせてあげようよ…。はい、乾パンだけどいい?干し肉だと塩分が濃すぎるから」

「構わぬ。ありがとの」


瑠衣から乾パンを受け取り、もしゃもしゃと食べ始めた。

にしても、いつの間にシエルの魔法適正なんて調べたのやら。


「シエルの適性が空間把握として、ノエルは?」

「ノエルは治癒の適性じゃの」

「ふむふむ…。ならしばらくは玲と一緒に治癒魔法の練習かね」

「そうね~、頑張りましょうね~」


ニコニコと笑う玲にノエルはコクリと頷いた。


「ま、そこらへんも全部片づけて二人を引き取ってからだがな。っと、話が脱線しちまったから戻すぞ。さっき言った異臭だがやっぱ予想通り、血の臭いだ」

「じゃあ襲撃現場が近いのか?」

「ああ、シエルが言った場所のとおりだ。ただ、覚悟しておけよ。多分結構悲惨な状況だぞ」


洞窟のように空気がこもりやすい場所じゃないのに、一日経過後の血の臭いがするってことは、それだけの量が流れているってことだ。はてさてどんな地獄絵図やら。

シエルに方向を指示してもらい、移動しているとどんどん血の臭いが濃くなっていく。


「……そろそろか。瑠衣と玲はノエル達とここにいろ。この臭い…視るには刺激が強いと思うからな。和也はどうする?一緒に行くか?」

「ああ、お前だけだと大変だろ?」

「悪いな。瑠衣達はここで周囲の警戒を頼む。多分大丈夫だろうがウェアウルフもいるかもしれねぇからな」

「うん、気を付けてね」


瑠衣達を残して俺と和也は襲撃現場へと向かった。


――――――――――――――――――――――――――


和也と共に訪れた襲撃現場は凄惨な物だった。


「予想はしてたがひっでぇな…。大丈夫か和也?」

「ああ、一応な…」


強がりな言葉の割に和也の顔は真っ青だ。

それもそうだろう。目の前にはボロボロになって倒れた三台の馬車に、おそらくウェアウルフだろう、獣に食い荒らされた複数の死体。そして護衛が撃退したのか数体のウェアウルフの死体。馬や人の内臓までも散乱していて、耐性が無い奴だったらすぐに失神してもおかしくない状況だ。


「むしろなんでお前は大丈夫なんだよ」

「ん~…昔ちょっとな。さすがにこういう状況って訳じゃないが、とある一件からどうにもこういうのに感情が疎くなってな…」

「とある一件ってなんだ?俺も知ってる奴か?」

「いや、瑠衣しか知らんよ。中学の時の事だからな」

「ああ、そうか。俺たちが会ったのは高校になってからだからな」

「ああ。ま、それはそれとして。とりあえず情報を探ろう。和也は馬車の方を頼む。この世界で紙は貴重だろうが、契約のための書類とかはあるだろうからな」

「わかった。探しておく」

「馬車の中も似たような状況かもしれないがな。俺は外の遺体を探ってみる。何かわかったら教えてくれ」

「あいよ」


和也は血だまりを踏まないようにしながら馬車へと向かい、俺は周囲を少し探ってみると野営の跡がわずかに残っている。おそらく野営の片づけをしている途中で襲われたのだろう。

外には護衛なのか、何人か武装した人物の遺体があった。服装は騎士というより冒険者に近い。おそらく移動中の護衛を任された冒険者だろう。

祈るべき神は俺のポケットにいるが、一度手を合わせてから衣服を探る。護衛に失敗した未熟者と罵られるかもしれないが、命を懸けて戦った以上最低限の敬意は払って然るべきだろう。

服の中にはそれぞれの冒険に使う非常食やたいまつといった、冒険の必需品ばかりだったが、リーダーらしき人物の持ち物には依頼書があり、そこには以来の内容が書かれていた。

依頼内容は商隊の護衛。依頼主は…『マルシャン商会』。え~っと…万能の書によると奴隷はもとより武器や薬。あまり表立って取引できない違法品なども取り扱っているのか。通常の商品なども取り扱っているようだが、主な収入はそっちの方面か。…これは難儀しそうだな…。

にしても死体がそのまま放置されているというのも変な話だ。食料目当てで狩りに来たのなら、死体を巣に持ち替えると思うが…それとも目的が別なのか?それともあれが群れの全てで狩りをするメンツとかを分けているわけじゃないのか?


