第19話
セレスティア 噴水広場
「―――――ッ!」
噴水の上空にいるセレスの声になっていない声があたりに響く。
その声に呼応してか、雨脚がどんどん強くなっていく。
「おい爺さん、これは…」
「うむ、この雨もあの者の魔法の支配下にはいっておるのう…。おそらくレベルとしては10になっておるじゃろう」
「…マジか…」
玲の魔法のレベルはまだ7前後。レベル10が相手では不利どころか何もできずに一方的にやられかねない。
それに…
「爺さん、あの子を助ける手段は?」
「…ないわけではない。じゃがおすすめはせぬぞ」
「なんでだ?」
「あの者は長い年月を経たせいで肉体がなくなって純粋な魔力の身となっておる。あの者事態に闇の魔力が浸透しておるから、助けるにはそれをすべて浄化せねばならぬ」
「ふむ」
「しかも先ほど言ったようにあやつは魔力の身じゃ。闇の魔力を消した場合、体の魔力がほつれ、崩壊する可能性も十分にある」
「そうなったらどっちみち…か」
「長い間苦しんでおったじゃろう。解放してやるのも優しさじゃ」
そういう爺さんの目には憐れみが映っていた。
「!和也君~!防御をお願い~!」
何かを感じ取った玲の言葉に和也が即座に反応し、俺達を取り囲むように土のドームを作り上げた。
そこに大量の雨がすさまじい勢いで降り注いできた。
「うおっ!?ちょっと待て、結構削られてるぞこれ!?」
「鉄を下に張りなおせ!」
俺の指示通りに即座にドームの下を鉄で覆ってさらに頑強にした。
「どうするよ敬、このままじゃ俺達だけじゃなく街の被害もやばいぞ」
「…といってもな…どうしたもんか…」
助けるにしても倒すにしてもその手段が思い浮かばない。調べるしかないが、それの時間があるかと聞かれると…。
「稼ぐしかないか」
「敬?」
「瑠衣、調べもの頼んでいいか?」
そういって万能の書を瑠衣へと差し出す。
「いいけど…敬は?」
「時間を稼ぐ。和也は二人を頼む」
「わかった」
「私は~…今回は役に立てそうにないわね~。ごめんなさいね~」
「そういう時もある。爺さんは瑠衣の補助を頼む。万能の書で調べるにも知識が必要だから」
「わかった。無茶するでないぞ」
「無茶せずにすめばな。和也、一瞬だけ開けてくれ」
「ああ、気を付けて行けよ」
俺は風を纏い、和也が鉄のドームを開けた瞬間外へと飛び出した。
空いた場所へと雨が降り注ぎそうになるが、即座に鉄で塞いだことによって雨はすべて防がれた。
俺へと降り注ぐ雨に関しても纏った風の勢いを強めることで何とか逸らしている。
空中へと上がっていきセレスの正面へと到達すると、あちらも俺を敵と認識したのか睨むように見ていた。
「感情があるのか、それともただの気のせいか…。ま、俺を敵視してくれるならちょうどいい」
不敵に笑う俺に対し、セレスは周囲の雨脚を強めることで返してきた。
強まっている雨脚はわずかだが周囲の建物にも影響を与えている。
屋根にある瓦にヒビが入ったり、壁がわずかに欠けたりとしている。このままでは最悪建物が倒壊する可能性も出てくる。
それを防ぐためにもさらに上空へと行かないといけない。
「さて話が通じるかは知らんが…ついてきな」
俺が急上昇すると、セレスも俺についてくるように上昇してきた。
セレスティア上空、湖がすべて見渡せるくらいまで上昇すれば、戦闘での影響はほとんど街へは及ぼさない。
そして上空にも雨は降っているが、遮るものがないから風も強い。俺とセレス、魔法のレベルに差があるが状況はイーブン。しっかり時間を稼ぐとしますか。
同じころ、ドーム内
敬が時間を稼いでいる間、瑠衣と玲は二人で万能の書で打開策を調べていた。
和也はセレスによる雨の攻撃を防ぐのに専念しており、時折地面から染み出ている水を鉄の床で防いでいた。
「さて、それでは倒す方法じゃが…」
「それは調べないよ」
「なぬ?」
「多分敬はその方法を知ってもあの子を倒すことはできないよ」
「敬ならできそうだけど~?」
「それ以外に選択肢がなかったらね。だけどそれは敬の心に消えない後悔を残すことになる。それだけは絶対にダメ」
