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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
水の都セレスティア

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第23話

セレスティア 海牛の嘶き


セレスが目を覚まし、手伝ってくれたことで魔術の改良はすんなりと進んで翌日にはもう完成していた。


「さすがこの魔術を作った張本人。おかげで大分余裕ができたよ」

「まあ、一度作った物だからね。それで肝心のコアは?」

「これくらいしかできなかったけどどうかしら~?」


そういって玲が渡してきたのは小石程度の魔石だった。


「一日でこれくらいか…魔石って本当に作りにくいんだな」

「そうなのよ~。頑張ったのにこれくらいしかできなくて、ちょっとショックだったわ~」

「もともと魔石って複数人で作ったりするものだから仕方ないよ」

「なにそれ初耳」

「言ってなかったかの?」

「聞いてないわね~」

「これからは魔術や魔法に関してはセレスに聞いた方がいいんじゃね?」

「だな」


和也の提案に俺は頷いた。


「でも、セレスちゃん、なんでそんなに魔術の事に詳しいの?別にそういう学校に行ったとかじゃないよね?」


セレスはこの街の子だ。今はそれなりに栄えてはいるが、当時はそこまででもないはず。学校だとしても王都の様な優れた教育場というより、教会とかが行る簡易的な教育と行った方がしっくりくるだろう。


「ん~…私達の時代だとこれくらいは普通に教わるよ?王都とかだともっと上の魔術とかも教わるらしいけど…」

「それだけ発展していたってことか」

「だが今はそこまででもないだろ?なんでだ」

「ん~…私も詳しくはわからないけど…もともと魔術が最も発達していたのって私のいた時代よりももっと前のことだからね~。そこで発達した魔術が伝えきれなくて徐々に衰退していったってかんじっぽい?」

「あー、わからんくもない。よく一子相伝とかあるけど、それだってすべてを伝えきれるわけでもないわけだし、その後発展するか、衰退するかは受け継がれていく者の資質次第だから」