「おーい、敬」

「和也?何か見つけたか?」

「ああ、ほら」


そういって和也が見せてきたのは書類の束だった。


「運ばれてた奴隷のリストだ。契約書の様なものは見つかってないから、おそらくここで取引をしていたって訳じゃなさそうだ」

「だな。軽く見回してみても野営の跡がわずかだが残ってる。おそらく出発直前か、野営の片づけを終えたところをウェアウルフに襲われたんだろう」

「みたいだな。馬車の中でも何人かの奴隷が食い殺されてた。あれだけの数に囲まれて逃げ場を奪われたんだろう。よくノエル達は逃れられたな」

「依頼受けた冒険者が戦ってたみたいだし、壊されている馬車もある。おそらくその混乱で包囲の外に飛び出たんだろう。そこで逃げ出して、俺達と出会ったって感じだろうな」


和也から書類の束を受け取り、パラパラと中を見る。

書類の中身は取引履歴と在庫関連で、おそらく内部にあるであろう武器防具、そして奴隷たちの名前が書かれていた。ノエル達の名前もしっかりとある。


「ふむ…和也、調べた馬車に武器防具とかはあったか?」

「いや、なかったぞ。あったのは大きめの袋が一つと椅子とかだな。多分商人たちが乗ってた馬車じゃねぇかな」

「なるほど。袋の中身は何だった?」

「金貨が大量にあったぞ。売上とかだろ」

「ちょっと確認しておくか」

「馬車に入ればすぐにわかると思うぞ。俺は別の馬車にほかの商品がないか確認してくるわ」

「よろしく。回収できるもんは全部回収しておいてくれ」

「あいよ」


和也と入れ替わりに馬車へと入る。和也が言った通り袋は馬車の隅に置かれており、すぐに目についた。

持ち上げてみるとジャラリと音と共にずっしりとした重みを感じる。中を見てみると大量の金貨が詰まっていた。

これが全部金貨だとしたら…重さ的に500枚以上あるな。手付かずなのは食えないからだろうな。盗賊だったら持ってかれてただろう。

和也が今調べているがほかの商品の状態次第で交渉が大分楽になるかもな。

袋の口を結んで背負う。

え~っと、これでノエル達がいた証拠となる帳簿。売上金と残りの商品。あと現在のノエル達の所有者と言える商会の名前。全部わかって回収できたわけだから…あとは大丈夫かな。

できればウェアウルフに襲撃されたという証拠があればいいんだが…そこらへんはさすがに無理か。それならここの場所だけ覚えておいて後で調査に来てもらうか。


「おーい、敬ー。ちょっと来てくれー」

「ん?」


和也に呼ばれて外に出てみると、一つの馬車の前で和也が困ったような表情をしていた。


「どうした?商品全部壊れてたか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが…ちょっと中見てくれ」

「ん~?」


和也に言われ、馬車の中を覗き込んでみると大量の木箱が目についた。


「…まさかこれ」

「察しの通りだ。全部武器防具だ。おそらく商品の仕入れの後だろう」

「…まじかー…これ10箱近くはあるぞ。どうやって運ぶべきか…」


本来ならそこまで遠くでもない皇国か手近なところで馬でも借りて馬車を引かせて運ばせるのが楽なんだが、これから2・3日周囲を散策する以上そこらへんは現実的じゃない。

かといってここに放置しておくと別の冒険者や盗賊に持ってかれる可能性もあるしな…。

とりあえず中身の確認ってことで適当に箱を開けてみると剣や弓がぎっしり入っていた。


「これは武器か。ちょっと外に置いておいてくれ」

「あいよ」


ずっしりとした木箱を和也に渡し、そのあと別の木箱を開ける。ってか、結構な重さなのに普通に持てるな。これも恩恵の一つかね。

次に開けた箱の中には鎧が数点押し込まれていた。傷物にしないようにか多少気を付けてはいるみたいだが、扱いは少し雑な感じだ。

着ている状態じゃないとはいえ、剣などより嵩張るからそこまで数は入れられないようだ。


「ほい、次これ。これは鎧系だからかそこまで数が入っていないみたいだ。といっても全身セットだからそれでも重いがな」

「ういうい~」


そんな調子で次々に木箱を開けて中身を見ていく。ほとんどが武器防具だったが、ひと箱だけ食料が入っている木箱があった。旅の蓄えかそれともこれも商品かは後で台帳を確認しておこう。