「瑠衣…」
「セレスちゃんは何も悪いことしてないじゃん。ただ街を護りたくて、街の人を護りたくて、家族を護りたかっただけなのに。それなのに家族を殺されて、街の人に裏切られて…最後にはその無念すらも利用されて護りたかった街すら壊されそうになっている。そんな人を死なせたら敬は絶対後悔し続ける。それをさせないために私はここにいる。だから…」
瑠衣は正面でこちらを見上げているネズミの姿をした神へと目を向ける。
「教えて。敬を傷つけないために、今後敬が苦しまないために、あの子を助ける方法を」
しっかり見据えてくる瑠衣に対し、爺さんは諦めたようにため息を吐いた。
「仕方ないのう…今後のあやつの計画に支障が出ても困るからの…」
「そういうってことはちゃんと方法があるってことだよな?」
「お主等にはまだ早い上に難易度がそれなりに高いのじゃがのう…。方法は一つ『複合魔術』じゃ」
「複合魔術?」
「文字通り複数の魔術を組み合わせて発動させる魔術じゃ。いくつか発動条件があるせいで使用できる状況が限られてしまうのじゃが、上手くいけば複雑な問題すら一気に片付けられる」
「その発動条件って?」
「一つは魔術同士の親和性。例えば癒しの効果がある魔術と攻撃の効果がある魔術の場合、相反する効果であるがゆえに互いに反発しあってしまう。それだと複合魔術はうまくいかぬ。
そして他にも属性の親和性。魔術にも属性がある物と無い物があるのじゃが、火と水、風と土、闇と光、といった相反する属性同士じゃとそれも反発しあってしまうのじゃ」
「今回はどうなの?」
「この二つに関しては問題ないじゃろう。属性に関しては光と水、効果に関しては浄化と癒し。それぞれ親和性は悪くないじゃろうから問題なく発動するはずじゃ」
「じゃあ問題ないの?」
「いや、最後の問題がある。それは魔力量じゃ」
「魔力量?」
「さっき言ったように複合魔術は親和性が重要じゃ。それは魔力量も同じじゃ。魔力の相性もあるのじゃが…お主等四人なら問題ないじゃろう。あとは二つの魔術を発動する際の魔力量。それをぴったり同じにしなければどちらかの魔術が効果発動不足となってうまく発動しないことがあるのじゃ」
「それって一人で発動させることはできないの?」
「不可能ではないが、難易度は跳ね上がるのぅ。二つの魔術を全く同じ魔力量で同時に発動させねばならぬから並々ならぬ魔力操作が必要となる」
「となると…発動できるのは」
「水属性は玲、そして光属性は敬になるのぅ。瑠衣と和也はそれぞれ火と土、そして闇属性じゃし、玲一人で水と光の魔術を発動させるのは現実的ではないからのう」
「じゃあ…私と和也君で何とかセレスちゃんの気を引かなきゃだね」
「空中戦は苦手なんだがな…」
「足場を上に伸ばせばどうかしら~?」
「それだ!」
「それでいいのかな…?それでお爺さん、肝心の魔術は?」
「これじゃ」
そういって魔術の書に手を乗せると左右のページにそれぞれ別の魔法陣が浮かび上がった。
「左のページが光の魔術で浄化の効果がある。右のページが水の魔術で癒しの効果がある。これによって光の魔術であの者の闇の魔術を浄化し、それによってほつれた魔力を水の魔術で補う。これであの者が死ぬことはないじゃろう」
「じゃあ後は…」
「敬を呼んで端的に情報共有して作戦決行だな」
「だね、じゃあ玲、敬に話しておいてね。私達は何とかセレスちゃんの気を引いてみるから」
「わかったわ~」
「うし、じゃあ解除するぞ」
「うん。敬…絶対にあきらめさせないからね…!」
決意の籠った言葉と共に瑠衣は弓を手にし、火によって作られた矢をつがえた。
セレスティア 上空
すさまじい勢いの雨が俺の周囲を渦巻くように飛来している。
一つ一つは小さいその雨粒は確かな威力を持って俺へと襲い掛かってくる。
しかしそれらは小さいがゆえに質量は持たない。それ故に俺が纏っている風によって軌道は逸れ、俺からは外れていく。だから…