「うん、私が生きてた時一度だけその時代の魔術見せてもらった事あったけど、何書いてあるかすら理解できなかったよ」

「セレスちゃんでも理解できないって…私達じゃ無理そうだね…」

「敬ならワンチャン」

「万能の書があること前提だろうがな。それでも理解できる気はしないが。ってかそれだけ高度な魔術がなんでかなり昔からあったんだ?」

「え~っと…私もあまり詳しくは知らないけど、なんか遥か昔に『神徒』って呼ばれる人たちを神様が連れてきたんだって」

「神に?」

「うん。で、その連れてきた人たちが魔術とかを作り上げて発展させていったって言い伝えで聞いたよ」

「へ~…」


セレスの言葉に瑠衣は熱心に聞いていたが、俺としてはそれよりも『神が連れてきた人達』という部分が気になった。


「爺さん」

「今は待つのじゃ。お主の懸念に関してはお主にだけ教えておく」


俺が声をかけると爺さんがこっそりとそう答えた。

何やらいろいろと事情がありそうだし、どうも俺に頼まれた案件とは別でまた厄介事がありそうだが…まあ、それはあとでもわかるか。

とりあえず早いうちに知っておきたいが…。仕方ない。


「とりあえず話は戻すが魔術の構築に関しては完了しているから、セレスと玲はもう少し魔石に魔力送っといてくれるか?」

「いいわよ~」

「魔術をやるのはいつやるの?」

「今日の深夜にやる予定。魔術の中心はあの噴水だろ?さすがに人前でやるわけにもいかないだろうし、深夜なら人の目もそこまでないだろう」

「ん、わかった。じゃあそれまで私の魔力も混ぜて魔法陣との親和性を上げておくね」

「ああ、頼む。俺はちょっと爺さんと話すことがあるから少し席を外す。クーは瑠衣と遊んでな」

「むー…」


いささか不満そうな表情を浮かべるクーを瑠衣へと押し付けておく。


「話す事って?」

「ちょっとな。必要になったらそん時に瑠衣達に教えるよ。んじゃちょっと席を外すな」

「おう」


和也達を残して俺と爺さんだけ寝室へと移動する。

とりあえず爺さんをテーブルの上へと乗せて、俺は適当に椅子に座った。


「んで?神徒ってのは何なんだ?何のために連れてきた」

「順番に話すから待つのじゃ。そうじゃのう…儂が神徒と呼ばれる奴を連れてきたのは人類と魔族が産まれてそれなりに時間が経った時じゃ。お主の世界と同じ世界から連れてきた者達じゃの。まあ、時間軸は大分先じゃが」

「大分先って具体的には?」

「そうじゃのう…西暦で言えば…およそ3000年ほどじゃの」

「俺達が生きてた時代より1000年先じゃねぇか。なんでそんなところから」

「わかりやすく言うとあの時代は技術者があぶれておったからじゃ」

「あぶれてた?」

「うむ。お主等の時代はまだ技術は発展途上じゃ。故に個人でできる部分も多々あったのじゃが…さすがに1000年も経てばそれもなくなる。一応その時代は宇宙への進出もすでに完了しておりはしたが、じゃからといって個人でできることの幅が広がるというわけではない」

「そうなのか?」

「仮に未開発の惑星を見つけたとして、そこを開拓することが個人でできると思うかの?」

「…あ~、なるほど」


確かに俺達がいた時代はパソコンのおかげで様々な人が繋がり、それによってさまざまな需要が生まれ始めていた。

SNSに始まり、物書きやデザイン、プログラムなど個人でできることがそのまま商売につながりやすくもなっていたが、それは今までなかった物や求められていた物などが目につきやすくなっていたからでもある。

だがそれが何年も続けば当然ある程度の事は出そろう。

汲まれていくプログラムはより洗練に、便利になっていく。

物書きに関しては新たなジャンルが生み出されなければ廃れていく可能性もあるし、デザインに関してはよほどの個性がなければ埋もれてしまいかねない。

爺さんの言う通り発展途上であればまだ個人で開拓する余地はあるだろうが、ある一定水準まで行ってしまうと、企業のように人材や金を持っている者達の独壇場となる。

そしてそういったところではよほどの実力者でなければ技術者はあぶれてしまってもおかしくはないだろう。


「儂はあぶれておる技術者の中から実力を持っているものを呼び寄せ、希望する者をこちらへ送った。当然必要な知識などを与えてのう」

「至れり尽くせりだな。こっちにもそのサービスよこせよ」

「お主等には装備と万能の書を渡したであろう。あ奴らがこちらへ来た時、まだ文化という文化すらなかったからのう…」

「ふぅん…それで、なんでその状態の世界に呼び寄せたんだ?」

「一つは魔術や魔法といった技術を生み出すためじゃ。神徒たちによってそれは確立した。まあ、あやつらが作った物が高度過ぎて徐々に衰退しておるがのう…」

「それは仕方ない。んで、一つはってことは他にもあるんだろ?」

「うむ…それはじゃのう…」


爺さんがどこか言いにくそうにしている。


「なんか懸念事項でもあるのか?」

「まあのう…これを言ってもいいかどうか…というよりか伝えるべきかどうか…」

「ん~…」


もう巻き込まれている後だから今回の件以外ってことになるが…そうなると思い浮かぶのは…。


「もう一柱の神についてとか?」

「なっ!?お主なぜそれを!?」

「あ、当たりなんだ」

「……お主、まさか適当に言っただけなのか?」


その言葉に俺は頷くと、爺さんは呆れたようにため息を吐いていた。


「まあ、まったくのあてずっぽうって訳じゃないけどな」

「どういうことじゃ?」

「この世界には大きく分けて人間族と魔族がいるだろ?神がお前だけならわざわざ二つに分ける理由は無いと思ってな。無駄に争わせる可能性も出てくるし、現に今あんたはそれで頭を悩ませてるわけだし。だから、爺さんとは別の神がどっちかを作ったと考えた方がしっくりくるわけだ」