「んで、どうするんだこの量」

「ん~…とりあえず俺のマジックバッグに放り込んでおくか。俺の奴と混ざっても困るし俺の元の荷物は預かっといてくれ」

「あいよ」


とりあえず今入っている道具をすべて取り出す。

錬金セットに非常食、メモ帳セットと万能の書はどうするか。これ結構使うから手元に置いておきたいんだがな…。


「ってか、俺の荷物お前に預ければよくね?」

「ん~…交渉やるときできれば俺とノエル達だけで行きたいんだが…」

「なんでだ?」

「リスク軽減のため。貴族に目を付けられた場合、俺達全員より俺だけの方がまだマシだろ」


そういうと和也の表情がわずかに険しくなって渡した道具を押し付けてきた。


「和也?」

「いいか敬。俺は馬鹿だからお前がどこまで考えているかわからない。今後の事も考えてリスクとかを懸念しているんだろう。だがこれだけは言っておく」


いきなり和也に胸倉をつかまれて引き寄せられる。


「俺達はお前の荷物になるためについてきたんじゃねぇ。お前だけリスク背負って俺たちは安全圏にいるってのは納得いかねぇんだ」

「だが…」

「お前が俺たちの事を考えているのはわかる。俺たちが付いてきたとはいえ、元はお前があの爺さんに頼まれた一件だ。できる限り危ない目に遭わせたくないとか考えてんだろ」


…ほんとなんでこいつはこういうところだけは察しがいいんだ。

俺が主導で動く限り、魔族と人間の争いによって利を得ている奴らから目を付けられるのは俺だろう。

目立てば目立つほど邪魔になり、命を狙われる。暗殺すらしてくるだろう。俺が死んでそれで終わりならそれはそれでまだいい。

だが、そいつらは瑠衣達も狙う可能性がある。俺の意思を継ぐ可能性。それを見逃すとは思えない。わずかとはいえ可能性の芽は摘むためにこいつらの命まで狙われることを考えると、俺だけが目を付けられた方が…。


「お前が命懸けでやるなら俺達だって命を懸けてやる。それだけの覚悟があって付いてきたんだ。お前だけに無理をさせないために来たんだ。それを忘れるな」

「和也…」


…多分こいつは俺が考えている可能性までは気付いてないだろう。だが、それでもここまで言ってくれるのなら…それに応えなきゃ男じゃねぇよな。


「…はぁ。お前のその無駄な察しの良さ、なんとかしろよな」

「ハハハ!お前相手にはこれくらいがちょうどいいだろう!お前はいつも一人でなんとかしようとするからな」


胸倉から手を放し、代わりに俺の背中をたたきながら豪快に笑う和也に対して俺は苦笑を浮かべるしかなかった。


「やれやれ…。ま、そこまで言うならちっとはリスク負ってもらうかね」

「任せな!それで中の奴を全部持っていけばいいんだよな?」

「いや、できれば木箱も持っていきたいからそれも持っていこう」

「木箱もか?なんでだ?」

「俺一人で交渉に行くなら仕方ないと思ってたが、できればこのアイテムバッグの存在を相手…というか、商人に悟られたくないんだ」

「そうなのか」

「ああ。内容量がほぼ無限のバッグとか商人からしたら喉から手が出るほど欲しいだろう。それにこういった希少性の高いバッグとかをどこで手に入れたのかとか、調べられて困ることも出てくるだろう。妙なことで目立つと後の計画に支障がでかねないんでな」

「そういうもんか?」

「そういうもんだ」

「なるほどなー。で、どうやってこれバッグの中に入れるんだ?明らかにバッグの口よりでかいぞ」

「………」


和也の問いに俺は答えが出てこなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「敬達遅いねー」

「そうね~」


ノエル達と共にいる瑠衣達は木陰に腰を下ろして敬達の帰りを待っていた。

ノエルとシエルもそれぞれ瑠衣達の近くに座っているのだが、落ち着かないのか時折周囲をきょろきょろと見ていた。


「やっぱり落ち着かないわよね~」

「まあ、私達がいるとはいえここで襲われたからね。やっぱり不安なんでしょ」


なんとなく近くに座っているシエルの頭を撫でてあげるときょとんとした表情をしていた。


「そういえば瑠衣…一つ聞いておきたいんだけど~」

「なに?」

「敬にはいつ告白するのかしら~?」

「なっ!?」


突然の質問に一気に顔が真っ赤になった。そんな様子を見て玲は楽しそうに微笑んでいる。


「あら、おかしな話でもないでしょ~?一緒にいたいからってわざわざこんな異世界にまで付いてきたんだから、それだけのことをしてもいいと思うんだけど~?」

「………告白…か…どうしよう」


どこか自嘲じみた声に玲は首を傾げた。


「しないの?」

「してもいいのかな…って思ってね」

「どういうこと?」

「敬は…私のせいで大変な思いさせちゃったから。だから私にそんな資格あるのかなって…」

「それってどういう…」


玲が問い詰めようとした瞬間、ガサリと茂みが動き、ノエルとシエルが怯えるように体を震わせた。


「戻ったぞー」


茂みから和也と共に姿を現すと、ノエルとシエルがほっとした表情をしていた。


「おかえりなさい。成果はどうだった?」

「上々。一応この後また生存者探しに行くが、それが終って皇国に行くときにまた寄ることにしたがな」

「何か用事があるの?」

「ああ、馬車の中に商品として扱うであろう武器防具があってな。一応全部回収はしたが交渉の時に持っていきたいんで馬車にでも放り込んで持っていこうと思ってな」


ノエル達と一緒にきた瑠衣と話していると玲の方へと和也が行く。


「なんかあったのか?」


瑠衣達の方をじっと見ていることに気が付いた和也が玲へと声をかけるが…。


「…ねえ、和也君。あの二人の過去に何があったか知ってるかしら~?」

「ん?俺も知らんぞ。敬の奴とつるむようになったのは高校に入って少ししてからだからな」

「そう、私も同じくらいなのよね~」

「…あ、でもさっき、敬の奴気になること言ってたな」

「気になること?」

「ああ。さっき襲撃現場を調べたわけだが、そこが結構悲惨な状況でな。俺も気分が悪くなったんだが…敬の奴平然としてたんだ」

「悲惨ってどれくらい?」

「下手なグロ画像よりグロイ感じだったな。まあ詳しくは言わないでおく。んで、疑問に思って聞いてみたら、中学の時にあった一件からそういう部分に疎くなったって言ってたんだ」