「だからってまとめればいいってもんじゃないと思うんだけどなー!!」
そう叫びながら俺は全速力でそれから逃げていた。
俺の背後には巨大な水の蛇…サイズからすると龍と行った方がいいかもしれない。それが俺を食わんと大口を開けて追いかけてきていた。
その水の根元は湖から伸びており、どんどん吸い上げている。
しかもそれだけじゃなく、俺を追う際に当たっている雨すら吸収してどんどん肥大化していく。
「これ最終的に湖の水全部引き上げる気じゃないだろうな…!」
さすがにそれをやられたら勝ち目なんて全くない。しかも湖の水に浮いている街の被害だってどうなるか分かったもんじゃない。
瑠衣達がどうにかする方法を見つけたとしても、それまでに街に甚大な被害が出ては意味がない。
打開策を練らないといけないのだが、そもそもそんな打開策があればとっくにやっている。
「時間稼ぎすらままならんな…!」
舌打ちしたい気持ちを抑えていると、突如水龍の途中が丸く膨らみだした。
「あれは…まずい!?」
即座に方向を変えるが、それよりも早くすさまじい速度で水龍の頭が俺へと迫り、俺を飲み込んだ。
「クッソ…!」
先ほどの水のふくらみ、それは超加速するための溜めだった。普通に追っていても俺を捕まえることができないと察したセレスが、一か所に水を圧縮させ、それを開放する勢いで超加速させてきたのだ。
纏った風がある以上呼吸はできるが、このままだと捕まったまま何もできない状態となってしまう。さすがにそれはまずい。
「ハッ!」
纏っている風を周囲へと爆発させるように展開させ、水龍を内部から破壊する。そして外に出た瞬間に即座に再度風を纏って、セレスの方を見た瞬間…。
「まじか…」
セレスの周囲には大量の水でできた剣がいくつも浮かび上がっていた。
片手をあげたセレスがその手を振り下ろすと、一斉に俺へと飛び交ってきた。即座にミスリルソードを抜いてその剣を弾くが、当たった瞬間にガキンッ!という固い音が響いた。
「うっそだろオイ、どんだけ圧縮してあるんだよ…」
水事態定まった形はないが質量はある。水量が上がれば上がるほど質量が増えるのは定石だが、圧縮していくことで質量の増加がそのまま強度の増加へとつながってしまう。
今セレスの周囲に浮かんでいる水の剣一つ一つがミスリルソードと遜色ない強度の剣だ。
「これは…詰んだんじゃね?」
一本二本程度なら何とかなるが、それが無数に、しかも自在に操れるとなるといくら何でも対処しきれない。
セレスが広げた手を俺へと向けると、俺を取り囲むように水の剣が浮き上がった。
そして手を握りこんだ瞬間に一斉に俺へと剣が襲い掛かってくる。
俺は一歩後ろに下がって先に来た剣をシルバーソードとミスリルソードで軌道を逸らし、それによってできた隙間へと体を滑り込ませて何とか回避する。
「あっぶねぇ…!」
ところどころ体を掠ったのだが、それもミスリルレザーのおかげで事なきを得ている。
しかも水の剣に使ったのか、先ほどまで俺を追いかけていた水龍もすでに姿はない。
だが、雨はいまだに降っており、水の剣は数を増やしている。そこにもしまた水龍が来れば完全に詰みとなるだろう。
どうしたものか…と考えていると唐突に街の方から何かが飛来してきた。
その何かは水の剣へとぶつかった瞬間にすさまじい水蒸気を発して水の剣を消し去った。
「今のは…まさか瑠衣か?」
その言葉に答えるように次々に水の剣が蒸発し、すさまじい蒸気が空中を覆った。
「やっぱりこれは瑠衣か。こっちにちょっかい出してきたってことは、打開策が見つかったってことだな」
水蒸気で視界がふさがっている今のうちにその打開策を聞いておかないと。
即座に街へと降り、先ほどまで瑠衣達がいた場所へと向かう。
「敬!大丈夫?」
瑠衣と和也が俺の元へと駆け出してきた。
「なんとかな。玲は?」
「あそこ。建物の陰に隠れて準備中。とりあえず俺と瑠衣でセレスの気を引くからお前は玲から話を聞いておけ」
「わかった」
「あ、行く前に俺を空に飛ばしてくれね?足場伸ばそうと思ったが届かなくて」
