第29話
聖都サントテフォワ
和也達と別れ、俺達はとりあえず聖女プリエが現在身を寄せているという教会へと来た。
「ここに聖女さんが?」
「ああ。ほら、入り口に騎士がいる」
民衆へと解放されている教会だからか、素朴で物静かな雰囲気の教会なのだが、その入り口に番をするように聖騎士と思わしき人物が二人、全身鎧に剣を持ち立っている。
「ここは民衆に解放されている場所だ。最低限警護は必要だろうが、普通は鎧を脱ぐなり、もう少し親しみやすいようにする。あんなフル武装じゃ威圧しているようなもんだ」
「つまりそれだけ重要な人がいるってことだね」
「そういうこと。ってか、あれじゃあ聖女がここにいるって伝えているようなもんだろ」
「むしろそれが目的かもよ?」
「というと?」
セレスの言葉に瑠衣が首を傾げていた。
「下手に聖女の居場所を隠すと、血気盛んな人たちが無差別に他の教会を襲いかねないでしょ?そうなると無意味に被害が出かねない。だからあえて聖女がいる場所を教えるように動いて、他の処に被害が出ないようにしてるとか」
「あー、あり得るなそれ。さすがに聖女がいないとわかっている処に襲撃かけるほどの正統性はもたないだろうしな」
そんな事を話しながら教会の入り口へと向かうと、騎士がこちらを一瞥した。
「すいません、こちらに聖女プリエ様はいらっしゃいますか?」
「…あなた方は?」
声をかけた俺達に胡乱な目を騎士が向けてきた。
「申し遅れました、自分はケイ、旅人です。この街へと入る前に聖女様とお会いしまして、その時にこちらへと身を寄せていると伺いましたので、改めてお伺いしました」
俺のその言葉に二人の騎士は目配せしあい、片方が教会の中へと入っていった。
「今確認しますので少々お待ちを」
その後、少ししてから先ほど中に入っていった騎士が出てきた。
「お待たせいたしました。聖女様がお待ちですのでどうぞ中へ」
チラリと残っていた騎士の方へと、出てきた騎士が目配せをしてから俺達を中へと招いた。
教会の入り口をくぐると大きめの礼拝堂がそこには広がっており、騎士はその奥の扉、おそらく教会の関係者の住居区画だろう。そこへと案内されていく。
「聖女様は司祭様とご一緒に応接間でお待ちです」
応接間と思われる場所の前で騎士はそういい、コンコンと扉をノックした。
「どうぞ」
中から司祭だろうか、男性の声が聞こえてきた。
「失礼します」
騎士が挨拶と共に扉を開け、中へと入っていく。俺達も騎士の後について室内へと入った。
室内は簡素な内装で、観葉植物が一つ部屋の隅にあり、質素なテーブルと二つのソファが部屋の中心に置かれていた。聖女であるプリエと司祭と思わしき男性が二つのソファの内一つに並んで座っていた。そして護衛の溜めであろう、エクスがプリエ達の斜め後ろに立っている。
「ケイさん、ようこそお越しくださいました」
「どうもです。一応宿が決まったのでその報告と今後の相談にと思いまして」
「はい、司祭様にも話は通してありますので、まずはお座りください」
笑顔で挨拶してくるプリエにこちらも挨拶を返し、対面のソファに座ることを勧められたので、素直に座る。
二人掛けソファなので、俺と瑠衣が座り、クーは瑠衣の膝の上、セレスは俺達の後ろをふよふよと浮いている。その後、教会に勤めている職員らしき人が、人数分のお茶を持ってきてくれた。
俺達を案内してきた騎士はエクスへと目線を向け、エクスが頷いたのを確認した後に一礼してからその職員と共に部屋を後にした。
「さて、ではまず神父様のご紹介を。この教会で司祭を務められているグイード様です」
「グイードです。お話はプリエ様より伺っております。危ないところを助けていただいたとか…」
司祭服を着ているおよそ50代ほどの温和な雰囲気の男性が穏やかな笑みを浮かべて頭を下げた。
「いえ、たまたま鉢合わせただけですので…。プリエさんよりお話を伺っているとのことなので、こちらの紹介はいいですかね?」
「ええ、大丈夫です」