「中学の時の一件…瑠衣が言ってたのもそれに関することかしら…」

「瑠衣が何か言ってたのか?」

「告白しないの?って聞いたら私のせいで大変な思いさせちゃったから、そんな資格あるのかなって言っていたのよ~」

「むぅ…あいつらしか知らない事件が過去にあったんだろうな」

「…敬から告白されるのを期待してもいいと思う?」

「ダメだと思うぞ。多分あいつ瑠衣の気持ちにも気づいているだろうし、あいつ自身好意を寄せているだろうけど、なんかいろいろと面倒な方向に考えて動けなくなってそうだから」

「あの二人、変に不器用よね…。どうしたものかしら」

「少なくとも過去の一件がどんなのかわからない限り打つ手はないと思うぞ。それにあいつら二人の問題だからな。下手に俺達がちょっかい出し過ぎると余計にこじれるだろう」

「そうなのよね~。普通の状態なら傍観しておくのだけど、あの二人どうにもお互いに遠慮している感じだからどっちかの背中押さないといけなさそうなのよ~」

「まあ、確かにな。だが変に焦る必要もないだろう。まだ時間もあるし、敬だってあの神爺に頼まれたことだってあるんだから」

「そうね~。私達も彼の足手まといにならないようにしないといけないし~。これから大変なことになりそうね~」

「ついてきたこと、後悔してるか?」

「むしろワクワクしているところよ~♪」

「俺もだ」


二人が笑いあっていたので、話に一区切りついたとみて声をかける。


「話終わったか?」

「あら、待っててくれたのかしら~?」

「まあな。なんか相談してるみたいだから少し待ってた。ちなみになにを相談してたんだ?」

「内緒よ~♪」

「あっそ。ま、問題ないならいいがな。んじゃ予定通りここを中心に周囲を散策して生存者、もしくはその痕跡を探すぞ」


俺の言葉に全員がうなずいた。


その後しばらく周囲を散策していたが、特に目立った痕跡などは見つからなかった。


「なにも見つからないねー」

「ほかに逃げた人がいないのか、それとも見つからないように隠れているのか…どっちだろうな」

「さてな。俺としては生存者だけじゃなく、ウェアウルフの痕跡すらないのが引っかかるがな」

「どういうこと~?」

「あれだけの数がいたんだぞ?群れとして縄張りがあったはずだ。その縄張りの形跡が見当たらないってのが気になる。なーんか、きな臭さを感じてきたぞ」

「きな臭さ?」

「20匹近くいたのにリーダー格がいなかったこと。それなりの群れなのに縄張りの形跡がない事。それだけを見ると…誰かがあいつらを操っているって可能性が出てくるんだよ。可能かどうかはわからんがな」