まあ、他にもクーの様な獣人もいるわけだし、エルフの様な亜人だっている可能性もある。セレスの様な精霊もいるわけだから神が二柱だけって訳でもないかもしれないが。


「……お主のそういう妙に鋭いところを買ったわけじゃが、間違っていなかったようじゃのう」

「んで、結局もう一柱の神が問題なのか?」

「うむ、あやつは魔族を作ったのじゃが…いかんせんあやつ自身血気盛んでのう…それが魔族にも反映されておったんじゃ」

「…もしかして今起こってる魔族と人間の争いって…」

「察しの通りもう片方の神が起こした物が長引いておるのじゃ。争いの結果文明が廃れて、途中で何度か沈静化することはあったのじゃが、それでも技術が発展すればまた争いあうという形になってのう…」

「んじゃあセレスがいた時代は?」

「おそらく発展途中で争いが収まっていた時代じゃろう」

「ふぅん…んじゃあ魔術とかが衰退したのはその争いの影響か?」

「どうじゃろうか。それもあるかもしれぬが、多分伝えきれなかったというのも原因の一つじゃと思うぞ」

「ふぅん…」


どういった形で伝わっていたかが疑問でもあるが、口頭であれば伝言ゲームよろしくカオスな間違いになりかねないし、紙や木版といったものであった場合、戦いのさなかに使い物にならなくなっている可能性もあった。


「…そういえばふと思ったけど、神徒ってこの世界の文化を作ったりもしてたんだよな?」

「ある程度はじゃがの」

「ってことはこの世界の文字ってそいつらが作ったのか?」

「うむ。覚えているのは…『せっかくだから俺達で新しい文字作ってみようぜ!』って言ってアルファベットをベースに何か試行錯誤しておった事じゃの」

「絶対日本人いただろ。それ明らかに日本人の悪ノリだろ」

「まあ様々な国の技術者を引っ張ってきたからのう…。とりあえず話を戻すが、神徒達を連れてきた理由じゃが、先も言ったように魔族と人間が争う危険性があったのじゃが、それだけで済めばまだよい方だと思ったのじゃ」

「というと?」

「さっきも言ったじゃろ?もう片方の神は血気盛んじゃと。場合によってはあやつ自身が乗り込みかねなかったのじゃよ。じゃからその対策を任せたのじゃ。現に何度かあ奴は乗り込もうとしておったからのう…儂が一応抑えたから事なきを得たが」

「まじかよ。そいつは今は?」

「あまりにも過干渉がすぎるのでのう、神界…お主等を最初に呼んだ場所じゃが、そこの奥に封じたわい」

「封印が解ける可能性は?」

「0ではないとしか言えぬのう。一応ある程度封印を維持するための力は向こうに残してはあるが…それをかいくぐってくる可能性はある」

「なるほどなぁ…」

「お主にだけ話したのはそれがあくまで可能性の話というだけじゃからじゃ。いらぬ不安を煽る必要もないじゃろう」

「ごもっとも」

「それともう一つ、これはお主にとっては朗報じゃ。この世界に降りた神徒じゃが、いくつか拠点を作っておる」

「拠点?」

「うむ、地下深くにじゃがのう。神との争いに必要な物を作りはしたが、それを人と魔族の争いに使わせるわけにはいかなかったからの。じゃから地下深く、普通では人の手の届かない場所へと封じたのじゃ」

「なるほど」

「そしてついでにそこを秘密基地にしたらロマンあってよくね?といって拠点へと変えたらしいのじゃ」

「うん、気持ちはわかる」


やっぱり日本人なんだろうなそういうの…。いや偏見の可能性も十分にあるが。


「その拠点の場所は正確には儂にもわからぬ。故に万能の書で調べて見つけることができれば、お主等の極秘の拠点となるじゃろう」

「わかった、んじゃあ早速調べておくか」


俺は地図を取り出し、万能の書で拠点の位置を調べ始めた。




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