「では早速ですが、今起こっている勢力争いについてお話してもいいでしょうか?」
「はい。プリエ様に伺いましたが、外で教皇様に暗殺部隊を送られたとのことですが…」
「確実な証拠はないですがおそらく。少なくとも組織的な暗殺者達が狙っていたのは事実です。ただ一つ気になることがありまして」
「気になること?」
「ええ。どうもあの暗殺部隊ですが、プリエさんの殺害を目的としたわけではなさそうなんです」
「どういうことです?」
俺は和也から聞いた話を元に、推測したことを話した。
「つまり、あの暗殺部隊の目的は私の殺害ではなく、私を襲撃したという体裁目的だったと?」
プリエの言葉に俺は頷く。
「しかしなぜそのようなことを?」
「おそらくですが教皇自身、もしくはそれに近しい者達も今回の対立が何者かに扇動されていると勘づいているのでしょう。その扇動にある程度乗ることで黒幕を泳がせ、捕らえるつもりだと思います」
「なるほど」
「それで、こちらでもある程度貴族派の方を探りたいのですが、司祭様。貴族の方から何かしらの圧力はありませんでしたか?」
「確かにいくつかの貴族から圧力がありましたが…」
「もしかしてすぐ解除されましたか?」
俺の問いかけにグイードが頷いた。
「敬、どういうこと?」
「可能性の話だが、圧力をかけてきた貴族の背後にはおそらく黒幕となる魔族がいる。魔族は圧力をかけることで民衆の不満を増大させるつもりだったんだが、それを教皇が気づき、まだ大きな被害が出てない状態でやるのは危険とか言ってやめさせたってところじゃないかと思ってな」
「ということはその貴族の背後に魔族が?」
「さすがにそこまですんなりと尻尾を掴めるとは思えんがな」
まともな貴族であれば、いくら民衆に解放されてるとはいえ、教会にそうそう圧力をかけたりするとは思えんが、驕り高ぶった馬鹿な貴族であればそれも簡単にやりかねない。
「ちなみに、その圧力をかけてきた貴族というのはどれくらいの爵位を持つ人たちでしたか?」
「ほぼ子爵や男爵ですね。伯爵も一応おりましたが、それでもその中でも子爵寄りの方ですね」
「ふむ…」
「その人たちの背後に魔族がいるってことなのかな?」
「違うでしょ」
瑠衣の言葉をセレスが即座に否定した。
「教会への圧力はそれくらいの権力者でも大丈夫だろけど、教皇さんに意見するには少なくとも侯爵レベルじゃないとできないと思うよ」
「だな。おそらくその子爵や男爵はそいつらより高位の爵位の人物に命令されてやったんだろう。つまりその背後にいる貴族で教皇へと進言できるだけの地位を持っている人物。それが最有力候補になるな」
「なるほど」
「といってもこっちとしては貴族派に関しては手を出すことはできない。あくまで情報の一つとして考えておくべきだろう。で、問題としては民衆派の方だ」
「貴族派の方は教皇さんに意見が言えるって判別方法があるからまだ調べやすいけど民衆派はそういうのないからねぇー」
セレスの言葉に俺は頷いた。
「プリエさん、司祭様、お二人の絶対的に信用できる人物などはいらっしゃいますか?」
「一応何名かはいますが…」
「その人たちに扇動してる人物を調べて欲しいんだ。酒場や大衆食堂のように人が集まる場所を回ってもらって勧誘してる人がいたらその人の特徴を覚え、できる限り調べて欲しい」
「いいですけど、見つかりますかね…?」
「見つからないにしても、何度か集会してるだろ?そこに行けば扇動者は来るはずだ」
「多分だけど、何人か集まっている処に世間話みたいな感じで貴族に対する不評を広げたりしてるんじゃないかなー?私だったらそうやって煽るよ」
「じゃあいろんなところでそうやって話している人を見つけ出せばいいんですね?」
「ああ。いくつかの酒場や集会で同じようなことをやってる奴がいれば、そいつかもしくはそいつの背後に魔族がいる可能性がある。ただ、その分こっちも気づかれる可能性があるからできる限り慎重にするように伝えてください」
「わかりました」
これでとりあえずの方針が決まったので、その後それぞれの連絡手段などを伝えた。