「なるほどなー。で、どうする?まだここら辺探索するか?」


和也に聞かれ、空を見てみると日が沈みだしているようで夕日でオレンジ色に染まっていた。


「ん~…さすがにそろそろ切り上げた方がいいだろうな。野営にいい場所探すか」

「だねー。どこかいい場所無いかな」


さっきまで散策していた中でよさそうな場所がいくつかあったが、どれが一番近かったかな…。

周囲の地形と位置関係等を頭に浮かべて候補を考えていると、クイクイとシエルが袖を引っ張ってきた。


「ん?どうした?」


シエルは俺の袖を引っ張りながら森の中を指さしていた。


「ちょうどいい場所があるのか?」


コクコクと頷いた。


「んじゃ、そっちいくか」

「シエル、案内よろしくね」


ふんすと意気込んでからシエルと森に向かって歩き出し、俺達もそれについていく。

少し歩くといい感じに開けた場所へと到着する。


「あれ、こんなところにあったのか」

「しかも結構広いな。ちょうどいいんじゃないか?」

「だな。んじゃ野営の準備をするか。瑠衣達はまた焚き木をよろしく頼む」

「うん、任せて」

「うし、んじゃ和也。またテント作るぞ」

「おーう」


それぞれが野営のために動き始めた。

テントを設営し、料理のための場所やテーブルを和也が作り終えたところで…。


「お風呂に入りたいわね~」


焚き木を集め終えた玲が唐突に言い出した。


「そうだね~。ここに来てからずっと森の中を歩いたり戦ったりしたから、大分汚れちゃったもんね…。」

「ん~…風呂か…和也、いけるか?」

「必要な物っつうと…風呂釜と浴室か。風呂釜は岩風呂でいいよな?」

「だな。あとは浴室だが…」

「せっかくだから露天にしないか?星も綺麗に見えるだろうし」


空を見上げてみると夕日は沈み、ちらほらと星が光っていた。


「悪くはないとは思うが…俺達男勢はともかく、瑠衣達は恥ずかしいんじゃないか?」

「あー、それもそうだな。んじゃ囲い程度は作っておいて空だけ見えるようにしておくか」

「だな。できるか?」

「少し時間かかるが別にいいよな?」

「大丈夫よ~。どうせこれから夕飯作るわけだし~」

「んじゃ、その準備の間に作ってきちまうよ」

「手伝うか?」

「敬は玲達の方を手伝ってやってくれ。こっちはそこまで苦労しないだろうし、できることほとんどないしな」

「あいよ。もし手が必要になったら呼んでくれ」

「ああ」


返事をしてから和也は森の中へと入っていった。一応索敵で魔物が和也の近くにいないか気にしておくか。

瑠衣と玲はそれぞれフライパンと鍋を使って簡単な料理を作っており、ノエルとシエルはその手伝いをしていた。


「………あれ?俺、やることなくね?」

「う~ん…確かにこっちは手が足りないって訳じゃないからね」

「まあ、普段大変でしょうからこういう時位は休んでいてよね~」

「ん~…まあ、とりあえず明日散策する範囲決めつつ休んでおくわ。手が足りなかったら呼んでくれ」

「うん」


少し離れた木陰に座り、地図を広げる。日が暮れたので暗視が必要になってくるが、そこまで問題にはならないだろう。

襲撃現場を中心にそれなりの範囲を探ったが生存者の痕跡もウェアウルフの痕跡も見つからなかった。生存者に関してはいないと考えることも出来るが、ウェアウルフの痕跡がないのがどうにも気になってしまう。考え過ぎだろうか。


「おい爺さん」

「ん~…?なんじゃ?」


ポケットからモゾモゾとネズミの爺さんが顔を出した。


「お前今まで寝てたのかよ…まあいい。一つ聞くが、魔物を従える事ってできるか?」

「む?確かに魔法の中に魔物を従える物があるが…魔獣ほど高度な知能はもたぬからそこまで利便性はないぞ?」

「ん?魔物と魔獣って違うのか?」

「うむ。空気中の魔素が宿って変質した動物が魔物。隷属化した動物に魔力を送り込むことで生み出されるのが魔獣じゃ。

 宿る魔力の質によってそれぞれ知能や実力が変わっておるが、魔物に関しては質が低い魔素が宿ることから知能などは低く、ほとんど本能で動く動物のままじゃ。

 魔獣も送り込まれた魔力の質によって能力は変わるが、高い知能を有しており、高位の魔獣となるとその実力は下手な魔族すらも上回るほどじゃ」

「なるほどね…。あれだけの数が群れで動く理由があるとすれば…」

「まあ、十中八九リーダーが居るだろうの。おそらく狼の魔獣『ライカンスロープ』じゃ」

「ライカンスロープねぇ…。ウェアウルフと名前が違うだけで同じ存在だと思ってたが、こっちでは上位種なのか」

「うむ。狼を魔法で隷属化させ、魔獣化という魔法を使うことでライカンスロープにすることができるのじゃ」

「ふむ。ちなみにそれは魔族だけの魔法か?人間も使えるのか?」

「人間も使えるぞい。というかの、人間だけ、魔族だけという魔法は存在せぬのじゃ」

「そうなのか?」

「うむ。それぞれ別方向の魔法の発展をしたというだけで、学べばどちらの魔法も使うことは可能じゃ。まあ、互いにそれぞれの魔法は禁忌とされておるがのぅ」

「ふぅん…。ま、禁忌と言われても調べて研究するやつはいるだろうな。ってことは今回はそいつの仕業と考えていいのか?」

「おそらくのぅ。ライカンスロープが野良という可能性もなくはないが、ここにはおらぬじゃろう」

「野良のライカンスロープもいるのか?」

「そこまで多くはないがの。ライカンスロープに限らず、魔獣は契約者が死ぬとそのまま野良化するのじゃ。新しい契約者を探す者もおるが、中には隠居する魔獣もおる。そしてこうやって人族の領域で悪さをする奴もの」

「ふむ、魔族の侵攻、人間の実験、野良の魔獣の悪さ。そこらへんが思い浮かぶ可能性か」

「20を超えるウェアウルフの群れとなるとそこらへんが可能性として高いかのぅ」

「まあ、使役されていると仮定したとして、あの数がすべてとは限らんしなぁ…。そこらへんの可能性をまとめて、皇国に付いたら冒険者ギルドに報告しておくか」

「お主が解決しないのかの?」

「しようにも情報が不足しすぎてるし、そこらへんやってる余裕があるかわからん。それにあの数が全滅したんだ。少し頭が回る奴なら様子見をするためにおとなしくするだろう。そうなると調べるにも時間がかかるし、そこまで長居する気もないしな」