「操作はできないから却下」
「(´・ω・`)」
「とにかく敬、急いで。時間はあまり稼げないと思うから」
「あいよ。セレスの奴結構厄介だから油断するなよ」
「うん、こっちは任せて。あの子を助けてあげて」
瑠衣のその言葉を聞いて俺はある程度を察した。しかしその場で問い詰めることはなく玲の処へと向かった。
「まったく…変な気を回しやがって」
「そういわないの~。貴方のためなんだから~」
俺の言葉に玲が呆れ顔で答えた。
「あの子を死なせたらあなたが絶対後悔するからって、だから助ける方法を見つけたんだから感謝しなさい」
「わあってるよ。んで、その方法って?」
「これよ~。複合魔術だそうよ~」
「名前からして複数の魔術を同時に発動するのか。気を付ける点は?」
「魔力量を同じにしないといけないようよ~」
「了解。爺さん効果範囲の方は?」
「できる限り近づいた方がいいのう」
「わかった、発動方法は?」
「万能の書が魔力媒体となっておる。これに表示されている魔法陣に手を当て、魔力を流し込めば展開され、魔術が混ざり合って複合魔術として発動する」
「魔力量はどう見ればいい?」
「万能の書を使った場合、本の正面に魔法陣が展開される。それの回転速度で魔力量がわかるからそれで調整するのじゃ」
「わかった。行くか」
「ええ~」
俺は万能の書を手に玲と共に街道を出た。
「瑠衣、和也、飛ぶぞ!」
瑠衣は火の矢で蒸発させ、和也は鉄の板で雨をしのいでいた。
その二人に声をかけると同時に全員に風を纏わせセレスに向けて飛び上がらせる。
「わわっ!?」
「いきなりだなオイ!」
「というか敬~、風を操作しながら魔術発動できるの~?」
「まあ、やってやれないことはないだろう。さっきは和也と離れることになりかねないから操作できなかっただけだし」
「で、作戦は?」
「セレスの水の剣を瑠衣に蒸発させてもらう。雨に関しては俺が防ぐからそれ以外に関しては和也、任せる」
「おう」
「蒸発させようにもすぐは無理だよ?あれ、小さい割に結構な量の水圧縮されてるみたいだし」
「ああ、それはいい。さっきみたいに水蒸気が煙幕みたいになってくれれば十分だから。それで視界をふさいで魔術を展開、発動する直前に水蒸気を晴らしてセレスに魔術をかける」
「わかった」
四人でひと塊になってセレスへと向かっていく。
セレスは左腕を上げると湖から水でできた龍が立ち昇り、俺達を飲み込もうと大口を開けて迫ってきた。
「和也!」
「任せろ!」
和也はその手に持つミスリルシールドから鉄の板を延ばし、俺達と水龍の間に展開する。
「位置を調整する、和也、受け止めて勢いつけて一気にセレスまで行くぞ!」
「わかった!ならこの板に乗れ!」
俺達は鉄の板に足を乗せ、その直後にぶつかってきた水龍によって勢いよく押し上げられていく。
距離が詰まるとセレスは今度は水の剣を俺達に向けて飛ばしてきた。
「瑠衣!」
「任せて!」
迫ってくる水の剣を的確に火の矢で撃ちぬいていく。それによって水の剣がどんどん水蒸気になって視界をふさがっていくが、それはむしろこちらには好都合。
視界がふさがれたとはいえ、風を扱える俺としては相手の居場所がわかる。
「玲、行くぞ!」
「任せて~!」
玲と俺がそれぞれ自分が発動する魔法陣へと手を置き、魔力を流し込んでいく。
万能の書に描かれている魔法陣が光を発し、俺達の正面へと展開されている。
魔法陣が回転しながら構築されていき、その速度は玲の方がいささか早いようだった。
「玲はそのままで俺が合わせる」
「わかったわ~」
俺は魔力を流す量をわずかに増やし、魔法陣の速度を玲へと合わせる。
二つの魔法陣が同じ速度で回転していき、完全に構築されると、混ざり合い、さらに激しく輝きだした。
「ほう、ぶっつけ本番で完成させるとはのう。あとは発動させるだけじゃ」
「あいよ!」
右手で魔法陣への魔力を維持しつつ左手風を巻き起こして周囲の水蒸気を吹き飛ばす。
「ってか、発動ってどうやってやるんだ?」