「さて・・・それじゃあ俺達は別の教会でもちょっと話を聞きに行きたいので、そろそろここらへんで」
「ケイさん、それでしたらこちらで紹介状を書きましょうか?」
「いいんですか?」
グイードの提案に首を傾げる。現時点では確かに味方とも取れるが、それでも俺達は先ほどあったばかりだ。紹介状何て書くほど信用されているとも思えない。
「大丈夫ですよ。他の教会でも今回の勢力争いの影響が出ています。それについての事を話したい旨とその件に関してあなた方は信用できると伝えるだけですので」
「なるほど」
確かにそれだけに関してなら書いても問題ないだろう。
「ではお願いできますか?説明の手間が省けるのならありがたいので」
「わかりました。しばしお待ちを」
笑みを浮かべ、自室へと向かうためかグイードが部屋を出ていった。
「そういえばケイさん、こちらへ来る際に貴族派からの動きがあったりしましたか?」
「いや、特になかったけど…そっちはどうだったんです?」
「こちらも今のところ特にはないですね。私達と一緒に来たので、何か動きがあるかと思いましたが…」
「まあ、そのうち何か動きがあるでしょう」
実際に何かされたわけではないが、すでに動いているみたいだしな。
そんな事を考えつつ、お茶を飲み、雑談していると扉が開いてグイードが入ってきた。
「お待たせしました。こちらが紹介状です」
そういって一枚の紙を差し出してきてくれた。
「こちらを見せればすんなりとお話しできるでしょう」
「ありがとうございます」
「それとこれも」
そういってもう一枚紙を差し出してきた。
「これは?」
「先ほど話に出てきた圧力をかけてきた貴族達です。何かの役に立てばと」
「ありがとうございます」
「まだ表立っていないですが、ところどころでもめ事が起こっているようなので、ケイさん達もお気をつけて」
「ええ、そちらも何が起こるかわかりませんし、お気をつけて」
最後にそれぞれ挨拶を済ませて俺達は教会を後にした。
その後別の教会に行き一通り話を聞いていく。
「ほかの教会にも圧力かけてたみたいだねー」
「だな。しかもほとんど同じ貴族達だ」
「これならもう特定できるんじゃない?」
「背後関係さえわかればな」
「それで次はどうするの?」
「んー…そうだな…」
とりあえずいくつかの教会で話を聞けたから、今後の貴族派に対しての動き方は判明した。問題は聖女派の方だが…そっちに関してはまだ情報収集の途中だ。それなら今後の事も考えて…そろそろ接触するか。
「セレス、瑠衣。クーを連れて先に宿屋に戻ってもらっていいか?」
「いいけど…敬はどうするの?」
「ちょっとやることがあってな」
「…会いに行くの?」
瑠衣のその問いかけに俺は頷いた。
「…そっか、気を付けてね」
「あいよ」
俺は短くそう答えて瑠衣達から離れた。
「…瑠衣、敬はどこに行くの?」
「会いに行ったんだよ。今回の一件のもう一人の中心人物。教皇さんに」
俺は瑠衣達から離れ、人がいない裏道を通っていく。風の力で気配を探ってみるが、きちんとついてきている。
「ここでいいか」
足を止め、振り返る。
左右に建物があるせいで薄暗くなっており、周囲に人の姿は見えないが、気配だけは感知している。
「出てきな。話がしやすいように一人になってやったんだからな」
そういうと一拍開けてから俺の視線の先、建物の角の影が濃い場所でゆらりと何かが動いた。そして全身黒のフードで覆った人物が姿を現した。
「…やっぱあんたか。街道でプリエを襲った際に仕切ってた奴だろ」
顔は見えていない。だがこの気配、雰囲気は間違いなくあの時の男だ。
「……いつから気づいていた?」
「最初から。サントテフォワに来た最初から見てたのは気付いてた。ただ、さっきも何もなく、監視してるだけだったみたいだからな。別に知られて困ることも今のところないし、放置してただけだ」
「………」
「さて…単刀直入に言わせてもらおう。教皇に会わせてもらおうか」
不敵に笑う俺を男はただじっと見つめていた。