「むう。まあ、お主がそう考えるのならよいがの…」

「敬―、ご飯できたよー」


丁度話の区切りがついたところで瑠衣が呼びに来た。


「ん、わかった。んじゃ和也も呼びにいかんと」

「和也君なら玲が呼びに行ったよ」

「ああ、そうなのか。んじゃ集まったら食べますかね。今後の方針に関してまた共有しておかないといけないしな」


立ち上がると、肩に爺さんが乗ってきた。


「さっき何か話してたみたいだけど、何かわかったの?」

「ん~、分かったというか、だいたい推測できたってだけさ。そこらへんは夕飯の時にでも話すよ」

「うん」


その後和也達と共に夕飯を食べながら先ほどの考察を伝える。


「と、おおよそだがそんな感じだと予測がついた。んで、今後の事だが、とりあえず通常通りもう少し周囲の散策をする。今度は生存者の捜索と一緒にライカンスロープの手がかりを探す。何か質問はあるか?」

「そのライカンスロープってやつ?そいつは見つけて倒すのか?」

「いや、そこまではやらない。まあ、見つけたら見つけたでその時に考えるが、多分見つからないだろう」

「なんで?あのウェアウルフを率いているなら近くにいるんじゃない?」

「その可能性もあるが、まずあれだけの数を倒せる戦力があるということに気づくはずだ。無能な奴ならそれ以上の力でねじ伏せてくるだろうが、そうじゃなければ様子見してくるだろう。だから現段階ではライカンスロープの調査、痕跡の発見を目標にして、皇国についたら冒険者ギルドに報告して後を任せる。それが基本方針だな」

「いいのかしら~?私達が知ったのなら私達が解決するべきなんじゃないかしら~?」

「別にいいんじゃね。そういった依頼を受けて対処するのが冒険者ギルドの仕事だからな。事前に危険の気配を察知したなら、それの調査も仕事の内だろうさ。それに多分ノエルとシエルの一件でそこまでやってる余裕もないかもしれないし」


名前を呼ばれたからか、ノエルとシエルが顔を上げて俺の方を見ていた。


「この二人を引き取るにしても、一つか二つは騒動が起きるだろう。だからそっちのほうにかかりきりになるだろうからな」


わしゃわしゃと二人の頭を両手で少し乱暴に撫でるが、撫でられた二人はどこか嬉しそうだ。


「ま、ウェアウルフの一件は後は冒険者に任せて、俺達は俺達でやるべきことをやりましょってことで。とりあえずグランフォールに着いたらなんだが、どれだけいられるかわからんから交渉係と補給係とで二手に分かれようと思う」

「というと?」

「交渉係はさっき言ったようにノエルとシエルの一件を商会に報告して、そのまま引き取る。んで補給係は今後の旅で必要になりそうなものを買っておいてもらいたい。食料とかノエルとシエルに関する旅の必要品とかな」

「それは急ぎなの?」

「急ぎというか、落ち着いてからだと間に合わない可能性があるってだけだ。って訳で今のうちに組み分けと必要な物を決めちゃおう。グランフォールに行くまでに追加分も合わせて書き出しちまおう」

「書き出すのはいいが、交渉と買い出し班はどう決めるんだ?」

「とりあえず交渉役は俺ともう一人だが…誰が来る?俺一人でもいいが…」

「それは却下だ」


和也にあっさりと却下されて思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「んじゃ、誰が来る?」

「交渉とかできないから俺は無理だぞ」

「私はいろいろと買っておきたいものがあるから買い出しの方がいいわね~」

「じゃあ…私かな?でも、いいの?役に立てるとは思わないけど…」

「構わんよ。ってか多分喋るのほとんど俺だし。ただ、何かあった際にノエル達を護るのを手助けしてくれればいい」

「ん、わかった」

「んじゃ、とりあえず今のうちに欲しいものでも書き出しておくか。あれば購入、なければどこかで手に入れればいいって感じで」

「予算はどれくらいかしら~?」

「ん~…そこらへんは任せる。というか、だいたいの相場の方も調べておいてくれ。あ、でも和也の分の金貨はこっちで預からせてくれ。使うかどうかはわからんが、ノエル達を引き取るときに金が足りないってなったら困るし」

「おう、わかった」

「それじゃあ一応金貨100枚を予算にしておくわね~。今後の旅の資金とかも考えて…30枚ほど残して後は宿代等を含めて…実際に使えるのは多くて70枚くらいかしら~」

「まあ、だいたいそれくらいで考えればいいだろう。6人分の食費に二人分の雑貨費に装備代等々考えれば多くてもそこらへんでどうにかなるだろう」

「わかったわ~」


そんなこんなで今後購入する予定の物を話し合い、だいたいメモに取ってから夕飯を終わらす。


「んじゃ、片付けはこっちでやっとくから、瑠衣達はノエル達と一緒に先に風呂入っちまえ」

「いいの?」

「ああ、というか浴室とかは俺が作ったが、お湯は張ってないから玲に張ってもらった方がいいぞ」

「ん?湯を沸かすのはどうするんだ?」

「火魔法をポーンと」

「放り込めってこと?!」

「またむちゃくちゃだなオイ」

「沸かす場所を作ろうと思ったんだがうまくいかなくてなー。とりあえず風呂場の端に湯沸かし窯を作りはしたが、そこらへんはぬるくなった際に温度調整のお湯を沸かすためで最初から沸かすことができそうになかったんだ。それに今晩だけだろ?だったらそこまでこだわる必要もねぇだろ」