「この複合魔術は『セイントヒール』という。それを唱えれば発動するぞ」
「わかった。玲」
「いつでもいいわよー」
俺と玲は魔力の書を持ち上げ、セレスへと魔法陣を向ける。
「「『セイントヒール』!!」」
俺と玲の言葉に呼応するように魔法陣がひときわ激しく輝き、光と水が螺旋状に渦巻きながらセレスへと向かっていった。
逃れようとセレスは動くが…。
「させないよ!」
即座に放った瑠衣の矢がセレスの顔の近くを通り過ぎた。
それに怯んだセレスが動きを止め、その瞬間を逃さずにすかさず光と水がセレスの体を包み込んだ。
「捕らえた!」
光がセレスの体を這うように覆っていき、浸食していく闇を浄化していく。
「---------ッ!!」
浸食したことで魔力がほつれ、体が崩れそうになるがそれを水の魔力によって即座に直していく。
悲痛な叫び声が周囲に響き渡る。体が魔力でできている今のセレスから、闇の魔力を浄化という形で消すのはそれは体そのものを引き裂くような痛みがあるかもしれない。
だが、それでも、助けることができる道を瑠衣達が用意してくれた。そして俺はそれを迷わず選んだ。
恨まれるかもしれない。憎まれるかもしれない。だがそれでも…
「お前の最期は幸せに笑って終わってほしいんだ…」
誰かを護りたかった心優しい少女。その少女が街の人間によって家族を奪われ、殺され、利用され、そして消えていく。そんな結末が納得いかなかった。
偽善だろうさ。ただの自己満足だろうさ。だが、彼女が笑って最期を迎える未来があるのなら、俺はその未来を選ばせてもらう。
「ま、責任はしっかり果たすよ」
「私達と一緒に…ね?」
「お前も人の考えを読むな」
瑠衣が笑顔を浮かべて俺の隣へと来たので、苦笑を浮かべつつ言葉を返した。
そして魔術の発動が終り、光と水が消え、セレスの姿が現れた。魔術によって意識を失ったのか、ぐらりと体が揺れた。
「おっと」
即座にセレスの体を受け止める。水で構築されているセレスの体に触れたからか、腕が濡れたが特に気にせずに瑠衣達の元へと戻る。
「爺さん」
「ふむ…問題なさそうじゃの。体を構築している魔力がまだいささか不安定じゃが、それも玲の魔力で不足した部分を補った故にまだ安定しておらぬだけじゃろう。時期に落ち着くから安心せい」
「よかったぁ~…」
安心したように瑠衣が大きく息を吐いた。
雨もいささか落ち着いてきたので、嵐もそろそろ止むだろう。
後は今まで発動していた魔術に不具合が出ていないか、コアであるセレスが抜けたからどうなるかわからないからそこら辺をきちんと調べ、補強して今回の事件はおしまいだろう。
そんな事を考えていると…
「あれ~?もう終わったの?」
聞きなれない声が上から響いた。
振り向き、見上げてみるとそこには額から二本のツノが生えている青年が空中で立っていた。
その背には悪魔の様な羽が生えており、俺達を見下ろしていた。
「あれ、その子生きてるの?街の被害も思ったほど出てないし…つまんないな~」
「…なるほど」
青年が放った言葉、それだけでだいたいのことは察した。
こいつが今回の事件の元凶であり、セレスに魔術をかけた張本人だろうということ。
「玲、セレスを頼む。和也と瑠衣も下がっていてくれ」
「いいわよ~」
「わかった」
「ほどほどにね~」
俺の言葉に玲はセレスを受け取り、和也と瑠衣も先に地上へと戻っていった。
「あれ?こっちに来ないんだ。思った反応と違うな~」
「あんたがどんな反応を求めていたか知らんが…先に一つ確認しておこう」
「ん?なんだい?」
「あの子に魔術をかけたのはお前か?」
「ん?そうだよ。あ、もしかして解除したの君?だめだよ~、せっかくあの子に復讐させてあげようと思ったのに」
お茶ら桁様子で頷く魔族の青年。俺はそれを見てわずかに微笑んだ。
「そうか。それを聞いて安心したよ」
瞬時に青年の正面へと移動し、その顔面に拳を叩き込む。
「これで遠慮なくテメェをいたぶれる」
俺は一切の表情を浮かべることもなく、殴り飛ばした青年にただ淡々とそう告げた。