「あー。それもそうか。んじゃ片付ける前に薪だけでも用意しておくか…。ちょうどいいのあるかなぁ…」

「適当にそこらへんの斬ればいいんじゃね?」

「いや、枯れ木じゃないと水気があるから燃えにくいんだよ。だから落ちてる枝とかを薪にするのがいいんだが…風呂用のだと結構量必要になるかもなぁ…」

「んじゃ片付け俺がやっとくか?」

「ああ、先に始めててくれ。俺は俺で終わったら手伝うから。んで瑠衣と玲は風呂の方行っときな。薪の準備できたら入り口付近に置いておくから」

「うん、わかった」

「じゃあお願いね~」


ノエル達と瑠衣達に預け、ここを和也に任せ俺は森へと入っていく。

適当に周囲を散策しつつ薪を集めつつ、索敵を済ませた後に集めた薪を風呂場の入り口付近に置いておく。


「薪置いておくからなー」

「ありがとー」


声だけかけてから和也の元へと戻り、片づけを済ませて今度は野営の準備へと取り掛かる。

和也が四方に作った石の椅子の中心に薪をくみ上げ焚火の基礎を作る。


「ねぇ、敬君~」


声をかけられ、顔を上げると風呂上がりだからか少し頬を染めた玲が立っていた。


「どうした?ってか、瑠衣は?」

「瑠衣は今ノエルちゃんとシエルちゃんを着替えさせているわよ~」

「あっそう。ってか手伝ってやれや」

「私は少しあなたとお話ししたくてね~」

「今度はお前かい」


俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。昨日の野営で瑠衣に不安を打ち明けられ、今日の探索時に和也に怒られ、今度は玲。はてさて何を言われるのやら。


「今度はってどういうことかしら~?」

「瑠衣と和也にもいろいろ言われたんだよ」

「それはお前が一人で何でもやろうとするからだ。俺たちは足手まといになるために付いてきたんじゃないんだからな」

「ん~…まあ、そうなんだろうがな~」


実際必要以上にリスクを分散させる理由はないんだよなぁ…。俺だけにリスク集めればそれだけ対処方が楽になるんだが…。


「却下だ」

「心の声を読むな。んで、話は脱線したが玲は何か言いたいことがあったんじゃないか?」

「ええそうよ~。瑠衣の事なのよ~」

「瑠衣?あいつがなんかあったのか?」

「何かあったって訳じゃないんだけど~…敬君は瑠衣のことをどう思っているのかしら?」

「また唐突だな。なんかあったのか?」

「いいえ、特に何もないわよ。ただ…こんな異世界にまで付いてきたわけだから思うところはあるんじゃないかしら?」

「あ~…う~ん…まあ、ないわけじゃないが…俺もあいつも昔いろいろとあったからな…」

「いろいろって?」

「言う気はない」


バッサリと言い切る。

これに関しては俺だけじゃなく瑠衣にも関係する以上、俺だけの一存で話すわけにはいかない。しかもあいつにとっては嫌な思い出でしかないんだ。わざわざ思い出させる必要もないし、あんな因縁、さっさと忘れ去った方がいいんだ。どうせこの世界に来た以上今後関わることなんてないんだし。


「ただ、俺もあいつもろくでもないことに巻き込まれたってだけだ。んでそれで俺はろくでもないことをした。ただそれだけだ。あいつは俺にそれをやらせた罪悪感を持ってるだろうし、俺は俺でこんなろくでなしに付き合うのは損だと思ってる。ただそれだけだ」


本来なら高校卒業と共に瑠衣とは距離を置くつもりだったんだが…それも無理になったからなぁ…。ま、それでも…。


「あいつとの向き合い方くらいは一考しておくよ」


出来なかったことに足を取られているなんてナンセンスだ。未来が変わったならそれに見合った見方をしないとな。


「そう、今はその答えで満足しておくわ~」

「にしても、なんでそこまで瑠衣の事を気にしてんだ?こっちの世界に付いてきた理由も瑠衣だろ?」

「そうね~。まあ理由としては…和也君とほとんど同じかしら~」

「俺と?」

「あの子は私の親友だから、だからあの子の助けになりたいのよ~」

「ふぅん…」


言葉ぶりからなんかほかにもありそうではあるが…ま、俺も言わないんだ。わざわざ掘り下げる必要もないだろ。


「あれ?みんな集まってどうしたの?」


着替え終わったのか、大きめの服を着ているノエル達と瑠衣がこちらに来た。


「ん、ちょっとな。ってかその服どうした?」

「着替えがなかったから私の替えの服を貸したのよ。サイズ合わないから着せるの苦労したよ…」

「ああ、なるほど」


二人の姿をよく見てみると、上着の裾は膝上近くまで来ており、下に履いているズボンは何度も裾が折られている。首回りもだぼだぼだからか鎖骨が見えていた。


「一応二人の装備も考慮していたが、私服も購入リストに入ってたっけ?」

「入れてあるわよ~」

「んじゃいいか」

「ああ、そうだ。敬、丁度全員いるし少し確認したいんだが、今後の見張りはどうするんだ?」

「どうするって?」

「お前、昨日の見張り瑠衣と一緒にやってただろ?」

「あら、そうなの~?私だけゆっくり寝ちゃってたのね~」

「私は寝付けなかったから敬と話してただけなんだけど…」

「それでも二人で見張りしてたことには変わりないだろ。んで、どうする?今後の見張りに関しては」

「一人でやるか二人ペアにするかってことか。ん~…まあ、瑠衣と玲にも見張りに慣れてもらった方がいいと思うが…二人はどうしたい?」

「私はやりたいかな」

「私もよ~」

「了解。んじゃ二人ずつでペアとするか。組み合わせは…」

「敬と瑠衣、俺と玲でいいだろ」

「ですよね」


まあ、わかっていたことだけど。

そんな時にクイクイと裾を引っ張られる。

見下ろしてみると、ノエルとシエルがこっちをじっと見ていた。


「…お前たちはおとなしく寝ていろ。子供は寝て育つもんだ」


大方自分達も見張りに参加すると思ってたんだろうが、戦闘能力がないこの二人が参加しても意味はないだろう。

しかし、その言葉を聞いた二人はしょんぼりと肩を落としていた。


「…ねえ、敬…」

「言わんでもわかる…。やれやれ…あのな二人とも」


しゃがんで二人と目線を同じにする。


「お前らはまだ子供だ。できることだってそこまで多くない。それに俺達と出会ったばっかりで何ができるかも俺達もわからん。だからまずは成長すること。そしていろいろとみて、学んで、できることを増やすこと。それがお前たちのやるべきことだわ。分かったか?」


俺の言葉を聞くが、二人はどうにも納得していなさそうだ。


「はぁ…はっきり言って今のお前たちに価値はない」

「おい、敬!」


俺の言葉に和也が声を荒げるが瑠衣がそれを宥めた。


「だがな、俺はお前たちの成長に期待している。お前たちは頭がいい。学習能力も高い。だからできることはどんどん増えていく。俺が期待しているのはそれだ。だから今はいろんなことを学べ。瑠衣や玲とできることを教われ、俺達だってできることは教える。そして様々な物を見て何ができるか考え続けろ。それがこれからのお前たちの仕事だ。俺が与える最初の仕事だ。できるな?」


その言葉に二人はうなずいた。奴隷として売られようとしてたんだ、奉公して当然の状態で何も仕事を任されないというのも不安なのだろう。

実際の話、文字を教えていてその学習能力の高さに驚いた。いくら万能の書があるとはいえ、教え、教わり、習得するのに時間を有するだろう。かなり簡略化したとはいえ、昨日のあの短時間の勉強で文字を理解し、書けるようになるのは難しい。それなのにできたということはそれだけの学習能力の高さがある、ということだ。それを活かせば今後かなり役に立ってくれるだろう。それまではいろいろと学んでもらわんと。


「んじゃ、納得してもらったとして今の時間は…20時半か…また微妙な時間だな…」

「見張りするなら時間を固定したほうがいいだろう」

「そうだね。じゃあ…22時から明日の6時の8時間を半分ずつで分けたらどう?」

「そうね~。それくらいならある程度は休めるでしょうからね~」

「問題はそれまで何をするかだな…。模擬戦でもするか?」


時間的に真っ暗であまり模擬戦には向かないが、魔物が活動を主にしているのは夜間だ。暗視があるとはいえ、夜間の戦いに慣れておくのも一つの手だった。


「ふむ、時間があるならお主等に魔法の授業をするかの?」

「魔法の授業?」

「お主等はこの世界の魔法について詳しくないじゃろ?説明は軽くしたがほんの触り程度じゃ。じゃからもう少しこの世界の魔法について教えようとおもっての」

「なるほど。それじゃあ頼めるか?」

「うむ。では21時から始めるとしようかの。それまで必要なことがあれば行うがよい」

「あいよ。ってか野営の準備も微妙なところだな」

「あ、続きは私達がやっておくよ。敬達もお風呂入らないと」

「それもそうだな。んじゃさっさと行ってくるか」

「おう、そっちもなんかあったら呼べよなー」


野営の準備の続きを瑠衣達に任せ、俺と和也は風呂へと向かった。



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